妖精と聖剣使い   作:使い手なない

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第二章 黎明編
第27話「妖精たちの初仕事」


 

第一幕 初めての依頼

 

 マグノリアの街に、新しい朝が訪れた。

 

 石畳の道を行き交う人々の声。

 

 店先に並べられる商品。

 

 焼きたてのパンの香りが、穏やかな風に乗って流れていく。

 

 ブルースカルとの戦いからしばらくが経ち、街には少しずつ、かつての賑わいが戻り始めていた。

 

 そんな街の一角に、一つの新しい看板が掲げられている。

 

 ――妖精の尻尾。

 

 FAIRY TAIL。

 

 五人の魔導士が立ち上げた、小さな魔導士ギルドである。

 

「……暇だな」

 

 ギルドの長椅子に腰掛けたユーリ・ドレアーが、天井を見上げながら呟いた。

 

「昨日も同じことを言っていただろう」

 

 机に向かって書類を整理していたプレヒト・ゲイボルグが、顔も上げずに答える。

 

「だってよ! せっかくギルドを作ったんだぜ? もっとこう、次から次へと仕事が舞い込んでくるもんじゃねえのか?」

 

「まだ設立したばかりだ。そう簡単に依頼が集まるものか」

 

「夢がねえなあ、お前は!」

 

「現実を見ているだけだ」

 

 いつものように言い合う二人を、ウォーロッド・シーケンが苦笑しながら眺めていた。

 

「まあまあ。街の人たちも、まだ僕たちがどんな仕事を引き受けるのか知らないだろうしね」

 

「そうですよ。これから少しずつ知っていただければいいんです」

 

 そう言って微笑んだのは、イリス・アストレアだった。

 

 黒い長髪に、青と金の異なる瞳。

 

 魔法学院の制服に身を包み、左腰には濃紺と黄金の鞘に収められた聖剣を佩いている。

 

 異世界からやってきた彼女もまた、このギルドの創設メンバーの一人である。

 

「イリスさんの言うとおりです!」

 

 元気よく声を上げたのは、ギルドマスターであるメイビス・ヴァーミリオン。

 

 小柄な少女は、机の上に広げた真新しい依頼用紙を眺めながら、楽しそうに笑った。

 

「最初は五人だけですけど、いつかたくさんの仲間が集まるギルドにしたいですね!」

 

「おう! そうなったら、毎日仕事で大忙しだな!」

 

「ユーリ。お前はまず、仕事が来てから張り切れ」

 

「わかってるって!」

 

 そんなやり取りが続いていた、そのときだった。

 

 コンコン、と扉を叩く音が響いた。

 

「すみません。こちらが、妖精の尻尾という魔導士ギルドでしょうか?」

 

 五人の視線が、一斉に入口へ向けられる。

 

 扉の向こうに立っていたのは、旅装束を身につけた中年の男性だった。

 

 その表情には、明らかな焦りが浮かんでいる。

 

「はい! 妖精の尻尾へようこそ!」

 

 メイビスが椅子から立ち上がった。

 

「私がギルドマスターのメイビス・ヴァーミリオンです。何かお困りですか?」

 

「ギルドマスター……?」

 

 男性は一瞬、目を丸くした。

 

 しかし、すぐに気を取り直して頭を下げる。

 

「実は、行方がわからなくなった荷馬車を探していただきたいのです」

 

「荷馬車、ですか?」

 

「ええ。私の店の商品を積んだ馬車が、隣町へ向かったきり戻ってこないのです。予定では昨日の夕方までに到着するはずだったのですが……」

 

 男性の話によれば、荷馬車には御者と護衛が一人ずつ乗っていたという。

 

 通る予定だった街道もわかっている。

 

 だが、途中で何があったのかは不明だった。

 

「荷物も心配ですが、それ以上に二人の安否が気がかりで……」

 

「なるほど……」

 

 メイビスは真剣な表情で頷いた。

 

 そして、仲間たちを振り返る。

 

「皆さん。妖精の尻尾、初めてのお仕事です!」

 

「待ってました!」

 

 ユーリが勢いよく立ち上がった。

 

「よっしゃ! 全員で行こうぜ!」

 

「待て」

 

 すかさずプレヒトが口を挟む。

 

「全員で出かけてどうする。ギルドが無人になるだろう」

 

「あっ」

 

「……まったく」

 

 呆れたように溜息をつくプレヒト。

 

 その様子を見て、メイビスが小さく笑った。

 

「では、私がここに残ります。ギルドマスターですから!」

 

「それなら、私も残りますね」

 

 イリスが続けた。

 

「依頼人の方がまた来られるかもしれませんし、二人いれば何かあっても対応できます」

 

「イリスさんもですか?」

 

「はい。それに、今回の依頼なら皆さんにお任せしても大丈夫でしょう」

 

 イリスはユーリたち三人に視線を向けた。

 

「皆さんの魔法、以前よりずっと上達していますから」

 

「へへっ! そう言われちゃ、失敗できねえな!」

 

「最初から失敗するつもりで行くなよ、ユーリ」

 

「してねえよ!」

 

 ウォーロッドが笑いながら二人の間に入る。

 

「それじゃあ、僕たち三人で行ってくるよ」

 

「はい! 皆さん、どうかお気をつけて!」

 

 メイビスが元気よく送り出す。

 

 こうして、妖精の尻尾の記念すべき初仕事が始まった。

 

――――――――――

 

第二幕 街道に残された痕跡

 

 マグノリアを出発した三人は、荷馬車が通ったという街道を進んでいた。

 

 道の両側には木々が広がり、時折、鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 

「なあ、プレヒト。まだ何も見つからねえのか?」

 

「歩き始めてから何度目の質問だ、それは」

 

「だってよ、何もねえじゃん!」

 

「何もないかどうかを調べているんだ」

 

「はいはい」

 

 ユーリは肩をすくめた。

 

 その少し後ろで、ウォーロッドが街道脇の茂みを眺めていた。

 

「……あれ?」

 

「どうした、ウォーロッド?」

 

「ちょっと、こっちを見てくれないかな」

 

 二人が近づくと、ウォーロッドは地面に生えた草を指差した。

 

「ここだけ、草が大きく倒れているんだ」

 

「……本当だな」

 

 プレヒトがしゃがみ込み、地面を調べる。

 

 街道から森の方へ向かって、何かを引きずったような跡が続いていた。

 

「車輪の跡か?」

 

「おそらくな。それに、こちらの枝も折れている」

 

 プレヒトが示した先には、低い位置で折れた木の枝があった。

 

「荷馬車が街道を外れた可能性が高い」

 

「よし! じゃあ行こうぜ!」

 

 ユーリが勢いよく森へ踏み込もうとする。

 

「待て、ユーリ」

 

「今度は何だよ!」

 

「荷馬車が自分から森へ入ったとは限らない。何かに追われた可能性もある」

 

「……なるほどな」

 

 ユーリは足を止めた。

 

 以前なら、そのまま突っ込んでいたかもしれない。

 

 だが、ブルースカルとの戦いを経て、彼も少しずつ学んでいた。

 

「じゃあ、周りを警戒しながら進むか」

 

「ああ」

 

「僕も植物の様子を見ながら進むよ」

 

 三人は慎重に森へ入っていった。

 

 木々の間には、折れた枝や踏み荒らされた草が点々と残されている。

 

 やがて、遠くから何かがぶつかるような音が聞こえてきた。

 

 ガタンッ!

 

「……今の音!」

 

「近いぞ!」

 

 三人は顔を見合わせ、音のした方へ駆け出した。

 

 そして、木々が途切れた場所で、その光景を目にする。

 

 横倒しになった荷馬車。

 

 周囲に散乱した木箱。

 

 そして、それを取り囲む数匹の魔物。

 

 狼に似た姿をしているが、普通の狼よりも一回り大きく、背中には硬そうな突起が並んでいた。

 

「く、来るなぁ!」

 

 壊れた荷馬車の陰で、二人の男性が身を寄せ合っている。

 

 一人は御者らしい老人。

 

 もう一人は剣を握った護衛だったが、その腕には傷があり、動きも鈍っていた。

 

「見つけた!」

 

 ユーリが声を上げる。

 

 魔物たちが、一斉にこちらを振り向いた。

 

「おい、お前ら! 大丈夫か!」

 

「た、助けてくれ!」

 

 護衛の叫びに、ユーリが拳を握る。

 

「任せとけ!」

 

 その身体から、青白い雷光が弾けた。

 

「妖精の尻尾の初仕事だ!」

 

――――――――――

 

第三幕 三人の連携

 

 最初に飛び出したのは、ユーリだった。

 

「おらぁっ!」

 

 雷をまとった拳が、先頭の魔物を吹き飛ばす。

 

 地面を転がった魔物は、そのまま動かなくなった。

 

「よし、一匹!」

 

「ユーリ! 右だ!」

 

「おっと!」

 

 横から飛びかかってきた別の魔物を、ユーリが身をひねってかわす。

 

 その瞬間、銀色の鎖が空中を走った。

 

「魔力鎖!」

 

 プレヒトの放った鎖が魔物の胴体に巻きつき、動きを封じる。

 

「今だ!」

 

「おう!」

 

 ユーリの雷が炸裂した。

 

 魔物は短い悲鳴を上げ、地面に倒れる。

 

 しかし、残る魔物たちは二人を避け、荷馬車の陰にいる御者たちへ向かおうとしていた。

 

「まずい!」

 

「大丈夫!」

 

 ウォーロッドが両手を地面へ向けた。

 

「こっちは任せて!」

 

 魔力が地面へ流れ込む。

 

 次の瞬間、土の中から太い蔓が伸び上がった。

 

 蔓は御者たちの前に絡み合い、即席の壁を作り出す。

 

 魔物が飛びかかるが、蔓に阻まれて届かない。

 

「な、何だ!?」

 

「魔法です! そこから動かないでください!」

 

 ウォーロッドが声をかける。

 

 さらに別の蔓が伸び、魔物の脚に絡みついた。

 

「プレヒト!」

 

「わかっている!」

 

 魔力鎖が、蔓に捕らえられた魔物の身体を縛り上げる。

 

「ユーリ!」

 

「任せろ!」

 

 ユーリが地面を蹴った。

 

 雷光が一直線に走る。

 

「これで終わりだぁっ!」

 

 強烈な一撃が魔物を打ち倒した。

 

 残っていた魔物たちは、仲間が次々と倒されるのを見て後ずさる。

 

 そして、森の奥へ逃げ去っていった。

 

「……ふぅ!」

 

 ユーリが拳を下ろす。

 

「どうだ! 楽勝だったな!」

 

「お前が最初に突っ込みすぎなければ、もっと楽だったがな」

 

「細けえこと言うなよ!」

 

「細かくない」

 

 プレヒトは呆れながらも、口元にわずかな笑みを浮かべていた。

 

 ウォーロッドも安堵したように息をつく。

 

「二人とも、その話はあとにしよう。まずは怪我人だよ」

 

「あ、そうだった!」

 

 三人は荷馬車へ駆け寄った。

 

「大丈夫ですか?」

 

 ウォーロッドが尋ねると、御者の老人が何度も頷いた。

 

「あ、ああ……助かったよ。本当にありがとう」

 

「腕を怪我しているな」

 

 プレヒトが護衛の傷を確認する。

 

 出血はしていたが、意識ははっきりしている。

 

「歩けるか?」

 

「ええ。少し痛みますが……」

 

「無理はしない方がいいね」

 

 ウォーロッドが、持っていた布で傷口を押さえるのを手伝った。

 

 その間にユーリは、壊れた荷馬車を見回す。

 

「うーん……車輪が完全に壊れてるな」

 

「魔物に襲われて、馬が驚いてしまったんです」

 

 御者が申し訳なさそうに説明した。

 

「街道から外れて、木にぶつかって……。馬は逃げてしまいました」

 

「なるほどな」

 

 プレヒトが荷馬車の状態を確認する。

 

「この場で修理するのは難しい。積み荷をすべて運ぶのも無理だろう」

 

「じゃあ、どうする?」

 

「まずは二人を安全な場所へ連れ帰る。それから荷物の回収を手配すればいい」

 

「そうだね。場所もわかったことだし」

 

 ウォーロッドが頷いた。

 

「じゃあ、運べる荷物だけ持って帰るか!」

 

 ユーリが近くの木箱を持ち上げる。

 

 しかし、予想以上に重かったらしい。

 

「……おっ、重っ!」

 

「無理に全部持つ必要はないぞ」

 

「わかってるって!」

 

 そのやり取りに、御者と護衛が思わず笑った。

 

 つい先ほどまで恐怖に震えていた二人の表情に、ようやく安堵の色が戻っていた。

 

 三人は必要な荷物をまとめ、二人を連れて帰路についた。

 

 初めての依頼。

 

 初めての救助。

 

 そして、三人だけで成し遂げた初めての仕事。

 

 彼らの足取りは、行きよりも少しだけ軽かった。

 

――――――――――

 

第四幕 留守番の二人

 

 一方、その頃。

 

 妖精の尻尾のギルドでは、穏やかな時間が流れていた。

 

「……まだでしょうか」

 

 窓際に立ったメイビスが、外を眺めながら呟く。

 

「メイビスさん。先ほども同じことを言っていましたよ?」

 

 机にお茶を並べながら、イリスが微笑んだ。

 

「そ、そうでしたか?」

 

「はい。これで四回目です」

 

「よ、四回も……」

 

 メイビスは少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。

 

「でも、やっぱり気になってしまって……」

 

「ふふっ。初めての依頼ですからね」

 

 イリスはメイビスの前に温かいお茶を置いた。

 

「どうぞ」

 

「ありがとうございます、イリスさん!」

 

 二人は向かい合って椅子に座る。

 

 窓から差し込む陽光が、真新しい床を明るく照らしていた。

 

 まだ家具も少なく、広い室内には空いている場所が目立つ。

 

「……静かですね」

 

 メイビスがぽつりと呟いた。

 

「そうですね。ユーリさんたちがいないだけで、随分違います」

 

「ふふっ。特にユーリは、いつも賑やかですから」

 

「確かに」

 

 二人は顔を見合わせて笑った。

 

 しばらくして、メイビスが室内を見渡す。

 

「いつか、ここもたくさんの人でいっぱいになるんでしょうか」

 

「きっと、そうなりますよ」

 

「本当ですか?」

 

「はい。メイビスさんがマスターですから」

 

「……私が?」

 

「ええ」

 

 イリスは穏やかに頷いた。

 

「メイビスさんは、人のことをよく見ています。それに、誰かが困っていたら放っておけないでしょう?」

 

「それは……イリスさんも同じですよ?」

 

「そうでしょうか?」

 

「そうです!」

 

 メイビスは身を乗り出した。

 

「イリスさんだって、いつも私たちを助けてくれました!」

 

「……ふふっ。ありがとうございます」

 

 イリスは少し照れたように笑った。

 

 メイビスは嬉しそうに頷くと、再びギルドの中を見回した。

 

「私、ここを誰もが安心して帰ってこられる場所にしたいんです」

 

「帰ってこられる場所、ですか」

 

「はい!」

 

 メイビスは両手でお茶のカップを包み込んだ。

 

「仕事で失敗しても、嫌なことがあっても、ここに帰ってきたら元気になれる。そんなギルドがいいなって」

 

 イリスは、その言葉を静かに聞いていた。

 

 帰ってこられる場所。

 

 その響きに、胸の奥が少しだけ温かくなる。

 

 異世界からこの地へやってきたとき、自分には何もなかった。

 

 知っている人も、帰る家も、頼れる相手も。

 

 元の世界へ帰る方法さえ、わからなかった。

 

 けれど、今は違う。

 

 目の前には、笑顔で未来を語る少女がいる。

 

 そして、外には自分たちの仲間がいる。

 

「……素敵ですね」

 

 イリスは微笑んだ。

 

「私も、そんなギルドにしたいです」

 

「本当ですか!」

 

「はい」

 

 メイビスの表情がぱっと明るくなる。

 

「それなら、まずはもっと仲間を増やさないといけませんね!」

 

「そうですね」

 

「いろんな魔法を使う人が来るかもしれません!」

 

「楽しみですね」

 

「それから、みんなで遠くの街へ冒険に行ったり!」

 

「ええ」

 

「知らない場所を探検したり、古い遺跡を調べたり!」

 

 そこまで言って、メイビスはふとイリスを見つめた。

 

「……そういえば、イリスさん」

 

「はい?」

 

「元の世界へ帰る方法も、ちゃんと探しましょうね」

 

 イリスは少し驚いたように目を瞬かせた。

 

 メイビスは真剣な表情で続ける。

 

「ギルドが忙しくなっても、それは忘れませんから」

 

「……ありがとうございます」

 

 イリスは静かに微笑んだ。

 

「でも、今は少しだけ、ここでの生活を楽しみたい気分なんです」

 

「ふふっ。それなら、たくさん楽しみましょう!」

 

「はい!」

 

 そのとき、メイビスのお腹から小さな音が鳴った。

 

 くぅ……。

 

「…………」

 

「…………」

 

 二人の間に、短い沈黙が流れる。

 

 メイビスの顔が、みるみる赤くなった。

 

「い、今のは……!」

 

「ふふっ」

 

「イリスさん!」

 

「すみません。そろそろお昼にしましょうか」

 

「……はい」

 

 恥ずかしそうに俯くメイビスを見て、イリスはもう一度笑った。

 

 静かなギルドに、二人の楽しそうな声が響いていた。

 

――――――――――

 

終幕 おかえりなさい

 

 夕暮れが近づいた頃。

 

 妖精の尻尾の扉が、勢いよく開かれた。

 

「ただいまーっ!」

 

 元気な声とともに、ユーリが飛び込んでくる。

 

 その後ろにはプレヒトとウォーロッド。

 

 三人とも少し疲れた様子だったが、表情は明るかった。

 

「おかえりなさい!」

 

 メイビスが椅子から立ち上がった。

 

「皆さん! どうでしたか?」

 

「へへっ! もちろん成功だぜ!」

 

 ユーリが胸を張る。

 

「行方不明だった荷馬車も見つけたし、御者と護衛も無事に助けてきた!」

 

「まあ!」

 

「魔物に襲われていたんだけどね」

 

 ウォーロッドが補足した。

 

「三人で協力して追い払ったんだ」

 

「お怪我はありませんでしたか?」

 

 イリスが尋ねる。

 

「俺たちは平気だ!」

 

「護衛の方に怪我があったが、街へ戻って手当てを受けてもらった」

 

 プレヒトが答えた。

 

「荷馬車は壊れていたから、依頼人には場所を伝えてある。荷物の回収も手配するそうだ」

 

「そうでしたか。皆さん、本当にお疲れさまでした」

 

 イリスは嬉しそうに微笑んだ。

 

「さすがですね」

 

「おう! もっと褒めてもいいんだぜ?」

 

「ユーリ。調子に乗るな」

 

「何だよ! お前だって嬉しいくせに!」

 

「……否定はしない」

 

「ほらな!」

 

 そのやり取りに、メイビスが笑い声を上げた。

 

「ふふっ! 皆さん、すごいです!」

 

 そして、三人の前に立つと、両手を胸の前で握りしめた。

 

「妖精の尻尾、初めてのお仕事、大成功ですね!」

 

「おう!」

 

「そうだね!」

 

「ああ」

 

 三人が頷く。

 

 その後、依頼人の商人もギルドを訪れた。

 

 御者と護衛が無事に戻ったことを何度も感謝し、約束していた報酬を手渡してくれる。

 

「本当にありがとうございました。また何かあれば、ぜひお願いしたいと思います」

 

「はい! いつでもお待ちしています!」

 

 メイビスは満面の笑みで答えた。

 

 商人が帰ったあと、五人は机の上に置かれた報酬を囲んでいた。

 

「……これが、俺たちの初報酬か」

 

 ユーリが感慨深そうに呟く。

 

「へへっ。何だか嬉しいな!」

 

「そうだな」

 

 プレヒトも頷いた。

 

「では、まず必要経費を差し引いて、残りをどう扱うか決めよう」

 

「えっ?」

 

 ユーリの動きが止まる。

 

「必要経費?」

 

「当然だろう。ギルドの維持にも金がかかる」

 

「えーっ! せっかくの初報酬なんだぜ!?」

 

「だからといって、全部使っていいわけではない」

 

「ちょっとくらい、うまいもん食いに行こうぜ!」

 

「お前はそればかりだな!」

 

「何だとーっ!」

 

 またしても始まる、いつもの言い合い。

 

 ウォーロッドが苦笑しながら二人をなだめる。

 

「まあまあ。初仕事のお祝いくらいはしてもいいんじゃないかな?」

 

「ほら! ウォーロッドもこう言ってるぜ!」

 

「……お祝いの費用も含めて計算すればいい」

 

「よっしゃ!」

 

 ユーリが拳を突き上げた。

 

 その様子を見て、メイビスとイリスは顔を見合わせる。

 

「ふふっ。賑やかですね」

 

「ええ。本当に」

 

 イリスは微笑んだ。

 

 朝はあんなに静かだったギルドが、今は笑い声で満ちている。

 

 まだ五人だけ。

 

 依頼も、今日ようやく一つ達成したばかり。

 

 けれど、確かに一歩を踏み出した。

 

「イリスさん!」

 

 メイビスが嬉しそうに声をかける。

 

「はい?」

 

「これから、もっともっと楽しくなりそうですね!」

 

 イリスは、仲間たちの姿を見つめた。

 

 言い合うユーリとプレヒト。

 

 それを笑いながら見守るウォーロッド。

 

 そして、隣で未来を楽しみにしているメイビス。

 

「……そうですね」

 

 自然と笑みがこぼれる。

 

「私も、そう思います」

 

 夕日が、ギルドの窓から差し込んでいた。

 

 その光に照らされた壁には、まだ真新しい妖精の紋章が掲げられている。

 

 いつか、この場所にもっと多くの仲間が集まるのだろう。

 

 数え切れないほどの依頼を受け、たくさんの冒険を重ねていくのだろう。

 

 けれど、そのすべての始まりは。

 

 行方不明の荷馬車を探した、ささやかな一日だった。

 

 ――妖精の尻尾。

 

 その名を掲げた小さなギルドは、今日、魔導士ギルドとしての第一歩を踏み出したのである。

 

 ――第27話 完――

 

――第二章 黎明編 開幕――

 




【こそこそ妖精話】
~初仕事の自慢話~

ユーリ「なあ、イリス! 今日の俺たち、すごかっただろ?」

イリス「ふふっ。はい。皆さん、無事に帰ってきてくださって安心しました」

ユーリ「そうじゃなくて! 魔物との戦いだよ、戦い!」

イリス「ユーリさんが雷魔法で大活躍されたんですよね?」

ユーリ「おう! 俺がバシッと一匹倒して、プレヒトが鎖で敵を捕まえて、ウォーロッドが蔓で守ってよ!」

イリス「皆さん、見事な連携だったんですね」

ユーリ「へへっ! イリスがいなくても、俺たちだけでちゃんと戦えたんだぜ!」

イリス「もちろんです。皆さんなら大丈夫だと思っていましたよ?」

ユーリ「……お?」

イリス「それに、ユーリさんたちの魔法は、以前よりずっと上達していますから」

ユーリ「……へへっ。そうか!」

イリス「はい。私も嬉しいです」

ユーリ「よーし! 次の依頼も俺たちに任せとけ!」

イリス「ふふっ。頼もしいですね」

ユーリ「そのうち、イリスより強くなってやるからな!」

イリス「それは楽しみです。応援していますね」

ユーリ「おう! ……って、なんか余裕だな!?」

イリス「えっ? そんなつもりでは……」

ユーリ「くっそー! 絶対に驚かせてやるからなー!」

イリス「ふふっ。期待していますね、ユーリさん」

ユーリ「だからその余裕が悔しいんだってー!!」



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。
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