転生しました、主人公でした。   作:道化の作家

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第二話 荷物持ちが都市最強の前衛とか、ある意味団員飽和し過ぎてww

 

 【アストレア・ファミリア】

 

 所属団員数は僅か十五人、うち二名が半脱退状態でありながらも派閥の等級は“S”。第一級冒険者のLv7の団員が一名、Lv6の団員が三名、更にはLv5の団員が三名、第二級冒険者のLv4の団員が五名、Lv3が一名という超少数精鋭派閥。

 

 到達階層は58階層、主神アストレアの意向で都市外の『剣製都市ゾーリンゲン』にも本拠を構える、オラリオで唯一都市内外に本拠を持つファミリアである。

 

 何故、そのようなことが許されるのか?

 

 それはひとえに、オラリオへの貢献度の違い。【アストレア・ファミリア】は設立当初から今日(こんにち)に至るまでの間、常にオラリオの平穏を守ってきた正義の派閥であるからにほかならない。

 その貢献度により、多少の主神の我儘ならば許してくれる。無論、それ以外にもギルドひいてはギルドの創設神たる神ウラノスに対して貸しがあるから。

 

 ここで一旦、何故【アストレア・ファミリア】の所属団員数が異様に少ないのかについて解説しよう。

 

 まず最初にあるのは敷居の高さだろう。所属する全員が第二級冒険者以上である為、新たな新人冒険者が主戦力として働けるようになるまでには最低でも四年はかかってしまう。

 

 だが、それでも入ろうとする気概のある冒険者はそこそこ居る。だが、やはりアストレア・ファミリアは『女の園』と呼ばれるように、その構成団員の殆どが女性である。半脱退状態のザルドを除けば弟分のベルだけが唯一の男性団員である。

 

 当然、そんな『女の園』…しかも自分より強い現代の傑物達しかいないような派閥に入ろうとする男性冒険者は殆どいない。尚且つ、女性だったとしても、常に本拠(ホーム)に鎮座するアルフィアのお眼鏡に叶う冒険者などどれほどいるか。

 

 【アストレア・ファミリア】の構成団員達は皆、あの才禍の怪物と謳われたアルフィアから直々に「いずれ全員が第一級冒険者になるだろうな」と太鼓判を押されている。神々からも、「アストレアずり〜、神引きし過ぎだろ」などと言われるくらいには眷族に恵まれた派閥だ。

 

 当然、それらの起因は大抵がアストレアの善性に心を打たれたものやアリーゼが説き伏せた者達が大半で、非常に温厚…?な派閥だろう。

 

 だが、新人冒険者がいないとなると、結構面倒な事もある。

 

 まず、遠征に至っては単純に人手不足。深層49階層以降に進むのであれば、当然補給が必要だ。単身深層49階層に乗り込めるのは、それこそアルフィアとザルド、ベルともう一人の都市最強のみである。ので、そんな人手不足を解消するために、今ベル達は交渉し終え、明日に迫った遠征の打ち合わせをしている。

 

 

「こちらからは私とヘグニの二名が行く、これでいいか?」

 

「えぇ、ありがとう!!【白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)】」

 

「ありがとう御座います。師匠(マスター)、ヘグニさん」

 

「うん、これも一応シルさんのためだしね。俺も出来る限り頑張るよ」

 

 

 都市西南の第六区画。

 

 複雑な隘路の一角に建つ、『ウィーシェ』という小洒落た喫茶店。

 

 アリーゼやベルの言葉に、目の前の金髪のエルフは一切表情を変えることなく言葉を続ける。

 

 【フレイヤ・ファミリア】所属、Lv.6の第一級冒険者【白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)】:ヘディン・セルランド。

 長い金髪と整った容姿だけを見れば、女性と間違えられても文句は言えまい。

 

 五年前の戦争遊戯(ウォーゲーム)、【フレイヤ・ファミリア】VS【アストレア・ファミリア】の戦いにて【アストレア・ファミリア】は勝利した。そして、対価として【フレイヤ・ファミリア】は今後【アストレア・ファミリア】の遠征に際して、数名眷族を貸し出すこと。更に美神フレイヤに関してはオラリオ追放、町娘としてなら滞在が許可された。

 

 正直ベル(転生側)はあんまりシルが得意ではないので、彼女が今勤めている《豊穣の女主人》にはあまり近づかない。

 

 そして、もう一人の黒妖精(ダークエルフ)、ヘディンと同じくLv.6の第一級冒険者、【黒妖の魔剣(ダインスレイヴ)】:ヘグニ・ラグナール。

 漆黒の外套に身を包む、褐色の肌に、薄紫にも見える銀の髪、そして若芽色の瞳。

 

 彼とヘディン、その二人が今回の【アストレア・ファミリア】の遠征に帯同するメンバー。

 

 正直、もう数人程度お借りしたいところだが、【フレイヤ・ファミリア】と輝夜の相性があまりに悪い為、輝夜の嫌味を黙って受け流せるヘディンと、怒らずにオドオドするヘグニだけが毎度毎度遠征に帯同している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「準備完了ねッ!!」

 

 アリーゼの甲高い声が、中央広場(セントラルパーク)に響いた。

 

 広大な広場の一角、『バベル』の門前に佇む、十六人の傑物達。

 見物に来た同業者や民衆がざわつくほどの、錚々たる顔ぶれが集結していた。

 

 アリーゼ、リュー、輝夜、ライラ、ベル、春姫等、正義の派閥に所属する団員達は勿論、【フレイヤ・ファミリア】のヘディンにヘグニ、そして荷物持ちにはなんとザルド。そして、都市最大の鍛冶派閥【ヘファイストス・ファミリア】の第一級冒険者ヴェルフ・クロッゾ。

 

 オラリオが誇る当代の英雄、そして英雄候補達が一挙に集うその場で、ヘグニはガクブルと震え上がっていた。

 

「いつも思うけど……、遠征最初のこれはほんとにいるの?」

 

「当たり前じゃない!! 『私たちが頑張ってくるぞーっ!!』をオラリオに示してあげないと!」

 

 震え上がっているせいで素っ頓狂な声を出すヘグニの言葉に、アリーゼは対照的に自信満々に答える。

 正直、ヘグニに関してはビビりすぎて逆に目立っているせいで余計に視線を集めているので、半分は自業自得と言えるだろう。

 

 様々な嘆きと唾棄の音、神々は興奮冷めやらぬ気分でそれを見届け、その凄まじさが伝播していく。

 彼等彼女等もまた、都市に君臨する四つの派閥(ファミリア)の一つであり、正真正銘オラリオひいては下界を照らす希望なのである。

 

「【アストレア・ファミリア】のお姉ちゃん達ーっ、頑張ってねーー!!」

 

 返す言葉を発する者はいない。

 かわりに団長(アリーゼ)だけが拳を頭上に上げながらにこやかな笑みを返す。

 間もなく、荷物持ちのザルドが正義の剣と翼の団旗(エンブレム)を掲げる。

 

「遠征、開始ー!!」

 

 アリーゼの言葉に、ベル達も地下迷宮(ダンジョン)へと歩みを進める。

 

 毎度のことながら、流石は都市の人気者だと彼女達の保護者(アストレア)は内心思いながら、大切な眷族や子供達に向けて告げる。

 

「いってらっしゃい」

 

 既に迷宮へと脚を進めたアリーゼ達には聞こえずとも、その想いは届いている。

 今回こそは未到達階層を増やすんだと意気込むアリーゼを必死にリューとベルが宥めながら、今回も陽気に彼女達の遠征は開始した。

 

 

  ✕  ✕  ✕

 

 

 遠征開始から、第一級冒険者達の猛攻は止まらない。ベルやリュー、アリーゼやヘグニなどの足の速い前衛が先陣を切り、その後方から指揮官の役割を担うライラが絶えず指示を出し続け、輝夜やヘディン、女戦士(アマゾネス)のイスカや狼人(ウェアウルフ)のネーゼ達も中衛として機能し、遠征隊はこれでもかと順調に進軍していった。

 

 ライラの作戦は単純だった。そもそも、あのアルフィアにシバかれ続けた私達が、ダンジョンの深層まで行くのにへばる筈ねぇよな?もしそうならそいつはアルフィアにチクッといてやる、と言う単純な命令。だがそれだけで【暴君にシバかれ続けた眷族達(アストレア・ファミリア)】は意味を理解し、そして即座に疾駆した。

 

「お前らの遠征は毎度毎度、ほんとに無茶苦茶だな」

 

「そうかな? まあこうでもしないと物資が尽きちゃうしね」

 

 無作法に切り揃えられた赫灼の短髪と精悍な顔立ちをした青目のヒューマンの青年。

 青色の手拭い(バンダナ)を首に巻き、黒色の着流しを纏う二振りの大剣を背負っていた鍛冶師。

 

 Lv.5の第一級冒険者、【ヘファイストス・ファミリア】が誇るもう一人の最高位鍛冶師(マスタースミス)のヴェルフ・クロッゾ。五年前には一年だけという貸し出しを条件に【アストレア・ファミリア】にも所属しており、とある戦争遊戯(ウォーゲーム)では当時の都市最速を不意打ちとは言え単騎で討ち取ったという凄まじい功績を持つ鍛冶師(スミス)(笑)。

  

 ベルとは専属鍛冶師の契約を結び、その縁はベルが冒険者になる以前から続いている。

 

「煌月(かずき)ぃぃいいい!!」

 

 その一撃は下層のモンスターでさえ一撃で焼き祓い、抵抗も拮抗も許さないほどの圧倒的火力を誇っていた。少数精鋭の派閥唯一の利点である機動力の高さを十全に活かし、彼女達は最高速度を維持したまま『中層』、『下層』、『深層』を踏破していった。

 

 モンスターが出てくる度に、ベルの速攻魔法やヘディンの超高精密射撃(カウルス・ヒルド)が火を吹き、ヘグニの前衛殺し(ヴィクティム・アビス)やリューの広域攻撃魔法(ルミノス・ウィンド)が大型モンスターの魔石を確実に捉えていく。

 

「そう言えば、今回はザルドの爺さんが居るんだな」

 

「あぁ、ベルの居ないアルフィアが本拠にいる。それだけでお前らに着いていく理由には余りある」

 

 ヴェルフの質問に、臙脂色の短髪の大男─ザルドは若干肩をすくめて答える。

 背中には身の丈程の漆黒の大剣と背嚢が背負われており、一応今回の遠征隊では荷物持ち(サポーター)の役割を担っているLv8の冒険者。

 

 かつての最強と同等の階位に至った彼でも、当然アルフィアは怖い。正直今のオラリオの都市最強や最速などの称号は全てザルドやアルフィアを抜きにしたモノだ。前時代の覇者達ではなく、当代の覇者達を称える称号として、今のオラリオではベルや【フレイヤ・ファミリア】の団長【猛者(おうじゃ)】オッタルのみがその称号を名乗っている。

 

 もし、ここにザルド…はまだ良いとして、アルフィアが名乗りを上げれば全ての称号は彼女が掻っ攫うだろう。

 

 都市最強も、最上、最優も、都市最強にして最高位の魔導士も、精神力(マインド)の総量においても、あらゆる面でアルフィアが頂点を名乗ることになるだろう。

 

 故にこそ、当代の抑止力(えいゆう)を欲するギルドの豚ことロイマンは、様々な神からの反感を無視してアルフィアとザルドの情報を一切オラリオ外に出さず、かわりにベルやオッタル、そしてもう一つの都市最大派閥たる【ロキ・ファミリア】を称える情報ばかりを都市外に放ってきた。

 

 当然、七年前の暗黒期に際しても、アルフィアやザルドなどの情報は一切なく、【ロキ・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】、【ガネーシャ・ファミリア】、【アストレア・ファミリア】の四派閥の貢献によって収束したと報道されている。

 

 そんな、世界さえも恐れさせる程の傑物がアルフィアなのだ。しかも、ベルが居ないアルフィアはすこぶる機嫌が悪い。

 

「だったら遠征に付いて行けば良いだろ」

 

 と、ザルドが言った日には「それでは彼奴等の成長にはならない」などと言い、「だったら我慢しろ」と言おうとすれば即座に福音拳骨(ゴスペルパンチ)だ、正直ザルドはアルフィア(ベル無し)と共に行動するのが怖すぎるので、流石に善神も善神のアストレアには手を出さないだろうと踏んで、ザルドは遠征隊に逃げてきたのである。

 

「そろそろね。皆、気を引き締めて!!」

 

 アリーゼが放つ声に一層覇気を帯び、遠征隊のメンバーの顔には僅かながらの緊張が奔る。

 

 40階層に突入してから既に三時間、遠征隊はさらに加速していく。

 ライラの命令によりアリーゼと輝夜が前衛へと上がり、ベルとリューが中衛遊撃手へと交代した今の陣形は完璧といっていい。

 

 アリーゼと輝夜、ヘグニの剣撃を以て深層のモンスター達は粉砕、ベルとリューは都市最速とそれに匹敵する速度で敵を迎撃し続け、ヘディンは一切指揮することなく淡々と敵を雷兵の鏃を以て射抜いていく。

 

 49階層、大荒野(モイトラ)と称されるそこに着いた途端、遠征隊の進軍が初めて止まる。

 

「…音が聞こえる」

 

 少年が呟く。

 

「足音…だな」

 

 青年も続く。

 

「あの一族の恥さらしめ、やらかしたな」

 

 白妖精(ホワイトエルフ)は同胞(一応)の失敗に舌打ちを躊躇わず、その整った柳眉を逆立てる。

 

 それもその筈、本来ならあり得ない。49階層にもう一つの遠征隊が居るのだ。

 

 遠征とは下へ進めば進むほど、資源も時間も浪費するものだ。それでも利益を出そうと躍起になる冒険者達の事を考えて、ギルドは同じくらいの等級の派閥の遠征は重(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)ようにしている。

 

 それでも、重なった。本来ならあの豚はそんな事をやらかさないのだが、都市の問題児みたいな奴等に前足(手)やら胃やらを焼かれ、苦痛と不眠に悶えたロイマンはやらかしてしまった。

 

 遠征とは本来極秘情報。それらが露見するのはあってはならないことなので、被っていることがわかるのはその遠征隊と会って見ないことには分からない。

 

 こと、【アストレア・ファミリア】は遠征の準備でバベルなどにも行かず、警邏に際しては都市の端っこやら大迷宮『ダイダロス』を見張るため当然ダンジョンやバベル付近での情報は手に入りにくい。遠征準備も重なれば、余計である。

 

 

 彼等彼女等は僅かな動揺と苛立ちを感じながらも、大荒野(モイトラ)へと歩みを進めた。

 

 

  ✕  ✕  ✕

 

 

  度重なる咆哮が轟いている。

 

 地響きを伴う足音がそれに続き、荒涼とした地面を踏み荒らした。

 

 山羊のようにねじれ曲がった二本の大角。首から上には膨れ上がった馬面とでも言うべき醜悪な顔面。盛んに吹き出る鼻息と呼応するように、真っ赤な眼球がぎょろぎょろと蠢き獲物の姿を睥睨する。

 

 怪物と称するに相応しい巨軀を進撃させ、夥しい数の黒い塊が、鈍器を持つ太い腕を頭上高く振りかぶった。

 

 ──何度も見た光景、単身でここに来た事も何度もある。

 

「盾ェ、構えぇッ──!!」

 

 号令とともに打ち上がる、数多の衝突音。

 怪物達の進撃を掲げられた何十枚もの大盾が受け止める。

 その突撃の威力を物語るように、盾を構えた者達の踵が地に埋まった。

 

 ──ただ一つ、違うとすればそこには勇者が率いる神の眷族達がいることだった。

 

「(ようやく…か)」

 

 アリーゼ達が困惑するなか、ベルだけはその唇を僅かに綻ばせた。

 誰にも気取られず、今の目の前で行われる激闘を視界に捉え、そして拳を握る力が強まっていく。

 

「前衛、密集陣形を崩すな! 後衛組は攻撃を続行!」

 

 凶悪獰猛な怪物──モンスターを迎え撃つのは、複数の種族からなるヒューマンと亜人の一団だった。

 二枚の巨盾を構える筋骨隆々のドワーフ、矢と魔法を間断なく打ち込むエルフと獣人。褐色の肌のアマゾネスの姉妹は戦場を駆けめぐり、味方の射撃をかいくぐりながらモンスターへと斬りかかる。

 前衛後衛に二分される部隊の中、陣の中心でばさばさと風にあおられるのは、一本の旗だ。

 

 刻まれているのは滑稽な笑みを浮かべる道化師のエンブレム。

 

 一柱の『神』と契りを結んだ、『眷族』の証。

 

「あら【勇者(ブレイバー)】っ!手を貸しましょうか?」

 

「【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】?! 何故ここに?」

 

 この戦場においてライラと同じく誰よりも小柄な少年、小人族(パルゥム)の首領は声をかけてきた少女を前に動揺を隠さない。

 

「あぁ、なるほどね。ロイマンがしくじったか」

 

「えぇ、恐らくね。で、どうするの?」

 

「なら、手を貸して貰うとするかな。君もいいのかい?ヘディン」

 

 そう小人族(パルゥム)の少年は片目を瞑りながらヘディンへと視線を向ける。

 

 向けられた視線に対して嫌悪感を隠さず、ヘディンは珊瑚朱色の瞳を固く閉じながら身につけている眼鏡の位置を直し、淡々と告げる。

 

「貴様の為などごめん被るが、やんごとなきお方(リヴェリア)様の為であれば、仕方がない」

 

「…なら、是非とも協力してもらおうか」

 

 という言葉と同時に、ヘディンは詠唱を唱え、フィンの指示に従う気などないという態度を示すとともに、雷兵の鏃を装填していく。

 

 戦いの趨勢を見極める統率者の声は高く鋭く、アリーゼ達という協力な助っ人(カード)を惜しみなく使用する。

 目まぐるしく移ろい傾きかける戦況が、その一声で変わる。

 

「ベルと【疾風】は前衛へ。中央の支援に向かってくれ。ティオネ、ティオナっ!! 君達は【大和竜胆】と共に左翼の支援へ!!」

 

 その一声と共にベルとリューは陣形の中央へと疾駆し、二つ名を呼ばれた輝夜もまた姉妹の女戦士(アマゾネス)がいる左翼へと支援を急ぐ。

 

「ちょっ?! なんで【アストレア・ファミリア】がいるのぉぉ?!」

 

「ギルドの連中ね! 彼奴等しくじったのよ」

 

「至らない身ではありますが、団長殿の意向により、参戦させていただきます」

 

「「そりゃありがたいっ!!」」

 

 姉妹のアマゾネスが疾駆し、三体のモンスターを蹴り殺す。輝夜はその二人が撃ち漏らした二体を、居合の太刀を以て両断。魔石ごと斬り伏せてしまう。

 

 だが、たかが十数名の助っ人だけで、この悪夢が終わるわけではない。

 

 どこからともなく現れるモンスターの大群。屠れども屠れども途切れることなく押し寄せ、その数をもって吞み込もうと襲いかかってくる。

 

 一匹一匹が大の大人(ヒューマン)を易々と越すその巨体は、化石の骨にも似た棍棒型の鈍器を振り回し、最前線で盾を構える者達の顔を苦悶に歪めた。

 肩を並べ密集し合った彼等の防衛線はじりじりと後退していき、半円を描く陣形がその規模を小さくしていく。

 

 亜人(デミ・ヒューマン)達の一団は押されつつあった。

 

 そんな戦場に、一鐘の大鐘楼が響き渡る。

 それをかき鳴らすのはたった一人の矮小なヒューマンの少年。だが、その大鐘楼は何も知らない者たちでも、よく知る鐘の音だった。

 

 英雄の招来、それを知らせるかの如く大鐘楼の鐘は雄々しく鳴り響き、収束する光は明滅しながらその力を増幅していく。

 

 その鐘の音を不快だと吐き捨て、先刻の唾棄を孕んだ文句などではなく、ただ少しムカつくような、そんな意味を含んだ言葉と共にヘディンは魔法を放つ。

 

「【永争せよ、不滅の雷兵───カウルス・ヒルド】」

 

 都市最大の射程範囲と射出量を誇るヘディンの第一魔法が解き放たれ、傾きかけている戦場を立て直していく。

 

 放たれた雷兵の鏃は正確にモンスター達の魔石を穿ち、一射も無駄にすることなく、ただただ効率を極めたかの如く淡々とモンスター達を狩り続ける。

 

 そんなヘディンに護られるかの如く中心から、その美しい声は絶えず紡がれていた。

 

「【──間もなく、焰は放たれる】」

 

 翡翠色の長髪に白を基調とした魔術装束。浅く水平に構えられるのは白銀の杖。

 

 細く尖った耳を生やした、絶世の美貌を持つエルフ。

 

「【忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む】」

 

 この戦場の中で誰よりも美しく在る彼女は、その玲瓏な声で呪文を紡ぐ。

 

 力強く、流麗な韻律を持つ『詠唱』。

 

 足もとに展開された魔法円(マジックサークル)は翡翠の色に輝き、無数の光粒を舞い上がらせる。

 その柳眉を逆立て、彼女は呪文を紡ぐ唇はそのまま、前方の一点を強く見据えていた。

 

「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火】」

 

 流れるその詠唱を耳にしながら、誰もが力を振り絞る。

 まだかまだかとその瞬間を待ちわびるように、己の歯を食い縛った。

 

『──オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウッッ!!』

 

 一方で、モンスター──『フォモール』が吠える。

 

 群れの中でも一際巨体を誇る一体が、仲間さえ蹴散らしながら驀進し、自らが持つ得物を大上段に構えた。

 

 迫りくる巨影に、正対することになった前衛の一人は、盾の隙間からその両目を見開く。

 

 尋常ならざる膂力から放たれた一撃は、構えられた盾へと食い込み、そして周囲を巻き込んで、前線の一角を吹き飛ばした。

 

 ヘディンは無論、ヘグニも動けない。やんごとなきお方の護衛もとい中央の守備に徹している二人を動かすことは出来ない。

 

「──ベート、穴を埋めろ!」

 

「ちッ、何やってやがる!?」

 

 こじ開けられた防衛線。遊撃を務めていた狼人が急行するが、間に合わない。数匹のモンスターの侵入を許す。

 

 それまで前衛に守られていた魔導士達が青ざめるのと、フォモールの攻撃が炸裂するのは、同時だった。

 

「どうした、ベート。そんなもんか?」

 

 戦意を煽るような、そんな言葉が投げかけられ、一閃の大火が戦場を駆け巡った。

 

「吠えろ、『ウルス』!!」

 

 背負う不壊属性(デュランダル)の付与された魔剣を抜き放ち、付加された大火を自身の精神力(マインド)と血統(スキル)により増幅させ、解き放つ。

 

「バ鍛冶師っ?!」

 

「うるせぇっ! 助けられたんだからそこは『ありがと』だろ!!」

 

「何二人で漫才してんの、団体さんが来るよ!!」

 

 そんな狼人(ウェアウルフ)の青年とヴェルフのいつも通りの漫才披露を叱咤し、ベルは自身の持つ漆黒の不壊剣に付与した速攻魔法と蓄力(チャージ)の二重蓄力(デュアルチャージ)を解放し、前方にいるモンスター達を視界に収める。

 

「【聖霆の英斬(レーア・ユピテール)──」

 

 それは本来、接近して放つ大技。接近するという代償を支払うかわりに直撃すれば階位差二つをも覆す程の威力を誇る、ベルの必殺の一撃。

 

 純白の魔法円(マジックサークル)がベルの足元に展開され、【雷律曲光(スキル)】によって更に強化された魔法が、猛り狂う。

 

 だが、それでは『フォモール』共を蹴散らすには至らない。

 故に、ベルは雷斬を装填された不壊剣を振り上げ、言い放った。

 

「──斬光(ざんこう)】」

 

 その一撃は丘を断った。城をも斬り伏せた。古代の神獣(アンタレス)を滅(めっ)し、陸の王者(ベヒーモス)さえも黙らせた、大いなる一撃。

 

 故に、その雷斬は距離を殺す絶技へと変化し、前方にある全てを消し去った。

 

「……すげぇ」

 

 ぽつり、と。

 その呟きが、とある者の唇からこぼれ落ちた。

 自分達の激しい剣撃でさえ押し返せなかった集団を、たった一人のヒューマンが消し去った。

 収束し解き放つ斬撃。

 放たれた斬撃は超長文詠唱の魔法にも匹敵する程の威力を有しており、現在都市で扱えるのはたったの四人。その選ばれた『英雄』の一人、それがベル・クラネルだった。

 

「アイズさんっ! 『前に出過ぎるな』ってフィンさんが言ってましたよ!!」

 

 ベルが声をかけた先。

 長い金の髪を流す女剣士が、ヒュンッと、無言で銀の剣を振り鳴らす。

 

 再度迫りくるモンスターの群れを前に、その少女は風の音と共に銀の剣閃が瞬く。

 後方に侵入していた残りのモンスターへと肉薄し、一撃必殺、魔導士や弓使い(アーチャー)の眼前で一気にフォモール達を全滅させた。

 

「【汝は業火の化身なり】」

 

「【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」

 

 そして後方。莫大な魔力の高まり。

 ついに、紡がれていた長大な詠唱が完成へと至ろうとする。

 

「ちょ…ちょちょっ!! ほんとにアイズさん、戻ってください!」

 

 本当に先程の一撃を放った張本人なのだろうかと疑わしくなる中、ベルは再度叫んだ。

 

 己の名を呼ぶ声に、少女──アイズは後ろを一瞥し、跳んだ。

 

 アイズの撤退を手伝うかのように、金色の閃光となってリューがモンスター達を蹴散らす。

 

 怒りの声を上げるモンスター達に仰がれながら、空中で大きな弧を描き、蜻蛉を切って自陣中央へと着地、帰還する。

 

「【焼きつくせ、スルトの剣──我が名はアールヴ】!」

 

 次の瞬間、弾ける音響とともに魔法円(マジックサークル)が拡大し、ベルやリュー達、全てのフォモール達の足もとにまで広がった。

 

 全戦域が効果範囲内。

 白銀の杖を振り上げ、エルフの魔導士、リヴェリアは己の『魔法』を発動させた。

 

 

「【レア・ラーヴァテイン】ッ!!」

 

 

 大炎。

 

 地面──魔法円(マジックサークル)から突き出す無数の炎柱。

 

 耳を弄するほどの轟音とともに、炎の射出がベル達を避けて放射状に連続する。

 大空間の天井にまで届こうかという炎の極柱は太く、フォモール達を串刺しにするどころか、その巨体を丸吞みにした。

 

 劫火の奥に次々とモンスターの姿が消え、絶叫が折り重なる。

 

 広範囲殲滅魔法。

 五十をも超えるモンスターの大群はこの僅か数瞬で一掃された。

 

 熱気と火の粉に満たされ、世界が灼熱に包まれる。

 武器を静かに下ろす中。

 ベル達、『冒険者』の顔も緋の色に染め上げられていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁ、ようやくきたって感じだね。多分ここが【ロキ・ファミリア】…つまり剣姫の神聖譚(ソード・オラトリア)の始まりかな?

 

 んじゃま、取り敢えず巨蟲達は全部僕に向かってきてもろて。このためにウダイオスを単騎で狩って大剣ゲットして不壊剣にしてもらったんだからね。ここで使わなきゃ損だよ。

 

 それに、ようやく原作が始まるってことは、ここまで僕が入念に下準備して来た成果が、発揮されるということ。

 

 ここまでなるべく死人なしを貫き、戦力の減少を極限まで抑えてきたんだしね、ばっちこいって感じだわ、マジで。

 

 あぁ、穢れた精霊(デミ・スピリット)が一気に四体くらい来ないかなぁ、そうすれば【階位昇華(ランクアップ)】出来るのに。

 

 アイズさんがあそこまでじゃじゃ馬だったとは思わなかったけど、何はともあれ無傷なんだし、オールオッケイだよね。

 

 こっちは黒竜討伐RTAと並行してダンジョン攻略RTAと英雄RTAも並行してんだよ、モンスター達とはもう面構えが違うからさ、取り敢えず僕の【経験値(エクセリア)】にでもなってよ。

 





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