妖精と聖剣使い   作:使い手なない

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第103話「王者たちの大魔闘演武」

 

 X791年。

 

 フィオーレ王国、王都クロッカス。

 

 大魔闘演武、開催三日目。

 

「「「うおおおおおおお!!!」」」

 

 巨大な闘技場、ドムス・フラウ。

 

 今日も観客席からは、割れんばかりの歓声が響き渡っていた。

 

『さああああ!! 今年の大魔闘演武も、いよいよ中盤戦!!』

 

『しかし!! 今年の大会は、例年とは一味違います!!』

 

 実況のチャパティ・ローラが、興奮した様子で叫ぶ。

 

『三連覇中の絶対王者、妖精の尻尾!!』

 

『今年は主力選手を大幅に入れ替えての参戦ですが、その強さは健在!!』

 

『Aチーム、Bチーム共に、素晴らしい活躍を見せております!!』

 

「「「妖精の尻尾ォォォ!!!」」」

 

 観客席が、大きな歓声に包まれた。

 

 そして。

 

「わあああ!! イリス! すごい盛り上がりですよ!」

 

「ふふっ。本当に賑やかですね」

 

 観客席の一角。

 

 イリス・アストレアとメイビス・ヴァーミリオンは、並んで座っていた。

 

 イリスの手には、果物をたっぷり使ったパフェ。

 

 メイビスの手には、色とりどりの焼き菓子。

 

 二人とも、すっかり大会を満喫している。

 

「それにしても、皆さん、本当に強くなりましたね」

 

「はい!」

 

 メイビスが、嬉しそうに頷いた。

 

「特にグレイさん! 初日の競技は見事でした!」

 

「ええ。あれは素晴らしかったですね」

 

 二人の脳裏に、初日の光景が蘇る。

 

◇

 

 大会初日。

 

 第一競技『隠密(ヒドゥン)』。

 

 無数の建物が並ぶ仮想都市。

 

 参加者たちは、街中に現れる分身に惑わされながら、本物の相手を見つけ出して得点を競っていた。

 

 妖精の尻尾Aチームから参加したのは、グレイ・フルバスター。

 

 Bチームからは、ジュビア・ロクサー。

 

 そして、青い天馬からはルーファス・ロアが参加していた。

 

「……なるほどな」

 

 グレイが、周囲を見渡す。

 

 街中に無数の分身が現れては消えていく。

 

 さらに、ルーファスの記憶造形魔法が参加者たちを翻弄していた。

 

「記憶造形魔法、か」

 

「ええ」

 

 ルーファスが、優雅に帽子へ手を添える。

 

「私の記憶から、あらゆる魔法を造形することができます」

 

「……面白えじゃねえか」

 

 グレイが、にやりと笑った。

 

「だったら、こっちも本気でいくぜ!」

 

 次の瞬間。

 

「氷の造形魔法!!」

 

 無数の氷の柱が、街中に出現した。

 

 それらは闇雲に放たれたものではない。

 

 路地。

 

 建物の隙間。

 

 屋根の上。

 

 敵が移動する経路を、次々と塞いでいく。

 

「……ほう」

 

 ルーファスが、目を細めた。

 

「随分と緻密な造形ですね」

 

「そりゃどうも!」

 

 グレイが、両手を構える。

 

「だが、まだ終わりじゃねえぞ!」

 

 氷の壁が、一斉にせり上がった。

 

 ルーファスの魔法が放たれる。

 

 しかし、グレイは冷静に攻撃を見極め、氷の盾で受け流した。

 

 そして。

 

「そこだ!!」

 

 氷の槍が、ルーファスの逃げ道を塞ぐ。

 

「……っ!」

 

 ルーファスが、咄嗟に防御魔法を展開する。

 

 だが。

 

 その足元から、氷の柱が突き上がった。

 

「……しまっ!」

 

「もらった!!」

 

 グレイの攻撃が、ルーファスを捉える。

 

『おおおおおお!!』

 

『グレイ選手!! ルーファス選手から得点を奪いました!!』

 

 その後もグレイは、冷静な判断力と高度な氷の造形魔法で得点を重ねていった。

 

 ジュビアも水の身体を生かし、攻撃をかわしながら健闘する。

 

 そして。

 

『第一競技、隠密!!』

 

『第一位は、妖精の尻尾Aチーム!!』

 

『グレイ・フルバスターァァァ!!』

 

「「「うおおおおお!!!」」」

 

 観客席が、大歓声に包まれた。

 

「よっしゃあ!!」

 

 グレイが、拳を突き上げる。

 

 その姿を見て。

 

「グレイさん、すごいですー!!」

 

 メイビスが、嬉しそうに立ち上がっていた。

 

「ふふっ。見事な勝利でしたね」

 

 イリスも、満足そうに微笑んだ。

 

◇

 

 しかし。

 

 大会初日には、もう一つの大きな出来事があった。

 

 ルーシィ・ハートフィリア。

 

 対するは、大鴉の尻尾のフレア・コロナ。

 

「開け! 獅子宮の扉!!」

 

 黄金の光と共に、レオが姿を現す。

 

 星霊との連携。

 

 状況に応じた判断。

 

 そして、以前よりも洗練された魔力制御。

 

 ルーシィは、フレアを相手に互角以上の戦いを繰り広げていた。

 

「……っ! なんなのよ、あんた!」

 

 フレアが、苛立たしそうに叫ぶ。

 

「ふふん! 私だって、修行してきたんだから!」

 

 ルーシィが、得意げに笑った。

 

 だが。

 

 フレアは卑劣な手段に出た。

 

 観客席にいるアスカを人質に取ろうとしたのである。

 

「……っ!?」

 

 ルーシィの表情が凍りつく。

 

 しかし。

 

 その企みは、観客席にいた仲間たちに察知され、失敗に終わった。

 

 追い詰められたフレア。

 

 ルーシィは勝負を決めるため、強力な星霊魔法を発動する。

 

 だが。

 

 その瞬間。

 

 何者かの妨害によって、魔法が不自然に消失した。

 

「……え?」

 

 ルーシィが、目を見開く。

 

 そして。

 

 その隙を突かれ、敗北。

 

『勝者!! 大鴉の尻尾、フレア・コロナ!!』

 

「「「おおおおお!!!」」」

 

 歓声が響く中。

 

「……今のは」

 

 イリスが、静かに目を細めた。

 

 金色の瞳。

 

 そこには、ルーシィの魔法を妨害した不自然な魔力の痕跡が見えていた。

 

「……メイビス」

 

「はい」

 

 メイビスも、真剣な表情で頷いた。

 

「明らかに、外部からの干渉がありましたね」

 

「ええ」

 

 イリスが、静かに答える。

 

「……少し、調べてみましょうか」

 

 その後。

 

 二人から事情を聞いた大会運営側は、調査を開始することになった。

 

 もっとも。

 

 ルーシィ自身は、悔しさを滲ませながらも、前を向いていた。

 

「……次は、絶対に負けないんだから!」

 

 その言葉に、イリスは優しく微笑んだ。

 

「ええ。期待していますよ、ルーシィさん」

 

◇

 

 同じ初日。

 

 もう一つ、注目を集めた試合があった。

 

 蛇姫の鱗。

 

 聖十大魔道の一人、ジュラ・ネェキス。

 

 対するは。

 

 妖精の尻尾Bチーム、ミストガン。

 

「……よろしく頼む」

 

 顔を隠した青年が、静かに告げる。

 

「こちらこそ」

 

 ジュラが、穏やかに頷いた。

 

 試合開始。

 

 ジュラの強力な土魔法が、闘技場を揺るがす。

 

 しかし、ミストガンも高度な魔法で応戦した。

 

 観客たちは、その実力に驚愕する。

 

 だが。

 

 戦いが激しさを増した頃。

 

「……っ!?」

 

 ミストガンの動きが、ほんの一瞬だけ鈍った。

 

 そして。

 

 ジュラの攻撃が、彼を捉える。

 

『決着ゥゥゥ!!』

 

『勝者!! 蛇姫の鱗、ジュラ・ネェキス!!』

 

 観客席から、大きな拍手が送られた。

 

 敗北したミストガン。

 

 その仮面の下で、ジェラール・フェルナンデスは小さく息を吐く。

 

(……仕方ない、か)

 

 彼には、まだ果たすべき目的があった。

 

 大会での勝利だけが、すべてではない。

 

◇

 

 大会二日目。

 

 第二競技『戦車(チャリオット)』。

 

 街中を走る巨大な乗り物の上を、参加者たちが駆け抜ける競技だった。

 

 妖精の尻尾から参加したのは、ナツとガジル。

 

 そして、剣咬の虎からはスティング。

 

 だが。

 

「……うぷっ」

 

「……気持ち悪ぃ……」

 

「……なんで俺まで……」

 

 三人とも、乗り物酔いでまともに走れなかった。

 

『な、なんということでしょう!!』

 

『滅竜魔導士たちが、揃って苦しんでおります!!』

 

「「「あははははは!!!」」」

 

 観客席が、爆笑に包まれた。

 

「……ふふっ」

 

 イリスが、思わず口元を押さえる。

 

「皆さん、大変そうですね」

 

「……あははは!」

 

 メイビスは、すでに笑いを堪えきれていなかった。

 

「ナツさん! ガジルさん! 頑張ってくださーい!」

 

「……うるせえええ……!」

 

 ナツの情けない声が、闘技場に響いた。

 

◇

 

 二日目の対戦も、見どころが多かった。

 

 妖精の尻尾Bチーム。

 

 ミラジェーン・ストラウス。

 

 対するは、青い天馬のジェニー・リアライト。

 

 二人の対戦は、なぜか美しさを競う勝負へと発展していた。

 

『おおおお!! これは素晴らしい!!』

 

『美しき二人の魔導士による、夢の対決です!!』

 

「ふふっ。よろしくね」

 

 ミラジェーンが、穏やかに微笑む。

 

「こちらこそ!」

 

 ジェニーも、自信満々に笑った。

 

 しかし。

 

 勝負が魔法対決へ移った瞬間。

 

「接収(テイクオーバー)」

 

「サタンソウル」

 

 ミラジェーンの身体を、漆黒の魔力が包み込む。

 

 その圧倒的な魔力に、観客席が静まり返った。

 

「……っ!?」

 

 ジェニーが、目を見開く。

 

 そして。

 

 決着は、一瞬だった。

 

『勝者!! 妖精の尻尾Bチーム!!』

 

『ミラジェーン・ストラウスゥゥゥ!!』

 

「「「うおおおおお!!!」」」

 

「ふふっ。ありがとうございました」

 

 ミラジェーンが、いつもの笑顔に戻る。

 

 その姿を見て。

 

「……相変わらずですね」

 

 イリスが、楽しそうに微笑んだ。

 

「はい!」

 

 メイビスも、嬉しそうに頷く。

 

「ミラさん、本当に強くなりました!」

 

 さらに。

 

 人魚の踵のカグラ・ミカヅチ。

 

 剣咬の虎のユキノ・アグリア。

 

 二人の対戦も、観客たちの注目を集めていた。

 

 結果は、カグラの勝利。

 

 その圧倒的な剣技に、エルザも強い関心を示していた。

 

◇

 

 大会三日目。

 

 第三競技『伏魔殿(パンデモニウム)』。

 

 百体の魔物が潜む、巨大な魔法空間。

 

 参加者は、挑戦する魔物の数を選び、討伐して得点を競う。

 

 その競技に、妖精の尻尾Aチームからエルザ・スカーレットが参加した。

 

「……百体すべて、私が相手をしよう」

 

「「「……は?」」」

 

 会場が、静まり返った。

 

『え、エルザ選手!?』

 

『百体すべてに挑戦するというのですか!?』

 

「そうだ」

 

 エルザが、静かに頷く。

 

「問題ない」

 

 そして。

 

 競技開始。

 

「換装!!」

 

 無数の剣が、空中に展開される。

 

 次々と襲いかかる魔物たち。

 

 しかし。

 

 エルザは、一歩も退かなかった。

 

 剣が閃く。

 

 鎧が変わる。

 

 魔物たちが、次々と倒れていく。

 

 そして。

 

『……ま、まさか!!』

 

『百体すべてを討伐ァァァ!!』

 

「「「うおおおおおお!!!」」」

 

 闘技場が、歓声に包まれた。

 

 エルザは、静かに剣を収める。

 

「……ふぅ」

 

 その表情には、まだ余裕があった。

 

 彼女の脳裏に浮かぶのは、かつて見た一人の少女の剣技。

 

 イリス・アストレア。

 

 あの境地には、まだ遠い。

 

 だからこそ。

 

(……もっと強くなれる)

 

 エルザは、そう確信していた。

 

 その後。

 

 魔力測定器による競技では、カナ・アルベローナが妖精の輝きを披露。

 

 圧倒的な魔力を示し、観客たちを驚愕させた。

 

 妖精の尻尾の勢いは、止まらなかった。

 

◇

 

 三日目の対戦。

 

 ラクサス・ドレアー。

 

 対するは、大鴉の尻尾のアレクセイ。

 

 しかし。

 

 その正体は、ラクサスの父。

 

 イワン・ドレアーだった。

 

 さらに、相手は一人ではなかった。

 

 大鴉の尻尾の魔導士たちが、幻影の中でラクサスを取り囲む。

 

「……くだらねえ」

 

 ラクサスが、静かに呟いた。

 

 次の瞬間。

 

 黄金の雷が、周囲を駆け巡る。

 

「……まとめて、かかってこい」

 

 轟音。

 

 閃光。

 

 そして。

 

 圧倒的な力によって、敵が次々と倒れていく。

 

「……てめえら程度が」

 

 ラクサスが、静かに拳を握った。

 

「妖精の尻尾を、舐めんじゃねえぞ」

 

 その後。

 

 大鴉の尻尾の不正が明るみに出た。

 

 大会運営委員会は、ギルドの失格を決定。

 

 観客席からは、大きなどよめきが起こった。

 

「……やれやれ」

 

 イリスが、小さくため息をつく。

 

「やっぱり、不正をしていたんですね」

 

「はい」

 

 メイビスが、静かに頷いた。

 

「でも、ラクサスさんが勝ってくれてよかったです!」

 

「ええ」

 

 イリスが、嬉しそうに微笑んだ。

 

「本当に、立派になりましたね」

 

◇

 

 そして。

 

 ウェンディ・マーベル。

 

 対するは、蛇姫の鱗のシェリア・ブレンディ。

 

 天空の滅竜魔導士。

 

 天空の滅神魔導士。

 

 二人の少女による戦いは、激しいものとなった。

 

「天竜の咆哮!!」

 

「天神の怒号!!」

 

 強烈な風が、闘技場で激突する。

 

 轟音。

 

 衝撃。

 

 観客たちが、息を呑んだ。

 

「……すごい」

 

 ウェンディが、小さく呟く。

 

「あなたもね!」

 

 シェリアが、楽しそうに笑った。

 

 互いに全力を尽くす二人。

 

 その戦いは、最後まで決着がつかなかった。

 

『試合終了ォォォ!!』

 

『両者、引き分けです!!』

 

「「「おおおおおお!!!」」」

 

 観客席から、大きな拍手が送られた。

 

「……ありがとうございました!」

 

 ウェンディが、深く頭を下げる。

 

「こちらこそ!」

 

 シェリアも、笑顔で応えた。

 

 そして。

 

 二人は、互いの健闘を称え合った。

 

◇

 

「……ふふっ」

 

 大会三日目。

 

 観客席。

 

 イリスが、嬉しそうに微笑んだ。

 

「皆さん、本当に強くなりましたね」

 

「はい!」

 

 メイビスが、元気よく頷く。

 

「今年も優勝できそうですよ!」

 

「ええ。楽しみですね」

 

 百年以上前。

 

 わずかな仲間たちと共に作った、小さなギルド。

 

 それが今では、王国最強と呼ばれるほどに成長した。

 

 しかも。

 

 その強さは、決して自分たち二人だけのものではない。

 

「……立派になりましたね」

 

 イリスが、ぽつりと呟く。

 

「……はい」

 

 メイビスも、静かに頷いた。

 

 そして。

 

「でも!」

 

 ぱっと表情を明るくする。

 

「まだまだ、これからですよ!」

 

「ええ」

 

 イリスが、優しく笑った。

 

「きっと、もっと強くなります」

 

「はい!」

 

 メイビスが、元気よく頷く。

 

 その直後。

 

「あっ!」

 

「どうしました?」

 

「イリス! あっちに新しいスイーツのお店があります!」

 

「……!」

 

 イリスの青と金の瞳が、ぱっと輝いた。

 

「それは、ぜひ行ってみたいですね」

 

「ですよね!」

 

「次の競技まで、少し時間がありますし……」

 

「行きましょう!」

 

「はい!」

 

 二人は、嬉しそうに席を立った。

 

 ……三連覇を成し遂げた絶対王者たちは、今日も平和だった。

 

◇

 

 その頃。

 

 王都クロッカス。

 

 人々の歓声が遠く響く、薄暗い路地裏。

 

 そこに、一人の青年が立っていた。

 

 黒い髪。

 

 鋭い眼差し。

 

 そして、どこか陰鬱な雰囲気。

 

 その顔は、剣咬の虎に所属するローグ・チェーニと瓜二つだった。

 

 しかし。

 

 彼は、この時代のローグではない。

 

 未来からやってきた、もう一人のローグ。

 

「…………」

 

 青年は、静かに空を見上げた。

 

 青い空。

 

 穏やかな風。

 

 街を行き交う人々の笑顔。

 

 その光景を、彼は無言で見つめていた。

 

 ――未来。

 

 彼が知る世界は、こんなにも平和ではなかった。

 

 崩れ落ちた建物。

 

 炎に包まれる街。

 

 逃げ惑う人々。

 

 そして。

 

 数え切れないほどの死。

 

 昨日まで笑っていた人間が、翌日には冷たくなっている。

 

 家族を失った子供。

 

 仲間を失った魔導士。

 

 誰もが、絶望の中で生きていた。

 

 だが。

 

 そんな世界にも、希望はあった。

 

 二人の少女。

 

 黒髪の少女と、金髪の少女。

 

 イリス・アストレア。

 

 メイビス・ヴァーミリオン。

 

 後に、世界を救った二人の救世主。

 

 その名を知らない者は、ほとんどいなかった。

 

 彼女たちは、確かに世界を救った。

 

 絶望に沈んだ人々に、再び明日を与えた。

 

 しかし。

 

 その勝利が訪れるまでに、あまりにも多くの命が失われていた。

 

「……救世主、か」

 

 青年が、小さく呟く。

 

 その声には、複雑な感情が滲んでいた。

 

 彼女たちが成し遂げた偉業を、否定するつもりはない。

 

 むしろ。

 

 あの二人がいなければ、世界はどうなっていたのか。

 

 考えることさえ恐ろしかった。

 

 それほどまでに、二人の存在は大きかった。

 

 だが。

 

「……救われなかった者たちもいる」

 

 青年は、静かに目を閉じた。

 

 脳裏に浮かぶのは、失われた命。

 

 取り戻せない日々。

 

 そして、二度と聞くことのできない声。

 

「…………」

 

 やがて。

 

 ゆっくりと、目を開く。

 

「……この時代なら」

 

 まだ、間に合う。

 

 少なくとも。

 

 彼が知る未来は、まだ訪れていない。

 

「……イリス・アストレア」

 

「……メイビス・ヴァーミリオン」

 

 二人の名前を、静かに口にする。

 

 この時代にも、あの二人はいる。

 

 それも。

 

 未来で世界を救った、あの二人が。

 

「…………」

 

 青年は、しばらく黙り込んだ。

 

 そして。

 

「……計画を進めるか」

 

 そう呟くと、ゆっくりと歩き出した。

 

 その胸に秘めた真意を、誰にも明かさないまま。

 

◇

 

 同じ頃。

 

 ドムス・フラウ。

 

「……?」

 

 イリスが、ふと足を止めた。

 

「イリス?」

 

 隣を歩いていたメイビスが、首を傾げる。

 

「どうしました?」

 

「……いえ」

 

 イリスが、王都の方角へ視線を向けた。

 

 青と金の瞳。

 

 その金色の瞳には、普段から魔力の流れが見えている。

 

 そして今。

 

 遠く離れた場所で、ほんの一瞬。

 

 奇妙な魔力の揺らぎを感じ取った気がした。

 

「……何か、変わった魔力が……」

 

「……?」

 

 メイビスも、周囲へ意識を向ける。

 

 しかし。

 

 すでに、その気配は消えていた。

 

「……気のせいでしょうか」

 

 イリスが、小さく首を傾げる。

 

「何か気になることがあったんですか?」

 

「ええ。少しだけ」

 

 イリスが、穏やかに答える。

 

「でも、今は何も感じませんね」

 

「……ふむ」

 

 メイビスが、少し考え込む。

 

 そして。

 

「気になるようでしたら、あとで調べてみましょう!」

 

「そうですね」

 

 イリスが、微笑んだ。

 

 その直後。

 

「あっ!」

 

 メイビスが、何かを思い出したように顔を上げる。

 

「イリス! 早くしないと、限定ケーキが売り切れちゃいます!」

 

「……!」

 

「急ぎましょう!」

 

「はい!」

 

 二人は、再び歩き出した。

 

 楽しそうに笑いながら。

 

 まだ、知らない。

 

 この王都に。

 

 未来から、一人の魔導士が訪れていることを。

 

 そして。

 

 その青年が、二人のことを知っていることを。

 

 大魔闘演武。

 

 王国最強の座を懸けた祭典。

 

 妖精の尻尾の快進撃によって、王都は熱狂に包まれていた。

 

 しかし。

 

 その華やかな祭典の裏側で。

 

 未来を巡る、新たな物語が動き始めていた。

 

 ――過去を変えようとする者。

 

 ――未来を知らぬ二人の救世主。

 

 その運命が交わる時は、まだ訪れていない。

 




【こそこそ妖精話】
~王者たちの休日~

 X791年。

 王都クロッカス。

 大魔闘演武、三日目終了後。

 王都の人気カフェ。

「ん〜! 美味しいですー!」

 メイビス・ヴァーミリオンが、幸せそうに頬を緩めた。

 向かい側では、イリス・アストレアが紅茶を楽しんでいる。

イリス「ふふっ。このお店のケーキも絶品ですね」

メイビス「はい! 明日は別のお店にも行ってみましょう!」

イリス「いいですね」

 そのとき。

一夜「メェェェン!!」

イリス「……?」

メイビス「……?」

 突然、二人の前に現れたのは、青い天馬の一夜だった。

一夜「おお……! なんと美しいお嬢さんたち……!」

一夜「これは運命の出会い……!」

イリス「……ええと」

メイビス「こんにちはー!」

一夜「メェェェン!! その可憐な笑顔! まさしく天使!!」

 イリスが、少し困ったように微笑む。

イリス「ありがとうございます。でも、私たちは今、お茶を楽しんでいるところでして……」

一夜「おお! 紅茶! なんと優雅な!」

一夜「よろしければ、私の香りを――」

メイビス「遠慮します!」

一夜「メェン!?」

 即答だった。

 そこへ。

ヒビキ「一夜さん! 何してるんですか!」

レン「また勝手に女性に声かけて……!」

イヴ「す、すみません! ご迷惑をおかけしました!」

 青い天馬の三人が、慌てて駆け寄ってきた。

ヒビキ「……って、え?」

レン「……おい、待て」

イヴ「……あれ?」

 三人の視線が、二人の少女に向けられる。

ヒビキ「……イリス・アストレア?」

レン「……メイビス・ヴァーミリオン!?」

イヴ「去年までの大会で、妖精の尻尾を三連覇に導いた……!」

一夜「……メェン?」

 数秒の沈黙。

一夜「……メェェェン!?」

 ようやく理解したらしい。

メイビス「はい! 妖精の尻尾のメイビスです!」

イリス「イリス・アストレアと申します。よろしくお願いします」

 にっこり。

 あまりにも自然な挨拶だった。

ヒビキ「……あの、ひとつ聞いてもいいですか?」

イリス「はい?」

ヒビキ「……お二人は、どうして今年は出場していないんですか?」

メイビス「あっ! それはですね!」

メイビス「大会の運営さんから、出場を禁止されちゃったんです!」

レン「……禁止?」

イヴ「……え?」

イリス「私たちが参加すると、競技の公平性に問題があるそうで……」

ヒビキ「…………」

レン「…………」

イヴ「…………」

 沈黙。

 そして。

レン「……そんな理由で出場禁止になる魔導士、初めて聞いたぞ」

イヴ「……すごいですね」

ヒビキ「……いや、まあ、去年の試合を見れば納得だけど……」

 そのとき。

メイビス「あっ!」

 メイビスが、突然顔を上げた。

メイビス「イリス! そろそろ次のお店に行きましょう!」

イリス「そうですね。限定ケーキが売り切れてしまいます」

ヒビキ「……限定ケーキ?」

メイビス「はい! この王都には美味しいお店がたくさんあるんですよ!」

イリス「大会の応援も楽しいですし、最高ですね」

 そう言って、二人は席を立った。

イリス「それでは、失礼します」

メイビス「大会、頑張ってくださいねー!」

 笑顔で手を振り、店を出ていく二人。

 残された青い天馬の面々は、しばらく黙り込んでいた。

レン「……なあ」

ヒビキ「……なんだ?」

レン「……あの二人、本当に王国最強の魔導士なのか?」

イヴ「……でも、去年の大会では……」

ヒビキ「……ああ。間違いなく、とんでもない実力者だ」

一夜「……メェン」

 そこで、一夜が静かに呟いた。

一夜「……強さとは、余裕なのかもしれないね」

ヒビキ「……一夜さん」

レン「……たまにはいいこと言うじゃねえか」

イヴ「……そうですね」

 しかし。

一夜「そして何より……あの二人の美しさは、まさしく――」

ヒビキ「はい、帰りますよ!」

一夜「メェェェン!?」

 ――青い天馬の一日は、今日も賑やかだった。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。

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七海千秋(別人)のようこそ実力至上主義の教室へ。(作者:ろやる)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

これはスーパーダンガンロンパ2の七海千秋に転生しちゃった元男が、実力至上主義の教室でゲーム友達を増やしたり、たまに核心をついた発言をしてクラスにちょっとだけ貢献したり、親友となったとある少女や男子生徒とチェスをしたり、色々なゲームで遊びながら高校生活を駆け抜けていくお話。▼※注意▼・本編は無事に完結いたしました。▼・現在は番外編としてその後のちょっとしたお話…


総合評価:1114/評価:7.48/完結:15話/更新日時:2026年10月31日(土) 21:00 小説情報

気まぐれで原初を育てたら溺愛されました(作者:礼夢)(原作:転生したらスライムだった件)

超能力者の私が偶然拾って世話をした卵が、▼まさかの原初の悪魔のもので…!?▼自由気ままに転スラ世界、満喫してやるぜ


総合評価:552/評価:8.38/連載:27話/更新日時:2026年11月05日(木) 17:07 小説情報

FAIRY TAIL 才禍の怪物(作者:XAI)(原作:FAIRY TAIL)

フィオーレ王国。そこには数多くの魔導士ギルドが存在する。▼その中でも色んな意味でその名が広く知れ渡っているギルドがあった。▼妖精の尻尾、フェアリーテイル▼妖精には尻尾があるのか、ないのか。そんな永遠の謎故に永遠の冒険を求めるギルド。▼これはもしFAIRY TAILの世界にアルフィアみたいな才能の権化がいたらという物語▼


総合評価:832/評価:7.43/連載:11話/更新日時:2026年10月04日(日) 05:21 小説情報

レミリアのヒーロー社会生活(作者:玉藻黒酢)(原作:僕のヒーローアカデミア)

とある洋館で目覚めた主人公は、レミリア・スカーレットの姿・能力を持ちヒロアカ世界に転生する。▼前世の記憶もなく、原作知識ももちろんない主人公は、己の欲を満たすために個性社会を謳歌するために力を行使する。▼※レミリア以外の東方キャラは出す予定はございません。また、レミリアもレミリアに近しいものと化していると思うので、苦手な方はご注意下さい。▼それと、ここのレミ…


総合評価:73/評価:-.--/連載:2話/更新日時:2026年10月22日(木) 17:00 小説情報

TS鬼族の幼馴染は傲慢に堕ちる(作者:かしわくん)(原作:Re:ゼロから始める異世界生活)

前世でリゼロオタクだった青年は通り魔に刺されて死んでしまったが、リゼロ世界に鬼族として転生を果たす。そんな中で推しであるスバルに会うことを目標にするという話です!


総合評価:374/評価:7.27/連載:11話/更新日時:2026年09月23日(水) 11:20 小説情報


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