個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
「なんの話でござるか。儂様はこれから修練に向かうでござるよ」
「忍堂は、何か武術を習っているのかなって」
ははーん。儂様ピンときたでござる。
「尾白のヒーローコスチュームは道着をカスタムしたものでござったな」
つまり、尾白自身も何かしらの武術を身に付けているということ。
そんな彼が儂様に声を掛ける理由と考えれば、納得がいったでござる。
「USJで相澤先生と一緒に戦っているのを見て、かなりの達人だって思ったんだ」
「さようにござる。それなりには修練を積んでいるでござるよ」
「俺が通っている道場の師範が言ってた。競うことは大事だけど、過程とか手段を目的にしてはいけないって。お前がさっき教室で言ってたことって、そう言うことだよな?」
おー。流石にその道を歩んでいる者といったところでござる。
儂様の求める結果は、護身を起点とする武道のソレとは違うでござるが、考え方は大差ないでござる。
「競うこと自体は良いことでござる。1里よりも目の前の指標を見て歩めるのならば、そうしない理由がないでござるからな」
「ハハハ。同級生と話してる気がしないな……」
「それで、改めて聞くが何用でござる?」
「俺に、稽古を付けてくれないか?」
「無理にござる。教える技術を養った覚えはないでござるよ」
教える技術というのは一朝一夕で身に付くものではないし、一人で行えるものでもないでござる。
影分身の儂様にいくら教えたとしても無意味でござるからな。
「教えてくれなんて言わない。だから、俺と戦ってほしい」
未来のヒーローのためを思えば、必要な時間なのかもしれないでござるな。
「それぐらいならいいでござるよ。手加減はするが、怪我をさせないとは言わないでござる」
「ああ。むしろそうしてくれ」
なんというか、尾白の第一印象は普通だったのでござるが。
こうして相まみえるとなかなかに武人な者のようでござる。
尾白を伴って訓練場に向かい、お互いに見合う。
「ルールはどちらかが参ったと言うか、戦闘続行が難しいと判断した場合にござる。そして、これは勝ち負けを目的とせず、互いの武を学ぶものとするでござるよ」
「わかった。勉強させてもらおう」
「あ、尾白は尻尾を使ってよいでござるよ」
チャクラ強化はしないまま、尾白と拳をぶつけて訓練を始めた。
「フッ!」
尾白の拳を避けながら、確かに積まれた修練の軌跡が伝わってくる。
ブレのない、真っ直ぐな拳でござる。
「ハァ!」
だからこそ、避けやすい。
拳、脚、尻尾を使った尾白独自のスタイルによる連撃。それらすべてを避け続ける。
そして、尾白の手が止まれば儂様の番。
「グッ!?」
防御を崩しながら三日月蹴りを入れ、呼吸を止める。
本来であればここで止めるのだが、追撃の手は緩めないでござる。
「チィ……!」
尾白は尻尾による大振りで隙間を作り、転がるように儂様から距離を離そうとする。
が、そんな見え透いた手を見逃すはずがない。後ろよりも前への動きが速いのは当然。
転がり頭の下がった尾白の頭を蹴り飛ばす。
そして、立ち上がれなくなった尾白を見て合図を出す。
「終了にござる」
「ハァ、ハァ……ッ!」
「個性を生かした良い連撃でござった」
ちなみに、尾白と戦闘している間。儂様は影分身を出して、そっちはそっちで訓練をしているでござる。
影分身同士で稽古する際は有効打で消えてしまうので、基本は防御と回避を主軸にしているでござる。
呼吸を整えた尾白が座り込むので、儂様も隣に座る。
「ハァ。分かってはいたけどさ、忍堂は強いな」
「尾白も十分強いでござるよ。尻尾の一撃はかなりの物でござる」
攻撃の最中、尻尾を叩きつけた地面には深い衝撃の跡が残るほど。
当たれば強烈の一言にござる。
「当たらなくちゃ意味がないさ。特に、俺の個性は近距離パワー型。機動力も尻尾を使えばってところだけど、爆豪とか飯田ほどじゃない。轟みたいに範囲攻撃はできない」
ふむ。そう思うとA組にいるメンツは何かしらの明確な長所を持っている。
「しかし、この間の戦闘訓練のように核兵器といった、戦闘に気を遣う場合であればアレ等の長所は短所になるでござるよ」
「そうだな。そういう場所なら、俺の個性は制限を受けない。でもさ、ヒーローに時と場合なんて言えるわけないだろ?」
「ない物ねだりでござるな」
「脳無って言われてたあの大男。あいつの個性にショック吸収があるって聞いてさ。オールマイトの攻撃をまともに受けられる奴なんかがいたら、俺は手も足も出ない」
「儂様も同様にござる。時間稼ぎに集中してやっとでござった」
苦無で傷つけてもすぐ回復したし。まったくあの手の個性は考えていなかったでござる。
沈黙が続いた。
「頑張るしかないでござるよ」
「そう、だよな。そうなんだよな……」
「さて。訓練を続けるでござるよ、実践に勝る経験はないでござる」
「あぁ。頼む!」
「それと。儂様も新しい技の会得を目指しているでござるから、そっちも試させて欲しいでござる」
訓練場の利用時間いっぱい。儂様と尾白は訓練を続け、それ以降も定期的に一緒に訓練をするようになったでござる。
あれ。儂様青春してない?
☆
雄英高校体育祭当日。
日本屈指のヒーロー育成科である雄英高校の、未来のヒーロー達が大衆の目に映る数少ない機会。
この日ばかりはマスコミや一般の人が雄英高校の敷地に入り、巨大な施設を埋め尽くしていた。
USJ襲撃から有事の際に備えた体制や、未来のライバルやサイドキックを一目見ようとプロのヒーローも来るとなれば、オリンピックの代わりと言われても遜色はなかった。
そんな一大イベントの中心にあるスタジアムの控室では、1年A組の生徒達が緊張の面持ちでいた。
「忍堂は緊張しないのか?」
「平時より平常心を心がけているでござる」
「俺さ。いつもはこの日を楽しみにしてたんだ。見られる側がこんなに緊張するなんて思ってなかった」
「なに、やることは変わらぬでござる。自分のやれることをやるだけでござるよ」
そんな二人の会話を見ていた一人、麗日が隣でガッチガチに緊張している緑谷の肩を叩いた。
「ねえねえ緑谷君、なんか最近の忍堂君と尾白君って仲いいよね」
「ヘァ!? え、あ、ああ。そうだね、放課後とか二人で訓練してるらしいよ。お互い接近戦闘が軸だからって」
「なるほど! いいね、それ! 私も混ぜてもらおうかな」
どうにか緊張を解こうとするなか、緑谷に近づいてきたのは轟だった。
「緑谷」
「轟君、何?」
普段寡黙で、必要最低限の会話しかしない轟の行動に、A組の視線が集まる。
「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」
「え、う、うん」
「けどお前、オールマイトに目かけられてるよな」
覚えがあるのか、緑谷の声が漏れた。
しかし、そんなことは気にせず轟は続けた。
「別に、そこ詮索するつもりはねえが。お前には勝つぞ」
「おお。クラス最強が宣戦布告?」
「おいおいおい、急にケンカ腰でどうした? 直前にやめろって」
お互いに意識して発破をかける。
というよりも、もっと重たい何かを轟に感じた上鳴と切島が入っていく。
だが、それでも轟が姿勢を崩すことはなかった。
「仲良しごっこじゃねえんだ。何だっていいだろ。忍堂も言ってただろ、俺には目的がある。そのために今日は勝つっていってんだ」
ちらりと轟から視線を向けられた忍堂は、へーと我関せずを貫いた。
「轟君が、何を目的に僕に勝つって言ってんのか分かんないけど。そりゃ君の方が上だよ、実力なんて、大半の人には敵わないと思う。客観的に見ても」
普段からネガティブな印象を見せる緑谷が、これまたマイナスなことを言えば切島が心配げに声を掛ける。
「緑谷も、そういうネガティブなこと言わない方が」
しかし、緑谷の瞳は普段では見ない強い光を宿していた。
「でも、みんなも、他の科の人も。本気でトップを狙ってるんだ、遅れを取るわけにはいかないんだ……!」
拳を強く握り、轟を睨む。
「僕も、本気で取りに行く!」
おどおどとした緑谷が見せた気概に、周囲の顔も変わっていく。
そして、雄英高校体育祭が始まった。
プレゼントマイクの独特なパフォーマンスが流れ、注目の的であるヒーロー科が日の光を浴びる。
『1年ステージ! 生徒の入場だ!!』
毎年注目を浴びる雄英高校1年のヒーロー科だが、今年は例年以上に注目を集めていた。
『雄英体育祭! ヒーローの卵達が我こそはと、シノギを削る年に一度の大バトルッ! どうせアレだろコイツらだろ!? ヴィランの襲撃を受けたにも関わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星! ヒーロー科《1年A組》だろ!』
アレほど強い意志を見せた緑谷だったが、先ほどの強さはどこへやら。大衆の注目と歓声にビクビクと体を震わせてしまう。
続々と集まる1年生達。そしてA組にだけ色のついた視線が多くなる。
しかし、そんなものヒーローに成れば日常茶飯事。プレゼントマイクは気にしないと進行していく。
そして、18禁ヒーロー、ミッドナイトが開会式を始める。
欲情的なスタイルとコスチュームに、別の意味で熱い視線が集まるが、それすらミッドナイトは手玉に取って声を張り上げる。
『選手宣誓! 選手代表、1年A組。忍堂守!』
指名されたのは、入試をぶっちぎりの1位で通過した忍堂。
人生でこれほどまでに注目を集める一瞬があるだろうか。フラッシュライトがたかれる中、忍堂は堂々とした足取りで前に出る。
マイクの前に立ち、息を吸う。
「宣誓、儂様」
(((儂様……?)))
「忍堂守にござる」
(((ござる……?)))
「誰が勝つ、俺が勝つ、誰が1位だ、俺がトップだなんてつまらんことは言わないでござる」
普段から激情を隠さない爆豪が、静かに忍堂を見つめる。
「儂様が求めるは結果にござる。今日はその結果のための通過地点なれば、踏み台役の皆様には感謝と共に、誠心誠意踏みつけてやることを誓うでござる。踏み台諸君、以上にござる」
あからさまな挑発。
数拍の後、生徒から会場を揺らさんばかりの罵倒が響き渡った。
☆
「儂様完璧に任務を遂行したでござる!」
「どこが完璧だっ! あからさまにA組が目の敵にされてんだろうが!」
「ワハハハ! 儂様愉快愉快!」
「この精神いかれ忍者野郎ゥ!」
「忍堂らしいといえばらしいけど。正直勘弁してほしいよ」
A組の生徒は気づいている。
競うつもりはないと言っていた忍堂が、心にもないことをあえて言ったのだと。
それでも言わなければ気が済まないと、峰田が突っかかっていく。
A組の痴話げんかに目もくれず、ミッドナイトは進行を続ける。
『さーて、それじゃあ早速始めましょ! 第1種目は、いわゆる予選よ。毎年ここで多くの者がティアドリンク! さて、運命の第1種目! 今年は、コレ!』
スタジアムに設置されている巨大なスクリーンが慌ただしく光り、第一種目を映し出した。
『障害物競争! さあさあ、位置につきまくりなさい!』
指示に従い、1年全生徒がスタート位置に付く。
決して狭くはないスタート地点だが、そこにマンモス高の1年生が集まれば狭いどころではなく、それはスタート直後に待ち受けるスタジアムの出入り口を見れば、この後の光景が容易に想像できた。
『第一種目、障害物競争! スタート!』
しかし、進行はそれすらもレースの一つだとばかりに、ミッドナイトが競技開始の合図を出す。
『さーて、実況していくぜ! 解説アーユーレディ! イレイザー!』
『無理やり呼んだんだろうが』
開始と同時に、スタジアムではプレゼントマイクとイレイザーヘッドが実況と解説を始める。
『早速だがイレイザー。序盤の見どころは!?』
『今だよ』
スタートと同時に生徒たちが駆け出し、スタジアムの出入り口で団子状態になってしまっていた。
平時であれば、並んで進めばどれだけの人数がいてもつまるなんてことはない。
しかし、誰もが前に出ようとした結果、逆に人同士が自ら波をせき止めてしまっていた。
そんななか、誰よりも行動を開始したのは轟。ではなく、
「儂様いち抜けでござる」
忍堂が物理法則を無視して壁を走っていった。
「ちっ、出遅れた……!」
忍堂を見て轟が素早く個性で場を凍結させる。
周りの足を止め、悠々と前に出ていく。
「素直に行かせるかよ!」
スタジアムの外。先頭を走る忍堂に向けて地面を凍らせるが、忍堂の足は凍ることなく、そして氷で滑ることもなく猛スピードで走り去っていった。
『おーっと! トップを走るのは選手宣誓を務めた1年A組の忍堂だー!』
『A組の中でも奴の状況把握と行動力はずば抜けている。前に出れば攻撃を受けやすいことも前提に動いているんだろう』
『それにしても氷の上を走ってるカラクリはどういうこった!?』
『知らん。だが、個性を使っているのは確定だろう』
「ワハハハ! 轟! 儂様を止めたければ上忍以上を連れてくるのだな! 儂様自認中忍!」
「なにわけのわからねえことを!」
前に飛び出したのは忍堂と轟だが、後続がなにも対応しないなんてことはなく。
「待ちやがれ! 忍者野郎! 半分野郎!」
爆豪が爆破で空中を飛び。
「その技は一度受けた! 二度目はないぞ!」
尾白が尻尾で機動力を発揮する。
「逃がしませんわ!」
八百万が創造で棒を伸ばすことで氷を抜け出す。
それだけではない、ヒーロー科もそうだが普通科といった生徒達も不器用ながら追走を始めた。