個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
オールマイトの体を健常な状態に戻そうとした、あの日。
異変に気付いたのは、壊理の個性でオールマイトに活気が戻ってき始めた時だった。
(力が……吸われている!?)
壊理は気づいていないが、壊理を通して忍堂は膨大なエネルギーの渦に引き込まれる感覚に襲われた。
まるで枯れた大木がやってきた水をすべて吸い尽くそうとしているように、壊理のもつエネルギーから忍堂のチャクラまで、全てを飲み込もうとしていたのだ。
(やはりオールマイトほどともなれば異常なまでのエネルギーが必要でござるか!)
聞けば、治崎が話した壊理の両親が消えたとき。それは十秒も経たずに完了したらしい。
そんな壊理が緑谷の時は自壊ありきとはいえ、拮抗していたのだ。戻す個性にとって、緑谷の自壊で拮抗すること自体が土台おかしな話なのだ。
つまり、戻す対象の情報量とでもいうのか、内包するエネルギー量に応じて必要となるエネルギー量が変わるということ。
緑谷でそれならば、オールマイトは比べるべくもないはず。
(納得も理解もした、しかしこれは……!)
急いでチャクラを生成しつつ、壊理を通して一息に吸い取られないようコントロールも行う。
一瞬でも気が緩めば自らの生命エネルギーすらも吸われる。
チャクラを綱にした全力の綱引き、負ければ壊理まで持って行かれる。
これまで鍛え続けたチャクラコントロールを全力全開で発揮し、少しばかり奪われたチャクラを取り返す。
そんな時だった。
『君が彼を助けようとしてくれているのかい?』
どこからか優しい声が聞こえた。
『でも、今のままじゃ君たちが危ない。ごめん、少し手荒になるけど許しておくれ』
聞き終えた直後、オールマイトを中心として強烈な衝撃波が巻き起こる。
加えて、取られかけていた生命エネルギーが急速に叩き返される。
それらが同時に起こり、忍堂は吹き飛ばされながらも壊理の体を必死に包み、意識を失った。
「うーん。あの声の主が何者かは分からんでござるが、彼のおかげでこうして生きているということでござるな」
うんうん、唸る忍堂に合わせて壊理も唸った振りをする。
話が終わったとじゃれつく二人を横目に、相澤は当日に緑谷から聞いた話を思い出していた。
(あの日、あの時間、緑谷がOFAの調整を誤り事故を起こしかけたと言っていた)
緑谷本人は作戦決行日が近づいたゆえと納得していたが、一年も経とうとしている今。常に個性のコントロールに気を配っていた緑谷が誤るとは思えないと、担任として見てきた相澤の勘が断じていた。
しかし、雄英の教師として知っているオールマイトの真実。併せてOFAという特異的な個性の性質、忍堂が聞いた声。それらが相澤の中で結びついていた。
(こりゃ、オールマイトさんと緑谷にも話さないといけないな)
だがしかし、しかしである。
自身の個性から数多の個性を見てきた相澤の予想が外れていないのであれば、死柄木とAFOという二大巨悪が立った最悪な日本の状況を打開する一助になるかもしれない。
(ダメだな。それじゃあの時忍堂が言っていたことを肯定することになる。それに、俺が決める話でもない)
時間は少ない。脱走したAFOと死柄木がいつ肉体を完成させ、襲ってくるのか分からない今、動かないわけにはいかなかった。
「忍堂、すまんが少しの間壊理ちゃんを見ていてくれ」
「御意にござる。壊理は問題ないでござるか?」
「ま、守さんと、ふたりっきり……」
「儂様としては壊理と一緒にいられるのは嬉しいでござるが、無理強いは」
「いる! 大人しく一緒にお布団で待ってる!」
「すまん、やっぱ壊理ちゃんはこちらで預かる」
その後、徹底抗戦の構えを見せた壊理に負けた相澤は、あの激闘から目を覚ました緑谷とオールマイトの下に向かった。
☆
緑谷が病室で目覚めてから1日が経った。
オールマイトから話を聞いて、エンデヴァー達に秘密を打ち明けた。
最悪な状況だった。
超常解放戦線に潜入していたホークスからもたらされた情報から、精鋭といえるヒーロー達を集め総攻撃を仕掛け、多くの敵を捕らえた。
だが、逃がしてはいけない相手を逃がしてしまった。
後悔に苛まれた。
「緑谷ちょっといいか。オールマイトもお時間いただきますよ」
しかし、事態は何ら収まっていない。
収まっていないのなら緑谷たちヒーローに立ち止まっている時間なんてなかった。
病室にやってきた相澤先生が話した内容に、緑谷は目が飛び出るほど驚いた。
「そ、それじゃあ山荘で暴れたマキアを止めたのってオールマイトなんですか!?」
「アッハッハッハ! ま、私ひとりとは言えないけどね。A組の皆やほかのヒーローたちが協力してくれたからこそだよ」
引退したはずのオールマイトがマキアと戦った事実を、そこで初めて知った。
「壊理ちゃんの個性コントロールに協力していた忍堂の申し出でな、グラントリノの証言からもギガントマキアの危険性は先の作戦を土台から崩しかねないほどだった」
「忍堂少年には感謝と同時に、申し訳なく思っている。私のせいで壊理少女も危険に晒してしまったし、忍堂少年は作戦に参加すらできなかった。彼がいればもっと」
「そんなこと言わないでください、オールマイト……!」
自らのために齢16の子供を2週間も眠らせてしまった。
誰かを助けるために、身近な教え子を危険に晒した。その事実に打ちのめされるオールマイトの手を緑谷が強く握る。
「そうですよオールマイト。貴方がマキアを抑えなければすべてが終わっていた。アレを抑えられるヒーローは貴方以外いません」
当初暴れだしたマキアを抑えんがためマウントレディが食らいついたが、引きずられるのみで止めるに至らなかった。
有事の際に控えていたオールマイトが飛び出し、マウントレディを含む多数のヒーローが協力することでマキアを倒したのだ。
オールマイトがいなければ、マキアに多くのヒーローが散らされ、多くの敵を逃がしていたはずなのだ。
「その話を悔やむぐらいなら本人に直接言ってやってください。本人は気にしてないようですが」
「アハハ。忍堂君らしいですね」
緑谷にしても、忍堂が裏で動いていたことに驚いたが彼らしいとも思った。
エンデヴァー事務所で盗み聞きをしてしまったこともあり、自分たちが知るよりも以前から動いていたことは容易に想像できる。
「緑谷、以前お前が個性の調節を間違ったと言っていた時があったろ。作戦決行の1週間ほど前に」
「え、あ、はい」
「同時刻、オールマイトに壊理ちゃんの個性を使ったんだ。そして、忍堂はその時ある声を聴いたらしい」
声。
緑谷には思い当たる節が多かった。
なぜなら、死柄木と死闘を繰り広げたあの時、精神世界で対峙したAFOとの一件からより深くなったOFAとの結びつき。
昏睡時に話した歴代の継承者。その初代が忍堂について触れていたのだ。
「多分、初代です。眠っているときに精神世界で、歴代の継承者達と話したときに初代が忍堂君について触れていました」
「なんと……!」
「あの日、お前とオールマイトは施設内とはいえ、ある程度の距離があったはずだ」
壊理は雄英に保護されている。
そのため、当時もオールマイトに対する巻き戻しは専用の施設内で行われていた。
「初代が、オールマイトとの繋がりが強くなったって、まるで個性を譲渡する前の状態に近づいたようだって、言ってました。そして、僕の中にいるオールマイトの影がまるで元の体に引っ張られたって……」
「オールマイトはあの時なにか違和感はありませんでしたか? 一度聞いた手前すみませんが」
「いや、いいんだ相澤君。私もあの時は気が動転していてね、忍堂君たちを医務室に運ぶ必要もあったし」
思い出すそぶりを見せるオールマイトは、うんうん唸り手をポンと叩く。
「なんか、すごかった!」
あまりに大雑把な感想に緑谷が呻きながら器用にリアクションを取る。
「あの、オールマイト?」
「いやいや、ごめんごめん。そうだね、あのときというよりはマキアと戦ったとき。久しぶりに全力を出したんだけど、体は神野事件と同じでも出力があの時以上だった気がするよ」
ま、体が持たなかったんだけどね。そう続けてあっけらかんと笑うオールマイトだが、相澤と緑谷は神妙に顔を見合わせる。
「緑谷は死柄木と戦っていたとき、力が抜けるような感覚はなかったのか?」
「そ、そういえば一瞬だけ……少しだけですけど、踏ん張りが浅くなったことがあります」
「ここからは何の確証もない推測ですが、OFAの継承が体組織の一部で実行可能であり、継承後も残り火という形でオールマイトが力を行使できることから、AFOのように個性因子ごと緑谷の体に移ったわけではないと考えています」
オールフォーワンのように、個性因子ごと渡してしまえば、緑谷に力を継承させた直後からオールマイトはマッスルフォームになることができなくなるはず。
当事者であるオールマイトは相澤の言葉にうなずく。
「継承は一種の接続するためのパスを設定するもので、継承者はそのために個性因子だけではなく体にも変化が起きていた。そして以降はオールマイトから繋がりを使って緑谷に力が移っていく。つまり、オールマイトのOFAが消えたわけではなく、体の状態もOFAによる影響を残している。色が抜けたような状態と言えばいいんでしょうか」
「なるほど。眠っている緑谷少年の近くにいたとき、少年の中にあるOFAと私の存在を感じ取れた」
オールマイトの言葉は、まさしく緑谷とオールマイトの繋がりが存在することの証明だった。
「であれば、壊理ちゃんの巻き戻しでオールマイトの体が巻き戻るのに合わせて、失われた個性の力が戻ろうとしたのかもしれない。しかし、オールマイトの個性は消えたわけではなく緑谷の体に渡っている状態。忍堂自身、巻き戻すのは体のみとも言ってました。個性まで巻き戻すのであれば、緑谷の体から個性が抜き取られるのも可能性の1つって言うのは、ない話じゃない」
「OFAは譲渡の意思がない限り奪われない。オールマイトが以前言ってました。そしてエリちゃんの個性は僕じゃなくてオールマイトだけに行われた」
「特殊なOFAの性質と状態、忍堂と初代に会話が成立したこと。緑谷が死柄木戦で違和感を持ったことから、壊理ちゃんの巻き戻しでオールマイトの個性が戻ることはない。逆に言えば、二人に対して同時に肉体、そして個性に巻き戻りを行えば、緑谷からOFAの核がオールマイトに戻ることになると予測できます」
なら、と緑谷がオールマイトを見る。
歴代の個性を使えるようになってきたとはいえ、100%の力を運用できない自分より、オールマイトに戻したほうが。
そう考えた緑谷を相澤が睨む。
「オールマイトから渡されたモノだろ。受け取った灯はお前が次に渡すんだろうが」
「はい、すみません……」
消沈する緑谷を慰めるためか「それに」と続けた。
「今まで散々話したが、あくまで予測でしかない。状況と経験から基づく推測を正として扱うのは、合理的じゃない。緑谷の力がオールマイトに単純に流れてしまったのなら、マキア戦で増幅した力を行使したオールマイトに力をもっと吸われていたはずだ。俺の推測では、オールマイトの中にあるOFAの力と緑谷の力が互いに呼応して力を増したんじゃないか?」
「なるほど……。マキア戦では神野の時以上に踏ん張ってしまった。もしも緑谷少年の力だけを私が吸い出していたのなら、緑谷少年が動けなくなっていてもおかしくはない」
100の力があるとして、マキア戦でオールマイトが100を使っていたのなら、緑谷が使える力は0にならなければ辻褄が合わない。
しかし、死柄木戦で40前後を使っていた緑谷から、30前後を受け取りオールマイト自身のOFAを掛け合わせて力を生み出したというのなら、まだ納得がいった。
「つまり、壊理ちゃんの個性で体の状態をよくしたのなら、バッテリーが上がった車に使うジャンプスターターの要領で、オールマイトを一時的にマッスルフォームに引き上げることができるかもしれない」
「それって……!」
死柄木とAFOの間に個性による繋がりが見れたように、緑谷とオールマイトも互いの繋がりを得ているということ。
巨悪が二人立つのであれば、平和の象徴も二人立って立ち向かえばいい。
「これならオールマイトと僕で、AFOと死柄木の両方を抑えられる!」
「いや、ダメだ緑谷少年」
光の潰えた闇の中で見えた光明。
だが、それは自らを切り刻む断頭台でもあった。
「私が君から力を一時的にでも受け取ってしまえば、君は全力で戦うことができない。どちらを相手にしたとしても、一瞬の油断もできない相手にそんな隙をさらせばどうなるか……」
長らくAFOと戦ってきたオールマイトだからこそ知っている。巨悪がどれほどの恐ろしさを持っているのか。
「いえ、そうとも限りませんよオールマイト」
しかし、それでも思考を止めないのがヒーローであった。
一筋の光を見つけたのであれば、無理やりにでも光の差す先を広げて見せる。
「忍堂のチャクラは個性を強化することができます。壊理ちゃんの外付けバッテリーもそうですが、ミルコが病院の脳無戦で見せたアノ力。あれも忍堂のチャクラを使った強化らしいです」
オールマイトは見ていないが、相澤は地下で脳無相手に無双するミルコを見た。
緑谷はエンストを起こすまで死柄木と対等に渡り合ったミルコを見た。
氏子を追わせたヒーローのため、一人で複数の脳無と戦うその姿はまさしく鬼神と評せるほどだった。
「忍堂に協力してもらい、オールマイトと緑谷両方をチャクラで強化すれば、分けたOFA以上の力を二人で行使できる可能性があります」
今までの話に科学的根拠は一切ない。証拠も、数値を基にしたデータもない。
あるのは実体験と状況証拠からくる経験則を踏まえた希望的観測であり、そうあってくれという思い込みだ。
しかし、できないことをやってこそのヒーロー。実現してきたからこそ、オールマイトは平和の象徴とうたわれているのだ。
「ただ、こんな話をしておいてなんですが。私はこれに反対です」
「なっ!? それはどういうことだい相澤君!」
「先生……?」
「オールマイト、根津校長と話した時の問答をお忘れですか?」
緑谷は知らない、超常解放戦線という巨大組織を目の当たりにした忍堂が当初考えていたオールマイト復活計画。
その話をしに来た忍堂と、相澤たちは真っ向からぶつかっていたのだ。
「わかってるさ相澤君。こんな手が何度も続けられるわけでも、続けていいわけでもないことは」
矜持も理想もある。しかし、それで人が救われないというのなら喜んで捨ててやる。
マッスルフォームになったオールマイトが「でも」と笑う。
「大人の後始末を子供だけにやらせるのが大人なら、私はクソくらえだ。自分のケツを子供に拭かせる大人がどこにいるって言うんだい、自分で自分のケツぐらい拭かせてくれってね!」
もとはといえば、神野で死柄木たちを取り逃がしたプロが招いた結果が巡り巡っての今なのだ。
それを倫理観だの、正義感だので責務を生徒に押し付けるものを大人というのなら、笑って殴り飛ばしてやる。
殴り飛ばすための両手を手にできるのなら。
「やってやろうじゃないか相澤君。ヒーローは何度だって立ち上がっていいんだぜ?」
マッスルフォームを維持するオールマイトに、自身の力が流れていることを緑谷は自覚しながらも、緑谷はあることに疑問を抱いた。
(どうして初代の声が、オールマイトじゃなく忍堂君に聞こえたんだろう……)
色々ごちゃごちゃ言ってんな、で飛ばした人向け(自分がそうなので)
要約
「OFAと巻き戻す個性が特殊な状況でスパーク! 上手くやれば平和と混沌の象徴による師弟タッグマッチ行けんじゃね!?」
です