ALO内のある喫茶店。
レトロな雰囲気と静かに流れるクラシック音楽が優雅な気分にさせてくれる。
「お待たせしました、ティーセットになります」
NPCがショートケーキとコーヒーを持ってきた。
渋みのある緑のクリームがかかっていて、丸型で小ぶりな形が上品さを際立たせている。
問題は味の方だが……
フォークで切り分けて口に運ぶ。
「……!」
上品で渋みがある抹茶のクリームと普通よりかなり甘いスポンジ部分が絶妙にマッチしている。
一口、二口と止まらない。
「………あっ」
気づくと全て食べ切ってしまっていた。
時代の進化って恐ろしい……SAO時代はこんな繊細な味表現なかったのに。
「美味しかったみたいね?私のも食べる?」
ニマニマと微笑むリズを見て我に帰る。
何でも無いふりをしてコーヒーを飲み干した。
「大丈夫、頼み直せばいいんだし」
ショップウィンドウを出してもう一度注文しようとするがメニューがない
「これ一日一回限定だから注文出来ないわよ」
「なんだって」
そういう事なら早く言ってくれ、もっと味わったのに。
「あんたがどうしても食べたいっていうならあげてもいいのよ?」
そう言って意地悪な笑みを浮かべてケーキを食べる。
くそっ…VRの味覚システムを完全に舐めていた。
「ほれほれ」
リズがこれ見よがしに目の前でケーキを見せつけてくる。
不本意だがいただこうじゃないか。
フォークに刺しているケーキを食べる。
「どれだけ甘党なんだか…少しは恥じらいなさいよ」
「こういうのは意識したら負けだと思ってる。そういうリズこそ顔赤いぞ」
慌てて顔を隠すリズ、その顔は本当に赤くなっていく。
冗談で言ったつもりだったんだけどなぁ。
「冗談だ。意識し過ぎだろ」
「あんったねぇ………」
顔を隠しながらリズが足を蹴ってくる。
痛くはないけどテンポよく蹴るのやめて欲しい。
あと周りの目が痛い。
ほらあそこの青髪の女の子なんかこっち見てニヤニヤして……
おいちょっと待て見覚えあるぞあの青髪」
「リズさんや、後ろ後ろ」
「後ろが何?しょうもない手には引っかからないわよ?」
「いいから見ろって」
「しつこいわね、一体何が━━」
渋々後ろを振り向いたリズが固まってしまった。
どうやら気付いたようだ。
見覚えある青髪の女の子、つまりアスナに。
「あら、デートの邪魔しちゃった?」
ニマニマしながらこっちに寄ってくる。
そしてリズの隣に座りケーキセットを頼んだ。
「これは前してた約束で…デートじゃないから!」
「その割にはラブラブそうだったけどねぇ」
顔を真っ赤にして否定するリズと良いもの見たと言わんばかりにニマニマしながらケーキを食べるアスナ。
居心地が悪いから強引にでも話を変えよう。
「アスナさんはどうしてここに?」
「もともとキリト君とデートの予定だったんだけど……急に予定が入ったみたいでさ。折角だし限定のケーキセットだけでも食べて帰ろうかなって」
「それで偶然俺達を見たと」
「そうね」
「ちなみにどこから?」
「貴方がケーキの味に没頭していた所から」
最初からいたのかよ。
この人恋話とか絶対好きなタイプだ。
面倒くさい。
「随分と仲が良いんだね?」
「邪推しすぎです。このケーキは労働の対価なので」
「本当かな〜?」
「確かに悪ふざけはしてましたけど、期待するほどのものではないですよ」
リズはいい友人だ。もはや相棒と言ってもいいくらいの。
向こうもそう思っているはず。
恋愛とかラブラブからは程遠いんだよ俺たちは。
「リズ、ちょっと来て」
「ちょっ!」
アスナがリズを引きずってトイレに行く。
何か変なことでも言ったんだろうか。
やべ、もうこんな時間。
早く寝ないと。
---
[女子トイレ内]
「彼、鈍感すぎない??」
最初から見ていて思ったけど彼には恥じらいが無かった。
本当に友達とじゃれあってるみたい……
キリト君でさえデートする時ちゃんと意識してくれるのに彼からはそんな気持ちが感じ取れない。
むしろリズだけが意識してる。
今も顔が赤い。
「だからちーがーうって!」
「でもリズの顔真っ赤だよ」
「これは……あぁもう認めるわよ!」
リズが両手をあげて降参する仕草を見せる。
だけど目線を私に合わせようとはしない。
「私は…あいつが好き。けど複雑なの、色々と」
「どう言う事?」
「それは言えないわ。あいつの心の傷だもの、私が勝手に言っていい話じゃない」
「そっか、ごめんね詮索し過ぎたみたい」
心の傷…SAOで何があったんだろう。
リズがここまではっきりと拒絶の反応を示すなんて中々ない。
きっと、相当な何かが彼を傷つけたんだ。
「大丈夫、別に諦めてる訳じゃないし。さ、戻りましょ。随分長く話し込んじゃったし」
「うん」
いつもの顔に戻ったリズと一緒に席に戻る。
だけど彼の姿はなかった。
リズがメニュー画面を見るとわなわなと震える。
「どうやら先にログアウトしたみたい。全く、勝手なんだから!」
「あはは……前途多難だね…」
そこから日付が変わるまでケーキを食べながらリズと恋話を交わした。
▪️▪️▪️▪️
「買ってしまったなぁ…」
GGO。
そのパッケージをテーブルの上におく。
お値段なんと1万円。
高すぎてお店で見た時は思わず帰りそうになった。
「やるか」
アミュスフィアにセットしてベットに横たわる。
ALOからコンバートもできるらしいけど、デメリットあるし新しいキャラの方がやる気が出るからしない事にした。
「リンクスタート」
画面が暗転してGGOの世界に変わる。
事前に調べた情報だと、どうやらGGOは銃がメインのVRMMOで
普通に冒険できる反面、PKも横行しているからVR初心者には不向きだとかなんとか。
さて、初期メイクは…あれできない。
完全ランダムかぁ。
あんまり変な見た目にはならないと思うけど…えい。
「おぉ……??」
茶髪の少し長めのストレートヘアーに身長160センチ程でやや細身な体。
なんか見た目が女みたいなアバターだ…しかもなぜか目が翡翠色と灰色だし。
「ネカマとか言われたら立ち直れないな」
ランダムってこんな変なキャラになるのか。
勘弁してくれ…
絶対引かれる。
「変更は…できないのね。はいはい……」
諦めの愚痴をこぼしつつ、キャラ確定のボタンを押してGGOの初期位置に降り立った。
近未来的な見た目のビルが目の前にそびえ立っている。
それでいて世紀末みたいな荒廃感が漂う。
ヒャッハーしてそうなモヒカンとかいそう。
「っと…まず申請だな」
あらかじめ朝田さんにはこの時間にログインすることは伝えてあるから上手いこと合流出来ると思うけど…
「ねね、そこのお姉さん」
なんか胡散臭そうなおっさんプレイヤーが話しかけてくる。
お姉さん……?
「そのアバターめちゃくちゃ珍しいタイプだね!しかもオッドアイときた!20メガクレジットで譲ってくれない…?」
「えっと…まずお姉さんじゃないですし。人を待たせてるので……」
丁重に断ったはずだがおっさんは何故か興奮気味に迫ってくる。
「なんだって!!男性アバター!?M9000番系のオッドアイ!??お願いだ!言い値で払うからそのアバター譲ってくれ!」
足にしがみついてきたから反射的に蹴飛ばす。
2バウンドくらい飛んで行ったけど圏内だからダメージは無いはずだ。
許せ、単純に気持ち悪かった。
「初めて早々何暴れてるのよ…」
呆れながら水色髪の女の子が寄ってくる。
タイミング的におそらくこの人が朝田さんだろう。
「生理的に無理だから蹴り飛ばした」
「ふーん…確かに珍しいアバターね。女の子みたい」
俺の髪をくるくるいじる朝田さんにフレンド申請とパーティ申請飛ばす。
申請が登録されるとHPバーが視界端に共有された。
「シノンか、結構そのままだな」
「貴方こそムーなんて安直すぎない?それとももしかしてそういうロール?」
「ネカマロールをする気は無い」
「そう、それはそれで面白そうだけど?」
「絶対しない」
真顔で言うのやめてほしい。
冗談に聞こえないから。
何が悲しくてVRで姫プレイしないと行けないんだ。
「とりあえず、よろしくなシノン」
「えぇ、よろしく」
「そもそも…まず何をすれば良いんだ?」
ストレージを見ると初期装備として医療キット、ハンドガン、マシンガンが入っているがどう考えてもこれで行くのはきついと思う。
「そうね…序盤のエリアでコツコツモンスター狩ってお金を貯めるのも手だけど。あそこPKが多いのがネックなのよ」
「初心者狩りってやつか」
「そう」
いたいけな初心者を序盤エリアでボコすとかいかれてるんじゃないか。
うーん…となると最低限自衛手段がほしいところだな。
「まず…訓練室に行こう。銃のシステムすら分かんないし」
「それがいいわ。いきなりフィールドに出るより安全だしね」
「よろしくお願いしますシノン先生」
「もちろんよ」