ブルーロック 〜もう1人の天才MF〜   作:真神楽

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これで書き溜めも無くなりますので、次回は未定になります。


vsストライカー

二次選考を突破した五人が、指定された部屋へと足を踏み入れる。

そこに待ち受けていたのは、世界各国から集められた五人の選手――世界選抜(World Five)だった。

 

先頭に立つのは、ジュリアン・ロキ。

若くして世界の舞台で活躍する、圧倒的なスピードを誇る選手だ。無駄のない身のこなしと、年齢にそぐわない落ち着きを感じさせる佇まいが印象的だった。

 

その隣にいるのは、レオナルド・ルナ。

余裕を感じさせる笑みを浮かべ、相手を見定めるような視線を向けている。どこか人を食ったような態度からは、確かな実力に裏打ちされた自信がうかがえた。

 

アダム・ブレイクは、鍛え上げられた大柄な身体が目を引く男だった。立っているだけでも伝わってくる威圧感は、世界のトップレベルで戦う選手ならではのものだろう。

 

ダダ・シウバもまた、恵まれた体格と堂々とした雰囲気を備えていた。周囲を気にする様子もなく、これから対峙する五人を大らかに見渡している。

 

そして、彼らと並ぶもう一人。

 

 白瀬朔。

 

ドイツの強豪クラブ、バスタード・ミュンヘンの下部組織に所属する天才MFだ。

普段はピッチの上で周囲を観察し、味方を動かす側にいる彼が、今は世界選抜の一員として、これから対戦する五人を眺めていた。

 

 糸師凛。

 蟻生十兵衛。

 時光青志。

 蜂楽廻。

 潔世一。

 

白瀬は一人ひとりの顔を見ながら、興味深そうに目を細めた。

 

 ――なるほど。思っていたよりも、ずっと個性的な顔ぶれだ。

 

そんな白瀬の視線など気にも留めず、世界選抜の一人が五人を見渡して口を開いた。

 

「These are the players who made it through the second selection?」

(こいつらが二次選考を突破した選手たちか?)

 

アダム・ブレイクは値踏みするように、彼らの身体を上から下まで眺める。

 

「They look pretty thin. Are you sure they’re supposed to be strikers?」

(ずいぶん細いな。本当にこいつらがストライカーなのか?)

 

その言葉に、ダダ・シウバも面白がるように笑った。

 

「I expected something more impressive.」

(もっとすごい連中を想像していたんだがな)

 

露骨な侮蔑を含んだ視線。

潔は思わず眉をひそめ、蜂楽は相手の顔を見比べる。時光は相手の圧倒的な存在感に気圧されたように、落ち着かない様子で視線を泳がせていた。

対して、蟻生は相手の言葉を聞き取っていたものの、すぐには口を挟めない。

 

だが――凛だけは、彼らの言葉を理解したうえで、微塵も臆することなく口を開いた。

 

「If you’re going to judge us by our appearance, you’re already making a mistake.」

(見た目だけで俺たちを判断するなら、その時点でお前らは間違ってる)

 

流暢な英語で返された言葉に、世界選抜の面々がわずかに反応する。

凛は冷めた目で彼らを見据えた。

 

「You’ll understand once we play. Or are you afraid of being proven wrong?」

(試合をすれば分かる。……それとも、自分たちの見立てが間違っていたと証明されるのが怖いのか?)

 

挑発的な言葉。

しかし、ダダ・シウバは怒るどころか、愉快そうに口角を上げた。

 

「Oh? You’ve got quite a mouth on you.」

(へえ? ずいぶん口が達者じゃないか)

 

白瀬は、そのやり取りを黙って見ていた。

凛の挑発にも、相手の余裕にも、どこか興味を引かれるものがある。

彼らはまだ、自分たちがどれほどの相手と向き合おうとしているのか、本当の意味では理解していないのだろう。

もちろん、それは世界選抜の側にも言えることだった。

白瀬は小さく笑みを浮かべる。

 

 ――さて。君たちは、どこまで僕たちを楽しませてくれるのかな。

 

 

 

 

 

 ――少し前。

 

「随分と面白そうな話だね? 僕にも聞かせてよ」

 

白瀬の言葉に、アンリと絵心の視線が同時に向いた。

突然会話に割り込んできた少年を、絵心は不機嫌そうに見据える。

 

「……お前、まだいたのか」

「うん。ちょうど気になる話が聞こえてきたからね」

「聞こえてきたから、で首を突っ込むな。こっちは遊びでやってんじゃねぇんだよ」

「それは分かってるよ。でも、世界選抜って言ったよね?」

 

白瀬は気にした様子もなく、絵心を見返した。

 

「僕をそのメンバーに加えることはできない?」

「……は?」

 

絵心の眉間に、深い皺が刻まれる。

 

「お前、自分が何を言ってるのか分かってんのか?」

「もちろん。日本のストライカーたちが、世界を相手にどこまでやれるのか。僕も実際に見てみたいんだ」

「見たいだけなら客席で見てろ。わざわざ選手として参加する必要はねぇだろ」

「それじゃあ、つまらないよ」

 

白瀬はあっさりと言い切った。

 

「外から眺めるだけじゃ分からないこともある。実際に同じピッチに立ってみれば、彼らが何を考えて、どこまで通用するのか、もっとよく分かると思うんだ」

 

その言葉を聞いて、絵心はしばらく白瀬を見つめた。

 

 ――ただの好奇心。

 

そう片づけるには、白瀬の目は妙に真剣だった。

だが、絵心は興味を持った様子を見せるどころか、鼻で笑った。

 

「お前の好奇心なんざ知ったことか。そもそも、ここは日本のストライカーを育てるための施設だ。海外のクラブに所属してるお前を、何の条件もなしに参加させる理由がねぇ」

「じゃあ、条件をつければいい」

「……ほう?」

「僕もストライカーとして動く。世界選抜は世界トップレベルのFWを集めてるんでしょ?それなら問題ないよね?」

 

白瀬は少しも迷わずに答えた。

普段の彼は、MFとして試合全体を見渡し、状況に応じて味方を活かすことを得意としている。

だが、だからといって自らゴールを狙うことに興味がないわけではない。

むしろ、自分とは異なる役割を求められる環境で、どこまでできるのか試してみたいと思っていた。

 

 それに――。

 

ブルーロックが生み出そうとしているものを、ただ外から眺めて終わるつもりはなかった。

絵心は腕を組み、数秒ほど考え込む。

 

「……いいだろう」

「本当に?」

「勘違いするな。お前を特別扱いするつもりはねぇ。参加する以上、俺が決めたルールには従ってもらう。ストライカーとして結果を出せなきゃ、ただの見物人以下だ」

「分かってるよ」

「なら勝手にしろ。お前が何を見せるのか、こっちも見させてもらう」

 

絵心の許可を得た白瀬は、満足そうに微笑んだ。

 

「ありがとう。楽しみにしてるよ」

「礼を言う相手を間違えるな。お前が勝手に面白がってるだけだろうが」

 

吐き捨てるように言う絵心を見て、白瀬は小さく笑った。

 

 ――やっぱり、面白そうだ。

 

 

 

 

 

そして現在。

世界選抜の一人が、凛の挑発を受けて楽しそうに笑っていた。

 

「Let’s see if you can back up those words.」

(その言葉に見合う実力があるか、見せてもらおうか)

 

凛は視線を逸らさない。

その隣で、潔は世界選抜の面々を見据えながら、強く拳を握りしめていた。

体格も、雰囲気も、纏っている空気さえも違う。

目の前にいるのは、自分たちがこれから越えなければならない世界の壁だ。

 

 そして、その壁の一角には――。

 

「……よろしくね」

 

白瀬が、穏やかな笑みを浮かべて立っていた。

その表情からは、彼が何を考えているのか読み取れない。

ただ一つ確かなのは、彼自身もまた、この対戦を心から楽しみにしているということだった。

 

 

 

 

 

試合開始の合図とともに、ブルーロック側が動き出した。

潔からボールを受け取った蜂楽は、目の前に立つ白瀬朔を見て、楽しそうに口元を緩める。

軽やかにボールを転がし、細かなタッチで朔との距離を詰めていく。

 

 ――左右へと自由に揺れる身体。足元で刻まれる不規則なリズム。

 

そこに決まった型はない。

思いつくままに足を動かし、頭の中に浮かんだイメージを、そのままピッチの上に描き出していく。

まるで、自分だけの世界を楽しんでいるかのようなドリブルだった。

相手がどう反応するかを窺い、それに合わせて動きを変えるのではない。

自分の思い描くプレーを、相手にも押し付ける。

その自由奔放な発想と予測しきれないボールタッチこそが、蜂楽の持ち味だった。

白瀬は無理に飛び込まず、蜂楽の動きを見つめていた。

 

 ――自由だな。

 

次に何をするのか、決まった答えを探そうとしても意味がない。

蜂楽は自分の感覚に従って、思い描いたプレーを次々と繰り出してくる。

だからこそ、白瀬はその動きに翻弄されることなく、ボールが足元から離れる瞬間や、身体の重心が移るわずかな隙を見極めようとしていた。

蜂楽が右へ身体を傾ける。

 

 ――ボールが足元を離れ、次のタッチへと移る。

 

白瀬は進路を塞ぐように一歩踏み出した。

蜂楽はすぐさまボールを引き寄せ、別の方向へと持ち出そうとする。

だが、白瀬は簡単には抜かせない。

 

「へえ……抜かせてくれないんだ」

 

蜂楽は楽しそうに笑った。

 

「その程度じゃ、抜かせないよ」

 

白瀬は淡々と答え、再び蜂楽の足元へ視線を落とす。

蜂楽のドリブルには、相手を誘い込むために用意された決まった手順があるわけではない。だからこそ、その場で生まれる一瞬の変化を見逃さないことが重要だった。

蜂楽はさらにボールを細かく動かし、自分のイメージを形にするように仕掛けてくる。

白瀬はその自由な動きに合わせながら、距離を保ち続けた。

そして、次の瞬間。

蜂楽がボールを大きく動かそうとした刹那、足元からボールがわずかに離れた。

 

 ――ほんの一瞬の隙。

 

白瀬は迷わず足を伸ばした。

 

 ――カット。

 

ボールが蜂楽の足元から弾き出される。

 

「あっ!」

 

蜂楽が声を上げたときには、白瀬はすでにボールへと足を伸ばしていた。

しかし、弾き出されたボールは白瀬の足元へ収まることなく、すぐ近くにいた時光の方向へと転がっていく。

 

「ひゃああっ! 取らせないよぉ!」

 

時光は怯えたような声とは裏腹に、勢いよく身体をぶつけてきた。

ショルダーチャージ。

白瀬がボールを確保しようとした瞬間、時光の肩が身体の側面へ食い込む。

 

「っ……!」

 

白瀬は足を踏ん張る。

だが、身体の強さでは時光が上回っていた。

十六歳の白瀬にとって、鍛え上げられた時光のフィジカルは簡単に押し返せるものではない。

肩から伝わる衝撃に、白瀬の身体がわずかに流れる。

その隙に、時光はボールとの間へ身体を入れた。

 

「ご、ごめんね! でも、ボールはもらうよぉ!」

 

時光はそのままボールをキープする。

白瀬が体勢を立て直したときには、時光はすでにボールを蜂楽へと戻していた。

 

「ありがと、時光!」

 

蜂楽はボールを受け取ると、再び前を向いた。

その表情には、先ほどボールをカットされたことへの落胆も、時光に助けられたことへの気負いもない。

ただ、もう一度自分のイメージを試せることが嬉しい。そんな様子だった。

白瀬は二人の動きを眺めながら、わずかに目を細める。

一度は蜂楽のドリブルからボールを奪った。

けれど、弾き出されたボールを時光が見逃さず、持ち前のフィジカルでつないだことで、攻撃は途切れなかった。

個人の技術だけでは完結しない。

その場にいる選手の能力が噛み合うことで、プレーは次へとつながっていく。

 

 ――なるほど。リスクを加味してポジショニングしてたんだ

 

白瀬の意識は、すでに次の展開へと向いていた。

蜂楽が再びボールを運び出す。

白瀬もその動きに対応しようとした、そのときだった。

 

 ――潔が、動いた。

 

ボールを持つ蜂楽から少し離れた位置で、潔がゴール前へ向かって走り出す。

ボールを受けるための動きではない。

自分へ意識を向けさせ、守備の視線を引きつけるためのオフザボールの動きだった。

その動きによって、世界選抜側の守備に一瞬のズレが生まれる。

蜂楽はその隙を見逃さなかった。

潔の動きを利用するように、ゴール前へとボールを送り込む。

 

 そして――。

 

凛が、そこにいた。

潔の動きによって生まれたわずかな空間。そこへ入り込んだ凛は、迷うことなくボールを捉え、ゴールへと叩き込んだ。

ネットが揺れる。

ブルーロック側の先制点。

 

「ナイス、凛ちゃん!」

 

蜂楽が明るく声を上げる。

潔は自分の動きが得点につながったことを理解し、ゴールを見つめていた。

凛は大きく喜ぶこともなく、淡々とした表情で戻っていく。

一方、白瀬はゴール前の状況を振り返っていた。

自由な発想で仕掛けてくる蜂楽のドリブル。その中に生まれた一瞬の隙を突いて、白瀬はボールをカットした。

しかし、時光のフィジカルによってボールはつながれ、再び蜂楽の足元へ戻った。

そこから潔が守備の意識を引きつけ、その隙を凛が逃さず得点へと結びつけた。

わずかな攻防の中に、個々の発想と判断、そして連携が詰まっている。

白瀬は口元に薄く笑みを浮かべた。

 

 ――なるほど。こういうサッカーをするんだ。

 

勝敗そのものに、特別な執着はない。

ただ、自分の知らない発想や、予想もしなかったプレーに出会えることが面白い。

そして今、ブルーロックの選手たちは、確かに白瀬の好奇心を刺激していた。

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