第一幕 新しい一歩
マグノリアの街に、柔らかな朝日が差し込んでいた。
石畳の道を行き交う人々の声が響き、商店の軒先には新鮮な野菜や果物が並べられている。
そんな街の一角。
一人の少女が、小さな建物の前で足を止めていた。
「……よし」
エマ・リーフェルトは、小さく息を吐いた。
その胸元には、銀色の指輪が紐に通されて下がっている。
中央には緑色の宝石。
周囲には、星と方位を表す刻印。
三年前に行方不明となった父親が、いつも身につけていたものだった。
数日前、エマはようやく父親を弔うことができた。
帰りを待ち続けた三年間。
もう二度と会えないという事実は、今でも胸を締めつける。
それでも、あの日から少しだけ変わったことがあった。
父親がどこにいるのかわからないまま、ただ待ち続ける日々は終わったのだ。
「……お父さん」
エマは指輪にそっと触れた。
「私、少しだけ頑張ってみるね」
そして、目の前の看板を見上げる。
――FAIRY TAIL。
妖精の尻尾。
父親の形見を探し出してくれた、小さな魔導士ギルド。
あの日、悲しみに暮れていた自分を温かく迎えてくれた人たちがいる場所だった。
エマは扉へ手を伸ばす。
そのとき。
「だから! これはこっちでいいだろ!」
「よくないと言っている!」
中から、聞き覚えのある声が響いた。
「……ふふっ」
思わず笑みが零れる。
どうやら、今日も賑やからしい。
エマは扉を開いた。
「おはようございます」
「あっ! エマさん!」
真っ先に気づいたのはメイビスだった。
机の向こうから顔を上げ、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「いらっしゃいませ! 今日はどうされたんですか?」
「先日は、本当にありがとうございました。改めてお礼をお伝えしたくて……」
「そんな! わざわざありがとうございます!」
その声に、イリスも振り返った。
「エマさん。おはようございます」
「おはようございます、イリスさん」
エマが頭を下げると、イリスは優しく微笑んだ。
「その後、いかがですか?」
「……はい。父のことも、無事に弔うことができました」
エマは胸元の指輪に触れる。
「まだ、寂しいですけど……少しずつ、前を向いていこうと思っています」
「……そうですか」
イリスは静かに頷いた。
「それなら、よかったです」
その言葉には、無理に励まそうとする響きはなかった。
ただ、エマの気持ちを受け止めるような、穏やかな声だった。
そのとき。
「おっ! エマじゃねえか!」
奥からユーリが顔を出した。
「ちょうどいいところに来たな!」
「……ユーリ」
すかさずプレヒトが低い声を出す。
「何がちょうどいいんだ?」
「いや、ほら! 書類の整理が大変でよ!」
「それを客人に頼むつもりか?」
「まだ何も言ってねえだろ!」
「顔に書いてある」
「なんだと!?」
いつものように言い合いを始める二人。
ウォーロッドは、その様子を穏やかに眺めていた。
「ふふっ。今日も元気だね」
エマは思わず笑ってしまった。
数日前と、何も変わらない。
この場所には、あの日と同じ温かさがあった。
――――――――――
第二幕 私にできること
「……あの、よろしければ」
エマが控えめに声をかけた。
「私にも、何かお手伝いできることはありませんか?」
「えっ?」
ユーリが目を丸くする。
「いいのか!?」
「ユーリ」
「わかってるって! 無理に頼むつもりはねえよ!」
慌てて言い直すユーリに、エマはくすりと笑った。
「大丈夫ですよ。今日は特に急ぎの用事もありませんから」
「ですが、お礼を伝えに来てくださったのに、お仕事までお願いするのは……」
イリスが少し申し訳なさそうに言う。
「いえ。私がやってみたいんです」
エマは机の上に積まれた書類を見つめた。
「こういう整理なら、少しはお役に立てると思います」
メイビスは嬉しそうに頷いた。
「それでは、お願いしてもいいですか?」
「はい!」
こうして、エマはギルドの仕事を手伝うことになった。
まず取りかかったのは、依頼書の整理だった。
現在受け付けている依頼。
すでに完了した依頼。
報酬の支払いが済んだもの。
それぞれを分け、わかりやすいようにまとめていく。
「……なるほど」
プレヒトが感心したように呟いた。
「随分と手際がいいな」
「ありがとうございます。父が探索に出かけるとき、地図や道具の記録を手伝っていたので」
「そうだったのか」
「はい。父は整理があまり得意ではなくて……」
エマは少し懐かしそうに笑った。
「放っておくと、同じ道具を何度も買ってきてしまうんです」
「そいつは困るな!」
ユーリが笑う。
「ユーリ。お前も人のことは言えんぞ」
「なんでだよ!?」
「昨日、同じ内容の依頼書を二枚作っただろう」
「あれは予備だ!」
「両方とも提出するつもりだったくせに」
「ぐっ……!」
エマは二人のやり取りを聞きながら、書類を揃えた。
「ユーリさん」
「お、おう?」
「書類は大切なものですから、次からは気をつけましょうね?」
にっこり。
穏やかな笑顔だった。
けれど。
「……はい」
ユーリはなぜか素直に頷いていた。
「……ふっ」
プレヒトが小さく笑う。
「なんだよ、その顔!」
「いや。お前にも、ちゃんと話を聞かせられる人間がいるんだなと思ってな」
「どういう意味だよ!」
ウォーロッドが楽しそうに笑った。
「エマさんがいてくれると、助かりそうだね」
「いえ、そんな……」
エマは照れたように微笑んだ。
その後も、作業は順調に進んだ。
エマが書類を分類し、プレヒトが内容を確認する。
イリスとウォーロッドは棚の整理を手伝い、メイビスは新しい依頼の掲示場所を考えていた。
ユーリはというと。
「よし! 俺は力仕事をするぜ!」
「では、この棚を少し動かしていただけますか?」
「任せろ!」
エマに頼まれ、張り切って棚を運んでいた。
しばらくして。
――コン、コン。
扉が叩かれた。
「はい! どうぞ!」
メイビスが声をかける。
入ってきたのは、買い物籠を持った中年の女性だった。
「あの、こちらで魔導士さんに仕事をお願いできると聞いたんですが……」
「はい! もちろんです!」
メイビスが笑顔で迎える。
女性は少し安心したように息を吐いた。
「実は、家の裏にある古い井戸の蓋が壊れてしまって……危ないので、直していただけないかと思いまして」
「なるほど。井戸の修理ですね」
メイビスが頷く。
その隣で、エマは机の上の紙に目を向けた。
「……あの、メイビスさん」
「はい?」
「依頼内容を、こちらに記録してもよろしいでしょうか?」
「あっ、お願いします!」
エマは依頼書を一枚取り出した。
「それでは、お名前とご住所を教えていただけますか?」
女性は少し驚いたように目を瞬かせた。
けれど、すぐに笑顔になる。
「あら、丁寧なのね」
「ありがとうございます」
エマは一つずつ確認しながら、必要な情報を書き込んでいった。
依頼の内容。
場所。
希望する作業。
危険な箇所の有無。
メイビスも横から補足し、報酬について相談する。
やがて、依頼の受付が終わった。
「それでは、よろしくお願いしますね」
「はい。お任せください!」
女性が帰っていくと、メイビスは嬉しそうにエマを見上げた。
「エマさん、すごいです!」
「えっ?」
「初めてなのに、とても丁寧でした!」
「いえ、メイビスさんが教えてくださったおかげです」
エマは少し照れながら答えた。
その様子を見ていたプレヒトが、静かに頷く。
「受付を任せられる人間がいると、仕事の効率も上がるな」
「だよな!」
ユーリが勢いよく同意する。
「これで俺も書類仕事から解放されるぜ!」
「ユーリさん?」
「……はい?」
「自分のお仕事は、きちんとしてくださいね?」
「……おう」
再び素直に頷くユーリ。
イリスは思わず口元を押さえた。
「……ふふっ」
「イリスまで笑うなよ!」
「すみません。つい……」
ギルドの中に、明るい笑い声が響いた。
――――――――――
第三幕 六人目の妖精
昼を過ぎる頃には、書類の整理も一段落していた。
机の上に積まれていた紙は、種類ごとにまとめられ、棚にも綺麗に収められている。
「いやー! 助かったぜ!」
ユーリが大きく伸びをした。
「これで明日からも仕事がしやすくなるな!」
「明日からも、きちんと整理すればな」
プレヒトが言う。
「わかってるって!」
そのやり取りを聞きながら、エマは小さく笑った。
そして、ふと周囲を見渡す。
まだ新しいギルド。
立派な設備が揃っているわけではない。
依頼の数も、それほど多くない。
それでも。
ここにいる人たちは、誰かのために働き、助け合い、笑い合っている。
エマは胸元の指輪に触れた。
父親が残してくれた、大切な宝物。
その指輪を探してもらったことが、すべての始まりだった。
「……あの、皆さん」
エマが声を上げる。
五人の視線が集まった。
「少し、お話ししてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです!」
メイビスが頷く。
エマは一度、深く息を吸った。
「私……皆さんに、とても感謝しています」
静かな声だった。
「父のことを見つけてくださったことも、あの日、温かく迎えてくださったことも……本当に嬉しかったです」
イリスは優しく微笑んだ。
エマは続ける。
「でも、今日ここへ来て、もう一つ思ったことがあるんです」
「もう一つ?」
メイビスが首を傾げる。
「はい」
エマは、少しだけ緊張した表情になった。
「私も……ここで、皆さんと一緒に働きたいんです」
その言葉に、ユーリが目を丸くした。
「おおっ!?」
「私は、強い魔導士ではありません」
エマは少し照れたように笑った。
「父から教わった灯火魔法と、簡単な防御魔法くらいしか使えませんし、魔物と戦った経験もほとんどありません」
けれど。
「今日、皆さんのお仕事をお手伝いして……私にも、できることがあるんだって思えたんです」
エマは机の上の依頼書を見つめた。
「誰かの困りごとを聞いて、それを解決できる人につなげることも、大切なお仕事なんですね」
「……はい」
メイビスが静かに頷いた。
「私は、父の帰りをずっと待っていました」
エマの声が、少しだけ揺れる。
「もう、父が帰ってくることはありません。でも……だからこそ、これからは自分で新しい道を選びたいんです」
胸元の指輪を握る。
「そして、もし許していただけるなら……」
エマは顔を上げた。
「私も、FAIRY TAILの仲間にしていただけませんか?」
少しの沈黙。
そして。
「もちろんです!!」
メイビスが満面の笑みで答えた。
「えっ……?」
「大歓迎です、エマさん!」
その声は、ギルドの中に明るく響いた。
「魔法が強いかどうかなんて、関係ありません!」
メイビスはエマの手を取る。
「誰かのために頑張りたいと思えること。それも、立派な魔導士の心だと思います!」
「メイビスさん……」
「それに、今日のお仕事、とっても助かりました!」
メイビスが笑う。
「これからも、ぜひ一緒に頑張ってください!」
「……はい!」
エマの瞳が潤んだ。
その横から、ユーリが勢いよく立ち上がる。
「よっしゃあ! 新しい仲間だ!!」
「騒がしいぞ、ユーリ」
プレヒトが呆れたように言う。
だが、その口元には小さな笑みが浮かんでいた。
「……歓迎する。これからよろしく頼む」
「はい! よろしくお願いします!」
ウォーロッドも穏やかに微笑む。
「これで、また賑やかになるね」
そして、イリスがエマの前へ歩み寄った。
「エマさん」
「はい」
「これからは、同じギルドの仲間ですね」
イリスは嬉しそうに微笑んだ。
「私たち、同い年ですし……仲良くしていただけたら嬉しいです」
「……こちらこそ!」
エマも笑顔で答える。
「よろしくお願いします、イリスさん!」
二人は、そっと握手を交わした。
「ようこそ、FAIRY TAILへ!」
メイビスが改めて笑顔で告げる。
エマは仲間たちの顔を見渡した。
優しくて、賑やかで、温かい人たち。
これからは、自分もその輪の中にいられる。
「……はい!」
その笑顔は、心から嬉しそうだった。
――――――――――
第四幕 広がる妖精の輪
「さて! 新しい仲間も増えたことだし!」
ユーリが勢いよく立ち上がった。
「早速、仕事だな!」
「お前は少し落ち着け」
プレヒトが言う。
「ちょうど新しい依頼が来ていますし、お願いしましょうか」
メイビスが先ほどの依頼書を手に取った。
「井戸の修理ですね。危険な場所もあるようですから、慎重にお願いします」
「任せろ!」
「ユーリさん、本当に大丈夫ですか?」
エマが少し心配そうに尋ねる。
「おう! こういうのは得意だぜ!」
「雷魔法で井戸を壊したりしないでくださいね?」
「しねえよ!?」
エマがにっこり笑う。
「それなら安心です」
「……なんか、もう信用されてねえ気がする」
ユーリが肩を落とした。
「普段の行いだな」
プレヒトが即答する。
「お前なあ!」
結局、ユーリとウォーロッドが依頼を担当することになった。
植物魔法で周囲の安全を確保し、ユーリが壊れた部材を運ぶ。
修理に必要な材料は依頼人と相談して用意することになった。
「じゃあ、行ってくるぜ!」
ユーリが扉へ向かう。
その背中に、エマが声をかけた。
「あっ、ユーリさん!」
「ん?」
「……お気をつけて!」
ユーリは一瞬だけ目を丸くした。
そして、にっと笑う。
「おう! 行ってくる!」
ウォーロッドも微笑んだ。
「行ってきます、エマさん」
「はい!」
二人が出ていく。
扉が閉まったあと、エマはしばらくその場に立っていた。
「……なんだか、不思議な気分です」
「どうしました?」
イリスが尋ねる。
「今まで、父を送り出すことは何度もありました。でも……」
エマは少し考えてから、微笑んだ。
「こうして仲間を送り出すのは、初めてなので」
「……そうですね」
イリスは静かに頷いた。
「でも、きっとすぐに慣れますよ」
「そうでしょうか?」
「はい。皆さん、いつも元気に帰ってきますから」
エマは小さく笑った。
「……それなら、安心ですね」
その後も、ギルドには何人かの人が訪れた。
依頼について尋ねる人。
魔導士ギルドができたと聞いて、様子を見に来た人。
中には、ほかの町から来た旅人もいた。
「へえ。ここが新しくできた魔導士ギルドか」
旅装の男性が、看板を見上げながら呟く。
「最近、マグノリアに新しいギルドができたって聞いてな」
「はい! FAIRY TAILです!」
メイビスが元気よく答える。
「魔導士の募集もしているのか?」
「もちろんです!」
「そうか。なら、知り合いにも教えてやろうかな」
男性はそう言って、笑顔で立ち去っていった。
エマはその背中を見送りながら、呟いた。
「……少しずつ、知られてきているんですね」
「はい!」
メイビスは嬉しそうに頷いた。
「まだまだ小さなギルドですけど、これからもっと大きくしていきたいです!」
「ふふっ。楽しみですね」
エマも笑った。
新しい仲間。
新しい仕事。
そして、これから出会う人たち。
FAIRY TAILの物語は、まだ始まったばかりだった。
――――――――――
終幕 おかえりなさい
夕暮れが近づいた頃。
ギルドの扉が勢いよく開いた。
「ただいまー!!」
元気な声が響く。
ユーリだった。
その後ろから、ウォーロッドも穏やかな表情で入ってくる。
「おかえりなさい!」
エマが笑顔で迎えた。
「おっ!」
ユーリが足を止める。
「なんだよ、いいじゃねえか!」
「えっ?」
「帰ってきたときに、誰かが迎えてくれるってのは!」
ユーリは嬉しそうに笑った。
「なあ、ウォーロッド!」
「ふふっ。そうだね」
ウォーロッドも頷く。
「エマさん、ただいま」
「はい。おかえりなさい、ウォーロッドさん」
その様子を見て、イリスも微笑んだ。
「依頼はどうでしたか?」
「ばっちりだぜ!」
ユーリが胸を張る。
「井戸の蓋も直したし、周りの危ないところも片づけてきた!」
「依頼人の方にも喜んでもらえたよ」
ウォーロッドが補足する。
「それはよかったです!」
エマは嬉しそうに頷いた。
「それでは、依頼完了の記録をつけますね」
「おう! 頼んだぜ!」
エマは机に向かい、依頼書に必要な情報を書き込んだ。
プレヒトが記録を確認し、頷いた。
「問題ないな。助かる」
「ありがとうございます」
エマは微笑んだ。
ほんの小さな仕事かもしれない。
けれど、確かに自分も、このギルドの一員として働いている。
そう思うと、胸の奥が温かくなった。
「よーし!」
ユーリが突然、声を上げた。
「今日はエマの歓迎会だ!」
「えっ!?」
エマが驚く。
「そんな、私のために……?」
「当たり前だろ! 新しい仲間が増えたんだからよ!」
「ふふっ。いいですね!」
メイビスが嬉しそうに賛成する。
「私も、お祝いしたいです!」
「では、食事の準備をしましょうか」
イリスが微笑む。
「僕も手伝うよ」
ウォーロッドが立ち上がる。
「ユーリ。お前も働けよ」
プレヒトが言う。
「わかってるって!」
いつもの賑やかな声が、ギルドに響いた。
エマは、その光景を静かに見つめていた。
数日前まで、自分はこの場所の外にいた。
父親の帰りを待ち続け、これからどう生きていけばいいのか、わからずにいた。
けれど今は。
「エマさん!」
メイビスが振り返る。
「一緒に準備しましょう!」
「……はい!」
エマは笑顔で頷いた。
胸元の指輪が、小さく揺れる。
父親の声が、ふと心に蘇った。
『道に迷っても、帰る場所だけは忘れるなよ』
――お父さん。
私は、まだ寂しいよ。
きっと、これからも何度だって思い出すと思う。
でもね。
新しい仲間ができたんだ。
優しくて、賑やかで、少し変わった人たち。
そして。
私にも、帰ってこられる場所ができたよ。
「エマ! こっちの皿も頼む!」
「はい! 今行きます!」
ユーリに呼ばれ、エマは笑顔で駆け寄った。
夕暮れの光が、窓から差し込んでいる。
笑い声が響く、小さなギルド。
その中に、また一人。
新しい仲間が加わった。
妖精の尻尾。
まだ生まれたばかりのギルドは、こうして少しずつ大きくなっていく。
やがて多くの魔導士たちが集い、数え切れないほどの物語が生まれる場所へ。
その未来は、まだ誰も知らない。
けれど、確かなことが一つだけあった。
今日から、この場所には六人の仲間がいる。
そして明日もまた、新しい出会いが待っているのだろう。
――第29話 完――
【こそこそ妖精話】
~新米受付係と自由な魔導士~
エマがFAIRY TAILに加入した、その日の夕食後。
机の上に残された依頼書を整理していると、ユーリがひょっこり顔を出した。
ユーリ「なあ、エマ!」
エマ「はい、なんでしょう?」
ユーリ「今日から仲間になったんだし、ひとつ頼みがあるんだけどよ!」
エマ「頼み、ですか?」
ユーリ「俺の書類仕事、半分くらいやってくれねえ?」
エマ「……」
ユーリ「……」
エマ「ユーリさん?」
ユーリ「お、おう?」
エマ「私、受付のお仕事は頑張りますけど……」
ユーリ「おう!」
エマ「ユーリさんのお仕事まで、全部引き受けるわけではありませんよ?」
ユーリ「全部じゃねえ! 半分だ!」
エマ「……半分でも駄目です」
ユーリ「即答!?」
エマ「でも、書き方がわからないところがあれば、お手伝いしますよ?」
ユーリ「おっ! マジか!」
エマ「はい。ですから、まずはこちらの報告書をご自分で書いてみましょう!」
ユーリ「……え?」
エマ「大丈夫です。私も隣で確認しますから!」
ユーリ「いや、待て! 俺はもう今日の仕事を終えたはずで……!」
プレヒト「終わっていないぞ」
ユーリ「げっ!? プレヒト!?」
プレヒト「その報告書は、まだ提出されていない」
エマ「そうだったんですね。では、ユーリさん。頑張りましょう!」
ユーリ「……お前ら、案外似た者同士じゃねえか?」
プレヒト「何か言ったか?」
エマ「何かおっしゃいました?」
ユーリ「……なんでもねえです」
こうして、FAIRY TAILの書類仕事は、少しだけ平和になった。
ただし。
ユーリの自由時間が増えたかどうかは、また別のお話。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。