個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
忍堂が逆口寄せの術により、雄英高校に飛んだ直後、USJの広場では激しい戦闘が繰り広げられていた。
「なんだァ? 同じ顔の奴がいっぱいいるぞ」
全身手を付けた男、死柄木弔は首を掻きながら突貫してくる一体の分身体に手を向ける。
「大将首ィ! でござる!」
「死に来てくれてありがとう。ヒーローの卵」
振りかぶられた分身体の拳が、死柄木に受け止められる。
同時に、掴まれた拳から忍堂の体が崩壊し始める。耐えきれないダメージに分身体が消える。
「アァ? 消えたぞ」
「おそらく生徒の個性でしょう。見る限り実体を伴った分身体でありダメージを負っても消えるだけ、本体が前に出ないことでイレイザーヘッドの動きが阻害されることもないということですか」
「人質対策ってか? ヒーローらしく前に出て来いよ。だっせェ」
あえて敵のトップに攻撃をさせた忍堂は、すぐさま情報を整理する。
本体がいないためフィードバックによる情報は得られないが、目視だけでもある程度は推測可能だ。
「先生。あの手男の手に触れた分身体が消えました。手を介した個性の可能性があるでござる」
「触れたらアウトか。面倒な」
ヴィランの頭目と思える死柄木を一瞥した相澤は、すぐに近くのヴィランに飛びかかった。
☆
「忍堂君すごい! リスクゼロで数を確保できて戦えるなんて!」
「儂様を称えるがいいでござるよ!」
「おい緑谷に忍堂、そんなこと言ってねえで逃げるぞ」
「させませんよ」
相澤先生と、忍堂の影分身が中央でヴィランと対峙する中、避難を始める緑谷達の背後に、黒い靄が突如現れる。
「初めまして。我々は敵連合」
ヴィランは語る。
平和の象徴であるオールマイトを殺すと。
ヒーローである13号が生徒たちを守ろうと行動するよりも、ヴィランが悪意を持って攻撃を仕掛けようとするよりも早く、二人の生徒が飛び出した。
切島と爆豪だ。
「その前に俺達にやられることは考えなかったのか!」
攻撃を仕掛け、挑発をかける。
しかし、靄のような、ガスの塊にも見えるヴィランは焦ることなく、攻撃を回避した。
「危ない危ない。そう、生徒と言えど優秀な金の卵」
「ダメだ! 二人ともどきなさい!」
二人の速攻は通常のヴィランであれば有効打になりえたかもしれない、が。
相対しているヴィランは普通ではなく、ブラックホールの個性故精密な攻撃が不得手な13号にとっては、文字通り足枷だった。
「私の役目は、貴方方を散らしてすり殺すこと!」
だからこそ、ヴィランの攻撃が届く。
靄が生徒たちの大半を飲み込んでいく。
(ふむ。影分身の儂様ピンチ! 実体がなく、広範囲に対してのテレポート能力か。めっちゃいい個性を持っているでござるな!)
靄に飲み込まれながらも、忍堂はフィードバックの情報を一つでも多くするため、周囲の観察に努めていた。
☆
「ち、一人だけかよ。しかも男だぜ」
「つまんねー」
「もういい、さっさとやっちまおうぜ」
絵にかいたチンピラでござるよー。
テレポートの靄によって儂様が送られたのは、倒壊したビル群のようでござるな。
「他のみんなをどこにやったでござる!」
影分身である儂様の安否はどうでもいい。
学校に向かった本体に渡せる情報を、少しでもかき集めるのが正解でござる。
「クククッ。怯えてんじゃねえかよ」
「他のガキも、お前と一緒でいろんなところにバラバラに送られてんのさ」
「んで、ぜーんぶのところで俺らに可愛がられるってことだ」
下劣な笑いと共に、有益な情報が舞い込んできたでござる。
やはり、自分が優位と思えば饒舌になるものでござるな。
「敵連合とか名乗っていたでござるな。あの全身手の奴がお前らの首領でござるか?」
「名前はだっせえけどな。それにあの野郎は俺らよりよっぽど怖えぜ?」
「そうそう。どっかのバカが突っかかってったら体ごと消されちまったしな。手でこーんなふうに、塵にな」
「そう考えれば、お前は俺らみたいなちょー優しいところに送られて良かったな!」
ふむ。言葉に対して連中の動きがちぐはぐでござるな。
「怖いのはお主等の方ではござらぬか?」
「あ?」
「わざわざ儂様達をバラバラにして各個撃破を狙う。まるで弱者の戦い方でござるよ」
それに、あの手男みたいに禍々しさは感じない。
所詮は下っ端か、これ以上の情報は見込めないでござるな。
情報収集は終わった。本来であれば影分身を解いて情報をフィードバックさせるべきだが、これだけの数を野放しにするのは論外にござる。
敵の個性は未知数だが、最低でも継続戦闘能力は奪いたいでござるな。
「テメェ。状況が分かってねえみてーだな」
「優しくしてりゃ、つけあがんじゃあねえぜ?」
たとえ弱くても数は力だ。
大それた術を使うにはチャクラ量が心もとない。というか覚えていない。
チャクラによる身体強化のみで戦うしかないでござるな。
「ヴィランに優しくするヒーローはいないでござるよ。覚悟するがいいでござる」
苦無を構える。
数は力だ。しかし、こいつらにとっての武器はこの数しかない。
それに、こいつらはヴィランだ。手心なんて要らぬでござる。
数分後。
「いでぇ……」
「くっそぉ……」
軽く十を超えるヴィラン達が儂様の前に倒れ伏していた。
え、戦闘描写?
こんな木っ端どもには過ぎたものでござるよ。殴って蹴って、苦無でツンツンして終わったでござる。
「ふむ。ヴィランらしく、武を知らぬようで助かったでござる」
幾人かは血を流しているが死ぬほどではないでござる。
儂様としては十分正当防衛と言い張れるし、死んでしまっても構わぬでござる。
10人以上の敵に囲まれて殺さずなんて、普通に考えれば無謀もいいところでござる。
今回は雑魚ばかり、チンピラ程度だから助かったでござるよ。
それよりも、この情報を本体に伝えるべきでござろうな。
倒壊しているビルの一室に隠れ、分身を解除。
生徒たちがバラバラに転移されたこと、そして少しでもチャクラを本体に返すでござる。
☆
場所――中央広場
そこでは多くのヴィランが転がされており、立っているのは首領と目される全身に手を付けた死柄木と、黒い体をした大男。
相対するのは多少は肩で息をしているが無傷な相澤と、3体の忍堂の分身体。
「忍堂、こっちはもういい。連れ去られた生徒を探してこい」
「具申するでござる。テレポートならUSJ外に飛ばされる確率の方が高いでござるよ」
それにと、忍堂は続ける。
「脳無とかいう化け物相手に、相澤先生を置いていくことは無理でござる」
8体いたはずの分身体のうち4体は脳無に消され、1体は死柄木と名乗った男から相澤を庇って消された。
「脳無は分身体で時間を稼ぐでござる。死柄木なる男は先生に任せるでござるよ」
単身で10人以上のヴィランを倒せた忍堂が、なぜ脳無1体に分身体を消されたのか。
単純な出力の差だった。
2体は強襲によって瞬く間に、1体が倒そうと攻撃を仕掛けるがダメージを与えられず、困惑している間に消された。
そして4体目は時間稼ぎのため回避に専念していたが、今しがた消された。
「3体で回避に専念すれば時間は稼げるでござる。こういう時のための分身体でござるからな」
忍堂が習得した術は少ない。
チャクラの五大性質において適性は水と土が最も高く、次いで風、火と雷は適性がほとんどなかった。
しかし、現在の忍堂は性質に合わせた忍術を持ち合わせていない。
影分身と逆口寄せの術以外に、忍堂が訓練に費やしたのはチャクラコントロールと体術だった。
影分身による超効率的な体術の習得。
忍堂は影分身を使うことで、複数の道場を掛け持ち、常人の何倍もの速度でそれらを習得した。
チャクラコントロールによる身体能力の強化と合わせれば、術を使わずとも高い戦闘能力を発揮する。
「死柄木弔」
脳無だけなら何とかなると意識を集中させる。
だが、死柄木の隣に黒い霧が現れる。
(まずい、でござるな)
死柄木だけなら制圧はなんとかなる。
強力なのは個性ではあるが、相澤と二人なら容易に対処できる。
しかし、脳無によって均衡はヴィランに傾き、テレポートの個性を持つ者まで増えれば時間稼ぎも難しくなる。
「13号は殺ったのか?」
「瀕死の状態まで持ち込みましたが、生徒の一人に逃げられました」
「はぁ?」
ピクリと反応したのは死柄木だけではなかった。
(バレただと? いや、違う。それなら俺に意識を向けるはずだ)
忍堂は焦った思考を無理やりに落ち着け、死柄木たちの会話に耳を向ける。
必死にポーカーフェイスを取り繕う忍堂とは対照的に、死柄木の反応は一目で不機嫌だと読み取れた。
「お前……お前ェ。お前がワープゲートじゃなきゃ、粉々にしてるぞ」
(バレたのは儂様ではない。つまり、誰かが脱出できたということでござるな)
伝達の手段は多く、確実な方がいい。
それに、ここは雄英高校の敷地内。ヒーローたちが大挙してくると分かれば、撤退を選ぶはず。
そうでなくても、本体からの報告でヒーローたちはすぐにでも到着する。
「はぁ。ゲームオーバーだ」
首を掻きむしり癇癪を起していた死柄木だったが、途端に落ち着きを見せる。
そして、忍堂の目は捉えた。
水難ゾーンにいる、緑谷達を。
地面をえぐる程の出力で飛び出し、緑谷達と死柄木の間に立つ。
「行かせぬでござるよ。ここを通りたければ儂様を倒していくでござる」
「ちっ。面倒な、本体が出て来いよビビリ君」
「誉め言葉大いに感謝にござる! 効果が出ている証拠でござるからな!」
「に、忍堂君っ!」
緑谷が声を挙げるのと、忍堂が死柄木の手を蹴り上げたのはほぼ同時だった。
そして、USJの出入り口が爆音とともに吹き飛ぶ。
中央にいた全員の視線が出入り口に集まり、出入り口の土煙を突き抜けた弾丸が視線と交差した。
「~ッ!?」
飛来した弾丸は死柄木の手に風穴を開け、痛みに悶えながらも追撃の弾丸が来る前に脳無の陰に避難する。
それにより、出入り口にいる存在が味方なのだと、緑谷達は理解した。
「皆、待たせたね」
足音は三つ。
先頭を歩くのは黄色の特徴的なスーツを着た、平和の象徴。
「あれが死柄木か。敵連合の頭目」
白煙を上げるリボルバーを手にしたカウボーイ姿のヒーロー、スナイプ。
「マズハ生徒達ノ、安全ヲ」
特徴的な声を出しながら、自身の分身を忍堂の倍以上生み出し散開させるヒーロー、エクトプラズム。
「オールマイト!」
「キタアアアア! オイラ達助かったんだああああ!」
「ケロ」
緑谷と峰田が歓喜し、どさくさに抱き着かれ一部を触られた蛙吹が峰田を沈める。
生徒たちが安堵に包まれる中、ヴィランは憎々し気にオールマイトを睨む。
「オールマイト、平和の象徴ォ」
敵を再認識し、怨嗟の念を高ぶらせるが、状況整理は行われていた。
「ゲームオーバーだ。黒霧、帰るぞ」
「まさかオールマイト以外にもヒーローが現れるとは。それにしても到着が早い」
生徒を逃がしてしまった言い訳ではないが、死柄木の手を即座に撃ち抜き、生徒たちが散らばらされていることを把握した動き。
明らかに情報が筒抜けになっていることに、黒霧が眉を顰める。
「逃げられると思っているのか。ヴィラン!」
「いいや、逃げるね。脳無、行け」
逃げるための明確な捨て石。
しかし、脳無はそれらに一切反応することなく、命令に忠実に行動を起こす。
「情報にあった怪力の男か!」
オールマイトと脳無がぶつかる。
逃げようとする死柄木たちをスナイプが狙うが、靄に防がれる。
「それ以上は撃たないことをおすすめします。弾丸のテレポート先が生徒に向かないとは限りません」
「クッ……!」
ブラフなんてことは考えない。
可能性があるなら実行するわけにはいかない。
「ヒーローってのは、守るものが多くて大変だよなァ?」
死柄木は嗤い、黒霧と共に消えてしまう。
「オールマイト、援護する!」
スナイプはすぐに意識を切り替え、脳無の関節を打ち抜く。
怪力、ショック吸収、そして回復の個性を発動する脳無だが、スナイプのサポートによって一方的に打ちのめされていく。
スナイプが生み出した隙を逃すナンバーワンではない。脳無は百発以上の拳を受け、爆散しながら空に吹き飛ばされていった。
その後、遅れて到着した飯田と雄英高校のヒーローと、エクトプラズムによって生徒たちは保護された。
前代未聞のヴィランによる雄英襲撃事件は、唯一緑谷の指の負傷(自壊)のみと、不幸中の幸いな結果になった。
☆
いくつか警察を交えた事情聴取を終えた儂様は、自宅に帰ってからずっとベッドに寝そべっていた。
「こんなんじゃダメだ……」
思い出すのはUSJ襲撃。
あのときの自分の行動は100点だったと今でも思っている。しかし、それはあの時点の自分にできることがそれしかなかっただけだ。
もっと色々な忍術を扱えていれば、チャクラを十全に活用していたのなら、死柄木と黒霧を逃がすなんてしなかったはずだ。
今までは五大性質の修行をあまり行わなかった。
理由は簡単で、単純に火力が大きすぎるからだ。
あの世界の術は基本“殺し”の手段であり、生きて帰さないものばかり。
庭で体術の訓練をする影分身達を見る。
「まさか、火力が足りないなんてことが、あるなんて思うわけねえじゃん」
平和の象徴であり、最強のヒーローとやりあった脳無。
今の自分の手札に、あれを倒すモノはない。
次、同じことが起きたとき、自分はまた時間稼ぎしかできないお荷物になるのか。
そう考えたらはらわたが煮えくり返るようだった。