『これ以上君に甘えるわけにはいかないからさ』
突き放す様にスカーフを返された。
きっかけは…思い出したくもない。
あの時はただの冗談かと思っていた。
思いたかった。
『──ごめん……こんな最期で』
脳にいつまでも程張り付いている言葉。
粒子となって消えた彼女の最後の顔はただただ申し訳なさそうだった。
『こんなの……あんまりだろ…』
嘆きは無数のデータに散る。
この日初めて、俺は人を──殺した。
▪️▪️▪️▪️
目が覚める。
異常な程に暑いと思ったらクーラーの電源が切れていた。
「学校……いや、休みか」
スマホの日付を見ると夏休みに入った事を思い出す。
休みと言っても特にやる事はない。
優雅に二度寝…といきたかったが誰かから電話がかかる。
相手の名前を見て出たくない気持ちになるが渋々電話に出た。
「はい…もしもし」
『おはよ、今日って時間ある?』
この手の質問はどう答えても付き合わされる流れしか見えない。
嫌な予感がしつつも受け流す様に答える。
「ないね、今から二度寝の時間だから」
『あんたねぇ……夏休みだからってだらけすぎでしょ』
呆れた様に言われるが、自分の時間をどう使おうが問題ないんじゃないだろうか。
もちろん、言ったところで鼻で笑われるのがオチだろうが。
『時間あるのよね?なら学校に来てね。丁度男手が欲しいところなの』
「そんなに来て欲しいならもっと可愛らしく頼んでみたらどうだ?」
『あら…十分頼んでるじゃない。と言うわけでよろしく』
「あ、おい、ちょっと待っ……切られた」
直接知り合ってまだ間もないのに少々扱いが雑なんじゃないだろうか。
そう思いスマホを睨みながら嫌々支度する。
幸い、ここから学校までは近い
「くぁ……動くか」
眠気を覚ます為に洗面所に向かい顔を洗う。
ひんやりした感覚が気持ちいい。
「朝飯は……いいか」
空いていないお腹をさすりながら家のドアを開ける。
夏の日差しが体を焼き尽くすように照らす。
「……バックれようかな」
一瞬家に戻ろうと考えたら見計らった様にスマホが鳴る。
『来なかったら引き摺り出すわよ』
「エスパーかよ」
住所を教えたつもりはなかったんだが……
まぁそんなの調べれば分かるか。
家に戻した足を再び外に向けて歩く。
道中、コンビニで買ったアイスを食べながら歩いていると街のビルから広告が流れる。
「ALO…ねぇ」
アルブヘイムオンライン。
プレイヤーが妖精となって冒険するファンタジーVRゲーム。
最近街中でよく見かけるな…
正直ゲームするならVRよりテレビゲームとかの方が好きだ。
ターン制のコマンドバトルの良さを友達にも力説したりするが大体が仮想空間で冒険できるゲームの方が好きだと言う。
あんな事かあったのに良く気軽に遊べるよな。
「まぁ…他人がやる分にはどうでもいいか」
広告から目を離し、学校へと向かう。
何が悲しくて休みの日に学校に行かなくちゃいけないのか…。
▪️▪️▪️▪️
食べていたアイスが全て無くなりかけるぐらいで校門の前に着く。
閉まってはいたが、門の前には俺のぐうたらライフをぶち壊した奴が待っていた。
「よっ、篠崎」
「遅いわよ!」
会って早々怒鳴ってくるのはどうなんだろうか。
時間より少し遅いくらいなのに…せっかちな奴だ。
「あーあれだ…困ってたおばあちゃんを助けてた……とか?」
「なんであんたが聞いてきてんのよ……。どうせどこかで道草食べてたんでしょ」
鋭い、やはりエスパーかこの女は。
「まぁ…来ただけ良しとしてあげるわ。ほら、入るわよ」
門を開けて引き連れて行かれたのは…空き教室。
「何もないけど?」
「そりゃそうよ、ここにパソコンとか机とか色々運ぶんだから」
男手がいる理由ってそう言うことね……
「えぇ…何のためにそんな面倒な事を」
「放課後に誰でも気軽に話せる場所を作りたいの」
いつになく真面目な表情だ。
まぁ…理由はわからなくも無い。
「そんなの無くてもゲーム内で遊べばいいだろ?」
「仮想空間がトラウマの人もいるでしょ?だから誰かと交流が出来る場所が必要なの、現実でも」
……俺が通っている学校はSAOの世界から帰ってきた学生で構成されている。
あのデスゲームが一件でVRMMOにトラウマを抱えてしまった生徒は多い。
目の前の彼女、篠崎里香もそんなSAO帰還者の1人だ。
自分も辛かったのに他人を思いやれるのは凄いことだと思う。
仕方ない…折れてやるか。
「はぁ……他に人は?」
「いないわ」
「は?」
「しょうがないでしょ。皆んな予定があったんだから」
俺の関心を返して欲しい。
こんなクソ暑い中運搬作業しろって言うのか。
「あのな…」
「お願いよ〜、別に今日で全部運ぶわけじゃ無いから」
うわぁ…凄い上目遣い。
狙ってやってるのが見え見えすぎる…
「分かった分かった…手伝えばいいんだろ」
降参とばかりにゆるく手を上げる。
こうなったらさっさと終わらせるのが吉だな……
そして、気怠げな体に気合を入れて篠崎に着いて行く