男女比1:1000の世界に生きる希少男子が、専属メイドに出会って人生を謳歌する話   作:木刀

15 / 15
015-2125j 虜囚の希少男子

「くっくっ、なるほど。小見山楓は我々すらも信用していなかったというわけだ」

 

 周防家で起きた一連の出来事。結城加代子(ゆうき かよこ)は、こちらに伝えられていなかった通信途絶時の対応について聞いた時、その答えに辿り着いた。

 

「周防圭人を警護する役目を負いながら、あの女はそれを命じた我々政府組織の欠陥を疑っていたのだ。しかしそれが見事に働いたな。流石に周防芳乃の強さは計算外(イレギュラー)だったのだろうが……」

 

「いえ……今届いた報告によると、どうやら、二人は初対面時に手合わせをしているようです」

「……なに?」

 

「現在Bチームと共にいる娘によると、周防芳乃は息子を預けるに値するか、小見山楓の実力を試したそうです。当時、その件についての報告はありませんが……」

 

 それは、芳乃のあまりの強さに疑問を抱いた面々が、娘の恵理(えり)から聞き出した情報だった。口止めもされていないのか、特に隠す風でもなく素直に話してくれたようだ。

 

「まだ、生殖ランクすら出る前だろう。その時点から周防芳乃の実力を隠蔽していたと? ……ではナニか、今回の周防家での一件も、情報漏洩とその後の敵の動きを想定した上、彼女を戦力として計算していた可能性があるということか?」

 

「そういうことになります。Bチームにも、通信途絶時の援護を待つための遅延行動を指示していたというより……むしろ彼女の邪魔にならないための行動を取らせていたのかと」

 

「まさか……全てヤツの掌の上か。もしそうなら、小見山楓は私が想定していた以上の傑物だということになるな……」

 

 つまり、自分の部下たちに「蔵の中へ避難して援軍を待て」と伝えながら、それは「足手まといだから蔵の中に引っ込んでろ」という意味だったということになる。

 

「……その後、小見山楓の消息は?」

「不明です。爆撃されたマンションに遺体はありませんでした」

 

 結城はもはや、そのことに何の驚きも感じなかった。

 

「周防家の一件をそこまで見通していた者が、ドローン爆撃の可能性を考えないと思うか?」

「普通ではありませんが……今は、思いません。……失礼します」

 

 秘書が眼鏡型デバイスに手をやった。

 相手といくつかやりとりした後、再度、視線を結城に向ける。

 

「やはり、総務省からの漏洩だったようです。金曜の夜に下請け会社の社員が作業中の住基データの入ったPCを盗難された、という報告が今になって上がってきたと」

「そんなところだろうな」

 

 今となってはどうでも良いことだったが……しかし、それからほぼ二日でこれだけの規模の作戦を実行したのだから、事前に準備は終えていたと考えて良い。

 

 情報が手に入ったから行動に移したのではなく、希少男子の価値が最大化したタイミングを突くために情報を奪ったのだ。その上で犠牲者もいない、見事な手際だった。

 

「消えた警護員は?」

「見つかっていません。しかし彼女のものと思われる血痕が、横転した車から陸橋の下へと続いていました。おそらく、飛び降りて逃走したのかと」

 

「では、周防圭人はやはり敵の手中か。Bチーム側で捕まえた連中は、全員獣人だったか」

「はい。全員が断尾済みの個体でした」

 

 その言葉に、結城は唸る。

 

「ふぅむ。海外の実戦経験者たちだな。平和ボケした日本とはいえ、これほどの規模の作戦を展開し、人類の存続に関わる希少男子を白昼堂々と拉致する……その目的はなんだと思う?」

 

 その質問に、秘書は考えるまでもなく応えた。

 

「それは、以前から大臣が危惧していたことかと」

「……そうであるなら、今回の件で世界は選択を迫られることになるな」

 

 

 ◇

 

 

「あら、起きたのね」

 

 周防圭人(すおう けいと)は、目覚めて最初に聴こえた第一声でそれが日常でないことを悟った。普段は必ず存在する専属メイドの姿が、この時はなかったからだった。

 

 やがて、ぼんやりとしていた意識がハッキリしてくる。

 

「………ッ…楓(かえで)さん!!」

 

 気を失う前にあったことを思い出して飛び起きようとするも、がしゃんっ、と腕を引っ張られて叶わない。

 

 見ると白い服をきせられ、その両手首、両足首部分が、頑丈そうな紐で上下に固定され、腰にも太いベルトが巻かれていた。それが、自分を拘束するための服だと気付く。

 

 周囲は白いシートで覆われていて、その真ん中に置かれたベッドに圭人は寝かされていた。

 

「ふふ、最初に呼ぶのが別の女の名前なんて、妬けるわね」

「……あなたは誰ですか」

 

 ベッドの傍にある椅子に座っていたのは、初めて見る女性だった。ぴったりとした黒い服を着ている。ショートヘアの頭の上には、髪色と同じ赤色の獣耳があった。

 

「私のことはゼロツーと呼んでちょうだい」

「ゼロツー、さん……」

 

「あら、敵にさん付けなんて、随分良い子なのね……こんなもの持っているから、もっと擦れているかと思ってたわ」

 

 そう言って彼女が持ち上げたのは、しかし圭人の持ち物では無かった。一度だけチラリと見たことがある、彼女(遼子さん)の愛用品(タバコ)。

 

「そ、それは…ッ…」

 

 またベッドが、がしゃん、という音を立てる。

 そういえば同じ車に乗っていた彼女はどうなったのか、と圭人は今更思い至っていた。

 

「まぁ、警護の人間に常に見張られる生活だものね。ストレスが溜まるのも分かるわ」

 

 ゼロツーと名乗った女は焦った圭人の反応を見て、彼が警護の人間が付いてこない学校にソレを持ち込んでいると思ったらしかった。

 

「でも駄目。こんなもの吸ってるとバレたら生殖ランクが下がってしまうかもしれないしね……悪いけれど、没収よ」

 

 喫煙は、精子濃度や精子の運動量を下げ、人工授精にも大きな影響を与える。生殖ランクで価値が決まる男性にとっては禁忌となる行為だった。

 

 しかし、そこで圭人は、ゼロツーの予想とは別の反応を示した。

 

「せ、生殖ランク……?」

「……まさか貴方、自分の生殖ランクを知らないの?」

 

 問い返された圭人には、その言葉の意味が分からなかった。もしかして自分がこうされているのは、男だからというだけじゃないのか、と初めて考える。

 

「呆れたわね……この国は一体何を考えているのかしら。そりゃ自覚なしにこんなもの吸うわけだわ……良い? 貴方はね、世界で唯一の生殖ランクA++保持者なの」

 

「……ランク、A++」

 

 いまだにピンときていない圭人に、ゼロツーは立ち上がって説明する。

 

「貴方の精子、7月の最新のデータでは男児を妊娠する確率がおよそ1/20よ。通常、1/1000なのに、50倍の数字を叩き出してる」

 

 圭人はいずれも知らぬことだったが……およそ1/50だった前回2月のデータは、実は下振れしたものだった。7月になって更新された最新データは、彼女の言う数字を示している。

 

 ゼロツーは、うっとりとした表情で続ける。

 

「貴方は、男女比1:1000という馬鹿みたいな世界と、私たちの、文字通り救世主なのよ」

「えっ、ちょ…ッ、何する気ですか!?」

 

 ゼロツーは、ベッドに寄りかかり、圭人にゆっくりと顔を近付ける。

 圭人は逃げようとするが、全身を固定され身動きが取れない。

 

「自分が選ばれた者だという、自覚を持ちなさい」

 

 二人の唇が、重なった。

 

 

 ◇

 

 

 キャップを被りながらシートで囲われたエリアから出てきたゼロツーに、見張りをしていた部下が声をかけた。

 

『副隊長殿、もうよろしいのですか?』

『ええ、充分よ。……そうだ、これを貴女にあげるわ』

 

 そう言って、ゼロツーは見張り番の女にある物を手渡した。

 

『こんな高級品、よろしいのですか?』

『ええ、どうせ私は吸わないわ』

 

 それは未開封のタバコの箱だった。

 

 働き手となる男性の減少により、各種嗜好品は100年前と比べて遥かに価値が上がっている。特に生殖機能に悪影響を与えるとされるタバコは生産数に制限をかけられており、それらの中でも群を抜いて高級な品となっていた。

 

 かつては戦場におけるストレス軽減のため、褒賞として獣人兵士たちに一本ずつ支給されていたことはあったが、最近は見ることもなかった。

 

『でも、ほどほどにね。計画が上手く進めば、貴女もあの子(希少男子)と子供を成すかもしれないし』

『はっ。我々一同、その日を楽しみにしております』

 

 敬礼する部下の言葉に、ゼロツーは愉しそうに笑った。

 

 

 ◇

 

 

 別働隊からの報告を受けたゼロワンは、目の前の電子作戦卓(フィールドデスク)を眺めながら、大きな革張りのソファの上で腕を組んだ。

 

 この廃ビルには、それしか彼女の身体に合う物が無かった。

 

『03(ゼロスリー)がやられるとはな』

 

「部隊は全滅。誰も戻らなかったそうね……通信封鎖が解けて後方部隊が確認に行った時には、敵の増援が到着していたと」

 

 対面の椅子に腰掛けたゼロツーが、報告書を読み上げながら長い脚を組む。

 

『なるほど、読まれていたか……ヤツの安否は?』

「不明よ。ただ、彼女が死んでいても、生きて捕まっていたとしても、こちらとしてはやることに変わりはないわ。残念ながら、今の我々に捕虜としての価値はないもの」

 

『……しかし、今後を考えると痛い損失だ』

「世界中の同胞を救うためよ。幸いなことに、メインミッション(希少男子の拉致)は成功している」

 

 そう言って、ゼロツーは立ち上がった。

 

「それじゃ、次の計画を実行に移すわ。文面は、あのままで良いわね?」

『……ああ、頼んだ』

 

 つまり、相手に足元を見られないため、仲間の安否確認や捕虜の返還は条件に入れないということだ。その最終確認に、ゼロワンは決意の表情で頷いた。

 

 

 ◇

 

 

 その日、世界中の首脳たちとマスメディアにメールが送られた。

 

『人類の救世主、希少男子の安全を保障して欲しければ、以下の要求に応じよ。

 

 一つ、強制的に戦場へ駆り出される獣人たちに拒否権を与えること。

 二つ、働きに合わせて獣人たちに正当な貢献ポイントを与えること。

 三つ、獣人たちの遺伝子(テロメア)に仕掛けられた寿命の制限を解くこと。

 四つ、獣人たちに生殖機能を取り戻すための治療を受けさせること。

 これら全てを以て、獣人たちに普通種同様の人権を保障すること。

 

 また、応じられた国の人間には、優先的に希少男子との交配権を与える。』

 

 

 

 ……そして、その末尾には「獣人解放同盟」という名が記されていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

貞操逆転世界を三大欲求強めに生きるだけ(作者:逆転逆転逆転逆転逆転)(オリジナル:現代/恋愛)

よく寝て、よく食べて、よく抱かれて。


総合評価:3081/評価:8.49/連載:6話/更新日時:2026年09月19日(土) 02:04 小説情報

貞操逆転世界のメンズエステで働くことになった(作者:カラスあげます)(オリジナル:現代/日常)

貞操観念が逆転した現代日本。大学生の佐伯恒一は、金のない生活を変えるため、男性セラピストが女性を施術する「メンズエステ」で働き始める。▼そこで待っていたのは、どこか怪しい女性オーナー、そして一癖も二癖もある女性客たち。▼普通の大学生だった恒一は、次第にメンズエステの世界へとのめり込んでいく。▼※本作は『小説家になろう』『カクヨム』にもマルチ投稿しています。▼…


総合評価:2382/評価:8.14/完結:17話/更新日時:2026年09月16日(水) 20:43 小説情報

餓死寸前の獣人少女に餌付けをしたら、ヤンデレハーレム村の村長になっていた(作者:破滅)(オリジナル:ファンタジー/日常)

貧乏家庭に生まれ両親に蒸発されてしまった主人公、飯沼 満は中卒で働きながら家事もして妹や弟をたった一人で養い育て、最後の一人が大学を卒業するのと同時にこと切れて死んでしまう。▼前世妹弟の為に自分を犠牲にして奮闘した彼の人生を見ていた女神は、ご褒美にチートを一つ与えた上で異世界に転生させることにした。▼送られたのは酷い干ばつで荒廃し、飢饉で死屍累々となった地獄…


総合評価:3536/評価:8.34/連載:11話/更新日時:2026年10月21日(水) 12:04 小説情報

俺以外の登場人物が強くてニューゲーム状態で始まる終末世界のヤンデレもの。  (作者:走れ、ヤンデレ)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

なお、強さだけではなく記憶も引き継いでおり、登場人物の殆どが主人公に対して劇重感情を抱いている模様。▼


総合評価:2743/評価:8.59/連載:3話/更新日時:2026年10月18日(日) 06:31 小説情報

処女の女冒険者に気をつけろ(作者:三つ眼の荒木)(オリジナル:ファンタジー/恋愛)

冒険者は命がけの仕事だ。▼だからパーティを組めば、いつの間にか誰かと誰かがくっつく。▼フリーでやっていて弱い女には、体目当ての依頼しか回ってこない。▼つまり、フリーで長く続いていて、下世話な噂が一つも聞こえてこない女冒険者。▼そういう相手は、体を売らずに済むほど強く、それでいて誰ともパーティを組めなかった人間ということになる。▼強くて訳アリの女。▼「処女の女…


総合評価:3732/評価:7.08/連載:12話/更新日時:2026年09月29日(火) 20:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>