転生しました、主人公でした。   作:道化の作家

4 / 4

 日間ランキング二位、皆ありがとう。



第四話 え?ここに僕居るのにお前ら出てくんの?!

 

 

 あれから極彩色の芋虫型モンスターと交戦した【アストレア・ファミリア】は撤退を余儀なくされ、ベルとヘグニ(滅茶苦茶ビビってる)が殿となって50階層へと撤退していった。

 

 極彩色の芋虫型モンスターは同類であるブラックライノスなどにも襲い掛かりながらベル達を追っていった。

 

 その道中、【ディアンケヒト・ファミリア】の冒険者依頼(クエスト)に駆り出されていた【ロキ・ファミリア】の主力部隊であるフィン、ガレス、ベート、ラウル、アイズ、ティオネ、ティオナ、レフィーヤと出会い、そのままお互いに協力しながら撤退していった。

 

 極彩色の芋虫型モンスターが噴射する溶解液は、不壊属性(デュランダル)の効果を持つ特殊武装(スペリオルズ)を装備するベルとアイズ、そして『前衛殺し』とも名高い呪剣により触れずしてモンスターを両断出来るヘグニを中心に50階層を目指した。

 

 その道中、最悪なことにダンジョンの全方位に亀裂が入った。

 今更見間違える筈がない。モンスターが迷宮より産まれ落ちる、その前触れ。

 しかも大規模。ルーム全体からモンスターが出現することは明らかだった。

 

『怪物の宴(モンスターパーティー)』。

 

 突発的なモンスターの大量発生。通路口方面を除くコの字型の包囲網。冒険者を絶望の淵に突き落とす、悪辣な迷宮の陥穽(ダンジョンギミック)。

 

 それらをアイズが魔法(エアリエル)を発動させたり、ベルの速攻魔法を以て迎撃したり、ヘグニが怖すぎて人格改変魔法(ダインスレイヴ)を発動させて『闇の戦王(乙)』から本物の『闇の戦王』へとなったり、兎に角散々だった。

 

 そこからは50階層にて【ロキ・ファミリア】の本陣を防衛しているリヴェリアの身を案じたヘディンがベルとヘグニのケツを蹴ったりと、まあまあに大変な事もありながら。

 

 途中からヴェルフの魔剣も溶かされないと気付き、そこからはヴェルフの魔剣の威力を遺憾無く発揮しながら50階層の安全地帯(セーフティポイント)へと辿り着いた。

 

 

 50階層と51階層を繫ぐのは傾斜面の岩壁。

 

 50階層西端の壁に大穴が空いており、ほぼ崖という名の険しい坂が続いている。51階層に向かう際は一足飛びに駆け下りていけばいいが、帰還する際には少々手間をかけて上っていかなくてはならない。

 

 岩壁の至るところに付着する黄緑色の粘液に誰もが危機感を募らせながら、ベルは当然の如く手を使わず一度の跳躍で坂を駆け上がる。

 

「あれが…」

 

 大穴から飛び出ると、そこから聞こえてくるのは人のかけ声と、けたたましい炸裂音だった。

 

 灰色の森を駆け抜けながら、誰もが【ロキ・ファミリア】の野営地へと走っていった。

 森を抜けた先に広がるのは開けた平地と、野営地を構えた一枚岩、そして岩に取り付く巨大な芋虫の群れだった。

 

 モンスター達はその多脚を一枚岩に張り付けよじ登り、頂上にて防衛を行う冒険者達に腐食液を浴びせていた。

 

 例のモンスターは知性が低いのか、一つの集団と化して頂上を目指していた。故に、局所的な進行だった為、防衛を担っていた冒険者達も、背水の陣ではあるが防衛を続けられていた。

 

 即座にベルとアイズが飛び出し、その後をフィン達が追う。破竹の勢いでモンスター達を速攻魔法(レーア・ユピテール)で蹴散らしていくベルと、青銀のサーベル状の細剣(レイピア)に自身の魔法を纏わせてモンスター達の腐食液すらも吹き飛ばしながら戦うアイズ。

 

 そして、50階層に蔓延っていたモンスター達は殲滅された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ〜、よし、あとは僕に任せてくれ。

 

 あの馬鹿でかいモンスターは僕一人で狩るんでね、これだけは譲れません。

 

 僕が転生した先がベル・クラネルだと気がついた日から、一体何年経ったのやら。もう11年近くは経っただろう、そして、今日まで行ってきた入念な下準備もようやく此処で報われる。

 

 若干…というよりかなり原作との相違点が目立つこの世界線だが、まあ良いだろう。

 

「あれは、僕が倒します」

 

 はい、僕が400点稼ぎます。と同じノリだから。あんなんマジでキルスコにもならないだろうけど、一応11年も待った敵だからさ、僕に狩らせてよ。

 

「私も…、行く」

 

 ふぁっ?!

 

 え、ちょっと…、アイズさん? さっきまでの僕の心の声聞いてました?彼奴は僕が11年待った敵ですよ?此処は僕に華を持たせてよ、どうせあんたまだランクアップしないんだから。

 

 はぁ、まあいっか。

 

 アイズさんより速く動いて敵をボコボコにすればいいだけだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 音が届いた。

 木をいっぺんにへし折る、遠方から響いてきた破砕音が。

 誰もがその方角を振り仰いだ。それぞれの武器を再装備し、臨戦態勢を纏い直す。

 

 木々の悲鳴は依然として木霊してくる。一枚岩の上、高台から既に音の正体を視認しているだろうリヴェリア達の沈黙が、声を失ったような静寂が、身構える全員の不安と緊張をかき立てた。

 

 どれほど待ったか。

 大した時間はもしかすると、かかっていなかったのかもしれない。

 

「(あぁ、ようやく来てくれたね。待ってたよ)」

 

 油断なく音源の方角を見つめていたベルやアリーゼ達【アストレア・ファミリア】やフィン達【ロキ・ファミリア】の面々の視界に、やがて、それは現れた。

 

「……あれも下の階層から来たっていうの?」

 

「迷路を壊しながら進めば……なんとか?」

 

「馬鹿言わないでよ……」

 

 半ば呆けたようなアマゾネスの姉妹の会話が、静まり返った場に通る。

 

 その巨躯は、およそ六M(メドル)。

 

 先程まで戦っていたモンスターの大型個体より、更に一回り大きい。

 

 黄緑の体軀に扁平状の腕。芋虫型のモンスターの形状を引き継ぐ姿は、しかし全容の作りが大きく異なっていた。

 

 芋虫を彷彿させる下半身は変わらない。ただ小山のように盛り上がっていた上半身は滑らかな線を描き、人の上体を模していた。

 

 海鷂魚(エイ)、あるいは扇にも似た厚みのない扁平上の腕は二対四枚。後頭部からは何本も垂れ下がる管のような器官。

 

 黄緑の肌には例の極彩色が塗料を浴びせかけたように秩序なく及んでおり、まるで得体の知れない毒に蝕まれているようにも見える。

 

 濃厚な色彩が及ぶ顔面部分には鼻も目も口もないが、どこかその線の細さから女性のものを連想させた。が、大きく盛り上がった腹部が女性的な要素を全て台なしにしている。妊婦と呼ぶにはその腹は丸みを帯びておらず、何よりあまりにも醜悪で、どす黒い。

 

「あんな、でかいの倒したら……」

 

 ──途轍もない量の腐食液が周囲に飛び散る。

 

 階層主にも匹敵しようかという巨体と、その体液が溜め込まれているような黒い腹部を見て、ラウルは愕然とする。

 

 これまでの戦闘を振り返っても、芋虫型のモンスターの大半は力つきる瞬間、その体軀を破裂させていた。あのモンスターも、もし死に際に内包する体液を根こそぎ撒き散らすのだとしたら。

 

 撃破したとしても、辺り一帯にいる全ての者が巻き添えだ。

 

 誰もが最悪の光景を脳裏に想像した。

 

「あれは、僕が倒します」

 

 そんな動揺が蔓延る中、ベルは言葉を発した。

 それ以上はなく、そしてその場にいた誰もが、それが最良だと理解している。

 

 ──『都市最速』とも謳われる彼なら、可能だろう。

 

 あのモンスターが放つ攻撃も、体液も、全て躱すことが出来る。たとえ、後手に回ったとしても、だ。

 精霊の加護を持つ彼なら、攻撃を喰らっても忽ちの内に癒えるだろう。

 

 今この場にいるザルドは、参戦する気配を見せず、その視線は『お前達の力だけで何とかしろ』と訴えていた。

 

 故に、それが最良であると誰よりも早く理解した勇者(フィン)は、言った。

 

「分かった、あれはベルに回せよう。すまない、君に背負わせてしまって」

 

「いえ、大丈夫ですよ。任せてください」

 

 ベルはそう、その場にいる皆に笑い掛けるように、少しでも罪悪感を拭うように言った。

 

 そして手に持つ不壊剣(ミスリルテイン)をモンスターに向ける。

 

『………』

 

 灰色の樹林を破壊しながら姿を完全に現したモンスターは、ベル達から大きく距離を残したまま止まった。

 

 真正面からあらためて見ると、その姿は半人半馬(ケンタウロス)、いや半人半蛇(ラミア)に近いか。

 

 巨大な女体型のモンスターと平地を挟んで正対する。

 

『……』

 

 おもむろに、女体型のモンスターが動いた。

 

 その四枚の扁平状の腕を、まるで愛する者を胸の中へ誘うように、ふわっと広げる。

 舞う光。七色の粒子群。

 鱗粉、あるいは花粉か。極彩色の微細な光粒がベル達のもとに漂ってくる。

 

 瞬間、背筋がわなないた。

 

 第一級冒険者達は直感に突き動かされるまま、すぐにその場を退避する。

 

 間を置かず、無数の爆光と一筋の斬光が衝突した。

 

「…3秒、か」

 

 少女(エルフ)の悲鳴が響く中、ベルはその言葉を零しながらモンスターと改めて正対する。

 

 ──問題ない。

 

 これがベルの結論だった。

 

 先刻の、散乱していた腐食液を巻き込んでの爆破も、後手に回ったとしても『斬光』であれば十分に対処可能だ。

 

「私も…、行く」

 

「ふぁっ?!」

 

 突然、アイズがベルの隣に立ちながらそう言う。

 

 その発言にベルは素っ頓狂な声を上げて問い返すが、アイズは固い決意を持った視線でベルを見やる。

 

 こうなっては何を言っても聞かない。

 

 長年の関係がそう訴え、これ以上の問答も無駄だと直感で理解する。

 

 レフィーヤはそんなアイズに着いて行こうとするが、フィンに即座に制止され、冷酷な暴君の如き威圧を孕んだ言葉を以て部隊全員に撤退の二文字を命ずる。

 

「ベル、怪我なんてしたらアルフィアにチクっちゃうからね」

 

「そうですね。怪我をすれば、帰ってから地獄をみることになりますからね」

 

「…マジで勘弁して下さい」

 

 最後に、アリーゼとリューがベルに言葉をかける。励ましでも心配でもなく、“無傷で帰ってこい”と言外に告げる。

 

 そんな二人に、ベルは満面の笑みを以て答え、すぐに前を向いた。

 

 右手に《ミスリルテイン》を装備し、隣にいるアイズと共に女体型のモンスターと対峙する。

 地を這う多脚。揺らめく複腕。極彩色に彩られる怪物的な威容。

 迫る巨大な敵を前に、気負いも動悸もなく、ただ静かに。

 

 深紅(ルベライト)の瞳を強く構え、呟く。

 

「行きます」

 

「うん」

 

 アイズもまた、自身の不壊剣を装備して、魔法を発動させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 超短文詠唱を引鉄に、『魔法』を発動させる。

 

「【エアリエル】」

 

 風が生まれた。

 形として視認できるほどの大気の流れが、踊るようにアイズの体を包み込む。

 砂金のごとき輝きを放つその金の髪が風を孕み、波打った。

 

【エアリエル】。

 

 アイズが使用できる唯一の魔法。

 体や武器に風の力を纏わせることで対象を守り、攻撃を補助し、速度を上げる、『風』の付与魔法(エンチャント)。

 モンスターの放つ威圧的な空気を押しのける清涼な風の加護を宿しながら、アイズは右手に持つ愛剣を握る力を強めた。

 

『……』

 

 呼び起こされたアイズの風に反応するように、女体型のモンスターはアイズだけを標的として視認する。

 

 だが、それが失敗だった。

 

 無貌(のっぺらぼう)に見えた顔面部に、横一線の亀裂を走らせ、口腔を開放する。

 鉄砲水のごとき勢いで撃ち出される腐食液。

 量、速度ともに先の戦闘の比ではない。アイズは回避を選択し横へ跳んだ。

 

 だが、ベルはそれが撃ち出された時には、既に女体型のモンスターの背後を取っていた。

 

「──斬光」

 

 『都市最速』。

 

 正しくその呼び名に恥じぬ速力。一瞬を以て距離を殺し、反撃さえ許さずモンスターの身体に傷を付け続ける。

 

「(また…、速くなってる)」

 

 今も尚、加速し続けるベルを視界の端に捉え、瞠目する。

 以前よりも更に速くなっているベルに、驚きを隠せなかった。

 停滞している自分とは違い、気付けば前を走っていた少年に。

 

 最初は自分が前にいた。

 気付けば彼はすぐ後ろにいた。

 いつの間にか横にいて、そんな僅かな時間が、少し嬉しくて。

 前を歩いていくあの子に、置いて行かれたくなくて。でも、才能が違い過ぎて。

 自分(アイズ)だって才能ではそこらの冒険者とは比較にならない程だと分かっているけど、それでも目の前の少年との違いに打ちのめされた。

 

 片や神時代最高の英雄。

 

 人類の最高傑作とまで称されるほどの、神時代以降類を見ない程の傑物にして英雄。

 

 自分は違う。

 

 復讐に全てを費やすだけの自分では、追いすがることも出来なかった。

 

 だけど、追い付きたくて、少しでも隣を歩きたくて、私にはもう、ベルしか居なかったから。

 

「(来るっ!)」

 

 『…っ!』

 

 四枚の腕が、胸の前で✕(バツ)の字を作るように、大振りされると、目を疑うような夥しい量の光粒が空間を覆った。

 

「──フッ!」

 

 だが、その行動さえも遅いと言外に言い放ちながら、ベルは加速を重ねていた。

 

 ベルが『都市最速』と呼ばれるようになってから3年。Lv.6へのランクアップと共にそう呼ばれるようになった。そこからは一度も速度では負けず、故に彼は最速の名をほしいままにしてした。

 

 きらめきを放つ極彩色の粒子群が、広範囲へ拡散していく。だがその拡散力を以てしてもベルを捉えることが出来ず、モンスターは体の傷を増やしていく。

 

 耳を聾する爆発と轟音が襲った。 

 

 だが、アイズはそうはいかなかった。

 

 アイズは知覚出来ずに爆破の波に吞み込まれる。幾重もの風を展開したことで直撃こそ免れたものの、衝撃が細い体を殴り付け、聴覚の機能も数瞬だけでも奪われる。

 

 肌と軽装を焼かれながら歯を嚙み締め耐えていると、不意に。

 巻き起こる煙を突き破り、ぬうっと黄緑の巨体が現れた。

 

「───っ!!」

 

 瞬間、同時に白い閃光も奔った。

 

 空間ごと引き裂きながら薙がれた扁平型の腕。それらを全く意にも介さず、まるで指揮棒(タクト)を振るうかのように淀みなく、白の斬光の調べを奏で続ける。

 

 目の前の隔絶した絶技に一瞬目を奪われたがすぐに意識を切り替え、斬撃と爆風の衝突によって吹き飛ばされたアイズは手や足、更には魔法まで使用して崩れた体勢を回復させる。

 

 追い打ちとばかりに一直線に放たれ迫っている腐食砲撃目がけ、剣を、全力で振り下ろす。

 大理石(マーブル)模様の腐食液と銀の大斬撃が、衝突した。

 風を纏った剣が腐食液を中心から二つに斬り裂き、アイズの視界の左右へと流す。

 凄まじい光景だった。一人の冒険者がたった一本の剣で、モンスターの砲撃を防ぎ続ける。

 

 だが、それ以上に凄まじい光景が目の前で繰り広げられている。

 一人の少女の状態を常に把握しながら、被害がそちらへ向かないように出来うる限り注意(ヘイト)を集めて自身に攻撃を向けさせ、それさえと発動させる前に速度と絶技の合わせ技を以て潰していく少年の姿が。

 

 アイズも負けじと女体型のモンスターに肉薄する。

 爆粉は自滅を防ぐためにも近距離では使えまい、故に安全圏は敵の懐のみ。

 

『!』

 

 接近するアイズに二対四枚の腕で迎撃しようとするモンスター。

 やはり距離を詰めれば爆粉は使用してこない。

 先程から接近戦のみを続けていた少年の真意に気付きながら、アイズは更に加速する。

 薙がれた二枚の腕を、急制動と急加速を用いてやり過ごし、その懐に進入。後方を取って巨体を支えるその短い多脚を狙う。

 

「(速い……上に、硬いっ!)」

 

 しかし、女体型の反応速度も高かった。四枚の腕の内、下部についている腕を伸ばしアイズの攻撃を防御する。

 死角は存在せず、純粋な速度を以て撹乱する以外に手はない。

 

 女体型はその図体からは想像できないほど機敏で、かつ可動範囲の広い扁平型の腕は前後左右全ての襲撃に対応できるようだった。そのまま敵の真後ろに出ても、多脚を目まぐるしく動かし向き直ってくる。大型のモンスターにありがちな小回りの見劣りもない。

 

 アイズは敵の情報を逐一更新しながら、何度も何度も斬りかかる。

 

「……っ!」

 

 【エアリエル】を行使して剣に強風を付与し、モンスターの攻撃を打ち払い、凌ぐ。

 

 強力な風の恩恵は、細剣で敵の巨腕の迎撃も可能にさせる。

る。

 前衛壁役(ウォール)の冒険者が見れば卒倒するような光景だが、アイズにしてみれば魔法(エアリエル)と不壊剣(デスペレート)を使ってこれなのだ、純粋な身体能力と剣技で敵と伯仲足り得ないことに──いち剣士として──歯がゆさを覚える。

 

 そして更に、圧倒的速度と剣技のみを使用して女体型のモンスターと渡り合っているベルを前に、更に歯がゆさを募らせる。

 

 彼(ベル)と私(アイズ)では、才能が違い過ぎる。

 

 故に追い付けない。

 

 故に置いていかれる。

 

 そんなの嫌っ! 私はもう置いていかれたくないっ!

 

「はぁぁぁ!!」

 

『────ッ!!』

 

 再度斬撃を浴びせるも、即座に再生される。

 

 斬られた箇所から濁った樹液のようなものが出現して傷口を覆うと、すぐに何事もなかったかのように元通りに再生してしまった。

 

 これには流石にアイズは驚きを隠せず、そんなのずるいと思わず目を丸くしてしまう。そんな彼女に対して、今度は女体型の方が攻撃を仕掛けてきた。

 

 扁平型の腕を伸ばしてくると同時に、腕を鞭のように撓らせ襲い掛かってきたのだ。咄嵯に剣を構えてそれを防ぐも、そのまま押し切られてしまい吹き飛ばされてしまう。

 

 この攻撃をそう耐えられない。故に、更に損傷を与えてさっさとケリをつけるべきだとアイズは判断した。

 

 だが彼女は地面に着地するなり再び体勢を整えると、今度は剣を思いっきり振り上げてから横薙ぎに斬り払った。しかしやはりそれも大した効果はなく、与えた傷は癒えてしまう。

 

 少しずつ削っても意味がないと悟ったアイズは剣により一層の『風』をかき集め、対階層主用の『大技』の準備をしようとするが、眼前で行われる文字通りレベルの違う攻防に愕然とする。

 

「【レーア・ユピテール】」

 

 詠唱を必要としない、前代未聞の無詠唱魔法を使用して、アイズと共闘していた時よりも尚速く斬撃と魔法を浴びせるベルに、瞠目した。

 自分では捌くのは二度が限界なあの腕を、よもや連撃を以て、ベルの方が押している。

 そんなベルを厄介に思い、そして最大の敵と認め、女体型のモンスターは行動を取った。

 

「へぇ、面白い」

 

 後頭部から生えていた何本もの管が意思を持ったように蠢き、ベル目がけて一直線に腐食液を撃ち出す。

 

 ──危ないっ!

 

 アイズの声をよそに、ベルは更に加速する。

 無警戒だったはずの頭上からの射撃、だが後手に回ったとしても、それでも優勢を譲らない。

 何条もの腐食液が交差する射撃を、魔法と斬撃によって掻き消し、被害を最小限に抑える。

 

 そんなベルに、女体型のモンスターは明確な命の危険を感じ取り、それまでを超える敏捷さで右半身をひねり、二枚の複腕を振り抜く。

 

 ベルは下部から振り上げられた一枚の腕の攻撃を弾き、もう一枚が頭上から振り下ろされる形で自身に飛来する。

 それを紙一重の瞬間(タイミング)で躱し、だがそれを読んていたのか、躱された上腕から極彩色の粒子を発生させた。

 

 だが、三秒。

 

 その粒子が爆発するには、三秒の時を有する。それだけあれば都市最速には十分過ぎる。

 即座に射程範囲外に逃げ、更に死角から攻撃を再開する。

 

 やがて、ドンッ、と。

 

 爆輪に囲まれ、煙と僅かな火の粉が音を上げ揺らめく中、遥か上空に閃光が打ち上がる。

 

 撤退完了の信号。目標撃破の許可。

 

 ベルはそれを一瞥し、そして右手に収束(チャージ)を開始させる。

 

 僅かに溢れる小鐘(チャイム)の音に、自身を殺すにたる福音の音色を前にモンスターも目の色を変えた。

 

 『──ッ!』

 

 モンスターの反応を振り切る。

 ベルはこれまでと一線を画する加速から敵の右脇を抜きさり、地に縫いつくその多脚を横一閃、まとめて断ち斬った。

 

『!?』

 

 片側の脚を全て失い、バランスを失うモンスター。右手へと傾く巨軀を咄嗟に同側の二枚の複腕で支える。

 

 足を狙い、地に落とす。階層主、及び大型級モンスター対処の定法(セオリー)。

 

 ベルの動きは止まらない。

 敵の真後ろで素早く方向転換、地を蹴り爆風を巻き上げ、モンスターの下半身に上って疾走する。後頭部から生える管もすれ違いざま斬り刻み、そして肩口から伸びる扁平型の腕を、切断した。

 

 噴出する大量の体液。多脚から、管から、肩口から、勢いよく迸る。

 

 本体から切り離された腕は器官制御が狂ったのか、地に落ちた、たったそれだけの衝撃で、ふわっと極彩色の粒子群を舞い上げる。

 

 三秒後、再度爆火。

 

『──────────────────────────ァァァァ!?』

 

 懐で巻き起こった爆発の連鎖に、女体型のモンスターは絶叫した。

 自爆が自爆を呼び込み、残った管の髪や腕を振り乱し悶え苦しむ。

 

 未だ爆風の渦に飲まれる女体型のモンスターを前に、ベルは脚を止めて大技を撃つ動作(モーション)に入る。

 

 ふんっと両腕を振り上げ、掲げられた不壊剣(ミスリルテイン)は本来の漆黒から純白へとその刀身の色を変化させていた。

 

 目の前の目標を視界で捉え、そして魔法(レーア・ユピテール)を撃ち込んだ。撃ち込まれた雷(イカヅチ)は純白の光沢を帯びて、白雷と化す。

 

 雷霆の如きその雷を前に、女体型のモンスターは再度絶叫する。

 そんな断末魔さえも打ち消す程の、大いなる一撃が放たれようとしていた。

 

 雷霆の矛を纏い、一条の光をその手に。繰り出される強力無比な攻撃魔法をも超えるそれは正しく一撃必殺の絶技だ。

 

「畜力(チャージ)二十秒、【聖霆の英斬(レーア・ユピテール)──斬光】ッ!!」

 

 閃光の如く、斬撃は飛翔して対象の元へと飛んだ。

 傷付いた女体型のモンスターは直前のところで反応し、残った三枚の扁平型の腕を重ね盾として構えるも。

 階層主も古代の魔獣をも断ち切ったその大いなる一撃は、一瞬の拮抗さえも許さなかった。

 

 斬断する。

 

『──────────────────────────────────』

 

 交差させた扁平型の腕の盾ごとまとめてモンスターの体が断ち斬られる。

 背後にあった大岩さえも斬り裂き、消滅した。

 両断された女体型は、一度硬直して、膨張した。

 

 膨れ上がった体は一気に四散し、更に爆粉と腐食液の間で特殊な反応が発生したのか──桁外れの大爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、悔しかった。隣に立てない自分、足を引っ張っている自分が。何よりも、誰よりも、許せなかった。

 

 極めれば究めるほど神に近づく『恩恵(ファルナ)』。一つ階位(レベル)が違えば種族が違うのと同義。二つ違えばもはや世界が違うとすら言っていい程の隔絶した実力差。

 

 片や都市最強で最速。そんな彼に置いていかれたくない、ずっと隣にいたい。前みたいに隣を歩いて、笑い合いたい。

 

 視界が灼熱に包まれ、全ての光景が赤く染まる。

 爆心地には炎の海が広がりその勢いは止まらない。

 灰色の森へと燃え移り、あちこちから火の手が上がっていった。

 

「(また、見てるだけだった)」

 

 顔を緋の色に焼かれながら、アイズは視線の先の光景をじっと見つめる。

 炎がうねりを上げる。内部から押しのけるような動きで火の壁は震え上がり、次には風の流れによってその身を左右に開かれた。

 

 割れる炎の海。歩み出てくる人影。自分がいようが居まいが関係なしに、容易く女体型のモンスターを倒していたであろうベルは、傷一つ付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今進んでいるのは岩窟だった。剝き出しの岩石から造られる通路は無秩序に張りめぐらされた横穴の他にも縦穴が存在し、天然の洞穴と言って相違ない。壁面上部に灯る燐光は篝火のように揺れ、薄暗い迷宮内を照らしている。

 

 深層より遥か地上に迫った中層域、17階層。

 

 50階層で繰り広げた戦闘の後、【アストレア・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】は未到達階層の進出を諦め、地上への帰還に行動を切り替えていた。つまり、事実上の今回の『遠征』の終了を意味している。

 

 【アストレア・ファミリア】に関してはアリーゼが「えっ? なんかシラケちゃったし、帰らない?」みたいなノリで帰宅が決定した。

 そんな近場でもないにも関わらず、本当に呑気なもんだとそれを聞いた誰もが思った。

 

 あの芋虫型や女体型のモンスターについての情報も確認しなければならないのでどの道帰る事は決定してるのだが、ベルとしては不完全燃焼さが拭えない。

 

「(彼奴が…、せめてあと五体は出てくれば、良い運動になったのに)」

 

 あんな規則正しく、しかも自分より遅くてパワーもないような敵に苦戦のしようもなく、適当に加速しながらあしらい続けたベルにとっては暇過ぎでイライラしていたほどだった。

 

 そんな中、何故かフィンさんからの指示を無視?というか聞く前に猪突猛進したティオナさんは装備なしの手ぶらで、サポーターになってろとベートにどやされ、服がボロボロになってしまったティオネさんがティオナさんと一緒にボコボコにしていた。

 

 あの極彩色の芋虫型モンスターに装備を溶かされちゃあ、幾ら体力がのこっていようが『遠征』の中止は免れない。ギルド長であるロイマンに詳細を聞かなくてはならないという部分もあるので、とっとと帰りたいところではあるが、まだイベントは残っている。

 

 だが、その心配はいるまい。だってその発端?である僕が此処にいて、彼らが出現してアイズさん達を導く必要がないんだから。

 

『──ヴゥオォ』

 

「へぇ?」

 

 進行中のルームに獰猛な気配と、そして荒い息づかいが迫ってくる。

 複数ある通路口の向こうから、大量のモンスターが姿を現した。

 

『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

「…まじか」

 

 岩窟を震撼させる咆哮が響く。

 並みの冒険者ならば裸足で逃げ出す迫力を有しながら、そのモンスターは荒縄のように筋張った肩と腕を隆起させる。踏み出された一歩によって地面が蹄型に陥没した。

 

 筋肉質な巨大な体に、赤銅色の体皮。

 

 モンスターの代表格にも数えられる牛頭人体のモンスター、『ミノタウロス』だ。

 

「(え?ここに僕居るのにお前ら出てくんの?!)」

 

 ミノタウロスの群れはルームへ続々と進入し、僕達『遠征隊』を包囲するように輪を作る。

 血走った眼を向けてくる猛牛のモンスター達は、呼吸の度に体を上下させ興奮していた。

 

「(もしかして!! 僕(ベル)の代わりに英雄(しゅじんこう)になってくれる人がいるのか?!)」

 

 そしたら話が変わる。とっととその少年?少女を鍛え上げて上げなくては!!

 

『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

「(良いだろう、世界がそれを望むのなら、僕も踊ってやるとするか)」

 

 そして、その後の戦闘の一連の流れは、誰もが予期せぬ方向へと転がった。

 

『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

「(うんうん……、うん?)」

 

 集団で出現したミノタウロスの軍勢が、ベ(・)ル(・)目掛けて突進してきた。それも、全てのミノタウロスが、だ。

 

 異常事態(イレギュラー)、とは言い難いが、恐らくそうだろう。

 

「(はぁ、知ってたよ。僕が英雄にならなきゃなんでしょ。はぁ、必要に駆られた英雄程要らないモノも無いけどさ)」

 

 まさかの集団リンチを始めたのだ。それもこの場に居る誰よりも強い奴相手に。

 なんと勇ましき勇姿だろう、それだけに可哀想でならない。

 

「来い、英雄の作法を教えてやる」

 

 次々と襲い来るミノタウロスを全て手刀で捌き切り、ボコボコにしていく。

 正確に魔石を捉え、打撃と手刀による斬撃のみでミノタウロスを圧倒。

 

 返り血すら浴びす、僕はそのままただただ作業の如く刈り続けた。

 

 やがて、一体だけ生きのいいミノタウロスが居た。

 片腕を斬り落とされても怯えず、自分へと向かってくるミノタウロスがいた。

 

 だが、それさえも、所詮は羽虫の抵抗。

 一瞬を以て圧倒的実力差を見せつけ、叩き伏せた。 

 

「これは『洗礼』だ」

 

 誰にも聞かせず、ミノタウロスだけに語りかけた。

 

「超えてみせろ。より強き怪物(モンスター)となってな」

 

 と、その一言を最後に僕はミノタウロスのド頭をかち割り、魔石ごと粉砕して灰へと還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁ、知ってたよ。ワンチャン世界救うとか、黒竜討伐とか、ダンジョン踏破とかのRTAから解放されると思ってたのにさ、そんなことはなかったみたい。

 

 次のイベントは、怪物祭(モンスターフィリア)、か。面倒くさいし、どうせ巡回なんで良いけどさ。フレイヤ様が問題起こさないから、あっちはどうなるんだろう。流石に死者が出るのは嫌だしなぁ、でもどうスッかなぁ。

 

 取り敢えず、今はそれより一番大切なことについて向き合おう。

 

 はぁ、ワンチャンあったと思ったのになぁ。世界救うのはやっぱり僕かぁ。こんな14の少年に頼らなきゃいけない世界ってどうなのよ、本当に。

 

 あぁ、世界救ったら一度この世界を旅してみたいなァ。せっかく異世界転生したのにろくに外の世界見てないんだよね。いつの間にか第一級冒険者になってて、都市外に自由に出入り出来ないし。

 

 ようやく暗黒期が終わって自由に出来ると思ったらフレイヤ様が魅了騒動起こすし、あれは普通に苛ついたよね。

 

 はぁ、都市の外ってどうなってんだろ。竜の谷とかオリンピアくらい、あとはエルソスの古代遺跡とかしか見たことないよ、僕。

 

 取り敢えず、明日は寝るか。





 多分次回くらいにはアーディ出すと思う。

 モチベに繋がるのでコメントやお気に入り、評価などお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

最強と最恐の系譜は雷霆の申し子です(作者:道化の作家)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

 この世界線のベルくんは原作よりも二年早く生まれて、あの二人に滅茶苦茶鍛えられただけの世界線。▼ それ以外にも少し他の要素が混じってる。原作とは一部設定の違う部分がありますが許してクレメンス。▼


総合評価:2015/評価:8.57/連載:19話/更新日時:2026年10月13日(火) 16:09 小説情報

アストレア・ファミリアの盾使い(作者:ナカタカナ)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

 【最強】と【最凶】が黒龍に敗れて訪れた暗黒期。死の七日間と呼ばれる大抗争の一年前・・・正義の眷属【アストレア・ファミリア】はギルドより依頼(クエスト)を要請された。オラリオを離れ海を渡った先にある、廃都に眠る宝の調査と回収。▼ 誰もいないはずの孤島にいたのは一人の少年。▼ 「お姉さんは誰?」▼ 「私はアリーゼ・ローヴェル! あなたは?」▼ 「僕はギャラハッ…


総合評価:2728/評価:8.68/連載:25話/更新日時:2026年09月15日(火) 21:44 小説情報

フェア・クラネルの嫁作り(作者:パーンダ)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

ベル・クラネルには兄がいるが、とんでもないスケベモンスターである。▼兄のようにはなるなと、色んな人に言われている。


総合評価:5655/評価:8.36/連載:16話/更新日時:2026年09月27日(日) 02:40 小説情報

伏黒恵に転生したから魔虚羅をブン殴る(作者:鈍い)(原作:呪術廻戦)

呪術廻戦の伏黒恵に転生した男が魔虚羅をブン殴る話。▼今作は何番煎じかも分からない伏黒恵転生モノです。


総合評価:3890/評価:7.9/連載:23話/更新日時:2026年09月20日(日) 19:00 小説情報

天剣へと至る愚者(作者:一般通過害悪)(原作:無職転生)

ルーデウス・グレイラットの双子の弟は転生者である。▼後世には『天剣』として伝えられることになる。▼これは、彼が生前に書いた日記を辿っていく物語。▼※アンチ・ヘイトとクロスオーバーは念の為。


総合評価:3658/評価:8.14/連載:10話/更新日時:2026年08月22日(土) 15:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>