本来なら余裕がある時に作成して投稿する予定でしたが、週末残業続きになりそうな感じの為、この3話と次話の4話を週末前に投稿しようと思ってます。
その後は完全に未定です。
パスポートの有効期限が近づいていたため、一度日本へ帰国することになった白瀬朔。
必要な手続きを済ませ、再びドイツへ戻る。それだけの予定だった。
——あの記者会見を見るまでは。
日本滞在中、偶然目にしたブルーロックプロジェクト。
世界一のストライカーを生み出す。
その目的を掲げ、日本サッカー界に新たな風を吹き込もうとする計画は、白瀬にとって興味深いものだった。
ドイツの強豪クラブ、バスタード・ミュンヘンの下部組織に身を置く白瀬は、日々の練習を通して世界の厳しさを肌で感じている。
——才能のある選手は、世界中にいる。
その中で頭一つ抜け出すためには、技術だけでなく、判断力や個人の能力を磨き続けなければならない。
そんな環境でサッカーを続けてきたからこそ、ブルーロックの掲げる理念は、簡単に聞き流せるものではなかった。
日本のサッカーは、これからどう変わるのだろうか。
あのプロジェクトは、本当に日本を進化させるのだろうか。
それとも、ただ大きな理想を掲げているだけなのか。
考えれば考えるほど、疑問は尽きなかった。
帰国の目的を果たした朔は、再びドイツへと戻った。
しかし、ブルーロックへの関心まで日本に置いてくることはできなかった。
ドイツへ戻ってから数日後。
練習を終えた朔は、ロッカールームでスマートフォンを操作していた。
画面に表示されているのは、日本のサッカー関連のニュース。
その中でも、特に目を引くのはブルーロックプロジェクトに関する記事だった。
新たな情報が出ていないか確認していたところ、背後から声がかかる。
「Was machst du da?」
(何をしているんだ?)
振り返ると、そこにはミヒャエル・カイザーが立っていた。
その後ろには、アレクシス・ネスの姿もある。
白瀬が手にしているスマートフォンへ視線を落としたカイザーは、画面に表示された文字を読み取ると、興味深そうに口角を上げた。
「Blue Lock? Was ist das für ein Projekt?」
(ブルーロック? これはどんなプロジェクトなんだ?)
カイザーの問いに、ネスも画面を覗き込む。
「Ein japanisches Fußballprojekt? Warum interessiert dich das, Saku?」
(日本のサッカープロジェクトですか? どうしてそんなものに興味があるんですか、朔?)
白瀬はスマートフォンを操作し、記事を閉じた。
「Ich bin nur neugierig. Japan will mit diesem Projekt den besten Stürmer der Welt erschaffen. Ich möchte wissen, was sie wirklich vorhaben.」
(ただ気になっているだけだよ。日本はこのプロジェクトで世界一のストライカーを生み出そうとしている。実際に何をしようとしているのか、知りたいんだ)
「Den besten Stürmer der Welt? Ausgerechnet Japan?」
(世界一のストライカー? よりによって日本で?)
カイザーは愉快そうに笑った。
「Das klingt ziemlich großspurig. Glaubst du wirklich, dass sie das schaffen?」
(ずいぶん大きく出たものだな。本当にそんなことができると思うのか?)
「Das weiß ich nicht. Deshalb möchte ich es selbst sehen.」
(それは分からない。だから、自分の目で確かめたいんだ)
白瀬の返答に、カイザーは一瞬だけ目を細めた。
「Interessant. Du willst also wissen, ob sie etwas draufhaben?」
(面白いな。つまり、あいつらに実力があるのか知りたいわけか?)
「Genau.」
(そのとおり)
カイザーは喉の奥で笑った。
「Ha! Einen Weltklasse-Stürmer in Japan zu erschaffen … Das ist wirklich lächerlich.」
(ハッ! 日本で世界クラスのストライカーを生み出す、か……本当に笑わせてくれる)
その表情に浮かぶのは、純粋な嘲笑だった。
世界一を名乗ることと、実際に世界一になること。その間にある隔たりを、カイザーは誰よりも理解している。
「Wenn sie wirklich glauben, dass sie damit Erfolg haben, will ich sehen, wie weit sie kommen.」
(本気で成功すると思っているなら、どこまでやれるのか見てみたいものだな)
その言葉に、白瀬は小さく笑みを浮かべた。
「Ich auch.」
(僕もだよ)
カイザーは朔を一瞥すると、興味を失ったように視線を外した。
「Na dann. Mal sehen, ob sie mehr zu bieten haben als große Worte.」
(なら、お手並み拝見といこうか。大口を叩くだけじゃないことを願うね)
そう言って、カイザーはその場を離れた。
ネスも続こうとしたが、ふと足を止めて白瀬を振り返る。
「Sie interessieren sich wirklich sehr dafür, nicht wahr?」
(本当に興味がおありなんですね)
「Findest du?」
(そう見える?)
「Ja. Aber bitte vergessen Sie nicht, dass Sie hier ebenfalls viel zu tun haben.」
(ええ。ただ、こちらでもやるべきことがたくさんあるのをお忘れにならないでくださいね)
「Natürlich. Ich habe nicht vor, meine Arbeit hier zu vernachlässigen.」
(もちろん。こっちを疎かにするつもりはないよ)
「Dann bin ich beruhigt.」
(それなら安心しました)
ネスは軽く会釈し、カイザーの後を追った。
2人の姿が見えなくなってからも、白瀬はしばらくスマートフォンを見つめていた。
世界一のストライカーを生み出す。
簡単に実現できる目標ではない。
けれど、だからこそ気になった。
もし、本当にその計画が成功したら。
日本のサッカーは、どこまで変わるのだろうか。
そして、そこに集まる選手たちは、どんな可能性を秘めているのだろうか。
記事を読むだけでは、分からないことばかりだった。
実際に目で見て、空気を感じて、自分なりに判断したい。
誰かに勧められたからではない。
カイザーに言われたからでも、ネスに何かを期待されたからでもない。
——自分が知りたいと思った。
それだけで、行く理由としては十分だった。
「……よし」
白瀬はスマートフォンを閉じた。
今すぐにでも日本へ飛びたい気持ちはあったが、こちらでの練習や予定を無視するわけにはいかない。
必要な調整を済ませてからにしよう。
そう考え、白瀬は荷物を仕舞い、その場を後にした。
ブルーロックプロジェクトの記者会見を見てから、およそ一ヶ月が経った。
ドイツでの日常を送りながらも、白瀬はブルーロックに関する情報を追い続けていた。
新たな記事が出れば目を通し、公開された情報があれば確認する。
そうして情報を集めるうちに、白瀬の中では一つの考えが固まりつつあった。
——一度、実際に見ておきたい。
自分が普段身を置いている環境とは異なる場所で、選手たちがどのような競争を繰り広げているのか。
そして、あの計画が本当に日本サッカーの未来を変え得るものなのか。
それを確かめずにはいられなかった。
幸い、今すぐドイツを離れなければならないような事情はない。
必要な調整を済ませた朔は、再び日本へ向かうことを決めた。
今度は、パスポートを更新する為でも帰国する為でもない。
自分の意思で、ブルーロックを見に行くために。
「……で、お前は何しに来た?」
開口一番、そう尋ねられた。
白瀬は目の前に座る人物を見据える。
無造作な髪に、気だるげな表情。
しかし、眼鏡の奥にある目だけは、こちらを値踏みするように鋭く光っていた。
——絵心甚八。
ブルーロックプロジェクトの指揮を執る男だ。
ここは、そのプロジェクトの中枢ともいえる施設の一室。
白瀬は今、ブルーロックの総責任者である絵心と向かい合っていた。
「見学、と言えばいいのかな」
「見学だぁ?」
絵心は露骨に顔をしかめた。
「お前、ここが観光施設か何かだと思ってんのか? わざわざ海を越えてやってきて、見学させてください、で済むと思ってるなら大間違いだぞ」
「そこまで軽い気持ちで来たつもりはないよ」
「なら、用件をさっさと言え。こっちは暇じゃねぇんだ」
容赦のない言葉が飛んでくる。
初対面の相手に対する遠慮など、絵心には微塵もないらしい。
しかし、白瀬も怯むことはなかった。
「日本で何をしようとしているのか、知りたくて来たんだ」
「はっ。ニュースでも見てろよ。わざわざここまで来なきゃ分からねぇことでもあるのか?」
「記事を読むだけじゃ、分からないこともあるからね」
「具体的には?」
「日本サッカーを変えるっていう、その計画が本当にどこまで通用するのか。自分の目で確かめたくなった」
絵心はしばらく白瀬を見つめていた。
やがて、鼻で笑う。
「随分とご立派な理由だな。だが、ここはお前の好奇心を満たすための場所じゃねぇ」
「分かってるよ」
「分かってねぇから来たんだろ。ここにいる連中は、人生を懸けてサッカーをやってんだ。外から来た人間が、面白半分に覗きに来る場所じゃねぇんだよ」
鋭い言葉だった。
けれど、白瀬は目を逸らさなかった。
「面白半分じゃない。だから、ここまで来たんだ」
絵心の目が、わずかに細くなる。
「……へぇ」
短く声を漏らした後、絵心は椅子の背もたれに体を預けた。
「まあいい。お前が何を見て、何を感じるかは勝手だ。だが、俺の邪魔だけはするな」
「分かった」
「それと、勝手に施設内をうろつくな。見たいものがあるなら、許可を取れ。余計な問題を起こされたら面倒だからな」
「了解」
白瀬は素直に頷いた。
ブルーロックがどんな場所なのか。
そこに集められた選手たちが、どれほどの才能を持っているのか。
それを確かめるために、ここまで来たのだ。
今の段階で、何かを変えようとするつもりはなかった。
ただ、自分の目で見てみたい。
それだけだった。
——そのとき。
勢いよく扉が開いた。
「絵心さん、大変です!」
慌てた様子で部屋へ飛び込んできたのは、帝襟アンリだった。
「世界選抜の予算を計算し直したんですけど、このままだと完全に赤字になります!」
部屋の空気が、一瞬で止まった。
アンリはそこでようやく、絵心以外の人物が室内にいることに気づいた。
「あっ……」
気まずそうに口をつぐむアンリ。
しかし、すでに遅かった。
その場にいた白瀬の耳には、彼女の言葉がはっきりと届いていたのだから。
——世界選抜。
——予算。
——赤字。
聞き捨てならない単語が、頭の中を駆け巡る。
白瀬はゆっくりと絵心へ視線を向けた。
絵心は、心底面倒くさそうにため息をついた。
「……うるせぇな。今その話をする必要があんのか?」
「ありますよ! だって、このままじゃ計画そのものが――」
二人のやり取りを聞きながら、白瀬はふと顔を上げた。
――世界選抜。
聞き慣れない言葉に、好奇心がくすぐられる。
日本のサッカーを変えようとしている、このブルーロックという場所。そこでは、自分が想像していた以上に面白いことが起きようとしているのかもしれない。
白瀬は小さく笑みを浮かべると、二人の会話に割って入った。
「随分と面白そうな話だね? 僕にも聞かせてよ」
そして、このプロジェクトは——。
どうやら、自分が思っていた以上にブルーロックに興味を惹かれているらしい。
話の展開的には長くなり過ぎない程度には纏まったかなと思ってますが、いざ途中から関わる事を考えたら難しいものですね…
地味にオリジナル主人公の口調を決めてなかったので、もしかしたら修正するかもです。