重い重い空気にはなってしまったが、いつまでもそんな空気では気分が悪い。さっきから二人は僕の手を離してはくれないが、今日に至っては学校があるのだ、こうしてはいられない。別にサボっちゃって良いけどねぇ....嘘だけど。流石に準備をしないといけないと思ったのか、名残惜しそうに手を離して支度をし始めた。因みに少女は握ったままだ。
「....どこか行くの?」
「学校だよ、学校。ここ三日間は一緒にいれたけど休みが終わっちゃったからねぇ〜....」
「えー!やだやだやだ!湊と彩葉と離れるなんてやだ!私も行く!」
「....仕方ないでしょ、学校休めないし、というか家からあんたは出ないで」
少女が悲しそうに見つめながら、僕の手を強く握りはじめた。すると、彩葉さんはタブレットを弄りながらちゃぶ台にポンっと置いて少女に見せた。
「ほら、これ見てて良いから少しは暇つぶしになるでしょ?」
「この人は誰?彩葉がいつも見てる人だっけ好きなの?」
「月見ヤチヨ。AIライバーで推し」
彩葉さんにとっての救いの人物、生きがいで曲を聞くだけで涙目になってる姿を思い出した。ヤチヨさんは分身もできて歌って踊れる八千歳という設定するらしい。
「えー、AI?ロボットってこと?ヴェーおもろー」
そのまま、タブレットを持ってテーブルに座りながらアーカイブ配信を見始めた。
「あ、彩葉さんご飯とかどうするのさ」
「ご飯はそこだよ、パンケーキ」
彩葉さんはコンロのフライパンに指差した。
「おい、ちょっと待てあのパンケーキを食べさせるつもりか」
「あのってなによ、あのって慣れれば案外美味しいのよ」
「パンケーキ特有の甘みがないのに....?」
すると少女はパンケーキを一瞬にして頬張った、顔を歪ませて。
「くそまじぃ....」
「ほら見てみろ....むぐっ....!?」
「ほら、美味しいでしょ....?」
一瞬にして口元にパンケーキが弾丸のように飛んできた、ビックリした本当に。
「じゃあ湊、行くよ」
「あ、うん」
「待って!やだやだ!」
タブレットを投げ出して再び彩葉さんに縋りついた、本当に離れたくないらしい、いつからこんなにも甘えん坊になってしまったのか。
「おかしいよ、いつまでも一緒って言ったじゃん。そんな約束しといて、置いて出かけるの?私より学校が大事なの?....湊」
「え、僕!?!?」
完全に今のセリフ彩葉さんに向けて言ったと思ったぞ....あー、なんて言ったら良いんだろう、難しいな。
「湊は今から私と学校生活を始めに行くの、確かに有意義な三日間だったけど例えね、あんたにも湊は譲れないんだから」
「..........へぇ」
彩葉さんが少女に真っ直ぐ両目を見据えてそう言った。さっきまでの少女とは思えないほどのトーンで彩葉さんを見つめた。
「私、欲張りだからさ。彩葉も湊も欲しいんだよ、彩葉も誰にも取られたくないし....湊も誰にも渡したくないんだ、それが大好きな彩葉でも....ね」
「何が言いたいのよ」
「これだけは譲れないんだよ、湊はずーっと"私の隣"に居るんだよ。そして、彩葉も一緒に居るのが私のハッピーエンドの1つになるの」
「....随分、欲張りになったじゃない、あんた。でもダメ、湊は"私の隣"で十分なんだから、私もそれだけは譲れない」
「.....負けないし」
「あ、そう。じゃあ学校に行くからあんたはせいぜい月に帰る準備をしといて」
「あはは、帰り方わかんないしー、それとも何?私と一緒に月に帰ってくれるのかな?いいね、隣に大好きな二人がいる状態で帰る月もある意味、ハッピーエンド....じゃない?」
「誰があんたと月に行くんだが、いい?湊は渡さないから....行ってきます」
僕の手を引っ張り、そのまま扉は閉められた
最後に見えた少女の顔は不気味で何より、紅潮しているように見えた。
「あはっ....ダメだよ湊....私から....私と彩葉から離れちゃ絶対にダメなんだから、ね?」
月の姫はずっと待っている。湊の隣を。
思ったよりも、沢山見られててありがたいです....。
頑張って書きます
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