妖精と聖剣使い   作:使い手なない

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第34話「友達だから」

 

第一幕 胸に残る故郷

 

 妖精の尻尾に新しい仲間が加わってから、数日が過ぎた。

 

 マグノリアの街には、今日も穏やかな朝が訪れている。

 

「おーい、ダン! そっちの依頼、もう決めたのか?」

 

「おう! 今日はレオンと一緒に行ってくるぜ!」

 

「へえ、どんな仕事だ?」

 

「街道に出る魔物の討伐だよ。商人たちが困ってるらしい」

 

 掲示板の前では、ユーリとダンが楽しそうに話していた。

 

 その隣で、レオンが依頼書を片手に肩をすくめる。

 

「ま、俺がいるから大丈夫だろ」

 

「おいおい! 俺だってちゃんと戦えるんだぜ?」

 

「知ってるって。ただ、森を燃やすなよ?」

 

「燃やさねえよ!」

 

 そんな二人のやり取りに、周囲から笑い声が上がる。

 

 受付では、エマとミーナが依頼書の整理を進めていた。

 

「こちらの報酬は、依頼達成後にお渡しする形ですね」

 

「ええ。依頼人の方にも確認しておきます」

 

「ありがとうございます、ミーナさん」

 

 少し離れたテーブルでは、プレヒトが帳簿を確認し、ウォーロッドが植物に関する依頼の相談を受けている。

 

 セリナはボルクと護衛依頼について話し合い、リタはユーリたちの騒ぎを眺めながら楽しそうに笑っていた。

 

 そして、そんな賑やかなギルドホールの片隅で。

 

 イリス・アストレアは、一冊の本を開いていた。

 

「……やはり、ありませんね」

 

 小さく呟き、ページをめくる。

 

 それは、マグノリアの古い書店で手に入れた魔法に関する書物だった。

 

 珍しい魔法や、遠い土地に伝わる伝承について記されている。

 

 しかし、イリスが探している情報は見つからなかった。

 

 異世界。

 

 別の世界から訪れた人間。

 

 そして、世界を越える方法。

 

 この世界へ来てから、イリスは機会があるたびに、それらに関する手がかりを探していた。

 

 けれど、これまでに得られた情報はほとんどない。

 

「……ふぅ」

 

 本を閉じ、窓の外へ目を向ける。

 

 青く澄んだ空。

 

 石畳の道を行き交う人々。

 

 今では、すっかり見慣れたマグノリアの景色。

 

 この街で過ごす日々は、とても楽しかった。

 

 天狼島でメイビスと出会い、ユーリたちと冒険し、ブルースカルと戦った。

 

 そして今、妖精の尻尾には十二人の仲間がいる。

 

 自分にとって、この場所が大切な居場所になっていることは間違いない。

 

 それでも。

 

 故郷へ帰る方法を探したいという願いは、今も胸の中にあった。

 

「……そろそろ、でしょうか」

 

 イリスは静かに呟いた。

 

 ギルドも、少しずつ安定してきた。

 

 仲間たちはそれぞれの力で依頼をこなし、街の人々からの信頼も得ている。

 

 もちろん、まだ始まったばかりのギルドだ。

 

 けれど、以前のように全員が揃っていなければ何もできない、という状況ではなくなっていた。

 

 今なら、しばらく旅に出ることもできるかもしれない。

 

 そう考えた時だった。

 

「イリスさん!」

 

 聞き慣れた明るい声が響いた。

 

 顔を上げると、メイビスがこちらへ歩いてきていた。

 

「メイビスさん。おはようございます」

 

「おはようございます! 何を読んでいたんですか?」

 

「魔法についての本ですよ。少し、調べたいことがありまして」

 

「調べたいこと?」

 

 メイビスは興味深そうに首を傾げる。

 

 イリスは一瞬だけ迷い、それから微笑んだ。

 

「……私の故郷について、です」

 

 その言葉を聞いたメイビスは、静かに目を瞬かせた。

 

「……そうだったんですね」

 

 イリスは頷く。

 

「はい。実は、そろそろ本格的に帰る方法を探そうかと考えているんです」

 

 メイビスは、少しだけ驚いたようにイリスを見つめた。

 

 そして。

 

「イリスさん」

 

「はい?」

 

「今日、少しお時間をいただいてもいいですか?」

 

 その表情は、どこか真剣だった。

 

――――――――――

 

第二幕 マスターの提案

 

 昼過ぎ。

 

 イリスとメイビスは、マグノリアの街を歩いていた。

 

 ギルドを出る前、メイビスはプレヒトたちに少し外出することを伝えていた。

 

 今日は急ぎの用事もなく、ギルドの仕事は仲間たちに任せられる。

 

「それにしても、いいお天気ですね!」

 

 メイビスが青空を見上げる。

 

「そうですね。お散歩にはちょうどいい日です」

 

「ふふっ。イリスさんとこうして歩くのも、久しぶりな気がします!」

 

「そうでしょうか? お祭りの時も一緒でしたよ?」

 

「あっ、そうでした!」

 

 二人は顔を見合わせて笑った。

 

 やがて、街の喧騒から少し離れた小高い丘へとたどり着く。

 

 そこからは、マグノリアの街並みを一望することができた。

 

「わあ……!」

 

 メイビスが嬉しそうに声を上げる。

 

「ここ、いい場所ですね!」

 

「はい。以前、依頼の帰りに見つけたんです」

 

 イリスは穏やかに微笑んだ。

 

「景色が綺麗なので、気に入っているんですよ」

 

「イリスさんらしいですね!」

 

 二人は丘の上に並んで腰を下ろした。

 

 心地よい風が、草原を優しく揺らしていく。

 

 しばらく景色を楽しんだ後、メイビスが口を開いた。

 

「……イリスさん」

 

「はい?」

 

「朝のお話なんですけど」

 

 イリスは、メイビスへ顔を向けた。

 

「故郷へ帰る方法を、本格的に探そうと思っているんですよね?」

 

「はい」

 

 イリスは静かに頷いた。

 

「この世界へ来てから、ずっと気になっていたことですから」

 

「何か、手がかりは見つかったんですか?」

 

「いえ。残念ながら、まだ何も」

 

 イリスは苦笑する。

 

「本を調べたり、旅先で話を聞いたりはしていたのですが……異世界に関する情報は、思っていた以上に少ないですね」

 

「そうなんですね……」

 

 メイビスは少し考え込む。

 

 やがて、顔を上げた。

 

「それなら、ほかの町へ行ってみるのはどうでしょう?」

 

「ほかの町、ですか?」

 

「はい! マグノリアにはない本や記録が、別の町にはあるかもしれません!」

 

「……確かに、そうですね」

 

 イリスは頷いた。

 

「私も、しばらく旅に出てみようかと考えていたところなんです」

 

「やっぱり!」

 

 メイビスが嬉しそうに笑う。

 

 そして、少し身を乗り出した。

 

「だったら、私にいい考えがあります!」

 

「いい考え?」

 

「歴史のある魔導士ギルドを訪ねるんです!」

 

 メイビスの瞳が輝く。

 

「長く活動しているギルドなら、古い魔法の記録や、珍しい出来事についての情報が残っているかもしれません!」

 

「なるほど……」

 

 イリスは感心したように頷いた。

 

「確かに、魔導士の方々なら、普通の書物には載っていないことをご存じかもしれませんね」

 

「それに!」

 

 メイビスは人差し指を立てる。

 

「私も、ほかのギルドのマスターさんにお会いしてみたいんです!」

 

「メイビスさんが?」

 

「はい!」

 

 メイビスは元気よく頷いた。

 

「妖精の尻尾、まだできたばかりのギルドです。ほかのギルドがどんなふうに活動しているのか、どんなことを大切にしているのか……きっと、勉強になると思うんです!」

 

 その言葉に、イリスは思わず微笑んだ。

 

 メイビスは、ただ友達と一緒に過ごしているだけではない。

 

 FAIRY TAILのマスターとして、ギルドの未来を考えている。

 

「……素敵な考えですね」

 

「えへへ。ありがとうございます!」

 

 メイビスは照れくさそうに笑った。

 

 そして、何でもないことのように続けた。

 

「だから、私も一緒に行きます!」

 

「……はい?」

 

 イリスは思わず聞き返した。

 

「メイビスさんも、ですか?」

 

「もちろんです!」

 

 メイビスは満面の笑みを浮かべた。

 

「イリスさんの故郷へ帰る方法、一緒に探しましょう!」

 

――――――――――

 

第三幕 友達だから

 

「……ですが」

 

 イリスは少し困ったように微笑んだ。

 

「メイビスさんは、妖精の尻尾のマスターですよ?」

 

「はい!」

 

「ギルドを長い間留守にするのは、難しいのではありませんか?」

 

 その問いに、メイビスは真剣な表情で頷いた。

 

「もちろん、何も考えずに出発するつもりはありません!」

 

 そして、指を折りながら説明し始める。

 

「まずは皆さんに相談して、私たちがいない間のことを決めます。それから、今受けている依頼の確認も必要ですね!」

 

「ふふっ。ずいぶん考えているんですね」

 

「当然です! 私、マスターですから!」

 

 胸を張るメイビス。

 

 その姿が微笑ましくて、イリスは小さく笑った。

 

「そうでしたね」

 

「それに、ユーリたちもいます!」

 

 メイビスは続ける。

 

「プレヒトもウォーロッドもいますし、新しい仲間たちだって、皆さん頑張ってくれています!」

 

「……はい」

 

「だから、きちんと準備すれば、少しくらいギルドを離れても大丈夫だと思うんです!」

 

 イリスは静かに頷いた。

 

 確かに、今の妖精の尻尾には頼れる仲間たちがいる。

 

 ユーリの行動力。

 

 プレヒトの冷静な判断。

 

 ウォーロッドの穏やかな人柄。

 

 そして、最近加わった仲間たちも、それぞれの役割を見つけ始めている。

 

 皆なら、きっと大丈夫だろう。

 

 それでも、イリスには一つ気になることがあった。

 

「……メイビスさん」

 

「はい?」

 

「どうして、そこまでしてくださるんですか?」

 

 メイビスは、きょとんとした。

 

「どうして、ですか?」

 

「はい。もちろん、一緒に来ていただけるのは嬉しいです。でも、これは元々、私自身の問題ですから」

 

 イリスは少しだけ視線を落とす。

 

「メイビスさんに、そこまでしていただくのは……」

 

「イリスさん!」

 

 その言葉を遮るように、メイビスが声を上げた。

 

 イリスが顔を上げる。

 

 そこには、いつもと変わらない笑顔があった。

 

「決まってるじゃないですか!」

 

 メイビスは、にっこりと笑った。

 

「私たち、友達ですから!」

 

「…………」

 

 イリスは、思わず言葉を失った。

 

「イリスさんが困っているなら、私も力になりたいんです!」

 

 メイビスは、当たり前のことを話すように続ける。

 

「それに、イリスさんは今まで、何度も私たちを助けてくれました!」

 

「それは……」

 

「天狼島でも、マグノリアでも!」

 

 メイビスの声は明るかった。

 

「だから今度は、私にもお手伝いさせてください!」

 

 イリスは、目の前の少女を見つめた。

 

 天狼島で出会った頃から、メイビスは変わらない。

 

 好奇心旺盛で、明るくて。

 

 時々、驚くほど大胆なことを言い出して。

 

 そして何より、仲間を大切にする少女だった。

 

「……ふふっ」

 

 イリスの口元に、自然と笑みが浮かぶ。

 

「そうですね」

 

「はい!」

 

「私たち、友達ですものね」

 

 その言葉に、メイビスの表情がぱっと輝いた。

 

「はいっ!」

 

 イリスは、改めてメイビスへ向き直った。

 

「それでは……お願いしてもいいでしょうか?」

 

「もちろんです!」

 

 メイビスは勢いよく頷いた。

 

「一緒に探しましょう! イリスさんの故郷へ帰る方法!」

 

「はい。ありがとうございます、メイビスさん」

 

 心地よい風が、二人の髪を揺らした。

 

 イリスは、青空を見上げる。

 

 これまで、一人で探そうとしていた故郷への道。

 

 その道を、これからは友達と一緒に歩いていく。

 

 そう考えるだけで、これからの旅が少し楽しみになった。

 

――――――――――

 

終幕 二人で歩む道

 

「それで、イリスさん!」

 

「はい?」

 

「まずは、どこへ行きましょうか!」

 

 メイビスが楽しそうに尋ねる。

 

「そうですね……」

 

 イリスは少し考え込んだ。

 

「歴史のある魔導士ギルド、というお話でしたよね?」

 

「はい!」

 

「でしたら、メイビスさんにお任せしてもいいでしょうか? 私は、こちらの世界のギルドについて、まだ詳しくありませんので」

 

「もちろんです!」

 

 メイビスは嬉しそうに頷いた。

 

「実は、気になっているギルドがあるんです!」

 

「どちらですか?」

 

「マーガレットにある、蛇姫の鱗です!」

 

「蛇姫の鱗……」

 

 イリスは聞き慣れない名前を繰り返した。

 

「ラミアスケイルというギルドで、以前から活動している魔導士ギルドなんです!」

 

「なるほど。そこなら、何か情報が見つかるかもしれませんね」

 

「はい! それに、ギルドの運営についても、いろいろお話を聞いてみたいです!」

 

 メイビスは楽しそうに笑った。

 

「ほかにも、首都クロッカスには歴史のあるギルドがあるそうですよ!」

 

「クロッカス……王都ですね」

 

「はい! そちらにも足を延ばしてみたいです!」

 

 イリスは小さく頷いた。

 

「マーガレットとクロッカス、ですか。なかなか楽しそうな旅になりそうですね」

 

「ですよね!」

 

 メイビスは嬉しそうに両手を合わせた。

 

 しかし、すぐに何かを思い出したように顔を上げる。

 

「あっ! でも、その前に!」

 

「はい?」

 

「皆さんに相談しないといけませんね!」

 

「ふふっ。そうですね」

 

 イリスは微笑んだ。

 

「私たちが留守にしている間のことも、きちんと決めなければいけませんし」

 

「はい! それに、いつ出発するかも考えないと!」

 

「急ぐ必要はありませんよ。準備はしっかりしていきましょう」

 

「そうですね!」

 

 二人は顔を見合わせ、笑い合った。

 

 やがて、メイビスが立ち上がる。

 

「それじゃあ、そろそろ帰りましょうか!」

 

「はい」

 

 イリスも立ち上がった。

 

 眼下には、マグノリアの街が広がっている。

 

 その一角には、妖精の尻尾のギルドがあった。

 

 今頃、ユーリたちは何をしているだろう。

 

 また賑やかに騒いでいるかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、メイビスが隣から手を差し出してきた。

 

「イリスさん!」

 

「はい?」

 

「これから、よろしくお願いします!」

 

 イリスは、その小さな手を見つめた。

 

 そして、柔らかく微笑む。

 

「……はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 差し出された手を、そっと握り返した。

 

 メイビスが嬉しそうに笑う。

 

 イリスもまた、自然と笑顔になった。

 

 故郷へ帰る方法を探す旅。

 

 まだ、どこに手がかりがあるのかもわからない。

 

 どれほどの時間が必要になるのかも、わからない。

 

 それでも。

 

 一緒に歩いてくれる友達がいる。

 

 それだけで、これから始まる旅が楽しみに思えた。

 

「さあ、帰りましょう! イリスさん!」

 

「はい、メイビスさん」

 

 二人は並んで、マグノリアの街へと歩き出した。

 

 その先には、十二人の仲間たちが待つギルドがある。

 

 そして、もう少し先には、まだ見ぬ景色と新しい出会いが待っている。

 

 妖精と聖剣使い。

 

 二人の新たな冒険は、もうすぐ始まろうとしていた。

 

 ――第34話 完――

 

 




【こそこそ妖精話】

~苦労人の嫌な予感~

ユーリ「なあ、プレヒト」

プレヒト「なんだ?」

ユーリ「お前、さっきから難しい顔してるな」

プレヒト「……そうか?」

ユーリ「おう。眉間にしわ寄ってるぜ?」

ウォーロッド「ふふっ。確かに、今日はいつも以上に難しい顔をしているね」

プレヒト「……少し気になることがあってな」

ユーリ「気になること?」

プレヒト「ああ。最近、ギルドの依頼も増えてきただろう?」

ユーリ「おう! 順調だよな!」

プレヒト「それはいいんだが……」

ウォーロッド「何か問題でも?」

プレヒト「いや、問題というわけではない。ただ……妙に嫌な予感がする」

ユーリ「嫌な予感?」

プレヒト「ああ。近いうちに、面倒な仕事を押しつけられるような……」

ユーリ「はははっ! 考えすぎだろ!」

ウォーロッド「ふふっ。きっと気のせいだよ」

プレヒト「……だといいんだがな」

ユーリ「それより、今日はメイビスとイリス、どこ行ったんだ?」

ウォーロッド「二人で出かけるって言っていたよ」

ユーリ「へえ! また遊びに行ったのか?」

プレヒト「……二人で?」

ウォーロッド「うん。何か相談があるみたいだったけど」

プレヒト「…………」

ユーリ「どうした?」

プレヒト「……嫌な予感が強くなった」

ユーリ「だから考えすぎだって!」

ウォーロッド「ふふっ。心配性だね、プレヒト」

プレヒト「……お前たちは気楽でいいな」



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。

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