個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
かー、本当にエンデヴァーを信頼しづらくなったでござるよ。実力はともかく脇の甘さがコワイでござる。
ま、緑谷たちが聞いてたことには気が付いてたでござる。
敵連合への潜入、マキアとのひと月以上の死を感じさせる戦闘、異能解放軍からの逃避。
超常解放戦線結成後の周囲に対する警戒。
それらの経験によって身についた空間把握能力。
減量末期のボクサーが枯れた肌と対照的に鋭敏になるように、儂様の体はこれらに特化して成長したでござる。
だからこそあえて聞かせた。緑谷たちならまだ信用できるから。エンデヴァーに対する警告には丁度良かったでござる。
なにより、あの三人から情報は漏れる確立は低く、緑谷を通してオールマイトの元サイドキックであるナイトアイに伝われば、オールマイト達にも情報が流れれば布石になる。
「あ、守さん!」
「どうもでござる壊理ちゃん。元気でござったかー?」
権力に情報は渡した。それがどう転ぶかは分からんでござるが、儂様個人で動くよりは良いでござろう。
なら、次は手札を増やす番にござる。
雄英に戻った儂様は壊理ちゃんの下にやってきたでござるよ。
「さ、今日も個性コントロールのトレーニングにござるよ!」
「うん! よろしくお願いします!」
いやはや、雄英文化祭いらい壊理ちゃんの笑顔が増えて、儂様満足にござるよ。
「今日ね、ミッナイ先生が会いに来てくれたの!」
雄英生徒と絡むことが多く、いつの間にかミッドナイト先生の愛称まで習得した壊理ちゃんを膝に乗せる。
こうしないとやる気が出ないと言われては断れないでござる。
あ、ちゃんと相澤先生がそばで控えているでござるよ。
「今日は儂様のチャクラを少しだけ上乗せするでござるから、よーく集中するでござるよー?」
「は、はい!」
「忍堂、ここんとこ毎日顔出してるが、他はいいのか?」
おっと、相澤先生。壊理ちゃんがいるから茶を濁したでござるな?
どうせそのうちエンデヴァー経由で話が行くはずでござるから、その時まではのらりくらりでござるよ。
「問題ナッシングでござる。それよりも、壊理ちゃんが大事でござるよ」
「だ、大事……っ」
「はぁ。壊理ちゃんのコントロールの上達が急務であることは事実だが、最近はインターンの公休申請もほとんど出してないだろ」
「今はミルコと距離を置くでござるよ。それがお互いのためにござる」
「含みもたせんな。低迷期カップルみたいなこと言ってないで、インターンでしっかり学んで来い。No6にインターンして貰えることが、どれだけ貴重か分かっているだろ?」
うーん正論。
ミルコに解放戦線との繋がりがないことが分かれば、ちゃんとインターンに行くでござるよ。
無理してでもスケプティックあたりに情報を貰うか……。でもアイツ敵連合大っ嫌いでござるからなー。
たまにすれ違うとめっちゃ睨んでくる。恨まれてるのは儂様だけじゃないから、センパイ達と愚痴のネタに困らないでござるよ。
「行くでござるよ。でもまずは何より壊理ちゃんにござれば、優先順位は変わらないでござる」
「私が、一番……っ」
「……責任とれよ?」
「もちのろんでござるよ」
この子が個性を十全にコントロールできるようになれば、オールマイトを全盛期に戻すことも可能。
儂様流プランが事実上の中止になった以上、少しでも手札を増やす。
この子を守るためならいくらでも責任を負ってやるでござる。
「うん、もうそれでいいや。先生言ったからな、後で無しは無しだぞ」
「儂様、決めたことは曲げないでござる」
「曲げない……、それじゃ……、守さんが、私を……っ!?」
エンデヴァーの様子から動いてくれることは確実。
あとは作戦準備がどれだけ早く済むのか、それまでに対マキア決戦兵器オールマイトを仕上げるでござる。
「壊理ちゃーん? 顔が真っ赤っかにござるよ? 緊張でござるか?」
まずは壊理ちゃんの緊張をほぐすでござるか。
☆
「ホークスはこちら側だ。密偵として解放戦線に潜入している」
数日後、緑谷たちのアレな態度をガン無視して、呼び出しを食らった儂様がエンデヴァー事務所に向かった際に告げられた第一声。
「まーじでー?」
嬉しいよ? 嬉しいんだけどさ、アホみたいに警戒しちゃったじゃん。
だってベストなジーニストを生贄にしてるでござるよ?
カプセルINしてるベストの繊維をこの目で見たでござるよ。
「とはいえ、お前がホークスに協力する必要はない。別々の視点からの情報のほうが確度が上がるからな」
「嬉しい誤算にござるな。これなら情報と作戦準備の両方が早く進むでござる」
にしても、エンデヴァーはよくぞ儂様を隠してくれているでござるなー。
あれから雄英から何か問い詰められることもなければ、エンデヴァーからの中止命令もない。
ま、この作戦が成功した暁には何かしら罰せられるとは思うでござるが、あいつらの危険性を思えば万々歳でござるよ。
規模と危険性を考えれば情状酌量も狙えるはずにござる。
「作戦決行は3月、貴様とホークスの情報から氏子達磨がいる蛇腔総合病院、超常解放戦線アジト群訝山荘の二か所を同時に強襲する。同時に、各地に潜伏する解放戦線に与するヒーローと構成員の検挙。それらすべてを同日同時に行う」
「情報は早く伝わっているはず、もっと早くできないでござるか?」
死柄木の覚醒が早まればそれだけで瓦解の可能性があるじゃないか。
しかし、儂様が知らないことは多いでござる。
「各所警察、ヒーローへの伝達。作戦決行時のルート、配置、作戦決行時のヒーロー不在状況に対する備え。いくらお前とホークスの情報から早く動けたとしても、最短で3月だ。これはどうしようもないことだと、貴様も理解しているはずだ」
そう言われればぐうの音もでないでござるよ。
頭のいい人がめちゃ頑張ってるってことまでは理解するでござるよ。
「また、本作戦では人員を少しでも確保する。極秘であるため、有事の対応に各高校の仮免保持者が対応できるよう、各学校に手配をした。雄英生徒には突入作戦のバックアップを務めてもらう」
「致し方なし。敵を捕らえるために他の敵を自由にするわけにはいかないでござる」
極秘で動ける絞りだした戦力。
まさしく日本の威信がかかった作戦。
「作戦決行が近くなるまで雄英の生徒に情報を下すことはない、焦凍達にも忠告はしてある」
「御意に。一応参加するヒーローに雄英関係者がいれば一覧で欲しいでござる」
「わかった。情報流出の危険性から作戦参加のヒーローまでは難しいが、雄英の教師陣までなら問題ないだろう」
壊理ちゃんは雄英に良く馴染んでいるでござる。
「作戦の成否関係なく、雄英関係者の被害は少しでも抑えたいでござるからな」
彼ら彼女らに何かあれば、壊理ちゃんが悲しむでござるよ。
だからこそ、セーフティを用意する。
作戦地域を考えれば儂様の両親に飛び火することもない。
「貴様のソレはいつからなんだ?」
「ソレとは?」
抽象的過ぎて何が言いたいのか分からんでござる。
「ヒーローならば、万人の救済を思わんのか?」
「可能ならそうしたいでござるよ、でも不可能でござる。オールマイトですら不可能で、可能な存在は神のみでござる」
「アイツでも不可能か……」
「全てを救う。その枠に敵は含まれているのでござるか?」
これでも長く敵連合と関わった。
荼毘の歪み切った情念を知った、死柄木の仲間にしか見せない歪な優しさを知った、トガやトゥワイス、マグネの巡りあわせの悪さを知った、スピナーの境遇を知った、コンプレスのひた隠しにしているナニカがあることを知った。
だが、んなもの知ったことかでござるよ。
「齢一桁で体を売る少女がいるでござる、生まれから売られ少年兵になる子供がいる、手足を落とされ物乞いをさせられる子供がいる、騙され強要され抑圧され世界を恨む人なんて世界中にいるでござるよ」
不幸自慢がしたいなら下には下がいる。
人はオールマイトのような底抜けな善性を持ち、AFOや名前すら残さない底抜けな悪性を持つ生き物。
「儂様はオールマイトのような超パワーは無いでござるし、エンデヴァーのように強固なネットワークや組織を持っているわけではござらん。だからこそ、守りたいと思えた以外のモノを見捨てるでござる」
他を守るのは余力で行う。
そうでなくては、守りたいモノすら守れない。
アノ世界みたいに残酷すぎる世界ではござらんし、アノ世界で国すら落とせる戦力がいくつもあるわけでもない。
それでも自らの力量は見誤らない。真正面から打ち砕く力なんてないことぐらい、わかっているでござる。
「爆弾を仕掛けてたというのは、貴様の取捨選択の結果だということか?」
「肯定にござる」
「なら、安心しろ。俺たちはヒーローだ、貴様が守らないと決めたものを守ってやる」
腕を組み、当然だと言わんばかりに傲慢に振舞うエンデヴァー。
No1が消え、後釜という形で背負わされた十字架が軽いはずがない。
「流石はNo1でござるよ。なら、今回ばかりは信頼するでござる」
「言われるまでもない」
話を終えた儂様はエンデヴァー事務所を後にしたでござる。
なんつうか、NARUTOもそうだけど、皆覚悟ガンギマるの早くないでござるか?
☆
「よう、バカ弟子。顔見せねえと思ってたが、ようやく来やがったか!」
「疑いが晴れたでござるよ」
「アレだろ、エンデヴァーのとこから話が来たぜ? お前、ずいぶんと調子に乗ってるそうじゃねえか」
久方ぶり、といってもひと月ぐらいのはずが、ミルコの表情はまー怖いでござる。
圧が、すごい圧があるでござるよ。
「この手の話にミルコは興味がござらんことは承知済み。儂様が好きに動いているだけでござる」
「バカ言え、お前がやらかせば責任は私んとこにくんだよ。今回の祭りが終わったら何言われるかわかったもんじゃねえ」
あー。ごめんなさい。それは考慮漏れでござった。
「謝罪するでござる。可能なら今からでもインターンの契約を」
ガンッ! 思いっきり殴られて吹っ飛んでしまった。
「私をバカにしてんのかバカ弟子。このミルコ様を気遣ったつもりか? アァ?」
チャクラを全身に回し、追撃から逃れる。
人型の弾丸が儂様のいた場所を破壊する。
「そうでござったな」
死んでも悔いのない生き方を実践するミルコにとって、自らの行いに伴う責務から逃げるなんて、まさしく満足のいかない話でござろうよ。
「一緒に怒られてくれでござるよ、ミルコ!」
チャクラの強化を強める。
身体機能を上げるとはいっても、耐久力を増やすわけではない。
チャクラでガードして威力を殺すだけ。
強化の度合いを上げて軋みを上げる体を動かす。
「よく言ったバカ弟子! 久しぶりに遊ぼうぜ!」
「ウサギを泣かしてやるでござるよ」
互いの攻撃を避け、そらし、防御する。
互いの攻撃が四肢を打ち、内臓を揺らし、体を吹き飛ばす。
小手先の忍術を使わない肉弾戦でミルコと真正面から殴り合う。
「てめー。見ねえ間に何してやがった! 前よりつえーじゃねえか!!」
「ミルコ以上の化け物を相手にしてたでござる。そりゃ強くなるでござるよ」
マキア戦、異能解放軍戦、それらの経験は確かに儂様を成長させた。
まるで語らい。
言葉以上に互いの脚が、拳が、頭突きが、空いた時間を雄弁に埋め尽くす。
互いに倒れ伏すまで儂様たちの語らいは続いたでござるよ。
「おいバカ弟子。雄英卒業したらゼッテー私んところに来い」
「ミルコの影なら動きやすそうでござるし、良いでござるよ」
いつの間にか夕暮れ。
精根尽き果て倒れた儂様達はしばらくそのまま言葉を重ねたでござる。
☆
「オールマイト、覚悟はいいでござるか?」
近年見ない公的機関とヒーローによる超常解放戦線の一斉検挙の1週間前。
儂様の言葉にオールマイトは頷く。
「覚悟はできているよ。次代に託したとはいえ、日本の未来が掛かった作戦だ。気が乗らないからと救えた命を見殺しにする生き方を、私はしたくない」
儂様、ではなくエンデヴァー経由でもたらされた超常解放戦線の規模と戦力。
AFOが伏せるほどの鬼札と過剰なまでの戦闘能力。
ギガントマキアが主の指示があるまで動かないとはいえ、別の要因で動く可能性がないとは言えない。
不測の事態はいくらでも予測できる。それらを楽観視していられるほど、儂様の心は大きくも固くもないでござる。
「壊理、やるでござるよ」
「は、はい!」
「先に言っておくが、少しでもおかしなことがあれば止めるからな」
相澤先生の忠告に頷く。
まぁ、ミリオ先輩で上手くいっているでござるし、肉体の損傷を戻すだけならそう難しいことはないでござるよ。
「最終確認にござる。来る大戦に向け、オールマイトを全盛期の状態に戻すでござる。壊理の蓄積するエネルギーが足らないゆえ、儂様のチャクラを壊理に流して不足分を補うでござる」
「肉体の巻き戻しということは、脳。つまり記憶を保持する器官まで戻すことになれば、記憶や経験すらも巻き戻る可能性はあるが」
「それらの問題は解消済みにござる」
壊理の個性は巻き戻すこと。しかし、治崎が作った個性の破壊と血清。緑谷が見せた巻き戻しながらの戦闘。
壊理の個性はただ巻き戻すわけではない。
個性だけをターゲットに個性を発動できるように、巻き戻りながらの戦闘で緑谷の記憶が混濁しなかったように、巻き戻しの対象は選択できる。
そして、この世界では記憶を保持するのは肉体だけではない。
「記憶や経験の情報は体と、個性因子の二重管理。つまり、巻き戻す対象を”肉体”のみに限定することで、巻き戻った記憶等の情報を個性因子が補完するでござる」
体だけ巻き戻れば個性因子が、個性因子が消えても体が、データサーバのRAID構造になっている。
しかし、それらは壊理が個性をコントロールできて初めて成しえること。
だからこそ、数か月もの間付きっ切りでコントロールの訓練を行った。
「もしも個性因子までダメージを負っているのなら、まずは体を巻き戻し、記憶が体に定着したのちに個性因子の巻き戻しを行うでござる」
「分かった。忍堂少年と壊理少女を信じよう」
そうして、儂様が用意できる最強の切り札。
平和の象徴の再臨。
それを見る間もなく、儂様の意識は吹っ飛んだ。
気が付いた時にはすべてが終わっていた。