妖精と聖剣使い   作:使い手なない

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第104話「妖精たちの怒り」

 

X791年。

 

 フィオーレ王国、王都クロッカス。

 

 大魔闘演武、開催四日目。

 

「「「うおおおおおおお!!!」」」

 

 巨大な闘技場、ドムス・フラウ。

 

 今日も観客席からは、割れんばかりの歓声が響き渡っていた。

 

『さああああ!! 大魔闘演武も、いよいよ四日目!!』

 

『三連覇中の絶対王者、妖精の尻尾!! 今年もAチーム、Bチーム共に素晴らしい活躍を見せております!!』

 

「「「妖精の尻尾ォォォ!!!」」」

 

 観客席が、大きく沸き立つ。

 

 そして。

 

「わああ! 今日もすごい盛り上がりですね!」

 

「ふふっ。皆さん、楽しそうですね」

 

 観客席の一角。

 

 イリス・アストレアとメイビス・ヴァーミリオンは、今日も並んで座っていた。

 

 イリスの手には、冷たい果実のジュース。

 

 メイビスの手には、焼きたてのアップルパイ。

 

 二人とも、すっかり観戦を満喫している。

 

「今日はルーシィさんも競技に参加するんですよね!」

 

「ええ。海戦という競技だそうですよ」

 

「楽しみですー!」

 

 メイビスが、嬉しそうに笑った。

 

 しかし。

 

 この日の大会が、妖精の尻尾にとって忘れられない一日になることを。

 

 二人は、まだ知らなかった。

 

◇

 

 第四競技。

 

『海戦(ナバルバトル)!!』

 

 闘技場の中央に、巨大な水球が出現する。

 

 参加者たちは、その内部で戦い、最後まで残った者が勝者となる。

 

 妖精の尻尾Aチームから参加したのは、ルーシィ・ハートフィリア。

 

 そして。

 

 剣咬の虎からは、ミネルバ・オーランドが参加していた。

 

「……あら」

 

 ミネルバが、ルーシィを見つめる。

 

「妖精の尻尾の星霊魔導士か」

 

「……!」

 

 ルーシィが、警戒するように身構えた。

 

 ミネルバ。

 

 前年の大会で、メイビスに一方的な敗北を喫した魔導士。

 

 その実力は、決して侮れるものではない。

 

「……負けないんだから!」

 

 ルーシィが、拳を握った。

 

 そして。

 

『競技開始ィィィ!!』

 

 巨大な水球の内部で、戦いが始まった。

 

 参加者たちは次々と魔法を放ち、相手を水球の外へ弾き飛ばしていく。

 

 ルーシィも負けてはいない。

 

「開け! 宝瓶宮の扉!!」

 

「アクエリアス!!」

 

 黄金の光と共に、水瓶を抱えた星霊が姿を現した。

 

「……また面倒なところに呼び出して!」

 

「お願い! 力を貸して!」

 

「ったく!」

 

 アクエリアスが、水瓶を傾ける。

 

 激流が水球の内部を駆け巡り、他の参加者たちを次々と押し流した。

 

『おおおおお!!』

 

『ルーシィ選手!! 素晴らしい攻撃です!!』

 

「やった!」

 

 ルーシィが、嬉しそうに笑う。

 

 しかし。

 

「……ふむ」

 

 ミネルバが、静かに手を掲げた。

 

 次の瞬間。

 

 空間が歪む。

 

「……っ!?」

 

 ルーシィの身体が、突然別の場所へ移動した。

 

「きゃあっ!?」

 

 直後。

 

 強烈な魔力が、彼女を襲う。

 

「……っ!」

 

 ルーシィは咄嗟に身体を捻り、攻撃をかわした。

 

「……ほう」

 

 ミネルバが、目を細める。

 

「今のを避けるか」

 

「……私だって!」

 

 ルーシィが、鍵を掲げる。

 

「ただ遊んでたわけじゃないんだから!」

 

 黄金の光。

 

 星霊との連携。

 

 そして、以前よりも洗練された魔力制御。

 

 ルーシィは、ミネルバの空間魔法に翻弄されながらも、冷静に反撃を続けた。

 

 やがて。

 

 他の参加者たちが脱落し、水球の内部に残ったのは二人だけとなった。

 

『残るは二人!!』

 

『妖精の尻尾、ルーシィ・ハートフィリア!!』

 

『剣咬の虎、ミネルバ・オーランド!!』

 

「「「うおおおおお!!!」」」

 

 観客席が、歓声に包まれた。

 

◇

 

「ルーシィさん、頑張ってますね!」

 

「ええ」

 

 イリスが、嬉しそうに微笑む。

 

「魔力の制御も、随分と上達しています」

 

「はい! 星霊さんたちとの連携も素晴らしいです!」

 

 二人は、ルーシィの成長を喜んでいた。

 

 しかし。

 

「……あのミネルバさん」

 

 イリスが、小さく呟く。

 

「少し、様子が変ですね」

 

「……ええ」

 

 メイビスも、静かに頷いた。

 

 ミネルバの視線。

 

 その奥にある、冷たい感情。

 

 彼女は、ただ勝利を目指しているだけではないようだった。

 

◇

 

「……なかなかやるではないか」

 

 ミネルバが、薄く笑った。

 

「だが、所詮はその程度よ」

 

「……っ!」

 

 ルーシィが、歯を食いしばる。

 

 空間が歪む。

 

 次の瞬間。

 

 ミネルバの攻撃が、ルーシィの脇腹を捉えた。

 

「がはっ……!」

 

 水中に、衝撃が広がる。

 

 しかし。

 

 ルーシィは倒れない。

 

「……まだよ!」

 

 星霊の鍵が輝く。

 

 次々と放たれる魔法。

 

 ミネルバの攻撃を防ぎながら、わずかな隙を突いて反撃する。

 

「……っ!」

 

 ついに。

 

 ルーシィの攻撃が、ミネルバの頬を掠めた。

 

「……!」

 

 ミネルバの表情が、変わる。

 

 その頬に、小さな傷。

 

「……貴様」

 

 低い声。

 

「……この私に、傷をつけたな?」

 

「……だから、何よ!」

 

 ルーシィが、息を切らしながら叫ぶ。

 

「私だって、妖精の尻尾の魔導士なんだから!」

 

「…………」

 

 ミネルバは、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……妖精の尻尾、か」

 

 その瞳に、暗い感情が宿る。

 

 前年。

 

 大勢の観客の前で、自分を一方的に打ち倒した金髪の少女。

 

 メイビス・ヴァーミリオン。

 

 あの屈辱を、忘れた日はない。

 

「……気に入らぬ」

 

 ミネルバが、静かに手を掲げた。

 

 空間が歪む。

 

 ルーシィの身体が、突然引き寄せられた。

 

「……っ!?」

 

 強烈な一撃。

 

「きゃああっ!!」

 

 ルーシィが、苦痛に顔を歪める。

 

 さらに。

 

 逃れる間もなく、次の攻撃が襲いかかった。

 

「……ぐっ!」

 

「どうした?」

 

 ミネルバが、冷たく笑う。

 

「妖精の尻尾の魔導士とは、その程度か?」

 

「……まだ……!」

 

 ルーシィが、震える手で鍵を握る。

 

 しかし。

 

 魔法を発動するよりも早く、空間が歪んだ。

 

「……っ!」

 

 強烈な衝撃。

 

 ルーシィの身体が、水球の内部を大きく吹き飛ばされる。

 

 すでに、勝負は決していた。

 

 それでも。

 

 ミネルバは、攻撃を止めなかった。

 

「……少しは、あの女の気分を味わわせてやろうか」

 

 冷たい声。

 

 そして。

 

「……っ、ああああっ!!」

 

 ルーシィの悲鳴が、闘技場に響き渡った。

 

◇

 

「……おい」

 

 妖精の尻尾の控え席。

 

 ナツが、ゆっくりと立ち上がった。

 

「……何やってんだ、あいつ」

 

 グレイの表情も険しい。

 

「……もう勝負は決まってんだろ」

 

 エルザは、拳を強く握っていた。

 

 そして。

 

 観客席。

 

「…………」

 

 イリスの笑顔が、消えていた。

 

 その隣。

 

 メイビスも、静かに試合を見つめている。

 

「……イリス」

 

「……はい」

 

 二人の声は、驚くほど落ち着いていた。

 

 しかし。

 

 その瞳には、明らかな怒りが宿っていた。

 

「……あの人は」

 

 イリスが、静かに呟く。

 

「勝つためではなく、ルーシィさんを傷つけるために戦っていますね」

 

「……はい」

 

 メイビスが、短く答える。

 

 普段は明るく、誰にでも笑顔を向ける初代マスター。

 

 しかし、今の彼女に笑顔はなかった。

 

「……私たちの大切な仲間なのに」

 

 その声には、静かな怒りが滲んでいた。

 

 そして。

 

 水球の内部で、ルーシィが力尽きる。

 

『……け、決着!!』

 

『勝者!! 剣咬の虎、ミネルバ・オーランド!!』

 

 歓声と、困惑の声。

 

 その中で。

 

 ミネルバは、傷だらけのルーシィを見下ろしていた。

 

「……ふん」

 

 やがて、競技終了と共にルーシィが救出される。

 

「ルーシィ!!」

 

 ナツたちが、駆け寄った。

 

 そして。

 

「……イリス」

 

「はい」

 

 メイビスが、静かに立ち上がる。

 

「行きましょう」

 

「……ええ」

 

 二人も、席を立った。

 

◇

 

「ルーシィ!!」

 

 控え室。

 

 ナツが、傷だらけの少女に駆け寄った。

 

「……ナツ……」

 

 ルーシィが、弱々しく目を開く。

 

「……ごめんね」

 

「……何言ってんだよ」

 

 ナツが、拳を握る。

 

「……お前は、よくやった」

 

「……うん……」

 

 その時。

 

「ルーシィさん」

 

 穏やかな声が響いた。

 

 イリスだった。

 

 その隣には、メイビスもいる。

 

「……イリス……さん……」

 

「無理に話さなくていいですよ」

 

 イリスが、優しく微笑んだ。

 

 そして、ルーシィの身体を傷つけないよう、そっと支える。

 

 ウェンディもすぐに治癒魔法を使い始めた。

 

「……大丈夫です。私が治します!」

 

「お願いしますね、ウェンディさん」

 

「はい!」

 

 メイビスは、ルーシィの手を優しく握った。

 

「ルーシィさん」

 

「……メイビス……さん……」

 

「とっても格好よかったですよ!」

 

「……え……?」

 

「最後まで諦めずに戦っていました!」

 

 メイビスが、にっこりと笑う。

 

「私、すごく嬉しかったです!」

 

「…………」

 

 ルーシィの瞳に、涙が浮かぶ。

 

「……でも……負けちゃって……」

 

「勝ち負けだけが、すべてではありませんよ」

 

 イリスが、穏やかに告げた。

 

「ルーシィさんがどれだけ成長したのか、私たちはちゃんと見ていました」

 

「……っ」

 

 ルーシィは、とうとう涙をこぼした。

 

「……ありがとう……ございます……」

 

 その様子を見て。

 

 ナツが、静かに立ち上がる。

 

「……次は、俺たちの番だ」

 

 その瞳には、炎のような闘志が宿っていた。

 

◇

 

『さああああ!!』

 

『続いての対戦は、こちらァァァ!!』

 

 ドムス・フラウ。

 

 観客席が、再び熱狂に包まれる。

 

『妖精の尻尾Aチーム、ナツ・ドラグニル!!』

 

『妖精の尻尾Bチーム、ガジル・レッドフォックス!!』

 

『対するは、剣咬の虎!!』

 

『スティング・ユークリフ!!』

 

『ローグ・チェーニ!!』

 

「「「うおおおおおお!!!」」」

 

 滅竜魔導士同士の対決。

 

 その組み合わせに、観客たちの期待が高まっていた。

 

「……へっ」

 

 ナツが、拳を鳴らす。

 

「ようやく俺の番か!」

 

「ギヒッ! 足引っ張んじゃねえぞ、火竜!」

 

 ガジルが、にやりと笑った。

 

「そりゃこっちの台詞だ!」

 

 対するスティングとローグ。

 

「……ようやく、あんたらと戦えるな」

 

 スティングが、笑う。

 

「楽しみにしてたぜ」

 

「……油断するな、スティング」

 

 ローグが、静かに告げる。

 

「相手は妖精の尻尾だ」

 

「わかってるって!」

 

 スティングが、拳を握った。

 

 その脳裏に浮かぶのは、前年の大会。

 

 黒髪の少女。

 

 イリス・アストレア。

 

 あまりにも圧倒的な実力差。

 

 自分の攻撃が、まるで通じなかった。

 

(……あの女は、別格だった)

 

 だが。

 

(……こいつらまで、そうだとは限らねえ!)

 

 スティングが、闘志を燃やす。

 

 そして。

 

『試合開始ィィィ!!』

 

◇

 

「白竜の咆哮!!」

 

「影竜の咆哮!!」

 

 白と黒。

 

 二つの強烈な魔力が、ナツとガジルへ襲いかかる。

 

「鉄竜の咆哮!!」

 

 ガジルが、正面から迎え撃つ。

 

 そして。

 

「火竜の……咆哮!!」

 

 ナツの炎が、闘技場を駆け抜けた。

 

 轟音。

 

 衝撃。

 

 四人の滅竜魔法が激突する。

 

「「「うおおおおお!!!」」」

 

 観客席が、大きく沸き立った。

 

 しかし。

 

「……へえ」

 

 ナツが、楽しそうに笑う。

 

「なかなかやるじゃねえか!」

 

「……っ!」

 

 スティングが、目を見開いた。

 

 自分の攻撃を受けても、ナツには余裕がある。

 

「……まだまだだぜ!」

 

 スティングが、拳を突き出す。

 

 白い魔力をまとった一撃。

 

 だが。

 

 ナツは、軽く身体を捻ってかわした。

 

「……遅え!」

 

 炎をまとった拳が、スティングの腹部を捉える。

 

「ぐはっ!!」

 

 スティングが、吹き飛んだ。

 

「……スティング!」

 

 ローグが、影の中へ潜る。

 

 そして、ナツの背後から襲いかかった。

 

 しかし。

 

「……そこだろ?」

 

「……っ!?」

 

 ナツが、振り向きざまに蹴りを放つ。

 

 ローグが、咄嗟に防御する。

 

 それでも、衝撃を殺しきれずに後退した。

 

「……なんだ、こいつ……!」

 

 スティングが、歯を食いしばる。

 

 ナツは、まだ本気を出していない。

 

 それが、はっきりとわかった。

 

◇

 

「わあああ!! ナツさん、すごいです!」

 

 観客席。

 

 メイビスが、嬉しそうに声を上げた。

 

「ええ」

 

 イリスも、満足そうに微笑む。

 

「以前よりも、ずっと動きが洗練されていますね」

 

「はい!」

 

 メイビスが、元気よく頷く。

 

「相手の魔力の流れも、よく見ています!」

 

「ふふっ。あのナツさんが、あんなに落ち着いて戦うなんて」

 

「成長しましたねー!」

 

 二人は、嬉しそうに笑った。

 

 もっとも。

 

 その評価は、長くは続かなかった。

 

◇

 

「……おい、ガジル!」

 

「あ?」

 

 ナツが、突然声をかける。

 

「ちょっとこっち来い!」

 

「……なんだよ」

 

 ガジルが、訝しげに近づく。

 

 そして。

 

「……よっと!」

 

「……は?」

 

 ナツが、ガジルを掴んだ。

 

 そのまま。

 

 近くにあった地下へ続くトロッコへ、勢いよく押し込む。

 

「……おい!?」

 

「悪いな、ガジル!」

 

 ナツが、にやりと笑う。

 

「こいつらは、俺一人で十分だ!」

 

「てめえええええ!!」

 

 ガジルの怒号。

 

 しかし。

 

 トロッコは、そのまま地下へ走り出した。

 

「ナツゥゥゥゥ!!」

 

 その声が、遠ざかっていく。

 

「…………」

 

 闘技場が、一瞬静まり返った。

 

 そして。

 

『な、なんということでしょう!!』

 

『ナツ選手!! 味方のガジル選手を、地下へ送り出してしまいましたァァァ!!』

 

「「「あはははははは!!!」」」

 

 観客席が、爆笑に包まれた。

 

◇

 

「…………」

 

 イリスが、ぽかんと口を開けていた。

 

「……メイビス」

 

「……はい」

 

「……今のは、何だったのでしょうか」

 

「……私にも、わかりません」

 

 二人は、しばらく黙り込む。

 

 そして。

 

「……ふふっ」

 

「……あははは!」

 

 とうとう、笑い出してしまった。

 

「ナツさんらしいですね!」

 

「ええ。本当に……」

 

 イリスが、困ったように微笑む。

 

「……ガジルさんには、あとで謝った方がよさそうですね」

 

「そうですねー!」

 

◇

 

「……ふざけやがって」

 

 スティングが、低く呟いた。

 

「俺たち二人を、一人で相手にするってのか?」

 

「……ああ」

 

 ナツが、笑う。

 

「その方が、面白えだろ?」

 

「……っ!」

 

 スティングの魔力が、一気に膨れ上がった。

 

 ローグも、静かに構える。

 

「……後悔するなよ」

 

 白い光。

 

 黒い影。

 

 二人の滅竜魔導士が、同時に襲いかかった。

 

 しかし。

 

「……へっ!」

 

 ナツが、拳を握る。

 

「来いよ!」

 

 炎が、燃え上がった。

 

 スティングの拳を受け流し、ローグの影をかわす。

 

 そして。

 

 炎をまとった拳が、二人を次々と捉えていく。

 

「ぐっ……!」

 

「……っ!」

 

 スティングとローグが、後退した。

 

「……なんでだよ……!」

 

 スティングが、歯を食いしばる。

 

「俺たちだって……!」

 

 さらに魔力を高める。

 

 白竜と影竜。

 

 二人の力が重なり、強烈な連携攻撃が放たれた。

 

 だが。

 

「……おおっ!」

 

 ナツが、楽しそうに笑った。

 

「今のは、なかなかいいじゃねえか!」

 

 その身体を、炎が包み込む。

 

「だったら……!」

 

 ナツが、大きく息を吸い込んだ。

 

「こっちも、少し本気でいくぜ!!」

 

 次の瞬間。

 

 凄まじい炎が、闘技場を駆け抜けた。

 

「……っ!?」

 

 スティングとローグが、目を見開く。

 

 防御する。

 

 しかし。

 

 その魔力を、ナツの炎が押し返していく。

 

「……うおおおおお!!」

 

 轟音。

 

 閃光。

 

 そして。

 

 二人の身体が、同時に吹き飛ばされた。

 

「ぐああああっ!!」

 

「……っ!!」

 

 闘技場の地面を、大きく転がる。

 

 やがて。

 

 静寂。

 

 スティングとローグは、立ち上がらなかった。

 

『……け、決着ゥゥゥ!!』

 

『勝者!! 妖精の尻尾!!』

 

『ナツ・ドラグニルゥゥゥ!!』

 

「「「うおおおおおおお!!!」」」

 

 闘技場が、割れんばかりの歓声に包まれた。

 

 その中心で。

 

「……ふぅ!」

 

 ナツが、軽く息を吐く。

 

 そして、にやりと笑った。

 

「……へっ!」

 

「まだまだだな!」

 

 その姿には、十分な余裕が残っていた。

 

◇

 

「……すごいですね」

 

 イリスが、嬉しそうに微笑んだ。

 

「はい!」

 

 メイビスも、満面の笑顔で頷く。

 

「ナツさん、本当に強くなりました!」

 

「ええ」

 

 イリスが、静かに頷く。

 

 かつて。

 

 幼い少年だったナツ。

 

 喧嘩ばかりして、ギルドの中を走り回っていた。

 

 そんな彼が。

 

 今では、王国屈指の魔導士たちを相手に、これほどの戦いを見せるようになった。

 

「……立派になりましたね」

 

「……はい!」

 

 メイビスが、嬉しそうに笑う。

 

 そして。

 

「でも……」

 

「……?」

 

「ガジルさん、どこまで行っちゃったんでしょう?」

 

「…………」

 

 イリスが、遠い目をした。

 

「……無事に戻ってくるといいですね」

 

「そうですねー!」

 

 二人は、顔を見合わせて笑った。

 

◇

 

 その頃。

 

 王都クロッカス。

 

 人通りの少ない路地裏。

 

「…………」

 

 一人の青年が、静かに立っていた。

 

 黒い髪。

 

 鋭い眼差し。

 

 未来からやってきたローグ・チェーニ。

 

 彼は、遠くから響く歓声に耳を傾けていた。

 

「……妖精の尻尾、か」

 

 その声には、複雑な感情が滲んでいた。

 

 この時代の妖精の尻尾は、強い。

 

 それも、彼が知る歴史以上に。

 

 そして。

 

 あの二人がいる。

 

 イリス・アストレア。

 

 メイビス・ヴァーミリオン。

 

 未来で世界を救った、二人の救世主。

 

「…………」

 

 青年は、静かに目を閉じた。

 

 脳裏に浮かぶのは、荒廃した未来。

 

 崩れ落ちた街。

 

 失われた命。

 

 そして。

 

 最後に、世界を救った二人の少女。

 

「……確かに、強い」

 

 青年が、小さく呟く。

 

「……だが」

 

 ゆっくりと、目を開く。

 

「……それだけでは、足りない」

 

 その瞳には、暗い決意が宿っていた。

 

 この時代なら。

 

 まだ、変えられる。

 

 少なくとも。

 

 彼が知る未来は、まだ訪れていない。

 

「……計画を、進めなければな」

 

 そう呟くと、青年は歩き出した。

 

 その胸に秘めた真意を、誰にも明かさないまま。

 

◇

 

 同じ頃。

 

 ドムス・フラウ。

 

「イリス!」

 

「はい?」

 

「今日も帰りに、スイーツのお店へ行きませんか!」

 

「ふふっ。もちろんです」

 

 イリスが、嬉しそうに微笑んだ。

 

「今日は、どんなお店にしましょうか」

 

「実はですね!」

 

 メイビスが、楽しそうに身を乗り出す。

 

「新しく見つけたお店があるんです!」

 

「……!」

 

 イリスの青と金の瞳が、ぱっと輝いた。

 

「それは楽しみですね!」

 

「はい!」

 

 二人は、嬉しそうに笑い合った。

 

 大魔闘演武、四日目。

 

 仲間を傷つけられた怒り。

 

 それを力に変えた、妖精の尻尾の勝利。

 

 そして。

 

 未来から訪れた、一人の魔導士。

 

 華やかな祭典の裏側で。

 

 運命の歯車は、静かに回り始めていた。

 

 ――まだ、誰も知らない。

 

 この王都に迫る、大きな嵐の存在を。

 




【こそこそ妖精話】

~未来から来た星霊魔導士~

 X791年。

 フィオーレ王国、王都クロッカス。

 夜。

 大魔闘演武の熱狂が冷めやらぬ王都の片隅。

 一人の少女が、薄暗い路地裏を歩いていた。

 金色の髪。

 傷だらけの身体。

 そして、疲れ切った表情。

 その少女の名は、ルーシィ・ハートフィリア。

 しかし。

 彼女は、この時代のルーシィではない。

 未来からやってきた、もう一人のルーシィだった。

未来ルーシィ「……ここが、七年前のクロッカス……」

 遠くから、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 賑やかな街並み。

 明るい店の灯り。

 幸せそうに歩く人々。

 その何気ない光景に、未来ルーシィは思わず足を止めた。

未来ルーシィ「……みんな、生きてる……」

 声が震える。

 彼女の知る未来では、この街も戦火に包まれていた。

 崩れ落ちた建物。

 炎に呑まれる街路。

 逃げ惑う人々。

 そして、数え切れないほどの犠牲者。

 あの光景を、忘れることなどできなかった。

未来ルーシィ「…………」

 少女は、静かに拳を握った。

 しかし。

 その絶望的な未来にも、希望はあった。

 イリス・アストレア。

 メイビス・ヴァーミリオン。

 妖精の尻尾を創設した、二人の少女。

 最後まで諦めずに戦い続け、世界を救った救世主たち。

 彼女たちのおかげで、世界は滅亡を免れた。

 だが。

 すべての人が救われたわけではない。

未来ルーシィ「……イリスさん……メイビスさん……」

 未来ルーシィは、二人の名前を小さく呟いた。

未来ルーシィ「……あなたたちが、世界を救ってくれたことは知ってる」

未来ルーシィ「……でも……」

 少女の瞳から、一粒の涙がこぼれた。

未来ルーシィ「……もっと早く、止められたなら……」

 失われた命は、戻らない。

 どれほど強い魔導士であっても、過ぎ去った悲劇をなかったことにはできない。

 だからこそ。

 彼女は、この時代へやってきた。

未来ルーシィ「……今度こそ……」

 涙を拭い、顔を上げる。

未来ルーシィ「……絶対に、間に合わせる」

 その瞳には、強い決意が宿っていた。

 この時代には、まだ希望がある。

 ナツも。

 仲間たちも。

 そして、あの二人の救世主も。

 まだ、何も知らずに笑っている。

未来ルーシィ「……お願い……」

 少女は、夜空を見上げた。

未来ルーシィ「……今度こそ、みんなを守らせて……」

 その声は、静かな夜風に溶けていった。

 ――未来を変えようとする、二人の来訪者。

 その願いが同じものなのか。

 それとも、まったく異なるものなのか。

 まだ、誰も知らない。

 ただ一つ、確かなことがあった。

 未来ルーシィは、あの悲劇を繰り返させるつもりなどなかった。

 たとえ、そのために自分の運命が変わるとしても。

 彼女は、もう一度立ち上がる。

 大切な仲間たちが笑っていられる未来を、取り戻すために。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。
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気まぐれで原初を育てたら溺愛されました(作者:礼夢)(原作:転生したらスライムだった件)

超能力者の私が偶然拾って世話をした卵が、▼まさかの原初の悪魔のもので…!?▼自由気ままに転スラ世界、満喫してやるぜ


総合評価:554/評価:8.38/連載:27話/更新日時:2026年11月05日(木) 17:07 小説情報

七海千秋(別人)のようこそ実力至上主義の教室へ。(作者:ろやる)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

これはスーパーダンガンロンパ2の七海千秋に転生しちゃった元男が、実力至上主義の教室でゲーム友達を増やしたり、たまに核心をついた発言をしてクラスにちょっとだけ貢献したり、親友となったとある少女や男子生徒とチェスをしたり、色々なゲームで遊びながら高校生活を駆け抜けていくお話。▼※注意▼・本編は無事に完結いたしました。▼・現在は番外編としてその後のちょっとしたお話…


総合評価:1115/評価:7.48/完結:15話/更新日時:2026年10月31日(土) 21:00 小説情報

FAIRY TAIL 才禍の怪物(作者:XAI)(原作:FAIRY TAIL)

フィオーレ王国。そこには数多くの魔導士ギルドが存在する。▼その中でも色んな意味でその名が広く知れ渡っているギルドがあった。▼妖精の尻尾、フェアリーテイル▼妖精には尻尾があるのか、ないのか。そんな永遠の謎故に永遠の冒険を求めるギルド。▼これはもしFAIRY TAILの世界にアルフィアみたいな才能の権化がいたらという物語▼


総合評価:832/評価:7.43/連載:11話/更新日時:2026年10月04日(日) 05:21 小説情報

レミリアのヒーロー社会生活(作者:玉藻黒酢)(原作:僕のヒーローアカデミア)

とある洋館で目覚めた主人公は、レミリア・スカーレットの姿・能力を持ちヒロアカ世界に転生する。▼前世の記憶もなく、原作知識ももちろんない主人公は、己の欲を満たすために個性社会を謳歌するために力を行使する。▼※レミリア以外の東方キャラは出す予定はございません。また、レミリアもレミリアに近しいものと化していると思うので、苦手な方はご注意下さい。▼それと、ここのレミ…


総合評価:73/評価:-.--/連載:2話/更新日時:2026年10月22日(木) 17:00 小説情報

TS鬼族の幼馴染は傲慢に堕ちる(作者:かしわくん)(原作:Re:ゼロから始める異世界生活)

前世でリゼロオタクだった青年は通り魔に刺されて死んでしまったが、リゼロ世界に鬼族として転生を果たす。そんな中で推しであるスバルに会うことを目標にするという話です!


総合評価:375/評価:7.27/連載:11話/更新日時:2026年09月23日(水) 11:20 小説情報


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