入学式当日の早朝。
第一高校の講堂前には、まだ人の気配が薄かった。
校舎へ続く舗装路を、ときおり早足の生徒が横切っていく。春先の冷えた空気の中では、少し離れた場所を歩く靴音まで妙によく響いた。
「それではお兄様、後ほど」
講堂の入口で、深雪が振り返る。
係員に呼ばれ、すでに数歩先まで進んでいる。それでも深雪は身体だけを先へ向けることなく、こちらを見たままだった。
「ああ。あまり緊張する必要はないぞ」
「もちろんです」
深雪の唇が、ほんの少しだけ上向いた。
「お兄様に恥をかかせるようなことはいたしません」
そういう意味で言ったわけではないのだが。
言い直す暇もなく、深雪は係員に促されて講堂の奥へ消えた。
扉が閉まり、俺は一人、朝の冷気の中に取り残された。
さて、開始までは、まだ二時間近くある。
深雪が新入生総代としてリハーサルに出るから付き添ってきただけで、俺自身には、こんな時間から学校にいる用事などない。
かといって一度帰宅するには半端だし、講堂前に立ち続けている理由もなかった。
携帯情報端末を取り出し、校内図を開く。
講堂前で立ったまま本を読むのも落ち着かない。人の少なそうな場所を探して地図を眺め、少し離れたところにある中庭へ向かうことにした。
五分ほど歩くと、校舎と校舎の間から芝生が覗いた。
植え込みにはまだ朝露が残っていて、葉の先に溜まった水滴が朝日に反射して細かく揺れている。
数本の木と、その陰にベンチが一つ。校舎から少し離れているせいか、わざわざここまで来る生徒も見当たらない。
――悪くない。
腰を下ろし、昨夜読みかけだった電子書籍を開いた。
ページを呼び出したそのとき、少し不規則な足音がした。
人の少ない朝だから、余計に耳についた。
顔を上げると、左手の通路から、女子生徒が一人歩いてきていたのが見える。
少し歩いて左右をキョロキョロ見回している。遠くからでもかなり目立つ動きだ。
まず制服が目に入った。胸にも肩にも、八枚花弁のエンブレムはない。
二科生。俺と同じだ。
その次に目についたのはセミロングの髪だった。金色、と呼ぶには少しくすんでいる。
陽の下では灰色がかった淡い色にも見え、顔立ちも日本人のものではなかった。
小柄で、細い。そして、白く濁った眼球は、通路脇の植え込みにも、足元にも向かない。
そこまでなら、俺はもう一度本へ視線を戻していた。
見知らぬ人間の事情を、わざわざ眺め回す趣味はない。
だが少女の顔に掛けられた眼鏡型の機器、そのフレーム側面に刻まれた小さな文字を見た瞬間、ページを送ろうとしていた指が止まった。
――FLT。
見間違えるはずがない。俺は端末を膝の上へ下ろした。
――これを使っているのか。
一年前、フォア・リーブス・テクノロジーで販売された視覚障害者用の特化型CAD。
ハードウェアをまとめたのは牛山さんで、そこへ組み込む知覚系魔法の設計には俺も関わった。もっとも、そのことを目の前の少女に話すつもりはない。
トーラス・シルバー。その片割れが俺だと知られるわけにはいかない。
少女は歩きながら、しきりに首を左右へ振っていた。
正面、左、右、また正面。
事情を知らなければ、落ち着きのない仕草に見えるだろう。
だが、あのCADの有効距離は短く、認識範囲は正面九十度。
拾える範囲そのものが狭い。
初めて歩く場所なら、ああして首を振らなければ左右の情報を十分に得られない。
もっとも、狭いのには理由がある。
文字も、画面も、障害物も拾える。
段差や人の輪郭、表情はもちろん、近距離なら展開中のサイオン情報体まで識別できる。
それだけの情報を絶えず解析し、視覚とは異なる知覚として使用者へ送り込む。
当然、構築される魔法式は軽くない。
ループ・キャストによって起動式の再展開を省いているとはいえ、効果を維持するためには一定の周期で魔法を更新し続ける必要がある。
術式そのものは、サイオン消費と演算負荷を可能な限り抑えるため、徹底的に軽量化されていた。
それでも、使用中は魔法演算領域の演算能力を九割近く占有する。
正確には、九割を超えないようCAD側で制限してある。
残された一割は、意図的に余力として残してある。演算能力を常時十割まで使い切る設計など、安全マージンを確保するという基本原則に反する。
それだけの演算能力を使って、ようやく通常の魔法師で十メートル程度、正面九十度の視界だ。
それが、このCADの性能だった。
もちろん、どれほど安全策を重ねても危険がなくなるわけではない。
そのため、サイオン供給量が異常に低下する、魔法演算領域がオーバーヒートの危険域に達するなど、いずれか一つでも安全規定値を逸脱した場合には、CAD側がループ・キャストを強制的に打ち切る仕組みも実装した。
少女の腰には、制服にはやや不釣り合いな革製のポシェットと、CADの緊急停止時に使うためだろう、折り畳み式の白杖が下がっていた。
そして、その少女は俺を見つけると、少しうれしそうにこちらへ歩いてくる。
やがてベンチの前まで来ると、少女はぴたりと足を止め、勢いよく頭を下げた。
「ウィっス。おはようございますっス!」
「……おはよう」
返事が遅れた俺を全く気にすることなく、少女が顔を上げる。
焦点の合わない目のまま、それでも顔だけはこちらへ正確に向けていた。
「質問するっス。開場ってあと何分くらいっスか?」
「入学式なら、あと二時間程度だな」
「了解っス。ありがとうっス。まだまだ踏破率上げれるっス」
あっさり踵を返すのかと思ったが、少女はその場に残った。
俺の胸元へ顔を向け、小さく首を傾げる。
眼球で見たわけではない。CADが制服を拾ったのだろう。
「新入生っスか?」
「ああ」
「自分、風間ミーシャっス。新入生同士、よろしくお願いするっス」
端末の縁に置いていた指先が止まった。
昨日、風間少佐から聞いたばかりの名前だ。まさか初日の朝、それもこんな場所で本人に出会うとは思っていなかった。
「司波達也だ」
「司波……達也?」
今度は、ミーシャの動きが止まり、わずかに顎が上がる。
「ああ」
「いきなりっスか」
何がいきなりなのかは、だいたい分かる。
風間少佐が娘にどこまで話しているかまでは知らないが、俺の名前程度なら聞いていてもおかしくはない。
だがミーシャは、それ以上考え込む様子もなく、すぐに両手を腰に当て、足を50センチほどの幅に広げた。
眼鏡の奥で見えないはずの目が、こちらを見据えたような気がした。フンスという鼻息も漏れる。
「ミーシャでいいっス。呼び捨てでお願いするっス」
「ああ」
初対面で、いきなり呼び捨てを要求するのか。このポーズに意味はあるのか?
「じゃあ、自分も達也って呼んでいいっスか?」
「ああ」
「ウィっス。達也」
どうにも調子が狂う。生返事を三回繰り返してしまった。
風間少佐の養女で、独立魔装大隊に民間協力者として登録されている人間。
事前に聞かされていた情報から、もっと張り詰めた人物を無意識に想像していたのだと、今になって気づいた。
だが目の前の少女には、そういう硬さがない。
語尾は軽いし、姿勢も妙にゆるい。初対面の人間に対する距離の取り方とも思えないほど、こちらの懐へ入ってくるのが早かった。
そのとき、校舎の方から数人の女子生徒が歩いてくる。
胸元には八枚花弁。一科生だ。俺たちの背後を通り過ぎる。
「二科の人たちよ」
声を潜めたつもりらしいが、十分聞こえる。
「こんな早くから来てるんだ」
「補欠なのに、張り切っちゃって」
くすくすと笑う声。振り返る気にはならなかった。こちらに聞かせない程度の気遣いもできない相手なら、わざわざ反応する価値もない。
「ウィっス! 張り切ってるっス!」
……思いっきり反応した。しかもさっきのポーズだ。
ミーシャの大きな声に、まさか返ってくるとは思わなかったのだろう。
ミーシャを見てギョッとした表情を浮かべ、そのポーズにも驚いたまま、足早に通り過ぎていった。
足音が遠ざかり、植え込みの向こうへ完全に消えた頃になって、彼女が再度口を開いた。
「達也、あんまり気にしてないっスね」
「君もだな」
「まあ」
鼻から短く息を抜く。
「どこに入るかより、そこで何を学ぶかの方が大事っスから」
いつもの軽い声だった。
そのまま続けるかと思ったが、次の言葉までには少しだけ間が空いた。
「それに……そこそこ慣れてるっスから」
俺はそれに対し何も言うべきでないと判断した。
しばらくして、中庭にもぽつぽつと生徒が現れ始めた。
誰かが近くを通るたび、ミーシャの顔がそちらへ動く。
右や左や後ろとランダムなタイミングで動く、しかも妙にキビキビだ。これは目立つ。
当然ながら、その動きに気づいた人間がいた。
「何かお困りですか?」
柔らかな声だった。
振り向くと、上級生らしい女子生徒が立っていた。
穏やかな顔立ちをしている。だが、その目は俺とミーシャの間を素早く往復した。
そして制服の袖からCADが見え隠れしている。校内でCADの携帯を許されているのは役員のみ。
「いえ、特には」
俺が答える横で、ミーシャが小さく頭を下げた。
「恐縮っス……人が多いと、どうにも落ち着かないっス」
「人が多いと?」
「視覚補助CADが、いろんなもの拾っちまうっスから……距離も十五メートルほどしかないっス」
――十五メートル……カタログスペック上の有効範囲を超えている。ミーシャの演算能力は、並以上ということか。
上級生の視線がミーシャの眼鏡へ移る。
その下にある白濁した眼球にも、一瞬だけ。
それだけで理解したらしい。声の調子は変わらなかった。
「なるほど。初めての場所ですものね」
口元にやわらかな笑みが浮かぶ。
「少しずつ慣れるといいですわ」
そこで、わずかに姿勢を正した。
「申し遅れました。生徒会長を務めております、七草真由美と申します」
――七草。昨日見た資料の名前と一致した。
「七草と書いて『さえぐさ』と読みます。よろしくね」
そう言って、片目を閉じる。
十師族、七草家、そして、第一高校生徒会長。
資料だけでは分からなかったが、ずいぶんと人を見ている。少なくとも、ただ親切心だけで声を掛けてきたわけではないだろう。
「俺……いや自分は、司波達也です」
「風間ミーシャっス。よろしくお願いするっス」
七草会長の目が俺へ戻った。
「司波達也君……まあ、あなたがあの司波君ね」
――『まあ』か。
深雪が新入生総代で、その兄が二科生。
まず思いついたのは、その組み合わせだった。
「七教科平均九十六点。中でも魔法理論と魔法工学は、小論文を含めて満点」
違った、そっちか。
「前例のない点数だったそうですよ。先生方の間で噂になっていました」
魔法科高校は実技に重点を置いていると聞いたが、意外に見ているものなのだな。
返事を考えていると、横からミーシャが顔を突っ込んできた。
「会長、自分はどうっスか?」
「風間さん?」
「先生方の噂になってなかったっスか?」
七草会長の眉が、ほんのわずかに寄る。思い出しているらしい。
やがて、口元へ手を添えた。
「口調が面白かったって、先生方のお茶の時間の話題にはなっていましたよ」
「勝ったっス」
ミーシャが胸を張った――何にだ。
「……そうか」
「納得してない顔っスね」
『納得も何も、基準すらわからない』と返そうかと思った、そのときだった。
「かいちょー、リハーサル始まりますよー」
校舎側から、小柄な女子生徒が走ってきた。
生徒会長を呼ぶ声とは思えないほど軽い。
七草会長の前まで来ると、少女は俺とミーシャを交互に見た。
「お話し中ですか?」
「いえ。こちらこそ引き止めてしまいました」
俺はベンチから立ち上がり、丁寧に礼をした。
「失礼します」
「ええ。また後で」
会釈を返された、そのとき、小柄な生徒の動きが止まった。
見ているのはミーシャの目ではなく、眼鏡型CAD。
瞳がわずかに大きくなる。
「……トーラス・シルバー……?」
聞こえるかどうか、ぎりぎりの声。
俺は表情を変えなかった。
あれを一目見てそこへ辿り着くなら、CADにはかなり詳しい。
ミーシャは気づかなかったらしい。
七草会長が小柄な生徒の背中を押す。
二人は講堂の方へ歩いていき、そのまま校舎の角へ姿を消した。
「いきなり生徒会長来たっスね」
ミーシャがぽつりと言う。
「そうだな」
「たぶん、自分が不審行動してるの見て、警戒したんだと思うっス」
分かっていたのか。
「かなりのやり手っス」
「自覚してるなら、少し抑えればいいんじゃないか?」
「いやあ」
ミーシャが頬を掻いた。
「分かってても難しいっスよ。知らない場所で、十五メートル先までしか分からないって、結構怖いっス。
当然、全盲よりは便利っス。だけど逆に、『見える』っていう力を得ると、索敵っていう行為も自然に出てくるっスね」
あのCADを設計した側の俺には、それは仕様書の中に書かれた数字でしかない。
その範囲で必要な情報を拾えるか、過剰な負荷がないか、そういう観点からは何度も考えた。
だが当然ながら、長年の全盲状態からこの視覚補助CADを使用したことはない。
こればかりはミーシャに感謝せねばなるまい。
「で」
ミーシャが眼鏡の位置をくいっと直した。
「やり手なのは達也もっスね」
「俺は学科はともかく、魔法実技の点数は芳しくなかったぞ」
「そっスか」
意外なくらい素直な返事が返ってきた。
「そこらへんは、達也がそう言うならそうなんっスね」
妙な言い回しだ。
「でも、体術はかなりのものだって九重寺の住職から聞いてるっス」
「師匠から聞いている? ミーシャは師匠の弟子なのか?」
「弟子じゃないっスよ。護身用に、ちょこっと身のこなし教えてもらっただけっス」
風間少佐との関係を考えれば、九重八雲とそれくらいの面識があっても不自然ではない。
俺はため息を吐く――師匠も余計なことをしてくれたものだ。
飄々とした態度で、ミーシャに俺のことを話している姿が目に浮かんだ。
ミーシャがいきなりシャドーを始めた……動きはそこそこだ。護身用ならそんなものだろう。
「本当の戦闘になったら、達也の分析力は心強いっスね」
ミーシャがシャドーしながらうんうんと頷く。
この生徒に停止スイッチはあるのかと、考え始めていた。
「兄に金棒っス」
「鬼だろ、そこは」
「そうとも言うっス」
そうとしか言わない。
だが、論点はそこでない。
俺が九重八雲の門下であること自体は秘匿していない。
ミーシャが、それ以上何も聞いてこないことだ。
どこまで教わったのか。何ができるのか。軍では何をしているのか。
普通なら、いくらでも話を広げられる。昨日、風間少佐から俺のことを聞いているなら、なおさらだ。
だが彼女は、俺が自分で出したところまでで止めている。
偶然なのか、意識しているのかは、まだ判断はつかない。
ミーシャが眼鏡のフレームを指先で軽く叩いた。
「自分も実技はあまり良い成績じゃなかったっス。このCADつけたまま入試も受けたっスから」
ミーシャの指がフレームから離れ、びしっと前を刺す。
「学校生活じゃ、ずっとこれ付けてるんで。普段と違う条件で入っても、後で困るの自分っスからね」
もしそうなら、実技試験では視覚補助用の魔法を維持したまま、さらに試験用の魔法を起動しなければならない。
常にマルチキャストを併用しているような状態になる。
入学することだけを考えるなら、試験の間だけCADを外した方がいい。
だが、入学後の授業でも実技でも、彼女はこのCADを使い続けることになる。
ならば、最初から同じ条件で試験を受ける。
筋は通っている。少なくとも、理屈の上では。
だが、たとえそれが正しいと分かっていても、実際にその選択をできる人間がどれだけいるかは、また別の話だ。
「その代わり」
ミーシャが顎を上げた。腰も反りだす。
「古式魔法にはそれなりに自信あるっスよ」
「風間少佐の天狗術か?」
「違うっス」
返事が早かった。
「父の天狗術でもないし、九重様の忍術でもないっス」
「というと?」
ミーシャが少しだけ胸を張る。
「五歳の時から使えた自分だけの魔法っス。それで父に会えたっス」
そこで一度、言葉を切った。
俺は黙ってミーシャを見る。
古式魔法は、現代魔法以上に継承の影響が強い。
技法も術式も、体系として師から弟子へ渡されるものが多い。土地や家系に結びついた術なら、なおさら外部の人間が独学で辿り着くことは難しい。
五歳の幼児が一人で体系を組み上げたとは考えにくい。
なら、先天的な固有魔法、つまり、BS魔法師。
……いや、材料が少なすぎる。
「父は、こう名付けたっス」
ミーシャの声が、少しだけ静かになる。
「《幻想術》」
――幻想術――頭の中に、その名前だけが残った。
「ところで達也」
声が元に戻った。
「なんでこんな早く学校来たっスか?」
「妹が新入生総代なんだ。リハーサルがあるから付き添ってきた」
「ああ」
ミーシャが小さく頷く。
「確かに、プログラムの新入生総代挨拶のところに深雪さんの名前が書いてあったっスね。なるほど、そういうことっスか」
「ミーシャは?」
「もちろんマッピングっス」
なにが『もちろん』なのか当然説明はない。
「マッピング?」
「自分、普通より視界狭いっスから」
眼鏡に向かって、思いっきり親指を向ける。
「知らない場所は、先に歩いといた方が楽なんスよ。普段使うところ、一回通るだけで結構違うっス」
端末の校内図で分かるのは、せいぜい平面的な位置関係だ。
高低差も段差も分からないし、角を曲がった直後に何があるかまでは表示されない。
十五メートルの視界しか持てない彼女なら、事前に一度歩いておく意味は俺が考える以上に大きいのだろう。
「というわけで」
ミーシャがこちらを向いた。口元がへにゃりと緩んでいる。
嫌な予感がした。
「達也も一緒に行くっス」
「なぜ俺まで?」
「達也も実地調査して損はないっスよね?」
膝の上の端末には、開いたままの本が表示されていた。ここへ来てからそれなりに時間は経っているはずなのに、まだ一行も読めていない。
諦めて、画面を閉じる。
「分かった。行くか」
「ウィっス。助かるっス」
ミーシャが勢いよく一歩を踏み出す。
そのまま右を向き、左を向き、それから正面へ戻った。
十五メートルずつ、学校を切り取るように。
俺も端末をポケットへ入れる。
「まず、どこから行く?」
「自販機っス」
「教室じゃないのか」
「水分補給は重要っス。ひからびーしゃになりたくないっス」
言い切ると、ミーシャは迷いなく歩き出したが、三歩進んだところで足が止まる。
「……達也」
「なんだ」
「自販機、どっちっスか?」
俺は無言で左を指した。