妖精と聖剣使い   作:使い手なない

41 / 60
第40話「世界を隔てる境界」

 

第一幕 古文献資料館

 

 王都クロッカスの大通りを、二人の少女が並んで歩いていた。

 

 色とりどりの花が飾られた街並み。

 

 行き交う人々の賑やかな声。

 

 そんな王都の景色を楽しみながら、イリスとメイビスは目的地へ向かっていた。

 

「イリスさん! あそこじゃないでしょうか!」

 

 メイビスが指差した先には、大きな石造りの建物があった。

 

 重厚な柱に支えられた正面玄関。

 

 壁面には古い文字や魔法陣を模した装飾が刻まれ、入口の上には『王立古文献資料館』と記されている。

 

「立派な建物ですね」

 

「はい! 中にはどんな本があるんでしょう!」

 

 メイビスは目を輝かせていた。

 

 その様子に、イリスが小さく笑う。

 

「ふふっ。メイビスさん、本来の目的を忘れないでくださいね?」

 

「わ、忘れてませんよ!」

 

「本当ですか?」

 

「もちろんです! ……でも、少しくらい見学してもいいですよね?」

 

「ふふっ。時間があれば、ぜひ」

 

「やった!」

 

 二人は笑い合いながら、資料館の扉をくぐった。

 

 中へ入ると、外の喧騒が嘘のように静かな空間が広がっていた。

 

 高い天井。

 

 整然と並ぶ書架。

 

 壁には古い魔法史を描いた絵画が飾られ、奥には閲覧用の机がいくつも置かれている。

 

「……わあ」

 

 メイビスが感嘆の声を漏らした。

 

「すごいです……!」

 

「ええ。これほど多くの書物があるとは思いませんでした」

 

 イリスも周囲を見渡す。

 

 棚には歴史書や魔法理論書、古い地図などが並んでいた。

 

 中には、見慣れない文字で書かれた書物もある。

 

「イリスさん! あちらには古代魔法の資料があるみたいですよ!」

 

「本当ですね」

 

「それに、あっちには失われた魔法の研究書も!」

 

「……メイビスさん?」

 

「はい!」

 

「楽しそうですね」

 

「とっても!」

 

 満面の笑みを浮かべるメイビスに、イリスもつられて微笑んだ。

 

 やがて二人は受付へ向かった。

 

「すみません」

 

 イリスが声をかけると、受付にいた年配の女性が顔を上げた。

 

「はい。何かお探しでしょうか?」

 

「エルヴィン・クロフォードさんという方にお会いしたいのですが」

 

「クロフォード先生に?」

 

「はい!」

 

 メイビスが一歩前へ出た。

 

「星冠の塔のヴァルドさんから、紹介状をいただいてきました!」

 

 そう言って、封筒を差し出す。

 

 女性は封筒に記された名前を確認すると、少し驚いたように目を瞬かせた。

 

「あら。ヴァルドさんからですか」

 

「はい!」

 

「それでしたら、少々お待ちください。先生に確認してまいります」

 

「ありがとうございます!」

 

 女性が奥へ向かうと、メイビスは期待に満ちた表情でイリスを見上げた。

 

「どんな方なんでしょうね!」

 

「ヴァルドさんのお師匠さんですから、きっと立派な方なのでしょうね」

 

「はい! 楽しみです!」

 

 しばらくして、受付の女性が戻ってきた。

 

「お待たせいたしました。先生がお会いになるそうです」

 

「本当ですか!」

 

「ええ。ただ……」

 

 女性は少し困ったように笑った。

 

「研究中ですので、少々散らかっているかもしれません」

 

「ふふっ。お気になさらないでください」

 

 イリスが微笑む。

 

「それでは、ご案内いたしますね」

 

 二人は女性の後について、資料館の奥へ進んでいった。

 

――――――――――

 

第二幕 古き魔法の研究者

 

 資料館の奥まった一角。

 

 そこには、一般の閲覧室とは異なる研究室が並んでいた。

 

 女性が一つの扉の前で足を止める。

 

「クロフォード先生。お客様をお連れしました」

 

「……うむ。入ってくれ」

 

 扉の向こうから、少しかすれた老人の声が聞こえた。

 

 女性が扉を開ける。

 

 その瞬間、イリスとメイビスは思わず足を止めた。

 

「……わあ」

 

 部屋の中には、大量の書物と紙の束が積み上げられていた。

 

 机の上はもちろん、椅子の上にも本が置かれている。

 

 壁一面の棚には古い文献が詰め込まれ、床にもいくつかの資料が積まれていた。

 

 その中央。

 

 一人の老人が、机に向かって何かを書き込んでいた。

 

 白髪混じりの長い髪。

 

 整えられた白い髭。

 

 鼻の上には丸い眼鏡が乗っている。

 

 年齢を感じさせる姿ながら、その目には鋭い知性が宿っていた。

 

「……ふむ。ここをこう解釈すれば……いや、待てよ……」

 

 老人は二人が入ってきたことにも気づかず、紙に文字を書き続けている。

 

「先生?」

 

 受付の女性が声をかけた。

 

「……うむ」

 

「お客様です」

 

「……うむ」

 

「先生?」

 

「……うむ?」

 

 ようやく老人が顔を上げた。

 

「……おお。そうじゃったな」

 

 老人は眼鏡を押し上げ、二人を見た。

 

「わしがエルヴィン・クロフォードじゃ。で、何の用じゃったかの?」

 

「初めまして!」

 

 メイビスが元気よく頭を下げる。

 

「メイビス・ヴァーミリオンといいます!」

 

「イリス・アストレアと申します。突然お邪魔して申し訳ありません」

 

 イリスも丁寧に挨拶した。

 

「ふむ……」

 

 エルヴィンは二人を見比べた。

 

「ずいぶん若い客じゃな」

 

「はい! 私たち、妖精の尻尾という魔導士ギルドから来ました!」

 

「妖精の尻尾……?」

 

 エルヴィンは少し考え込む。

 

「……ああ。最近、名前を聞いた覚えがあるのう」

 

 そして、机の上に置かれた封筒へ目を向けた。

 

「それで、ヴァルドの奴が紹介状を寄越したわけか」

 

「はい!」

 

「まったく……あやつは昔から、人を驚かせるのが好きな男じゃ」

 

 エルヴィンは苦笑しながら封筒を開いた。

 

 中の手紙に目を通す。

 

「……ふむ。古代魔法について相談したい、と」

 

「はい!」

 

 メイビスが頷く。

 

「特に、異世界や転移魔法についてお聞きしたいんです!」

 

 その瞬間。

 

 エルヴィンの手が止まった。

 

「……何?」

 

 老人がゆっくりと顔を上げる。

 

「今、異世界と言ったか?」

 

「はい!」

 

「……ほう」

 

 エルヴィンは眼鏡の奥で目を細めた。

 

「それは、また珍しい話じゃな」

 

 そして、イリスへ視線を向ける。

 

「お嬢さん。何故、異世界について調べておる?」

 

 イリスは少し間を置いてから答えた。

 

「……実は、私自身が異世界から来たんです」

 

「…………」

 

 エルヴィンは黙り込んだ。

 

 一秒。

 

 二秒。

 

 三秒。

 

「……なんじゃと?」

 

 老人が椅子から立ち上がった。

 

「異世界から来たじゃと!?」

 

「は、はい」

 

「本当にか!?」

 

「ええ。私の故郷は、この世界とは異なる場所にあります」

 

「……!」

 

 エルヴィンの目が大きく見開かれた。

 

 そして。

 

「……面白い!」

 

 老人の表情が一変した。

 

「実に面白い話じゃ!」

 

 先ほどまでの落ち着いた態度はどこへやら。

 

 エルヴィンは机の上の書類をかき分けながら、勢いよく椅子を引いた。

 

「さあ、座りなさい! 詳しく聞かせてもらおうではないか!」

 

「えっ?」

 

「何をしておる! 早く早く!」

 

 その様子に、メイビスが楽しそうに笑った。

 

「ふふっ。ヴァルドさんの言っていた通りですね!」

 

「……そうですね」

 

 イリスも思わず微笑んだ。

 

 こうして二人は、研究者エルヴィン・クロフォードとの奇妙で賑やかな対話を始めることになった。

 

――――――――――

 

第三幕 世界を隔てる境界

 

「……なるほどのう」

 

 イリスの話を聞き終えたエルヴィンは、深く腕を組んだ。

 

 魔法学院に通っていたこと。

 

 冒険者として活動していたこと。

 

 ある日突然、見知らぬ世界へ来てしまったこと。

 

 そして、元の世界へ帰る方法を探していること。

 

 エルヴィンは何度も頷きながら、机の上に広げた紙へ熱心に書き込んでいた。

 

「実に興味深い……!」

 

「何かわかりますか?」

 

 イリスが尋ねる。

 

「ふむ。結論から言えば、わしも異世界へ渡る方法を知っておるわけではない」

 

「……そうですか」

 

「じゃが、まったく手掛かりがないわけでもないぞ」

 

「本当ですか!?」

 

 メイビスが身を乗り出した。

 

「うむ」

 

 エルヴィンは立ち上がり、壁際の書棚へ向かった。

 

 そして、古びた一冊の書物を取り出す。

 

「古代の魔導士たちは、空間そのものについて様々な研究を行っておった」

 

 机に書物を広げる。

 

 そこには、複雑な魔法陣と見慣れない文字が記されていた。

 

「転移魔法というものは知っておるじゃろう?」

 

「はい」

 

 イリスが頷く。

 

「離れた場所へ移動する魔法ですね」

 

「その通りじゃ。じゃが、それは基本的に同じ世界の中での移動にすぎん」

 

 エルヴィンはページをめくった。

 

「古い研究の中には、世界そのものに境界が存在するのではないか、と考えた者もおった」

 

「世界の……境界?」

 

 メイビスが首を傾げる。

 

「うむ。仮に、我々の住む世界とは別の世界が存在するとしよう」

 

 エルヴィンは紙に二つの円を描いた。

 

「この円が、それぞれ別の世界じゃ」

 

「はい」

 

「通常の転移魔法は、同じ円の中で場所を移すもの。じゃが、もし円と円の間を越えられるとしたら?」

 

「……異世界へ移動できる、ということですね!」

 

「そういうことじゃ!」

 

 エルヴィンは満足そうに頷いた。

 

「もっとも、これはあくまで古い仮説にすぎん。実際に成功したという確かな記録は残っておらん」

 

「……なるほど」

 

 イリスは真剣な表情で書物を見つめた。

 

 自分がこの世界へ来た以上、世界を越える現象そのものは起こり得る。

 

 しかし、それを魔法として再現できるかどうかは、まったく別の問題だった。

 

「それに、もう一つ厄介なことがある」

 

 エルヴィンが続ける。

 

「仮に異世界が存在するとして、それが一つだけとは限らん」

 

「……!」

 

 メイビスが顔を上げた。

 

「二つかもしれん。百かもしれん。あるいは、我々の想像も及ばぬほど存在するのかもしれん」

 

「……つまり」

 

 メイビスがゆっくりと言葉を選ぶ。

 

「世界を越える方法が見つかったとしても、イリスさんの故郷に辿り着けるとは限らない……ということですね」

 

「その通りじゃ」

 

 エルヴィンは頷いた。

 

「どの世界へ向かうのか。それを定める方法も必要になるじゃろうな」

 

 イリスは静かに考え込んだ。

 

 これまでは、元の世界へ帰る方法を探していた。

 

 けれど、もし異世界がいくつも存在するのなら。

 

 ただ世界を越えるだけでは、故郷へ帰れるとは限らない。

 

「……なるほど」

 

 イリスは小さく頷いた。

 

「帰る方法だけでなく、帰る先を特定する方法も必要なんですね」

 

「うむ。少なくとも、そう考えておいた方がよかろう」

 

「ありがとうございます。とても勉強になります」

 

 イリスは丁寧に頭を下げた。

 

 すると、エルヴィンは楽しそうに笑った。

 

「いやいや! 礼を言いたいのはこちらの方じゃ!」

 

「え?」

 

「異世界から来たという人物に、こうして直接話を聞けるとは思わなんだ!」

 

 エルヴィンは嬉しそうに書物を閉じた。

 

「長生きはするものじゃのう!」

 

 その姿に、メイビスも笑顔を浮かべた。

 

――――――――――

 

終幕 古き旅人の伝承

 

「……そうじゃ!」

 

 エルヴィンが突然、手を叩いた。

 

「もう一つ、見せたいものがある!」

 

「見せたいもの、ですか?」

 

 イリスが尋ねる。

 

「うむ。少し待っておれ」

 

 老人は立ち上がると、部屋の奥にある古い書棚へ向かった。

 

 何冊もの書物を取り出しては戻し、時折首を傾げている。

 

「……確か、この辺りに……」

 

「お手伝いしましょうか?」

 

 メイビスが声をかける。

 

「いや、大丈夫じゃ。……おお、あったあった!」

 

 エルヴィンは一冊の薄い書物を取り出した。

 

 表紙は色褪せ、ところどころ擦り切れている。

 

「これは、数百年前に書かれたとされる旅人の手記を、後世の者が写したものじゃ」

 

「旅人の手記……?」

 

「うむ。そこには、奇妙な人物についての記述がある」

 

 エルヴィンは慎重にページを開いた。

 

「その人物は、自らを遠い世界から来た者だと語っておったそうじゃ」

 

「……!」

 

 イリスの表情が変わった。

 

「異世界から……?」

 

「そうじゃ」

 

 エルヴィンは頷く。

 

「その人物が語ったという土地や文化は、当時の人々には理解できぬものだったらしい」

 

「どんなことが書かれているんですか?」

 

 メイビスが興味深そうに尋ねる。

 

「ふむ……例えば、空を覆うほど巨大な樹木が存在する土地や、我々とは異なる姿の人々が暮らす国について語ったとある」

 

「……すごいですね!」

 

 メイビスが目を輝かせた。

 

「ですが、それだけでは異世界から来た証拠にはなりませんね」

 

「その通りじゃ」

 

 エルヴィンは満足そうに頷いた。

 

「遠い国の話かもしれんし、単なる作り話かもしれん。そもそも、この手記自体が後世の写本じゃからな」

 

「……なるほど」

 

 イリスも静かに頷いた。

 

「その方が、元の世界へ帰ったという記録はありますか?」

 

「いや。それについては何も残っておらん」

 

「……そうですか」

 

 イリスは少し残念そうに微笑んだ。

 

 けれど、落胆ばかりではなかった。

 

 少なくとも、異世界について考えた人々が、過去にも存在したのだ。

 

「……先生」

 

 その時、メイビスが書物を覗き込みながら口を開いた。

 

「この部分、少し気になりませんか?」

 

「む?」

 

 エルヴィンが顔を近づける。

 

 メイビスが指差したのは、旅人について記された一節だった。

 

「ここに、『空間が裂けるような光を見た』とありますよね?」

 

「うむ」

 

「先ほどの空間魔法の研究書にも、似た表現がありませんでしたか?」

 

「……!」

 

 エルヴィンの目が見開かれた。

 

「……待てよ」

 

 老人は慌てて先ほどの研究書を開いた。

 

 何枚もページをめくり、ある箇所で手を止める。

 

「……確かに」

 

 そこには、空間の境界について論じた古い記述があった。

 

 世界と世界を隔てる境界が揺らぐ時、光のような現象が生じる可能性がある。

 

 そう記されていた。

 

「……面白い!」

 

 エルヴィンが興奮した声を上げる。

 

「実に面白い着眼点じゃ!」

 

「えへへ……!」

 

 メイビスが嬉しそうに笑った。

 

「ただの偶然かもしれませんけど!」

 

「いやいや! 研究というものは、そういう小さな疑問から始まるものじゃ!」

 

 エルヴィンは何度も頷いた。

 

「もちろん、これだけで何かが証明されたわけではない。じゃが、調べる価値はある!」

 

「はい!」

 

 二人はすっかり意気投合していた。

 

 その様子を見ていたイリスが、思わず微笑む。

 

「ふふっ。お二人とも、本当に楽しそうですね」

 

「もちろんです!」

 

 メイビスが振り返った。

 

「イリスさん! まだまだ調べられることがありそうですよ!」

 

「ええ。そうですね」

 

 イリスは頷いた。

 

 帰還方法は、まだ見つかっていない。

 

 けれど、これまで何もわからなかった異世界という存在について、少しずつ考えるための材料が集まり始めている。

 

 それだけでも、大きな前進だった。

 

「エルヴィンさん」

 

「うむ?」

 

「今日は、本当にありがとうございました」

 

 イリスは深く頭を下げた。

 

「おかげで、これから何を調べるべきなのか、少し見えてきた気がします」

 

「ほっほっほ! それは何よりじゃ!」

 

 エルヴィンは嬉しそうに笑った。

 

「わしも久しぶりに、胸が躍るような話を聞かせてもらった!」

 

 そして、机の上の書物へ目を向ける。

 

「この件については、わしも少し調べてみよう」

 

「……本当ですか?」

 

「うむ。古い資料を洗い直せば、何か見つかるかもしれんからのう」

 

「ありがとうございます!」

 

 メイビスが嬉しそうに頭を下げる。

 

「ただし、あまり期待しすぎるでないぞ?」

 

 エルヴィンは穏やかに笑った。

 

「わしにも、わからぬことは山ほどある」

 

「はい。それでも、十分嬉しいです」

 

 イリスは微笑んだ。

 

 その言葉に、エルヴィンも満足そうに頷いた。

 

 やがて二人は、研究室を後にすることになった。

 

「またいつでも訪ねてきなさい!」

 

「はい!」

 

「次に来る時は、もっと面白い話を用意しておくぞ!」

 

「楽しみにしています!」

 

 メイビスが元気よく答える。

 

 イリスも丁寧に頭を下げた。

 

「ありがとうございました、エルヴィンさん」

 

「うむ! 気をつけて帰るんじゃぞ!」

 

 資料館の外へ出ると、午後の日差しが王都の街並みを明るく照らしていた。

 

「……イリスさん!」

 

 メイビスが振り返る。

 

「今日は、すごく勉強になりましたね!」

 

「ええ。本当に」

 

「それに、エルヴィンさんも素敵な方でした!」

 

「ふふっ。そうですね」

 

 二人は並んで歩き始めた。

 

 王都の大通りには、相変わらず多くの人々が行き交っている。

 

 花の香りを含んだ風が、二人の髪を優しく揺らした。

 

「……メイビスさん」

 

「はい?」

 

「今日は、ありがとうございました」

 

「えっ?」

 

 メイビスが目を瞬かせる。

 

「どうしてですか?」

 

「私一人では、あの二つの資料の共通点に気づけなかったかもしれませんから」

 

「……!」

 

 メイビスは少し照れくさそうに笑った。

 

「えへへ……! でも、まだ何かわかったわけじゃありませんよ?」

 

「それでも、嬉しかったんです」

 

 イリスは穏やかに微笑んだ。

 

「一緒に考えてくださる方がいるというのは、心強いですね」

 

「……はい!」

 

 メイビスは満面の笑みを浮かべた。

 

「もちろんです! だって、私たちは友達ですから!」

 

「……ふふっ。そうですね」

 

 イリスも笑った。

 

 異世界へ帰る道は、まだ遠い。

 

 世界と世界を隔てる境界。

 

 その先にあるかもしれない、懐かしい故郷。

 

 いつか、そこへ辿り着くことができるのだろうか。

 

 答えは、まだ誰にもわからない。

 

 けれど。

 

 その道を、一人で探しているわけではない。

 

 イリスは隣を歩く友人へ視線を向け、静かに微笑んだ。

 

 花の都で得た、新たな可能性。

 

 それは、まだ小さな手掛かりにすぎない。

 

 それでも確かに、二人の旅を前へ進めるものだった。

 

 ――第40話 完――

 

 




【こそこそ妖精話】

~本の誘惑~

メイビス「イリスさん!」

イリス「はい、どうしました?」

メイビス「実は、エルヴィンさんにお願いして、資料館の本を少し読ませてもらえることになったんです!」

イリス「それはよかったですね」

メイビス「はい! 古代魔法の研究書も、魔法史の資料も、珍しい伝承をまとめた本もあるんですよ!」

イリス「ふふっ。楽しみですね」

メイビス「それでですね……」

イリス「はい?」

メイビス「明日、もう一度資料館に行ってもいいですか?」

イリス「もちろんですよ」

メイビス「本当ですか!?」

イリス「ええ。せっかく王都まで来たんですから」

メイビス「ありがとうございます!」

イリス「ちなみに、何冊くらい読む予定なんですか?」

メイビス「そうですね……とりあえず二十冊くらいでしょうか!」

イリス「……二十冊?」

メイビス「はい!」

イリス「……一日で?」

メイビス「はい!」

イリス「…………」

メイビス「イリスさん?」

イリス「……ふふっ。明日は長い一日になりそうですね」

メイビス「大丈夫です! イリスさんも一緒に読みましょう!」

イリス「……私もですか?」

メイビス「はい! 二人なら四十冊読めます!」

イリス「……冊数が増えていませんか?」

メイビス「えへへっ!」

イリス「メイビスさん!?」



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。