妖精と聖剣使い   作:使い手なない

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第19話「反撃の狼煙」

 

第一幕 五人の決意

 

 マグノリアの街から少し離れた森の一角。

 

 朝の光が木々の隙間から差し込み、五人の姿を照らしていた。

 

 いつもなら魔法の修行を始める時間だったが、今日は誰も練習を始めようとはしなかった。

 

 代わりに、メイビスが地面に広げた紙を、四人が囲んでいる。

 

 そこには、マグノリアの街並みが簡単に描かれていた。

 

「……そろそろ、動こうと思います」

 

 メイビスが、静かに口を開いた。

 

 その言葉に、ユーリが顔を上げる。

 

「おっ! ついにブルースカルへ反撃するんだな!」

 

「はい!」

 

 メイビスは力強く頷いた。

 

「私たちは、この数日間で魔法を覚えました。まだ十分とは言えませんが、以前とは違います」

 

「……そうだな」

 

 プレヒトが腕を組む。

 

「少なくとも、何もできずにやられるだけではなくなった」

 

「僕も、少しは役に立てると思います!」

 

 ウォーロッドも真剣な表情で頷いた。

 

 イリスは、そんな四人を静かに見つめていた。

 

 以前、ブルースカルと衝突したとき。

 

 仲間たちは傷つき、ユーリは診療所へ運ばれることになった。

 

 あのときは、仲間の安全を確保することが何より優先だった。

 

 けれど、今は違う。

 

 四人は自分たちの意思で戦うことを選ぼうとしている。

 

「……皆さん、本当に大丈夫ですか?」

 

 イリスが穏やかに尋ねた。

 

「もちろんだぜ!」

 

 ユーリが胸を張る。

 

「今度こそ、あいつらに一泡吹かせてやる!」

 

「……ユーリ」

 

 プレヒトがため息をついた。

 

「目的を忘れるな。俺たちは喧嘩を売りに行くわけではない」

 

「分かってるって!」

 

 ユーリは少しだけ表情を引き締めた。

 

「街の人たちを、あいつらから解放するんだろ?」

 

「……ああ」

 

 プレヒトが頷く。

 

 メイビスも静かに微笑んだ。

 

「そうです。ブルースカルがいる限り、マグノリアの人たちは安心して暮らせません」

 

 そして、地図へ視線を落とす。

 

「ですが、正面から無計画に突っ込むつもりはありません」

 

「……作戦があるんだな?」

 

「もちろんです!」

 

 メイビスがにっこり笑った。

 

「まずは街の様子を確認します。敵の人数や配置を調べて、できるだけ住民を巻き込まない場所から行動を始めましょう」

 

「なるほどな」

 

「それと、もう一つ」

 

 メイビスはイリスへ視線を向けた。

 

「イリスさんには、みんなを守る役割をお願いしたいんです」

 

「……私が、ですか?」

 

「はい!」

 

 メイビスが頷く。

 

「私たちは魔法を覚えたばかりです。攻撃することに集中すると、どうしても周りが見えなくなってしまいます」

 

「……確かに」

 

 プレヒトが静かに同意した。

 

「昨日の模擬戦でも、それを痛感した」

 

「ですから、イリスさんには敵の強力な魔法を防いでもらいたいんです」

 

「……なるほど」

 

 イリスは少し考えた。

 

 確かに、それなら四人の成長を生かせる。

 

 自分が敵をすべて倒してしまうよりも、仲間たちが役割を果たしやすくなる。

 

 もちろん、危険が迫れば迷わず動くつもりだった。

 

「分かりました」

 

 イリスは穏やかに微笑んだ。

 

「皆さんの背中は、私が守ります」

 

「おおっ!」

 

 ユーリが嬉しそうに拳を握った。

 

「そりゃ心強いぜ!」

 

「ですが」

 

 イリスは少しだけ真剣な表情になる。

 

「私が守れるからといって、無理をしてはいけませんよ?」

 

「……おう!」

 

「危険だと判断したら、すぐに退いてください。私も必要なら攻撃に加わります」

 

「はい!」

 

 メイビスが元気よく頷いた。

 

「それでは、行きましょう!」

 

 五人は顔を見合わせた。

 

 そして。

 

 再び、マグノリアへ向けて歩き始めた。

 

――――――――――

 

第二幕 青い髑髏との再戦

 

 マグノリアの街。

 

 かつては人々の活気に満ちていたであろう通りには、今も重苦しい空気が漂っていた。

 

 道を歩く住民たちは、周囲を気にしながら足早に通り過ぎていく。

 

 五人は人目を避けながら街を進み、ブルースカルの魔導士たちの動きを調べていた。

 

 やがて、比較的人通りの少ない通りで、住民を威圧する数人の魔導士を見つけた。

 

「……相変わらずだな」

 

 ユーリが小さく呟く。

 

「はい……」

 

 ウォーロッドも悲しそうに頷いた。

 

 メイビスは通りの様子を注意深く観察する。

 

 敵の人数。

 

 周囲の建物。

 

 住民が逃げられる道。

 

 それらを確かめてから、仲間たちへ向き直った。

 

「……まずは、あの人たちを止めましょう」

 

「よっしゃ!」

 

 ユーリが勢いよく立ち上がろうとする。

 

「待ってください!」

 

 メイビスが慌てて腕を掴んだ。

 

「……何だよ?」

 

「先に、住民の人たちを離れさせます」

 

「あっ……そうか」

 

 ユーリが頭をかいた。

 

「悪い。ちょっと焦った」

 

「ふふっ。気持ちは分かりますよ」

 

 メイビスは微笑んだ。

 

 そして、両手を胸の前に重ねる。

 

 淡い光が集まり、小さな鳥の幻影が現れた。

 

 二羽の小鳥。

 

 青い鳥と、白い鳥。

 

 それぞれが別の方向へ飛び立っていく。

 

「……おお」

 

 ユーリが小さく声を上げる。

 

「本当に別々に動いてるな」

 

「まだ少し難しいですけどね」

 

 メイビスが照れくさそうに笑った。

 

 青い鳥は通りの向こうへ。

 

 白い鳥は建物の屋根の上へ。

 

 やがて、二羽が鳴き声を上げた。

 

「……ん?」

 

 ブルースカルの魔導士の一人が顔を上げる。

 

「何だ、あの鳥?」

 

「さあな……」

 

 男たちの注意が逸れた隙に、ウォーロッドが建物の陰から住民へ近づいた。

 

「すみません。危ないので、こちらへ来てください」

 

「……え?」

 

「大丈夫です。僕たちが何とかしますから」

 

 戸惑いながらも、住民たちは通りから離れていく。

 

 イリスは周囲を見渡し、逃げ遅れた者がいないかを確認した。

 

「……メイビスさん。大丈夫そうです」

 

「ありがとうございます!」

 

 メイビスが頷いた。

 

「それでは、始めましょう!」

 

「よっしゃ!」

 

 ユーリが拳を握る。

 

「今度こそ、俺の出番だな!」

 

 そして、通りへ飛び出した。

 

「おい! そこのお前ら!」

 

「……あ?」

 

 ブルースカルの魔導士たちが振り返る。

 

「何だ、ガキ?」

 

「この街で好き勝手するのも、今日で終わりだ!」

 

「……は?」

 

 一瞬の沈黙。

 

 そして、男たちが笑い始めた。

 

「何だこいつ?」

 

「正義の味方ごっこか?」

 

「痛い目を見たくなきゃ、さっさと消えな!」

 

「……へっ!」

 

 ユーリが不敵に笑う。

 

「そいつは、こっちの台詞だ!」

 

 次の瞬間。

 

 ぱちぱちっ!

 

 青白い雷が、ユーリの右手に集まった。

 

「……なっ!?」

 

 男たちの表情が変わる。

 

「魔法だと!?」

 

「いくぜ!」

 

 ユーリが雷を放った。

 

 青白い光が通りを走り、男の足元へ落ちる。

 

「うわっ!?」

 

 男が慌てて飛び退く。

 

 その退路へ、ウォーロッドが手を向けた。

 

「それっ!」

 

 石畳の隙間から、細い蔓が伸びる。

 

「な、何だこれ!?」

 

 男の足首へ蔓が絡みついた。

 

「くそっ!」

 

 男が魔力を集める。

 

 炎が、その手に生まれた。

 

「こんなもん、燃やしてやる!」

 

 炎がウォーロッドへ放たれる。

 

 だが。

 

 イリスが一歩前へ出た。

 

 左腰の聖剣を抜く。

 

 白銀の刀身が陽光を反射する。

 

 そして、一閃。

 

 放たれた炎が刀身に触れた瞬間、その形を失った。

 

 光の粒子となり、跡形もなく消滅する。

 

「…………は?」

 

 炎を放った男が目を丸くした。

 

「……今、何をした?」

 

 イリスは聖剣を構えたまま、仲間たちへ声をかけた。

 

「皆さん、そのまま続けてください」

 

「おう!」

 

 ユーリが再び雷を放つ。

 

 男は慌てて身体をひねった。

 

 しかし、その先にはプレヒトがいた。

 

「……逃がさん」

 

 魔力球が男の足元へ飛ぶ。

 

 衝撃で体勢が崩れる。

 

「うおっ!?」

 

 その瞬間、プレヒトが手を突き出した。

 

 光の輪が連なっていく。

 

 一つ。

 

 二つ。

 

 三つ。

 

 短い魔力鎖が、男の腕へ絡みついた。

 

「……っ!」

 

 プレヒトの額に汗が浮かぶ。

 

 まだ長く維持することはできない。

 

 だが。

 

「ウォーロッド!」

 

「はい!」

 

 蔓が伸び、男の足元をさらに拘束する。

 

「くそっ……!」

 

 男が必死にもがく。

 

 しかし、すでに体勢は崩れていた。

 

「……よし!」

 

 ユーリが拳を握った。

 

「一人目だ!」

 

「まだです!」

 

 メイビスが鋭く叫ぶ。

 

 通りの反対側。

 

 別の魔導士が魔力を集めていた。

 

「まとめて吹っ飛べ!」

 

 複数の光弾が放たれる。

 

 狙いはユーリとプレヒト。

 

「……っ!」

 

 ユーリが振り返る。

 

 しかし、反応が遅れた。

 

 その前へ、黒髪の少女が滑り込む。

 

「大丈夫です」

 

 イリスが静かに告げた。

 

 聖剣が閃く。

 

 一つ。

 

 二つ。

 

 三つ。

 

 迫る光弾が次々と刀身に触れ、光の粒子となって消えていく。

 

「…………」

 

 敵の魔導士が呆然と立ち尽くす。

 

「……嘘だろ」

 

 魔法を、剣で斬った。

 

 それも一度ではない。

 

 複数の攻撃を、まるで当たり前のように。

 

「……何なんだ、お前……!」

 

 イリスは聖剣を下ろさずに答えた。

 

「この街の人たちを、これ以上傷つけさせるわけにはいきません」

 

「……っ!」

 

 男が後ずさる。

 

 そのとき。

 

「ユーリさん、右です!」

 

 メイビスの声が響いた。

 

「おう!」

 

 ユーリが雷を放つ。

 

 男は慌てて横へ飛んだ。

 

 だが、その先にはすでにウォーロッドの蔓が伸びていた。

 

「うわっ!?」

 

 足を取られ、男が転倒する。

 

 プレヒトが魔力球を構えた。

 

「……抵抗するな」

 

 男は動きを止めた。

 

 しかし。

 

「……まだだ!」

 

 拘束されていた別の魔導士が、最後の力を振り絞って両手を掲げた。

 

 頭上に魔力が集まり、大きな炎が生まれる。

 

「まとめて焼き尽くしてやる!」

 

 炎が広がり、通り一帯へ降り注ごうとしていた。

 

「……っ!」

 

 メイビスが目を見開く。

 

 広範囲の攻撃。

 

 このままでは、周囲の建物にも被害が及ぶ。

 

「皆さん、私の後ろへ!」

 

 イリスが鋭く告げた。

 

 聖剣を構えたまま、左手を前へ突き出す。

 

 次の瞬間。

 

 半透明の防御障壁が大きく展開された。

 

 仲間たちだけでなく、周囲の建物の前まで覆うように。

 

 轟音。

 

 降り注いだ炎が障壁へ激突した。

 

 激しい火花が散り、熱風が通りを吹き抜ける。

 

 だが。

 

 障壁の内側には、炎も熱も届かなかった。

 

「……すげぇ」

 

 ユーリが呆然と呟く。

 

「これが……イリスの防御魔法か……」

 

 プレヒトも驚きを隠せなかった。

 

 イリスは静かに障壁を維持していた。

 

 やがて、炎が収まる。

 

 障壁が淡い光となって消えていった。

 

「……皆さん、お怪我はありませんか?」

 

「はい!」

 

 メイビスが頷いた。

 

「ありがとうございます、イリスさん!」

 

「いえ。皆さんが無事でよかったです」

 

 イリスが微笑む。

 

 その後、最後の魔導士も拘束され、戦闘は終わった。

 

――――――――――

 

第三幕 届いた報告

 

 通りに静けさが戻った。

 

「……やった!」

 

 ユーリが嬉しそうに拳を突き上げる。

 

「勝ったぞ!」

 

「……まだ、油断するな」

 

 プレヒトが周囲を見回す。

 

「増援が来る可能性がある」

 

「そうですね」

 

 メイビスも頷いた。

 

「ここに長く留まるのは危険です」

 

 ウォーロッドは拘束した魔導士たちを確認していた。

 

「……しばらくは動けないと思います」

 

「ありがとうございます」

 

 イリスが微笑んだ。

 

 そして、周囲へ視線を巡らせる。

 

 金色の瞳には、戦闘の名残である魔力の残滓が淡く輝いて見えていた。

 

 そのとき。

 

「……あ」

 

 イリスが小さく声を漏らす。

 

 通りの奥。

 

 建物の陰から、一人の男が走り去っていく姿が見えた。

 

 先ほどの戦闘を遠巻きに見ていた、ブルースカルの魔導士だった。

 

「……どうしました?」

 

 メイビスが尋ねる。

 

「先ほどの戦いを見ていた方が、逃げていきました」

 

「……追いますか?」

 

 プレヒトが静かに聞いた。

 

 イリスは少し考えた。

 

 そして、首を横に振る。

 

「今は、皆さんの安全を優先しましょう」

 

「……そうですね」

 

 メイビスが頷いた。

 

「それに、こちらの存在が知られることは、ある程度予想していました」

 

「……ああ」

 

 プレヒトが腕を組む。

 

「敵が動くなら、こちらも次の手を考える必要があるな」

 

「よし!」

 

 ユーリが拳を握った。

 

「だったら、次も勝ってやろうぜ!」

 

「……ユーリ」

 

 プレヒトが呆れたように息を吐く。

 

「少しは慎重になれ」

 

「分かってるって!」

 

 そのやり取りに、メイビスが小さく笑った。

 

 イリスも穏やかに微笑む。

 

 だが、その金色の瞳は、逃げていった男の方向を静かに見つめていた。

 

 今回の戦いは、まだ始まりに過ぎない。

 

 そんな予感がしていた。

 

――――――――――

 

第四幕 青い髑髏の両腕

 

 同じ頃。

 

 ブルースカルの本拠地。

 

「……何だと?」

 

 重々しい声が室内に響いた。

 

 マスター・ジョフリーは、目の前で膝をつく部下を見下ろしていた。

 

「……もう一度言ってみろ」

 

「は、はい!」

 

 部下は緊張した面持ちで口を開く。

 

「以前、我々の仲間を倒した連中と思われる者たちが、再び街に現れました!」

 

「……ほう」

 

 ジョフリーの目が細くなる。

 

「人数は?」

 

「五人です! 男が三人、少女が二人! そのうち一人は黒髪で、剣を持っていました!」

 

「……例の連中か」

 

「はい!」

 

 部下は続けた。

 

「しかも、以前とは様子が違います!」

 

「……どう違う?」

 

「連中が、魔法を使っていました!」

 

「……魔法?」

 

 ジョフリーが眉を寄せる。

 

「雷を操る男、植物を操る男、それに魔力を鎖のように変える男もいました!」

 

「……ふむ」

 

「さらに、幼い少女が幻影を使い、連中を指揮しているようでした!」

 

「…………」

 

 ジョフリーは黙って報告を聞いていた。

 

 以前の報告では、そこまでの情報はなかった。

 

 単なる腕の立つ集団ではない。

 

 魔法を使う者たち。

 

 しかも、連携して戦っている。

 

「……それで?」

 

 ジョフリーが静かに尋ねる。

 

「お前たちは、どうした?」

 

「……敗北しました」

 

 部下が頭を下げる。

 

「ですが、マスター……!」

 

「……何だ?」

 

「一人だけ、明らかに異質な者がいました!」

 

「……異質?」

 

「黒髪の少女です!」

 

 部下の声が震えた。

 

「我々の魔法を……剣で斬ったんです!」

 

「…………」

 

 室内が静まり返った。

 

「……剣で?」

 

 ジョフリーが低く聞き返す。

 

「は、はい!」

 

「魔法を、か?」

 

「間違いありません! 炎も、光弾も……まるで普通の物を斬るように!」

 

「…………」

 

 ジョフリーはしばらく黙っていた。

 

 やがて、低い声で尋ねた。

 

「……以前の報告では、そこまで聞いていなかったぞ?」

 

「そ、それは……!」

 

 部下の顔から血の気が引く。

 

「申し訳ありません! 当時は相手の能力を十分に確認できず……!」

 

「……ふん」

 

 ジョフリーは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「役立たずどもめ」

 

 部下は深く頭を下げる。

 

 ジョフリーは椅子へ背を預けた。

 

 魔法を斬る剣士。

 

 連携して戦う魔導士たち。

 

 どうやら、こちらの想定以上の相手らしい。

 

「……面白い」

 

 ジョフリーが小さく笑った。

 

「魔法を斬る剣士、か」

 

 その目が鋭く細められる。

 

「だが、だからといって、この街で好き勝手にさせるわけにはいかん」

 

「……はっ!」

 

「相手の実力が分からん以上、半端な戦力を送り込んでも無駄だろう」

 

 ジョフリーはゆっくりと立ち上がった。

 

 そして。

 

「……おい」

 

「はっ!」

 

「俺の両腕を呼べ」

 

「……!」

 

 部下の表情が変わった。

 

「お、お二方を……ですか?」

 

「そうだ」

 

 ジョフリーが冷たく笑う。

 

「連中には、少々手厚い歓迎が必要らしい」

 

「……承知しました!」

 

 部下は深く頭を下げ、慌ただしく部屋を後にした。

 

 ジョフリーは窓の外へ視線を向ける。

 

 マグノリアの街。

 

 自分たちが支配してきた場所。

 

 そこへ、正体不明の五人が現れた。

 

「……さて」

 

 ジョフリーが低く呟く。

 

「どこまでやれるか、見せてもらおうじゃねぇか」

 

 その口元に、不敵な笑みが浮かんだ。

 

――――――――――

 

終幕 動き出す強敵

 

 ブルースカルの本拠地。

 

 薄暗い廊下を、一人の魔導士が足早に進んでいた。

 

 やがて、重厚な扉の前で立ち止まる。

 

「……失礼します!」

 

 扉の向こうから、落ち着いた男の声が返ってきた。

 

「どうぞ」

 

 魔導士は緊張した面持ちで扉を開けた。

 

 室内には、二人の男がいた。

 

 一人は、机に向かって何やら書き物をしている。

 

 机の上には書物や資料が積み重ねられ、いくつかの小瓶が整然と並んでいた。

 

 男は手元の作業を続けたまま、静かに尋ねる。

 

「……何かご用でしょうか?」

 

 もう一人は窓際に立っていた。

 

 鍛えられた身体を持つ男で、退屈そうに肩を回している。

 

「おいおい。こんなところまで来るなんて、何か面白い話でもあるのか?」

 

「は、はい!」

 

 魔導士が深く頭を下げた。

 

「マスターからの命令です! お二方に、出動していただきたいとのことです!」

 

「……ほう?」

 

 窓際の男が口元を吊り上げる。

 

「ようやく出番か!」

 

 机に向かっていた男は、そこで初めて顔を上げた。

 

「相手は?」

 

「以前、我々の構成員を倒した五人組です!」

 

「……五人?」

 

「はい! しかも、その中には魔法を剣で斬る少女がいるとの報告が……!」

 

 研究者風の男が、手にしていたペンを止めた。

 

「……魔法を、剣で?」

 

「はっ!」

 

「興味深いですね。魔力そのものを切断しているのか、それとも術式に干渉しているのか……」

 

 男は何かを考え込むように目を細めた。

 

「実際に観察してみる価値はありそうです」

 

「ははっ!」

 

 窓際の男が楽しそうに笑った。

 

「難しいことはどうでもいい! 要するに、強い奴がいるんだろ?」

 

「少なくとも、通常の魔導士とは異なる能力を持っているようですね」

 

「そいつはいい!」

 

 男が拳を打ち鳴らした。

 

「最近は歯応えのねぇ奴ばっかりで、退屈してたところだ!」

 

 その口元に、獰猛な笑みが浮かぶ。

 

「決めたぜ。その剣士は俺が相手をする」

 

「……一人で、ですか?」

 

「当たり前だろ!」

 

 男は当然のように言い放った。

 

「最初は俺が遊ばせてもらう。お前はそこで見物でもしてな!」

 

「……構いませんが」

 

 研究者風の男は静かに資料を閉じた。

 

「相手の実力が未知数である以上、慎重に行動した方がよいと思いますよ」

 

「ハッ! 心配性だな、お前は!」

 

 男は鼻で笑った。

 

「ま、面倒になったら手ぇ貸せよ!」

 

「……最初から私も戦う前提なのですね」

 

「勝てりゃ何でもいいんだよ!」

 

 悪びれる様子もなく笑う男に、研究者風の男は小さく息を吐いた。

 

「……まったく。あなたという人は」

 

 そして、机の上の書物を一冊閉じる。

 

「ですが、私もその少女の能力には興味があります。同行しましょう」

 

「よっしゃ!」

 

 窓際の男が扉へ向かって歩き始めた。

 

「久しぶりに、楽しめそうだぜ!」

 

 研究者風の男もゆっくりと立ち上がる。

 

「……では、参りましょうか」

 

 二人が部屋を後にする。

 

 その足音が薄暗い廊下に響いた。

 

 一方。

 

 マグノリアの街では、五人が次の行動について話し合っていた。

 

「……思ったより、上手くいきましたね!」

 

 ウォーロッドが嬉しそうに言った。

 

「おう!」

 

 ユーリが満足げに笑う。

 

「やっぱり、修行した甲斐があったぜ!」

 

「……まだ、始まったばかりだ」

 

 プレヒトが静かに釘を刺す。

 

「そうですね」

 

 メイビスも頷いた。

 

「ブルースカルが、このまま黙っているとは思えません」

 

 イリスは四人の会話を聞きながら、静かに周囲を見つめていた。

 

 聖剣はすでに鞘へ収めている。

 

 だが、警戒は解いていない。

 

「……イリスさん?」

 

 メイビスが声をかける。

 

「はい?」

 

「何か、気になることがありますか?」

 

「……そうですね」

 

 イリスは少し考えてから答えた。

 

「今回の戦いで、相手も私たちの存在をはっきり認識したはずです」

 

「……はい」

 

「次は、もっと強い方たちが来るかもしれません」

 

「……なるほど」

 

 プレヒトが頷いた。

 

「こちらの実力を見た以上、敵も対策を考えるだろうな」

 

「だったら、返り討ちにしてやるぜ!」

 

 ユーリが拳を握る。

 

「……ふふっ」

 

 メイビスが小さく笑った。

 

「頼もしいですね、ユーリ」

 

「だろ?」

 

「でも、無茶は駄目ですよ?」

 

「分かってるって!」

 

 そのやり取りにウォーロッドが苦笑する。

 

 イリスも穏やかに微笑んだ。

 

 けれど。

 

 その金色の瞳は、遠くの街並みを静かに見つめていた。

 

 まだ、戦いは終わっていない。

 

 むしろ。

 

 ここからが、本当の戦いなのかもしれない。

 

 そして、同じ頃。

 

 ブルースカルの本拠地を、二つの影が後にしていた。

 

 マスターの両腕。

 

 水の滅神魔導士。

 

 泥の滅竜魔導士。

 

 その存在を、メイビスたちはまだ知らない。

 

 だが、彼らが動き出したことで、戦いは新たな局面を迎えようとしていた。

 

 青い髑髏の支配する街に、反撃の狼煙が上がる。

 

 五人の前に待ち受けるのは、これまでとは比べものにならない強敵。

 

 そして、妖精たちの運命を大きく変える戦いだった。

 

 ――第19話 完――

 




【こそこそ妖精話】

メイビス「ゼーラ! 今日はみんなでブルースカルの魔導士たちに勝てたんですよ!」

ゼーラ「へぇ、やったじゃない! 修行した甲斐があったわね」

メイビス「はい! ユーリの雷も、プレヒトの魔力鎖も、ウォーロッドの植物魔法も、ちゃんと役に立ったんです!」

ゼーラ「ふふっ。嬉しそうね、メイビス」

メイビス「もちろんです! でも……やっぱりイリスさんはすごいですね」

ゼーラ「イリスがどうかしたの?」

メイビス「敵の魔法を、聖剣で斬ってしまったんです!」

ゼーラ「……え?」

メイビス「炎も光弾も、普通の攻撃みたいに!」

ゼーラ「……それ、普通にできることなの?」

メイビス「イリスさんに聞いたら、きっと『慣れればできますよ』って言いそうですね!」

ゼーラ「いや、絶対に慣れの問題じゃないでしょ!」

メイビス「ふふっ。でも、イリスさんが守ってくれると、すごく安心するんです」

ゼーラ「……そう。いい仲間がいてよかったわね」

メイビス「はい!」

ゼーラ「……ところで、メイビス」

メイビス「何ですか?」

ゼーラ「あなたまで剣で魔法を斬ろうとしないでよ?」

メイビス「えっ? ちょっとだけ興味はありますけど……」

ゼーラ「興味あるんだ!?」

メイビス「ふふっ。冗談ですよ!」

ゼーラ「……本当に冗談でしょうね?」

メイビス「さあ、どうでしょう?」

ゼーラ「メイビスー!?」


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。
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総合評価:98/評価:5/完結:31話/更新日時:2026年09月23日(水) 00:24 小説情報

Re:聖杯憑依者と戦姫絶唱(作者:伽華 竜魅)(原作:戦姫絶唱シンフォギア)

Fateにハマり、『衛宮士郎』のその存在、在り方に心打たれ、イリヤに憑依転生した一般学生が、本来ありえない形の未来で生きて戦う話。▼そして時には敵に、時には味方に、中立の立ち位置として立ち振る舞いをしていく物語。▼※  ※  ※▼当作品は、既に削除済みの『聖杯憑依者と戦姫絶唱』のリメイク作品となります。▼前作のと比べたり、変わってる点などの指摘等の感想はなし…


総合評価:316/評価:8.38/連載:6話/更新日時:2026年09月23日(水) 17:00 小説情報

秦こころ、ロックス海賊団の副船長です(作者:カラカラ侍)(原作:ONE PIECE)

普通の女子中学生だった少女は、ワンピースの世界に転生する。▼奴隷として地獄を見る中で、口にした悪魔の実で秦こころの姿に。▼表情を失った少女は、海の悪魔の船に乗ることに。


総合評価:2720/評価:8.36/連載:7話/更新日時:2026年09月01日(火) 21:43 小説情報

ダンまち世界に闇の福音に転生して人類を導くのは間違っているだろうか(作者:魔法少女(偽))(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

令和を生きたアニメやマンガが好きで多少の武道の心得がある社会人がトラ転して前世の武術やアニメの技術を教えたりして色々やらかしたり助けたりして超有名人になっていく▼※他作品のキャラや武器が登場したりします


総合評価:1367/評価:6.94/連載:14話/更新日時:2026年07月16日(木) 09:45 小説情報

問題児? いいえ、神殺しです。(作者:怜哉)(原作:問題児たちが異世界から来るそうですよ?)

──────魔王とは、揃いも揃ってカスである。▼彼は『覇者』である。▼天上の神々を殺戮し、奪い取った至高の力で同胞までもを滅ぼすが故に。▼彼は『王者』である。▼弱く脆い人類を愛し、庇護し、その外敵の悉くを打ち砕くが故に。▼彼は『魔王』である。▼己の愛する者を甘く優しく飼い殺し、衰退させるが故に。▼人類は、彼に抗う術を持たない。▼元は同じ『ヒト』でありながらも…


総合評価:3572/評価:8.81/連載:22話/更新日時:2026年10月11日(日) 22:56 小説情報


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