妖精と聖剣使い   作:使い手なない

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第31話「雷と結界の出会い」

 

第一幕 街道の異変

 

 マグノリアの街から少し離れた街道に、穏やかな午後の日差しが降り注いでいた。

 

 道の両側には緑豊かな森が広がり、時折吹き抜ける風が木々の葉を揺らしている。

 

「いやー! 今日の仕事も楽勝だったな!」

 

 そんな街道を、上機嫌な声を響かせながら歩く青年がいた。

 

 ユーリ・ドレアー。

 

 先日、正式に魔導士ギルド『妖精の尻尾(FAIRY TAIL)』の一員となった彼は、今では雷魔法を使いこなし、依頼にも積極的に取り組んでいた。

 

「ふふっ。そうだね。でも、最後は少し危なかったんじゃないかな?」

 

 隣を歩くウォーロッド・シーケンが、穏やかに笑う。

 

「危なくねえって! あの魔物が急に飛びかかってきただけだろ?」

 

「それを危ないって言うんじゃないかな」

 

「細けえことは気にすんな!」

 

 今日の二人は、近隣の村から寄せられた魔物討伐の依頼を終えた帰りだった。

 

 村の畑を荒らしていた魔物を退治し、依頼人からも感謝された。

 

 報酬も無事に受け取り、あとはギルドへ戻るだけ。

 

「しっかし、最近は仕事も増えてきたよな!」

 

「そうだね。メイビスたちも喜んでいたよ」

 

「へへっ。そりゃそうだろ! 俺たちのギルドなんだからな!」

 

 ユーリは得意げに胸を張った。

 

 ブルースカルとの戦いを経て、マグノリアに誕生した新しい魔導士ギルド。

 

 まだまだ小さな組織ではあるものの、少しずつ依頼が集まり、仲間も増え始めている。

 

 つい五日前にも、新たな魔導士が二人加入したばかりだった。

 

「レオンの奴、今日も何か余計なこと言ってセリナに怒られてそうだな!」

 

「ふふっ。あの二人は本当に仲がいいね」

 

「そうかぁ? いつも喧嘩してる気がするけどな」

 

「それだけ、お互いをよく知っているんだと思うよ」

 

「へぇ。そんなもんかねぇ」

 

 他愛のない会話を交わしながら、二人は街道を進んでいく。

 

 その時だった。

 

「――やめてください!」

 

 遠くから、女性の声が響いた。

 

「……ん?」

 

 ユーリが足を止める。

 

 続いて、何かが激しくぶつかるような音。

 

 男たちの怒鳴り声。

 

 そして、馬のいななきが聞こえてきた。

 

「ウォーロッド!」

 

「うん。何かあったみたいだね」

 

 二人は顔を見合わせると、声のした方向へ走り出した。

 

 街道の先。

 

 木々に囲まれた少し開けた場所で、一台の荷馬車が立ち往生していた。

 

 その周囲を、武器を持った男たちが取り囲んでいる。

 

 盗賊だった。

 

 十人を超える男たちが、荷馬車を囲むようにして剣や斧を構えている。

 

 その中心に、一人の若い女性が立っていた。

 

 黒い髪を持つ、穏やかな顔立ちの女性。

 

 年齢はユーリたちと同じくらいだろうか。

 

 彼女は荷馬車を背にして、盗賊たちと向き合っていた。

 

 そして、その前方には――。

 

 淡い黄金色に輝く、半透明の壁が広がっていた。

 

「くそっ! 何なんだ、この壁は!」

 

 盗賊の一人が剣を振り下ろす。

 

 しかし、刃は光の壁に弾かれ、甲高い音を響かせた。

 

「何度やっても同じです」

 

 女性は静かに告げる。

 

「この人たちには、手を出させません」

 

「生意気な小娘が!」

 

 別の盗賊が横へ回り込もうとする。

 

 すると、女性が片手を動かした。

 

 新たな結界が生まれ、盗賊の進路を塞ぐ。

 

「ちっ! 魔導士かよ!」

 

 男が舌打ちした。

 

 荷馬車の陰では、商人らしい男性と、その家族と思われる人々が身を寄せ合っていた。

 

 女性は彼らを守るために戦っているらしい。

 

 だが、盗賊の数は多かった。

 

「おい! 後ろから回れ!」

 

「馬車の方を狙え!」

 

 盗賊たちは正面からの突破を諦め、複数の方向から攻撃を仕掛け始めた。

 

 女性は次々と結界を展開する。

 

 正面。

 

 右側。

 

 荷馬車の後方。

 

 そのすべてを守りながら、盗賊たちの動きにも注意を払っていた。

 

 しかし――。

 

「……っ!」

 

 彼女の額に、わずかな汗が浮かぶ。

 

 結界を広げれば、それだけ維持に魔力が必要になる。

 

 しかも、守るべき人々がいる以上、簡単に位置を変えることもできない。

 

「ははっ! いつまで持つかな!」

 

 盗賊の一人が笑った。

 

 その手には、赤く光る魔法の炎が生まれていた。

 

「こいつでも防げるか試してやるよ!」

 

 炎が放たれる。

 

 女性はすぐに結界を重ねた。

 

 爆発音。

 

 黄金色の光が揺れる。

 

 だが、結界は破られなかった。

 

「……まだです」

 

 女性は息を整えながら、男たちを見据えた。

 

「諦めるのは、あなたたちの方です」

 

 その声には、確かな強さがあった。

 

 しかし、盗賊たちは引き下がらない。

 

 再び攻撃を仕掛けようとした――その瞬間。

 

「おいおい!」

 

 街道に、威勢のいい声が響き渡った。

 

「大勢で一人を囲んで、何やってんだよ!」

 

 盗賊たちが振り返る。

 

 そこには、金髪の青年が立っていた。

 

 その隣には、穏やかな表情の青年もいる。

 

「何だ、てめえら!」

 

 盗賊の一人が怒鳴った。

 

 ユーリは肩を回しながら、不敵に笑う。

 

「通りすがりの魔導士だよ!」

 

 その手に、青白い雷が走った。

 

――――――――――

 

第二幕 雷鳴と緑の魔法

 

「魔導士だと!?」

 

 盗賊たちの間に動揺が走る。

 

 だが、その一人がすぐに声を荒らげた。

 

「二人増えたところで何だってんだ! まとめてやっちまえ!」

 

「おっと。そいつは聞き捨てならねえな!」

 

 ユーリが一歩踏み出す。

 

 その足元で、雷が弾けた。

 

「ウォーロッド! そっちは任せた!」

 

「うん。無茶はしないでね」

 

「わかってるって!」

 

 返事をするより早く、ユーリは地面を蹴った。

 

「なっ――!?」

 

 盗賊の一人が驚く。

 

 目の前にいたはずの青年が、一瞬で距離を詰めていた。

 

「遅え!」

 

 雷をまとった拳が、男の腹部に叩き込まれる。

 

「ぐはっ!」

 

 男は地面を転がり、そのまま動かなくなった。

 

「こ、この野郎!」

 

 別の盗賊が剣を振り上げる。

 

 しかし、ユーリは身をひねってそれをかわすと、手のひらから雷を放った。

 

「うわああっ!」

 

 男は感電して倒れ込む。

 

「へへっ! 次はどいつだ!」

 

 勢いよく叫ぶユーリ。

 

 その姿を見て、結界の内側にいた女性が目を見開いた。

 

「……雷の魔法?」

 

 だが、驚いている暇はなかった。

 

「こっちだ! 馬車を奪え!」

 

 数人の盗賊が、ユーリを避けて荷馬車へ向かおうとする。

 

 その足元で、突然地面が盛り上がった。

 

「うおっ!?」

 

 緑色の蔓が伸び、男たちの足首に絡みつく。

 

「な、何だこりゃ!」

 

「ふふっ。そちらには行かせないよ」

 

 ウォーロッドが片手を掲げていた。

 

 彼の魔力に応えるように、地面から次々と植物が伸びていく。

 

 蔓は盗賊たちの手足を絡め取り、武器を持つ腕までしっかりと拘束した。

 

「くそっ! 離せ!」

 

「暴れない方がいいよ。余計に絡まってしまうからね」

 

 ウォーロッドは穏やかに告げた。

 

 その様子を見た女性が、わずかに表情を緩める。

 

「……助けに来てくださったんですね」

 

「うん。もう大丈夫だよ」

 

 ウォーロッドが微笑んだ。

 

「僕たちも手伝うから」

 

「ありがとうございます」

 

 女性は丁寧に頭を下げる。

 

 そして、すぐに周囲へ目を向けた。

 

「でしたら、お願いがあります」

 

「何かな?」

 

「私は、この方たちを守ります。逃げようとする盗賊たちを、お願いできますか?」

 

「もちろん」

 

 ウォーロッドが頷く。

 

 その時、ユーリの声が飛んできた。

 

「おーい! そっちは大丈夫か!」

 

「ええ!」

 

 女性が答える。

 

「こちらは私が守ります! 安心して戦ってください!」

 

「おっ! そりゃ頼もしいな!」

 

 ユーリは笑った。

 

 そして、盗賊たちへ向き直る。

 

「よーし! だったら遠慮なくいくぜ!」

 

「ま、待て! こっちにはまだ――!」

 

 盗賊の言葉は最後まで続かなかった。

 

 青白い雷光が、街道を駆け抜けた。

 

――――――――――

 

第三幕 三人の魔導士

 

 戦況は、あっという間に変わり始めていた。

 

 ユーリが正面から盗賊たちを押し返し、ウォーロッドが逃走経路を塞ぐ。

 

 そして、女性の結界が商人たちを守り続ける。

 

 それぞれの魔法が、見事に役割を果たしていた。

 

「くそっ! 何なんだ、こいつら!」

 

 盗賊の一人が叫ぶ。

 

 仲間たちは次々と倒れ、逃げようとした者も植物に捕らえられていた。

 

 しかし、その時。

 

「まだ終わっちゃいねえ!」

 

 先ほど炎を使っていた男が、再び魔力を集め始めた。

 

 その両手には、先ほどより大きな炎が渦巻いている。

 

「まとめて吹き飛ばしてやる!」

 

 男が狙ったのは、ユーリではなかった。

 

 荷馬車だった。

 

「――っ!」

 

 女性が反応する。

 

 炎が放たれるより早く、彼女は両手を前へ突き出した。

 

「結界!」

 

 黄金色の光が広がる。

 

 だが、今度の結界は荷馬車を覆うものではなかった。

 

 炎を放とうとしていた男の周囲に、四角い光の壁が現れたのだ。

 

「なっ!?」

 

 男が驚く。

 

 次の瞬間、放たれた炎が結界の内側に衝突した。

 

 轟音。

 

 閉じ込められた炎が弾け、男は自分の魔法の衝撃で吹き飛ばされた。

 

「ぐああっ!」

 

 男が地面に倒れ込む。

 

 女性は結界を解除し、静かに息を吐いた。

 

「……危ないところでした」

 

 その光景を見ていたユーリが、思わず声を上げた。

 

「おおっ! すげえじゃねえか!」

 

「え?」

 

「今の! 相手の魔法を閉じ込めたんだろ!?」

 

「ええ。結界は、守るためだけの魔法ではありませんから」

 

 女性は少しだけ微笑んだ。

 

「使い方次第で、相手の動きを封じることもできます」

 

「へぇー!」

 

 ユーリは感心したように目を輝かせる。

 

「面白え魔法だな!」

 

「ふふっ。ありがとうございます」

 

 だが、その直後。

 

「ユーリ! 後ろ!」

 

 ウォーロッドの声が響いた。

 

「ん?」

 

 振り返ると、倒れたふりをしていた盗賊が、短剣を構えて飛びかかってきていた。

 

「死ねえっ!」

 

「おっと!」

 

 ユーリが雷をまとおうとした、その瞬間。

 

 黄金色の壁が、二人の間に出現した。

 

 短剣が結界に弾かれる。

 

「なっ!?」

 

 盗賊が体勢を崩した。

 

「隙あり!」

 

 ユーリの拳が、男の顔面に叩き込まれる。

 

「ぶへっ!」

 

 盗賊は地面に倒れ、今度こそ動かなくなった。

 

「……ふぅ!」

 

 ユーリが息を吐く。

 

 そして、女性へ振り返った。

 

「助かったぜ!」

 

「いえ。こちらこそ、助けていただいていますから」

 

「へへっ! そうか!」

 

 ユーリは笑う。

 

 だが、女性は少しだけ困ったように首を傾げた。

 

「でも……」

 

「ん?」

 

「戦っている最中に、あまりよそ見をしない方がいいと思いますよ?」

 

「……え?」

 

「今の方、ずっと後ろで機会をうかがっていましたから」

 

「うっ……」

 

 ユーリが言葉に詰まる。

 

 ウォーロッドはその様子を見て、くすりと笑った。

 

「ふふっ。確かに、そうだったね」

 

「ウォーロッドまで言うなよ!」

 

「でも、気をつけないとね」

 

「わかってるって!」

 

 ユーリが不満そうに頬を膨らませる。

 

 その姿に、女性は思わず笑みをこぼした。

 

 先ほどまでの緊張が、少しずつ解けていく。

 

 そして、残っていた盗賊たちも、ほどなくして全員が捕らえられた。

 

 街道に、ようやく静けさが戻った。

 

――――――――――

 

第四幕 妖精の尻尾

 

「本当に、ありがとうございました!」

 

 商人の男性が、深々と頭を下げた。

 

 その後ろでは、家族たちも安堵した表情を浮かべている。

 

「いやいや! 気にすんなって!」

 

 ユーリは笑いながら手を振った。

 

「困ってる奴を助けるのは、当たり前だろ!」

 

「ふふっ。そうだね」

 

 ウォーロッドも頷く。

 

 盗賊たちは植物の蔓と結界で拘束され、逃げられない状態になっていた。

 

 あとは街へ連れていき、治安を担当する者たちに引き渡せばいい。

 

 その時、商人の男性が思い出したように尋ねた。

 

「あの……皆さんは、どちらの魔導士様なのでしょうか?」

 

「おっ! よくぞ聞いてくれた!」

 

 ユーリが得意げに胸を張る。

 

「俺たちはな!」

 

 そして、勢いよく親指を立てた。

 

「マグノリアの魔導士ギルド! 『妖精の尻尾(FAIRY TAIL)』だ!」

 

「妖精の……尻尾?」

 

「ああ! 最近できたばっかりのギルドだけどな!」

 

 ユーリは嬉しそうに続ける。

 

「腕のいい魔導士が揃ってるんだぜ!」

 

「そうだったんですか!」

 

 商人の男性が目を輝かせた。

 

「ブルースカルがいなくなった後、新しいギルドができたとは聞いていましたが……!」

 

「へへっ! そいつが俺たちだ!」

 

「ぜひ、ほかの商人たちにも伝えさせてください!」

 

「おう! よろしく頼むぜ!」

 

 ユーリは満足そうに笑った。

 

 そのやり取りを、黒髪の女性が興味深そうに見つめていた。

 

「……妖精の尻尾」

 

 小さく、その名を繰り返す。

 

「聞いたことがあります」

 

「おっ! そうなのか?」

 

「ええ。マグノリアに新しい魔導士ギルドができたと」

 

 女性は頷いた。

 

「でも、こんなに親切な方たちがいるとは知りませんでした」

 

「へへっ! そうだろ!」

 

「ユーリ、あんまり調子に乗らない方がいいよ」

 

「何だよ! 褒められてんだからいいだろ!」

 

 ウォーロッドの言葉に、ユーリが口を尖らせる。

 

 女性はそんな二人を見て、また小さく笑った。

 

「そういえば、まだお名前を聞いていませんでしたね」

 

「ああ、そうだったな!」

 

 ユーリは自分を指さした。

 

「俺はユーリ・ドレアー!」

 

「僕はウォーロッド・シーケン。よろしくね」

 

「はい」

 

 女性は丁寧に頭を下げた。

 

「私はリタといいます」

 

「リタか! よろしくな!」

 

「よろしくお願いします」

 

 こうして、三人は改めて互いの名前を知った。

 

 しばらくして、商人たちと協力して盗賊を街へ連行する準備が整った。

 

 その道中、ユーリはリタに尋ねた。

 

「なあ、リタ。お前も魔導士なんだろ?」

 

「ええ」

 

「どっかのギルドに入ってんのか?」

 

「いいえ。今は、どこにも所属していません」

 

「へぇ!」

 

 ユーリは少し考えた後、にやりと笑った。

 

「だったらさ!」

 

 そして、何でもないことのように言った。

 

「うちに来ねえか?」

 

「……え?」

 

 リタが目を瞬かせる。

 

「妖精の尻尾だよ! お前、結構強いしさ!」

 

「えっと……」

 

「それに、いい奴そうだしな!」

 

 あまりにも真っ直ぐな言葉だった。

 

 リタは一瞬驚いた後、くすりと笑った。

 

「ずいぶん突然ですね」

 

「そうか?」

 

「はい。まだ会ったばかりですよ?」

 

「でも、一緒に戦っただろ?」

 

 ユーリは当然のように答える。

 

「それで十分じゃねえか!」

 

「……ふふっ」

 

 リタは思わず笑ってしまった。

 

 隣ではウォーロッドも微笑んでいる。

 

「もちろん、無理にとは言わないよ」

 

 彼は穏やかに付け加えた。

 

「でも、よかったら一度、僕たちのギルドを見に来ないかな?」

 

「……そうですね」

 

 リタは少しだけ考えた。

 

 そして、ゆっくりと頷く。

 

「ぜひ、見学させてください」

 

「よっしゃ!」

 

 ユーリが嬉しそうに拳を握った。

 

「決まりだな!」

 

「まだ加入するとは言っていませんよ?」

 

「おっと!」

 

 ウォーロッドが吹き出す。

 

「ふふっ。ユーリは少し気が早いね」

 

「いいじゃねえか! きっと気に入るって!」

 

 そんな二人を見ながら、リタは穏やかに笑った。

 

 不思議な人たちだ。

 

 初めて会ったばかりなのに、なぜか昔から知っているような気がする。

 

 そして、彼らが所属するというギルドにも、少しだけ興味が湧いていた。

 

――――――――――

 

終幕 九人目の仲間

 

 夕方。

 

 マグノリアの街へ戻った三人は、盗賊たちを治安を担当する者たちに引き渡した。

 

 商人たちも事情を説明し、街道で繰り返されていた盗賊被害の一件が、ようやく解決へ向かった。

 

 盗賊団を捕らえた魔導士たちの名前も、そこで記録されることになった。

 

 そして――。

 

「ただいまー!」

 

 ユーリが勢いよくギルドの扉を開けた。

 

「お帰りなさい、ユーリさん!」

 

 最初に声をかけたのは、受付にいたエマだった。

 

「ウォーロッドさんも、お疲れさまです!」

 

「ただいま、エマ」

 

 ウォーロッドが微笑む。

 

 その奥では、プレヒトが依頼書を整理していた。

 

「ずいぶん遅かったな」

 

「ああ! ちょっと色々あってな!」

 

「……また何か騒ぎを起こしたのか?」

 

「違えよ!」

 

 ユーリが即座に言い返す。

 

「今回は人助けだって!」

 

「今回は、か」

 

「おい!」

 

 そんなやり取りに、室内から笑い声が上がった。

 

「相変わらず賑やかだねえ」

 

 椅子に腰かけていたレオンが、面白そうに笑っている。

 

 その隣では、セリナが腕を組んでいた。

 

「で? 何があったのよ?」

 

「聞いて驚け!」

 

 ユーリが胸を張る。

 

「街道にいた盗賊団を、まとめて捕まえてきたんだぜ!」

 

「盗賊団!?」

 

 エマが驚いた。

 

「大丈夫だったんですか!?」

 

「もちろん!」

 

「ふふっ。実はね、僕たちだけじゃないんだ」

 

 ウォーロッドが、後ろへ目を向けた。

 

 そこには、少し遠慮がちに立つリタの姿があった。

 

「あの……お邪魔します」

 

 黒髪の女性が、丁寧に頭を下げる。

 

 すると、奥から明るい声が響いた。

 

「新しいお客様ですか?」

 

 メイビスだった。

 

 その隣には、黒髪の少女が立っている。

 

 青と金の異なる瞳を持つ、聖剣使いの少女。

 

 イリス・アストレア。

 

「お帰りなさい、ユーリさん、ウォーロッドさん」

 

 イリスは二人へ微笑みかけると、リタへ視線を向けた。

 

「初めまして。私はイリス・アストレアと申します」

 

「あ、初めまして。リタです」

 

「リタさんですね。よろしくお願いします」

 

 イリスは自然に微笑んだ。

 

 続いて、メイビスが嬉しそうに歩み寄る。

 

「私はメイビス・ヴァーミリオンです! 妖精の尻尾のマスターをしています!」

 

「えっ?」

 

 リタが驚く。

 

 目の前にいるのは、自分よりもずっと幼く見える少女だった。

 

「あなたが……マスター?」

 

「はい!」

 

 メイビスは元気よく頷く。

 

「よろしくお願いします、リタさん!」

 

「……ふふっ。こちらこそ」

 

 リタは柔らかく微笑んだ。

 

 それから、ユーリとウォーロッドが街道での出来事を説明した。

 

 盗賊団に襲われていた商人たち。

 

 偶然通りかかり、結界魔法で彼らを守っていたリタ。

 

 そして、三人で協力して盗賊たちを捕縛したこと。

 

「へぇー! 結界魔法か!」

 

 セリナが興味深そうに身を乗り出した。

 

「それ、かなり便利そうね!」

 

「ええ。守ることが得意な魔法ですから」

 

 リタが答える。

 

「でも、使い方によっては攻撃にも応用できます」

 

「面白そう!」

 

 セリナの目が輝いた。

 

 レオンも感心したように頷く。

 

「へぇ。僕の糸魔法とも相性がよさそうだね」

 

「レオン、また変なこと考えてないでしょうね?」

 

「ひどいなあ。真面目に言ってるのに」

 

「どうだか」

 

 そんな二人を見て、リタは小さく笑った。

 

 すると、エマが温かいお茶を運んできた。

 

「どうぞ、リタさん!」

 

「ありがとうございます」

 

「ゆっくりしていってくださいね!」

 

 エマは嬉しそうに微笑んだ。

 

 その姿に、リタも自然と表情を和らげる。

 

 賑やかな人たち。

 

 けれど、不思議と居心地が悪くない。

 

 誰もが自然に言葉を交わし、笑い合っている。

 

 まるで、大きな家族のようだった。

 

「……素敵なギルドですね」

 

 リタがぽつりと呟く。

 

 その言葉を、メイビスは聞き逃さなかった。

 

「そう思っていただけますか?」

 

「はい」

 

 リタは頷く。

 

「皆さん、とても楽しそうで……」

 

 少しだけ言葉を探してから、続けた。

 

「温かい場所だと思いました」

 

 メイビスは、ぱっと笑顔になった。

 

「ありがとうございます!」

 

 そして、両手を胸の前で合わせる。

 

「私たちは、ここを誰もが帰ってこられる場所にしたいんです!」

 

「帰ってこられる場所……」

 

 リタは、その言葉を繰り返した。

 

 ユーリが隣から声をかける。

 

「な? いいギルドだろ!」

 

「ええ」

 

 リタは笑った。

 

「本当に」

 

 少しの沈黙。

 

 そして、彼女はメイビスへ向き直った。

 

「あの……」

 

「はい?」

 

「もし、よろしければ……」

 

 リタは一度、ギルドの仲間たちを見回した。

 

 ユーリ。

 

 ウォーロッド。

 

 プレヒト。

 

 エマ。

 

 レオンとセリナ。

 

 イリス。

 

 そして、メイビス。

 

 皆が、彼女の言葉を待っていた。

 

「私も、このギルドの仲間に加えていただけませんか?」

 

 一瞬。

 

 室内が静かになった。

 

 そして――。

 

「もちろんです!!」

 

 メイビスの声が響き渡った。

 

「大歓迎ですよ、リタさん!」

 

「本当ですか?」

 

「はい!」

 

 メイビスは満面の笑みを浮かべる。

 

「一緒に、素敵なギルドにしていきましょう!」

 

「……ありがとうございます」

 

 リタは深く頭を下げた。

 

 その表情には、安堵と喜びが浮かんでいた。

 

「よっしゃあ!」

 

 ユーリが両手を上げる。

 

「これでまた仲間が増えたな!」

 

「ふふっ。よかったね、ユーリ」

 

 ウォーロッドが微笑む。

 

「お前も嬉しいだろ!」

 

「もちろんだよ」

 

 そんな二人の横で、イリスも穏やかに微笑んでいた。

 

「よろしくお願いします、リタさん」

 

「こちらこそ、イリスさん」

 

 そして、メイビスが思い出したように声を上げた。

 

「あっ! そうでした!」

 

「ん?」

 

 ユーリが振り返る。

 

「ギルドマークです!」

 

 メイビスは嬉しそうに説明した。

 

「私たちの仲間になった証として、好きな場所に刻めるんですよ!」

 

「ギルドマーク……」

 

 リタが目を瞬かせる。

 

 すると、セリナが自分の左上腕を見せた。

 

「ほら! これよ!」

 

 そこには、深紅の妖精の紋章が刻まれていた。

 

「色も場所も自由なんだって!」

 

「素敵ですね」

 

 リタは目を細める。

 

 少し考えた後、静かに微笑んだ。

 

「では、私もお願いしていいですか?」

 

「もちろんです!」

 

 メイビスが元気よく答える。

 

 やがて、リタの身体にも、新しい妖精の証が刻まれた。

 

 それは、彼女がこの場所の仲間になった証。

 

 まだ始まったばかりの、小さなギルド。

 

 けれど、その輪は確かに広がっていた。

 

「それじゃあ!」

 

 ユーリが声を張り上げる。

 

「新しい仲間を歓迎して、今日は盛り上がろうぜ!」

 

「あなた、いつもそればっかりね」

 

 セリナが呆れたように言う。

 

「いいじゃねえか! めでたいんだから!」

 

「ふふっ。確かに、今日はお祝いですね」

 

 リタが笑った。

 

「おっ! リタはわかってるな!」

 

「でも、あまり騒ぎすぎてはいけませんよ?」

 

「……え?」

 

「皆さん、明日もお仕事があるのでしょう?」

 

 にっこりと微笑むリタ。

 

 その穏やかな声には、不思議と逆らいにくいものがあった。

 

「お、おう……」

 

 ユーリが思わず頷く。

 

 その様子を見て、ウォーロッドが吹き出した。

 

「ふふっ。ユーリが大人しくなったね」

 

「うるせえ!」

 

 ギルドに笑い声が広がった。

 

 メイビスも、イリスも、エマも。

 

 そして、新たに仲間となったリタも。

 

 皆が笑っていた。

 

 こうして、妖精の尻尾に九人目の仲間が加わった。

 

 街道での盗賊団捕縛という出来事は、やがて商人たちの口から各地へと伝わっていくことになる。

 

 人々を守る、新しい魔導士ギルド。

 

 その名は、少しずつ広まり始めていた。

 

 そして、この日生まれた一つの出会いが、いつか大切な絆へと変わっていくことを――。

 

 この時の彼らは、まだ知らなかった。

 

 ただ今は、新しい仲間との出会いを喜びながら。

 

 妖精たちは、賑やかな夕暮れを過ごしていた。

 

 ――第31話 完――

 




【こそこそ妖精話】

~雷の魔導士と結界の魔導士~

 新しい仲間を迎えた、その日の夜。

 歓迎会の賑わいが少し落ち着いた頃。

 ギルドの外で夜風に当たっていたユーリのもとへ、リタがやってきた。

リタ「ここにいたんですね、ユーリさん」

ユーリ「おう、リタ! どうした?」

リタ「少し、お礼を言いたくて」

ユーリ「礼? 盗賊のことか?」

リタ「はい。あの時、助けてくださってありがとうございました」

ユーリ「何だよ、改まって! 気にすんなって!」

リタ「ふふっ。そう言うと思いました」

ユーリ「それに、お前だって俺を助けてくれただろ?」

リタ「そうですね。後ろから襲われていましたから」

ユーリ「うっ……!」

リタ「戦っている最中によそ見をするのは、危ないですよ?」

ユーリ「わ、わかってるって!」

リタ「本当ですか?」

ユーリ「本当だよ!」

リタ「ふふっ。なら、安心ですね」

ユーリ「……何か、お前には調子狂わされるな」

リタ「あら。そうですか?」

ユーリ「絶対わかってて言ってるだろ!」

リタ「さあ、どうでしょう?」

ユーリ「くそっ……!」

 リタは楽しそうに笑った。

 そんな彼女を見て、ユーリもつられるように笑う。

ユーリ「ま、何にせよ! これからよろしくな、リタ!」

リタ「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

ユーリ「困ったことがあったら、何でも言えよ!」

リタ「ありがとうございます。頼りにしていますね」

ユーリ「おう! 任せとけ!」

リタ「では、早速一つお願いしてもいいですか?」

ユーリ「おっ! 何だ?」

リタ「明日から、戦闘中によそ見をしないでくださいね?」

ユーリ「またそれかよ!!」

 夜のギルドに、ユーリの声が響き渡った。

 ――どうやら、新しい仲間は思っていた以上に手強いらしい。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。
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