X791年。
フィオーレ王国、王都クロッカス。
大魔闘演武、開催四日目。
「「「うおおおおおおお!!!」」」
巨大な闘技場、ドムス・フラウ。
今日も観客席からは、割れんばかりの歓声が響き渡っていた。
『さああああ!! 大魔闘演武も、いよいよ四日目!!』
『三連覇中の絶対王者、妖精の尻尾!! 今年もAチーム、Bチーム共に素晴らしい活躍を見せております!!』
「「「妖精の尻尾ォォォ!!!」」」
観客席が、大きく沸き立つ。
そして。
「わああ! 今日もすごい盛り上がりですね!」
「ふふっ。皆さん、楽しそうですね」
観客席の一角。
イリス・アストレアとメイビス・ヴァーミリオンは、今日も並んで座っていた。
イリスの手には、冷たい果実のジュース。
メイビスの手には、焼きたてのアップルパイ。
二人とも、すっかり観戦を満喫している。
「今日はルーシィさんも競技に参加するんですよね!」
「ええ。海戦という競技だそうですよ」
「楽しみですー!」
メイビスが、嬉しそうに笑った。
しかし。
この日の大会が、妖精の尻尾にとって忘れられない一日になることを。
二人は、まだ知らなかった。
◇
第四競技。
『海戦(ナバルバトル)!!』
闘技場の中央に、巨大な水球が出現する。
参加者たちは、その内部で戦い、最後まで残った者が勝者となる。
妖精の尻尾Aチームから参加したのは、ルーシィ・ハートフィリア。
そして。
剣咬の虎からは、ミネルバ・オーランドが参加していた。
「……あら」
ミネルバが、ルーシィを見つめる。
「妖精の尻尾の星霊魔導士か」
「……!」
ルーシィが、警戒するように身構えた。
ミネルバ。
前年の大会で、メイビスに一方的な敗北を喫した魔導士。
その実力は、決して侮れるものではない。
「……負けないんだから!」
ルーシィが、拳を握った。
そして。
『競技開始ィィィ!!』
巨大な水球の内部で、戦いが始まった。
参加者たちは次々と魔法を放ち、相手を水球の外へ弾き飛ばしていく。
ルーシィも負けてはいない。
「開け! 宝瓶宮の扉!!」
「アクエリアス!!」
黄金の光と共に、水瓶を抱えた星霊が姿を現した。
「……また面倒なところに呼び出して!」
「お願い! 力を貸して!」
「ったく!」
アクエリアスが、水瓶を傾ける。
激流が水球の内部を駆け巡り、他の参加者たちを次々と押し流した。
『おおおおお!!』
『ルーシィ選手!! 素晴らしい攻撃です!!』
「やった!」
ルーシィが、嬉しそうに笑う。
しかし。
「……ふむ」
ミネルバが、静かに手を掲げた。
次の瞬間。
空間が歪む。
「……っ!?」
ルーシィの身体が、突然別の場所へ移動した。
「きゃあっ!?」
直後。
強烈な魔力が、彼女を襲う。
「……っ!」
ルーシィは咄嗟に身体を捻り、攻撃をかわした。
「……ほう」
ミネルバが、目を細める。
「今のを避けるか」
「……私だって!」
ルーシィが、鍵を掲げる。
「ただ遊んでたわけじゃないんだから!」
黄金の光。
星霊との連携。
そして、以前よりも洗練された魔力制御。
ルーシィは、ミネルバの空間魔法に翻弄されながらも、冷静に反撃を続けた。
やがて。
他の参加者たちが脱落し、水球の内部に残ったのは二人だけとなった。
『残るは二人!!』
『妖精の尻尾、ルーシィ・ハートフィリア!!』
『剣咬の虎、ミネルバ・オーランド!!』
「「「うおおおおお!!!」」」
観客席が、歓声に包まれた。
◇
「ルーシィさん、頑張ってますね!」
「ええ」
イリスが、嬉しそうに微笑む。
「魔力の制御も、随分と上達しています」
「はい! 星霊さんたちとの連携も素晴らしいです!」
二人は、ルーシィの成長を喜んでいた。
しかし。
「……あのミネルバさん」
イリスが、小さく呟く。
「少し、様子が変ですね」
「……ええ」
メイビスも、静かに頷いた。
ミネルバの視線。
その奥にある、冷たい感情。
彼女は、ただ勝利を目指しているだけではないようだった。
◇
「……なかなかやるではないか」
ミネルバが、薄く笑った。
「だが、所詮はその程度よ」
「……っ!」
ルーシィが、歯を食いしばる。
空間が歪む。
次の瞬間。
ミネルバの攻撃が、ルーシィの脇腹を捉えた。
「がはっ……!」
水中に、衝撃が広がる。
しかし。
ルーシィは倒れない。
「……まだよ!」
星霊の鍵が輝く。
次々と放たれる魔法。
ミネルバの攻撃を防ぎながら、わずかな隙を突いて反撃する。
「……っ!」
ついに。
ルーシィの攻撃が、ミネルバの頬を掠めた。
「……!」
ミネルバの表情が、変わる。
その頬に、小さな傷。
「……貴様」
低い声。
「……この私に、傷をつけたな?」
「……だから、何よ!」
ルーシィが、息を切らしながら叫ぶ。
「私だって、妖精の尻尾の魔導士なんだから!」
「…………」
ミネルバは、しばらく黙っていた。
そして。
「……妖精の尻尾、か」
その瞳に、暗い感情が宿る。
前年。
大勢の観客の前で、自分を一方的に打ち倒した金髪の少女。
メイビス・ヴァーミリオン。
あの屈辱を、忘れた日はない。
「……気に入らぬ」
ミネルバが、静かに手を掲げた。
空間が歪む。
ルーシィの身体が、突然引き寄せられた。
「……っ!?」
強烈な一撃。
「きゃああっ!!」
ルーシィが、苦痛に顔を歪める。
さらに。
逃れる間もなく、次の攻撃が襲いかかった。
「……ぐっ!」
「どうした?」
ミネルバが、冷たく笑う。
「妖精の尻尾の魔導士とは、その程度か?」
「……まだ……!」
ルーシィが、震える手で鍵を握る。
しかし。
魔法を発動するよりも早く、空間が歪んだ。
「……っ!」
強烈な衝撃。
ルーシィの身体が、水球の内部を大きく吹き飛ばされる。
すでに、勝負は決していた。
それでも。
ミネルバは、攻撃を止めなかった。
「……少しは、あの女の気分を味わわせてやろうか」
冷たい声。
そして。
「……っ、ああああっ!!」
ルーシィの悲鳴が、闘技場に響き渡った。
◇
「……おい」
妖精の尻尾の控え席。
ナツが、ゆっくりと立ち上がった。
「……何やってんだ、あいつ」
グレイの表情も険しい。
「……もう勝負は決まってんだろ」
エルザは、拳を強く握っていた。
そして。
観客席。
「…………」
イリスの笑顔が、消えていた。
その隣。
メイビスも、静かに試合を見つめている。
「……イリス」
「……はい」
二人の声は、驚くほど落ち着いていた。
しかし。
その瞳には、明らかな怒りが宿っていた。
「……あの人は」
イリスが、静かに呟く。
「勝つためではなく、ルーシィさんを傷つけるために戦っていますね」
「……はい」
メイビスが、短く答える。
普段は明るく、誰にでも笑顔を向ける初代マスター。
しかし、今の彼女に笑顔はなかった。
「……私たちの大切な仲間なのに」
その声には、静かな怒りが滲んでいた。
そして。
水球の内部で、ルーシィが力尽きる。
『……け、決着!!』
『勝者!! 剣咬の虎、ミネルバ・オーランド!!』
歓声と、困惑の声。
その中で。
ミネルバは、傷だらけのルーシィを見下ろしていた。
「……ふん」
やがて、競技終了と共にルーシィが救出される。
「ルーシィ!!」
ナツたちが、駆け寄った。
そして。
「……イリス」
「はい」
メイビスが、静かに立ち上がる。
「行きましょう」
「……ええ」
二人も、席を立った。
◇
「ルーシィ!!」
控え室。
ナツが、傷だらけの少女に駆け寄った。
「……ナツ……」
ルーシィが、弱々しく目を開く。
「……ごめんね」
「……何言ってんだよ」
ナツが、拳を握る。
「……お前は、よくやった」
「……うん……」
その時。
「ルーシィさん」
穏やかな声が響いた。
イリスだった。
その隣には、メイビスもいる。
「……イリス……さん……」
「無理に話さなくていいですよ」
イリスが、優しく微笑んだ。
そして、ルーシィの身体を傷つけないよう、そっと支える。
ウェンディもすぐに治癒魔法を使い始めた。
「……大丈夫です。私が治します!」
「お願いしますね、ウェンディさん」
「はい!」
メイビスは、ルーシィの手を優しく握った。
「ルーシィさん」
「……メイビス……さん……」
「とっても格好よかったですよ!」
「……え……?」
「最後まで諦めずに戦っていました!」
メイビスが、にっこりと笑う。
「私、すごく嬉しかったです!」
「…………」
ルーシィの瞳に、涙が浮かぶ。
「……でも……負けちゃって……」
「勝ち負けだけが、すべてではありませんよ」
イリスが、穏やかに告げた。
「ルーシィさんがどれだけ成長したのか、私たちはちゃんと見ていました」
「……っ」
ルーシィは、とうとう涙をこぼした。
「……ありがとう……ございます……」
その様子を見て。
ナツが、静かに立ち上がる。
「……次は、俺たちの番だ」
その瞳には、炎のような闘志が宿っていた。
◇
『さああああ!!』
『続いての対戦は、こちらァァァ!!』
ドムス・フラウ。
観客席が、再び熱狂に包まれる。
『妖精の尻尾Aチーム、ナツ・ドラグニル!!』
『妖精の尻尾Bチーム、ガジル・レッドフォックス!!』
『対するは、剣咬の虎!!』
『スティング・ユークリフ!!』
『ローグ・チェーニ!!』
「「「うおおおおおお!!!」」」
滅竜魔導士同士の対決。
その組み合わせに、観客たちの期待が高まっていた。
「……へっ」
ナツが、拳を鳴らす。
「ようやく俺の番か!」
「ギヒッ! 足引っ張んじゃねえぞ、火竜!」
ガジルが、にやりと笑った。
「そりゃこっちの台詞だ!」
対するスティングとローグ。
「……ようやく、あんたらと戦えるな」
スティングが、笑う。
「楽しみにしてたぜ」
「……油断するな、スティング」
ローグが、静かに告げる。
「相手は妖精の尻尾だ」
「わかってるって!」
スティングが、拳を握った。
その脳裏に浮かぶのは、前年の大会。
黒髪の少女。
イリス・アストレア。
あまりにも圧倒的な実力差。
自分の攻撃が、まるで通じなかった。
(……あの女は、別格だった)
だが。
(……こいつらまで、そうだとは限らねえ!)
スティングが、闘志を燃やす。
そして。
『試合開始ィィィ!!』
◇
「白竜の咆哮!!」
「影竜の咆哮!!」
白と黒。
二つの強烈な魔力が、ナツとガジルへ襲いかかる。
「鉄竜の咆哮!!」
ガジルが、正面から迎え撃つ。
そして。
「火竜の……咆哮!!」
ナツの炎が、闘技場を駆け抜けた。
轟音。
衝撃。
四人の滅竜魔法が激突する。
「「「うおおおおお!!!」」」
観客席が、大きく沸き立った。
しかし。
「……へえ」
ナツが、楽しそうに笑う。
「なかなかやるじゃねえか!」
「……っ!」
スティングが、目を見開いた。
自分の攻撃を受けても、ナツには余裕がある。
「……まだまだだぜ!」
スティングが、拳を突き出す。
白い魔力をまとった一撃。
だが。
ナツは、軽く身体を捻ってかわした。
「……遅え!」
炎をまとった拳が、スティングの腹部を捉える。
「ぐはっ!!」
スティングが、吹き飛んだ。
「……スティング!」
ローグが、影の中へ潜る。
そして、ナツの背後から襲いかかった。
しかし。
「……そこだろ?」
「……っ!?」
ナツが、振り向きざまに蹴りを放つ。
ローグが、咄嗟に防御する。
それでも、衝撃を殺しきれずに後退した。
「……なんだ、こいつ……!」
スティングが、歯を食いしばる。
ナツは、まだ本気を出していない。
それが、はっきりとわかった。
◇
「わあああ!! ナツさん、すごいです!」
観客席。
メイビスが、嬉しそうに声を上げた。
「ええ」
イリスも、満足そうに微笑む。
「以前よりも、ずっと動きが洗練されていますね」
「はい!」
メイビスが、元気よく頷く。
「相手の魔力の流れも、よく見ています!」
「ふふっ。あのナツさんが、あんなに落ち着いて戦うなんて」
「成長しましたねー!」
二人は、嬉しそうに笑った。
もっとも。
その評価は、長くは続かなかった。
◇
「……おい、ガジル!」
「あ?」
ナツが、突然声をかける。
「ちょっとこっち来い!」
「……なんだよ」
ガジルが、訝しげに近づく。
そして。
「……よっと!」
「……は?」
ナツが、ガジルを掴んだ。
そのまま。
近くにあった地下へ続くトロッコへ、勢いよく押し込む。
「……おい!?」
「悪いな、ガジル!」
ナツが、にやりと笑う。
「こいつらは、俺一人で十分だ!」
「てめえええええ!!」
ガジルの怒号。
しかし。
トロッコは、そのまま地下へ走り出した。
「ナツゥゥゥゥ!!」
その声が、遠ざかっていく。
「…………」
闘技場が、一瞬静まり返った。
そして。
『な、なんということでしょう!!』
『ナツ選手!! 味方のガジル選手を、地下へ送り出してしまいましたァァァ!!』
「「「あはははははは!!!」」」
観客席が、爆笑に包まれた。
◇
「…………」
イリスが、ぽかんと口を開けていた。
「……メイビス」
「……はい」
「……今のは、何だったのでしょうか」
「……私にも、わかりません」
二人は、しばらく黙り込む。
そして。
「……ふふっ」
「……あははは!」
とうとう、笑い出してしまった。
「ナツさんらしいですね!」
「ええ。本当に……」
イリスが、困ったように微笑む。
「……ガジルさんには、あとで謝った方がよさそうですね」
「そうですねー!」
◇
「……ふざけやがって」
スティングが、低く呟いた。
「俺たち二人を、一人で相手にするってのか?」
「……ああ」
ナツが、笑う。
「その方が、面白えだろ?」
「……っ!」
スティングの魔力が、一気に膨れ上がった。
ローグも、静かに構える。
「……後悔するなよ」
白い光。
黒い影。
二人の滅竜魔導士が、同時に襲いかかった。
しかし。
「……へっ!」
ナツが、拳を握る。
「来いよ!」
炎が、燃え上がった。
スティングの拳を受け流し、ローグの影をかわす。
そして。
炎をまとった拳が、二人を次々と捉えていく。
「ぐっ……!」
「……っ!」
スティングとローグが、後退した。
「……なんでだよ……!」
スティングが、歯を食いしばる。
「俺たちだって……!」
さらに魔力を高める。
白竜と影竜。
二人の力が重なり、強烈な連携攻撃が放たれた。
だが。
「……おおっ!」
ナツが、楽しそうに笑った。
「今のは、なかなかいいじゃねえか!」
その身体を、炎が包み込む。
「だったら……!」
ナツが、大きく息を吸い込んだ。
「こっちも、少し本気でいくぜ!!」
次の瞬間。
凄まじい炎が、闘技場を駆け抜けた。
「……っ!?」
スティングとローグが、目を見開く。
防御する。
しかし。
その魔力を、ナツの炎が押し返していく。
「……うおおおおお!!」
轟音。
閃光。
そして。
二人の身体が、同時に吹き飛ばされた。
「ぐああああっ!!」
「……っ!!」
闘技場の地面を、大きく転がる。
やがて。
静寂。
スティングとローグは、立ち上がらなかった。
『……け、決着ゥゥゥ!!』
『勝者!! 妖精の尻尾!!』
『ナツ・ドラグニルゥゥゥ!!』
「「「うおおおおおおお!!!」」」
闘技場が、割れんばかりの歓声に包まれた。
その中心で。
「……ふぅ!」
ナツが、軽く息を吐く。
そして、にやりと笑った。
「……へっ!」
「まだまだだな!」
その姿には、十分な余裕が残っていた。
◇
「……すごいですね」
イリスが、嬉しそうに微笑んだ。
「はい!」
メイビスも、満面の笑顔で頷く。
「ナツさん、本当に強くなりました!」
「ええ」
イリスが、静かに頷く。
かつて。
幼い少年だったナツ。
喧嘩ばかりして、ギルドの中を走り回っていた。
そんな彼が。
今では、王国屈指の魔導士たちを相手に、これほどの戦いを見せるようになった。
「……立派になりましたね」
「……はい!」
メイビスが、嬉しそうに笑う。
そして。
「でも……」
「……?」
「ガジルさん、どこまで行っちゃったんでしょう?」
「…………」
イリスが、遠い目をした。
「……無事に戻ってくるといいですね」
「そうですねー!」
二人は、顔を見合わせて笑った。
◇
その頃。
王都クロッカス。
人通りの少ない路地裏。
「…………」
一人の青年が、静かに立っていた。
黒い髪。
鋭い眼差し。
未来からやってきたローグ・チェーニ。
彼は、遠くから響く歓声に耳を傾けていた。
「……妖精の尻尾、か」
その声には、複雑な感情が滲んでいた。
この時代の妖精の尻尾は、強い。
それも、彼が知る歴史以上に。
そして。
あの二人がいる。
イリス・アストレア。
メイビス・ヴァーミリオン。
未来で世界を救った、二人の救世主。
「…………」
青年は、静かに目を閉じた。
脳裏に浮かぶのは、荒廃した未来。
崩れ落ちた街。
失われた命。
そして。
最後に、世界を救った二人の少女。
「……確かに、強い」
青年が、小さく呟く。
「……だが」
ゆっくりと、目を開く。
「……それだけでは、足りない」
その瞳には、暗い決意が宿っていた。
この時代なら。
まだ、変えられる。
少なくとも。
彼が知る未来は、まだ訪れていない。
「……計画を、進めなければな」
そう呟くと、青年は歩き出した。
その胸に秘めた真意を、誰にも明かさないまま。
◇
同じ頃。
ドムス・フラウ。
「イリス!」
「はい?」
「今日も帰りに、スイーツのお店へ行きませんか!」
「ふふっ。もちろんです」
イリスが、嬉しそうに微笑んだ。
「今日は、どんなお店にしましょうか」
「実はですね!」
メイビスが、楽しそうに身を乗り出す。
「新しく見つけたお店があるんです!」
「……!」
イリスの青と金の瞳が、ぱっと輝いた。
「それは楽しみですね!」
「はい!」
二人は、嬉しそうに笑い合った。
大魔闘演武、四日目。
仲間を傷つけられた怒り。
それを力に変えた、妖精の尻尾の勝利。
そして。
未来から訪れた、一人の魔導士。
華やかな祭典の裏側で。
運命の歯車は、静かに回り始めていた。
――まだ、誰も知らない。
この王都に迫る、大きな嵐の存在を。
【こそこそ妖精話】
~未来から来た星霊魔導士~
X791年。
フィオーレ王国、王都クロッカス。
夜。
大魔闘演武の熱狂が冷めやらぬ王都の片隅。
一人の少女が、薄暗い路地裏を歩いていた。
金色の髪。
傷だらけの身体。
そして、疲れ切った表情。
その少女の名は、ルーシィ・ハートフィリア。
しかし。
彼女は、この時代のルーシィではない。
未来からやってきた、もう一人のルーシィだった。
未来ルーシィ「……ここが、七年前のクロッカス……」
遠くから、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
賑やかな街並み。
明るい店の灯り。
幸せそうに歩く人々。
その何気ない光景に、未来ルーシィは思わず足を止めた。
未来ルーシィ「……みんな、生きてる……」
声が震える。
彼女の知る未来では、この街も戦火に包まれていた。
崩れ落ちた建物。
炎に呑まれる街路。
逃げ惑う人々。
そして、数え切れないほどの犠牲者。
あの光景を、忘れることなどできなかった。
未来ルーシィ「…………」
少女は、静かに拳を握った。
しかし。
その絶望的な未来にも、希望はあった。
イリス・アストレア。
メイビス・ヴァーミリオン。
妖精の尻尾を創設した、二人の少女。
最後まで諦めずに戦い続け、世界を救った救世主たち。
彼女たちのおかげで、世界は滅亡を免れた。
だが。
すべての人が救われたわけではない。
未来ルーシィ「……イリスさん……メイビスさん……」
未来ルーシィは、二人の名前を小さく呟いた。
未来ルーシィ「……あなたたちが、世界を救ってくれたことは知ってる」
未来ルーシィ「……でも……」
少女の瞳から、一粒の涙がこぼれた。
未来ルーシィ「……もっと早く、止められたなら……」
失われた命は、戻らない。
どれほど強い魔導士であっても、過ぎ去った悲劇をなかったことにはできない。
だからこそ。
彼女は、この時代へやってきた。
未来ルーシィ「……今度こそ……」
涙を拭い、顔を上げる。
未来ルーシィ「……絶対に、間に合わせる」
その瞳には、強い決意が宿っていた。
この時代には、まだ希望がある。
ナツも。
仲間たちも。
そして、あの二人の救世主も。
まだ、何も知らずに笑っている。
未来ルーシィ「……お願い……」
少女は、夜空を見上げた。
未来ルーシィ「……今度こそ、みんなを守らせて……」
その声は、静かな夜風に溶けていった。
――未来を変えようとする、二人の来訪者。
その願いが同じものなのか。
それとも、まったく異なるものなのか。
まだ、誰も知らない。
ただ一つ、確かなことがあった。
未来ルーシィは、あの悲劇を繰り返させるつもりなどなかった。
たとえ、そのために自分の運命が変わるとしても。
彼女は、もう一度立ち上がる。
大切な仲間たちが笑っていられる未来を、取り戻すために。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。