妖精と聖剣使い   作:使い手なない

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第4話「妖精と冒険者の知恵比べ」

 

第一幕 負けず嫌いな冒険者

 

X686年 ― 天狼島

 

 森を吹き抜ける風が、木々の葉を静かに揺らしていた。

 

「……で、結局どうなんだよ?」

 

 金髪の青年、ユーリ・ドレアーが腕を組んで問いかける。

 

「何がですか?」

 

 その正面では、メイビス・ヴァーミリオンが不思議そうに首を傾げていた。

 

「だから! お前は天狼玉の場所を知ってるのかって聞いてんだよ!」

 

「ふふっ。どうでしょう?」

 

「またそれかよ!」

 

 ユーリが頭を抱える。

 

 そんな二人のやり取りを、イリス・アストレアは少し離れたところから眺めていた。

 

「……ふふっ」

 

「何がおかしいんだよ!」

 

「あ、いえ……すみません」

 

 イリスは口元に手を添えた。

 

「お二人とも、随分と楽しそうだなと思いまして」

 

「どこがだよ!?」

 

「少なくとも、メイビスさんは楽しそうですよ?」

 

「そりゃ、こいつはそうだろうけどよ……!」

 

「はい! とっても楽しいです!」

 

「お前は少し黙ってろ!」

 

「まあ!」

 

 メイビスは驚いたように目を丸くした。

 

 しかし、その表情はすぐに楽しげな笑顔へと変わる。

 

 どうやら、ユーリをからかうのがすっかり気に入ってしまったらしい。

 

「……まったく」

 

 少し離れた場所で、プレヒト・ゲイボルグがため息をついた。

 

「いつまで続けるつもりだ、あいつは」

 

「ははは……」

 

 ウォーロッド・シーケンが苦笑する。

 

「でも、ユーリがあんなに振り回されるのも珍しいですね」

 

「自分から振り回されに行っているようにしか見えんがな」

 

「それは……否定できませんね」

 

 二人の会話を耳にしたイリスは、思わず笑みをこぼした。

 

 どうやら、この三人は普段からこんな調子らしい。

 

 出会ってまだ間もないというのに、不思議と親しみやすい人たちだった。

 

 もっとも。

 

 このままでは、いつまで経っても話が進みそうにない。

 

「……あの、メイビスさん」

 

「はい?」

 

「そろそろ、ユーリさんのお話を聞いて差し上げてもよろしいのでは?」

 

「えー?」

 

 メイビスは少し残念そうな声を上げた。

 

「もう少しお話ししたかったんですけど……」

 

「お前、絶対わざとだろ!」

 

「ふふっ」

 

 イリスは小さく笑った。

 

「続きは、また別の機会にしましょう?」

 

「……そうですね!」

 

 メイビスは素直に頷いた。

 

 そして、改めてユーリへ向き直る。

 

「それでは、ユーリさん」

 

「……なんだよ」

 

「天狼玉について、お話ししましょうか」

 

 その一言で。

 

 ユーリの表情が、ぱっと明るくなった。

 

「おお! ようやくか!」

 

 プレヒトも静かに顔を上げる。

 

 ウォーロッドも興味深そうに二人へ視線を向けた。

 

 そして、イリスも。

 

 まだ知らない、この島の宝物について。

 

 メイビスが何を語るのか、耳を傾けた。

 

――――――――――

 

第二幕 天狼玉の秘密

 

「まず、皆さんに確認したいことがあります」

 

 メイビスは、先ほどまでとは少し違う真剣な表情になった。

 

「天狼玉が、どのようなものなのかはご存じですか?」

 

「もちろんだ!」

 

 ユーリが胸を張る。

 

「この島に伝わる、ものすごく価値のある宝玉だろ?」

 

「……それだけですか?」

 

「……え?」

 

「ほかには?」

 

「…………」

 

 ユーリはプレヒトを振り返った。

 

「おい、プレヒト」

 

「だから俺を見るな」

 

「お前、詳しいだろ!」

 

「……少なくとも、ただの宝石ではないという話は聞いている」

 

 プレヒトは静かに答えた。

 

「だが、その由来や詳しい性質まではわからん」

 

「なるほど……」

 

 メイビスは小さく頷いた。

 

「では、皆さんは天狼玉について、まだ知らないことが多いんですね」

 

「……そうなるな」

 

 プレヒトは否定しなかった。

 

 イリスは、そのやり取りを興味深く聞いていた。

 

「……メイビスさん」

 

「はい?」

 

「天狼玉というのは、この島にとって大切なものなのでしょうか?」

 

「……はい」

 

 メイビスは静かに頷いた。

 

「とても大切なものです」

 

 その声には、先ほどまでの楽しげな響きとは違うものがあった。

 

 イリスは、そっとメイビスの横顔を見つめる。

 

 昨日、一緒に丘へ出かけたとき。

 

 メイビスは、この島の景色を本当に嬉しそうに案内してくれた。

 

 森も、海も、丘も。

 

 彼女にとっては、どれも大切な場所なのだろう。

 

 ならば。

 

 この島に伝わる宝物も、きっと同じなのだ。

 

「……そうなんですね」

 

 イリスは、それ以上は尋ねなかった。

 

 メイビスが話したいと思ったときに、話してくれればいい。

 

 そう考えたからだ。

 

「……おい」

 

 ユーリが口を挟んだ。

 

「大切なのはわかったけどよ。俺たちは、その天狼玉を探しに来たんだ」

 

「はい。存じています」

 

「だったら、場所を教えてくれねぇか?」

 

「嫌です!」

 

「即答かよ!?」

 

 ユーリが思わず叫んだ。

 

 メイビスは、にっこりと笑っている。

 

「だって、皆さんがどんな方なのか、まだよく知りませんから!」

 

「さっき自己紹介しただろ!」

 

「名前を知っただけですよ?」

 

「ぐっ……!」

 

 またしても言い返せなくなったユーリを見て、ウォーロッドが苦笑した。

 

「確かに、メイビスさんの言うことにも一理ありますね」

 

「お前までそっちにつくのかよ!」

 

「いえ、そういうわけでは……」

 

「……だが、もっともな話だ」

 

 プレヒトが口を開いた。

 

「我々は今日、この島に来たばかりだ。いきなり宝の場所を教えろと言っても、信用されんだろう」

 

「……ちぇっ」

 

 ユーリは不満そうに口を尖らせた。

 

 その姿を見て、イリスは少し考える。

 

 そして、穏やかに口を開いた。

 

「……ユーリさん」

 

「あん?」

 

「皆さんは、どうして天狼玉を探しているんですか?」

 

「どうしてって……」

 

 ユーリは一瞬きょとんとした。

 

「そりゃ、トレジャーハンターだからだろ?」

 

「それは存じていますけれど……」

 

 イリスは微笑んだ。

 

「宝物を探す理由は、人それぞれでしょう?」

 

「…………」

 

「珍しいものを見てみたい方もいれば、歴史を知りたい方もいるでしょうし……」

 

 少し間を置いて、続ける。

 

「もちろん、お金のためという方もいらっしゃるでしょうけれど」

 

「……俺はそれだな!」

 

 ユーリが堂々と答えた。

 

「ふふっ。そうなんですね」

 

「なんだよ。悪いか?」

 

「いいえ」

 

 イリスは首を横に振った。

 

「正直でよろしいと思いますよ?」

 

「……なんか、褒められてる気がしねぇな」

 

「そんなことありませんよ?」

 

 イリスは楽しそうに笑った。

 

 ユーリは、なんとも言えない顔になった。

 

「……お前ら、二人とも似てるな」

 

「え?」

 

「はい?」

 

 イリスとメイビスが、同時に首を傾げる。

 

「そういうところだよ!」

 

 ユーリの叫び声が、森に響いた。

 

――――――――――

 

第三幕 冒険者たちの素顔

 

「……それにしても」

 

 ウォーロッドが、ふと口を開いた。

 

「イリスさんは、この島の方ではないんですよね?」

 

「はい」

 

 イリスは頷いた。

 

「つい先日、こちらへ来たばかりなんです」

 

「そうだったんですか」

 

「ええ。メイビスさんには、とてもお世話になっています」

 

「そんなことありませんよ!」

 

 メイビスが嬉しそうに顔を上げる。

 

「イリスさんと一緒に過ごすのは、とっても楽しいですから!」

 

「ふふっ。ありがとうございます」

 

 二人は顔を見合わせて笑った。

 

 ウォーロッドは、その様子を穏やかに眺めていた。

 

「仲がいいんですね」

 

「はい!」

 

 メイビスは即答した。

 

「私たち、友達なんです!」

 

「……!」

 

 イリスは、少しだけ目を丸くした。

 

 そして、頬を緩める。

 

「……はい。そうなんです」

 

 昨日、丘の上で交わした言葉。

 

 それを、メイビスが当たり前のように口にしてくれたことが嬉しかった。

 

「へぇ……」

 

 ユーリが二人を見比べる。

 

「でも、ずいぶん雰囲気が違うよな」

 

「そうでしょうか?」

 

 イリスが首を傾げる。

 

「ああ。こっちはやたら元気だし」

 

「はい!」

 

「お前は落ち着いてるし」

 

「……そうですか?」

 

「まあ、どっちも人をからかうのが好きそうだけどな」

 

「まあ!」

 

「ふふっ」

 

 メイビスとイリスは、またしても笑った。

 

「ほら、やっぱり!」

 

 ユーリが指をさす。

 

「……ユーリ」

 

 プレヒトが呆れたように口を開いた。

 

「お前は少し落ち着け」

 

「俺は落ち着いてるって!」

 

「どこがだ」

 

 そんなやり取りを見て、イリスは思った。

 

 この三人は、本当に仲がいいのだろう。

 

 言い合いをしていても、そこには険悪な空気がない。

 

 互いの性格をよく知っているからこその、遠慮のない会話。

 

 それは、どこか懐かしいものだった。

 

 ――学院でも、こんなふうに話していましたね。

 

 授業が終わったあと。

 

 友人たちと他愛もない話をして、笑い合った日々。

 

 剣術の訓練で失敗した友人を励ましたり、逆に自分がからかわれたり。

 

 そんな何気ない時間が、ふと思い出された。

 

「……イリスさん?」

 

 メイビスの声に、イリスは顔を上げた。

 

「あ……はい」

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ……」

 

 イリスは少し照れたように笑った。

 

「皆さんを見ていたら、故郷の友人たちを思い出してしまって」

 

「……そうだったんですね」

 

 メイビスは、そっとイリスの隣へ歩み寄った。

 

「イリスさん」

 

「はい?」

 

「いつか、イリスさんの故郷のお友達のお話も聞かせてくださいね!」

 

「……ええ」

 

 イリスは微笑んだ。

 

「もちろんです」

 

 そのやり取りを、プレヒトは静かに見ていた。

 

 彼は何かを尋ねかけたようだったが、結局口にはしなかった。

 

 代わりに、森の奥へと視線を向ける。

 

「……ところで」

 

 その声に、全員が振り返った。

 

「そろそろ、話を進めないか?」

 

「……あ」

 

 ユーリが声を漏らす。

 

「そうだった!」

 

「忘れていたのか……」

 

「忘れてねぇよ!」

 

 プレヒトは深いため息をついた。

 

 イリスとメイビスは、思わず顔を見合わせた。

 

 そして。

 

「「ふふっ」」

 

 二人の笑い声が、重なった。

 

――――――――――

 

第四幕 妖精からの提案

 

「それでは!」

 

 メイビスが、ぱん、と小さく手を叩いた。

 

「皆さんに、一つ提案があります!」

 

「……提案?」

 

 ユーリが眉を上げる。

 

「はい!」

 

 メイビスは笑顔で頷いた。

 

「皆さんは、天狼玉を探しているんですよね?」

 

「ああ」

 

「でも、この島のことはあまり知らない」

 

「……そうだな」

 

「そして、私は島のことをよく知っています!」

 

「……おう」

 

 ユーリは腕を組んだ。

 

「つまり?」

 

「一緒に島を歩いてみませんか?」

 

「…………は?」

 

 ユーリが目を瞬かせた。

 

 プレヒトも、わずかに眉を動かす。

 

 ウォーロッドは興味深そうに首を傾げた。

 

「一緒に、ですか?」

 

「はい!」

 

 メイビスは楽しそうに頷いた。

 

「皆さんは天狼玉を探したい。私は、皆さんがどんな方なのか知りたい」

 

 そして、イリスへ視線を向ける。

 

「それに、今日はイリスさんに島を案内する約束もありますから!」

 

「……なるほど」

 

 イリスは小さく頷いた。

 

 確かに、それなら両方の目的を果たせる。

 

 もっとも。

 

「……メイビスさん」

 

「はい?」

 

「もしかして、最初からそのつもりだったんですか?」

 

「えへへ……!」

 

 メイビスは、いたずらっぽく笑った。

 

「どうでしょう?」

 

「……ふふっ」

 

 イリスは思わず笑ってしまった。

 

「本当に、メイビスさんには敵いませんね」

 

「おいおい!」

 

 ユーリが割って入る。

 

「ちょっと待てよ!」

 

「なんでしょう?」

 

「一緒に歩くだけで、天狼玉が見つかるのか?」

 

「それは、皆さん次第です!」

 

「……はぁ!?」

 

「だって、宝探しなんでしょう?」

 

 メイビスは、にっこりと笑った。

 

「最初から答えを教えてしまったら、つまらないじゃありませんか!」

 

「……!」

 

 ユーリは言葉に詰まった。

 

 そして、しばらく考え込む。

 

「……なるほどな」

 

 やがて、口元を吊り上げた。

 

「面白ぇじゃねぇか!」

 

「おや」

 

 プレヒトが少し驚いたように眉を上げる。

 

「いいのか?」

 

「ああ!」

 

 ユーリは自信満々に頷いた。

 

「こいつに案内してもらいながら、俺たちが先に天狼玉を見つけりゃいいんだろ?」

 

「……そういう話だったか?」

 

「細けぇことはいいんだよ!」

 

「まったく……」

 

 プレヒトは額に手を当てた。

 

 しかし、強く反対することはなかった。

 

「……まあ、島の地形を知るには悪くないか」

 

「僕も賛成です」

 

 ウォーロッドが微笑む。

 

「せっかく知り合えたんですから、もう少しお話ししてみたいですしね」

 

「決まりですね!」

 

 メイビスは嬉しそうに両手を合わせた。

 

 そして、イリスへ向き直る。

 

「イリスさんも、いいですか?」

 

「もちろんです」

 

 イリスは微笑んだ。

 

「私も、皆さんとご一緒できるなら楽しそうです」

 

「よかったです!」

 

 メイビスは満面の笑みを浮かべた。

 

 こうして。

 

 五人は、ひとまず一緒に島を歩くことになった。

 

 まだ仲間と呼べるほど、互いのことを知っているわけではない。

 

 それでも。

 

 小さな冒険の始まりには、十分だった。

 

――――――――――

 

第五幕 五人で歩く森

 

「それでは、こちらです!」

 

 メイビスを先頭に、五人は森の中を歩き始めた。

 

 木々の間から差し込む陽光が、地面にまだら模様を描いている。

 

 小鳥のさえずりが響き、足元では草花が風に揺れていた。

 

「……へぇ」

 

 ユーリが周囲を見回す。

 

「思ってたより、ずいぶん静かな島だな」

 

「そうですね」

 

 ウォーロッドが頷いた。

 

「自然が豊かで、いいところです」

 

「でしょう!?」

 

 メイビスは嬉しそうに振り返った。

 

「天狼島には、素敵な場所がたくさんあるんですよ!」

 

「それは楽しみですね」

 

 イリスも微笑んだ。

 

「昨日案内していただいた丘も、とても綺麗でしたし」

 

「ああ、あの丘ですね!」

 

「はい。特に、夕暮れの景色が印象的でした」

 

「えへへ……!」

 

 メイビスは嬉しそうに笑った。

 

「また一緒に行きましょうね!」

 

「もちろんです」

 

 そんな二人の会話を聞きながら、ユーリは首を傾げた。

 

「……なあ」

 

「はい?」

 

「お前ら、昨日も一緒に島を歩いてたのか?」

 

「はい!」

 

 メイビスが答える。

 

「イリスさんは、いろいろな場所の景色を見るのが好きなんです!」

 

「へぇ……」

 

 ユーリは少し意外そうな顔をした。

 

「冒険が好きなのか?」

 

「そうですね……」

 

 イリスは少し考えた。

 

「冒険そのものも好きですけれど、どちらかといえば、知らない場所へ行くのが好きなんです」

 

「知らない場所?」

 

「はい」

 

 イリスは木々の向こうに広がる空を見上げた。

 

「同じ空でも、場所によって見え方が違いますし……」

 

 そして、柔らかく笑う。

 

「その土地でしか見られない景色に出会えると、なんだか嬉しくなるんです」

 

「……なるほどな」

 

 ユーリは頷いた。

 

「それなら、俺たちと似たようなもんかもしれねぇな」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ!」

 

 ユーリは楽しそうに笑った。

 

「俺たちだって、まだ誰も見つけてねぇ宝を探して、知らない場所へ行くんだからな!」

 

「……ふふっ」

 

 イリスは微笑んだ。

 

「確かに、少し似ていますね」

 

「だろ?」

 

「ただ……」

 

「ん?」

 

「私は、宝物が見つからなくても、綺麗な景色が見られれば満足してしまいそうです」

 

「それじゃ商売にならねぇだろ!」

 

「ふふっ。そうですね」

 

 イリスが笑うと、ユーリもつられて笑った。

 

 少し前までメイビスと言い合っていた青年とは思えないほど、気さくな笑顔だった。

 

「……おや」

 

 ウォーロッドが微笑む。

 

「ユーリとイリスさんも、気が合いそうですね」

 

「そうでしょうか?」

 

 イリスが首を傾げる。

 

「まあ、悪くねぇな!」

 

 ユーリは得意げに答えた。

 

「……お前は本当に単純だな」

 

 プレヒトが呆れたように呟く。

 

「なんだと!?」

 

「褒めている」

 

「絶対嘘だろ!」

 

 再び始まった二人のやり取りに、ウォーロッドが苦笑する。

 

 そして。

 

「ふふっ」

 

「あははっ!」

 

 イリスとメイビスの笑い声が、森の中に響いた。

 

――――――――――

 

第六幕 森の先に待つもの

 

 しばらく歩いたころ。

 

「……あら?」

 

 イリスが、ふと足を止めた。

 

「どうしました?」

 

 隣を歩いていたウォーロッドが尋ねる。

 

「いえ……」

 

 イリスは前方へ目を向けた。

 

「少し、景色が変わってきたような気がして」

 

「……確かに」

 

 ウォーロッドも周囲を見回す。

 

 先ほどまで密集していた木々が、少しずつまばらになっていた。

 

 地面には、苔むした石が増えている。

 

 そして。

 

 木々の向こうに、何か人工物のようなものが見え隠れしていた。

 

「……おっ?」

 

 ユーリが目を輝かせる。

 

「なんだ、あれ?」

 

「ふふっ」

 

 メイビスが振り返った。

 

「見えてきましたね!」

 

「……何がだ?」

 

「今日の目的地です!」

 

 メイビスは嬉しそうに答えた。

 

「昨日、イリスさんにお話しした場所ですよ!」

 

「……ああ!」

 

 イリスは思い出した。

 

「古い遺跡ですね!」

 

「はい!」

 

 メイビスは大きく頷いた。

 

「この先にあるんです!」

 

「遺跡だと!?」

 

 ユーリが勢いよく顔を上げた。

 

「おいおい! それ、宝が眠ってそうじゃねぇか!」

 

「……まだ何もわからんだろう」

 

 プレヒトが冷静に指摘する。

 

「でも、調べてみる価値はありそうですね」

 

 ウォーロッドも興味深そうに前方を見つめた。

 

 イリスは、木々の向こうに見える古い石造りの建造物へ視線を向ける。

 

 長い年月を経たのであろう、苔むした石壁。

 

 崩れかけた柱。

 

 その周囲を覆う、深い緑。

 

「……綺麗ですね」

 

 思わず、言葉がこぼれた。

 

「え?」

 

 ユーリが振り返る。

 

「どこがだ? ボロボロじゃねぇか」

 

「ふふっ」

 

 イリスは微笑んだ。

 

「古い建物が、自然の中に溶け込んでいるようで……」

 

 そして、目を細める。

 

「こういう景色も、私は好きなんです」

 

「……へぇ」

 

 ユーリは、もう一度遺跡へ視線を向けた。

 

「……言われてみりゃ、悪くねぇかもな」

 

「でしょう?」

 

 イリスが嬉しそうに笑う。

 

「お二人とも!」

 

 メイビスが、少し先から手を振った。

 

「早く来てください!」

 

「あ、はい!」

 

「おう!」

 

 二人は顔を見合わせ、歩き出した。

 

 その後ろを、プレヒトとウォーロッドが続く。

 

 やがて。

 

 五人は、森の奥に眠る古い遺跡の前へとたどり着いた。

 

――――――――――

 

終幕 小さな冒険の始まり

 

「……これは」

 

 プレヒトが、目の前の光景を見上げた。

 

 そこには、長い年月を経た石造りの遺跡が広がっていた。

 

 崩れた壁。

 

 苔むした柱。

 

 植物に覆われた石段。

 

 かつて誰かが築いたのであろう建造物は、今では静かに森の一部となっていた。

 

「すげぇ……!」

 

 ユーリが目を輝かせる。

 

「本当に遺跡があるじゃねぇか!」

 

「ふふっ」

 

 メイビスは得意げに笑った。

 

「言ったでしょう?」

 

「いや、まあ、そうだけどよ!」

 

 ユーリは興奮した様子で周囲を見回した。

 

「こういう場所には、絶対何かあるんだよ!」

 

「……お前はどこへ行っても同じことを言うな」

 

 プレヒトが呆れたように呟く。

 

「当たり前だろ!」

 

 ユーリは胸を張った。

 

「宝探しってのは、そういうもんだからな!」

 

「ははは……」

 

 ウォーロッドが笑った。

 

「でも、せっかくですし、少し調べてみましょうか」

 

「賛成!」

 

 メイビスが元気よく手を上げる。

 

 イリスも、遺跡の奥へと視線を向けた。

 

 石壁には、ところどころ古い模様が刻まれている。

 

 それが何を意味するのかは、まだわからない。

 

 けれど。

 

 この世界にも、長い歴史があるのだと感じられた。

 

「……楽しみですね」

 

 イリスが小さく呟く。

 

「はい!」

 

 メイビスが隣に並んだ。

 

「イリスさん、こういう場所は初めてですか?」

 

「いいえ。故郷でも、何度か遺跡を訪れたことがあります」

 

「そうなんですか!?」

 

「はい」

 

 イリスは微笑んだ。

 

「でも、この世界の遺跡は初めてですから」

 

 そして、目の前の建造物を見上げる。

 

「どんなものが見られるのか、楽しみです」

 

「えへへ……!」

 

 メイビスは嬉しそうに笑った。

 

「それなら、今日はたくさん探検しましょう!」

 

「はい!」

 

 そのとき。

 

「おーい!」

 

 ユーリの声が響いた。

 

「お前ら! 早く来いよ!」

 

「もう……!」

 

 メイビスは頬を膨らませた。

 

「ユーリさんったら、せっかちですね!」

 

「ふふっ。そうですね」

 

 イリスは小さく笑った。

 

 そして、メイビスと顔を見合わせる。

 

「行きましょうか」

 

「はい!」

 

 二人は並んで歩き出した。

 

 その先には、ユーリたち三人が待っている。

 

 昨日までは、二人だけだった島巡り。

 

 けれど今日は、五人になった。

 

 まだ出会ったばかりの、不思議な組み合わせ。

 

 それでも。

 

 こうして同じ道を歩き、同じ景色を眺めていると、少しずつ距離が縮まっていくような気がした。

 

 イリスは、ふと振り返った。

 

 木々の向こうには、青い空が広がっている。

 

 そのさらに向こうには、まだ見たことのない世界が続いているのだろう。

 

 ――この世界には、どんな景色があるのでしょう。

 

 故郷へ帰りたいという気持ちは、今も変わらない。

 

 けれど。

 

 知らない景色を見てみたいという思いも、確かに胸の中にあった。

 

「イリスさん!」

 

 メイビスが振り返る。

 

「置いていっちゃいますよ!」

 

「あ、待ってください!」

 

 イリスは慌てて歩みを速めた。

 

 その様子を見て、メイビスが楽しそうに笑う。

 

 ユーリが何かを叫び、プレヒトが呆れ、ウォーロッドが苦笑する。

 

 そんな賑やかな声が、静かな遺跡に響いていた。

 

 まだ、誰も知らなかった。

 

 この小さな出会いが、やがて大きな冒険へとつながっていくことを。

 

 そして。

 

 五人が共に歩み始めたこの日が、後にかけがえのない思い出になることを。

 

 ――第4話 完――

 




【こそこそ妖精話】

ゼーラ「ねえ、メイビス。あんた、あのユーリって人のこと、からかいすぎじゃない?」

メイビス「えっ? そんなことありませんよ! 私はただ、お話を楽しんでいただけです!」

ゼーラ「……あんたの『どうでしょう?』って顔、すっごく楽しそうだったけど?」

メイビス「えへへ……」

ゼーラ「否定しなさいよ!」

メイビス「でも、ユーリさんって反応が面白いんです!」

ゼーラ「……まあ、それはちょっとわかるけど」

メイビス「それに、イリスさんも楽しそうでした!」

ゼーラ「そうね。あの子、あんたと一緒になって笑ってたわね」

メイビス「はい! やっぱり、イリスさんとは気が合います!」

ゼーラ「……あんたたち二人が組んだら、ユーリって人、苦労しそうね」

メイビス「ふふっ。どうでしょう?」

ゼーラ「だから、その顔やめなさいってば!」



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。
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