個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
「というわけで、俺復活!!」
「でえええええええ!?」
「アッハハ! 流石緑谷君! いい反応してくれるじゃん!」
それは11月に行われた雄英文化祭当日。
A組の演奏に緊張する緑谷達の前に現れた通形、そして壊理によるサプライズに緑谷の目がアメコミっぽく飛び出した。
「通形先輩、復活ってことはやっぱり……!」
「ああ! この通り!」
緑谷の体に顔を突っ込んで、背中から顔だけ出す。
「壊理ちゃんのおかげで個性が戻ったってことさ!」
「うわっ! 久しぶりな感覚!?」
そこから麗日、蛙吹、切島といった死穢八斎會事件に関わった面子が集まる。
「あははは! よせやい! 俺の顔に手を突っ込まれるのは普通に恐怖なんだぜ!」
四方から顔に突っ込まれる手から逃れた通形は、後ろに隠れていた壊理を見せる。
「本当はもっと先になると思ってたんだけどね、壊理ちゃんが頑張ってくれたんだ」
「デクさん!」
満面の笑みで緑谷に抱き着く壊理を、緑谷はしっかりと受け止めた。
皆からも揉みくちゃにされ嬉しがっていた壊理だったが、途端に周囲をきょろきょろとして何かを探す。
「どうしたの壊理ちゃん?」
困惑する緑谷たちに壊理が口を開くよりも早く、壊理とよく接していた通形が笑顔で口を開いた。
「忍堂君を探しているんだと思うよ。壊理ちゃん、どうも忍堂君にお熱なようでね」
「「「ええええええ!?」」」
通形の言葉にどう反応していいか分からず、顔を赤くしてしまう壊理を見て、緑谷達が冗談ではないことにさらにびっくりして声を挙げた。
「確か忍堂ってあの時途中参戦してて、壊理ちゃんに会ったわけじゃないんだろ?」
俺もだけどと切島が疑問を浮かべるが、それに答えたのも通形だった。
「忍堂君は個性が不思議エネルギーを生み出して扱うことだから、壊理ちゃんの個性コントロールの手本になるんじゃないかって相澤先生が連れてきてくれたんだ。それから良く二人で訓練していたらしいんだけど、その間に……てな具合」
それにいち早く反応したのは女性陣。
緑谷から壊理を素早く回収すれば、早速とばかりに恋バナを始めてしまう。
放置された男性陣は事務的な方向に会話が流れた。
「実際、忍堂君のおかげで早く壊理ちゃんの個性コントロールが上手く行くようになったんだって。時期も早かったから消費するエネルギーも足りたっぽい」
「へぇ。そうなんすか。アイツそんなこと全然話してなかったっす」
「仕方ないよね。壊理ちゃんの個性は特殊だから、情報がどこかから漏れて死穢八斎會みたいな連中が出てくるのかも分からなかったから。だからみんなも、これについてはオフレコで頼むぜ」
「はい!」
「通形先輩、それじゃあ学校にも復帰するんですか?」
「もちろん! 環たちに置いてかれちゃってるからね! サーのところにも復帰するし、がんばるぞおお!」
死穢八斎會で多くの傷を負った。
しかし、それらは糧になりやがて新たな力になる。
未だ敵連合の足取りは掴めていない、根本的な問題が解決したわけでもない。
それでも、前を向いて頑張っていけばきっと。そう確信できた。
「あ、忍堂君来たよ!」
「どもにござる。突然呼び出されて儂様困惑にござる。マンパワー忍者は引っ張りだこで辛いでござるなー」
いつのまにか麗日たちに呼び出された忍堂が登場。
忍堂を目視した壊理の行動は早かった。
無言の脱出から小さな体を使った特大のダイブ。
「お、壊理ちゃんではござらぬか。文化祭見にきたでござるか?」
そんな壊理を疑問ゼロで悠然とキャッチ。流れるように抱っこの体勢に移行する姿は、確かに慣れ親しんだ間柄のなせる業だった。
「守さん……」
(((守さん……!?)))
「アッハッハッハ! 今時の子ってすごいよね、進んでるよねー!」
顔を赤らめ、うっとりと身をゆだねる壊理の姿は、とても6才の子供が見せていい物ではない。と緑谷は思った。
「守さんは、今日の演奏、どこを担当するんですか?」
「ござる。演出全般にござれば、背景エキストラエトセトラ。馬車馬でござるよ」
トホホとウソ泣きする忍堂に、壊理は微笑み。
「じゃ、じゃあ。帰ってきたら、いい子いい子、してあげますよ?」
「マジでござるかー。超嬉しいでござるよ、儂様めっちゃ頑張るでござるー!」
見ていれば分かる。忍堂のソレはまさしく親戚の子に向ける親愛のそれであり、邪な気配はみじんもない。
しかし、しかしである。
肩を落としていた忍堂の頭を撫でるばかりか、自らの方に寄せる壊理の姿は、親戚のお気に入りのお兄さんに向ける物ではなかった。
「壊理ちゃん……大人や……! というか、忍堂君がヒモ男過ぎる!?」
「ケロ。どうしましょう、犯罪の匂いが……。しないのが不思議だわ」
「あー、なんつうか。アイツならどうにかすんだろって思っちまったし、いいんじゃね?」
「そうだね、よくある年上に対する憧れみたいなものじゃないかな! 少しすれば熱も冷めていい感じになるよきっと!」
「そ、そうですよね!」
なお、そう判断する彼らに恋愛経験はないものとする。
それらを背後で見守っていた相澤は頭を抱えた。
☆
「ダメ、でござるか」
「うん。君の進言はありがたいことだけど、私はすでに託しているからね」
数日後、通形の個性を壊理の個性で戻した実績を持って、忍堂は根津、相澤、オールマイトにとある進言をしていた。
「壊理ちゃんの個性によってオールマイトを全盛期の状態に戻す。確かに平和の象徴がなくなり、敵の活動が活発になった昨今において、これほど魅惑的な言葉はないね」
しかし、と根津は真っ直ぐ忍堂に告げた。
「それは現状の改善でも打開でもない、対症療法に過ぎないのさ。君の言っているソレは、オールマイトという平和の象徴を、平和の奴隷にする言葉になるのさ」
オールマイトが戦えなくなった今の混迷に対処するため、オールマイトを復活させる。
それが生み出す歪は、今の世論を見れば看過できないものだった。
「分からないでござる。それの何がいけないのでござる?」
だが、忍堂はそれを理解しなかった。
「忍堂、お前自分が何を言っているのか分かっているのか?」
担任であり、忍堂を良く知る相澤が久しく見せなかった怒気を見せる。
先輩であり、自身の憧れの存在を守るために。
「……」
オールマイトは黙する。
一瞬でも、それで平和が保てるならと思ってしまったからだ。
「もしも老いがなければ、オールマイトは戦い続けていたでござろう? 先の神野事件がなければ、今でも現役でいたはずでござるよ」
否定はしない。
事実だからだ。
「なら、壊理ちゃんの個性で全盛期に戻すことの、なにが悪いでござるか?」
成すべきことがあるのなら、それに殉じるべきだ。
忍堂の目標とする考えだ。
前世で抱き、今世で育んだソレが曇ることはない。
「そもそも今の荒れる世の風は誰が運んだでござる? オールマイトがいなくなっただけで伸びる犯罪率、敵が活発化する日本を誰が作ったでござる?」
咎める言葉ではあるが、その目に責め立てる物はない。
そう聞こえるのなら、自らがそう認識しているからだ。
「儂様達に負債を残して、自らの善性を保ちたいでござるか?」
「言葉を慎め、忍堂」
だが、それらすべてを棚に上げて相澤は言うしかない。
「確かにお前の言う通り、オールマイトに平和の重荷を俺達が長く押し付け続けた、オールマイトだけが頼りになると世間に思わせた俺達にも非はあるだろう」
担任であり導く者として。
「だから俺達もオールマイトが抜けた穴を全力で埋めている。そしてこの負債は俺達の代で清算できる物でもない、なぜならそれらは個性が生まれた瞬間から、いくつもの世代を経て肥大化したものだから」
厚顔無恥と言われようが、これもまた事実である。
「そして、現在においてオールマイトの抜けた穴は、全国のプロそして国家が主体となって体制を変え、平和の象徴に頼らない体制を築いている」
それは、先のヒーロー仮免許試験からも窺える事実だ。
「お前もこの道を選んだ以上、背負う覚悟をするしかない。俺達にそう言うのであれば、お前の代で清算できるようにするしかないんだ」
情けない。情けないがそれで平和になるなら、いくらでも恥をさらしてやる。
相澤の見たヒーロー、そして自分が培ってきた経験。自らが清廉潔白なんて目指してはいなかった。
「委細承知」
長い沈黙の後、忍堂は表情を変えることなく頷いた。
「別に儂様は先生やプロを責めているわけではござらぬ。先生たちの代で抱えた負債とも思ってはいないでござるよ」
立ち上がり、部屋の扉に手を掛ける。
しかし、と振り返る。
「儂様、AFOがこのまま大人しく余生を過ごすなんて考えてはござらん。もしも、万が一、AFOが解き放たれた時、この話を思い出してくれるでござるか?」
確信を持った忍堂の物言いに、場の空気が凍り付く。
「裏の世界を牛耳っていた男が、自らが捕まった程度でとん挫する計画を作るわけがないでござるよ。絶対に、手を打っているはずにござる」
「に、忍堂君! 君は一体何を知っていると言うんだい!」
「何も知らないでござるよ。臆病者と思うならそれでいいでござるが、オールマイトのヒーロー生命を賭してまで捕らえた巨悪の悪意を信じているだけにござる」
個性の簒奪と譲渡。チートもいいところのこんな個性の持ち主が、真正面からヒーローと相対する場面があるのだろうか。
自分ならしない。
ましてや、いたずらに悪意を振りまくのではなく理性的に事を成していた者だ。
「最後に、オールマイト。貴方が託し見守った結果、大勢の被害が出たとしても悔やまないで欲しいでござるよ」
現に、マキアがいた。
ドクターなる脳無を作る存在がいた。
奴が蒔いた種は多く、コンクリートの下で膿を孕んでいる。
「それらに悔やむは託された側の特権にござる。もしも悔やむのなら、それは貴方が立つときだけでござるよ」
ない物ねだりはしない。
自分一人でどうにかできるなんて思っちゃいないが、動かないわけにはいかないのだから。
徒労に終わろうと、無駄になろうと、やらない理由になりはしない。
「今度こそ失礼するでござる」
忍堂が出て行ったあと、部屋には重たい空気が漂っていた。
「彼は何かを知っているようだね、それも我々が見落としている大きなものが」
ハイスペックな脳で導き出した結論、しかしそれが分かったところでどうしようもない。
分からないものを分かる難しさはとてつもない力が必用だ。
新たな技術一つに何世代も消費することだってザラなのだ。
「忍堂が言っているのはおそらくAFO関係、我々が知る情報では死柄木の敵連合でしょう」
「死穢八斎會に敵連合の構成員がいたらしい。トビと名乗る新たな手勢もいたとナイトアイが言っていた」
「聞く限り個性に危険性はありませんが、問題は手勢が増えていること。そして他組織とのコネクションを結んでいた事実、対象が死穢八斎會だけと断定するのは合理的じゃありません」
死穢八斎會を検挙できたのは、オールマイトの元サイドキックであるナイトアイの慧眼と迅速な行動によるもの。
つまり、ナイトアイが気づいていなければ事態は大きくなっていた確率が高いのだ。
多くはないだろうが、死穢八斎會のような組織が一つだけという予測は、あまりに稚拙だった。
「しかし、動こうにも確固たる証拠も兆しもない。現実問題、問題を起こし信用を著しく下げている我々が動ける場所は、少ないと言わざるを得ない」
「だからと言って、手をこまねくわけにはいきません。少なくとも雄英を狙う敵連合の問題が片付くまで、私達が警戒を怠るのは怠慢もいいところです」
つまるところ、個人で動ける範囲で動くしかなかった。
「ナイトアイを始めとした、昔馴染みに働きかけてみます」
「よろしくお願いします。私にはそういった伝手は少ないですが、ないわけじゃありません。少しでも情報を集めるよう努めます」
「僕の方も学校間のネットワークから働きかけてみるよ」
忍堂の不審な言動。
まるで近い将来、事態が大きく変動することを予知しているかのような言動。
各々が事態の行く末を考え、行動を開始した。