「はぁっ!よし、アスナ!」
「分かったわ!」
出てくる敵をキリトが剣で薙ぎ払い、アスナが追撃をかける。
さっきから流れるような連携で敵を倒していくから俺の出番がない。
そんな様子だからあっという間に攻略が進み、気づけばボス部屋手前。ちょっと不完全燃焼気味だ。
「俺いる???」
ぼやきつつ前2人の死角からポップしたモンスターに短剣を投げる。
首にヒットしたモンスターは粒子となって消えて行く。
……頭を狙ったつもりだったんだが、腕が落ちたか。
「……今敵の方向見てませんでしたよね」
「全体をぼんやり見てるんだよ」
周辺視という物らしい。
いちいち目で追っていたら複数の敵に対応出来ないからな。
これくらいは訓練したら誰でもできる。
「あんたも大概化け物よね…」
「出来なかったら死んでたしなぁ」
SAO時代、オレンジプレイヤーに囲まれた時に身につけた感覚。
1人ずつ見て対処してたら他の攻撃に対応できなかった。
「あんたね…」
「おっと…あんまりSAOの時は話さない方がいいか?」
「そうじゃないけど…圧が怖いわよ」
「ごめん……」
リズに言われて深呼吸する。
死んでも大丈夫なゲームだし、必要以上の警戒はいらないな。
どうにも、戦闘になるとSAOの頃の感覚でプレイしがちだ。
「分かればよろしい。それにゲームは楽しむものよ?」
後ろの方に湧いたモンスターをリズとシリカが倒す。
シリカがナイフで牽制して隙を突いてリズがメイスで一撃入れる。
中々考えられた動きだと思う。
「ムー!ちょっと手伝ってくれ!」
前を見ると5体のモンスターを相手にアスナとキリトが応戦していた。
動線と被らないように短剣を投げて2体の動きを止める。
「スイッチ!!」
キリトと位置を交換しながら抜いた片手剣で確実に仕留める。
短剣を回収しつつ、後ろに下がる。
アスナが凄まじい突きで1体倒し、キリトが入れ替わって残りの2体を切り伏せる。
これで全て倒せた。
「相変わらず出鱈目な戦い方ですね」
アスナが剣をしまいながら呆れている。
だが反対にキリトの目はキラキラしていた。
「いや…あの状況でHPが少ない敵を見極めて確実に仕留めた。しかも俺たちの動線を読んで最適ルートで援護したんだ。めちゃくちゃ凄いぞ」
「何で全部分かるんだよ。怖いわ」
「すみません、彼バトルジャンキーな所があって…」
キラキラと興奮しているキリトを宥めるアスナ。
だが収まる気配が無さそうな所にリズが割り込む。
「キリトー馬鹿やってないでボス戦いくわよー」
「えっ…あぁ、そうだな」
我に帰ったキリトが咳払いをしてボス戦の扉の方に向く。
サクサク進めたから1時間も経っていない。
あんまり迷宮には潜らないから分からないけど…異常な速さだと思う。
回復薬を飲んでHPを全快させて準備を整える。
リズが扉を開けると大きな棍棒を担いだゴブリンが取り巻きと一緒に待ち構えていた。
「取り巻きは俺が抑える!」
短剣を投げ一体倒す。
続け様にもう一本投げて雑魚の動きを止める。
さらに、リズとシリカが魔法で残りの取り巻きを吹き飛ばしたおかげでボスと取り巻きに距離ができた。
「今だ、行け!」
「任せろ(て)!!」
後ろに下がり既に駆け出している2人に替わる。
同じタイミングで放たれた一撃はボスに大ダメージを与えた。
ボスがのけぞり大ダメージにより硬直状態になったのを見逃さずもう一度走り出す。
残りのHP的にあと一撃入れば倒せる。
メニュー画面を素早く操作して片手剣から槍に装備を変える。
「いけ!!」
ボスに向けて槍を投げる。
一直線に進んだ槍はボスの頭を貫通してトドメを与えた。
ボスが粒子になって消える。
その後、Congratulationsの文字が浮かび上がった。
どうやら無事に倒し切れたらしい。
「今のどうやったんだ!?」
キリトがこっちに走ってきて肩を掴んでくる。
興奮しているのはわかるけど、ぐわんぐわん揺らすのやめて欲しい。
「あらかじめ装備画面を出して戦ってたんだよ。そしたら操作時間がだいぶ減るからさ」
戦闘中においては武器を変えるのは時間ロスが目立つ。
だけどこの方法なら大幅に時間短縮できるんだ。
ただ、視界が装備画面で邪魔されるという欠点かあるけど。
「そんな方法が…でも視界の邪魔になるかが実際には……」
キリトが考えこんでしまう。
そんなに真面目に考察しなくてもいいのに。
「もはや変態的な技術ね……」
リズか呆れた表情でこっちに歩いてくる。
失礼な奴だ…慣れれば誰でもできる。
ただそれをする発想がない奴が多いだけだ。
まぁ俺も自分で考えついた訳じゃないけど。
「誰でもできるさ」
「普通はメニュー画面出しながら戦ったりしないものよ?」
「だからだよ」
デメリットもあるがメリットが勝つ。
状況次第では切り札にもなる。
相手も、まさか邪魔なものを視界に残して攻撃してるなんて思わないだろうから。
「こんな時間か……悪いが俺はもう寝る。分配とかは適当にやっといてくれ」
メニューの時計をみると既に21時手前。
眠いし早くログアウトしたい。
「分かったわ、キリトもあんなんだしまた今度渡すから」
「みんなも、お疲れ様」
「お疲れ様でした〜」
「お疲れ様」
他のメンバーにも声をかけてゲームからログアウトする。
キリトはまだ考え込んでたけど、放置で大丈夫だろう。
「………」
アミュスフィアを取り外す。
時計の秒針がはっきり聞こえるほど、部屋は静まり返っている。
それが嫌な程に気味悪く感じてしまう。
「……止めておくか」
一瞬ALOに戻ろうとしたけど、止めた。
立ち上がって水を一杯飲む。
もう一度ソファに寝転んでテレビを付ける。
「おやすみ」
返事はない。
拭えない孤独感を紛らわせながらゆっくりと目を閉じた。