妖精と聖剣使い   作:使い手なない

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第18話「四人の挑戦」

 

第一幕 聖剣使いの実力

 

 マグノリアの街から少し離れた森。

 

 木々に囲まれた開けた場所に、五人の姿があった。

 

「……本当に、四人まとめて相手をしてくださるんですか?」

 

 メイビスが尋ねると、イリスは穏やかに頷いた。

 

「はい。皆さんも魔法を使えるようになってきましたし、そろそろ実戦を意識した訓練をしてみましょう」

 

「へへっ、待ってたぜ!」

 

 ユーリが拳を打ち合わせる。

 

「相手がイリスでも、簡単には負けねえからな!」

 

「……その自信はどこから来るんだ?」

 

 プレヒトが呆れたように言った。

 

「やる前から弱気でどうすんだよ!」

 

「ははっ。ユーリらしいね」

 

 ウォーロッドが笑う。

 

 イリスはそんな四人を見つめ、左腰の聖剣を鞘ごと外した。

 

 少し離れた木の根元に置く。

 

「私は聖剣も魔法も使いません。魔力による身体強化もなしです」

 

「……それで四人を相手にするのか?」

 

 プレヒトが眉を上げた。

 

「はい。体術だけでお相手します」

 

「なめられたもんだな!」

 

 ユーリは笑った。

 

 だが、イリスは首を横に振る。

 

「そんなつもりはありませんよ。皆さんの魔法が、実際の戦闘でどこまで通用するのかを確かめたいんです」

 

 そして、少しだけ表情を引き締めた。

 

「ただし、私も逃げているだけではありません。隙があれば反撃しますので、気をつけてくださいね」

 

「望むところだ!」

 

 ユーリが前へ出る。

 

 その後ろで、プレヒトとウォーロッドが構えた。

 

 メイビスは少し離れた位置から、四人とイリスの距離を確かめる。

 

「それでは……始めましょう」

 

 イリスが告げた。

 

 最初に動いたのは、やはりユーリだった。

 

「おらあっ!」

 

 拳に青白い雷が走る。

 

 ユーリは地面を蹴り、一気に間合いを詰めた。

 

 狙うのはイリスの正面。

 

 雷をまとった拳を、そのまま突き出す。

 

 しかし。

 

「……っ!?」

 

 拳は空を切った。

 

 イリスは半歩だけ横へ移動し、攻撃をかわしていた。

 

 さらに、伸びきったユーリの腕を軽く押す。

 

「うおっ!?」

 

 勢いを崩されたユーリが、前のめりになる。

 

 イリスはその背中に手を添えた。

 

「一人目ですね」

 

「まだだ!」

 

 ユーリは振り返ろうとした。

 

 だが、その前に足を払われ、草の上へ転がった。

 

「ぐえっ!」

 

「ユーリ!」

 

 ウォーロッドが声を上げる。

 

「僕が!」

 

 地面へ手を向けると、足元から蔓が伸びた。

 

 イリスの足首を狙って、左右から絡みつこうとする。

 

「なるほど」

 

 イリスは小さく頷いた。

 

 だが、蔓が届くよりも早く、前へ踏み出す。

 

「えっ!?」

 

 ウォーロッドの目が見開かれた。

 

 蔓が伸びる先には、もうイリスがいない。

 

 彼女は一瞬で間合いを詰め、ウォーロッドの肩に手を置いていた。

 

「二人目です」

 

「は、速い……!」

 

 ウォーロッドは思わず両手を上げた。

 

「……なら!」

 

 プレヒトが片手を突き出す。

 

 掌の前に、小さな魔力の球が現れた。

 

 それが勢いよく放たれる。

 

 イリスは身体を傾けてかわした。

 

 続けて二発目。

 

 三発目。

 

 しかし、どれも当たらない。

 

「くっ……!」

 

 プレヒトは歯を食いしばった。

 

 攻撃の軌道を変えても、イリスは最小限の動きで避けてしまう。

 

 そして。

 

「プレヒトさん」

 

「……っ!」

 

 いつの間にか、イリスが目の前にいた。

 

 手首を軽く押さえられる。

 

「魔法を放つことに集中しすぎています。相手が近づいてくることも考えないと」

 

「……分かった」

 

 プレヒトは悔しそうに頷いた。

 

 残るはメイビス。

 

「……では、私も!」

 

 メイビスの姿が、ふっと揺らいだ。

 

 次の瞬間、少女の姿が二つに分かれる。

 

 片方が右へ。

 

 もう片方が左へ。

 

「どちらが本物か、分かりますか?」

 

 メイビスが微笑んだ。

 

 イリスは金色の瞳を細める。

 

 幻影を形作る魔力の流れが、淡くきらめいて見えた。

 

「……こちらですね」

 

「わっ!?」

 

 イリスは迷わず、本物のメイビスへ歩み寄った。

 

「やっぱり、イリスさんには分かっちゃうんですね……」

 

「魔力の流れが見えますから。でも、幻影そのものはとても上手ですよ」

 

 メイビスは苦笑した。

 

「ありがとうございます。でも……」

 

 周囲を見回す。

 

 草の上に座り込むユーリ。

 

 悔しそうなプレヒト。

 

 肩を落としたウォーロッド。

 

「……全然、駄目でしたね」

 

「くそーっ!」

 

 ユーリが地面を叩いた。

 

「一発も当たらねえ!」

 

「当然だろう」

 

 プレヒトがため息をつく。

 

「今の俺たちは、ただ順番に攻撃しただけだ」

 

 その言葉に、メイビスが顔を上げた。

 

「……そうですね」

 

 そして、イリスへ向き直る。

 

「イリスさん。少しだけ、作戦を考える時間をいただけますか?」

 

「もちろんです」

 

 イリスは微笑んだ。

 

「皆さんで相談してみてください」

 

――――――――――

 

第二幕 四人の連携

 

「まず、今のままでは勝てません」

 

 メイビスは、はっきりと言った。

 

「分かってるよ!」

 

 ユーリが不満そうに答える。

 

「でも、俺たちだって魔法を使えるようになったんだぜ?」

 

「はい。だからこそ、使い方を考えるんです」

 

 メイビスは地面に小枝で線を引いた。

 

 中央に一つの丸。

 

 その周囲に四つの小さな丸を描く。

 

「イリスさんは、私たちの攻撃を見てからでも避けられます。それに、近づかれたら反撃を防げません」

 

「……その通りだな」

 

 プレヒトが頷く。

 

「なら、近づかせないようにするしかない」

 

「そうです」

 

 メイビスはウォーロッドを見る。

 

「ウォーロッドさん。蔓を伸ばすとき、相手を直接捕まえることだけを考えなくてもいいと思うんです」

 

「……というと?」

 

「相手が逃げそうな場所を塞ぐんです」

 

「ああ、なるほど!」

 

 ウォーロッドが手を打った。

 

「それなら、無理に捕まえなくても役に立てるね」

 

「はい。そしてプレヒトさんは、イリスさんが避けた先を狙ってください」

 

「……だが、魔力球では間に合わないかもしれないぞ」

 

「それなら、球以外の形にはできませんか?」

 

 プレヒトは少し考え込んだ。

 

「……棒状にはできる。まだ長くは保てないが」

 

「それを、もっと細く、長く伸ばせたら……」

 

「……拘束か」

 

 プレヒトの目が鋭くなった。

 

「試してみる価値はあるな」

 

「俺はどうすればいい?」

 

 ユーリが身を乗り出す。

 

「ユーリさんには、最後に攻撃してほしいんです」

 

「最後?」

 

「はい。最初に飛び込むと、イリスさんに簡単にかわされてしまいますから」

 

「うっ……」

 

 先ほどの失敗を思い出したのか、ユーリが顔をしかめる。

 

「……分かったよ」

 

「それと、拳に雷をまとわせることはできますよね?」

 

「おう!」

 

 ユーリは拳を握った。

 

 青白い雷が、小さく弾ける。

 

「まだ長くは保たねえけどな」

 

「十分です。相手が動けなくなった瞬間に使いましょう」

 

 最後に、メイビスは自分の胸へ手を当てた。

 

「私は幻影でイリスさんの注意を逸らします。それと、皆さんの位置を見ながら指示を出します」

 

「……なるほど」

 

 プレヒトが小さく笑った。

 

「ようやく、四人で戦う形になってきたな」

 

「だね!」

 

 ウォーロッドも頷く。

 

 ユーリは拳を打ち合わせた。

 

「よし! 今度こそ一発当ててやろうぜ!」

 

     ◇

 

「相談は終わりましたか?」

 

 少し離れた場所で待っていたイリスが尋ねた。

 

「はい!」

 

 メイビスが元気よく答える。

 

「もう一度、お願いします!」

 

「分かりました」

 

 イリスは静かに構えた。

 

「では、どうぞ」

 

 最初に動いたのはウォーロッドだった。

 

「それっ!」

 

 地面から伸びた蔓が、イリスの左右へ広がる。

 

 今度は足首を直接狙わない。

 

 逃げ道を塞ぐように、地面を這って伸びていく。

 

「……なるほど」

 

 イリスが小さく呟いた。

 

 その瞬間。

 

「プレヒトさん!」

 

「分かっている!」

 

 魔力球が放たれる。

 

 正面から迫る攻撃。

 

 イリスは右へ避けようとした。

 

 だが、そこには蔓が伸びている。

 

 ならば左へ。

 

 しかし、左側にも別の蔓。

 

「……っ」

 

 イリスは前へ踏み出した。

 

 攻撃をかわすと同時に、ウォーロッドへ接近する。

 

「わっ!?」

 

 ウォーロッドが慌てた。

 

「ユーリさん、待って!」

 

「えっ!?」

 

 メイビスの声が響く。

 

 ユーリはすでに、ウォーロッドを助けようと駆け出していた。

 

 だが、その進路にはプレヒトがいる。

 

「おい、こっちへ来るな!」

 

「うわっ!?」

 

 慌てて足を止めるユーリ。

 

 その一瞬の混乱を、イリスは見逃さなかった。

 

 ウォーロッドの肩に軽く触れ、次にプレヒトの手首を押さえる。

 

 そして、体勢を崩したユーリの足を払った。

 

「うおおっ!?」

 

 三人が次々と草の上へ転がった。

 

「……あっ」

 

 メイビスが声を漏らした。

 

 イリスは微笑んだ。

 

「作戦は良くなっています。でも、仲間同士の位置も考えないといけませんね」

 

「……はい」

 

 メイビスは真剣に頷いた。

 

「もう一度、お願いします!」

 

     ◇

 

 それから、何度か攻防を繰り返した。

 

 ウォーロッドは蔓を伸ばす場所を変えた。

 

 プレヒトは魔力球を放つタイミングを工夫した。

 

 ユーリは、むやみに飛び込まなくなった。

 

 そしてメイビスは、仲間たちの位置を確認しながら指示を出すようになった。

 

「ユーリさん、右です!」

 

「おう!」

 

「ウォーロッドさん、そこを塞いでください!」

 

「分かった!」

 

 蔓が伸びる。

 

 魔力球が飛ぶ。

 

 ユーリが雷をまとった拳で牽制する。

 

 イリスはそれらを避けながら、少しずつ表情を引き締めていった。

 

(……良いですね)

 

 まだ魔法の扱いは拙い。

 

 動きもぎこちない。

 

 だが、最初とは明らかに違っていた。

 

 四人が、それぞれの役割を理解し始めている。

 

 そして。

 

「――今です!」

 

 メイビスの声と同時に、複数の鳥が舞い上がった。

 

 幻影の鳥たちが、イリスの周囲を飛び交う。

 

 イリスには、魔力の流れが見えていた。

 

 幻影だと分かっている。

 

 だが、その向こうから迫る蔓と魔力球を同時に警戒しなければならない。

 

 イリスは一歩、後ろへ下がった。

 

「……っ!」

 

 その足元へ、蔓が伸びる。

 

 イリスは軽く跳び上がった。

 

 しかし、着地しようとした場所には、プレヒトの魔力球が迫っていた。

 

「……なるほど!」

 

 イリスは身体を捻り、魔力球をかわす。

 

 その瞬間。

 

「――そこだ!」

 

 ユーリが飛び込んだ。

 

 拳に雷が走る。

 

 イリスはその腕を見切り、身体を横へずらした。

 

 雷をまとった拳が、制服のすぐ脇を通り過ぎる。

 

「くそっ!」

 

 ユーリが悔しそうに叫ぶ。

 

 だが。

 

「……まだです!」

 

 メイビスの声が響いた。

 

 イリスが振り返る。

 

 その足元に、もう一本の蔓が伸びていた。

 

 先ほどとは逆方向。

 

 逃げ道を塞ぐように。

 

「……っ!」

 

 イリスは前へ踏み出す。

 

 しかし、そこへプレヒトが片手を突き出した。

 

「――伸びろ!」

 

 魔力が細長く伸びる。

 

 棒状だった魔力が、途中でいくつもの輪へと分かれた。

 

 小さな輪が連なり、一筋の鎖となる。

 

「……鎖?」

 

 プレヒト自身が驚いたように呟く。

 

 だが、次の瞬間には、その鎖をイリスへ向けて放っていた。

 

 魔力の鎖が、イリスの右腕へ絡みつく。

 

「……!」

 

 イリスの動きが、一瞬だけ止まった。

 

「今だ、ユーリ!」

 

 プレヒトが叫ぶ。

 

「おおおっ!」

 

 ユーリが地面を蹴った。

 

 雷をまとった拳。

 

 狙いは、イリスの肩。

 

 イリスは右腕を引き、身体を回転させた。

 

 鎖が引きちぎられるようにほどける。

 

 同時に、ユーリの拳をかわす。

 

 しかし。

 

 ――バチッ!

 

 小さな雷が、制服の袖をかすめた。

 

「……あっ」

 

 イリスが目を見開く。

 

 袖の端に、小さな焦げ跡が残っていた。

 

 ユーリも、拳を突き出したまま固まる。

 

「……今」

 

 ウォーロッドが呟いた。

 

「……当たった?」

 

 プレヒトが目を見開く。

 

 メイビスの顔が、ぱっと明るくなった。

 

「……はい!」

 

 そして。

 

「当たりましたーっ!!」

 

「よっしゃあああっ!!」

 

 ユーリが飛び跳ねた。

 

「やったぞ! ついに一発!」

 

「本当に当たったね!」

 

 ウォーロッドも笑顔を浮かべる。

 

 プレヒトは、自分の手を見つめていた。

 

「……今の、鎖……」

 

 先ほどまで、魔力を棒状に伸ばすことしかできなかった。

 

 だが、今は違った。

 

 ほんの一瞬とはいえ、魔力が鎖の形になった。

 

「……できた」

 

 プレヒトが小さく呟く。

 

 イリスは制服の袖を見下ろし、それから四人へ微笑んだ。

 

「お見事です」

 

「へへっ!」

 

 ユーリが胸を張る。

 

「どうだ!」

 

「はい。本当に良い連携でした」

 

 イリスは頷いた。

 

「ですが……」

 

「……え?」

 

「まだ、終わっていませんよ?」

 

 次の瞬間。

 

「うおっ!?」

 

 ユーリの視界から、イリスが消えた。

 

 いや、違う。

 

 彼女は、ユーリの懐へ踏み込んでいた。

 

 拳を振り上げるよりも早く、手首を取られる。

 

 体勢を崩され、草の上へ転がった。

 

「ぐえっ!」

 

「ユーリ!」

 

 ウォーロッドが蔓を伸ばす。

 

 だが、イリスはその蔓を軽く跳び越えた。

 

「……っ!」

 

 ウォーロッドの肩に、そっと手が触れる。

 

「二人目です」

 

「……参った!」

 

 プレヒトが鎖を伸ばそうとする。

 

 しかし、先ほどのようには形にならない。

 

「くっ……!」

 

 魔力が途中でほどける。

 

 その隙に、イリスが間合いを詰めた。

 

 手首を押さえられる。

 

「三人目です」

 

「……負けた」

 

 残るメイビスは、すでに幻影を作り出していた。

 

 左右に分かれる少女の姿。

 

 さらに、その周囲を飛ぶ鳥たち。

 

 だが、イリスは迷わなかった。

 

 魔力の流れを見極め、本物のメイビスへ近づく。

 

「……降参です!」

 

 メイビスが両手を上げた。

 

 イリスは、にっこりと微笑んだ。

 

「お疲れさまでした」

 

     ◇

 

「……はあああ」

 

 ユーリが草の上に寝転がった。

 

「結局、負けたー!」

 

「当然だろう」

 

 プレヒトが隣に腰を下ろす。

 

「相手はイリスだぞ」

 

「それでも、一発は当てたじゃねえか!」

 

「……まあ、それはそうだな」

 

 プレヒトは小さく笑った。

 

 ウォーロッドも頷く。

 

「最初は全然駄目だったのにね」

 

「はい!」

 

 メイビスが嬉しそうに答えた。

 

「皆さん、本当にすごかったです!」

 

 イリスは四人を見渡した。

 

「特に、皆さんが途中からお互いの動きを見るようになったのが良かったですね」

 

「……そうか?」

 

 ユーリが首を傾げる。

 

「はい。最初は自分の攻撃を当てることばかり考えていました。でも、最後は仲間が何をしようとしているのか、考えながら動いていました」

 

 イリスは微笑む。

 

「それが、連携の第一歩です」

 

 プレヒトは自分の掌を見つめた。

 

「……あの鎖、もう一度試してみたいな」

 

「きっと、もっと上手く扱えるようになりますよ」

 

「……ああ」

 

 ユーリは、ふとイリスを見上げた。

 

「……なあ、イリス」

 

「はい?」

 

「お前、なんでそんなに強いんだ?」

 

「……え?」

 

「いや、だってよ!」

 

 ユーリは起き上がった。

 

「剣も魔法も使わずに、俺たち四人を相手にしてんだぞ!?」

 

「……そうですね」

 

 イリスは少し考えた。

 

「故郷では、最高位の冒険者として活動していましたので」

 

「…………は?」

 

 ユーリが固まった。

 

 プレヒトも顔を上げる。

 

「……最高位?」

 

「はい。私の国でも、数人しかいませんでした」

 

「……数人?」

 

「はい」

 

 イリスは、きょとんと首を傾げた。

 

「……言っていませんでしたっけ?」

 

「聞いてねぇよ!!」

 

 ユーリの叫びが、森に響いた。

 

 ウォーロッドが目を丸くする。

 

「そんなにすごい冒険者だったんだね……」

 

「……なるほどな」

 

 プレヒトは納得したように頷いた。

 

「あの動きは、ただ魔法が強いだけでは説明できない」

 

 イリスは少し照れたように笑った。

 

「でも、最初から強かったわけではありませんよ。失敗もたくさんしましたし、経験を積んで、少しずつできることが増えただけです」

 

「……そっか」

 

 ユーリは拳を握った。

 

「だったら、俺たちも強くなれるってことだよな!」

 

「もちろんです」

 

 イリスは力強く頷いた。

 

「皆さんなら、きっと」

 

――――――――――

 

第三幕 青い髑髏の捜索

 

 その頃。

 

 マグノリアの一角にある、ブルースカルの拠点。

 

 薄暗い部屋に、数人の構成員が集まっていた。

 

「……報告しろ」

 

 上座に座る男が、低い声で命じた。

 

「はっ!」

 

 一人の構成員が頭を下げる。

 

「以前、我々の構成員を倒した若い連中について、いくつか情報が集まりました」

 

「……ほう」

 

「男女数人の集団で、街の外へ向かう姿が目撃されています」

 

「それだけか?」

 

「……いえ。黒髪の少女が一緒にいたという証言もあります」

 

 男は指先で机を叩いた。

 

「……黒髪の少女、か」

 

「はい。ただ、詳しい人数や居場所までは分かっておりません」

 

「……ふん」

 

 男は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「使えん連中だ」

 

 構成員たちは黙り込む。

 

「いいか。見つけても、勝手に手を出すな」

 

「……はっ?」

 

「まずは居場所を突き止めろ。相手の正体も、戦力も分からんうちに動くな」

 

「承知しました!」

 

 構成員たちは一斉に頭を下げた。

 

 男は椅子に深く腰掛けた。

 

「……この街で、俺に逆らう連中がいるとはな」

 

 その声には、冷たい怒りが滲んでいた。

 

――――――――――

 

第四幕 力を求める妖精

 

 午後。

 

 森の奥にある、静かな場所。

 

 メイビスは、一人の青年と向かい合っていた。

 

「……今日は、ずいぶん嬉しそうだね」

 

 ゼレフが微笑んだ。

 

「はい!」

 

 メイビスは元気よく頷く。

 

「今日は、イリスさんと模擬戦をしたんです!」

 

「……模擬戦?」

 

「はい! ユーリさんたちと四人で挑んだんですよ!」

 

 ゼレフは少し驚いたように目を瞬かせた。

 

「……四人で?」

 

「そうです!」

 

 メイビスは胸を張った。

 

「結果は負けてしまいましたけど……一度だけ、攻撃を当てることができました!」

 

「……それは、すごいね」

 

「えへへ!」

 

 メイビスは嬉しそうに笑った。

 

 だが、少しして、その表情が真剣なものへ変わった。

 

「……でも、まだまだです」

 

「……?」

 

「イリスさんは、剣も魔法も使っていなかったんです。それなのに、私たちは四人で挑んでも勝てませんでした」

 

 メイビスは、自分の手を見つめた。

 

「……もっと、強くなりたいです」

 

 ゼレフは静かに尋ねた。

 

「……どうして?」

 

「皆さんを、守れるようになりたいからです」

 

 迷いのない答えだった。

 

「今は、イリスさんに頼ってばかりです。でも、いつかは私も……大切な人たちを守れるくらい、強くなりたいんです」

 

 ゼレフは、しばらく黙っていた。

 

 そして、静かに口を開く。

 

「……強い魔法には、相応の危険が伴うこともある」

 

「……はい」

 

「力を求めること自体は、悪いことじゃない。でも、その力を使うことで何を失うか……考えなければならないときもあるんだ」

 

 メイビスは、少しだけ目を伏せた。

 

「……分かりました」

 

 ゼレフは穏やかに微笑む。

 

「それじゃあ、今日の練習を始めようか」

 

「はい!」

 

 メイビスは顔を上げた。

 

「今日は、複数の幻影を別々に動かす練習をしてみよう」

 

「別々に……ですか?」

 

「そう。今の君は、複数の幻影を出すことはできる。でも、それぞれに違う動きをさせるのは、まだ難しいだろう?」

 

「……はい」

 

 メイビスは頷いた。

 

「それなら、まずは二羽の鳥で試してみよう」

 

 メイビスは両手を前へ出した。

 

 淡い光が集まり、二羽の小鳥が現れる。

 

 一羽は空へ。

 

 もう一羽は、近くの枝へ。

 

 しかし。

 

「あっ!」

 

 二羽が同時に飛び上がってしまった。

 

「……難しいです」

 

「焦らなくていいよ」

 

 ゼレフは優しく言った。

 

「一羽ずつ、違う動きを意識してごらん」

 

「……はい!」

 

 メイビスは目を閉じた。

 

 深呼吸する。

 

 そして、もう一度。

 

 二羽の小鳥が現れた。

 

 一羽が空を飛ぶ。

 

 もう一羽が、枝にとまる。

 

「……できた!」

 

 メイビスが声を上げた。

 

 だが、喜んだ拍子に、枝の小鳥も飛び立ってしまった。

 

「ああっ!」

 

 ゼレフが小さく笑った。

 

「……でも、今のは良かったよ」

 

「はい!」

 

 メイビスは笑顔で頷いた。

 

「もう一度、お願いします!」

 

 その瞳には、強い意志が宿っていた。

 

 ゼレフは、そんな少女を静かに見つめていた。

 

(……どうか)

 

 この少女が、力を求めるあまり。

 

 大切なものを失うことがないように。

 

 そう願いながら。

 

――――――――――

 

終幕 近づく戦い

 

 夕暮れ。

 

 森の中の小さな広場。

 

 ユーリは、拳を握ったり開いたりしていた。

 

「……なあ」

 

「何だ?」

 

 プレヒトが顔を上げる。

 

「次は、もっと本気でイリスと戦ってみたいな」

 

「……お前な」

 

 プレヒトが呆れた。

 

「今日の結果をもう忘れたのか?」

 

「忘れてねえよ!」

 

 ユーリは笑った。

 

「だからこそ、だ!」

 

 ウォーロッドが苦笑する。

 

「ユーリらしいね」

 

 イリスも、少し困ったように笑った。

 

「次は、もう少し厳しくしてもいいかもしれませんね」

 

「……え?」

 

 ユーリが固まった。

 

 プレヒトが吹き出す。

 

「ははっ! 自分で言ったんだろう?」

 

「ちょ、ちょっと待て! そういう意味じゃ……!」

 

 そのとき。

 

「皆さーん!」

 

 森の向こうから、メイビスの声が響いた。

 

 振り返ると、少女が駆けてくる。

 

「メイビスさん。お帰りなさい」

 

「ただいまです!」

 

 メイビスは嬉しそうに笑った。

 

「見てください! 今日、新しくできるようになったことがあるんです!」

 

 両手を前へ出す。

 

 二羽の小鳥が現れた。

 

 一羽は空を飛び。

 

 もう一羽は、近くの枝へとまる。

 

「……おお!」

 

 ユーリが目を丸くした。

 

「別々に動いてるじゃねえか!」

 

「はい!」

 

 メイビスは嬉しそうに頷いた。

 

 だが、数秒後。

 

 二羽の小鳥は、同時に飛び上がってしまった。

 

「あっ!」

 

 メイビスが肩を落とす。

 

「……まだ、長くは続かないんです」

 

「それでも、すごいですよ」

 

 イリスが微笑んだ。

 

「確実に上達しています」

 

「……はい!」

 

 メイビスは嬉しそうに笑った。

 

 仲間たちの笑い声が、夕暮れの森に響く。

 

 その一方で。

 

 マグノリアの街では、ブルースカルの構成員たちが動き始めていた。

 

 若い男女の集団。

 

 黒髪の少女。

 

 そして、街の外へ続く道。

 

 断片的な情報が、少しずつ集まっていく。

 

 五人もまた、ブルースカルとの再戦が近いことを理解していた。

 

 だが、ブルースカルが抱える戦力の全貌までは、まだ誰も知らなかった。

 

 ――第18話 完――

 




【こそこそ妖精話】

メイビス「ねえねえ、ゼーラ! 今日、すごいことが分かったんですよ!」

ゼーラ「なによ、そんなに嬉しそうにして」

メイビス「実は、イリスさんって、故郷では最高位の冒険者だったそうなんです!」

ゼーラ「……最高位?」

メイビス「はい! 国に数人しかいないくらい、すごい冒険者だったんですよ!」

ゼーラ「へえ……。まあ、あれだけ強ければ納得ね」

メイビス「ですよね! しかも、今日は剣も魔法も使わずに、私たち四人を倒しちゃったんです!」

ゼーラ「……あんたたち、四人がかりで負けたの?」

メイビス「はい!」

ゼーラ「そんな元気よく答えることじゃないでしょ!」

メイビス「でも、ちゃんと一回は攻撃が届いたんですよ!」

ゼーラ「……そこは自慢するところなの?」

メイビス「もちろんです! 大きな一歩ですから!」

ゼーラ「……まあ、あんたらしいわね」

メイビス「それに、イリスさんは最初から強かったわけじゃないって言ってました!」

ゼーラ「ふうん?」

メイビス「だから、私もいつかイリスさんみたいに強くなりたいです!」

ゼーラ「……あんたなら、なれるんじゃない?」

メイビス「本当ですか!?」

ゼーラ「ええ。少なくとも、頭の回転なら負けてないでしょ」

メイビス「えへへ……ありがとうございます!」

ゼーラ「……ただし」

メイビス「はい?」

ゼーラ「イリスみたいに強くなったからって、四人まとめて相手にするような無茶はしないでよ?」

メイビス「大丈夫です!」

ゼーラ「……本当に?」

メイビス「はい! そのときは、ゼーラも一緒に戦ってくださいね!」

ゼーラ「…………え?」

メイビス「二人なら、きっと無敵です!」

ゼーラ「ちょ、ちょっと待ちなさい! なんで私まで戦うことになってるのよ!?」

メイビス「だって、私たち友達じゃないですか!」

ゼーラ「そ、それはそうだけど……!」

メイビス「ふふっ。約束ですよ、ゼーラ!」

ゼーラ「勝手に約束しないでーっ!!」



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。
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