妖精と聖剣使い   作:使い手なない

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第35話「旅立ちの準備」

 

第一幕 嫌な予感の正体

 

 マグノリアの街に、朝の陽光が降り注いでいた。

 

 妖精の尻尾のギルドホールには、今日も賑やかな声が響いている。

 

「よし! 今日はどの依頼にするかな!」

 

 掲示板の前で、ユーリが腕を組んでいた。

 

「昨日も魔物討伐に行ったんだろ? 少しは休んだらどうだ?」

 

 隣にいたレオンが呆れたように言う。

 

「何言ってんだ! 依頼が増えてきたんだから、どんどん片づけねえとな!」

 

「まあ、元気なのはいいことだけどな」

 

「お前も一緒に行くか?」

 

「遠慮しとく。今日はセリナと護衛の仕事があるんだ」

 

 少し離れた場所から、セリナが声を上げた。

 

「レオン! 準備できたの?」

 

「今行くって!」

 

「まったく。口ばっかり動かしてないで、手も動かしなさいよ!」

 

「へいへい」

 

 そんな二人のやり取りを聞いて、ユーリが笑う。

 

「ははっ! お前ら、本当に仲いいな!」

 

「「どこが!?」」

 

 見事に重なった声に、周囲から笑いが起こった。

 

 受付では、エマとミーナが依頼書を整理している。

 

 プレヒトは帳簿に目を通し、ウォーロッドは窓辺の植物に水をやっていた。

 

 リタはダンと仕事の相談をしており、ボルクは静かに道具の手入れをしている。

 

 いつもと変わらない、FAIRY TAILの朝。

 

 しかし。

 

「皆さーん!」

 

 ギルドホールに、メイビスの明るい声が響いた。

 

 その隣には、イリスが立っている。

 

「少し、お話があります!」

 

 メイビスの呼びかけに、仲間たちが顔を上げた。

 

「ん? どうした、メイビス?」

 

 ユーリが尋ねる。

 

「実は、皆さんに相談したいことがあるんです!」

 

 その言葉を聞いた瞬間。

 

 帳簿を閉じようとしていたプレヒトの手が、ぴたりと止まった。

 

「…………」

 

 昨日から胸の奥に残っていた、妙な予感。

 

 理由はわからない。

 

 だが、どうにも嫌な感じがする。

 

 メイビスは仲間たちを見渡し、口を開いた。

 

「私、しばらくイリスさんと一緒に旅に出ようと思うんです!」

 

「……は?」

 

 ユーリが目を丸くした。

 

「旅?」

 

「はい!」

 

 メイビスは元気よく頷く。

 

「イリスさんの故郷へ帰る方法を、一緒に探したいんです!」

 

 その言葉に、ギルドホールが少し静かになった。

 

 イリスが一歩前へ出る。

 

「皆さんには、以前からお話ししていましたが……私は、この世界とは別の世界から来ました」

 

 仲間たちが頷く。

 

「これまでも帰る方法を調べていたのですが、残念ながら、まだ手がかりは見つかっていません」

 

 イリスは穏やかに続けた。

 

「そこで、ほかの町や魔導士ギルドを訪ねて、本格的に情報を集めてみようと思っています」

 

「なるほどな!」

 

 ユーリが腕を組む。

 

「確かに、マグノリアだけじゃ調べられることにも限界があるもんな!」

 

「はい。それで、メイビスさんが一緒に来てくださることになりまして」

 

「もちろんです!」

 

 メイビスが笑顔で答える。

 

「それに、ほかのギルドのマスターさんともお会いしてみたいんです! 妖精の尻尾のためにも、いろいろ勉強したいと思っています!」

 

「へえ! いいじゃねえか!」

 

 ユーリが笑った。

 

「俺もほかのギルドには興味あるぜ!」

 

「ふふっ。楽しそうだね」

 

 ウォーロッドも穏やかに微笑む。

 

「イリスさんの探し物も、何か見つかるといいね」

 

「ありがとうございます、ウォーロッドさん」

 

 ほかの仲間たちも、前向きな反応を見せていた。

 

 ただ一人を除いて。

 

「…………」

 

 プレヒトは、無言で額に手を当てていた。

 

「……昨日の嫌な予感は、これか」

 

「ん?」

 

 ユーリが振り向く。

 

「何か言ったか、プレヒト?」

 

「……いや、何でもない」

 

 そう答えながらも、プレヒトの表情は晴れなかった。

 

 なぜなら。

 

 彼には、この話の続きを聞く前から、何となく結末が見えていたからである。

 

――――――――――

 

第二幕 マスタープレヒト

 

「それで、皆さん!」

 

 メイビスが両手を合わせた。

 

「私たちが旅に出ている間のことを、相談したいんです!」

 

「そりゃそうだよな」

 

 ユーリが頷く。

 

「マスターがいなくなるんだから、誰かが代わりを務めねえと」

 

「はい!」

 

 メイビスは笑顔を浮かべた。

 

「そこで、代理マスターをお願いしたいと思っています!」

 

 その瞬間。

 

 プレヒトは静かに目を閉じた。

 

 やはり、そういう話か。

 

「代理マスターかぁ……」

 

 ユーリが考え込む。

 

 そして、勢いよく手を上げた。

 

「よし! だったら俺がやるか!」

 

「却下だ」

 

 即答だった。

 

「早えよ!?」

 

 ユーリがプレヒトを振り向く。

 

「まだ何もしてねえだろ!」

 

「だからこそだ」

 

「どういう意味だよ!」

 

「お前に任せたら、三日で帳簿が行方不明になる」

 

「ならねえよ!」

 

「昨日も依頼書を一枚なくしかけただろう」

 

「……あれは、ちょっと置き場所を忘れただけだ!」

 

「同じことだ」

 

 プレヒトの冷静な返答に、周囲から笑い声が上がった。

 

「ふふっ。ユーリには、外で依頼を頑張ってもらう方が向いているかもしれないね」

 

 ウォーロッドが穏やかに言う。

 

「お前まで!?」

 

「でも、ユーリさんが代理マスターだったら、毎日楽しそうですね!」

 

 メイビスが笑う。

 

「だろ!?」

 

「ただ、事務仕事は少し心配ですけど……」

 

「メイビスまで!?」

 

 再び笑いが広がる。

 

 そんな中、イリスが微笑みながら口を開いた。

 

「それでしたら、プレヒトさんが適任ではないでしょうか?」

 

「…………」

 

 プレヒトの肩が、わずかに動いた。

 

「私も、そう思います!」

 

 メイビスが頷いた。

 

「プレヒトはいつも、ギルドの帳簿や依頼の管理を手伝ってくれていますし、困った時にも冷静に判断してくれます!」

 

「……メイビス」

 

「だから、私がいない間、代理マスターをお願いできませんか?」

 

 メイビスは真剣な表情で尋ねた。

 

 プレヒトは、すぐには答えなかった。

 

 ギルドマスターの仕事は、帳簿を管理するだけではない。

 

 依頼の受注。

 

 報酬の管理。

 

 仲間たちの安全。

 

 そして、何か問題が起きた時には、ギルドを代表して判断しなければならない。

 

 決して軽い役目ではなかった。

 

「……一つ、確認させてくれ」

 

「はい!」

 

「旅の期間は、どれくらいを考えている?」

 

「まだ、はっきりとは決まっていません。でも、何か月も連絡なしに留守にするつもりはありません!」

 

「行き先は?」

 

「まずはマーガレットです! その後、クロッカスにも行ってみたいと思っています!」

 

「……なるほど」

 

 プレヒトは少し考える。

 

「旅先から連絡を寄こすことはできるな?」

 

「もちろんです!」

 

「それと、ギルドの運営については、出発前に必要なことを整理しておきたい」

 

「はい! 私もお手伝いします!」

 

 メイビスは迷わず答えた。

 

 その姿を見て、プレヒトは小さく息を吐く。

 

 単に仕事を押しつけようとしているわけではない。

 

 メイビスなりに、マスターとしての責任を考えているのだ。

 

 それならば。

 

「……わかった」

 

 プレヒトは静かに頷いた。

 

「お前たちが戻るまで、ギルドは俺が預かろう」

 

「本当ですか!?」

 

「ああ。ただし、必要な準備はきちんとしてからだ」

 

「はいっ! ありがとうございます、プレヒト!」

 

 メイビスが嬉しそうに笑った。

 

 イリスも頭を下げる。

 

「ありがとうございます、プレヒトさん。よろしくお願いします」

 

「気にするな。俺も、このギルドの一員だからな」

 

 その言葉に、ウォーロッドが微笑んだ。

 

「ふふっ。僕もできる限り手伝うよ」

 

「おう! 俺もいるぜ!」

 

 ユーリが勢いよく立ち上がる。

 

「よっ! マスタープレヒト!」

 

「……何?」

 

「いやあ、似合ってるじゃねえか! マスタープレヒト!」

 

「代理だ!」

 

「細けえこと気にすんなって!」

 

「細かくない!」

 

 ユーリは楽しそうに笑っている。

 

 ウォーロッドも、どこか面白そうだった。

 

「ふふっ。なかなか似合っているじゃないか」

 

「ウォーロッド……お前まで」

 

「そうですね!」

 

 メイビスが嬉しそうに頷いた。

 

「それでは、よろしくお願いしますね! マスタープレヒト!」

 

「……メイビスまで!?」

 

 ギルドホールが笑いに包まれる。

 

 イリスも、口元に手を添えて微笑んだ。

 

「ふふっ。頼りにしていますよ、マスタープレヒト」

 

「……イリス、お前まで!?」

 

「ふふっ。すみません。つい」

 

「……まったく、お前だけはまともだと思っていたんだがな」

 

 その言葉に、ギルドホールが再び笑いに包まれた。

 

 イリスも楽しそうに笑っている。

 

 プレヒトは深いため息をついた。

 

 どうやら、これから忙しくなりそうだった。

 

――――――――――

 

第三幕 十二人の妖精たち

 

「それでは、皆さん!」

 

 メイビスが改めて声を上げる。

 

「私たちが留守にしている間のことを、決めていきましょう!」

 

 代理マスターが決まったことで、話し合いは順調に進み始めた。

 

「受付と依頼書の管理は、これまでどおり私が担当します」

 

 最初に手を上げたのはエマだった。

 

「プレヒトさん、帳簿の整理もお手伝いできますので、必要な時は声をかけてください」

 

「助かる、エマ」

 

「私も受付を手伝いますね」

 

 ミーナが穏やかに微笑む。

 

「依頼が増えてきていますし、二人で分担した方がいいでしょうから」

 

「ありがとうございます、ミーナさん!」

 

 エマが嬉しそうに頭を下げた。

 

「それじゃ、俺たちは依頼を片づけていけばいいんだな!」

 

 ユーリが言う。

 

「そうだ。ただし、無茶な依頼を勝手に引き受けるなよ」

 

「わかってるって!」

 

「……本当だろうな」

 

「信用ねえなあ!」

 

 プレヒトの疑わしげな視線に、ユーリが不満そうな顔をする。

 

 その隣で、リタがくすりと笑った。

 

「ユーリは勢いで決めちゃうところがあるものね」

 

「リタまで言うのかよ!」

 

「ふふっ。でも、困った時は私も手伝うから」

 

「おう! 頼りにしてるぜ!」

 

 リタは嬉しそうに微笑んだ。

 

「護衛や魔物討伐なら、俺とセリナも任せてくれ」

 

 レオンが言う。

 

「ええ。難しい依頼でも、内容を確認してからなら対応できるわ」

 

 セリナが腕を組む。

 

「ただし、無理な仕事を一人で抱え込まないことね」

 

「それはお前にも言えるだろ」

 

「何か言った?」

 

「いえ、何でも」

 

 そんな二人のやり取りに、イリスが小さく笑った。

 

「俺も討伐依頼なら任せてくれ!」

 

 ダンが元気よく手を上げる。

 

「この前、イリスさんにも稽古をつけてもらったしな!」

 

「ふふっ。ダンさん、とても頑張っていましたからね」

 

「へへっ! もっと強くなって、ギルドの役に立ってみせるぜ!」

 

「頼もしいですね」

 

 イリスが微笑むと、ダンは照れくさそうに笑った。

 

「……護衛の仕事なら、俺も引き受けよう」

 

 それまで静かに話を聞いていたボルクが口を開いた。

 

「危険な街道の情報も、いくつか知っている」

 

「助かる。経験のあるお前がいてくれると心強い」

 

 プレヒトが頷く。

 

 ウォーロッドも穏やかに続けた。

 

「僕は、町の人たちからの相談や、植物に関する依頼を中心に担当しようかな」

 

「それなら、俺たちも手が空いた時に手伝うぜ!」

 

 ユーリが笑う。

 

 こうして、仲間たちは次々と役割を引き受けていった。

 

 メイビスは、その様子を嬉しそうに眺めていた。

 

 少し前まで、妖精の尻尾には五人しかいなかった。

 

 依頼も少なく、ギルドの運営についてわからないことも多かった。

 

 けれど今は違う。

 

 十二人の仲間がいて、それぞれが自分にできることを考えている。

 

 メイビスは、ゆっくりと口を開いた。

 

「……皆さん」

 

 その声に、仲間たちが振り向く。

 

「本当に、ありがとうございます!」

 

 メイビスは深く頭を下げた。

 

「私がいない間も、妖精の尻尾のことをよろしくお願いします!」

 

「おいおい、何言ってんだよ!」

 

 ユーリが笑った。

 

「俺たちのギルドだろ?」

 

「……!」

 

「メイビスだけが頑張る必要なんてねえって!」

 

 その言葉に、ウォーロッドも頷く。

 

「そうだね。僕たちみんなで作ったギルドなんだから」

 

「ええ。安心して行ってきてください」

 

 エマが微笑む。

 

「帰ってきた時には、もっと賑やかになっているかもしれませんね」

 

 ミーナも笑った。

 

 メイビスは仲間たちを見渡した。

 

 そして、満面の笑みを浮かべる。

 

「はいっ! 皆さんがいてくださるから、安心して出発できます!」

 

 その隣で、イリスも静かに微笑んでいた。

 

 天狼島で出会った五人から始まった冒険。

 

 それが今では、十二人の仲間が集うギルドになった。

 

 ここには、自分たちがいなくても支え合える仲間がいる。

 

 そう思うと、胸の奥が温かくなった。

 

「……皆さん」

 

 イリスは、仲間たちへ向き直った。

 

「ありがとうございます。私も、何か手がかりを見つけられるように頑張ってきますね」

 

「おう! 期待してるぜ!」

 

 ユーリが親指を立てた。

 

 その笑顔につられるように、イリスも笑った。

 

――――――――――

 

終幕 新しい冒険の前夜

 

 それから数日が過ぎた。

 

 イリスとメイビスは、旅に必要な準備を進めていた。

 

 行き先は、まずマーガレット。

 

 そこにある魔導士ギルド、蛇姫の鱗――ラミアスケイルを訪ねる予定だ。

 

 その後は、首都クロッカスへ向かう。

 

 古い魔法の記録や、異世界に関する伝承。

 

 何か一つでも手がかりが見つかればいい。

 

 そんな思いを胸に、二人は地図や書物を調べていた。

 

「イリスさん! 見てください!」

 

 ギルドホールのテーブルで、メイビスが地図を広げる。

 

「マーガレットへ向かう途中にも、いくつか町があるみたいです!」

 

「そうですね。必要なら、途中で宿を取ることも考えましょう」

 

「はい! それに、せっかくですから、いろいろな景色も見てみたいです!」

 

「ふふっ。それは私も楽しみです」

 

 イリスは地図に目を落とした。

 

「初めて訪れる土地には、どんな景色があるのでしょうね」

 

「きっと、素敵な場所がたくさんありますよ!」

 

 メイビスが嬉しそうに笑う。

 

 その様子を、少し離れた席からプレヒトが眺めていた。

 

「……楽しそうだな、お前たち」

 

「はい!」

 

 メイビスが元気よく答える。

 

「旅の準備って、わくわくしますね!」

 

「……そうか」

 

 プレヒトは手元の帳簿へ視線を戻した。

 

 代理マスターとして必要な引き継ぎは、ほとんど終わっている。

 

 依頼の管理方法。

 

 報酬の支払い。

 

 仲間たちの仕事の分担。

 

 何か問題が起きた時の対応。

 

 メイビスも出発前に一つずつ確認しており、大きな不安はなかった。

 

 ただ。

 

「……プレヒトさん」

 

 エマが受付から声をかける。

 

「こちらの依頼書、確認をお願いできますか?」

 

「ああ。今行く」

 

「それと、昨日の報酬の記録もお願いします」

 

「わかった」

 

「プレヒトー!」

 

 今度はユーリの声が響く。

 

「明日の討伐依頼、俺が行ってもいいか?」

 

「内容を確認してからだ!」

 

「わかったって!」

 

「……まったく」

 

 プレヒトは小さくため息をついた。

 

 まだ正式に代理マスターの仕事が始まったわけではない。

 

 それなのに、すでに忙しい。

 

「ふふっ。大人気だね、マスタープレヒト」

 

 ウォーロッドが楽しそうに言った。

 

「……その呼び方はやめろ」

 

「似合っていると思うけどね」

 

「お前まで面白がるな」

 

 そんなやり取りを聞いて、イリスがくすりと笑った。

 

「プレヒトさん、本当にありがとうございます」

 

「……ん?」

 

「私たちが安心して旅に出られるのは、プレヒトさんたちのおかげですから」

 

 イリスは穏やかに微笑んだ。

 

「帰ってきたら、何かお土産を買ってきますね」

 

「……気を遣わなくていい」

 

「ふふっ。では、私が選びたいので選ばせてください」

 

「……好きにしろ」

 

 プレヒトはそう答え、少しだけ口元を緩めた。

 

 やがて、夕暮れが近づいた頃。

 

 メイビスが仲間たちへ声をかけた。

 

「皆さん! 旅の準備が整いました!」

 

 ギルドホールの視線が集まる。

 

「私たち、明日の朝に出発します!」

 

「おっ! いよいよか!」

 

 ユーリが嬉しそうに声を上げる。

 

「気をつけて行ってこいよ!」

 

「はい!」

 

「土産、忘れんなよ!」

 

「もちろんです!」

 

「……観光旅行じゃないんだぞ」

 

 プレヒトが呆れたように言う。

 

 すると、イリスが少し楽しそうに微笑んだ。

 

「ふふっ。でも、綺麗な景色があれば、少しくらい寄り道してもいいですよね?」

 

「……お前までか」

 

「せっかくの旅ですから」

 

 イリスが笑う。

 

 メイビスも嬉しそうに頷いた。

 

「そうですよ! 旅先でしか見られない景色も、きっとあります!」

 

「……まあ、危険なことさえしなければいい」

 

 プレヒトは小さく息を吐いた。

 

「ただし、何かあったら必ず連絡を寄こせよ」

 

「はい!」

 

「もちろんです、プレヒトさん」

 

 二人が揃って答える。

 

 その様子を見て、ユーリがにやりと笑った。

 

「ま、ギルドのことは任せとけって!」

 

 そして、プレヒトの肩を叩く。

 

「なっ! マスタープレヒト!」

 

「……だから、代理だと言っているだろう!」

 

 再び、ギルドホールに笑い声が広がった。

 

 イリスは、そんな仲間たちを眺めていた。

 

 賑やかで、温かくて。

 

 時々、少し騒がしいけれど。

 

 自分にとって、大切な場所。

 

 FAIRY TAIL。

 

 明日から、しばらくこの場所を離れることになる。

 

 けれど、不思議と寂しさは感じなかった。

 

 ここには、帰ってくる場所がある。

 

 そして、隣には一緒に旅をしてくれる友達がいる。

 

「……楽しみですね、メイビスさん」

 

 イリスが小さく声をかける。

 

「はい!」

 

 メイビスは満面の笑みを浮かべた。

 

「明日から、二人で冒険ですね!」

 

「ふふっ。そうですね」

 

 二人は顔を見合わせ、笑い合った。

 

 窓の外では、夕日がマグノリアの街を優しく照らしている。

 

 新しい土地。

 

 新しい出会い。

 

 そして、まだ知らない世界の秘密。

 

 妖精と聖剣使いの新たな冒険が、いよいよ始まろうとしていた。

 

 ――第35話 完――

 

 




【こそこそ妖精話】

~もしもユーリがマスターだったら?~

ユーリ「なあ、プレヒト!」

プレヒト「……なんだ?」

ユーリ「もし俺が代理マスターになってたら、どうなってたと思う?」

プレヒト「……考えたくもないな」

ユーリ「ひでえ!?」

ウォーロッド「ふふっ。でも、ちょっと気になるね」

ユーリ「だろ!? まず、朝は全員で特訓だ!」

プレヒト「……依頼はどうする?」

ユーリ「特訓が終わってから行けばいいだろ!」

プレヒト「受付は?」

ユーリ「エマに任せる!」

プレヒト「帳簿は?」

ユーリ「お前に任せる!」

プレヒト「……報酬の管理は?」

ユーリ「それもお前だ!」

プレヒト「…………」

ウォーロッド「ふふっ。プレヒトの仕事が増えていくね」

ユーリ「そして! 俺はマスターとして、みんなを引っ張っていく!」

プレヒト「……具体的には?」

ユーリ「もちろん! 一番難しい依頼に挑戦するんだ!」

プレヒト「……つまり、お前は毎日外に出て、俺がギルドの仕事を全部するわけだな?」

ユーリ「おう! 完璧だろ!」

プレヒト「……よし」

ユーリ「おっ! 俺がマスターでもいいってことか!?」

プレヒト「やっぱり俺が代理マスターをやる」

ユーリ「なんでだよ!?」

ウォーロッド「ふふっ。正しい判断だと思うよ」

ユーリ「ちくしょー! いつか絶対マスターになってやるからな!」

プレヒト「……その前に、帳簿の付け方を覚えろ」

ユーリ「……それはお前に任せた!」

プレヒト「だから駄目なんだ!!」



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。
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