男女比1:1000の世界に生きる希少男子が、専属メイドに出会って人生を謳歌する話 作:木刀
大変励みになっております。
2125年3月。
この日の
その人物はウェーブがかかったロングの金髪を無造作に流した背の高い女性で、どこか退廃的な雰囲気を感じさせる美人だった。
リビングのテーブルに僕と向かい合って座ると、薄く開いた目でこちらを見る。
その口元には、楽しげな笑みが浮かんでいる。
「改めて、オレが新しい運転手の
「あ……
つい「他のこと」に気を取られていて、挨拶が遅れてしまう。
相手の女性は、そんなことを気にした風でもなく、ニヤリと笑った。
「まぁ、オレのことは遼子とでも呼んでくれや、
「は、はい」
「……申し訳ありません、圭人様。遼子先輩は口は悪いですが、腕は確かなのです」
僕の背後に控えるように立つメイド姿の
「そうそう、
「……いえ、正確に言うならあれは引き分けでした」
(
それにしても楓さんが勝敗にこだわるのは珍しいな。
実はそっちが素なんだろうか……。
「はは、そういうことにしといてやるよ。オレとしちゃ勝ち負けは割とどうでも良かったし、アレがキッカケでこうして稼ぎの良い仕事を紹介してもらえたワケだしな」
「……呼びかけに応じてくださったことは、感謝いたします」
見ていて、この二人はとても仲が良さそうだな、と感じる。
しかも相手が一枚上手というか……楓さんのこういうところは、初めて見たかも。
「よし、まぁ大体こんなものか。他の細かいところは楓と二人で詰めれば良いな。
……ところで、この家はどこかにタバコ吸えるとこ、ねぇのか?」
4月からの業務についてのあれこれを凡そ話し終えると、遼子さんが室内をキョロキョロと見回しながら言った。
僕の隣に座って一緒に地図を覗き込み、よく行く場所へのルートを確認していた楓さんが立ち上がる。触れていた肩の温もりが消えてしまい、少し寂しい。
「流石に圭人様の前ではおやめください……さあ、こちらへどうぞ。普段、こちらで控えるためのお部屋は、ちゃんと準備してありますから」
「おお、流石だな」
遼子さんは、立ち上がりながら胸ポケットからタバコとライターを取り出す。
「それじゃ悪ぃな、坊主」
「い、いえ、気にしないでください……」
どうやら楓さんが離れてガッカリしたのを、表情から読み取られてしまったらしい。
流石、楓さんの先輩。まるでこちらを見透かしているようだった。
リビングから出ていく二人を見ながら、なかなか強烈で面白い女性だったなぁ、と考える。最初、楓さんからは「優秀な先輩」と聞いていたから、似たタイプの人が現れるものと思っていた。
(……今日聞けなかったことは、送迎して貰ってる時に聞いてみようかな)
さっきはなんとなく美女二人の存在感と場の雰囲気に気圧されてしまい、遼子さんに対して聞きたいことが、ほとんど聞けず終いになってしまった。
特に、彼女の頭にぴんと生えた耳と、臀部に揺れていた大きな尻尾については、最後まで気になって仕方がなかった……。
これって聞いても、失礼じゃないだろうか。
◇
「先輩の無礼な態度、申し訳ありません。ああ見えて本当に優秀な方なんです」
「え、良いよ全然、というか気にしてないよ。むしろ表裏がない分、僕は嬉しかったかな」
夕食後の主寝室。
私は昼間の出来事について謝罪するが、圭人様は気にした様子がまったく無かった。
ただこれは、彼をよく知る私にとっては想定内でもあった。
圭人様が心の広い方だからこそ、実力を優先して招集することができたのだ。
「それなら良かったです。……では、
「うん」
私はベッドを離れ、クローゼットから精子提供キットを取り出す。
週に一度、他の女たちのために圭人様の精液を採取するこの行為は、私にとって何よりも心をかき乱される悪魔の儀式であり、同時に人生最大の幸福を感じるひと時でもあった。
最初の精子提供から7ヶ月もの時間が経つが、未だ心の折り合いをつけられぬまま、現在に至っている。
圭人様の、繁殖ランクA++という奇跡のような子種を巡り、女たちの間では途轍もない競争が繰り広げられているのに……私には、それに参加する資格さえないのだ。
私は特別だからこそ、
しかし、心の中には「なぜ私は普通の女として産まれて来なかったのだろう」と唱え続ける自分も、確実に存在していた。
「……ちょっと聞きたいんだけど、もしかして遼子さんも一緒に住むの?」
暗いところに沈んでいた思考が、圭人様の声で急浮上させられる。
「あ、いえ、あの部屋は喫煙や仮眠など休憩するために準備したもので、彼女の住まいは近くに別途用意されています。場合によっては泊まり込むこともあるかもしれませんが……何か不都合がありましたか?」
言いながら、私は嫌な予感がしていた。
「い、いや……それなら良いんだ」
圭人様の口調と表情で、まだ何か言いたいことがあると分かった。
分かってしまった。
「………圭人様」
少し低い声で名前を呼ぶ。
追求から逃げられぬと悟った圭人様は、上目遣いで私を見た。
「あ、いや、その……できたらで良いんだけど……」
ここまで歯切れが悪いのは、
ああ。つまり、精子提供の相手として
たしかに口は悪いが優秀だし、容姿に関してはかなり優れていると言える。
もしかすると、胸ばかり大きな私より、スレンダーな体型が好みなのかもしれない。
そういえば、彼が好きだと言っていた映画俳優も、胸の小さな女だった。
まさか、今まで満足して頂けなかったのか。
そうであれば本当に、私には生きている価値など無いではないか。
次々にそんな想像をしてしまい、感情が黒く塗り潰されて、
「あの、4月からは一緒にいる時間が減っちゃうから……
家ではできるだけ、楓さんと、二人きりで過ごしたいなぁ、と思って……」
その