転生しました、主人公でした。   作:道化の作家

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 あぁ、ファミリア・クロニクルのアミッド編読みてぇよぉ〜。アミッドの【ステイタス】の詳細知りてぇよ。


第九話 少女の叫び 

 

 あぁ、やっぱりリヴィラの街に出たんだ、レヴィスちゃん。

 えぇ、あの子も僕の中にいるジュピター達狙ってるの?

 

 いや、ジュピターとか基本的に僕の成すことには不干渉だし、基本お前が何とかしろ、みたいなスタンスだからあんまり役に立ってないよ?『ディアーナ』はアンタレスとかベヒーモスの『超毒』を無効化し続けるので動けないし、エトンは基本攻撃特化だから防御は役に立たないし、ウェスタくらいかな?いつも頑張ってるのは。ウェスタ以外は基本僕以外に力を貸すのを嫌がってるし。

 

「お願いっ、ベルっ!助けてぇ〜」

 

 それで、アリーゼさんとリューさんは全然フィリア祭で壊した建物の修理費が稼ぎ終わらないらしいから深層に行くと。

 

 それで僕の【幸運】を借りたいと。

 

 まあ、いっか。

 

 あれ?そう言えばアイズさんの【ランクアップ】イベントも此処ら辺だよね?まあ、大丈夫でしょ。

 

 まあ、ウダイオス君は僕やオッタルさん、ザルドおじさんやレオンさんからボコボコにされ続けて色々と薫陶を受けてるけど、まあ大丈夫でしょ。

 

 アイズさんなら、あの風があればイケるっしょ。僕の【ケラウノス】と違って攻防一体だし。

 

 僕の付与魔法(エンチャント)、アイズさんほど便利じゃないし、魔法防御以外は防御能力が皆無だから物理攻撃には死ぬ程弱いし。

 

 はぁ、前世かなんか知らないけど失敗を活かしすぎて物理攻撃への耐性皆無なのは舐め腐ってるよジュピター。それに、【雷律曲光(エオ・アルドーレ)】の効果も雷霆属性とかいう特殊属性のせいで発動しないし、なんかちょっと不遇魔法なんだよね、僕からしたら。 まあ、他の人からすれば最優の付与魔法だと思うかもだけど、所詮ジュピターがいないと全く効果ないし。

 

 あとは本当に、僕の速攻魔法(レーア・ユピテール)とかお義母さんの無法不可視音撃(サタナス・ヴェーリオン)を長文詠唱で自慢げに使ってきたリューさんには、流石の僕も助走着けて殴ったし。

 

 はぁ、召喚魔法(サモンバースト)じゃなくてせめて付与魔法(エンチャント)で常に魔法を召喚出来るくらい無法だったら、僕もリューさんの頭を撫でてたのに、全くあのポンコツエロフがっ!!

 

 あぁ、早くランクアップしたい、リリ見つけたい、精神的に休みたい。

 

 絶対来世はベルきゅんの相棒枠としてその冒険を横で見ているだけの役割がいいなぁ。

 

  ✕  ✕  ✕

 

 37階層は『白宮殿(ホワイトパレス)』とも呼ばれている。

 

 その名の謂われは白濁色に染まった壁面と、そしてあまりにも巨大な迷宮構造だ。上部の階層とは度合そのものが異なり、通路や広間、壁に至るまでの全ての要素が広く大きい。

 

 一部の例外を除き、その殆どの道や『ルーム』は幅一○M(メドル)を優に超えている。

 

 また円形の階層全体が城塞のごとく五層もの大円壁で構成されており、階層中心に次層への階段が存在する。冒険者達は大円壁の間にある開放的な通路やいくつもの段差を昇り降りして中心部を目指さなければならない。

 巨大都市(オラリオ)にも匹敵しようかというその範囲領域は、正規ルートが確立されているとはいえ、迷い込んだ瞬間二度と出てこれなくなるほどだ。

 

 頭の上に存在する空間も果てしなく高く、上級冒険者の視力をもってしても天井を確認できないほどである。暗澹とした闇に塞がれていることで薄暗さも際立っており、白濁色の壁面に等間隔で灯る燐光だけが冒険者達の横顔を照らす。

 

「さァ!お金をいっぱい稼ぎましょう!」

 

「アリーゼ、そんな堂々と言い張ることではありません。それにモンスターが寄ってくるのでもっと声量を下げてくださいッ!」

 

 二十にも匹敵するほどのモンスターに囲まれながらアリーゼは堂々と長剣を抜き放ちながら宣言し、リューはそんなアリーゼの奔放さに頭を悩ませながらもなんとか手綱を握ろうとする。

 

 星剣《アルブスユースティティア》を構え、一陣の疾風となって深緑の光を纏うリューは、疾駆しながら華麗にモンスター達を蹴散らしていく。

 

 【疾風】、その二つ名に違わない程の速度を以て戦場を駆けながら、モンスターを魔石のみに変えていく。

 

 アリーゼもまた、片手剣《クリムゾン・オーダーⅣ》を振り抜きながらモンスターを蹴散らしていく。

 

「アリーゼさん、本当に元気ですね」

 

 そう、ベルもまた速攻魔法を用いてモンスター達を灰へと変えていく。深層のモンスターでさえも相手にならない程の威力を持つそれは正しく砲撃と言って相違ないだろう。

 

 大火力を伴った雷撃は全てを滅し、一部の例外もなくモンスター達は灰へと還る。

 

 だが、足りない。

 

 何がと言われれば、それは当然ドロップアイテムの数だ。正直アリーゼはまだしもリューに至っては町中で【ルミナス・ウィンド】を発動させるとかいうポンコツぶりを披露してしまい、その後吹き飛んだ屋台などを見ながら「私はいつもやり過ぎてしまう」などとのたまい市民に馬鹿にされてしまうほどのポンコツぶりを発揮、稼がなければならない金額はそこそこ多い。

 

「(はぁ、借金が二人揃ってあと4000万弱か。まあ今頃武器の借金でダンジョンに潜ってるアイズさんやティオナさんよりかはマシでしょ)」

 

 と、ベルは何処か達観したような面持ちで空を見上げた。そこには澄み切った青空─などは広がっておらず、何処までも殺風景な灰色の大円壁と闇に隠された天井のみが広がるのみ。

 

「ベルも、少しは元気になってくれて良かったわッ!これも私のおかげね、キラーン☆」

 

「ちょ、アリーゼ。調子に乗ってよそ見しないで下さい」

 

「でも、本当にアリーゼさんのおかげで悩みが少しは晴れましたよ?」

 

「ちょ、ベルまで。アリーゼが調子に乗るような事は言わないで下さい」

 

 アリーゼが腰に手を当てながら胸を張って威張り、リューはもう呆れ混じりに咎め、ベルはそれを見ながら苦笑した。

 

 三人は談笑しながらドロップアイテムを集め、「あと数時間潜れば借金分は余裕で返せるくらいですね」とリューは言いながら集めた魔石等の軽い計算を行う。

 

 そこでアリーゼ達は一時的に休憩(レスト)を取ることにした。

 

 日帰りではなく、滞在を視野に入れた長期間のダンジョン探索では一時的な休憩(レスト)は言わずもがな、冒険者達は体力回復に努めるため度々迷宮の中で宿営(キャンプ)をする。

 

 その際に格好の休息地帯(レスト・エリア)として選ばれるのが安全階層(セーフティポイント)なのであるが、そこまで移動するのは往々にして手間でもある。

 

 なのでアリーゼ達はその階層にある『ルーム』と呼ばれる場所へ移動し、そこで休憩(レスト)を取ることにした。

 

 今いる『ルーム』は出入り口が一つしかなく、あまり広くもない。周囲の壁には思いっ切りベルの斬光の跡が刻まれており、今も修復は追いついていないのでモンスターは生まれてこない。

 

 ダンジョンは壁を始めとした地形が壊れると、その箇所の修復を優先する。つまり壁面が壊れている間はそこからモンスターが産まれてくることはないのだ。後は唯一の出入り口を交代で見張っていれば、モンスターの奇襲は防ぐことができる。

 

 ベルの場合は大して休憩をせずとも【闘争戦王(ストルトス・ベルセルク)】というスキルがある為、すぐに体力や精神力(マインド)が回復していく。

 

 身体機能な第六感なども強化されたり、状態異常や呪詛(カース)と言った搦め手を使うモンスターの攻撃を軽減出来たり、戦闘時は発展アビリティ『狩人』が一時発現するため、ベルはこのスキルを『冒険者必須パック』と呼んでいる。

 

 ちなみに、このスキルがなければベルは神喰の蠍(アンタレス)や陸の王者(ベヒーモス)の亜種の猛毒であの世に逝ってただろう。

 

「あれ?そう言えば輝夜さんとかは来なかったですよね。どうしてですか?」

 

 輝夜は【ファミリア】の中でもそこそこの戦闘狂。ベル程ではないにしろ強さにも執着しており、彼女の目標はアルフィアなのでかなり無茶な特訓もしている。

 

 そんな彼女が深層への小遠征に着いてこない理由はない為、ベルは気になってアリーゼに尋ねた。

 

「確かお弟子ちゃん達に稽古をつけてあげてるんじゃなかったかしらっ!」

 

「えぇ、輝夜は今頃、同郷の【タケミカヅチ・ファミリア】の団員達に稽古をつけているはずです」

 

「あぁ、そう言えばそうでしたね」

 

 【タケミカヅチ・ファミリア】、輝夜や春姫の故郷でもある極東から迷宮都市(オラリオ)に来たまだまだ発足し始めて間もない【ファミリア】であり、輝夜は同郷の好(よしみ)でその【タケミカヅチ・ファミリア】の団員達に稽古をつけてあげているという理由だ。…まあ、下級冒険者やLv.2成り立ての冒険者にはかなり厳しい特訓なので、可哀想だと思わなくもない。

 

 そんな談笑を繰り広げながら、魔石灯や寝袋などの野営道具をバックパックに詰め込みながらベル達は『ルーム』を後にしたその時、階(・)層(・)全(・)体(・)が(・)わ(・)な(・)な(・)い(・)た(・)。

 

 ──ウォォォォォオオオオオオオオオオオッ!!!!

 

 階層中に凄まじい轟音を伴った咆哮が炸裂した。

 

「あれ?そう言えばもうウダイオス出現の時期だっけ?」

 

「もうそんな時期に?」

 

「そうですね。僕が最後にシバいたのはちょうど3ヶ月前だったので、まあそんな時期じゃないですか?」

 

 そう、3ヶ月前に一撃で階層主が出現する『ルーム』ごと吹き飛ばして、よもや破壊者(じゃが丸君)が出現しかねない程に階層を破壊してしまったのをベルは思い出す。

 

 あの時は確か第三魔法を久々に発動して錆を落としてやろうみたいな感覚でウダイオスが出現する時期(タイミング)に合わせて第三魔法を発動させたなぁとベルは内心思い出す。

 

 正直、ウダイオスはお金稼ぎ以外だと魔石喰わせてシバいた思い出しかない為、ベルの中では18階層の階層主である『ゴライアス』何が違うの?状態である。故にあまり印象に残ってもいなかった。

 

「にしても、少しデカくない?」

 

「そうですね。『ルーム』を貫通する程の咆哮(ハウル)とは、聞いたことがありません」

 

「僕が魔石喰わせてシバいたりし過ぎたせいで、なんか凄い個体が生まれちゃったりして」

 

「「……あり得そう」」

 

 と、ベルが言うとアリーゼとリューは少々冷や汗を搔きながら肯定する。

 

 ベル・クラネルというのは、良くも悪くも『人』にも『怪物(モンスター)』にも好かれる。

 

 そして人には単純な好意を向けられたり、愛憎?のようなモノを向けられる場合が殆ど。

 

 だが、怪物(モンスター)は違う。

 

 奴等がベルに対して抱く感情は『殺し愛』。五年前に【ファミリア】総出でフルボッコにした『ジャガーノート』というダンジョンの免疫作用を担うモンスターがいい例だろう。

 

 ジャガーノートはベルと最初に戦った時から脳を焼かれたのか、当時Lv.3のベルは数分とは言え、出現する階層に応じて強さが変わる『ジャガーノート』とタイマンを行なったのだ。

 

 当時出現した階層が30階層だった為、潜在能力(ポテンシャル)は恐らくLv.5相当だった筈だが、そんな相手に対して数分とは言えレベル差“ニ”という絶対的壁を超えて足止めしてきたベルに対してジャガーノートも並々ならぬ感情を抱いている。

 

 その後は、四年前の当時Lv.4だった頃、停滞してるなぁと思い、どういう訳か単独新装遠征を強行。ちょうど『ウダイオス』の次産期間(インターバル)とも重なり、当時L(・)v(・).(・)4(・)だったベルは『ウダイオス』を単独討伐という誰もが認める偉業を突き立ててLv.5になった。

 

 そして、Lv.5になった時の二つ名は【迅雷】。その二つ名に調子に乗ってしまったリューと一緒に深層遠征の二度目を行い、見事に深層のイレギュラーに遭ってしまいジャガーノートもといじゃが丸君が37階層で出現してしまったのだ。

 

 そこからは凄まじい執念でジャガーノートに追い回され、最終的にはベルとリューで打ち倒したものの、まあまあ厄介な目にあってしまったのだ。

 

 そう、ベル・クラネルという存在はある種の百発百中なのだ。一撃で人もモンスターも平等に、一切の例外もなく脳(・)を(・)焼(・)い(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)の(・)だ(・)。

 

 まさに『英雄魂』という奴なのだろう。なので、今回のウダイオスも散々ベルにボコされた『ウダイオス』も、ワンチャン強化種とかになって出現してるんじゃないかというのが、アリーゼやリューの見解だ。

 

「この感じ、どう聞ても交戦中よね?」

 

 凄まじい剣戟の音が、風の音が聞こえてくる。

 

「えぇ、音からして互角?いえ、やや押されているようですが、恐らく大丈夫でしょう」

 

「また、単騎で挑まない限りは大剣も出してこないですし、まぁ…大丈夫すよ……ね?」

 

 ベルは最後、力なく言葉を発した。そして、そんな中アリーゼが冷や汗を搔きながら言う。

 

「そう言えば、【剣姫】達も借金返す為に深層潜ってたわよね」

 

「えぇ、確かリヴェリア様たちも此処に居るはずですが…」

 

「お金稼ぎもとい【ランクアップ】の為にベルみたいにウダイオス単独討伐とかしてたり…しないわよね?」

 

「まぁ、彼女はベルに対して特別な感情を抱いてる節はありますが、流石にベルの真似をするようなことはしない…筈」

 

 断定は、出来ない。

 

 そして、あり得る。とも、三人は思った。

 

「「「………行きましょう」」」

 

 そうして三人は、ワンチャンベルがやらかして?階層主(ウダイオス)が強化種として出現しているんじゃないかと言う最悪の可能性を確かめるべく、37階層の最奥、つまり階層主の居る『ルーム』へと向かった。

 

  ✕  ✕  ✕

 

 ──今の風……そうか、お前が『アリア』か。

 

 彼女の言葉が頭をよぎる。

 何故、その名前(たんご)を知っているのか、貴方は何者なのか、知りたい事は山程あった。

 

 

 夢を見た。

 

 母親(かのじょ)は、風のような人だった。

 そして私もいつか母親(かのじょ)のようになれると信じて疑わなかった。

 誰よりも無邪気で、人の悪意など知らず、知らされず。白い雲と共に揺蕩うあの青空のよう。

 

 屈託のない笑みを浮かべる母親(かのじょ)が大好きだった。一緒にいると自然と笑顔になれた。

 

 大好きだった、あの時間が。

 

 ずっと続くと思っていた、幸せなあの日々が。

 

 やがて、彼女は振り返った。

 肩から顔を出すと、そこには青年が現れていた。

 黒い襟巻きに薄手の防具、そして鞘に収められた銀の長剣。

 彼の顔を見て、彼女は抱くのを止め、自分を胸の中から降ろす。最後に頭を撫で、ゆっくりと立ち上がった。

 

 自分に向けるものとはまた違う笑みを浮かべ、青年に微笑みかける。彼もぎこちなく笑って、何かを告げるように頷いた。

 自分の寂しげな視線にも気付くと、青年はもう一度不器用に笑う。

 

 すまない、と父親(かれ)は謝った。

 そして踵を返し、母親(かのじょ)を呼ぶ。

 

『行くぞ──アリア』

 

 自分を置き、二人は寄り添って、白い光の先へと行ってしまった。

 

 

 夢を観た。

 

 そこは一面原っぱで、草花が沢山咲いていた。

 緑の生い茂ったそこに、一人の白兎(しょうねん)がいた。 

 その白兎(しょうねん)はすっごくビビりで、追いかけるとすぐに逃げてしまう。

 

 だから、沢山追いかけて、追いかけて、追いかけた。

 

『ようやく捕(つか)まえたっ!』

 

 ようやくその白兎(しょうねん)を捕まえた頃には空はもう真っ暗で、だから二人で一緒に夜空を見た。

 その兎さんの白い髪の毛(モフモフ)はとても触り心地が良く、いつまでも触っていたかった。

 

 時には怖い魔女と白兎(しょうねん)を巡って争ったりもしたけど、頑張って二人で逃げた。

 

 灰色の魔女さんから逃げてるときは、白兎(しょうねん)は怖かったのか、いつも泣いていた。

 

 沢山夜空を見て、笑った。

 

『いってきます、アイズさんっ!』

 

 そして、気付けば白兎(しょうねん)は少年(えいゆう)になっていた。

 

 前を進む英雄(かれ)に追い付こうと頑張った。

 それはもう、沢山、沢山頑張った。

 

 追いかけて、追いかけて、追いかけて、いつか前みたいに隣り合って一緒に笑い会えると信じていた。

 

 だけど、英雄(かれ)は気付けば見えない所まで、少女(わたし)の手の届かない場所まで行ってしまった。

 

『だから、アイズさんは笑っていて下さいっ!』

 

 そう言いながら、英雄(ベル)は消えた。

 漆黒の渦を前に、英雄(ベル)はたった一人で挑んだ。

 

 灰色の魔女さんは言った──行くな、と。

 星のような女神は言った──帰ってきなさい、と。

 月のような女神は言った──頑張れ、と。

 金色の妖精さんは言った──待って、と。

 怖い妖精さんは言った──巫山戯るな、と。

 真っ黒な妖精さんは言った──約束を破るのか?、と。

 鈍色の少女は言った──帰ってきて下さい、と。

 灰色の狼さんは言った──待ちやがれ、と。

 黒色の猫さんは言った──巫山戯るんじゃねぇ、と。

 金色の勇者さんは言った──駆け抜けてしまった、と。

 

 赤色の鍛冶師は言う──行っちまった、と。 

 臙脂色の武人は──何も言わなかった。

 鈍色の武人も、金色の獅子も──何も言わなかった。

 

 魔女(かのじょ)はもう、瞳を開かない。

 少女(わたし)はもう、笑えなくなった。

 

 だって、もう英雄(ベル)は居ないのだから。

 

 彼はたった一人、相棒(らいてい)と共に黒くて、怖い竜に挑んで、消えちゃった。

 

 あの竜も、いなくなった。

 

 私は、泣いていることしか出来なかった。

 みんな、助けようとした。

 

 でも、出来なかった。

 

 聖火は少女(わたし)達を行かせてくれなかった。

 月の光は少女(わたし)達を守ってくれた。

 天の炎はとうに燃え尽きていた。

 

 誰も、あの子の後を着いてはいけなかった。

 

 それは、いつか辿るか(・)も(・)し(・)れ(・)な(・)い(・)物語。

 

 ▼▽

 

 ▼▽

 

 

 銀の光が走った。

 

『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』

 

 頭の天辺から股下まで一直線に刻まれた銀の軌跡に、骸骨のモンスター『スパルトイ』は絶叫を解き放つ。

 

 ヒューマンをベースとした骨格がところどころ鎧のごとく隆起したような禍々しい姿。鋭角的なフォルムを誇り、様々な白骨の武器を持つその姿はまさに骨の凶戦士と言うに相応しい。

 

 『深層』を縄張りとするLv.4相当の強力なモンスターは、しかし一閃のもとに瞬殺された。

 

 金髪金眼の少女──アイズはたった一人で数多の骸骨のモンスターの墓標を創り上げていた。

 

「結局一人でやっちゃったし……」

 

「ちょっと苦戦でもしてくれると、もっと可愛げも出てくるのにね……」

 

 仲間の声が聞こえているのかいないのか、アイズは無言で愛剣《デスペレート》を鞘に収めて彼等の元へ向かった。

 

「はいはい、お疲れアイズ~! ポーションいる? エリクサーは? アイズの大好きな小豆クリーム味のジャガ丸くんはどう!?」

 

「大丈夫、ティオナ。ありがとう。……最後のは欲しい」

 

 ベルやアリーゼ、リューなどの【アストレア・ファミリア】が深層の小遠征を行っている同刻。

 

 同じ37階層。深層域と定義されているダンジョンの奥深くで、【ロキ・ファミリア】の面々は迷宮探索に臨んでいた。この場にいる総人数は少なく、パーティはサポーターを入れて計七人。アイズ・ヴァレンシュタインを筆頭にした第一級冒険者の数は、五人のみだった。

 

「ンー、そろそろ帰ろうか? 今回はお遊びみたいなものだし、ここで長居して、帰りの道でダラダラと手を煩うのも面倒だ。リヴェリア、君の意見は?」

 

「団長の指示なら従うさ。……お前達、撤収するぞ!」

 

 超然とした風格を漂わせるエルフ、リヴェリアは声を飛ばした。

 

 小麦色の肌をしたアマゾネスの姉妹、ティオネとティオナが了解の意を示し、アイズの方は腐りかけたジャガ丸くんを両手に持って、誰が見ても分かるくらいには落ち込んでいた。

 

 迷宮の奥深くに赴く際、食糧の保存状態が整っていなければこういった弊害はよく生まれる。

 

「それにしても、あの宴会でのベートは傑作だったよねぇ〜」

 

「えぇ、そうね。【女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)】とタイマンして、結局どっちもやられちゃうだから」

 

 そう、とある宴会にて、とある女将が経営する酒場にてどこぞのチビ戦車とタイマン張った馬鹿狼が、二人まとめて女将にしばき回された話をするティオナとティオネ。

 

 

 撤収の準備といってもやることはほとんどない。魔石の回収はサポーターの仕事で、戦闘は先程からアイズの独壇場だったからだ。Lv.3の二名のサポーター、レフィーヤとラクタがスパルトイの魔石を集める中、アマゾネスの姉妹を中心に弛緩した空気が流れる。

 

 そんな中で、ジャガ丸くんから顔を上げたアイズが波紋を投じた。

 

「……フィン、リヴェリア。私だけまだ残らせてほしい」

 

 名前を呼ばれた両名ともそれぞれの反応を示す。フィンは少し目を見開き、リヴェリアは顔色を変えず片目のみ瞑った。

 

 ぎょっ、として動きを止めるティオナとティオネに構わず、アイズは淡々と主張を続ける。

 

「食糧も分けてくれなくていい。みんなには迷惑をかけないから。お願い」

 

「ちょ、ちょっと~! アイズ、そんなこと言う時点であたし達に迷惑かけてる! こんなところにアイズ取り残していったら、あたし達ずっと心配してるようだよ!」

 

「私もティオナと同じ。いくらモンスターのレベルが低くても、深層に仲間一人を放り出す真似なんてできないわ。危険よ」

 

 腰に手を当てて顔を鼻先まで寄せてくるティオナに、アイズは眉を少し下げて困った顔を作った。ティオネの援護射撃にも応戦できない。

 

 彼女達の言っていることの方が、議論の余地もなく正しいからだ。

 

「何でアイズはそんなに戦いたがるの? アイズはすっごく別嬪なのに、もったいないよ~。もうちょっと女の子しようよ~。アマゾネスのあたしの方がお洒落でどうするのよぉー」

 

「私は……そういうのは、いいよ」

 

「えぇ〜、勿体ないよぉ。お洒落はしないと、アイズのその顔は飾りなの?」

 

「あんた、自分でもしないことを押し付けるのは止めなさい」

 

 押し黙って軽くうつむくアイズに、一歩離れて見ていたリヴェリアは息をついた。

 

 フィンに向き直って口を開く。

 

「フィン、私からも頼もう。アイズの意思を尊重してやってくれ」

 

「「リヴェリア!?」」

 

「ンー……?」

 

 この場で誰よりも身長の低いパルゥムは、真意を尋ねるようにリヴェリアを見上げる。

 

「この子が滅多に言わない我がままだ。聞き入れてやってほしい」

 

「そんな、子を見守る親みたいな気持ちじゃあ動けないよ、リヴェリア。ティオナ達の言っていることの方がもっともだ。パーティを預かっている身としては、許可できないな」

 

「甘やかしている自覚はあるが……さて」

 

 二回目の吐息をついたリヴェリアはアイズに視線を送る。

 

 感情の起伏が少ない少女の顔が申し訳なさそうな目をしているのを見て、今度は自嘲。

 

 それから再びフィンに目を合わせた。

 

「私も残ろう」

 

 アイズのサポートを担う、とその意図を伝えるリヴェリア。

 

 彼女の瞳を覗き込むフィンは、顎に手を添えた後、ゆっくりともったいぶるように頷いた。

 

「わかった、許可するよ」

 

 その言葉に、ティオネとティオナは抗議の言葉を口にするが、フィンの了解の意と共に無きものとなってしまった。

 

 リーダーが決定を下してからは早かった。

 サポーターを加えたフィン達と、残留するアイズ達がその場で別れる。

 一つしかないルームの出入り口で、ティオナが帰り際ぶんぶんと大きく手を振り続けていた。

 

「ありがとう、リヴェリア」

 

「これっきりにしてほしいところだが、今更だな。あまり手をかけさせるなとだけ、愚痴を言わせてもらおう」

 

「……ごめん」

 

 顔も見ずに交わされる彼女達の言葉の奥底には、信頼という感情が見え隠れしていた。

 

 37階層は遥か上層とは異なり薄暗い。頭上の空間は果てしなく高く、天井が肉眼では確認もままならず、暗澹とした闇に塞がれてしまっている。

 

 白濁色の壁面に等間隔で灯る、蠟燭のような燐光だけが視界の頼りだった。

 

 しばらくその場を動かず無為に時間を過ごし、リヴェリアが怪訝な色を顔に映し出した頃。

 

 何かを察知したように、アイズが剣を抜いた。

 

「来た」

 

「なに?」

 

 その美しい眉目を若干鋭くするアイズに、リヴェリアは何を言っているのか問いかけようとしたが──すぐに彼女も気付く。

 

 自分達の立つダンジョンの地面が、揺れている。

 

「まさか……」

 

 その呟きに同調するように、アイズの視線の先、広大なルームの中心点が盛り上がる。

 

 次の瞬間、大地が割れた。

 

 大量の土塊を押しのけ、途轍もなく巨大な図体が地面から顔を出す。

 

 ビキッビキッと鳴り響く、地面に亀裂が走る嫌な音。巻き込まれた土砂はそれの体に持ち上げられ、轟音、音を立ててあたかも滝のように床へ叩きつけられていく。

 

 頭蓋が、鎖骨が、肋骨が、骨盤が。剝き出しになった黒色の骨格(ぜんしん)が、地面から生えて全貌をあらわにしていく。

 

 震動は最高潮。37階層全体がわなないていた。

 

 まるで我が子を産む代償を支払っているかのように、ダンジョンが唸り声をあげる。

 

『───ウォォォォォオオオオオオオオオオオッ!!!!』

 

 これ以上のない凶悪な産声が、今までに聞いたことのないような雄たけびが打ち上げられた。

 

 天に向かって吠えるそのモンスターは余りにも洪大だった。一〇M(メドル)を越える程の巨体が、あらわになった。

 

 全身を漆黒に染め上げた、骸骨の巨身。下半身を地面に埋めスパルトイをそのまま大きくしたようなその巨大モンスターは、頭に二本の突起を生やしており、何処か鬼(オーガ)のようにも思えた。

 

 真っ暗な眼窩の奥では、火の粉のような小さな朱色の光が揺らめいている。

 

 そして胸部内部。肋骨と胸骨に守られるように、規格外の魔石が中空に浮いていた。

 

「そうか。彼が倒してから、もう3ヶ月が経つのか」

 

 通常、階層ごとのモンスターの出現数は種類ごとに分かれて決まっている。

 

 一定数以上に増えることはなく、減少すればダンジョンの壁を破り新たなモンスターが産まれることになる。そして次のモンスターが生まれるまでの時間を次産期間(インターバル)と呼び、それは階層ごとにばらつきがあるが、最長のものでも約一日ほどだ。

 

 そんな中、絶命してもすぐに出現せず、長期間の次産期間(インターバル)を必要とするモンスター達が存在する。

 

 付け加えれば、その特別なモンスター達は決まった階層ごとに必ず一体しか現れない。

 

 その強さ故か、その巨大さ故か。理由はともあれ、彼等は産まれ落ちた階層に一匹のみで徘徊することしか許されなかった。

 

 古代から存続しているギルドは、往時からその特別なモンスター達をこう呼んでいる。

 

『迷宮の孤王(モンスター・レックス)』、と。

 

「リヴェリア、手を出さないで」

 

 特別な間隔を持ち、姿形がそれぞれ異なる『迷宮の孤王(モンスター・レックス)』に共通していることは、出鱈目なほどに強いということ。

 

 各階層ごとに推定されているレベルの、そのプラス“二”以上と言われている。

 

 第三級以上の冒険者達からは階層主という名で恐れられているように、本来ならば大人数の冒険者達が徒党を組み、連携して攻略に乗り出すような存在だ。

 

「アイズ、本当に一人でやるつもりか?」

 

 険しい目付きをしてリヴェリアは問うた。

 

 アイズは一本の銀の剣を提げ、凄まじい咆哮で威嚇してくるモンスター『ウダイオス』へ静かに歩み寄っていく。

 

「大丈夫」

 

 今までに階層主の単独討伐に成功したのは、どれも現代の覇者たるLv.7以上の傑物に至った者しかおらず、成すことが出来れば間違いなく偉業となるだろう。

 

「絶対、勝つから」

 

 そう、彼女は二対四本──つまり四本腕の階層主、強化種に分類される本来であればあり得ない個体と、単独で対峙した。

 

 一週間後、Lv.6に到達したという【剣姫】の噂が、オラリオ中を駆け巡ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一、二、三、四…四本腕のウダイオス?!

 

 いや、ズルすぎるでしょ、アイズさんっ!!

 

 って事は大剣も四本落とすってこと!?

 

 あ、四本腕からほんまに四本大剣取り出しやがった。

 

 まじか、今度は絶対僕が狩ろ。潜在能力(ポテンシャル)はLv.7程度、バロールよりは弱いな、うん。

 

 はぁ、良いなぁ〜、アイズさん。ズリーよ、まさか二つ名が【剣姫】だからかっ?!

 

 じゃあ僕も二つ名【剣聖】にしてもらったらウダイオス君も四本腕で出てきてくれますかね?

 

 ていうか、もし3ヶ月後に僕が挑んだ時、四本腕じゃなかったら闘技場(コロシアム)で暴れまわるからな、覚えとけよダンジョン。

 

 ってうわっ!?まじか、斬光撃ってきやがった。え?僕への宣戦布告ですか?

 

 この斬光マスターに宣戦布告とは、いい度胸だ。次出てきたら必ず僕が倒すからねっ!

 

 て、アイズさん風なんか黒くなってませ?

 

 いや、それは駄目ですよ、流石に。危ないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 最後に出てきた『ウダイオス』君。

 

 二対四本の多腕階層主。ベルやオッタル、レオンにザルドなど、大剣欲しさにボコられ過ぎてダンジョン君が可哀想だから強化して上げた。今回もヤベェ奴等に狩られると思ったら可愛いお人形さんでダンジョンさんもびっくり。

 

ダンジョン「あれ?お前誰だよ」

 

ウダイオス君「え?お前誰?いつもの白髪の悪魔は?あの獅子とか武人は?なんか可愛くね?」

 

アイズちゃん「あれ?なんか腕多くない?」

 

ベル「ずるくね?アイズさん」

 

オッタル&レオン&ザルド「よし、斬光の喰らい合いだ」

 

 ちなみに今作のベルきゅんは他のファミリアの団員だろうが公開されているステイタスは全て、詳細込みで知っている為、戦争遊戯(ウォーゲーム)になったら思いっ切り弱点を突かれます。

 

 

 

 【アイズ・ヴァレンシュタイン】

所属:ロキ・ファミリア

【ステイタス】

『Lv.5』→『Lv.6』

≪基本アビリティ≫

 力:D591→I0

耐久:D575→I0

器用:A869→I0

敏捷:S900→I0

魔力:S924→I0

≪発展アビリティ≫

狩人:G→F

耐異常:G

剣士:H→G

精癒:I

≪魔法≫

【エアリエル】

・付与魔法(エンチャント)。

・風属性。

詠唱式:【目覚めよ(テンペスト)】

≪スキル≫

【復讐姫(アヴェンジャー)】

・任意発動(アクティブトリガー)。

・怪物種に対する攻撃力高域強化。

・竜種に対する攻撃力超高強化。

・英雄の敵対者に対する全能力の超高補正。

・憎悪の丈にて効果上昇。





《あとがき》

 やっべぇ、俺達のせいでウダイオス君強化されちゃった?!by大馬鹿野郎共(ベル、オッタル、レオン、ザルド)。

【不撓猛猪(バーサーク・オッタル)】
・戦闘時、『耐久』の超高補正。
・損傷の自動回復(オートヒール)。
・各属性魔法攻撃に対する超耐性。
・戦闘時間に比例して全スキル補正効果上昇。

 今作で強化されたオッタルのスキル。耐久が爆上がりと損傷の自動回復(オートヒール)、魔法にも強くなる。戦闘時間に応じて、他のスキルの補正効果も上昇する(つまり、獣化の効果も上昇する)。

 レオンやザルド、アリーゼやリュー、輝夜達なんかも強化されてる。勿論ヴェルフも。ベルは言わずもがな。
 ただ一番強化したのはアルフィア、これだけは確信して言える。


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