X791年。
フィオーレ王国、マグノリア。
魔導士ギルド、妖精の尻尾。
「……というわけで!」
ギルドの中央。
メイビス・ヴァーミリオンが、元気よく両手を広げた。
「今年の大魔闘演武は、二チームで出場することになりましたー!」
「「「おおおおおおお!!!」」」
ギルド中に歓声が響き渡った。
「よっしゃあああ!!」
ナツ・ドラグニルが、勢いよく拳を突き上げる。
「二チームってことは、俺たち同士で戦えるかもしれねえんだろ!?」
「そういうことだな」
グレイが、にやりと笑った。
「だったら、負けるわけにはいかねえな」
「上等だ!!」
そんな二人を見て、エルザが呆れたようにため息をつく。
「まったく。まだ大会も始まっていないというのに……」
「ふふっ。元気ですね」
イリス・アストレアが、楽しそうに微笑んだ。
天狼島の帰還から、しばらく。
妖精の尻尾では、大魔闘演武へ向けた代表選考が行われていた。
七年間の空白を埋めるため、修行に励んだ帰還組。
そして、その七年間、イリスとメイビスの指導を受けながら実力を磨いてきたアルザック、ジェット、ドロイたち。
代表の座を懸けた模擬戦は、予想以上の盛り上がりを見せた。
アルザックの正確無比な射撃。
ジェットの高速移動。
ドロイの多彩な植物魔法。
三人とも、七年前とは比べものにならないほど強くなっていた。
しかし。
修行を終えたナツたちもまた、以前とは違っていた。
激しい模擬戦の末、帰還組が勝利。
代表の座を勝ち取ったのである。
「いやー、強くなったと思ってたんだけどな」
アルザックが、苦笑しながら頭を掻いた。
「まさか、あそこまでとは……」
「くっそー! 次は負けねえぞ!」
ジェットが、悔しそうに拳を握る。
「俺も、もっと鍛えないとな……」
ドロイも、深く頷いた。
「皆さんも、本当に強かったですよ」
イリスが、穏やかに微笑む。
「七年間の努力は、決して無駄ではありません」
「そうです!」
メイビスも、元気よく頷いた。
「三年間、私たちと一緒に優勝したんですから! もっと自信を持ってください!」
「……そう言ってもらえると嬉しいな」
アルザックが、照れくさそうに笑った。
すると。
「……ところでよ」
マカオが、腕を組んだ。
「二チーム出場って、本当に大丈夫なのか?」
「はい!」
メイビスが、満面の笑みで頷く。
「大会運営委員会に確認したら、特別に認めてくれました!」
「……随分あっさり認めたな」
「ふふっ」
イリスが、小さく笑う。
「私たち二人が出場できないこともありますし、多少は融通を利かせていただけたようですね」
「……なるほどな」
マカオが、妙に納得した顔で頷いた。
何しろ、三年連続で大会を制覇した二人である。
その二人を、強すぎるという理由で出場停止にしたのだ。
運営側にも、多少の後ろめたさがあったのかもしれない。
「それに!」
メイビスが、楽しそうに笑った。
「二チームの方が、盛り上がりますからね!」
「……まあ、そうだな」
マカオも、思わず笑った。
◇
「それでは、代表メンバーを発表します!」
メイビスが、一枚の紙を広げた。
「まずは、妖精の尻尾Aチーム!」
「おう!」
「ナツ・ドラグニル!」
「よっしゃあ!」
「グレイ・フルバスター!」
「任せとけ」
「エルザ・スカーレット!」
「うむ!」
「ルーシィ・ハートフィリア!」
「頑張ります!」
「ウェンディ・マーベル!」
「は、はいっ!」
五人が並ぶ。
それを見て、イリスが嬉しそうに微笑んだ。
「ふふっ。楽しみな組み合わせですね」
「はい!」
メイビスが、元気よく頷く。
「続いて、Bチーム!」
「ラクサス・ドレアー!」
「……ああ」
「ガジル・レッドフォックス!」
「ギヒッ。面白くなってきたじゃねえか」
「ミラジェーン・ストラウス!」
「ふふっ。よろしくね」
「ジュビア・ロクサー!」
「ジュビア、頑張ります!」
そして。
「最後の一人は……」
メイビスが、少しだけ間を置いた。
「ミストガンさんです!」
「「「……おおっ!?」」」
ギルド中が、ざわめいた。
「ミストガン!?」
ナツが、目を丸くする。
「帰ってきてたのか!?」
「……まあ、いろいろありまして」
メイビスが、にこにこと笑った。
「……いろいろ?」
ルーシィが、首を傾げる。
「はい! いろいろです!」
「説明になってないわよ!?」
そんなやり取りの中。
少し離れた場所に、顔を隠した青年が立っていた。
ミストガン。
……ということになっている、ジェラール・フェルナンデスである。
(……本当に、これでいいのか?)
ジェラールは、内心でため息をついた。
いろいろな事情が重なった結果、こうして妖精の尻尾の代表として大会へ出場することになったのだ。
もっとも。
(……エルザの力になれるのなら)
その思いだけは、本物だった。
◇
数日後。
フィオーレ王国、王都クロッカス。
大魔闘演武。
王国最強の魔導士ギルドを決める、年に一度の祭典。
その開催地には、今年も各地から大勢の観客が集まっていた。
「……すっげえええ!!」
ナツが、目を輝かせる。
「なんだよ、この人の数!!」
「毎年、こんなに集まるのか?」
グレイも、驚いたように周囲を見渡した。
「はい!」
メイビスが、嬉しそうに頷く。
「とっても賑やかなんですよ!」
「去年も、すごい盛り上がりでしたね」
イリスが、懐かしそうに微笑む。
「……そういえば」
ルーシィが、二人を見つめた。
「イリスさんとメイビスさんって、ここで三連覇したのよね?」
「ええ」
「……なんか、すごいわね」
「ふふっ。楽しかったですよ」
イリスが、穏やかに笑う。
すると。
「……でも」
メイビスが、頬を膨らませた。
「今年は出られないんですよね……」
「……まだ言ってるのか」
ラクサスが、呆れたように呟いた。
「だってー!」
メイビスが、両手を振る。
「せっかくのお祭りなのに!」
「ふふっ」
イリスが、楽しそうに笑った。
「今回は、皆さんを応援しましょう」
「……むぅ」
「それに、観客席から見る大会も面白そうですよ?」
「……!」
メイビスの表情が、ぱっと明るくなった。
「確かに!」
「でしょう?」
「イリス! 美味しいものも買いましょう!」
「ええ。もちろんです」
「やったー!」
その様子を見て、ルーシィが苦笑する。
「……なんか、普通に観光を楽しんでるわね」
「……いつものことだ」
エルザが、静かに頷いた。
◇
そして。
大魔闘演武、開幕当日。
巨大な闘技場、ドムス・フラウ。
満員の観客席。
鳴り響く歓声。
王国各地から集まった強豪ギルドが、次々と姿を現していた。
『さああああ!! 今年も始まりました!!』
実況の声が、闘技場全体に響き渡る。
『フィオーレ王国最強の魔導士ギルドを決める、年に一度の祭典!!』
『大魔闘演武ォォォォ!!』
「「「うおおおおおおお!!!」」」
観客席が、大きく揺れた。
『それでは、出場ギルドをご紹介しましょう!!』
次々と入場する魔導士たち。
青い天馬。
蛇姫の鱗。
四つ首の番犬。
そして。
『かつてフィオーレ最強の名をほしいままにした強豪!!』
『剣咬の虎ァァァァ!!』
「「「おおおおお!!!」」」
大歓声の中、剣咬の虎の魔導士たちが姿を現した。
「……チッ」
スティング・ユークリフが、周囲を見渡す。
「相変わらず、すげえ人の数だな」
「今年こそ、優勝を取り戻すぞ」
ローグが、静かに答えた。
「ああ」
スティングが、拳を握る。
「……去年みてえにはいかねえ」
その脳裏に浮かぶのは、一人の少女。
黒髪のハーフツインテール。
青と金のオッドアイ。
そして、一本の光剣。
白竜の咆哮を打ち消され。
次の瞬間には、喉元に剣を突きつけられていた。
イリス・アストレア。
あの敗北は、今でも鮮明に覚えている。
「……今年こそ、借りを返してやる」
スティングが、小さく呟いた。
その隣では。
「……ふん」
ミネルバ・オーランドが、腕を組んでいた。
彼女もまた、去年の大会を思い出していた。
メイビス・ヴァーミリオン。
自分の空間魔法を、まるで子供の遊びのように封じ込めた少女。
あの圧倒的な技量差。
忘れられるはずがなかった。
「……今年こそ、妾の力を見せてやろう」
ミネルバが、静かに笑った。
しかし。
その二人は、まだ知らなかった。
今年の大会に、あの二人が出場しないことを。
◇
『さああああ!!』
実況の声が、さらに大きくなる。
『そして、いよいよ登場です!!』
闘技場の空気が、変わった。
『第4回大会、優勝!!』
『第5回大会、優勝!!』
『第6回大会、優勝!!』
『三年連続で、フィオーレ最強の座に君臨する絶対王者!!』
「「「おおおおおおお!!!」」」
『今年は、なんと二チームでの出場!!』
『まずは、妖精の尻尾Aチーム!!』
巨大な門が、ゆっくりと開いた。
その向こうから、五人の魔導士が姿を現す。
ナツ。
グレイ。
エルザ。
ルーシィ。
ウェンディ。
「……すげえ」
ナツが、目を輝かせた。
「これが、大魔闘演武か!!」
「……おい、ナツ」
グレイが、にやりと笑う。
「緊張してんじゃねえだろうな?」
「するわけねえだろ!!」
「ふふっ」
エルザが、楽しそうに微笑む。
「よし。行くぞ!」
「はい!」
ルーシィとウェンディが、元気よく頷いた。
そして。
『続いて、妖精の尻尾Bチーム!!』
別の門が、開く。
ラクサス。
ガジル。
ミラジェーン。
ジュビア。
そして、ミストガン。
『こちらも、強力な魔導士たちが揃っております!!』
「……ふん」
ラクサスが、小さく鼻を鳴らした。
「面白くなってきたじゃねえか」
「ギヒッ」
ガジルが、不敵に笑う。
「Aチームには負けねえぞ」
「ふふっ。頑張りましょうね」
ミラジェーンが、楽しそうに微笑んだ。
「ジュビア、絶対に優勝します!」
その隣で、ミストガンは静かに頷いていた。
◇
「……おい」
スティングが、眉をひそめた。
「……なんだ、あいつら?」
「……?」
ローグが、首を傾げる。
「……妖精の尻尾だろう」
「それは分かってる!」
スティングが、周囲を見渡した。
「……イリス・アストレアがいねえじゃねえか」
「……!」
その言葉に、ミネルバも顔を上げた。
「……メイビス・ヴァーミリオンもおらぬな」
「……どういうことだ?」
スティングが、険しい表情になる。
「去年、あれだけ圧倒的な強さを見せた二人が……」
「……ふむ」
ミネルバが、何かを思い出したように目を細めた。
「……そういえば、今年は出場停止になったという噂があったな」
「……は?」
「強すぎるから、という理由らしい」
「…………」
スティングが、固まった。
「……強すぎるから?」
「……ああ」
「……そんな理由、ありかよ!?」
思わず叫ぶ。
しかし。
「……おい」
ローグが、観客席を指差した。
「……あそこ」
「……?」
スティングが、顔を上げる。
そして。
「…………!」
見つけた。
観客席の一角。
そこに、二人の少女が座っていた。
黒髪のハーフツインテール。
青と金のオッドアイ。
そして、金髪の少女。
「……イリス・アストレア……!」
スティングが、思わず呟く。
「……メイビス・ヴァーミリオンも」
ミネルバが、目を細めた。
その二人は。
「わあああ! イリス! すごい人ですよ!」
「ふふっ。本当に賑やかですね」
楽しそうに、観客席で笑っていた。
「……あっ!」
メイビスが、ふと闘技場を見下ろす。
「イリス! 去年戦った人たちがいますよ!」
「……あら」
イリスが、視線を向ける。
「本当ですね」
そして。
「スティングさんと、ミネルバさんですね」
「はい!」
メイビスが、嬉しそうに手を振った。
「おーい! 頑張ってくださーい!」
「ふふっ。皆さん、いい試合になるといいですね」
イリスも、穏やかに微笑む。
「…………」
「…………」
スティングとミネルバは、しばらく無言だった。
そして。
「……あいつら」
スティングが、額を押さえる。
「……完全に観光気分じゃねえか」
「……ふん」
ミネルバが、小さく笑った。
「……相変わらず、余裕じゃな」
しかし。
その表情には、わずかな悔しさが滲んでいた。
自分たちを一瞬で倒した二人。
その二人が、今年は観客席にいる。
借りを返す機会すら、与えられなかったのだ。
「……チッ」
スティングが、拳を握る。
「だったら、今年はあいつらの仲間を倒してやる」
「……そうじゃな」
ミネルバも、静かに頷いた。
「妖精の尻尾が、あの二人だけのギルドではないことを確かめてやろう」
その視線の先。
ナツが、楽しそうに笑っていた。
◇
『さああああ!!』
実況の声が、闘技場全体に響き渡る。
『三連覇の絶対王者、妖精の尻尾!!』
『今年は、これまでの優勝メンバーとは異なる顔ぶれでの参戦!!』
『果たして、四連覇なるか!?』
『それとも、新たな王者が誕生するのか!?』
観客席が、大きな歓声に包まれた。
「……ふふっ」
イリスが、嬉しそうに微笑む。
「始まりますね」
「はい!」
メイビスが、目を輝かせた。
「楽しみです!」
そして。
「みんなー!!」
メイビスが、勢いよく立ち上がった。
「頑張ってくださーい!!」
「ふふっ」
イリスも、立ち上がる。
「皆さん、応援していますよ!」
その声が届いたのか。
ナツが、観客席を見上げた。
「……おう!!」
そして、にやりと笑う。
「任せとけ!!」
拳を握りしめ。
大きく叫んだ。
「今年も優勝するのは、妖精の尻尾だああああ!!」
「「「おおおおおおお!!!」」」
仲間たちの声が、重なった。
七年の時を越えて帰還した妖精たち。
その帰還を待ち続け、王国最強の座を守り抜いた妖精たち。
そして今。
新たな世代が、その栄光を受け継ごうとしている。
大魔闘演武。
フィオーレ王国最強を決める戦い。
その幕が、今、上がった。
――王者の帰還。
――そして、四連覇への挑戦が始まる。
【こそこそ妖精話】
『ギルダーツと黒竜』
X791年。
フィオーレ王国、マグノリア。
魔導士ギルド、妖精の尻尾。
王都クロッカスで大魔闘演武が開催されている頃。
ギルドの片隅では、一人の大男が酒を飲んでいた。
ギルダーツ・クライヴ。
妖精の尻尾が誇る、最強格の魔導士である。
ギルダーツ「……ったく。みんな大会に行っちまいやがって」
マカオ「お前も行けばよかっただろ」
ギルダーツ「ははっ! 俺はそういう祭りは見てる方が好きなんだよ」
ワカバ「……お前が出たら、また運営が頭を抱えるだろうしな」
ギルダーツ「おいおい。俺まで出場停止扱いか?」
マカオ「イリスさんとメイビスさんが出場停止になったばかりだからな」
ギルダーツ「はははっ! あの二人なら仕方ねえ!」
ギルダーツは豪快に笑い、酒を一口飲んだ。
ギルダーツ「……しかし、天狼島の連中が帰ってきてよかったな」
マカオ「ああ。本当にな」
ギルダーツ「……七年前、あの島を襲ったのが黒竜だったんだろ?」
マカオ「……ああ。アクノロギアっていうらしい」
ギルダーツ「…………」
ギルダーツの笑みが、わずかに消えた。
無意識に、左腕の義手へ視線を落とす。
ギルダーツ「……あいつか」
ワカバ「……ギルダーツ?」
ギルダーツ「昔、百年クエストの途中で遭遇したことがあってな」
マカオ「……そうだったな」
ギルダーツ「……ありゃあ、化け物だ」
普段の豪快な口調とは違う、静かな声だった。
ギルダーツ「俺の魔法がどうとか、そんな次元じゃねえ。気づいたときには、全部終わってた」
マカオ「…………」
ギルダーツ「……正直、今でも勝てる気がしねえ」
しばらく、沈黙が流れた。
しかし。
ギルダーツ「……まあ」
ギルダーツは、ふっと笑った。
ギルダーツ「……今度会ったら、少しはマシな戦いをしてえもんだな」
ワカバ「……お前、懲りねえな」
ギルダーツ「はははっ! 魔導士ってのは、そういうもんだろ!」
そして、ふと思い出したように呟いた。
ギルダーツ「……そういや、イリスの嬢ちゃんは、あいつを斬れるのかねえ」
マカオ「……イリスさんなら、できそうな気がするな」
ギルダーツ「……だよな」
ギルダーツは、酒の入ったグラスを静かに傾けた。
かつて、自分のクラッシュすら打ち消した少女。
あの模擬戦では、まるで歯が立たなかった。
それでも、彼女は最後まで余裕を崩さなかった。
そして、メイビス・ヴァーミリオン。
イリスと同じくらい強いという、妖精の尻尾の初代マスター。
ギルダーツは、ふと天井を見上げた。
ギルダーツ「……一度でいいから、見てみてえな」
ワカバ「……何をだ?」
ギルダーツは、ぽつりと呟いた。
ギルダーツ「……イリスとメイビスの、本気の戦いをよ」
その場に、短い沈黙が落ちた。
マカオ「……あの二人の、本気か」
ワカバ「……想像もつかねえな」
ギルダーツ「……ああ」
ギルダーツは、静かに笑った。
ギルダーツ「……俺たちが知ってるあの二人は、まだまだ底を見せちゃいねえ」
そして、いつもの豪快な笑みを浮かべる。
ギルダーツ「ははっ! まったく、とんでもねえギルドだぜ、うちは!」
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。