妖精と聖剣使い   作:使い手なない

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第24話「妖精の光」

 

 巨大な腕が、振り下ろされた。

 

「メイビス!!」

 

 プレヒトの叫びが響く。

 

「――鎖魔法・縛鎖!」

 

 幾本もの鎖が宙を走り、青い骸骨の腕へ絡みついた。

 

 しかし。

 

「ぐっ……!」

 

 圧倒的な重量。

 

 鎖が軋み、次々と砕け散る。

 

「ウォーロッド!」

 

「分かってる!」

 

「――植物魔法・蔓縛り!」

 

 大聖堂の床を突き破り、無数の蔓が伸び上がった。

 

 巨大な骨の腕に絡みつき、その動きを僅かに鈍らせる。

 

「メイビス! 逃げるんだ!」

 

 ウォーロッドが叫んだ。

 

「……っ!」

 

 メイビスは咄嗟に横へ飛んだ。

 

 次の瞬間。

 

 ――轟ッ!!

 

 巨大な拳が床を粉砕した。

 

 石片が飛び散り、凄まじい衝撃が周囲へ広がる。

 

「きゃあっ!」

 

 メイビスは床を転がり、柱の陰へ身を寄せた。

 

 先ほどまで自分がいた場所には、巨大な亀裂が走っていた。

 

「……そんな」

 

 顔を上げる。

 

 青い骸骨は、ゆっくりと腕を持ち上げていた。

 

 その中心には、苦しげに顔を歪めるユーリの姿。

 

「……ぐ……あ……」

 

「ユーリさん……!」

 

 メイビスは叫んだ。

 

「聞こえますか!? 私です! メイビスです!」

 

 しかし、返事はなかった。

 

 禍々しい魔力が渦を巻き、ユーリの身体を覆っている。

 

 彼自身の意思が、邪悪な念によって押し潰されているかのようだった。

 

「……くそっ!」

 

 プレヒトが歯を食いしばる。

 

「このままでは、ユーリが……!」

 

「でも、攻撃したらユーリまで傷つけてしまう!」

 

 ウォーロッドも必死に考える。

 

 だが、相手は巨大な竜骨。

 

 自分たちの魔法では、動きを止めることさえ難しい。

 

 そのときだった。

 

「ひっ……ひいいいっ!!」

 

 情けない悲鳴が響いた。

 

 ジョフリーだった。

 

 先ほどまでブルースカルのマスターとして君臨していた男が、青い骸骨を見上げて腰を抜かしていた。

 

「な、何だ、あれは!? あんな化け物が現れるなど聞いておらんぞ!」

 

 巨大な腕が動く。

 

 それだけで、ジョフリーは悲鳴を上げた。

 

「く、来るな! 来るなあっ!」

 

 慌てて立ち上がり、魔法陣を展開する。

 

「か、換装!」

 

 しかし、魔槍は現れなかった。

 

「な、何故だ!? 俺の槍は!?」

 

 先ほどまでの戦闘で、魔力を大きく消耗していたのだ。

 

 ジョフリーは青ざめた。

 

「くそっ! こんな場所にいられるか!」

 

 そして。

 

 仲間たちを助けようとするメイビスたちには目もくれず、崩れかけた階段へ走り出した。

 

「俺はブルースカルのマスターだぞ! こんなところで死んでたまるか!」

 

 その声は、遠ざかっていった。

 

「……逃げたか」

 

 プレヒトが吐き捨てる。

 

「構っている暇はない!」

 

 彼は再び青い骸骨へ向き直った。

 

     ◇

 

 青い骸骨が、咆哮した。

 

 ――ゴオオオオッ!!

 

 巨大な顎が開き、禍々しい魔力が周囲へ広がる。

 

 大聖堂の壁が崩れ、天井から石片が降り注いだ。

 

「……っ!」

 

 メイビスは必死に周囲を見渡した。

 

 プレヒトとウォーロッドは、なおも魔法で抵抗している。

 

 しかし、限界は近かった。

 

 何より。

 

 ユーリが苦しんでいる。

 

「……ユーリさん」

 

 メイビスは胸元で拳を握り締めた。

 

 どうすればいい。

 

 どうすれば、彼を救える。

 

 幻影魔法では、あの巨大な身体を止められない。

 

 プレヒトたちの魔法でも、竜骨を破壊するには力が足りない。

 

 そして、無理に攻撃すればユーリ自身を傷つけてしまう。

 

(……何か、方法は……)

 

 そのとき。

 

 メイビスの脳裏に、一人の青年の姿が浮かんだ。

 

 森の奥で出会った、黒髪の魔導士。

 

 ゼレフ。

 

 彼から教わった、強大な魔法。

 

 ――ロウ。

 

 使用者が敵と認識したものだけを裁く、絶対審判魔法。

 

 もし、あの魔法なら。

 

 ユーリを傷つけず、邪悪な念だけを打ち払えるかもしれない。

 

 けれど。

 

 メイビスは唇を噛んだ。

 

 ゼレフから教わった言葉が、脳裏をよぎる。

 

 未完成の魔法。

 

 扱いを誤れば、術者自身に何が起こるか分からない。

 

 それほど危険な魔法だった。

 

「……でも」

 

 メイビスは顔を上げた。

 

 目の前には、苦しむ友人がいる。

 

 そして、その友人を救おうと必死に戦う仲間たちがいる。

 

 ここで何もしなければ。

 

 ユーリを失ってしまうかもしれない。

 

「……そんなの」

 

 メイビスの瞳に、決意が宿った。

 

「絶対に、嫌です」

 

     ◇

 

「プレヒトさん! ウォーロッドさん!」

 

 メイビスの声が響いた。

 

 二人が振り返る。

 

「どうした!?」

 

「私に、考えがあります!」

 

「……何だ!?」

 

 メイビスは、まっすぐに二人を見つめた。

 

「ユーリさんを助ける魔法を使います!」

 

「魔法……?」

 

 ウォーロッドが目を見開いた。

 

「そんな魔法があるのかい!?」

 

「……はい」

 

 メイビスは頷いた。

 

「ただし、まだ完成していません」

 

「……何?」

 

 プレヒトの表情が険しくなる。

 

「未完成だと?」

 

「はい。とても強力な魔法ですが、危険もあります」

 

「だったら――」

 

 プレヒトが言いかけた、そのとき。

 

 青い骸骨が再び腕を振り上げた。

 

「……っ!」

 

「――鎖魔法・縛鎖!」

 

 プレヒトが咄嗟に鎖を放つ。

 

 ウォーロッドも植物の蔓を伸ばした。

 

 しかし、巨大な腕は止まらない。

 

「くそっ……!」

 

 プレヒトが歯を食いしばる。

 

 メイビスは、そんな二人を見つめた。

 

「……お願いします」

 

 その声は、小さかった。

 

 けれど、確かな決意が込められていた。

 

「私を、信じてください」

 

 プレヒトが目を見開く。

 

 ウォーロッドも、言葉を失った。

 

「私は……ユーリさんを助けたいんです」

 

 メイビスは微笑んだ。

 

「皆さんと一緒に、帰りたいんです」

 

 その言葉に。

 

 プレヒトは、深く息を吐いた。

 

「……まったく」

 

 そして、青い骸骨へ向き直る。

 

「ユーリも無茶をするが、お前も大概だな」

 

「……プレヒトさん」

 

「分かった」

 

 プレヒトは鎖を構えた。

 

「俺たちが時間を稼ぐ。必ず助けろ」

 

 ウォーロッドも頷いた。

 

「僕も信じるよ、メイビス!」

 

「……ありがとうございます!」

 

 メイビスは、二人に向かって深く頷いた。

 

     ◇

 

 プレヒトとウォーロッドが動いた。

 

「――鎖魔法・縛鎖!」

 

 無数の鎖が、青い骸骨の腕へ絡みつく。

 

「――植物魔法・蔓縛り!」

 

 床から伸びた蔓が、巨大な脚を拘束した。

 

 骨が軋む。

 

 鎖が引き千切られる。

 

 蔓が砕け散る。

 

 それでも、二人は魔法を使い続けた。

 

「……ぐっ!」

 

「まだ……まだだ!」

 

 その背後で。

 

 メイビスは静かに両手を合わせた。

 

 魔力が集まる。

 

 これまでに扱ったどの魔法とも違う、膨大な魔力。

 

 足元に、巨大な魔法陣が広がり始めた。

 

「……ロウ」

 

 メイビスは、小さく呟いた。

 

 淡い光が、身体を包み込む。

 

 魔法陣が幾重にも重なり、複雑な紋様を描いていく。

 

 空気が震えた。

 

 青い骸骨が、その光に反応する。

 

 巨大な眼窩が、メイビスへ向いた。

 

「……っ!」

 

 プレヒトが叫ぶ。

 

「メイビス! 急げ!」

 

「はい!」

 

 メイビスは目を閉じた。

 

 脳裏に浮かぶのは、仲間たちの笑顔。

 

 天狼島で出会った、三人の少年たち。

 

 共に旅をして。

 

 笑い合って。

 

 時には喧嘩もして。

 

 そして、魔法を学んだ。

 

 イリスと共に過ごした、あの日々。

 

 そのすべてが、大切だった。

 

(……私は)

 

 メイビスは、ゆっくりと目を開いた。

 

(……誰も、失いたくありません)

 

 魔法陣の輝きが増していく。

 

 天井を突き抜けるほどの光が、大聖堂を照らした。

 

「……ユーリさん」

 

 メイビスは、青い骸骨を見上げた。

 

「必ず、助けます」

 

 そして。

 

「――ロウ!!」

 

     ◇

 

 光が、世界を満たした。

 

 ――轟ッ!!

 

 大聖堂の上空に、巨大な黄金の魔法陣が現れた。

 

 その中心から、眩い光が降り注ぐ。

 

 青い骸骨が、光に包まれた。

 

 禍々しい魔力が、激しく揺らぐ。

 

 まるで、何かに抗うように。

 

 だが。

 

 光は、止まらなかった。

 

 竜骨を覆っていた黒い魔力が、次々と消えていく。

 

 巨大な骨が軋み、亀裂が走った。

 

 そして。

 

 ――バキィィィン!!

 

 青い骸骨が、砕け散った。

 

 巨大な骨片が光の中で崩れ、地面へ落ちていく。

 

 その中心から。

 

 一人の少年が、解放された。

 

「……ユーリ!」

 

 プレヒトが叫ぶ。

 

 ウォーロッドが駆け出した。

 

「危ない!」

 

 植物の蔓が伸び、落下するユーリの身体を受け止める。

 

 ゆっくりと地面へ降ろされた少年は、動かなかった。

 

「ユーリ!」

 

 プレヒトが駆け寄る。

 

 その後ろから、メイビスも走った。

 

「ユーリさん!!」

 

     ◇

 

「……ユーリさん」

 

 メイビスは、倒れた少年の傍らへ膝をついた。

 

「……お願いです」

 

 震える手で、ユーリの肩に触れる。

 

「……目を、開けてください」

 

 返事はない。

 

 メイビスの瞳が、不安に揺れた。

 

「……ユーリさん……!」

 

 そのとき。

 

「……う……」

 

 小さな声が聞こえた。

 

「……あれ……?」

 

 ユーリの瞼が、ゆっくりと開いた。

 

「……メイビス……?」

 

「……っ!」

 

 メイビスの顔が、ぱっと明るくなった。

 

「ユーリさん!!」

 

 思わず、彼の手を握る。

 

「よかった……!」

 

 声が震えた。

 

「本当に……よかった……!」

 

 ユーリは、ぼんやりと周囲を見渡した。

 

 崩れた大聖堂。

 

 砕け散った青い竜骨。

 

 そして、自分を囲む仲間たち。

 

「……何が、あったんだ……?」

 

 プレヒトが、深く息を吐いた。

 

「……お前、覚えていないのか」

 

「……何を?」

 

「天狼玉に触れたあと、お前は……」

 

 プレヒトは言葉を止めた。

 

 ウォーロッドが、静かに続ける。

 

「……ちょっと、大変なことになってたんだよ」

 

「……は?」

 

 ユーリが首を傾げる。

 

 メイビスは、そんな彼を見つめて微笑んだ。

 

「……でも、もう大丈夫です」

 

「……メイビス?」

 

「ユーリさんは、ちゃんと戻ってきてくれました」

 

 その笑顔は、心からのものだった。

 

「……よかった」

 

 メイビスは、小さく呟いた。

 

 そして。

 

「……あれ……?」

 

 身体が、ふらりと揺れた。

 

「……メイビス?」

 

 ユーリが目を見開く。

 

 メイビスは、少し不思議そうに自分の手を見つめた。

 

「……なんだか……急に……」

 

 視界が霞む。

 

 身体から、力が抜けていく。

 

「……あ……」

 

 そのまま、前へ倒れ込んだ。

 

「メイビス!!」

 

 プレヒトが咄嗟に身体を支える。

 

「おい! しっかりしろ!」

 

「メイビス!?」

 

 ウォーロッドも慌てて駆け寄った。

 

 ユーリは、呆然とその光景を見つめていた。

 

「……おい」

 

 その声が、震えた。

 

「……メイビス……?」

 

     ◇

 

 マグノリアの街。

 

 崩れた建物の前で、イリス・アストレアは最後の瓦礫を持ち上げていた。

 

「……これで、大丈夫ですね」

 

 瓦礫の下から救い出された住民が、何度も頭を下げる。

 

「ありがとう……! 本当にありがとう!」

 

「いえ。皆さんが無事で何よりです」

 

 イリスは、穏やかに微笑んだ。

 

 周囲には、救助された住民たちが集まっている。

 

 負傷者も、すでに安全な場所へ運ばれていた。

 

「……さて」

 

 イリスは、街の中心部へ視線を向けた。

 

「皆さんのところへ――」

 

 その瞬間。

 

 ――ドクン。

 

「……っ!」

 

 イリスの金色の瞳が、僅かに見開かれた。

 

 遠く。

 

 カルディア大聖堂の方角から、膨大な魔力が立ち上っていた。

 

 それまで感じていた禍々しい魔力とは、まったく異なる輝き。

 

 眩いほどの、黄金の光。

 

「……何ですか、これは……?」

 

 イリスは息を呑んだ。

 

 魔力が、空へ広がっていく。

 

 そして、急速に収束した。

 

「……メイビスさん?」

 

 見覚えのある魔力の気配。

 

 しかし、その規模は、これまでとは比較にならなかった。

 

 イリスの表情が変わる。

 

「……皆さん!」

 

 次の瞬間。

 

 風が、彼女の身体を包み込んだ。

 

 石畳を蹴り、イリスは大聖堂へ向かって駆け出した。

 

     ◇

 

「……メイビス!」

 

 ユーリが叫んだ。

 

 プレヒトに抱えられたメイビスは、目を閉じたままだった。

 

「……息はある」

 

 プレヒトが確認する。

 

「気を失っているだけのようだが……」

 

「……でも、あんな魔法を使ったあとだよ」

 

 ウォーロッドが不安そうに言った。

 

「大丈夫なのかな……」

 

「……くそっ」

 

 ユーリが拳を握り締める。

 

「俺が……あんなものに触ったから……!」

 

 そのときだった。

 

「――皆さん!」

 

 聞き慣れた声が響いた。

 

 四人が振り返る。

 

 崩れた大聖堂の入口。

 

 そこに、黒髪の少女が立っていた。

 

「……イリス!」

 

 ユーリが声を上げた。

 

「イリスさん!」

 

 ウォーロッドも、安堵の表情を浮かべる。

 

 イリスはすぐに駆け寄った。

 

「皆さん、ご無事ですか!?」

 

「ああ……俺たちは大丈夫だ」

 

 プレヒトが答える。

 

「だが、メイビスが……」

 

 その言葉に、イリスの視線が動いた。

 

 プレヒトに抱えられたメイビス。

 

 目を閉じ、力なく横たわる小さな身体。

 

「……メイビスさん!」

 

 イリスは、すぐに膝をついた。

 

「何があったんですか!?」

 

 ユーリが、苦しげに答えた。

 

「……俺が、天狼玉に触ったんだ」

 

「……天狼玉に?」

 

「ああ。それで……何かに取り込まれたらしい」

 

 プレヒトが続ける。

 

「巨大な竜骨と融合して、暴走したんだ」

 

「……そんな」

 

 イリスは、息を呑んだ。

 

「メイビスは、俺を助けるために……」

 

 ユーリが俯く。

 

「すげえ魔法を使ったんだ」

 

「……魔法?」

 

「ロウ、という魔法だ」

 

 プレヒトが答えた。

 

「その魔法でユーリを救った。だが、その直後に倒れてしまった」

 

 イリスは、メイビスを見つめた。

 

「……そう、だったんですね」

 

 そして、静かに手を伸ばす。

 

 メイビスの呼吸を確かめ、身体の状態を確認する。

 

「……大丈夫です」

 

 イリスは、穏やかに言った。

 

「呼吸も安定しています。今のところ、命に関わるような異常は見られません」

 

「……本当か!?」

 

 ユーリが顔を上げる。

 

「はい。ただ、かなり消耗しているようです。しばらく休ませてあげましょう」

 

 その言葉に、三人は大きく息を吐いた。

 

「……よかった」

 

 ウォーロッドが呟く。

 

 プレヒトも、ようやく肩の力を抜いた。

 

     ◇

 

 しばらくして。

 

「……ん……」

 

 小さな声が聞こえた。

 

「……あれ……?」

 

 メイビスが、ゆっくりと目を開いた。

 

「……ここは……?」

 

「メイビスさん!」

 

 イリスが顔を覗き込む。

 

「……イリス、さん……?」

 

「はい。私です」

 

 イリスは微笑んだ。

 

「お目覚めですか?」

 

 メイビスは、ぼんやりと周囲を見渡した。

 

 プレヒト。

 

 ウォーロッド。

 

 ユーリ。

 

 そして、イリス。

 

 四人が、自分を囲んでいた。

 

「……皆さん……」

 

 そのとき。

 

「……メイビス」

 

 ユーリが、申し訳なさそうに口を開いた。

 

「……悪かった」

 

「……え?」

 

「俺が、天狼玉に触ったせいで……」

 

 ユーリは拳を握り締めた。

 

「お前に、無茶させちまった」

 

 メイビスは、しばらく彼を見つめていた。

 

 そして。

 

「……ふふっ」

 

 小さく笑った。

 

「……何がおかしいんだよ」

 

 ユーリが困惑する。

 

「だって……」

 

 メイビスは、優しく微笑んだ。

 

「ユーリさんが無事なら、それで十分です!」

 

「……っ」

 

 ユーリは、言葉を失った。

 

 メイビスは続ける。

 

「それに、私たちは仲間じゃないですか」

 

「……メイビス」

 

「困ったときは、助け合うものです!」

 

 その言葉に。

 

 ユーリは、ゆっくりと笑った。

 

「……ああ」

 

 そして。

 

「……ありがとな」

 

 メイビスも、嬉しそうに笑った。

 

     ◇

 

「……それにしても」

 

 イリスが、メイビスを見つめた。

 

「……どうかしましたか?」

 

 メイビスが首を傾げる。

 

「いえ……」

 

 イリスの金色の瞳には、メイビスの魔力が映っていた。

 

 以前とは、少し違う。

 

 魔力の流れが、どこか深くなっている。

 

 まるで、内側に眠っていた何かが目覚めたかのように。

 

(……不思議ですね)

 

 イリスは、小さく首を傾げた。

 

「……メイビスさんの魔力が、以前と少し違って見えたので」

 

「……私の魔力が?」

 

「はい」

 

 イリスは微笑んだ。

 

「もしかすると、魔導士としての才能が開花したのかもしれませんね」

 

「……本当ですか!?」

 

 メイビスの顔が明るくなる。

 

「えへへ……そうだったら嬉しいです!」

 

 その笑顔に、イリスも微笑み返した。

 

「ふふっ。きっと、これからもっと素敵な魔導士になれますよ」

 

「はい!」

 

 メイビスは、元気よく頷いた。

 

 その様子を見て、ユーリが笑った。

 

「おいおい、もう十分すげえだろ!」

 

「確かにな」

 

 プレヒトも頷く。

 

「あの魔法には驚かされた」

 

「本当だよ!」

 

 ウォーロッドが笑う。

 

「僕たち、まだまだ頑張らないとね!」

 

 メイビスは、少し照れくさそうに笑った。

 

     ◇

 

 大聖堂の外へ出ると、マグノリアの街には夕日が差し込んでいた。

 

 青い骸骨は、もう存在しない。

 

 街を支配していたブルースカルの象徴は、崩れ去ったのだ。

 

 遠くでは、住民たちが互いの無事を喜び合っている。

 

 倒れた建物も、傷ついた人々も、まだ残っている。

 

 けれど。

 

 街には、確かに希望が戻り始めていた。

 

「……終わったんだな」

 

 ユーリが呟いた。

 

「……ああ」

 

 プレヒトが頷く。

 

「ブルースカルのマスターは逃げたが、組織はもう以前のようにはいかないだろう」

 

「街の人たちも、きっとこれから立ち直れるよ」

 

 ウォーロッドが微笑んだ。

 

「……はい」

 

 メイビスも頷く。

 

「皆さん、本当に頑張りましたね!」

 

「お前が一番頑張っただろ!」

 

 ユーリが笑った。

 

「えっ!?」

 

「そうだな」

 

 プレヒトも頷く。

 

「最後はお前に助けられた」

 

「僕もそう思うよ!」

 

 ウォーロッドが笑う。

 

 メイビスは、少し困ったように笑った。

 

「……そんなこと、ありません」

 

 そして、隣に立つイリスを見上げた。

 

「イリスさんも、ありがとうございました!」

 

「……私ですか?」

 

「はい!」

 

 メイビスは、満面の笑顔を浮かべた。

 

「イリスさんが強い敵を引き受けてくれたから、私たちはここまで来られたんです!」

 

 イリスは、少し驚いたように目を瞬かせた。

 

 そして。

 

「……ふふっ」

 

 穏やかに微笑んだ。

 

「そう言っていただけると、嬉しいです」

 

 夕日が、五人を照らしていた。

 

 天狼島から始まった旅。

 

 出会い。

 

 冒険。

 

 敗北。

 

 そして、修行。

 

 そのすべてが、今日の勝利へとつながっていた。

 

「……さて!」

 

 ユーリが、元気よく声を上げた。

 

「これで、天狼玉も取り戻せたんだよな!」

 

「はい!」

 

 メイビスが頷く。

 

「私たちの目的は、達成です!」

 

「……長かったな」

 

 プレヒトが小さく笑った。

 

「本当にね!」

 

 ウォーロッドも笑う。

 

 イリスは、四人の顔を見渡した。

 

「……皆さん」

 

 そして、優しく微笑んだ。

 

「本当に、お疲れさまでした」

 

 その言葉に、四人も笑顔を返した。

 

 マグノリアの空は、茜色に染まっていた。

 

 青き骸骨の支配は終わった。

 

 そして、五人の新たな物語が、ここから始まろうとしていた。

 

 ――第24話 完――

 




【こそこそ妖精話】

 ブルースカルとの戦いが終わった、その夜。

 メイビスは窓辺に腰掛け、静かなマグノリアの街を眺めていた。

メイビス「……終わりましたね」

ゼーラ「そうね。まったく、あんたたちって本当に無茶ばっかりするんだから」

メイビス「えへへ……でも、皆さん無事でよかったです!」

ゼーラ「……まあ、それはそうね」

メイビス「ユーリさんも助けられましたし、天狼玉も取り戻せました!」

ゼーラ「はいはい。大勝利ってわけね」

メイビス「はい! 大勝利です!」

 メイビスは両手を広げ、嬉しそうに笑った。

ゼーラ「……それにしても、あんたまで倒れるなんてね。心配したじゃない」

メイビス「ごめんなさい。でも、あのときはユーリさんを助けることしか考えられなくて……」

ゼーラ「分かってるわよ。そういう子だもんね、あんた」

メイビス「……ゼーラ」

ゼーラ「なによ?」

メイビス「私、皆さんと出会えて、本当によかったです」

ゼーラ「……そう」

メイビス「それに、ゼーラともこうしてお話しできますし!」

ゼーラ「……あたしは、いつもどおりでしょ」

メイビス「ふふっ。そうですね!」

 メイビスは、隣にいる友達へ笑顔を向けた。

メイビス「ねえ、ゼーラ」

ゼーラ「今度はなによ?」

メイビス「これからも、たくさんお話ししましょうね!」

ゼーラ「……何よ、急に」

メイビス「だって、今日みたいな嬉しいことがあったら、一番にゼーラにも聞いてほしいですから!」

ゼーラ「……ほんっと、あんたって子は」

 ゼーラは呆れたように息を吐き、少しだけ笑った。

ゼーラ「分かったわよ。いくらでも聞いてあげる」

メイビス「えへへ! 約束ですよ!」

ゼーラ「はいはい、約束ね」

 窓の外には、満天の星。

 メイビスは幸せそうに笑いながら、友達とのおしゃべりを続けた。

 ――その夜、二人の笑い声は、いつまでも途切れなかった。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。
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