壬生先輩と話してから、二日が過ぎた。
結局、あの話は壬生先輩がミーシャを拒んだ理由を答えられないまま終わった。
本人にも分からないことを追及しても仕方がない。俺もそれ以上は聞かなかった。
ただ、林道で見たエガリテのリストバンドについては、放置するわけにもいかない。
壬生先輩と話した日の放課後、念のため師匠に連絡し、第一高校の生徒にエガリテの関係者がいないか調査を依頼した。
翌日の昼休み、生徒会室で食事を取った際に、校内にエガリテと関わりのある生徒がいる可能性を七草会長たちへ伝えておいた。
ミーシャの方は、少なくとも表面上はいつもの調子に戻っている。
相変わらず「っス」を連発して冗談を飛ばしているが、壬生先輩の言葉を完全に割り切ったかどうかまでは分からない。
部員勧誘週間が終わり、入学以来続いていた校内の騒がしさもようやく一段落した。
中庭を占領していた勧誘用のブースも、校内を埋めていた宣伝表示も消え、廊下を歩くたびに上級生から声を掛けられることもない。
考えてみれば、こちらの方が本来の第一高校なのだろう。
それと入れ替わるように、授業の方は本格的な実技へ移り始めた。
その日の課題は、教習用CADから起動式を読み込み、魔法演算領域で魔法式へ構築し、指定された対象へ作用させるまでの時間を測るというものだった。
いわば魔法式のコンパイル速度を確認するための基礎訓練だ。
――合格基準は千ミリ秒。
一般的な一年生を対象とした課題としては、特別厳しい数字ではない。
事実、美月は最初の一回で基準を突破した。
俺は三回かかった。
一方で、エリカとレオは授業時間内に千ミリ秒を切れなかった。
二人とも魔法能力そのものに問題があるわけではない。
レオは照準に余計な時間を使い、エリカは普段使っているCADの操作感覚を教習用CADにまで持ち込んでいる。
原因が分かっている以上、修正するのは難しくない。
問題は――二人とも、それに自分では気づいていなかったことだった。
◆
「なんで達也まで来るのよ」
「俺に聞くな」
昼食を早めに済ませた俺と美月は、再試験を受けるエリカとレオに付き合って実習室へ戻っていた。
美月がエリカに付き合うと言い出し、レオも残るのだから俺だけ帰る理由もない。
もっとも、付き添いが必要な試験でもないので、エリカからすれば人数が増えたところで助かるわけではないだろう。
「はいはい。優等生様は余裕があっていいですねー」
「俺も三回かかったんだが」
「合格した奴は全員敵よ」
「八つ当たりじゃねえか」
レオが呆れた声を上げたところで、俺は持っていた紙袋を近くの卓へ置いた。
「その前に、これを食っておけ」
「ん?」
袋を開き、中から個包装されたパンを四つ取り出して卓へ並べた。
「買っておいた」
「えっ、くれるの?」
さっきまで不機嫌そうにしていたエリカの表情が、分かりやすく変わった。
「昼飯食べてないだろ。再試験が長引けば、次の授業まで時間がない」
「達也……」
レオがパンと俺の顔を交互に見る。
「……こういう時だけ妙に気が利くな」
「こういう時だけ、は余計だ」
「いやでも助かる! マジで!」
レオは、早速パンを二つ捕獲して包装を破った。
「ちょっと、あんたもう食べてるの?」
「腹減ってんだから仕方ねえだろ。午後も授業あるんだぞ」
「それ、私が狙ってたパンなんだけど」
「知らねえよ!」
エリカも自分のパンを確認し、それが自分の好みだと分かると、先ほどまでの文句をあっさり引っ込めた。
「……まあ、これはこれでいいか」
「現金だな」
「うるさい」
口ではそう返しながらも、機嫌は明らかに直っている。
レオは午前中と同じCADに手を添えると、そのまま指に力を込めた。
「待て」
「何だよ?」
レオが手を止めて振り返る。
「照準を合わせるのに時間がかかりすぎている。今回は先に照準を設定してから、起動式を読み込めばいい」
「おお! ちょっとズルっぽいけど、サンキュ」
「この課題だから使える方法だ。応用は利かないから、照準そのものはちゃんと練習しておいた方がいい」
「分かってるって」
そこで、横からエリカが割り込んできた。
「ねえ、私は?」
「まずCADの持ち方から直した方がいい」
「持ち方?」
俺はエリカの手元を指した。
「右手で持って、その上から左手を添える」
「こう?」
言われた通りに左手を重ねたエリカが、怪訝そうにこちらを見る。
「どういうこと?」
「普段使っているCADは片手で操作するだろ。それに慣れている」
「ああ……」
エリカは手元の教習用CADを見下ろした。
「片手で操作しようとする癖が残ってるってこと?」
「そうだ。このCADを両手で保持していただろ? 無意識にいつもの持ち方へ戻そうとして、そのたびに余計な修正が入っている」
「なるほど」
数秒前まで不満そうだった顔が、急に明るくなる。
「さすが達也様!」
「様はいらない」
「こういう時くらいいいじゃない」
レオもエリカも、それから程なくしてコツをつかんだ。
何度か試すうちに無駄な動きが消え、最後には二人とも、開始から発動までを一息に処理して千ミリ秒を切った。
実習室の反対側から別の声が聞こえてきた。
「ありがとっス、幹比古」
「いや、僕としては尊敬するよ。あのエリカと根気よく付き合えるなと」
「むしろ自分と付き合えるエリカの方が根気あるっス」
「それは……すごいね」
「ほぅ……」
隣から低い声が漏れたので見ると、エリカの額に分かりやすく筋が浮いていた。
「ずいぶん楽しそうな話してるじゃないミキ」
声のした卓にはミーシャと、午前中から一緒にいた黒髪の男子生徒がいる。右目の下にほくろがある印象的な生徒だ。
「エリカ。僕の名前は幹比古だ」
「似たようなもんでしょ」
「似てないよ」
初対面の相手へ向ける会話には聞こえない。
「知り合いなのか?」
「まーねー。いわゆる幼馴染ってやつ。三ヶ月ほど避けられているけど」
「ミーシャも合格したのか?」
「ウィっス。八回目にしてクリアっス」
「演算領域を九割使ったまま、並行してそれなら十分すごいと思うよ」
ミーシャは普段どおり眼鏡型CADを掛けたままだ。実習室に残っている生徒も少なくなり、周囲を確かめるために首を巡らせる回数も減っている。
八回目という数字だけ見れば遅く感じるが、条件を考えれば十分以上だろう。
「あれ? 案外意気投合しちゃってるじゃないの」
「ずっと組んでたっスからね」
「そういえば、ちゃんと紹介してなかったね」
幹比古がこちらへ向き直った。
「僕は幹比古。吉田幹比古。苗字で呼ばれるのはあまり好きじゃないから、できれば名前で呼んでほしい」
「俺は司波達也、達也でいい」
「オーケー、達也」
「西城レオンハルト、もちろんレオでいいぜ」
「分かった、レオ」
「わ、私も柴田美月と言います」
「分かった。美月さん」
そこで会話が一度途切れた。
昼休みの実習室には俺たち以外にも再試験を受けている生徒が何人か残っており、少し離れた卓では今も開始音と測定音が交互に鳴っている。
幹比古はその様子を一度見てから、こちらへ少しだけ距離を詰めた。
「達也、レオ。君たちと一度、ちゃんと話してみたいと思ってたんだ」
「そうだな。俺もそう思っていた」
俺が応じると、その横でレオが妙に納得したように頷く。
すかさずミーシャが幹比古の真横へ並び、足を軽く開いて腰に手を当てた。
久しぶりに見る、あのポーズだった。
「胡散臭い古式と正真正銘古式コンビっスね」
「誰が胡散臭いんだよ」
レオにすぐさま返された言葉に、ミーシャは一瞬も迷わなかった。
「もちろん、自分っス」
「自覚あるのかよ……」
あまりにも素直な返答だったせいか、コンビ相方の幹比古の顔が困惑に染まる――俺たち全員が受けたミーシャの洗礼だ。
そのやり取りを横で聞いていたエリカが、堪えきれなくなったように眉を寄せた。
「いや、胡散臭いって何よ」
もっともな疑問だった。
「で、やっぱりミキから見ても、ミーシャの魔法って変なの?」
訂正することに疲れ始めたのか、幹比古は小さく息を吐いてからミーシャへ顔を向けた。
「僕も古式魔法を全部知っているわけじゃないから断言はできないけど、ミーシャみたいな術は聞いたことがない。
見た目だけなら古式に近いんだよ。詠唱を使ったり、触媒を使ったり、儀式へ組み込んだりする。ただ、そこから先がどうにも合わない」
「どの辺が違う?」
「一般論として、古式なら、精霊でも想子情報体でも、何かを媒介して術を起こすならそれなりの動きがある。そこへ働きかけるわけだからね。
でもミーシャの場合は、その途中がほとんど見えなくて……術が終わってから結果だけ渡されてる感じがするんだ」
その言い方なら分かる。俺は現代魔法の側から追い掛けて途中が見えなかった。
古式魔法の側から見ても、やはり同じ場所が抜け落ちているらしい。
観測するための知識も入口も違う二人が、同じところで足を止めるなら、少なくとも単純に俺の観測不足というだけではなさそうだった。
「じゃ、この際だからいっちょ実験やるっス」
「何を?」
「《コンプリヘンド・ランゲージ》っス」
聞き覚えのない術名だった。
ミーシャは卓の上にある教習用CADを指差す。
「ちょうど授業用のCADあるっスし、これで起動式読めないか調べるっス」
名称から考えるなら、言葉を理解するための術だろう。
起動式は人間の言語ではないが、一定の規則に従って情報を並べた記述ではある。
それを《コンプリヘンド・ランゲージ》がどこまで「言葉」として扱うのか調べるという発想自体は悪くない。
「それで読めるのか?」
「知らないっス」
「知らないのか」
「やったことないっスから」
迷いなく返された。
以前からミーシャの幻想術にはこういうところがある。何を準備し、どう使えば、どんな結果が出るかは知っている。
ところが、その術がどこまでを対象として扱えるのか、境界条件の話になると途端に答えが曖昧になる。
術式の内部構造から適用範囲を計算するのではなく、実際に使ってみなければ本人にも分からないらしい。
「でも今回は準備してないから、儀式で唱えるやり方するっス」
「10分かけるのか?」
「まだ昼休みは残ってるっスからね。昼飯なら、もう幹比古と食べてきたっス」
ミーシャは、パンの空き袋が覗いている腰のポシェットに手を入れ、小さな容器を二つ取り出した。
片方には細かな黒い粉が、もう片方には白い粒が入っている。
「何それ?」
「ひとつまみの煤と、少量の塩っス」
「なんでそんな物まで持ち歩いてんのよ」
「乙女の嗜みっス」
「そんな乙女知らないわよ」
エリカの返しを聞き流し、ミーシャは煤と塩をそれぞれ指先へ少量取ると、軽く擦り合わせてから何もない空中へ腕を伸ばした。
その指先がゆっくり動き、見えない板の上へ何かを記すように幾つかの線を引いていく。
円でもなければ文字とも違い、途中で折れ、重なり、最後には中央を一本の線が横切った。
ミーシャはそのままその後も、十分ほど同じような所作を繰り返し、やがて長い祝詞を唱え始めた。
「歴史の闇に埋もれし声よ。異郷の地で紡がれし文字よ。隔てられた壁を溶かし、知性の光で我が脳裏を満たせ」
最後の音が消えても、実習室の中に目立った変化はなかった。少なくとも俺の目には、術が発動したと判断できるような痕跡は何も増えていない。
「終わったっス」
「変化は?」
「自分にも特にないっスね」
本人にも自覚症状がないなら、実際に試した方が早い。
ミーシャへ向き直り、そのまま問い掛ける。
「Linguamne vere intellegis?」
「ウィっス。本当に分かるっスよ」
「Ты правда понимаешь?」
「もう、本当っスよ!」
エリカとレオの声が重なった。
「今の何?」
「最初はラテン語で『本当に言葉が分かるのか?』と聞いた。次に『本当に理解してるのか?』とロシア語で問いかけた」
「マジで分かってんのかよ……いや、さらっと試せる達也も大概だけどさ」
「便利すぎない?」
「もちろん試験には使ってないっスからね」
「まだ何も言ってないわよ」
「言いそうだったっス」
そこまで話してから、美月だけ会話へ入ってこないことに気づいた。
こちらを見ているようで、視線はミーシャの顔にも眼鏡にも合っていない。その周囲、何もない空間をじっと追い掛けている。
「あの……ミーシャさん」
「ウィっス?」
「魔法を唱える時、一つだった四角が、二つに分かれて……少し重なってました」
美月は自分の前で両手を開き、見えているものの大きさを確かめるようにゆっくり動かした。
「もしかして、本の形……ですか?」
「ああ、それ自分のスペルブックっス」
エリカが何それ、とでも言いたげに眉をひそめたところで、ミーシャが美月へ顔を向け直した。
「入学式の時もそうだったっスけど、やっぱり見えるんスね」
「全部じゃないですけど……開いた本みたいな形になってました。最初の時よりもずっとはっきりしていて……中は白いページでしょうか?」
「自分、こういう非準備魔法の儀式とか、毎朝の魔法の準備とかアイテム作成レシピとかに使う時にその本使うっス。多分その辺じゃないスかね」
「色が見えるって!?」
「きゃっ」
それまで少し離れて聞いていた幹比古が一気に距離を詰め、そのまま美月の両肩を掴んだ。
俺も反射的に半歩踏み出したが、攻撃する意思がないことは見れば分かる。
それより幹比古本人の方が、自分が何をしているのか気づくのが遅れたらしい。
数秒してから急に両手を離し、その勢いで一歩後ろへ下がった。
「ご、ごめん!」
「だ、大丈夫です」
幹比古は言いかけて口をつぐみ、少し視線を落とした。
「その……僕のことで、少し……いや、まだ何とも言えないんだけど。
君に見えているものが、何か切っ掛けになるかもしれないと思って……」
どうやら幹比古には、今の自分の状況について思い当たる節があるらしい。だが、それを口にするのはためらわれるようだった。
そこまで言って、幹比古は美月がまだ戸惑っていることに気づいたらしい。
「いや、それは僕の都合だ。突然あんなことをしてごめん。水晶眼の持ち主かもしれないと思ったら、つい……」
「水晶眼? 差し支えなければ教えてくれないか?」
「そうだね。水晶眼自体の話は、それ程の秘密ってほどじゃないし」
幹比古はそう前置きしてから、少し考えるように間を置いた。
念のためなのか、実習室の中を確かめる。昼休みの居残りで残っている生徒はもういない、教室では俺たちだけだ。
「簡単に言えば精霊を直接視る眼だよ」
「直接?」
「ああ。僕たちみたいな古式魔法師も精霊を感じ取ることはできるけど、普通は術式や感覚を通して認識してる。水晶眼は、そういうものを挟まないんだ」
「精霊そのものを視覚情報として認識するのか」
「たぶん、それが一番近い言い方だと思う。性質や力の強さまで、色の違いみたいに見分けられるらしい」
「それほど珍しいのか?」
「かなり珍しいよ。古式の世界でも、実際に持ってる人間なんて滅多にいない」
そこまで言ったところで、幹比古はさっきより声を落とした。
「……これ、外で話さない方がいいかもしれない」
「水晶眼のことか?」
「ああ。もし本当にそうならね」
幹比古は一度美月を見てから、俺たち全員へ目を向けた。
「水晶眼は、僕たちの流派にとっては、使い方次第で術の能力を大きく変えられる能力なんだ。
自分たちの術者より水晶眼を持ってる人間の方を貴重だと考えるところだってある」
エリカの眉が寄る。
「それって……欲しがる人がいるってこと?」
「いると思う」
幹比古は迷わず答えた。
「喉から手が出るほど欲しがる人もいる」
美月の肩が僅かに強張った。
それを見た幹比古は、言い方を間違えたと思ったのか、すぐに言葉を継いだ。
「いや、人を物みたいに扱うって意味じゃない。ただ――」
「結果として、そう扱う連中が出ないとは言い切れないということだろ」
俺が引き取ると、幹比古は少し黙ってから頷いた。
「……うん」
「つまり、本人が何者かも分からないうちから広める必要はない」
「もちろんっス」
ミーシャも珍しくふざけずに答えた。
レオは状況を飲み込むまで少し時間が掛かったらしいが、やがて真顔で頷いた。
「俺も言わねえよ。そもそも、こんなの誰に話せばいいのか分かんねえし」
「それはそれでどうなのよ」
エリカが突っ込んだあと、自分も美月を見る。
「ま、私も黙っとく。面倒事が寄ってくるの、嫌でしょ」
「はい……」
美月は戸惑いながらも、少し安心したように頷いた。
最後に全員の視線が俺へ集まる。
「俺も外へ出すつもりはない」
美月は幹比古をしばらく見たあと、ゆっくり口を開いた。
「あ、あの……それでも、吉田くんに何かしてあげることがあるのでしたら、協力してあげたいなと」
「本当?」
「はい。私にできることでしたら」
「……ありがと」
幹比古の顔の緊張がゆっくりと解けていく。
その横顔をエリカがじっと眺め、少し離れたところではミーシャまで二人の間へ顔を向けていた。
「へえー」
「何だい、エリカ」
「べっつにー?」
このまま放っておけば別の話が始まりそうだった。
「起動式は調べないのか?」
「あ」
ミーシャがこちらへ顔を戻した。
「そうだったっス。一時間も効果あるから、余裕かましてたっス」
ミーシャは眼鏡型CADが読み取れる位置までモニタへ顔を近づけ、起動式が表示される部分に手を添える。
実習卓の端末を操作し、午前中に使った基礎魔法の起動式を呼び出す。
モニタに表示された情報列を、ミーシャが読み取れる位置へ調整した。
「これでどうだ?」
「もう一回っス」
そこから何回か繰り返した。
画面には規則的な情報列が並んだままで、ミーシャは何度か角度を変えるように顔を動かしたものの、反応はない。
ラテン語を聞かせた時には即座に意味を取ったのだから、もし術が起動式へ反応しているなら、ここまで時間は掛からないはずだ。
やがて、ミーシャの顔がわずかに右へ傾いた。
「……読めないっス。何か並んでるのは分かるっス。でも、全然意味入ってこないっスね」
「つまり、起動式にも構文に相当する規則があり、情報の並びや指し示す内容は定まっている。
だが、ラテン語やロシア語は理解できたのに、起動式は読み解けなかった。
どうやらこの術は、未知の情報列を単に解析するのではなく、何らかの基準で『言語』を判別しているらしい」
「……ウィっ?……ス?」
説明を続けるほど、ミーシャの表情がじわじわと引きつっていく。
「ただし、起動式が人間同士の意思疎通を目的としたものではないからなのか、それとも別の条件によるものなのか。
現時点では判断するだけの材料が足りない」
そこまで説明したところで、ミーシャが少し口を尖らせて割り込んできた。
「オルターセルフの時もそうだったっスけど、なんか達也の方が、幻想術の運用判断が得意になってないっスか?」
俺は気にせず、事実だけを返す。
「判断材料が増えたから、分析しやすくなっただけだ」
「いや、自分の魔法っスよ?」
「だから本人が全部分かっているとは限らないだろう」
「ぐうの音も出ないっス」
ミーシャががっくり肩を落とし、エリカが笑顔でその肩を軽くパンパン叩いていた。
【第18話:D&D使用呪文説明】
コンプリヘンド・ランゲージ
(Comprehend Languages/言語理解)
レベル:1レベル
発動時間:1アクション(儀式)
射程:自身
構成要素:音声(V)、動作(S)、物質(M)(煤と塩をひとつまみずつ。)
持続時間:1時間
系統:占術
攻撃/セーヴ:なし
ダメージ/効果:社会的交流
呪文の効果
持続時間中、君は耳で聞いたり、手話などの身振りで表現されたりする、あらゆる言語の文字どおりの意味を理解できる。
また、目にしたあらゆる言語の文章も理解できる。ただし、その文章が書かれている表面に触れていなければならない。
文章を読むには、1ページにつき約1分かかる。
この呪文では、暗号化された記号や秘密のメッセージを解読することはできない。