個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
『さあ! いきなりの障害物だ! 第一関門、ロボインフェルノォオ!』
先頭を走る忍堂達の前に、実技入試で登場した0ポイント仮想ヴィランが数体も立ちふさがる。
「障害物デっか!?」
「ムリムリムリ!?」
デカさは強さを体現する巨大ロボを前に、走者の足が止まる。
「なんてことはないでござるよ。儂様にとっては鈍足も鈍足にござる!」
チャクラ強化によって常人を超えた速度で、忍堂がロボットの足元を走り抜けていく。
速度の一点で第一関門を突破する忍堂の背を見ながら、轟はため息を吐いた。
「せっかくなら、もっとスゲエの用意してもらいてえもんだな。クソ親父が見てるんだからよ……!」
スタートの時よりも強烈な凍結が起こる。
地面を伝い、0ポイントヴィラン達を氷漬けにしてしまう。
『1年A組轟! 忍堂を追いかけるように仮想敵を氷漬けだァ!』
動きを止めた0ポイントヴィランの股下を轟が突破する。
そうすれば、他走者たちもそれを見るわけで。
「足元だ! 通れるぞ!」
「いけえええ!」
止まっている今のうちと轟の後を追う。しかし、
「やめておけ、不安定な体勢の時に凍らせたからな。倒れるぞ」
轟が忠告をした直後、その通りに0ポイントヴィランが氷を砕きながら倒れこむ。
前に進むはずが、今度は避けるために後ろに走りだす。
『第一関門を突破しつつ、後続を牽制。上手いな』
だが、それでもヒーロー科に成れずとも、雄英に合格する逸材たち。
A組の爆豪たちが個性で0ポイントヴィランを突破すれば、他の生徒達も0ポイントヴィランを突破していく。
『第一関門突破者が続出するが、お次はどうよ! 第二関門! 落ちればアウト! それが嫌なら這いずりな! ザ・フォール!!』
忍堂の前に広がる崖っぷち。
断崖絶壁には綱渡り用のロープが無数に取り付けられていた。
空を飛べるのなら関係ないが、忍堂に空を飛ぶ手段はなく、しかしためらいなくロープの上を速度変わらず走り抜けていく。
『おぉっと!? 暫定トップの忍堂! ザ・フォールのロープの上を全力疾走ダァ!
こいつはどういうこったイレイザー!?』
『個性によるものだろう。おそらくスタジアムゲートと轟の攻撃で見せた走りと同じ原理だろうな』
忍堂がゲートとロープで見せた技術、NARUTOならおなじみのチャクラによる吸着だ。
チャクラの個性を自覚してからの忍堂の生活は、ほとんどが訓練に充てられていた。
しかし、授業中などになればそうもいかず、そういった時間にはチャクラコントロールの訓練をひたすら行っていた。
そのため、チャクラコントロールを起点とする身体強化やチャクラの吸着なんてものは、忍堂にとって十八番と言えた。
『トップの忍堂! ただただ速く走るだけで第一第二関門も突破しちまいやがったぜェ!』
派手さはないと言えばそれまでだ。テレビや会場で見ている一般人からすれば、後続を走る轟や爆豪が目立って見えたことだろう。
しかし、プロヒーローの目には違って見えた。
「壁を走る、氷の上を滑らず、ロープもバランスを崩すことなく踏破。地形に強いのか」
「ヴィランとの戦闘、救助活動、探索。どれも安定した機動力は重要だ。その上身体能力も極めて高い」
「なにかしらの複数の効果を持つ個性ね。確かに派手じゃないけど、サイドキックとしては安定した人材ね」
ヒーローは確かに人気商売の一面が強い。
しかし、その根本は平和の守護であり、そこに派手さは求められていない。
爆破は空を飛べ、機動力としては申し分ないが、倒壊したビルなどではガス漏れなどもある。
異常時に活躍するのがヒーローであれば、立つ場所も当然異常な状態。粉が舞えば粉塵爆発の危険も伴う。
そういった面で見れば、地形を選ばない忍堂の踏破能力は魅力的だった。
『地形の悪路をものともせずトップを独走する忍堂! しかし! 次はそう上手くいくかなァ? 最終関門! 一面地雷原!』
まるで足に自信を持つ走者を狙い撃つ地雷原を前に、忍堂の足がようやく止まった。
『地雷の位置はよく見りゃ分かる仕様になってんぞォ! 目と脚を酷使しろ! ちなみに地雷は競技用で威力は大したことねえが、音と見た目は派手だから失禁必至だぜェ!! どうする1年A組忍堂! 後続が追いついてきちまうぜ!?』
「ふむ。まずは一手。影分身の術!」
ボフンと白煙が舞い、忍堂が2人になる。
『ここで忍堂、初めて分かりやすい個性のお披露目ダァア! まさかまさかの忍堂が2人に増えてるぜ! どうなってんだこれ、隠し子か!?』
『実体を持った分身体だ。一定のダメージで消えるが、それ以外は本体と同等の動きができる』
『タイマンなら無条件に多対一にできるっつうことか! 最強の喧嘩殺法だな!』
実際のところ、影分身が戦闘向けかと言われればそうではないし、もとの使い道も別方面だが、はたから見れば分からないこと。
地雷の特徴は踏み抜く工程を経て起爆すること。
なら、地面を歩かなければいいだけのこと。
「変化の術!」
『な、なんだそりゃあ!? 二人に増えたと思ったら、そのうちの一体が手裏剣に化けたぞ!? まじで忍者じゃねえか忍堂!』
手裏剣になった忍堂を影分身が掴み、思いっきり投げる。
ソフトボールで200mを飛ばしたのだ、地雷原の端から端まで容易に手裏剣が届く。
地雷原を抜けた手裏剣がボフンと煙を出して、忍堂の姿が現れる。
『忍堂、まさかの地雷原を一歩も踏むことなく突破したぜ! 進めない道は無いってか!? シビィぜえええ!』
「ち、遠い!」
「クソが待てや忍者野郎!」
轟と爆豪が地雷原に到着するのを見た忍堂は、すかさず地雷原の土に手を付く。
「土遁! 土分身の術!」
ついた手を起点に、地雷原の土が10の塊を作る。
土の塊は次第に人型になり、忍堂の姿を現していく。
体を構成するのは土であり、表面は土色。先ほどの影分身のように本体が誰か、一目で気づけるほどに違う忍堂の分身体が10体現れる。
「足止めよろでござる」
土分身に指示を出した忍堂はそのままゴールに向けて走っていく。
爆豪、轟が地雷原を走り追いかけようとするが、地雷原に合わせて忍堂の土分身が壁となる。
『速さだけじゃねえ! 今度は分身体で足止めまでしちまったぜ!?』
確かに足止めにはなるが、戦闘能力は影分身と比べて1割程度。
それでも影分身で鍛えた体術は、回避と妨害に専念すれば轟と爆豪の足止めには十分だった。
「くそっ! うざってえなア!」
「ちぃ!」
爆破や氷で破壊されれば土くれに戻っていく分身体だが、目的は達していた。
『第一第二そして最終関門すら歯牙にもかけず突破したのはコイツだ! 1年A組忍堂! 誰にも影を踏ませず今! ゴールインだぜエ!』
もともと足で勝っていた忍堂はそのまま、ゴールを駆け抜けていった。
派手な個性はなかったが、最後の影分身と変化の術によって会場の受けは良くなり、忍堂がゴールすれば割れんばかりの拍手喝さいが送られた。
「儂様に掛かれば当然にござる! さて、2位は轟と爆豪、どちらでござろうかな~」
忍堂が背後を確認、スタジアムゲートの入り口に入って来た人影に目を見開いた。
『忍堂に続いてゴールするのは、へ? な、なんと轟でも爆豪でもない! 忍堂がゴールしてる間に何があった!? 今! ゴールインを迎えたのは1年A組、緑谷だア!』
「はぁ、はぁ。忍堂君……」
「おー緑谷、まさか爆豪達を抜かしてくるとは、儂様ビックリでござるよ」
息も絶え絶えな緑谷だが、呼吸を落ち着けると忍堂を強く見る。
「僕、体育祭を頑張るって決めたんだ。だから、君にも勝つ、から……!」
「ま、まいった~」
「へあ!?」
真剣な思いで伝えたはずだったが、忍堂のまさかな反応に緑谷は思わず間抜けな声を挙げてしまった。
「儂様の負けでござる。良かったでござるな緑谷、お前の勝ちでござる」
「ちょ、ちょっと待ってよ! ふざけないでよ忍堂君!」
「ふざけてはおらぬよ。儂様超真剣でござる」
あくまでひょうひょうとした忍堂の態度に、走った直後で気分が高ぶっていた緑谷の頭にパチリと電気が走る。
「皆、真剣に勝負してるんだよ! なんでそんな言い方をするんだよ!」
「言ったでござろう。儂様にとって競う理由がないでござるよ。緑谷が儂様に勝ちたいと言った、だから儂様は負けを認めた。緑谷の求める結果にござろう、何が不満でござるか」
「そんなんで納得できるわけないじゃないか! 忍堂君は同じ状況で、お前の勝ちだなんていわれて嬉しいのかよ!」
「嬉しいでござる。それが儂様の求める結果であったのなら、感涙して喜ぶでござるよ」
決定的に相いれないロジック。
緑谷にとって、結果とは過程によって成就する頂。
テストでいい点を取ろうと思ったのなら、勉強して、試験を正当に受けていい点を取る。
しかし、忍堂は違う。
いい点を取りたいなら、事前に問題内容を調査する。難しければカンニングの手段を用意する。
求める結果がどうしても欲しいというのなら、忍堂はそこまでするのだ。
その考えは、およそヒーローではなくヴィランの物だ。
「儂様とて驚愕にござる。取捨選択は世の常。求める結果のために他を捨てるは、神ならざる人間であれば致し方のないこと。何も捨てず全てを拾い結果を求めるのは、傲慢だとは思わぬでござるか?」
「それは……」
緑谷は知っている。
平和の象徴と呼ばれ、日本が誇るトップヒーローですら、拾えなかった物があるということを。
忍堂の考えは酷く現実的で、正論だった。
だが、
「それでも、無理だからって、はなから諦めるなんて僕はしたくない」
難しいから。なんて理由で諦めがつくほど、貰った奇跡を安いものにしたくなかった。
「なんと傲慢。驕りが過ぎるでござるな」
忍堂が歩み寄り、緑谷の肩を叩く。
「しかし、求めるのならやるしかあるまい。文字通り、血反吐を吐いてでも、罵られようと、恐ろしくともやるしかないでござるよ。言葉は呪いにござる。言い訳を並べれば、自らを蝕む毒牙になるでござる」
「……っ」
思い出す。
オールマイトと体育祭前に話していたときのことを。
「覚悟は一朝一夕、土壇場で身に付くモノではないでござるよ。そんなものは覚悟にござらん、やけっぱちと言うでござる」
思い出す。
USJ襲撃時、忍堂が怯えも見せずヴィランに立ち向かっていった姿を。
「忍堂君は、どこまで、いつから……」
自然と漏れていた。
自分が求めているソレを持つ忍堂に、答えを求めていた。
「自らの死まで、個性を自覚した日から。儂様は覚悟を日々積み重ねているでござる」
ニカっと忍堂が笑った。
「儂様の場合はちょいとズルがあったでござるよ。緑谷も覚悟を日々重ねているはず、入学当初の緑谷ならこんな問答は起きなかったでござる。安心するといいでござる、緑谷は日々成長しているでござる」
学校であまり話す機会を持たなかった相手。
言動だけじゃなく、普段から何を考えているのか分からない相手。
だが、緑谷から見た忍堂の姿は、憧れた彼らに似ている気がした。
「お、人が集まって来たでござるよ。やはりヒーロー科が上位を独占しているでござるな」
随分と話し込んでいたらしい。
忍堂の言葉で、緑谷はようやく自分がどこにいるのか、どんな状況なのかを思い出す。
「クソデクテメェ……!」
「か、かっちゃん……」
「緑谷と爆豪は中々にハートフルな関係にござるな、轟」
「ハートフルなのか」
「ツッコメよ轟、真正面から受け止めてんじゃねえよ」
「悔しい! もっと上に行けると思ったんやけどなぁ!」
「いや〜、移動系の個性じゃ流石に相性悪いわ」
「クッ! 俺としたことが、速度を競う競技でこの体たらくとは!」
予選通過は42名、A組もB組も全員予選を通過していたため、ヒーロー科の面目躍如と言ったところに収まった。
集まるA組の仲間が、思い思いに結果を受け止める中、ミッドナイトが結果を発表する。
『さーて、第2種目よ。私はもう知ってるけど何かしら? 何かしら〜? 言ってるそばから、コレよ!』
スタジアムのモニターに表示されたのは「騎馬戦」の文字。
個人戦の後にチーム戦という、意地の悪い展開に予選通過者がざわめく。
そこで説明された内容はシンプルなもので、制限時間は15分。
互いにポイントを持つ鉢巻を奪い合い、合計点を競う。
失格対象は悪質な行為による騎馬崩し。
チーム決めの交渉時間は15分。
『鉢巻のポイントは第一種目の順位によって決められるわ!』
「なるほど。つまり上位選手には多くのポイントを与え、競争力を高めるということにござるな」
『そして! 一位には1000万ポイントが当てられてるわ! 全員の熱い視線を独り占め! 気張って鉢巻を守ることね!』
「ござるござ、る?」
忍堂が首を傾げる。
まるで悪質な宗教勧誘の意味わからない話を聞いているときのような、「なに言ってんだこいつ?」という表情を浮かべた。
『これより15分! チーム決めの交渉スタートよ!!』