個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
忍堂が目を覚ましたのは病院だった。
目を覚まししばらく呆然としていた忍堂の下に、医師がやってくる。
「忍堂君、君の最後の記憶はどこまでか教えてもらってもいいかな?」
「ござる。雄英でオールマイトと相澤先生達と一緒にいたでござるよ」
壊理のことは秘匿されていることもあり、名を挙げても問題ない両者を挙げる。
「どこか思い出せない過去とか時期はあるかな?」
「とくに、ないでござるよ」
生まれてから今日まで、雄英に入学して敵連合に潜入して、超常解放戦線との戦いを控えていたことまですべて覚えている。
医師は安堵した様子で部屋を後にした。
「忍堂少年! 起きたのか!」
呆然と天井を眺めていた忍堂の下に、トゥルーフォームのオールマイトが駆け込んでくる。
「オールマイト、今は、いつにござる?」
「……そうか、そうだよね。すべて話さなくてはならない」
2週間。忍堂が眠っていた期間で日本は大きく変わった。
端的に言えば最重要目標であった死柄木と、敵連合の数名が逃走。トゥワイスの死亡が確認され、トビの存在は確認されなかった。
「儂様は、失敗したでござるか……」
涙があふれてきた。
どうして気を失っていたのか、どうして作戦決行に自分が参加していないのか、どうして後先を考えて爆破をためらってしまったのか。
もっとやりようはいくらでもあったかもしれない。
エンデヴァーに相談せず、未知の攻撃としてさっさと起爆してしまえば、他にも、もっと……。
2週間も休んでいた忍堂の思考の回転を止めたのは、オールマイトの言葉だった。
「いいや、君のおかげで多くの命が救われた」
「え……?」
「君が恐れていた動かないはずのギガントマキアが動いたんだ。死柄木の目覚めに呼応して、突如」
だが、とオールマイトは手を広げた。
トゥルーフォームだというのに、広げられた腕の中に救いが広がっていた。
「君と壊理少女による巻き戻しによって、私の体は神野事件前程度に回復した。ちょっと諸事情はあったが、あの日あの場に私はいた! だからこそ、マキアを止めることに成功した! アノ巨体がだれにも止められず、街に侵攻していればもっと被害は大きくなっていたんだ! でも、君たちのおかげで止めることができた!」
死柄木の崩壊は恐ろしいが、手がないわけじゃない。
相澤による個性抹消があればほかのヒーローでも手が打てる。
しかし、マキアは違う。
体に作用する異形に分類される個性などは抹消の対象外。
だからこそ、真正面からぶん殴れる存在が必要だった。
それを、オールマイトが担ったのだ。
「ま、やりすぎて今じゃマッスルフォームの維持がほとんどできない状態に戻ってしまったがね!」
「あ、あぁ……」
視界がゆがむ。
「誇っていいんだぜ! 君のおかげで多くの命が救われた! 君の頑張りは一切無駄になっていない!」
不甲斐なさと安堵感に挟まれた忍堂が泣き止むのを待って、オールマイトは詳細を話した。
「ヒーロー側の被害はいかほどでござるか?」
「山荘、病院両方で少なくないヒーローの命が失われた。雄英側の教師達は多少の負傷はあれど皆生きている。しかし、病院側では市民にも被害が及んでしまった……」
オールマイトは耐えるように、白くなるまで手を握り締める。
「だが、ここでも君が用意してくれたカードが活きたんだ。あれがなかったらもっと被害は甚大なものになっていたはず」
「可能な限りカードは用意したでござるに、少しでも役に立ったならよかったでござるよ」
この世界におけるチャクラと忍術にはいくつか差異がある。
一つ、本体が気絶した場合、通常の分身は消えるが影分身は消えない。分身体自身が自らのチャクラをコントロールすることで、本体が気絶してもチャクラがあるうちは動けることが分かった。
物を巻物などに入れる封印術に生き物は入れられない。厳密には小型の昆虫などは可能だが、犬以上の生命体は入れられないことが分かった。術が違うのかはわからないが、その代わり厳密には生きものではない分身体は巻物などに収納できた。
ミルコとのボコし合いで使った分身体入り巻物、これを忍堂は作戦決行までの2,3カ月作り続けた。チャクラがあれば分身体を巻物に収めまくったのだ。
「君が作ってくれた”お手軽忍者召喚カード”。これによって市民の避難に多くの人員を投入できた。残念だが、目覚めた死柄木による崩壊によって病院を中心とする街は壊滅した、しかしその時には多くの人が避難できていたんだ」
用心深い忍堂が用意した。「自分が死んだとき」のための手札が、芽吹いた。
ちなみに、エリにはデュエルでトーナメントが開催できる程度には渡している。
「勘違いでござるよ。儂様がこれを作ったのは人のためではなく、儂様が守りたいモノを守護するためでござる。それらを使って市民を救護したのはヒーロー達でござれば、儂様は道具を作っただけにござる」
「謙遜するなよ。分身体だけじゃない、食料や水、いくつかの医療品や物資。災害を想定した巻物で手当ての間に合った人も多い。私だけじゃなくて、みんな感謝してるんだぜ」
にやりと笑い、病室のドアを指さす。
扉の曇りガラスの先に幾人もの人影が見え、ヒソヒソとした聞き馴染みのある声が聞こえる。
オールマイトが声をかけたとたん、ガラッと開いた扉からA組の生徒が入ってくる。
「てめー忍堂! 眠ってまで活躍するとかどこまでアイデンティティ守りてーんだよ!」
「忍堂さんの食料のおかげで脂質を気にすることなく、個性を発動できましたわ。本当に感謝いたします」
「目が覚めたってな忍堂! 2週間も眠ってたんじゃ色々わかんねえことあるだろ、全部教えてやんぜ!」
「かー、忍堂に見せたかったわー。俺ってば解放戦線幹部の一人ソッコー無力化したんだぜ? すげくね?」
「でも上鳴、そのあとすぐにお役御免になってたよね」
峰田や八百万達がどんどん入ってくるのに合わせて、オールマイトは「じゃ、久しぶりの交流を」と病室を後にした。
それを見送った忍堂は、来ているメンバーが全体の半分程度であることに違和感を覚えた。
「緑谷たちはどうしたでござる?」
「昨日まで眠っておりました。作戦時、目覚めた死柄木と激しい戦闘で緑谷さんと爆豪さん、轟さんは大きなダメージを受け、同じくこちらの病院で治療を受けておりますの。爆豪さんも眠っておられましたが、すぐに目を覚ましました」
「逃げたのは、死柄木たちだけでござるか?」
「山荘側の敵は殆どが捕らえられましたが、敵連合のメンバーとスケプティックなる異能解放軍幹部、森に逃げたのが十数名。彼ら以外はすべて捕らえることができましたが……」
ハキハキと答えていた八百万が言いよどむ。
何から説明するべきか迷っていると、切島がテレビを付けると、傷だらけのエンデヴァーとホークス、そして死んだはずのベストジーニストが記者会見を開いていた。
「あの日、轟の死んだって思われてた兄貴が荼毘だってことが拡散されたんだ。そんで逃げた死柄木が刑務所のタルタロスを襲撃しやがった。そこから捕まってた凶悪敵たちが脱獄、他んとこの刑務所も襲われてすげえ量の囚人が逃げ出しちまったんだ……」
「作戦時の死者は少ないですが、ゼロではありません。加えて取り逃がした死柄木による囚人の脱獄、No2ヒーローであるホークスが敵連合の一人を背中から切りつける映像が広まり、日本のヒーロー社会は大きく揺らいでおりますの」
テレビではホークスがトゥワイス殺害の事実を認めつつも、彼が持つ個性の危険性を説明している。
(これは仕方がないでござる。トゥワイスは気のいいやつでござったが、理論上1日掛けず日本どころか世界を壊せる個性でもある。今は難しくとも、死柄木のように個性が急激に成長することを考えれば、逃がしてはならない)
11万の戦闘員がド級の脅威なのだ、それらを優に超える戦力を一人で担えるとなれば、初手で潰すのはマスト。
死んでしまったことに一切の感情が動かないわけではないが、納得はした。
自分がやらなくて良かったと、ほんの少しばかり思ってしまった。
そして、エンデヴァーが荼毘が実子であることを認めるが、映像に映っていたトビが焼けただれた顔を見せた件については否定。
(ま、トビなんていないでござれば、マージでごめんでござるよNo1)
「忍堂は、あまり気にしてないんだな……」
テレビを見る忍堂を見ていた切島が、どこか悲しげに聞いてくる。
「何を気にするでござる?」
「だ、だってよ。仕方ないかもしんねえけど、ヒーローが人を、殺しちまったんだぞ。それに轟の家のことも」
「なぜ、気にするでござる?」
自らの言葉に違和感を覚えながらも、割り切って答える。
なぜなら、切島が聞いているのはトゥワイスのことではなく、自らが憧れたヒーロー達についてだったからだ。
「捕らえられない場合の危険性を考えれば殺すのも致し方なしでござるよ。実際、死柄木を逃がした結果がこれでござろう?」
「そうかもしんねえけどよ、人が殺したり殺されたりしてんだぞ。作戦に加わったヒーローにも死んだ人はいるってのに、それも何も感じねえのか?」
「感じて、どうするでござるよ。感傷に浸るでござるか?」
A組での切島は情に厚い男。
硬化の個性を使い、人を守ることを体現する男だ。
だからこそ、人の生き死にに対する忍堂の態度が理解できなかった。
「儂様達はまだ学生にござるよ。子供にござる。でも、自ら選んだ道の先があそこでござるよ」
テレビを見れば、三人のトップヒーローが深く頭を下げ、記者からは懐疑的な野次が飛ぶ。
「他者に期待するなんて馬鹿でござるよ。自分が頑張って助けたんだから、命がけで頑張ったのに、なんて賞賛や理解を求めるのは傲慢にござる。人は卑しく、醜い生き物にござるよ」
「忍堂、言い方ってもんがあんだろうが。オイラはそうかもしんねえけど、切島はそういう奴じゃねえって分かってんだろ」
「峰田。そうであれば先の言葉は出ないでござるよ。およそ、何かの成功体験で一度でも賞賛を浴び、味を占めれば次もとなるのが人間でござる」
思い当たる節があるのか、切島の肩がピクリと跳ねる。
「ま、当日眠りこけてしまっていた儂様が、あの日死に物狂いで頑張った切島たちに言うのは気が引けるでござる、が」
2週間ぶりに動かす手はひどく緩慢だった。
切島の胸倉を掴み、引き寄せる。
「お前は褒められないと玉張れないでござるか? 褒められたいから人助けをするのでござるか? 非難されるなら助けないでござるか?」
揺れていた切島の瞳がぴたりと止まる。
「ワリィ忍堂。俺のやれることなんて一個しかねえのに、迷っちまってた……!」
ガキンッ! と、硬化時の独特な音が響く。
「やることは変わらねえ! ゼッテエ倒れねえ盾になって、後ろにいる人に血を流させねえ! 文句言われても知ったことか! テメーで決めた道だ、最後まで貫いてこその漢だろ!」
「はぁ。オメーはもう少しやり方を考えろよなー。オイラ冷や冷やしちまったじゃねえか」
「これが男の友情、というものですわね!」
「儂様には似合わない言葉でござる」
「お前は早く復帰してくれ。組手の相手が突然いなくて困ってるんだかんな」
それからしばらくして峰田たちが部屋を出て行ったあと、小さな来客がやってくる。
「守さん!」
「おー壊理でござるか。それに相澤先生も、無事というにはデコってるでござるな」
「まあな。お前の分身体が庇ってくれなきゃ顔ごと持ってかれてたよ」
松葉杖をついた相澤に連れられ壊理が病室に入ってくる。
涙ながらに駆け付けた壊理はそのまま忍堂の体にダイブを決める。
「壊理はあの時大丈夫だったでござるか?」
忍堂が意識を失ったとき近くにいたのは壊理だった。
記憶が確かならとっさに壊理を庇ったので、傷はないはずだが。
「守さんがかばってくれたから大丈夫だった!」
「一応、アノ時の話がしたいんだが。日を改めたほうがいいか?」
相澤が申し訳なさげなのは、今なお忍堂に熱い抱擁を繰り出す壊理がいたからなのだが、忍堂は否定する。
「時間的な余裕はないのでござろう?」
「すまんな。起きたばかりだろうに」
椅子を持ってきた相澤がベッドの隣に座る。
「あの日、離れていた俺にはお前と壊理ちゃんが突然吹き飛ばされたように見えた。壊理ちゃんはなにがなんだか分からないらしいんだが、お前は覚えてるか?」
「ごめんなさい、守さん。私……」
「何を言うでござるか、壊理を守るのは当然でござるに。あれが起きたのはひとえにオールマイトが異常だったからでござるよ」
「その話しぶりだと、当時のことは覚えているんだな?」
頷いた忍堂は壊理を撫でながら説明を始めた。