時空の嵐の向こう側 アルカディア号、未知の世界線へ   作:Archangel

1 / 4
※現在、『投稿中のアルカディア号になって艦これの世界へとお邪魔してみた』の元になったお話です。

※先の話の収束を考え中なので、投稿間隔があくことから、その間はこちらを投稿します(完結はしてますし、そんなに長くありません)。


第一話 宇宙海賊と艦娘達

時空の嵐の後で

 最初に異変に気づいたのは、アルカディア号の計器だった。

 警告音が、船内のあちこちで鳴り響いている。

 通常の宇宙航行ならば見慣れているはずの表示が、次々と異常値を示していた。

 

 「船長!」

 ヤッタランが艦橋へ駆け込んでくる。

 

 「時空流が急激に変化してまっせ! このままやったら――」

 

 「分かっている」

 ハーロックは短く答えた。

 艦橋の前方に広がっていた星々が、まるで水面のように歪んでいく。

 その中心に、巨大な渦が生まれていた。

 ミーメがハープから手を離す。

 

 「……これは、普通の時空の歪みではない」

 

 「ああ…」

 ハーロックはグラスのワインを一口飲む。

 こんな状況でも落ち着いているのは、彼が豪胆だからというだけではない。

 アルカディア号と、そこに乗る仲間たちを信じているからだった。

 

 「副長、全速で抜ける!」

 

 「了解!」

 アルカディア号の推進機関が唸る。

 巨大な船体が時空の渦へ飛び込んだ。

 そして次の瞬間。

 

 艦橋の窓の向こうに広がったのは、見慣れた宇宙ではなかった。

 青い空。

 白い雲。

 そして、どこまでも続く海。

 

 「…………」

 

 「…………」

 艦橋の全員が黙った。

 やがてヤッタランが、ぽつりと言った。

 

 「……キャプテン」

 

 「何だ」

 

 「ここ、宇宙やありまへんで」

 

 「見れば分かる」

 

 ハーロックはグラスを傾けた。

 

 「しかし、海があるということは、船乗りの世界なのだろう」

 その判断だけは、妙に前向きだった。

 ただし、彼らはまだ知らない。

 ここが、艦娘と深海棲艦が戦う世界だということを。

 そして、この世界には、この世界なりの常識があることを。

 

*

 

 アルカディア号は、日本近海にある無人島の陰へと姿を隠した。

 幸い、島は大きく遠くから見れば巨大な船体もそう簡単には発見されない。

 

 「この船を動かすには、こちらの世界の生活物資も必要になる」

 ハーロックが言った。

 

 「螢、台羽」

 

 「はい、キャプテン」

 

 「二人で買い出しに行ってくれ」

 

 「了解です」

 

 「分かりました」

 螢が頷く。

 台羽も敬礼した。

 

 「生活用品を中心に?」

 

 「そうだ。食料、水、衣類。必要なものを見つけたら買ってくれ」

 

 「はい」

 

 「それから――」

 ハーロックは二人を見た。

 

 「この世界についても、少し調べてきてくれ」

 

 「了解です」

 こうして二人はスペースフォッケウルフに乗り込んだ。

 

     *

 

 スペースフォッケウルフが降り立ったのは、ずいぶんと寂れた街だった。

 店は少なく、人通りもまばら。

 シャッターの閉じた商店が並び、道路には風に飛ばされた紙切れが転がっている。

 

 「……ずいぶん寂しいところね」

 螢が周囲を見回した。

 

 「宇宙港のある街よりは静かだな」

 

 「静かすぎるけどね」

 二人はスペースフォッケウルフを廃屋の陰へ隠した。

 目立つものをそのまま路上へ置いておくわけにはいかない。

 それから街を歩き始める。

 日用品をいくつか買い、食料を探す。

 そこまでは順調だった。

 

螢の秘密の買い物

 「まずは食料品ですね、有紀副官。……あれ? どこへ行くんですか?」

 

 「ちょっと、個人的に買いたいものがあるの」

 螢はそう言うなり、最初の薬局へすたすたと入っていった。

 台羽が店先で待っていると、十分後、螢は少しだけ眉を寄せて出てきた。

 

 「……なかったわ。次を探しましょう」

 

 「何を探してるんですか? 僕も手伝います!」

 

 「いいの。台羽君は知らなくていいことよ」

 二軒目、三軒目、四軒目。

 シャッターの閉まった店ばかりで、開いている店には目当てのものがない。

 台羽は荷物持ちの覚悟で後ろをついて歩くが、螢の表情は店ごとに切実さを増していく。

 

 (お願い、どこかに一軒くらい……)

 そして最後。

 路地裏へ入る角に、色褪せた看板がぽつんと下がっているのを螢は見つけた。

 『吉田薬局』。

 

 「ここ……! 台羽君、ついてきて!」

 藁にも縋る思いで路地の奥へ進み、薬局の入り口で螢は振り返る。

 

 「台羽君はここで待っていて。絶対に入っちゃだめよ」

 

 「は、はい! 有紀副官!」

 直立不動で待つこと数分。

 ドアが開いて出てきた螢は、これ以上ないほど晴れやかな安堵の表情で、茶色い紙袋を胸に抱えていた。

 

 「よかった……本当によかったわ……」

 

 「何がですか?」

 

 「秘密」

 台羽が首をかしげたその時だった。

 路地の影から、ぬるりと黒い何かが這い出てきた。

 

路地裏の遭遇

 駆逐イ級である。

 もっとも、二人にそんな名前は分からない。

 

 「なんだ、あの生き物は!?」

 

 「見たことのない生物だわ。台羽君、下がって!」

 二人はとっさにコスモガンを抜いた。

 光線が走り、先頭の一匹が仰け反る。だが路地の奥から二匹、三匹と数が増えていく。

 

 「くそっ、キリがない! 有紀副官、僕の後ろに!」

 

 「あなたこそ無茶しないで!」

 未知の敵に数で押され、じりじりと袋小路へ追い込まれる。

 螢の背後へ飛びかかった一匹の牙の前に、台羽が身を投げ出した。

 

 「うぐっ!」

 

 「台羽君!」

 肩を裂かれ、膝をつく台羽。

 螢が震える手でコスモガンを構え直したその瞬間、表通りの方角から二つの足音が風を切って駆けつけた。

 

 「そこまでです!」

 

 「あなたたち、下がって!」

 妙高と高雄だった。

 二人の艤装が火を噴き、イ級の群れが次々と吹っ飛ばされていく。

 

光の線

 助かった、と台羽が息をついた、その時。

 妙高と高雄の背後、崩れた塀の陰から、最後の一匹がぬっと首をもたげるのが見えた。

 二人は前方の敵に気を取られている。

 

 「危ない!!」

 台羽は痛む腕で、それでも迷わず引き金を引いた。

 細い光の線がまっすぐ伸び、イ級の頭にポッカリと真円の穴が開く。

 どさり、と敵が崩れ落ちる。

 妙高と高雄は同時に振り向いて、同時に固まった。

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 (今、何が起きたのでしょうか?)

 

 (私にも、よく分かりません……)

 

説教、のようなもの

 駆逐艦の群れは片付いた。

 高雄は二人の無事を確かめると、小さくため息をついて、腰に手を当てた。

 

 「こんな人気のない、危ない路地裏に二人でのこのこ入ってくるなんて……。何かあってからでは遅いのですよ?」

 叱ってはいるのだが、声はどこまでも柔らかい。

 その隣で妙高が硬い表情のまま腕を組んで立っていた。

 台羽は直感した。

 こちらの方が怖い。

 

 「す、すみません……」

 台羽が頭を下げた横で、螢が一歩前に出た。

 

 「あの、お二人にだけ、見ていただきたいものがあるんです」

 妙高と高雄が顔を見合わせる。

 螢は声を落とし、紙袋の口をそっと広げた。

 中身を覗き込んだ二人の表情が、ふっと和らぐ。

 

 「あらあら」

 

 「まあ……。それは、仕方ありませんわね」

 入っていたのは生理用品。

 事情を察した二人に、いつもの穏やかな笑顔が戻る。

 台羽だけが「何が入ってるんだ……?」と首を伸ばしかけて、螢に無言で睨まれた。

 

未来から来ました

 空気が和んだところで、高雄がごく自然な調子で口を開いた。

 

 「ところで、お二人が持っていらっしゃる、その銃のことですけれど」

 螢と台羽はぎくりとして顔を見合わせる。

 

 「……話しても、信じてもらえないと思います」

 

 「それは、こちらで判断いたしますわ」

 高雄は微笑んで、続きを促す。

 にこやかなのに、有無を言わせない。

 螢は台羽と小さく頷き合い、観念した。

 ここで隠しても、話がおかしな方向へ転がるだけだろう。

 

 「私たち、別の世界から来た……未来の人間なんです」

 妙高と高雄は、笑顔のまま固まった。

 本来なら、人が真面目に聞いているのにと二人が揃って激怒するところである。

 しかし二人は、さきほど正円に穿たれたイ級の頭を見てしまっていた。

 今度は妙高と高雄の方が、ゆっくりと顔を見合わせた。

 

泊地への空の旅

 台羽の傷に気付いた妙高が、泊地の提督へ通信を入れる。

 

 「はい……はい。ええ、そうです。深海棲艦に噛まれたようで」

 通信機の向こうで提督が何か言い、妙高が頷く。

 

 「深海棲艦の唾液は危険なので、すぐ治療をするから連れてきなさい、とのことです。急ぎましょう」

 歩いて向かおうとする二人を、螢が呼び止めた。

 

 「あの、私たちが乗ってきた乗り物があります。それで行きませんか?」

 案内された廃屋の戸を開けた瞬間、妙高と高雄は目を見開いた。

 そこにいたのは、プロペラも持たず、見たこともない形状の翼を広げた、緑色の近未来的な機体だった。

 

 (……これは、ひょっとして本物?!)

 

 (ええ、信じてもいいかもしれません……)

 乗り込む段になって、座席が足りないことに気付いた。

 恩人を立たせるわけにはいかない。

 螢と台羽は相談の末、命の恩人を自分の膝に乗せることにした。

 螢は妙高を、台羽は高雄を。

 妙高は、まあ軽い。

 一方の高雄は、ガチガチに固まっていた。

 (お、重くないかしら。汗臭くないかしら。短い時間とはいえ、こんな密着……。ああ、シャワーを浴びてくればよかった……)

 

 「高雄さん、大丈夫ですか? どこか痛みますか?」

 

 「い、いえ! なんでもありませんわ!」

 台羽は台羽で、肩の傷の痛みと、高雄の重みと温もりで頭が真っ白になっていた。

 

泊地、騒然

 連絡は受けていたものの、泊地は大騒ぎだった。

 

 「なにあれ! プロペラがないよ!」

 

 「翼の形が見たことないわ。ジェットでもなさそう……」

 

 「しかも音がほとんどしない……あれはどういう理屈ですか?」

 空母艦娘と航空戦艦の艦娘たちは、揃って空に釘付けである。

 あの不動心の塊と評される日向でさえ、目をきらきらと輝かせていた。

 

 「…………ふむ。あれは気になるな」

 

 「日向、顔が緩んでるわよ」

 

 「気のせいだ」

 機体は静かに、泊地の建物の前へ垂直に着陸した。

 

囲まれる二人

 扉が開き、まず螢が降り立った。

 ふわりと風になびく髪。

 透き通るような白い肌。

 大きな瞳に、愁いを帯びた長いまつ毛を備えた整った顔立ち。

 まさに、どこか遠い星からやってきたような雰囲気を持つ少女。

 どこをどう切り取っても典型的&完璧な松本零士の美少女である。

 

 「…………」

 「…………」

 艦娘たちの視線が集中する。

 

 「ねえ」

 翔鶴が小声で言った。

 

 「あの人…、髪、すごく綺麗……」

 

 「肌もすごくきれい……シャンプーは何を使っているんですか?!」

 

 「リンスは?! 化粧水は?! 乳液は?!」

 

 「え、えっと、その……」

 

 「あなた、お肌のお手入れ、何か秘訣があるの?!」

 勢いに圧された螢は完全に目を回している。

 少し遅れて降りてきた台羽にも、別の理由で艦娘たちが集まってきた。

 

 「有紀副官…、って囲まれてる?」

 

 「?! あなたの声、すごくカッコいい……!」

 

 「どこかで聞いたことがあるような、熱血ボイスですね」

 

 そこへ人垣をかき分けて現れたのは秋雲だった。

 目がキラキラしている。

 

 「あのっ、お兄さん! お願いがあります! 『チェェェンジ、ドラゴン、スイッチオン!』って叫んでもらえませんか!」

 

 「え?」

 

 「あと『ゲッタァビィーム!』も!」

 

 「ええっ!? い、意味が分からないんだけど…」

 

 「お願いします! お願いします! 一生のお願いです!」

 理由も分からないまま、秋雲の勢いに押し切られた台羽は、半ばやけっぱちでシャウトした。

 

 「チェェェンジ、ドラゴン、スイッチオン!」

 「ゲッタァビィーム!」

 

 「「「おおおーっ!!」」」

 歓声と拍手が上がる。

 調子づいた台羽は、さらに他の台詞まで決めてしまった。

 

 「ライディーン、フェードイン!!」

 

 「「「おおおおおーっ!!!」」」

 

 「あ、あれ? 僕、今なんで……」

 台羽が我に返った時には、もう遅かった。

 

医務室の明石

 「はいはい、そこまで。怪我人が先です」

 そこへ女性提督が現れ、手を打って喧噪を静めた。

 柔らかな物腰ながら、有無を言わせない迫力がある。

 

 「まずは治療を。お二人とも、こちらへいらしてください」

 医務室へ連れられていく二人。

 その後を、なぜか明石がぴったりとついてきていた。

 手当てを受けている間、明石の視線は台羽の腰のホルスターに釘付けである。

 

 「あの、すみません……。その銃、ちょっと普通のものじゃないですよね?」

 

 「ええ、光線銃です」

 

 「光線銃!? 見せてください! 一度だけでいいので、ちょっとだけ分解を!」

 

 「ぶ、分解は困ります!」

 詰め寄る明石。

 後ずさる台羽。

 そこへ、がらりと扉が開いた。

 

「痛い!」

 明石の悲鳴。

 ゲンコを落としたのは、二人の帰りが遅いので様子を見に来た、秘書艦の飛龍だった。

 

 「もう、お客様に何してるんですか。さあ、お二人も執務室へどうぞ」

 明石の首根っこを掴んで連行していく飛龍。

 その横顔を、台羽はぽかんと見つめていた。

 

 (……かわいい)

 

 「行きましょう、台羽さん」

 

 「……はい」

 台羽は頷いた。

 ただし。

 その視線は、飛龍に釘付けになっていた。

 

 「…………」

 螢のジト目に台羽が気付く事は無かった。

 

執務室にて

 執務室で二人は並び、深々と頭を下げた。

 

 「治療をしていただき、本当にありがとうございました」

 

 「いえ、油断した妙高と高雄を救ってくれたと聞きました。それに、お二人とも無事で何よりでした」

 女性提督は、ふわりと笑った。育ちの良さを感じさせる、穏やかで品のある笑顔である。ただ、すぐにほんの少しだけ眉を下げた。

 

 「ただ……。危ない路地裏へ二人だけで入るのは感心しません。次からは気をつけてくださいね」

 

 「はい……すみません」

 螢は少し迷ってから、ここでも紙袋の中身をそっと見せた。

 覗き込んだ提督の動きが止まる。

 

 「……まあ。それは、そうですわよね」

 納得、という顔の提督の前で、とうとう台羽が我慢できなくなった。

 

「あの、さっきからずっと気になっていたんですが、一体何が入っ――」

 

 「メッ、ですよ。台羽さん」

 台羽の視界が、突然真っ暗になった。

 後ろから伸びてきた両手が、台羽の目を覆っている。

 

 「男の人には不要なものです」

 飛龍の耳元で聞こえる優しい声と、背中に感じる柔らかな気配、そしてふわりと漂う甘い女の子の匂い。

 

 (う、うわあああ……!)

 台羽の心臓は、爆発寸前であった。

 

荒唐無稽な報告

 「それで、お二人はどちらからいらしたのですか?」

 提督の問いかけに、螢は覚悟を決めた。

 

 「私たちは、別の世界から来た、未来の人間です」

 女性提督は笑顔のまま、小さく瞬きをした。

 

 「未来の宇宙戦闘艦に乗っています」

 

 「宇宙戦闘艦……」

 

 「船長はキャプテン・ハーロック」

 

 「ハーロック……」

 

 「そしてアルカディア号には、キャプテンの親友でもありアルカディア号を造った大山トチローの魂が宿っています」

 

 「…………」

 女性提督の表情は変わらない。

 だが、隣の飛龍がちらりと台羽を見る。

 台羽はまた飛龍を見ている。

 

 「…………」

 

 「ええと……宇宙の……海賊の……魂の……」

 荒唐無稽にもほどがある。

 提督の笑顔は、礼儀正しく固まったままだった。

 その間も、台羽の視線は飛龍の横顔に吸い寄せられっぱなしである。

 

 「……台羽君」

 どすっ。

 螢の肘が脇腹に入った。

 

 「いっ!? 有紀副官、痛いです!」

 そんな台羽を見て、飛龍が不思議そうに首をかしげる。

 

 「台羽さん、顔が赤いですよ? 傷が痛むんですか?」

 「いえっ! 大丈夫です!」

 

試射

 「……分かりました」

 女性提督は信じるとも、信じないとも言わなかった。

 ただ、静かに口を開いた。

 

 「その銃の試射を、お願いできますか?」

 

 「試射、ですか?」

 

 「ええ。見せていただければ、判断できると思います」

 未来の異世界人による、未知の銃の試射。

 そう聞いた艦娘たちが、黙っているはずがなかった。

 演習場には、泊地中の艦娘が集まった。

 海外艦も、駆逐艦も、空母も戦艦も。

 屋根の上にまで人が登っている。

 

 「なんだか、すごい人だかりになってしまいましたね……」

 

 「台羽君、緊張してる?」

 

 「い、いえ! 大丈夫です!」

 

 「では、お願いします」

 女性提督が手を上げる。

 台羽がコスモガンを構える。

 螢も並ぶ。

 

 「いきます」

 台羽が引き金を引く。

 細い光の線が走り、標的の中心を射抜いた。

 次の瞬間、的が音もなく蒸発する。

 

 「え?」

 誰かが小さく呟いた。

 台羽が次々に引き金を引く。

 螢もそれに続く。

 光が走るたびに、的が一つ、また一つと消えていく。

 連射しても銃身は一向に熱を持たず、光は途切れる気配もない。

 

 「ちょっと待って!」

 誰かが叫んだ。

 

 「的がなくなった!」

 

 「本当だ!」

 

 「連射までできるの!?」

 

 「しかも反動がほとんどない!」

 

 「……これ、整備したい……」

 明石が震えている。

 

 「明石さん」

 飛龍が肩を掴む。

 

 「ダメですよ」

 

 「まだ何も言ってないのに!」

 

 「顔に書いてあります」

 

 「なるほど……」

 日向が腕を組む。

 

 「面白いものだな」

 その目は完全に少年のように輝いていた。

 

 「うん。すごいね」

 伊勢も頷く。

 

 「あなたの世界では、これが普通なんですか?」

 翔鶴が螢を見た。

 

 「軍用としては、そうですね」

 

 「……すごい世界」

 

 「これなら、深海棲艦にもかなりの威力を発揮しそうですね」

 赤城も驚きを隠せない。

 

 「深海棲艦?」

 螢が首を傾げる。

 

 「さっきの生物のことですか?」

 

 「ええ」

 

 「そう呼ぶんですね」

 ここで初めて、アルカディア号のクルーが知らない「深海棲艦」という存在について、泊地側が説明することになった。

 そして女性提督は、ようやく確信した。

 少なくとも、この二人が普通の旅人でないことだけは間違いない。

 スペースフォッケウルフにコスモガン。

 そして、実際に目の前で発揮された性能。

 これを全部見てしまった以上――。

 

 「……信じるしかありませんわね」

 女性提督が呟く。

 

 「何をです?」

 螢が聞く。

 

 「あなた方が未来人だという話です」

 女性提督は苦笑した。

 

 「これだけ証拠を見せられた上で、まだ疑っていたら、その方がおかしいでしょう?」

 台羽がホッとした顔をする。

 

 「ありがとうございます」

 

 「ただし」

 女性提督が机へ向かう。

 

 「問題があります」

 

 「問題?」

 

 「ええ」

 彼女は一枚の報告書を取り出した。

 ペンを持つ。

 そして、書き始めようとして――。

 止まった。

 

 「…………」

 妙高が横から覗く。

 

 「どうされました?」

 

 「報告書に、何と書けばいいのか分かりません」

 

 「……ああ」

 高雄も覗き込む。

 女性提督は頭を抱えた。

 

 「『時空の嵐により、未来の異世界から宇宙海賊ハーロック一行が飛来。搭乗機は謎の未来型航空機。乗員は光線銃を所持』……」

 書いてみる。

 眺める。

 消す。

 

 「……こんな報告書、誰が信じます?」

 

 「でも、事実ですものね」

 妙高が微笑む。

 

 「そうなのですけれど!」

 

 「むしろ、これ以外に書きようがありませんわ」

 高雄も苦笑する。

 

 「ところで、飛龍さん」

 その横で台羽が話しかける。

 

 「はい?」

 

 「さっきはありがとうございました」

 

 「目隠しのことですか?」

 

 「はい。見てしまっていたら有紀副官に消されていたかもしれません。」

 

 「いえいえ」

 飛龍が笑う。

 

 「男の人には知らなくていいこともありますから」

 

 「……そうですか」

 また台羽の顔が赤くなる。

 螢がため息をついた。

 

 「台羽君」

 

 「何?」

 

 「キャプテンに報告するわよ」

 

 「何をです?」

 

 「『泊地で飛龍さんに見惚れていました』って」

 

 「ちょっ…、見惚れてなんて!」

 女性提督が思わず吹き出した。

 妙高も笑う。

 高雄も口元を押さえる。

 飛龍はきょとんとしている。

 そして明石だけが、まだコスモガンを見ていた。

 

 「……あの」

 

 「明石さん」

 女性提督が言った。

 

 「ダメですよ」

 

 「ですから、まだ何も言ってません!」

 泊地に笑い声が広がった。

 

 ――こうして。

 時空の嵐によって、この世界へ迷い込んだアルカディア号の一行は。

 深海棲艦との戦いに巻き込まれるより先に。

 妙高と高雄に救われ。

 艦娘たちに囲まれ。

 秋雲に妙な掛け声を要求され。

 明石に銃を狙われ。

 そして女性提督を悩ませる、史上類を見ない報告書を生み出すことになった。

 もちろん、この時点では誰も知らなかった。

 この奇妙な出会いが――。

 やがてアルカディア号と泊地の艦娘たちを結ぶ、長い物語の始まりになることを。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。