残業明けのインスピレーションって凄いですね…。
自分にも言える事ですが…季節の変わり目なので、体調にお気を付けて…。
世界選抜との全試合が終了した。
白瀬はピッチを離れ、絵心のいる部屋へと足を運んでいた。
今日、二次選考を突破した選手たちと実際に対戦してみて、興味深い発見はいくつもあった。
型にはまらない発想で相手を翻弄する者。圧倒的な身体能力を武器にする者。味方の動きを利用し、自分のゴールへとつなげる者。
それぞれが異なる武器を持ち、異なる可能性を秘めていた。
その中でも、白瀬の頭に残っている選手が一人いた。
糸師凛――。
彼のプレーは、確かに優れていた。
相手の動きを読み、状況を把握し、その瞬間における最適解を選び取る。無駄がなく、正確で、隙も少ない。
だが――。
「……ねえ、絵心さん」
モニターを操作していた絵心に、白瀬が声をかけた。
「糸師凛君って、元からああいうプレースタイルなの?」
絵心の手が止まる。
「……ああいう、とは?」
「相手の動きを読んで、最適な選択をする。相手の嫌がる場所を突いて、効率よくゴールまで持っていく。そういうプレー」
白瀬は少し考えるように視線を上げた。
「もちろん、上手いとは思うよ。でも……僕の記憶にある彼とは、少し違う気がしたんだよね」
「お前は、糸師凛を知っているのか?」
「昔、少しだけね。冴君と一緒にプレーしているところを見たことがあるんだ。相対したと言った方がいいかな」
白瀬は、かつて見た少年の姿を思い返す。
あの頃の凛は、今よりもずっと荒削りだった。
相手の動きを読んで、最も効率のいい選択をする。そんな洗練されたプレーとは少し違う。
相手が何をしてくるのかを見極め、その持てるものをすべて引きずり出し、それを真正面から壊そうとする。
そこには、もっと強烈な我があった。
「今の凛君は、確かに上手いよ。相手の動きを読んで、最適な選択をしている」
白瀬は、先ほどの試合を思い返す。
「でも、それだけなら、いずれ限界が来ると思う」
「……ほう?」
絵心の口元が、わずかに吊り上がった。
「技術はもっと伸びるだろうし、判断も洗練されていくんじゃないかな。でも、それだけじゃ世界を超えられない」
白瀬は、絵心へ視線を向けた。
「昔の凛君は、もっと自分のサッカーをしていた気がするんだよね。今は誰かのプレーをなぞっているように見える」
「だったら、どうすればいいと思う?」
絵心の問いに、白瀬はあっさりと首を傾げた。
「さあ? 僕は指導者じゃないからね。そこは絵心さんの仕事でしょ?」
「クク……言ってくれるじゃねぇか」
絵心は椅子の背もたれに身体を預け、白瀬を見据えた。
「十六歳のガキが、随分と偉そうに他人の将来を語るもんだ」
「そうかな? 僕は見たままを言っただけだよ」
「見たまま、ねぇ……」
絵心は目を細めた。
「なら、お前には何が見えている? 糸師凛の何が、そこまで気になる?」
「気になる、か……」
白瀬は少しだけ考えたあと、穏やかに笑った。
「別に、今の凛君が嫌いなわけじゃないよ。ただ、もったいないと思っただけ」
「もったいない?」
「あれだけの才能があるんだから、もっと先に行けるはずでしょ? 今のままでも、技術は伸びると思う。でも、それだけじゃ、いつか自分の限界にぶつかるんじゃないかな」
白瀬は勝敗そのものに、さほど執着していない。
勝ったから嬉しいわけでも、負けたから悔しいわけでもない。
ただ、自分が面白いと思ったものが、どこまで通用するのか。それを見届けたいと思うことはあった。
かつて見た糸師凛と、今日対戦した糸師凛――。
二人の間にある違いが、白瀬には気になっていた。
「……なるほどな」
絵心は短く呟いた。
「お前がこの計画に興味を持った理由が、少し分かった気がする」
「そう?」
「個人の才能だけじゃねぇ。才能がどう変化して、どこへ向かうのか。それを見たいってわけだ」
「うーん……それもあるけど」
白瀬は曖昧に笑う。
「実際に見てみないと分からないことって、たくさんあるでしょ?」
「……まったく、面倒な野郎だ」
絵心は呆れたように吐き捨てたものの、その目には興味の色が浮かんでいた。
世界選抜の一員としてブルーロックの選手たちと対戦し、そのうえで彼らの未来にまで言及する。
白瀬朔という少年は、ただサッカーが上手いだけの選手ではないらしい。
絵心が再びモニターへ視線を戻そうとした、そのときだった。
――ブブッ、ブブッ。
静かな室内に、白瀬の携帯電話の振動音が響いた。
「あ、ごめん。ちょっと出るね」
白瀬はポケットから携帯電話を取り出し、画面を確認する。
そこに表示されていたのは、日本代表の関係者からの着信だった。
「……日本から?」
小さく呟いた白瀬は、通話ボタンを押した。
「もしもし、白瀬です」
電話の向こうから聞こえてきたのは、日本サッカー協会の関係者の声だった。
『突然の連絡ですまない。現在、日本で進められているブルーロックプロジェクトについては知っているな?』
「うん。もちろん」
『そのブルーロックと、U-20日本代表が試合をすることになった。そこで、君にもU-20日本代表の一員として参加してもらいたい』
「……へえ?」
白瀬は、少し意外そうに眉を上げた。
「ブルーロックとU-20日本代表が試合をするの? どうしてそんなことになったの?」
『ブルーロック側が、U-20日本代表との試合を要求してきたんだ』
「……へえ。向こうから?」
白瀬は意外そうに目を瞬かせると、ふと絵心へと視線を向けた。
ブルーロックの責任者である絵心甚八。彼が、わざわざU-20日本代表との試合を要求したということか。
『ああ。ブルーロックは、今回の試合で日本のサッカー界に自分たちの存在を認めさせようとしている』
電話の向こうの声が、わずかに低くなる。
『だが、こちらとしても彼らの好きにさせるわけにはいかない。ブルーロックの計画は、既存の日本サッカー界を否定するものだ。今回の試合で彼らを叩き潰し、その計画を終わらせる』
「……なるほどね」
白瀬は、静かに相槌を打った。
ブルーロックが、自分たちの存続を懸けてU-20日本代表に挑む。
そして日本サッカー協会は、その試合を利用してブルーロックを潰そうとしている。
双方の思惑がぶつかり合う、というわけだ。
「それで、僕を呼んだんだ?」
『そうだ。君は日本人選手であり、新世代世界11傑の候補にも名を連ねた天才MFだ。君の実力は、こちらも十分に把握している』
「ふうん」
『君が加われば、チームの戦力は大きく上がる。ブルーロックを確実に倒すためにも、ぜひ参加してほしい』
白瀬は返事をせず、少しだけ考え込んだ。
ブルーロックの選手たちとは、つい先ほど実際に対戦したばかりだ。
まだ未熟な部分は多い。世界のトップクラスとの差も、決して小さくはない。
けれど、彼らにはそれぞれ異なる武器があり、これから先、どんな成長を遂げるのか分からない面白さがあった。
そんな彼らを潰すために、自分を呼んだということか――。
『それに、今回のU-20日本代表には、糸師冴も参加する予定だ』
「……冴君も?」
白瀬の声に、ほんの少しだけ興味の色が混じった。
『ああ。彼も今回の試合に加わることになっている』
「そっか……」
白瀬は、そこでようやく納得したように呟いた。
冴も参加する。
ならば、話は簡単だ。
冴と自分が同じチームに入れば、戦力は十分すぎるほど揃う。ブルーロックの選手たちがどれほど奮闘しようと、勝利を掴むのはU-20日本代表になる可能性が極めて高い。
反対に、自分がブルーロック側に加わったとしても、勝ったら今度は自分が彼らを勝利へ導くことになってしまう。
どちらにしても、自分が結果を左右する――。
それでは、見たいものが見られない――。
「……そっか。じゃあ、今回は辞退させてもらおうかな」
『……何?』
電話の向こうから、困惑した声が返ってきた。
『待ってくれ。君ほどの選手が参加してくれることには、大きな意味がある。日本サッカー界にとっても重要な一戦なんだ』
「うん。それは分かってるよ」
白瀬は穏やかな口調で答えた。
「でも、冴君と僕が同じチームなんて、勝ちが決まっててつまらないでしょ?」
『それは……』
「冴君一人で充分だと思うよ。むしろ、僕がいたら試合が面白くなくなる」
白瀬は、さも当然のことのように続けた。
『君の力を過小評価しているわけではない。むしろ、だからこそ君の力が必要なんだ』
「だからこそ、だよ。ワンサイドゲームって、周りから見たら途中で飽きるものだよ」
『……君は、ブルーロックがU-20日本代表に勝つ可能性があると考えているのか?』
「さあ? そこまでは分からないよ」
白瀬は小さく笑った。
「だからこそ、見てみたいんじゃないかな。彼らが自分たちの力で、どこまで行けるのか」
『……』
「彼ら自身が勝利を掴むのか。それとも、届かずに終わるのか。そういう試合の方が、ずっと面白そうでしょ?」
電話の向こうから、すぐに返事はなかった。
白瀬は相手の返答を待っていたが、やがて小さく息を吐いた。
「ごめんね。せっかく誘ってくれたのに。でも、今回は遠慮しておくよ」
『……本当に、それでいいんだな?』
「うん。わざわざ連絡してくれてありがとう。それじゃあ、失礼するね」
そう告げて、白瀬は通話を終えた。
携帯電話をポケットにしまうと、先ほどから話を聞いていた絵心と目が合った。
「……お前、今の話を断ったのか?」
「うん」
「日本代表の招集を?」
「そうだよ」
あまりにもあっさりと答える白瀬に、絵心は眉間に皺を寄せた。
「理由を聞かせろ。まさか、ブルーロックに肩入れしてるわけじゃねぇだろうな?」
「肩入れ、か……。別に、そういうつもりはないよ」
白瀬は少し考えてから、穏やかに笑った。
「ただ、結果が分かりきっている試合って、あんまり面白くないでしょ?」
「……ほう?」
「冴君と僕が同じチームなら、流石に負けることは無い。逆に僕がブルーロック側に入ったとして、勝っても僕が勝利に導いたことになると思う」
白瀬は、まるで当たり前のことを説明するように続けた。
「それじゃあ、ブルーロックの選手たちが自分たちの力でどこまで行けるのか、ちゃんと見られない気がするんだよね」
勝ちたいわけではない。
負けたいわけでもない。
ただ、見届けたい――。
自分が手を貸さなかったとき、彼らがどこまで辿り着くのかを。
「……なるほどな」
絵心は口元を歪めた。
「自分が勝敗を左右する立場になるのが気に入らねぇってわけか」
「うーん、少し違うかな」
白瀬は首を傾げる。
「気に入らないわけじゃないよ。ただ、僕がいない方が面白そうだと思っただけ」
「クク……本当に、勝敗に興味がねぇんだな」
「勝敗に興味がないわけじゃないよ。どうしてそうなったのかには興味がある」
白瀬は、楽しそうに目を細めた。
「だからこそ、彼ら自身が選んで、戦って、勝つのか負けるのか。その過程を見たいんだ」
絵心はしばらく白瀬を見つめていたが、やがて小さく鼻を鳴らした。
「……好きにしろ。お前が何を見ようが、俺の知ったことじゃねぇ」
「うん。そうさせてもらうよ」
白瀬は軽く手を振り、部屋の出口へと向かった。
だが、扉に手をかけたところで、ふと思い出したように振り返る。
「……そういえば、絵心さん」
「今度は何だ?」
「ブルーロックに来てから、一番成長した選手って誰なの?」
絵心は怪訝そうに眉をひそめた。
「……いきなり何を聞くかと思えば」
「いや、ちょっと気になってね。ここに来る前と今とで、一番変わった選手って誰なのかなって」
白瀬は少しだけ考えるように視線を上げた。
「さっき話した凛君のこともそうだけど、選手って環境によって随分変わるものでしょ?」
「……ほう。それで?」
「ブルーロックという環境が、人をどう変えるのか。実際に彼らとやってみて、ますます興味が湧いたんだ」
絵心は白瀬を一瞥すると、口元を歪めた。
「成長した選手なら何人もいる。だが……そうだな。潔世一は、その筆頭と言えるかもしれない」
「潔世一……」
白瀬は、その名前を小さく繰り返した。
突出した身体能力があるわけでも、凛のように完成度の高いプレーを見せていたわけでもない。
それでも――。
白瀬は、試合の終盤を思い返す。
自分たちのプレーを観察し、味方と相手の動きを読み取り、その先にある展開を予測する。
最初は自分たちの動きを追うだけだったはずの少年が、少しずつ、その意図を理解し始めていた。
――そして最後には、白瀬のプレーに適応しかけていた。
「……ああ、あの適応してきた」
白瀬は納得したように呟いた。
「確かに、面白い選手だったね」
「潔は、自分に足りないものを認識し、それを埋めるために自分自身を変えていく。あいつの武器は、ただの空間認識能力じゃねぇ。自分の能力すら進化させ続ける、その適応力だ」
絵心は淡々と語る。
「もっとも、まだまだ未完成だがな」
「ふうん……」
白瀬は楽しそうに目を細めた。
自分自身を変えながら、相手に適応していく――。
それは、白瀬にとって興味深い話だった。
今の凛は、相手の動きを読み、最適な選択をすることで勝利を目指している。
だが、潔は違う。
相手を理解するだけでなく、その理解を自分自身の進化へとつなげようとしている。
もし、その適応力がさらに磨かれていけば――。
「……なるほどね」
白瀬は小さく笑った。
「これから、どう変わっていくのか楽しみだね」
「……お前も大概、変わった奴だな」
「そうかな?」
白瀬は肩をすくめる。
「面白いものは、最後まで見届けたいでしょ?」
そう言い残し、白瀬は今度こそ部屋を出ていった。
その足取りは軽い――。
流石にU-20日本代表戦は原作通りにしようと思ってます。
もう少しでオリジナル主人公を絡めれそうです。
途中で飽きて投稿止まるかと思ってましたが、衝動って凄いんですねぇ…。