第一幕 魔法の先生
X686年――フィオーレ王国、マグノリア郊外。
午後の日差しが、森の小さな空き地に降り注いでいた。
「それじゃあ、まずは魔法の基本から話そうか」
「はい! よろしくお願いします!」
メイビスは元気よく返事をした。
その様子を見て、黒衣の青年――ゼレフは小さく笑った。
「……本当に元気な子だね」
「そうでしょうか?」
「ああ。少なくとも、僕の知っている魔法の弟子とは少し違うかな」
「お弟子さんがいたんですか?」
「……昔の話だよ」
ゼレフは、それ以上は語らなかった。
メイビスも、無理に尋ねようとはしない。
二人の間には、数歩以上の距離があった。
ゼレフが近づかないようにと告げたためだ。
メイビスはその約束を守り、少し離れた倒木に腰掛けている。
「さて、メイビス。君は魔法について、どこまで知っているんだい?」
「ええと……」
メイビスは少し考えた。
「魔法は、魔力を使ってさまざまな現象を起こす技術……ですよね?」
「そうだね」
「それから、魔力を扱うには、その性質や術式を理解する必要があると本に書いてありました!」
「ふむ……」
ゼレフは頷いた。
「間違ってはいない。ただ、魔法というものは、それだけでは説明できないんだ」
「……といいますと?」
「同じ魔力を持っていても、使い方によって起こせる現象は変わる。魔法の種類によっても、必要な知識や技術は異なるんだよ」
「なるほど……!」
メイビスは目を輝かせた。
「では、魔力の量が多いからといって、必ずしも強力な魔法を使えるわけではないんですね!」
「そのとおり」
「魔力をどう扱うかが重要……ということですか?」
「……うん」
ゼレフは少し驚いたように目を瞬かせた。
「理解が早いね」
「本当ですか!?」
「ああ。普通なら、もう少し説明が必要なところなんだけど」
「えへへ……!」
メイビスは嬉しそうに笑った。
それから、ふと思い出したように口を開く。
「そういえば、私の友達にも魔法がとっても得意な人がいるんです!」
「……友達?」
「はい! イリスさんという方なんですけど、すごく強くて、いろんな魔法を使えるんですよ!」
「そうなんだ」
「ただ……」
メイビスは少し困ったように笑った。
「魔法を教えてもらおうとしたら、私が知らない感覚的な表現が多くて……」
「……なるほど」
ゼレフは小さく頷いた。
「魔法を使う才能と、それを教える才能は、必ずしも同じではないからね」
「はい。でも、イリスさんの魔法は私たちの世界のものとは違うそうなので、それも理由だと思うんです!」
「……異なる世界の魔法?」
「はい!」
ゼレフはわずかに興味を示した。
しかし、すぐに話を戻す。
「……そうか。なら、なおさら君自身がこの世界の魔法を理解することが大切だね」
「はい!」
メイビスは真剣な表情で頷いた。
ゼレフは、そんな少女を見つめた。
好奇心に満ちた瞳。
知識を吸収しようとする姿勢。
そして、理解したことをすぐに自分の言葉で説明できる思考力。
(……この子は)
ゼレフは心の中で呟いた。
(……本当に、才能がある)
それも、ただ魔法を覚えるだけの才能ではない。
物事の本質を見抜き、自分なりに理解する力。
魔導士として、非常に重要な資質だった。
「……メイビス」
「はい!」
「少し、実際に魔力を扱ってみようか」
「……!」
メイビスの顔がぱっと明るくなった。
「はいっ!」
――――――――――
第二幕 初めての魔法
「まずは、魔力を感じ取ることから始めよう」
ゼレフは静かに言った。
「魔法を使おうとする前に、自分の内側にある力を意識するんだ」
「自分の内側……」
「そう。目を閉じて、意識を集中してごらん」
「はい!」
メイビスは素直に目を閉じた。
森の中に、静かな時間が流れる。
風が木々を揺らし、葉の擦れる音が響いた。
遠くでは、鳥が鳴いている。
メイビスはゆっくりと呼吸を整えた。
(……魔力)
自分の中にある、不思議な力。
これまで本の中でしか理解していなかったもの。
それを、実際に感じ取ろうとする。
しかし。
「……うーん」
しばらくして、メイビスは目を開けた。
「……よく分かりません」
「最初から分からなくても大丈夫だよ」
ゼレフは穏やかに答えた。
「焦る必要はない。まずは、余計なことを考えずに集中するんだ」
「……余計なこと」
「そう。魔法を成功させようとすることばかり考えていると、かえって難しくなることもある」
「なるほど……!」
メイビスはもう一度、目を閉じた。
今度は、魔法を使おうとは考えない。
ただ、自分の内側に意識を向ける。
呼吸。
鼓動。
身体の奥にある、まだ知らない感覚。
(……あれ?)
ほんのわずかに。
何かが、そこにあるような気がした。
温かいような。
けれど、熱とは違う。
水が流れるような。
それでいて、水とも違う。
「……ゼレフさん」
「どうしたんだい?」
「何となく……何かがあるような気がします」
「……どんな感じかな?」
「ええと……」
メイビスは言葉を探した。
「身体の奥で、何かがゆっくり動いているような……」
ゼレフは目を細めた。
「……うん。それでいい」
「本当ですか!?」
「ああ。今は、その感覚を忘れないことが大切だよ」
「はい!」
メイビスは嬉しそうに頷いた。
そして、再び目を閉じる。
今度は先ほどよりも、少しだけ感覚をつかみやすかった。
自分の内側にある力。
それが、意識を向けることでわずかに動く。
(……これが、魔力……!)
胸の奥が高鳴った。
初めて本を読んだとき。
知らない世界の知識に触れたとき。
新しい発見をしたとき。
そんな瞬間に似た、心が弾むような感覚だった。
「……ふふっ」
思わず笑みがこぼれる。
「楽しそうだね」
ゼレフが尋ねた。
「はい!」
メイビスは目を開けた。
「とっても楽しいです!」
「……そう」
「今まで本で読んでいたことが、少しだけ分かった気がするんです!」
メイビスは両手を胸の前で握りしめた。
「魔法って、本当に不思議ですね!」
「……ああ」
ゼレフは静かに頷いた。
「そうだね」
その声は、どこか懐かしそうだった。
かつて、自分もそうだった。
魔法の仕組みを知ることが楽しくて。
新しい術式を考えることに夢中になって。
未知の可能性を見つけるたびに、胸を躍らせていた。
けれど、いつからだろう。
魔法が、自分にとって喜びだけをもたらすものではなくなったのは。
「……ゼレフさん?」
メイビスの声に、青年は我に返った。
「……ああ、ごめん。少し考え事をしていたよ」
「大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫」
ゼレフは小さく微笑んだ。
「今日は、もう一つだけ試してみようか」
「はい!」
「今感じた魔力を、ほんの少しだけ手のひらへ集めるつもりで意識してごらん」
「手のひらに……」
メイビスは片手を前に出した。
そして、目を閉じる。
先ほど感じた力を思い出す。
身体の奥にある、小さな流れ。
それを、少しずつ動かしていく。
「……むむむ」
しかし、うまくいかない。
意識を集中させると、かえって感覚が曖昧になってしまう。
「……難しいです」
「無理に動かそうとしなくていいよ」
「はい……!」
メイビスは深呼吸した。
そして、もう一度。
(……ゆっくり)
先ほどの感覚を思い出す。
力を押し出すのではなく。
流れを確かめるように。
すると。
「……あっ」
手のひらに、かすかな温かさが生まれた。
ほんの一瞬。
けれど、確かに。
自分の意識に応じて、何かが動いた。
「……ゼレフさん!」
「うん」
ゼレフは微笑んだ。
「今の感覚を覚えておくといい」
「……できたんでしょうか?」
「まだ魔法を発動したわけではないけれどね」
ゼレフは優しく答えた。
「でも、魔力を扱うための大切な一歩だよ」
「……!」
メイビスは、自分の手のひらを見つめた。
そこには、何もない。
光も。
炎も。
風も。
けれど。
確かに、何かが変わった気がした。
「……私にも」
メイビスは小さく呟いた。
「私にも、魔法が使えるようになるんですね」
「もちろん」
ゼレフは頷いた。
「君なら、きっとね」
その言葉に、メイビスは満面の笑みを浮かべた。
――――――――――
第三幕 孤独な魔導士
それからしばらく。
二人は魔法について、さまざまな話をした。
魔力の性質。
魔法の種類。
術式の考え方。
そして、魔法を扱ううえで大切なこと。
メイビスは次々と質問を重ねた。
ゼレフも、それに一つずつ答えていく。
「では、魔法の仕組みを理解していれば、新しい魔法を考えることもできるんですか?」
「理論上は可能だよ。ただし、実際に完成させるには多くの知識と経験が必要になる」
「なるほど……!」
「それに、魔法は必ずしも思いどおりの結果を生むとは限らない」
「……失敗することもあるんですね」
「ああ」
ゼレフは静かに頷いた。
「時には、取り返しのつかない結果を招くこともある」
「…………」
その言葉には、どこか重みがあった。
メイビスはゼレフを見つめた。
黒い衣服。
穏やかな声。
魔法について語るときの、深い知識。
けれど、ときおり見せる寂しそうな表情。
「……ゼレフさん」
「何だい?」
「ゼレフさんは、魔法が好きなんですか?」
「…………」
青年は、すぐには答えなかった。
木々の間を、風が吹き抜ける。
しばらくして。
「……昔は、好きだったよ」
ゼレフは静かに答えた。
「……昔は?」
「ああ」
彼は自分の手を見つめた。
「今は……少し、分からないかな」
「…………」
メイビスは、それ以上尋ねなかった。
誰にだって、話したくないことはある。
自分にも、そういう思い出があるから。
ただ、ゼレフの表情を見ていると。
なぜだか、胸の奥が少しだけ痛んだ。
そのときだった。
がさり。
近くの茂みが揺れた。
「……あれ?」
メイビスが振り向く。
茂みの向こうから、一匹の小さな野兎が姿を現した。
「わあ……!」
メイビスの顔がほころぶ。
「可愛いですね!」
野兎は周囲を見回しながら、草の上を跳ねていた。
しかし。
「……っ!」
ゼレフの表情が、突然強張った。
「……メイビス」
「はい?」
「そこから動かないで」
先ほどまでとは違う、緊張した声。
メイビスは思わず姿勢を正した。
「……ゼレフさん?」
ゼレフは野兎を見つめていた。
その瞳には、明らかな恐怖が浮かんでいる。
彼は一歩、後ろへ下がった。
さらに一歩。
野兎から距離を取るように。
「……お願いだ」
小さな声が漏れた。
「……こっちへ来ないでくれ」
メイビスは息を呑んだ。
ゼレフが何を恐れているのか、分からなかった。
けれど。
彼が、野兎を傷つけたくないと思っていることだけは伝わってきた。
やがて、野兎は草を食みながら、森の奥へと跳ねていった。
ゼレフは、その姿が見えなくなるまで動かなかった。
「…………」
長い沈黙。
そして。
「……ごめんね」
ゼレフが呟いた。
「……どうして謝るんですか?」
「……君を驚かせてしまったから」
「確かに、少しびっくりしましたけど……」
メイビスは首を傾げた。
「ゼレフさん、あの子が心配だったんですよね?」
「…………!」
ゼレフは目を見開いた。
「……どうして、そう思うんだい?」
「だって」
メイビスは柔らかく微笑んだ。
「ゼレフさん、とても悲しそうな顔をしていましたから」
「…………」
ゼレフは何も言えなかった。
目の前の少女は、まだ何も知らない。
自分にかけられた呪いも。
これまで奪ってしまった生命も。
自分が、どれほど危険な存在なのかも。
それでも。
彼女は、自分の恐怖の奥にある気持ちを見ようとしていた。
「……メイビス」
「はい」
「……僕には、あまり近づかない方がいい」
ゼレフは静かに告げた。
「最初にも言ったけれど、僕のそばにいると危険なんだ」
「……はい」
メイビスは頷いた。
「分かりました」
「…………」
「でも、お話をするくらいなら、こうして離れていてもできますよね?」
「……君は」
ゼレフは困ったように笑った。
「本当に、不思議な子だね」
「ふふっ。また言われちゃいました!」
メイビスは楽しそうに笑った。
ゼレフも、つられるように小さく笑う。
ほんの短い時間。
けれど。
彼にとって、それは久しく忘れていた穏やかな時間だった。
――――――――――
終幕 また明日
やがて、森に差し込む日差しが傾き始めた。
「あっ……!」
メイビスが空を見上げる。
「そろそろ帰らないと!」
「……そうだね」
ゼレフも空を見上げた。
「もうすぐ夕方になる」
「イリスさんに、日が暮れる前には戻るって約束したんです!」
「……そうなんだ」
「はい!」
メイビスは立ち上がった。
そして、ゼレフに向かって深く頭を下げる。
「今日は、本当にありがとうございました!」
「……いや」
ゼレフは静かに首を振った。
「僕も、久しぶりに楽しかったよ」
「……!」
メイビスは顔を上げた。
「本当ですか!?」
「ああ」
ゼレフは微笑んだ。
「君は、教えていて面白い子だね」
「えへへ……!」
メイビスは照れくさそうに笑った。
それから、少しだけ迷って口を開く。
「……あの、ゼレフさん」
「何だい?」
「また、魔法を教えていただけませんか?」
「…………」
ゼレフの表情が曇った。
彼は、周囲の木々を見つめた。
緑の葉。
柔らかな草。
そして、その向こうに広がる、生命を失った森。
「……メイビス」
ゼレフは静かに言った。
「本当は、もうここへ来ない方がいい」
「…………」
「僕と関わることは、君にとって危険なんだ」
その声には、迷いがあった。
メイビスは、しばらくゼレフを見つめた。
そして。
「……それでも」
静かに口を開いた。
「私は、もっと魔法を学びたいです」
「…………」
「今日、少しだけ魔力を感じることができました」
メイビスは、自分の手のひらを見つめた。
「まだ何もできませんけど……でも、とっても嬉しかったんです」
そして、顔を上げる。
「いつか、私も大切な人たちを守れるようになりたい」
その瞳には、強い決意が宿っていた。
ゼレフは黙って彼女を見つめていた。
彼女の願いは、純粋だった。
誰かを傷つけるためではなく。
誰かを守るために、力を求めている。
「……分かった」
やがて、ゼレフは小さく頷いた。
「……!」
「ただし、約束は守ってほしい」
「近づかないこと、ですよね!」
「それだけじゃない」
ゼレフは真剣な表情で続けた。
「僕が離れるように言ったら、理由を聞かずに離れること。少しでも危険を感じたら、すぐに帰ること」
「……はい!」
メイビスはしっかりと頷いた。
「約束します!」
ゼレフは、そんな彼女を見つめていた。
危険が消えたわけではない。
この約束だけで、安全が保証されるわけでもない。
それでも。
ほんの少しだけ。
もう一度、誰かと話してみたいと思ってしまった。
「……それじゃあ」
ゼレフは静かに微笑んだ。
「また、明日」
「はい!」
メイビスは満面の笑みを浮かべた。
「また明日です、ゼレフさん!」
そして、森の出口へ向かって歩き始める。
途中で一度だけ振り返り、大きく手を振った。
ゼレフも、小さく手を上げる。
少女の姿が木々の向こうへ消えるまで、彼はその場に立っていた。
「……また、明日……か」
ぽつりと呟く。
その言葉を口にしたのは、いつ以来だろう。
明日、誰かに会う。
そんな当たり前の約束さえ、長い間、自分には縁のないものだった。
ゼレフは、静かに目を閉じた。
胸の奥に生まれた、小さな温もり。
それを、失いたくないと思ってしまう自分がいた。
けれど。
その感情こそが、何より恐ろしかった。
「……僕は」
青年は小さく呟いた。
「……どうすればいいんだろうね」
返事をする者は、誰もいなかった。
――――――――――
マグノリアの診療所。
「ただいま戻りました!」
元気な声とともに、扉が開いた。
「おかえりなさい、メイビスさん」
イリスが笑顔で迎える。
「日が暮れる前に戻ってきましたね」
「はい! 約束しましたから!」
「ふふっ。偉いですね」
「……お前、何だか機嫌いいな?」
寝台からユーリが声をかけた。
「何か面白いものでも見つけたのか?」
「はい!」
メイビスは嬉しそうに頷いた。
「とっても不思議な先生に出会ったんです!」
「……先生?」
プレヒトが本から顔を上げる。
「森でか?」
「はい!」
「……怪しいな」
「怪しくありませんよ!」
メイビスは頬を膨らませた。
ウォーロッドが苦笑する。
「でも、森の中で出会った方なんですよね?」
「そうです!」
「……大丈夫だったんですか?」
「はい! ちゃんと距離を取ってお話ししました!」
「距離?」
イリスが首を傾げた。
「その方から、近づかないように言われたんですか?」
「はい。自分のそばは危険だからって」
「…………」
イリスの表情が、少しだけ真剣になった。
「……それは、少し気になりますね」
「でも、ゼレフさんはとっても優しい方でしたよ!」
「……ゼレフさん?」
「はい! 魔法について、いろいろ教えてくださったんです!」
メイビスは嬉しそうに続けた。
「今日、初めて自分の魔力を感じることができたんですよ!」
「……!」
イリスの顔が明るくなった。
「本当ですか?」
「はい!」
「それは、すごいですね!」
イリスは心から嬉しそうに微笑んだ。
「おめでとうございます、メイビスさん」
「ありがとうございます!」
メイビスは照れくさそうに笑った。
その様子を見て、ユーリも口元を緩める。
「へえ! やるじゃねぇか!」
「まだ魔法を使えたわけじゃないんですけどね!」
「最初はそんなもんだろ!」
ウォーロッドも微笑んだ。
「でも、良かったですね。メイビス」
「はい!」
プレヒトは腕を組んだ。
「……しかし、その男については少し注意した方がいいな」
「……そうですね」
イリスも頷いた。
「メイビスさん。魔法を学ぶことは素敵ですが、危険だと言われたことを軽く考えてはいけませんよ」
「……はい」
メイビスは真剣な表情で頷いた。
「分かっています」
イリスは少し考えた。
以前、自分が調べた森。
生命を失った木々。
異質な魔力の残滓。
そして、その近くにいたという青年。
(……気になることはありますが)
メイビスが出会った人物について、まだ分からないことは多い。
ただ、少なくとも彼女は無事に帰ってきた。
それに、メイビス自身も危険を理解しているようだった。
「……何かあれば、必ず相談してくださいね」
「はい!」
メイビスは元気よく答えた。
イリスは微笑んだ。
その笑顔を見て、メイビスも嬉しそうに笑う。
窓の外では、夕焼けが街を染め始めていた。
傷ついた仲間たち。
まだ倒すことのできないブルースカル。
そして、森で出会った不思議な青年。
問題は、何一つ解決していない。
それでも。
メイビスは、確かに一歩を踏み出した。
大切な人たちを守るために。
自分自身の力で、未来を切り開くために。
その小さな一歩が、やがてどれほど大きな運命につながっていくのか。
今はまだ、誰も知らなかった。
――第12話 完――
【こそこそ妖精話】
ゼーラ「それで? 魔法の勉強はどうだったの?」
メイビス「とっても楽しかったですよ! ゼレフさんは本当に物知りなんです!」
ゼーラ「へえ。それで、魔法は使えるようになったの?」
メイビス「まだです!」
ゼーラ「……即答ね」
メイビス「でも、自分の魔力を感じることができたんですよ!」
ゼーラ「それはすごいじゃない!」
メイビス「えへへ! それに、魔力を手のひらに集める感覚も少しだけつかめたんです!」
ゼーラ「へえ……じゃあ、ちょっとやってみてよ!」
メイビス「分かりました! 見ていてくださいね!」
ゼーラ「うんうん!」
メイビス「…………むむむむ」
ゼーラ「…………」
メイビス「…………むむむむむむ!」
ゼーラ「…………」
メイビス「…………あれ?」
ゼーラ「……何も起きないわね」
メイビス「お、おかしいですね……。森では確かにできたんですけど……」
ゼーラ「ふふっ。まだまだ修行が必要みたいね」
メイビス「むぅ……! もう一回です!」
ゼーラ「はいはい。頑張ってね」
メイビス「…………むむむむむ!」
ゼーラ「…………ねえ、メイビス」
メイビス「何ですか!? 今、集中してるんです!」
ゼーラ「……顔に力を入れても、魔力は増えないと思うわよ?」
メイビス「そ、そんなこと分かってますー!」
ゼーラ「本当かしら?」
メイビス「本当です!」
ゼーラ「……じゃあ、どうしてそんなにほっぺた膨らませてるの?」
メイビス「これは集中してるんです!」
ゼーラ「……ふふっ。はいはい」
メイビス「もう! ゼーラったら!」
ゼーラ「でも、良かったじゃない。少しずつ前に進んでるんだから」
メイビス「……はい!」
ゼーラ「きっと、すぐに魔法が使えるようになるわよ」
メイビス「ありがとうございます、ゼーラ!」
ゼーラ「……それで、明日も森に行くの?」
メイビス「もちろんです! 次こそ魔法を成功させてみせます!」
ゼーラ「……あの黒い服の人には、ちゃんと気をつけなさいよ?」
メイビス「はい! 約束は守ります!」
ゼーラ「ならいいけど……」
メイビス「それでは、もう一回!」
ゼーラ「えっ、まだやるの?」
メイビス「はい! 今度こそ!」
ゼーラ「……ほどほどにしなさいよ?」
メイビス「…………むむむむむむむむ!」
ゼーラ「……だから、顔に力を入れすぎだってば!」
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。