「ふぅ…ひとまずこんなところかしら」
「お前…人使い荒すぎ……」
汗が滲む額を服で拭う。
そんなに運ぶ物は無いとか言いつつ、机・椅子・観葉植物・クッション諸々の小物とか運ばせてきやがった。
目覚めてリハビリがまだ完全には終わってないのに酷い仕打ちだ。
おかげでただの空き教室がおしゃれな空間になったが割に合わない。
不幸中の幸いで部屋のクーラーは自由に使えたからまだ良かった。
「あはは…殆ど運ばせちゃったわね。ほらこれでも飲んで」
「あぁ…さんきゅ」
いつの間にか買っていたスポーツドリンクを手渡される。
それを勢いよく飲み干す。
全身に染み渡る……
「折角作ったんだから、あんたも顔出しなさいよ」
「えぇ…ていうか夏休みの序盤にやる事かこれ」
「……何事も準備は早い方がいいじゃない?」
はっとした表情で歯切れ悪く答える篠崎を恨めしく睨みつける。
さてはこいつ何も考えずに行動したな…?
「しーのーさーきー…?」
「ま、まぁ一般向けに解放するのは休み明けからってことで……。ほら休みの間はアスナとかシリカを呼んで遊ぶからさ。あんたも!好きに使ったらいいし」
俺は友達の友達の為に汗水垂らして作ったわけじゃ無いんだが…
別にいいか…篠崎は早とちりして行動するタイプだから仕方ない。
「お前な……」
「ごめんって!また今度お詫びするからさ」
「ははーん、どうやって?」
「…………ケーキ奢ってあげる。甘い物好きでしょ」
かなり悩んでいたけど…スイーツ奢るのにそんなに渋るもんなのかね。
「……駅前の限定ケーキで手を打とう」
お値段がちょい高めだから中々手が出せなかったんだよなぁ。
人の罪悪感に漬け込む様で悪いね。
「うっ……分かったわ」
篠崎がちらりとお財布を開いて中身をのぞいた。
表情から察するにいけなくは無いが今月の出費を抑えなきゃねって感じだな。
思わぬ幸運が転がってきたもんだ。
ラッキーなんて思っていると篠崎が時計を見て何かに気づく。
「いけない…アスナ達と約束してる時間だわ!申し訳ないけど、鍵とか諸々返しといて!」
今は昼の14時頃、恐らくALO内で落ち合うつもりなんだろう。
慌ただしく走っていった篠崎が何か落としていったが気づかずにいってしまう。
「これは…プリクラか」
1人はアスナと…知らない少女が写っている。
中等部の子だろうか……随分と仲が良さそうだ。
そのままにしておくのも気が引けるので落とし物を預かる連絡だけ入れておく。
嵐みたいに忙しい奴だなまったく。
「帰るか…」
部屋の鍵を閉めて用務員さんに返す。
そして暑い帰り道に身を焼かれながら家に帰った。
▪️▪️▪️▪️
「ただいま」
返事はないが言う。
親は長期の海外赴任に行っているからなんだか広さに見合わない程寂しく感じる。
暇すぎるのでテレビゲームを起動させるが、ネッ友がいない。
あいつらもVRか……
仕方がないのでオフライン用のゲームを遊ぶ。
ラスボス手前だったのにSAOのせいで2年以上クリア出来なかった奴があったな。
それやるか。
「むっっっっずいな」
そういえば最高難度にしてたんだっけか。
敵が数ターン毎に即死攻撃撃ってきやがる。
苦戦すること小一時間。
防御無効化と回避率上昇のバフが切れた隙間を縫った攻撃がようやくラスボスのHPを0にする。
ラスボスなんだから防御能力に特化してんじゃねえよ。
だが噛み応えはめちゃくちゃあった、二度はやらない。
「ん…飯作るか」
時計を見ていい感じの夕方になった事に気づいた。
親から多めに生活費は出てるけど外食ばかりなのも体に悪いからやめておくようにしている。
飯と魚と味噌汁の簡易的な夕食を作り食べる。
少々塩辛いけど、男の手料理なんてこんな物だろう。
「ごちそうさま」
食器を片付けてソファに座る。
そろそろあれをしないといけないか……
隅に置いてあるアミュスフィアを頭につける。
本当はあんまりしたくないんだがカウンセリングで1日に一回は仮想空間に入っておいた方が現実とVRを正しく分けられるようになると言われたからなぁ。
実際にSAO帰還者の中には現実と仮想空間の区別が付かない人もいるみたいだし…
遊ぶのはALO。
触りだけ、ほんとちょっとだけやったらすぐ眠る。
うん、そうしよう。
「……リンクスタート」
今でも少し躊躇う言葉を言うと視界が白く輝き仮想世界へと入った。