X791年。
フィオーレ王国、王都クロッカス。
大魔闘演武、開催三日目。
「「「うおおおおおおお!!!」」」
巨大な闘技場、ドムス・フラウ。
今日も観客席からは、割れんばかりの歓声が響き渡っていた。
『さああああ!! 今年の大魔闘演武も、いよいよ中盤戦!!』
『しかし!! 今年の大会は、例年とは一味違います!!』
実況のチャパティ・ローラが、興奮した様子で叫ぶ。
『三連覇中の絶対王者、妖精の尻尾!!』
『今年は主力選手を大幅に入れ替えての参戦ですが、その強さは健在!!』
『Aチーム、Bチーム共に、素晴らしい活躍を見せております!!』
「「「妖精の尻尾ォォォ!!!」」」
観客席が、大きな歓声に包まれた。
そして。
「わあああ!! イリス! すごい盛り上がりですよ!」
「ふふっ。本当に賑やかですね」
観客席の一角。
イリス・アストレアとメイビス・ヴァーミリオンは、並んで座っていた。
イリスの手には、果物をたっぷり使ったパフェ。
メイビスの手には、色とりどりの焼き菓子。
二人とも、すっかり大会を満喫している。
「それにしても、皆さん、本当に強くなりましたね」
「はい!」
メイビスが、嬉しそうに頷いた。
「特にグレイさん! 初日の競技は見事でした!」
「ええ。あれは素晴らしかったですね」
二人の脳裏に、初日の光景が蘇る。
◇
大会初日。
第一競技『隠密(ヒドゥン)』。
無数の建物が並ぶ仮想都市。
参加者たちは、街中に現れる分身に惑わされながら、本物の相手を見つけ出して得点を競っていた。
妖精の尻尾Aチームから参加したのは、グレイ・フルバスター。
Bチームからは、ジュビア・ロクサー。
そして、青い天馬からはルーファス・ロアが参加していた。
「……なるほどな」
グレイが、周囲を見渡す。
街中に無数の分身が現れては消えていく。
さらに、ルーファスの記憶造形魔法が参加者たちを翻弄していた。
「記憶造形魔法、か」
「ええ」
ルーファスが、優雅に帽子へ手を添える。
「私の記憶から、あらゆる魔法を造形することができます」
「……面白えじゃねえか」
グレイが、にやりと笑った。
「だったら、こっちも本気でいくぜ!」
次の瞬間。
「氷の造形魔法!!」
無数の氷の柱が、街中に出現した。
それらは闇雲に放たれたものではない。
路地。
建物の隙間。
屋根の上。
敵が移動する経路を、次々と塞いでいく。
「……ほう」
ルーファスが、目を細めた。
「随分と緻密な造形ですね」
「そりゃどうも!」
グレイが、両手を構える。
「だが、まだ終わりじゃねえぞ!」
氷の壁が、一斉にせり上がった。
ルーファスの魔法が放たれる。
しかし、グレイは冷静に攻撃を見極め、氷の盾で受け流した。
そして。
「そこだ!!」
氷の槍が、ルーファスの逃げ道を塞ぐ。
「……っ!」
ルーファスが、咄嗟に防御魔法を展開する。
だが。
その足元から、氷の柱が突き上がった。
「……しまっ!」
「もらった!!」
グレイの攻撃が、ルーファスを捉える。
『おおおおおお!!』
『グレイ選手!! ルーファス選手から得点を奪いました!!』
その後もグレイは、冷静な判断力と高度な氷の造形魔法で得点を重ねていった。
ジュビアも水の身体を生かし、攻撃をかわしながら健闘する。
そして。
『第一競技、隠密!!』
『第一位は、妖精の尻尾Aチーム!!』
『グレイ・フルバスターァァァ!!』
「「「うおおおおお!!!」」」
観客席が、大歓声に包まれた。
「よっしゃあ!!」
グレイが、拳を突き上げる。
その姿を見て。
「グレイさん、すごいですー!!」
メイビスが、嬉しそうに立ち上がっていた。
「ふふっ。見事な勝利でしたね」
イリスも、満足そうに微笑んだ。
◇
しかし。
大会初日には、もう一つの大きな出来事があった。
ルーシィ・ハートフィリア。
対するは、大鴉の尻尾のフレア・コロナ。
「開け! 獅子宮の扉!!」
黄金の光と共に、レオが姿を現す。
星霊との連携。
状況に応じた判断。
そして、以前よりも洗練された魔力制御。
ルーシィは、フレアを相手に互角以上の戦いを繰り広げていた。
「……っ! なんなのよ、あんた!」
フレアが、苛立たしそうに叫ぶ。
「ふふん! 私だって、修行してきたんだから!」
ルーシィが、得意げに笑った。
だが。
フレアは卑劣な手段に出た。
観客席にいるアスカを人質に取ろうとしたのである。
「……っ!?」
ルーシィの表情が凍りつく。
しかし。
その企みは、観客席にいた仲間たちに察知され、失敗に終わった。
追い詰められたフレア。
ルーシィは勝負を決めるため、強力な星霊魔法を発動する。
だが。
その瞬間。
何者かの妨害によって、魔法が不自然に消失した。
「……え?」
ルーシィが、目を見開く。
そして。
その隙を突かれ、敗北。
『勝者!! 大鴉の尻尾、フレア・コロナ!!』
「「「おおおおお!!!」」」
歓声が響く中。
「……今のは」
イリスが、静かに目を細めた。
金色の瞳。
そこには、ルーシィの魔法を妨害した不自然な魔力の痕跡が見えていた。
「……メイビス」
「はい」
メイビスも、真剣な表情で頷いた。
「明らかに、外部からの干渉がありましたね」
「ええ」
イリスが、静かに答える。
「……少し、調べてみましょうか」
その後。
二人から事情を聞いた大会運営側は、調査を開始することになった。
もっとも。
ルーシィ自身は、悔しさを滲ませながらも、前を向いていた。
「……次は、絶対に負けないんだから!」
その言葉に、イリスは優しく微笑んだ。
「ええ。期待していますよ、ルーシィさん」
◇
同じ初日。
もう一つ、注目を集めた試合があった。
蛇姫の鱗。
聖十大魔道の一人、ジュラ・ネェキス。
対するは。
妖精の尻尾Bチーム、ミストガン。
「……よろしく頼む」
顔を隠した青年が、静かに告げる。
「こちらこそ」
ジュラが、穏やかに頷いた。
試合開始。
ジュラの強力な土魔法が、闘技場を揺るがす。
しかし、ミストガンも高度な魔法で応戦した。
観客たちは、その実力に驚愕する。
だが。
戦いが激しさを増した頃。
「……っ!?」
ミストガンの動きが、ほんの一瞬だけ鈍った。
そして。
ジュラの攻撃が、彼を捉える。
『決着ゥゥゥ!!』
『勝者!! 蛇姫の鱗、ジュラ・ネェキス!!』
観客席から、大きな拍手が送られた。
敗北したミストガン。
その仮面の下で、ジェラール・フェルナンデスは小さく息を吐く。
(……仕方ない、か)
彼には、まだ果たすべき目的があった。
大会での勝利だけが、すべてではない。
◇
大会二日目。
第二競技『戦車(チャリオット)』。
街中を走る巨大な乗り物の上を、参加者たちが駆け抜ける競技だった。
妖精の尻尾から参加したのは、ナツとガジル。
そして、剣咬の虎からはスティング。
だが。
「……うぷっ」
「……気持ち悪ぃ……」
「……なんで俺まで……」
三人とも、乗り物酔いでまともに走れなかった。
『な、なんということでしょう!!』
『滅竜魔導士たちが、揃って苦しんでおります!!』
「「「あははははは!!!」」」
観客席が、爆笑に包まれた。
「……ふふっ」
イリスが、思わず口元を押さえる。
「皆さん、大変そうですね」
「……あははは!」
メイビスは、すでに笑いを堪えきれていなかった。
「ナツさん! ガジルさん! 頑張ってくださーい!」
「……うるせえええ……!」
ナツの情けない声が、闘技場に響いた。
◇
二日目の対戦も、見どころが多かった。
妖精の尻尾Bチーム。
ミラジェーン・ストラウス。
対するは、青い天馬のジェニー・リアライト。
二人の対戦は、なぜか美しさを競う勝負へと発展していた。
『おおおお!! これは素晴らしい!!』
『美しき二人の魔導士による、夢の対決です!!』
「ふふっ。よろしくね」
ミラジェーンが、穏やかに微笑む。
「こちらこそ!」
ジェニーも、自信満々に笑った。
しかし。
勝負が魔法対決へ移った瞬間。
「接収(テイクオーバー)」
「サタンソウル」
ミラジェーンの身体を、漆黒の魔力が包み込む。
その圧倒的な魔力に、観客席が静まり返った。
「……っ!?」
ジェニーが、目を見開く。
そして。
決着は、一瞬だった。
『勝者!! 妖精の尻尾Bチーム!!』
『ミラジェーン・ストラウスゥゥゥ!!』
「「「うおおおおお!!!」」」
「ふふっ。ありがとうございました」
ミラジェーンが、いつもの笑顔に戻る。
その姿を見て。
「……相変わらずですね」
イリスが、楽しそうに微笑んだ。
「はい!」
メイビスも、嬉しそうに頷く。
「ミラさん、本当に強くなりました!」
さらに。
人魚の踵のカグラ・ミカヅチ。
剣咬の虎のユキノ・アグリア。
二人の対戦も、観客たちの注目を集めていた。
結果は、カグラの勝利。
その圧倒的な剣技に、エルザも強い関心を示していた。
◇
大会三日目。
第三競技『伏魔殿(パンデモニウム)』。
百体の魔物が潜む、巨大な魔法空間。
参加者は、挑戦する魔物の数を選び、討伐して得点を競う。
その競技に、妖精の尻尾Aチームからエルザ・スカーレットが参加した。
「……百体すべて、私が相手をしよう」
「「「……は?」」」
会場が、静まり返った。
『え、エルザ選手!?』
『百体すべてに挑戦するというのですか!?』
「そうだ」
エルザが、静かに頷く。
「問題ない」
そして。
競技開始。
「換装!!」
無数の剣が、空中に展開される。
次々と襲いかかる魔物たち。
しかし。
エルザは、一歩も退かなかった。
剣が閃く。
鎧が変わる。
魔物たちが、次々と倒れていく。
そして。
『……ま、まさか!!』
『百体すべてを討伐ァァァ!!』
「「「うおおおおおお!!!」」」
闘技場が、歓声に包まれた。
エルザは、静かに剣を収める。
「……ふぅ」
その表情には、まだ余裕があった。
彼女の脳裏に浮かぶのは、かつて見た一人の少女の剣技。
イリス・アストレア。
あの境地には、まだ遠い。
だからこそ。
(……もっと強くなれる)
エルザは、そう確信していた。
その後。
魔力測定器による競技では、カナ・アルベローナが妖精の輝きを披露。
圧倒的な魔力を示し、観客たちを驚愕させた。
妖精の尻尾の勢いは、止まらなかった。
◇
三日目の対戦。
ラクサス・ドレアー。
対するは、大鴉の尻尾のアレクセイ。
しかし。
その正体は、ラクサスの父。
イワン・ドレアーだった。
さらに、相手は一人ではなかった。
大鴉の尻尾の魔導士たちが、幻影の中でラクサスを取り囲む。
「……くだらねえ」
ラクサスが、静かに呟いた。
次の瞬間。
黄金の雷が、周囲を駆け巡る。
「……まとめて、かかってこい」
轟音。
閃光。
そして。
圧倒的な力によって、敵が次々と倒れていく。
「……てめえら程度が」
ラクサスが、静かに拳を握った。
「妖精の尻尾を、舐めんじゃねえぞ」
その後。
大鴉の尻尾の不正が明るみに出た。
大会運営委員会は、ギルドの失格を決定。
観客席からは、大きなどよめきが起こった。
「……やれやれ」
イリスが、小さくため息をつく。
「やっぱり、不正をしていたんですね」
「はい」
メイビスが、静かに頷いた。
「でも、ラクサスさんが勝ってくれてよかったです!」
「ええ」
イリスが、嬉しそうに微笑んだ。
「本当に、立派になりましたね」
◇
そして。
ウェンディ・マーベル。
対するは、蛇姫の鱗のシェリア・ブレンディ。
天空の滅竜魔導士。
天空の滅神魔導士。
二人の少女による戦いは、激しいものとなった。
「天竜の咆哮!!」
「天神の怒号!!」
強烈な風が、闘技場で激突する。
轟音。
衝撃。
観客たちが、息を呑んだ。
「……すごい」
ウェンディが、小さく呟く。
「あなたもね!」
シェリアが、楽しそうに笑った。
互いに全力を尽くす二人。
その戦いは、最後まで決着がつかなかった。
『試合終了ォォォ!!』
『両者、引き分けです!!』
「「「おおおおおお!!!」」」
観客席から、大きな拍手が送られた。
「……ありがとうございました!」
ウェンディが、深く頭を下げる。
「こちらこそ!」
シェリアも、笑顔で応えた。
そして。
二人は、互いの健闘を称え合った。
◇
「……ふふっ」
大会三日目。
観客席。
イリスが、嬉しそうに微笑んだ。
「皆さん、本当に強くなりましたね」
「はい!」
メイビスが、元気よく頷く。
「今年も優勝できそうですよ!」
「ええ。楽しみですね」
百年以上前。
わずかな仲間たちと共に作った、小さなギルド。
それが今では、王国最強と呼ばれるほどに成長した。
しかも。
その強さは、決して自分たち二人だけのものではない。
「……立派になりましたね」
イリスが、ぽつりと呟く。
「……はい」
メイビスも、静かに頷いた。
そして。
「でも!」
ぱっと表情を明るくする。
「まだまだ、これからですよ!」
「ええ」
イリスが、優しく笑った。
「きっと、もっと強くなります」
「はい!」
メイビスが、元気よく頷く。
その直後。
「あっ!」
「どうしました?」
「イリス! あっちに新しいスイーツのお店があります!」
「……!」
イリスの青と金の瞳が、ぱっと輝いた。
「それは、ぜひ行ってみたいですね」
「ですよね!」
「次の競技まで、少し時間がありますし……」
「行きましょう!」
「はい!」
二人は、嬉しそうに席を立った。
……三連覇を成し遂げた絶対王者たちは、今日も平和だった。
◇
その頃。
王都クロッカス。
人々の歓声が遠く響く、薄暗い路地裏。
そこに、一人の青年が立っていた。
黒い髪。
鋭い眼差し。
そして、どこか陰鬱な雰囲気。
その顔は、剣咬の虎に所属するローグ・チェーニと瓜二つだった。
しかし。
彼は、この時代のローグではない。
未来からやってきた、もう一人のローグ。
「…………」
青年は、静かに空を見上げた。
青い空。
穏やかな風。
街を行き交う人々の笑顔。
その光景を、彼は無言で見つめていた。
――未来。
彼が知る世界は、こんなにも平和ではなかった。
崩れ落ちた建物。
炎に包まれる街。
逃げ惑う人々。
そして。
数え切れないほどの死。
昨日まで笑っていた人間が、翌日には冷たくなっている。
家族を失った子供。
仲間を失った魔導士。
誰もが、絶望の中で生きていた。
だが。
そんな世界にも、希望はあった。
二人の少女。
黒髪の少女と、金髪の少女。
イリス・アストレア。
メイビス・ヴァーミリオン。
後に、世界を救った二人の救世主。
その名を知らない者は、ほとんどいなかった。
彼女たちは、確かに世界を救った。
絶望に沈んだ人々に、再び明日を与えた。
しかし。
その勝利が訪れるまでに、あまりにも多くの命が失われていた。
「……救世主、か」
青年が、小さく呟く。
その声には、複雑な感情が滲んでいた。
彼女たちが成し遂げた偉業を、否定するつもりはない。
むしろ。
あの二人がいなければ、世界はどうなっていたのか。
考えることさえ恐ろしかった。
それほどまでに、二人の存在は大きかった。
だが。
「……救われなかった者たちもいる」
青年は、静かに目を閉じた。
脳裏に浮かぶのは、失われた命。
取り戻せない日々。
そして、二度と聞くことのできない声。
「…………」
やがて。
ゆっくりと、目を開く。
「……この時代なら」
まだ、間に合う。
少なくとも。
彼が知る未来は、まだ訪れていない。
「……イリス・アストレア」
「……メイビス・ヴァーミリオン」
二人の名前を、静かに口にする。
この時代にも、あの二人はいる。
それも。
未来で世界を救った、あの二人が。
「…………」
青年は、しばらく黙り込んだ。
そして。
「……計画を進めるか」
そう呟くと、ゆっくりと歩き出した。
その胸に秘めた真意を、誰にも明かさないまま。
◇
同じ頃。
ドムス・フラウ。
「……?」
イリスが、ふと足を止めた。
「イリス?」
隣を歩いていたメイビスが、首を傾げる。
「どうしました?」
「……いえ」
イリスが、王都の方角へ視線を向けた。
青と金の瞳。
その金色の瞳には、普段から魔力の流れが見えている。
そして今。
遠く離れた場所で、ほんの一瞬。
奇妙な魔力の揺らぎを感じ取った気がした。
「……何か、変わった魔力が……」
「……?」
メイビスも、周囲へ意識を向ける。
しかし。
すでに、その気配は消えていた。
「……気のせいでしょうか」
イリスが、小さく首を傾げる。
「何か気になることがあったんですか?」
「ええ。少しだけ」
イリスが、穏やかに答える。
「でも、今は何も感じませんね」
「……ふむ」
メイビスが、少し考え込む。
そして。
「気になるようでしたら、あとで調べてみましょう!」
「そうですね」
イリスが、微笑んだ。
その直後。
「あっ!」
メイビスが、何かを思い出したように顔を上げる。
「イリス! 早くしないと、限定ケーキが売り切れちゃいます!」
「……!」
「急ぎましょう!」
「はい!」
二人は、再び歩き出した。
楽しそうに笑いながら。
まだ、知らない。
この王都に。
未来から、一人の魔導士が訪れていることを。
そして。
その青年が、二人のことを知っていることを。
大魔闘演武。
王国最強の座を懸けた祭典。
妖精の尻尾の快進撃によって、王都は熱狂に包まれていた。
しかし。
その華やかな祭典の裏側で。
未来を巡る、新たな物語が動き始めていた。
――過去を変えようとする者。
――未来を知らぬ二人の救世主。
その運命が交わる時は、まだ訪れていない。
【こそこそ妖精話】
~王者たちの休日~
X791年。
王都クロッカス。
大魔闘演武、三日目終了後。
王都の人気カフェ。
「ん〜! 美味しいですー!」
メイビス・ヴァーミリオンが、幸せそうに頬を緩めた。
向かい側では、イリス・アストレアが紅茶を楽しんでいる。
イリス「ふふっ。このお店のケーキも絶品ですね」
メイビス「はい! 明日は別のお店にも行ってみましょう!」
イリス「いいですね」
そのとき。
一夜「メェェェン!!」
イリス「……?」
メイビス「……?」
突然、二人の前に現れたのは、青い天馬の一夜だった。
一夜「おお……! なんと美しいお嬢さんたち……!」
一夜「これは運命の出会い……!」
イリス「……ええと」
メイビス「こんにちはー!」
一夜「メェェェン!! その可憐な笑顔! まさしく天使!!」
イリスが、少し困ったように微笑む。
イリス「ありがとうございます。でも、私たちは今、お茶を楽しんでいるところでして……」
一夜「おお! 紅茶! なんと優雅な!」
一夜「よろしければ、私の香りを――」
メイビス「遠慮します!」
一夜「メェン!?」
即答だった。
そこへ。
ヒビキ「一夜さん! 何してるんですか!」
レン「また勝手に女性に声かけて……!」
イヴ「す、すみません! ご迷惑をおかけしました!」
青い天馬の三人が、慌てて駆け寄ってきた。
ヒビキ「……って、え?」
レン「……おい、待て」
イヴ「……あれ?」
三人の視線が、二人の少女に向けられる。
ヒビキ「……イリス・アストレア?」
レン「……メイビス・ヴァーミリオン!?」
イヴ「去年までの大会で、妖精の尻尾を三連覇に導いた……!」
一夜「……メェン?」
数秒の沈黙。
一夜「……メェェェン!?」
ようやく理解したらしい。
メイビス「はい! 妖精の尻尾のメイビスです!」
イリス「イリス・アストレアと申します。よろしくお願いします」
にっこり。
あまりにも自然な挨拶だった。
ヒビキ「……あの、ひとつ聞いてもいいですか?」
イリス「はい?」
ヒビキ「……お二人は、どうして今年は出場していないんですか?」
メイビス「あっ! それはですね!」
メイビス「大会の運営さんから、出場を禁止されちゃったんです!」
レン「……禁止?」
イヴ「……え?」
イリス「私たちが参加すると、競技の公平性に問題があるそうで……」
ヒビキ「…………」
レン「…………」
イヴ「…………」
沈黙。
そして。
レン「……そんな理由で出場禁止になる魔導士、初めて聞いたぞ」
イヴ「……すごいですね」
ヒビキ「……いや、まあ、去年の試合を見れば納得だけど……」
そのとき。
メイビス「あっ!」
メイビスが、突然顔を上げた。
メイビス「イリス! そろそろ次のお店に行きましょう!」
イリス「そうですね。限定ケーキが売り切れてしまいます」
ヒビキ「……限定ケーキ?」
メイビス「はい! この王都には美味しいお店がたくさんあるんですよ!」
イリス「大会の応援も楽しいですし、最高ですね」
そう言って、二人は席を立った。
イリス「それでは、失礼します」
メイビス「大会、頑張ってくださいねー!」
笑顔で手を振り、店を出ていく二人。
残された青い天馬の面々は、しばらく黙り込んでいた。
レン「……なあ」
ヒビキ「……なんだ?」
レン「……あの二人、本当に王国最強の魔導士なのか?」
イヴ「……でも、去年の大会では……」
ヒビキ「……ああ。間違いなく、とんでもない実力者だ」
一夜「……メェン」
そこで、一夜が静かに呟いた。
一夜「……強さとは、余裕なのかもしれないね」
ヒビキ「……一夜さん」
レン「……たまにはいいこと言うじゃねえか」
イヴ「……そうですね」
しかし。
一夜「そして何より……あの二人の美しさは、まさしく――」
ヒビキ「はい、帰りますよ!」
一夜「メェェェン!?」
――青い天馬の一日は、今日も賑やかだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。