超かぐや姫 短編集   作:ウキメ

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とある百合作品をみてピアスの穴を開けるのって叡智なのでは? と思ったけどなんでこんなことに。


芦花「イエーイ。ヤチヨちゃん、見てるー?」

 

 

 

その日、酒寄彩葉はツクヨミで発表されたニュースの一つに目を奪われていた。

 

「これは……悩む」

 

眉間に深い谷間を作りながら覗き込むウィンドウにはツクヨミとリアル企業とのコラボ情報。

 

そこには近々現実側で発売されるアクセサリがツクヨミとのコラボデザインとなっており、そこには実物と同じデザインのアクセサリーを身に着けたヤチヨの姿も映されていた。

 

青い輝石をメインに据えた銀のフレームのそれはヤチヨにとても似合っていて油断するとメロ付きそうになるのだが問題は――

 

「ピアス、か。同じデザインのイヤリングとかないのかな」

 

呟きながら耳元に触れる。

 

ツクヨミにログインしている今の姿はアバターなので耳元といっても狐耳なので意味がない行動だ。そうだと分かっていてもやってしまうのはそこに問題があるからだ。

 

リアル側の自分の耳朶にはピアス用の穴がないのだ。

 

身に着けられないアクセサリを買うほどは流石に狂ってはいない――いな、い。

 

(費用的には問題ないんだけど……)

 

複数のウィンドウを広げてコラボ商品の値段やらピアスの穴をあける方法などを調べてみる。

 

現在の彩葉は高校を卒業し、細々とライバーとして活動(本人談)しながら生活費を賄い、ある程度貯蓄を始めることにも成功していた。

 

ツクヨミトップ級のライバーと伝手があるのは非常に強い。たまのコラボ配信や楽曲提供のおかげでタワマンの維持もある程度余裕で行えているのは精神的に楽である。

 

世の中人脈であると理解した成人一年生の彩葉。

 

なので、買おうと思えば買えるのだがやはり、耳に穴をあけるという行為が必要になるのがやや抵抗感を強くしていた。

 

「……よし」

 

悩むこと10秒。

 

彩葉はメールを打つためソフトを開いた。

 

 

 

「それで私を呼び出した、と」

 

「ごめん! 他に相談できる人思い浮かばんくて

 

パチンと両手を合わせながら拝み倒した相手はいまも第一線で美容系インフルエンサー兼美容師として活躍している芦花。彩葉にとっては高校時代から付き合いのある親友の1人である。

 

「芦花なら高校の頃にはピアス開けてたし、詳しいかなって」

 

「まあね。あの優等生だった彩葉からピアスを開けたいって言われた時はびっくりしたけど」

 

柔らかい髪をかき上げ、自分の左耳を見せる芦花。彼女の耳朶にはピアスが一つきらりと輝いている。

 

元々美容やお洒落に敏感な芦花は年齢を重ねてさらに色気をマシ、同性である彩葉から見てもドキリとしてしまう。

 

そんな動悸を悟られまいとするように軽く目を外しながら、

 

「なんか今度、ツクヨミのコラボでピアスがでるじゃん? あれを着けてみたくて」

 

「うんうん。かぐやちゃんとペアルック、したいものねー」

 

「……はい」

 

完全に目的を見透かされて恥ずかしがる彩葉の姿にニコニコの笑顔を向ける芦花。

 

ツクヨミ内部でアバターでなら穴を開ける必要もなく実行できるのでは? なんて野暮なことは言わない。

 

どんな理由であれ、彩葉が着飾りたいと思う気持ちが生まれたことが芦花に嬉しかったのだ。

 

「まあ、そういうことならサクッとやっちゃおっか」

 

言いながら手早く道具類の準備をしていく。

 

といっても予想していたほど仰々しいものではない。市販のピアッサーと消毒用のアルコール、清潔なティッシュ。

 

彩葉の左耳の消毒と芦花自身の手の消毒は特に念入りに行われた。

 

最後に穴を開ける位置を決める段となって、かぐや――ヤチヨのアバターで身に着けているピアスの位置を確認し、隣り合った場合のバランスなども含めて決めていく。

 

せっかく彩葉が頼ってくれたのだから出来ることはすべてやりたいという思いが自然と芦花には生まれていたのだ。

 

その上で、ちょっとした悪戯心がフッと浮かび上がり――

 

「彩葉、ピアスを開けたら、一個だけお願い聞いてもらっていい?」

 

「え? いいよ。私に出来ることならなんでも」

 

「言質、とったよー」

 

じゃあ、いくね。という言葉と同時にバチンとピアッサーが音をさせた。

 

 

 

そんなことがタワマンの一室であってから数週間。

 

その日、かぐやはヤチヨの姿で普段通りに雑談配信を行っていた。

 

『その時いろPがねー』

 

<本当にヤチヨはいろPのこと好きだよねー>

 

<かぐやちゃんの卒業後はほぼコンビみたいな感じで組んでるもんね>

 

<新曲まだー?>

 

『ヤッチョもいろPの新曲聞きたいけど、プライベートもあるからねー』

 

<いろPのプライベートはヤチヨに監視されてそう>

 

<やりかねない>

 

『むむむ、失礼な。ヤッチョはそんな重い女じゃございません事よ?』

 

<本当ぉ~?>

 

などなどコメント欄とコントのようなやり取りをしていた時にそのコメントは流れてきた。

 

<『朗報』いろPのリアル写真が発表される>

 

『……は?』

 

本当なら流れの速さで見落としそうになるコメントだったがヤチヨの目は誤魔化せない。聞き捨てならないそれに反応して思わず低い声が出てしまったが、視聴者たちは気にせず『いろPのリアル写真』についてUPされていく。

 

(なになになにどうなってるの!?)

 

慌てて指定されたURLを確認する。

 

かぐやのやらかしからヤチヨカップという注目度の高いイベントで下の名前がバレている彩葉だったがそれ以外の情報は出来る限り伏せるため色々と注意してきていたのだ。

 

一般的なツクヨミユーザーで彩葉についてわかるのは下の名前が「いろは」であり、トップライバーの帝アキラの実妹である作曲家兼プロデューサーというもの。

 

酒寄彩葉という現実の女子大生といろPを結びつける情報は基本的には存在しないはずなのだが――

 

(リアルの写真が出ちゃったら、大変なことになっちゃうんじゃ)

 

ヤチヨカップの頃は知らなかったがネットにリアルの情報を明かすことの危険性を知るいまのかぐやにとってはとても看過できない情報である。

 

それを確認するため慌てて行動するとそこには――

 

<親友とコラボピアスでペアルック。いろPは後ろ姿だけでーす>

 

という見出しと共に表示されたROKA――現実の芦花と彩葉のツーショット。彩葉の方は背中を向け、顔は見えないようになっているし、画角も首から上しか写っていないものだった。

 

2人は恋人同士が抱きしめ合っているような、というかそのまま抱きしめ合っている状態で芦花だけがカメラ側を向いている。

 

芦花は左手を彩葉の背中に回し、右手で彩葉の髪をかき上げながら彼女の耳を飾るピアスを弄ぶような仕草をしている。

 

2人の左耳には先日発売されたツクヨミと某企業とのコラボで開発されたピアスがきらりと輝いて――まで認識した時点でヤチヨの処理能力は限界に達してしまった。

 

『…………………………………………』

 

<や、ヤチヨー?>

 

<ダメだこりゃ>

 

<息してるかこれ?>

 

<AIでもフリーズするんやなって>

 

『フリーズなんてしていないよ。大丈夫大丈夫。ちょっとヤッチョ横になるね?』

 

<大丈夫じゃなくて草>

 

最後のコメントに胸を突きさされながら配信を閉じたヤチヨ。

 

後日、彩葉が左耳にだけ開けていたことを知り、再び横になってしまうことにあることを彼女たちは誰も知らない。




なおなんで片耳なのかっていうと片方開けるだけでも痛かったのに両方なんて無理無理! と泣いた彩葉がいると自分に良き! だったので片耳にしてあります。
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