ONE PIECE ― 飢狼の航路 ―   作:HINRON

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島を荒らす野獣

東の海を、小さな船がのんびりと進んでいた。

 

「……腹減ったなぁ」

 

船の上で腹をさすりながら、ラウは大きなため息をついた。昨日まで滞在していた島で手に入れた食材は、保存用の干し肉を残してほとんど食べ尽くしてしまったのだ。

干し肉も決して嫌いではないが、未知の食材を追い求めるラウにとって、同じ味が続くのは少々物足りない。

 

「やっぱ獲れたての食材が食いてぇよなぁ。こう、まだ見たこともねぇような獣の肉とか、どんな味がするのか想像もつかねぇ植物とかよ!」

 

そんなことを考えながら海風を吸い込んだとき、ラウの鼻がぴくりと動いた。

潮の香りに混じって、青々しい植物の匂いと、土の中で熟した木の実を思わせる甘い香りが流れてきたのだ。その奥には、獣の脂に似た濃厚な匂いまで混ざっている。

 

「……ん? なんだ、この匂い?」

 

ラウは顔を上げ、水平線の向こうに目を凝らした。青い海の先に、緑豊かな島が見える。

 

「おおっ、島じゃねぇか! しかも、なんか美味そうな匂いがするぞ!」

 

未知の食材があるかもしれない。そう考えた途端、さっきまでの空腹が冒険への期待に変わり、ラウの口元には自然と笑みが浮かんだ。

 

「よっしゃあ! 寄り道決定だ!」

 

船の進路を島へ向けると、ラウは鼻を頼りに、まだ見ぬ味との出会いを思い描きながら舵を握った。

 

島に上陸してしばらく歩くと、ラウは森の入り口に小さな村を見つけた。

木造の家々が並び、畑には葉の青々とした野菜が植えられている。穏やかな島の風景に見えたが、村の中央では数人の大人たちが険しい顔で話し合っており、そのそばには腕に包帯を巻いた若い男もいた。

 

「だから、森に入るのはやめておけと言っただろう! 次は命を落とすかもしれんのだぞ!」

 

「でも、このままじゃ畑も倉庫も空っぽになっちまう! 冬まで食料がもたないぞ!」

 

切羽詰まった声が聞こえ、ラウは興味を引かれたように近づいた。

 

「おう、何かあったのか?」

 

突然声をかけられた村人たちは、そろって振り向いた。見慣れない旅人を警戒している様子だったが、ラウが敵意のない笑顔を浮かべているのを見て、年配の男が一歩前へ出た。

 

「旅の人かね? すまないが、今は客人をもてなせるような余裕がないんだ」

 

「いやいや、そんな大げさな話じゃねぇよ。ちょっと腹が減ってな。何か食えるもんがあればと思っただけだ」

 

「それが……食料に余裕がないんだ」

 

男は苦々しげに森を振り返った。

 

「森にいる野獣が畑を荒らし、倉庫まで襲うようになってしまってな。追い払おうにも、あまりに力が強い。すでに何人かが怪我をしている」

 

「野獣ねぇ……」

 

ラウの目が、森の奥へ向いた。船の上で感じた獣の脂に似た匂いは、あの森から流れてきたものだったのかもしれない。

 

「そいつは、いつ頃から村に来るようになったんだ?」

 

「数週間前からだ。最初は森の奥で見かける程度だったんだが、日に日に村へ近づいてきている。何か理由があるのかもしれんが、私たちには確かめる術がない」

 

「森の食いもんが減ったとか?」

 

年配の男は驚いたように目を見開いた。

 

「……確かに、今年は木の実が少ない。森で暮らす獣たちも、食料に困っているのかもしれんな」

 

ラウは腕を組み、少し考え込んだ。

野獣が村を荒らしているのは事実だが、だからといって、ただ凶暴な獣だと決めつけるのは早い。食料を求めているのか、住処を追われたのか、それとも森の奥で何か別の異変が起きているのか。まずは実際に足を運び、獣の行動を確かめる必要がある。

 

「よし、ちょっと見てくるわ」

 

「「「なにっ!?」」」

 

村人たちが一斉に声を上げた。

 

「森へ行くというのか! やめておけ! あの獣は人間を見れば襲いかかってくるんだぞ!」

 

「大丈夫だって。ちょっと様子を見るだけだ」

 

「君はあの獣を知らないからそんなことが言えるんだ!」

 

若い男が声を荒らげる。

しかし、ラウは怒るどころか、むしろ楽しそうに笑った。

 

「知らねぇから見に行くんだろ? どんな獣なのかも、何を食ってるのかも分からねぇ。だったら、まずは調べてみるのが一番だ」

 

「しかし……」

 

「それに!」

 

ラウは森を指差し、満面の笑みを浮かべた。

 

「さっきから、すげぇ美味そうな匂いがするんだよ! どんな食材があるのか、気になって仕方ねぇ!」

 

村人たちは顔を見合わせた。

どうやら、この男は島を救おうとしているのか、それとも食材を探したいだけなのか、自分でもあまり区別していないらしい。

 

「……変わった旅人だな」

 

年配の男が呆れたように呟くと、ラウは大声で笑った。

 

「よく言われる!」

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