DQⅢ勇者「聖杯戦争」   作:ハナゲもみじ

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第2話 八騎目

電話が鳴ったのは、日付が変わる少し前だった。

 

カーテンを閉め切った、借りたばかりの部屋。

床に広げた布の上に、分解された銃の部品が、ひとつずつ並べられている。

 

衛宮切嗣は、二度目の呼び出し音で受話器を取る。

舞弥が、手を止めずに視線だけを寄越した。

 

「切嗣」

アイリスフィールの声だった。

ほんのわずか、固い。

それだけで、何かが起きたと分かった。

 

「話してくれ」

 

彼女は、順を追って話した。

窓辺で目を閉じたこと。

雲のない空で鳴った雷。

気づいた時には、隣に立っていた青年のこと。

アリアハンのアルスと名乗ったこと。

この地では、剣の座に在ると言ったこと。

そして。

 

「契約したわ。私の判断で」

 

切嗣は、何も言わなかった。

受話器の向こうで、妻が息を詰めているのが分かる。

咎められると知っていて、それでも告げている声だった。

 

七つの席は、もう埋まっているはずだった。

ならば、八騎目はどこから来た。

聖杯の仕組みの綻びか。誰かの仕掛けた罠か。

罠だとすれば、あまりに無防備だった。

 

真名を自ら明かすサーヴァント。

剣に手もかけず、差し出した手が取られるのを、ただ待つサーヴァント。

切嗣は、そういうものを信用しない。

何も求めずに差し出される手ほど、高くつくものはない。

 

「……望みは」

「え?」

 

「そいつが、聖杯に何を望むか。聞いたか」

「まだ、聞いていないわ」

 

短い沈黙が落ちた。

 

「表に出すな」

平坦な声で、切嗣は言った。

 

「外では姿を消させろ。他の陣営に、決して悟らせるな。それから――」

一拍、間が空く。

 

「明日、僕が会う」

 

受話器を置く。

舞弥が、静かに口を開く。

「……使えますか」

 

「分からない」

切嗣は、組み上げかけた銃身に手を戻す。

 

分からないものは、確かめるまで駒にはしない。

確かめて使えるなら、使う。

使えないなら…

その先を、彼は考えなかった。

 

窓の外の空は、黒く澄んでいる。

雷の音は、もう聞こえなかった。

 

 

◇

 

 

森の奥の城は、昼でも薄暗かった。

高い窓から差し込む光は、石の床に届く前に、どこか色を失っていく。

 

広間の長卓を挟んで、二人の男が向き合っていた。

一人は、黒いコートの男。

一人は、旅装の青年。

 

舞弥は扉の外に。

アイリスフィールとセイバーは、城の別の棟に。

この広間には、二人のほかに誰もいない。

それが、切嗣の出した条件だった。

 

衛宮切嗣は、青年を見る。

昨夜、妻の口から聞いた通りの姿だった。

自分と、さして変わらない年頃。

背の一振りを除けば、武具らしい武具も身に着けていない。

街道ですれ違う旅人と、何も変わらない。

だが、切嗣が見ていたのは、そこではなかった。

 

手。

座り方。

扉を背にせず、窓を視界の端に置いて腰を下ろした、その位置。

戦場を知る者の、それだった。

 

「アルス、だったか」

「ああ。あなたが衛宮切嗣か。昨夜、奥方から話は聞いている」

 

「単刀直入に聞く。聖杯に、何を望む」

 

アルスは、わずかに間を置く。

「何も。……と言っても、あなたのような人は、信じないか」

 

「サーヴァントは、望みがあるから呼びかけに応じる」

「僕は、呼びかけに応じたわけじゃない。聖杯の声は、僕には聞こえなかった」

「なら、なぜここにいる」

 

アルスは、窓の外の森に目をやる。

「この街で、良くないことが起きる。その気配を感じたから来た。それ以上は、僕自身にも上手く説明できない」

 

嘘ではない。

切嗣の勘が、そう告げていた。

そして、それが一番厄介だった。

嘘なら、崩せる。

 

「何ができる」

「剣なら、ひと通りは」

「魔術は」

「今は使えない。この座に収まった時に、そう決まったらしい」

 

自分の枷を、隠しもしない。

切嗣は、表情を変えないまま、その答えを胸の内に留めた。

 

「君には、僕と舞弥の側で動いてもらう」

切嗣は言った。

 

「表に立つのはセイバーだ。君の存在は、他の陣営に知られてはならない」

「分かった。あなたの策なら、それが一番いいんだろう」

 

「先に言っておく。僕のやり方は、騎士の流儀とは違う。必要なら、敵のマスターを背後から撃つ」

 

アルスは、すぐには答えなかった。

 

「ああ。そうだな……よく知ったやり方だ」

 

静かな声だった。

どこで知ったのかは、言わなかった。

 

「ただ、これだけは先に言っておく。僕は、害のない相手に剣は向けない」

 

「害があるかどうかは、僕が決める」

「なら、その時は、また話そう」

 

そう言って、アルスは切嗣を見る。

責める目ではなかった。

値踏みする目でも、恐れる目でもない。

切嗣には、その目の名前が分からなかった。

 

「今夜から、動いてもらう」

切嗣は席を立つ。

 

扉を開けると、舞弥が壁際から身を起こした。

 

「どうでしたか」

「……真っ直ぐすぎる」

それが、駒としての評価なのか、それとも別の何かなのか。

舞弥は、聞かなかった。

 

広間には、青年が一人残された。

高い窓の光の中で、彼は長いこと、森の方を見ていた。

 

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