※サブタイトルを変更しています。
ストライカーになるだとMFから転向すると捉えられてしまいそうなので…
「……チッ、舐めやがって……」
凛が思わず声を漏らす。
ロキたちはゴール前から動こうとしない。白瀬だけがボールを運んでいる
最初に動いたのは、凛だった――。
白瀬がボールを前へ運ぶと同時に、凛は正面から進路を塞ぐ。ゴールへ向かう最短のコースを消し、白瀬が次に選ぶ動きを見極めようとしていた。
「好き勝手に抜けると思うなよ」
鋭い声が飛ぶ。
白瀬は答えず、凛の足元と重心を観察した。
右へ行けば、凛はそちらを切る。左へ逃げても、すぐに追いつかれるだろう。
ならば――。
凛が踏み込む、その直前。
白瀬はボールをわずかにずらし、凛が重心を移した方向とは逆へと運んだ。
大きなフェイントはない。動きも最小限だ。
ただ、凛が反応するよりも早く、ボールが空いた進路へと抜けていく。
「……チッ!」
完全に抜かれてしまったが、凛はすぐさま身体を反転させ、白瀬を追った。
白瀬はその気配を背中に感じながら、前方へと加速する。
――こうしてみようか。
最初の一人を抜いたことに、特別な感慨はなかった。
「ここだろ……! 天才……!」
潔は白瀬の進路を予測し、先回りするように立ち位置を変えた。
先ほど凛を抜いたときの重心移動。ボールを運ぶ角度。次に向かおうとしている空間。
その情報から、潔は白瀬が選ぶであろう進路を絞り込んでいた。
しかし、白瀬は潔の動きを見ていた――。
潔が進路を塞ぐために重心を移した瞬間、白瀬はボールを半歩分だけ逆方向へずらす。
潔の足が伸びる。
――だが、届かない。
白瀬はそのまま、潔の横をすり抜けた。
「なっ……!」
潔は振り返り、白瀬の背中を目で追う。
予測そのものが間違っていたわけではない。
自分が進路を塞ぐために動く、その瞬間を狙われたのだ。
――こいつ、俺の動き出しを……!
白瀬は振り返らない。
――二人目。
次の相手は、もう目の前に迫っていた。
「へぇ……!」
蜂楽は楽しそうに笑いながら、白瀬との距離を詰めた。
これまでの二人とは違い、蜂楽は白瀬の進路をただ塞ぐのではなく、ボールの動きと重心を見ながら、白瀬から仕掛ける瞬間を探っていた。
白瀬もまた、蜂楽の足元を見ている。
どちらかが先に動けば、もう一方が反応する。
わずかな間合いの中で、二人の視線が交錯した。
白瀬の足が動く――。
右、左、右――。
高速のシザース。
足を素早く交差させ、左右どちらにも抜けられるように見せる。だが、蜂楽は簡単には釣られなかった。
ボールではなく、白瀬の重心を見極めようとしている。
白瀬は最後の一歩だけ、踏み込みの速度を変えた。
わずかに速くなる足の運び。
蜂楽の口元に笑みが浮かぶ――。
その変化を見逃さず、蜂楽が反応する。
だが――その瞬間こそ、白瀬が待っていたものだった。
白瀬はボールを押し出すように足を動かし、蜂楽が踏み込んだ足の間へと通す。
ボールが、蜂楽の股下を抜けた――。
「……っ!」
蜂楽が振り返る。
白瀬はすでに、その横を抜けていた。
同じように足を動かすだけでは、蜂楽を抜くことはできない。
だからこそ、白澤は蜂楽が自分の動きを見極めようとすることまで計算に入れ、最後の一歩で判断を迫ったのだ。
――三人目。
「アハッ! 今の、いいね!」
蜂楽の声が背後から響く。
白瀬はその声を聞きながら、次の相手へと視線を向けた。
蟻生十兵衛が、長い手足を広げて待ち構えていた。
「オシャに止める……!」
蟻生は長い足を伸ばし、白瀬の進路を塞ごうとする。
白瀬は蟻生のリーチを見て、わずかに進路を変えた。
大きく横へ逃げることはしない。
足元で細かくボールを動かし、蟻生の足が届く距離を測る。
右へ一度――。
すぐに左へ――。
そして、蟻生がボールを奪おうと長い足を伸ばした瞬間――。
白瀬はその伸ばした長い足の懐へとボールを通した。
「なっ……!」
蟻生の足先が空を切る。
細かなタッチでリーチの内側を抜けた白瀬は、そのまま前へと踏み出した。
――四人目。
だが、蟻生を抜けた瞬間だった。
「と、止める……!」
時光が、白瀬の進路へと強引に身体をねじ込もうとする。
前回、朔にショルダーチャージを仕掛け、ボール奪取を防いだ時光。
あのときは、自分のフィジカルが白瀬を上回った。
ならば今回も、身体をぶつければ止められる――。
時光はそう判断し、勢いを殺さずに白瀬へと迫った。
時光の肩が、白瀬の身体へ触れる寸前。
白瀬はボールを軽く浮かせた――。
「……っ!?」
時光が身体をねじ込んだ先を、ボールが越えていく。
白瀬は接触を受けながら身体をひねり、時光の背中で一回転するように宙を舞った。
視界が回る――。
それでも、ボールの位置だけは見失わない。
白瀬は身体の向きを整えながら着地し、浮かせたボールを次のタッチへとつなげた。
「なにそれ……!」
時光が目を見開く。
身体をぶつけて奪うはずだった。
それなのに、ボールは奪えず、白瀬はすでに自分の前を抜けている。
白瀬は着地した勢いをそのまま前進へとつなげた。
ゴールが見えた――。
白瀬は着地した直後から、ボールを運ぶ勢いを落とさずにシュートモーションへと入った。
狙うのは、右上隅――。
右足のインサイドでボールを捉え、回転をかける。ゴールの外側から内側へと曲がる軌道で、キーパーの届かない場所へ沈める。
そのイメージが、頭の中で形になった――。
白瀬は右足を振りかぶる。
だが――。
「撃たせるかよ!」
背後から、凛がギリギリで追いついた。
最初に抜かれたあとも、凛は追走を続けていた。潔と蜂楽を抜き、蟻生との攻防を経て、さらに時光のタックルをかわす。
その間も、凛は白瀬を必死に追い続けた――。
そして今、シュートを撃とうとする白瀬に追いつき、最後の一歩を踏み込んでシュートコースへと足を伸ばす。
朔が狙っていた右上隅への軌道。その出どころを見極め、ボールを蹴り出す瞬間にブロックを合わせようとしていた。
このまま撃てば、止められる――。
白瀬は一瞬で判断した。
それでも、シュートモーションは止めない――。
「追いつくんだ。凄いね、君」
声には、純粋な驚きと感心が滲んでいた。
五人を抜いて決めるつもりだった。
そのうちの一人を最初にかわしたあと、ここまで追いついてくるとは思っていなかった。
だが、凛は追いついた――。
ならば――。
白瀬は振り抜く右足の角度を、ほんのわずかに変えた。
インサイドで狙うはずだった右上隅へのカーブシュート。
その選択を捨て、足を振る軌道とボールを捉える位置だけを変える。
右足のアウトサイドスピン――。
鋭くボールを捉え、強烈な回転を与える。
凛が伸ばした足の間――
ボールは股下を抜けた。
「……っ!?」
凛の視界を、ボールがすり抜けていく。
直後、鋭い回転を伴ったボールが軌道を変えた。
ゴール右上隅――。
キーパーの手から逃げるように、ボールはネット右上隅へと突き刺さった。
――ゴール。
世界選抜、五点目。
白瀬は振り抜いた足を地面につけ、ゆっくりと身体を起こした。
ゴールを決めたことに、派手な喜びはない。
ただ、最後まで追いついてきた凛の動きが、白瀬の興味を引いていた。
予定していたシュートは止められるところだった――。
白瀬はゴールの方を見て、小さく笑った。
世界選抜 5 - 1 ブルーロック
試合が終わり世界選抜の五人が退室しようとした、そのとき――。
白瀬はふと思い出したように足を止め、振り返った。
「ねえ、凛君だったよね?」
「……何だ」
呼び止められた凛が、不機嫌そうに視線を向ける。
「ちょっと気になったんだけどさ」
白瀬は少し考えるように首を傾げた。
「君って、どうして冴君と同じようなプレーをするの?」
「……は?」
凛の眉間に皺が寄る。
「以前戦ったときは、もっと君自身のサッカーをしていた気がするんだよね。結構前だけど覚えてる。相手の持ってるものを全部引きずり出して、それを真正面から壊しにいくような……もっと、剥き出しのプレー」
白瀬は今日の試合を思い返すように、視線を少しだけ上げた。
「でも、今日は冴君みたいだった。相手の動きを見極めて、その逆を突いて、綺麗に崩そうとする」
そして、もう一度凛を見る――。
「……君自身は、今のプレーが好きなの?」
何の含みもない、ただの質問だった。
強いとも弱いとも言っていない。今のプレーを否定しているわけでもない。
ただ、本当に知りたかったのだ。
目の前にいる凛が、自分自身のサッカーをしているのかどうか。
「…………」
凛は答えなかった。
ただ、白瀬を睨みつける目が、先ほどまでとは違う鋭さを帯びていた。
「……お前に何が分かる」
吐き捨てるような声。
白瀬は怒らせてしまったことを気にするでもなく、小さく瞬きをした。
「んー……分からないから聞いてるんだけど。まぁいいや」
その言葉を最後に、白瀬は再び出口へと向き直った。
「じゃあね、凛君。また会ったら、今度はその答えも聞かせてよ」
まるで、また会うことが当たり前であるかのように。
白瀬は軽い足取りで仲間たちの後を追った。
残された凛は、何も答えないまま、その背中を睨み続けていた。
これでオリジナル主人公の最初の出番は終了ですね。
次に出る時は新英雄対戦になるかと思います。