第一幕 旅立ちの朝
王都クロッカスに、爽やかな朝が訪れた。
窓から差し込む柔らかな日差しが、宿の一室を明るく照らしている。
「んん……!」
メイビスは大きく伸びをすると、ゆっくりと目を開けた。
「……おはようございます、イリスさん!」
「おはようございます、メイビスさん」
すでに身支度を整えていたイリスが、微笑みながら振り返る。
「よく眠れましたか?」
「はい! ぐっすりです!」
「ふふっ。それはよかったです」
メイビスは寝台から起き上がると、窓の外へ視線を向けた。
色鮮やかな花々。
朝日を浴びて輝く白い建物。
そして、少しずつ賑わい始める大通り。
王都クロッカス。
花の都と呼ばれるこの街にも、すっかり馴染んできた。
「……綺麗ですね」
メイビスが呟いた。
「ええ。本当に素敵な街です」
イリスも窓の外を見つめる。
「最初に訪れた時は、あまりの大きさに驚きましたけど」
「ふふっ。私もです!」
メイビスは楽しそうに笑った。
「それに、たくさんの本がありました!」
「……メイビスさんにとっては、そこが一番大切なんですね」
「もちろんです!」
迷いのない返事だった。
イリスは思わず笑ってしまう。
「ふふっ。そうでしたね」
そんな穏やかな朝。
二人は、今日で王都を離れることにしていた。
古文献資料館での調査は一区切りついた。
異世界への帰還方法こそ見つからなかったものの、今後調べるべき方向性は少しずつ明確になっている。
それに、エルヴィンという心強い協力者も得られた。
今すぐ答えが見つかるわけではない。
だからこそ、一度マグノリアへ戻り、これまでの情報を整理することにしたのだ。
「……それにしても」
メイビスが振り返る。
「もう帰るんですね」
「ええ。少し名残惜しいですけど」
イリスは荷物をまとめながら頷いた。
「ですが、そろそろ皆さんにも会いたいですから」
「はい!」
メイビスの顔がぱっと明るくなる。
「ユーリたち、元気にしているでしょうか!」
「ふふっ。きっと元気ですよ」
「プレヒトは大丈夫でしょうか?」
「……それは、少し心配ですね」
二人は顔を見合わせた。
そして、同時に笑ってしまった。
「きっと、ユーリさんに振り回されているでしょうね」
「ふふっ! 想像できます!」
「帰ったら、まずはプレヒトさんを労ってあげましょうか」
「そうですね!」
メイビスは大きく頷いた。
それから、何かを思い出したように手を叩く。
「あっ! そういえば!」
「はい?」
「イリスさんの二つ名、みんなに教えないといけませんね!」
「…………」
イリスの動きが止まった。
「……メイビスさん」
「はい!」
「それは、もう少し後でもよいのでは……?」
「どうしてですか?」
メイビスが不思議そうに首を傾げる。
「だって、とっても素敵な二つ名ですよ!」
「……それは、そうなのですが」
イリスは少し頬を赤らめた。
妖精の聖剣。
ヴァルドが贈ってくれた、大切な呼び名。
嬉しくないわけではない。
むしろ、とても嬉しかった。
ただ。
それを仲間たちの前で大々的に紹介されるのは、少々恥ずかしい。
「……できれば、自然に広まってほしいと言いますか……」
「ふふっ!」
メイビスが楽しそうに笑った。
「それは難しいと思います!」
「……やっぱり、そうでしょうか」
「はい!」
即答だった。
イリスは小さく肩を落とす。
そんな様子を見て、メイビスはますます嬉しそうに笑った。
こうして、二人の王都最後の朝は、いつもどおり賑やかに始まった。
――――――――――
第二幕 再会の約束
宿を出た二人が最初に向かったのは、古文献資料館だった。
数日間、何度も通った建物。
重厚な扉を開くと、紙とインクの懐かしい香りが漂ってきた。
「エルヴィンさーん!」
メイビスが元気よく呼びかける。
「おお?」
奥の机から、白髪の老人が顔を上げた。
「おお! メイビスにイリスではないか!」
エルヴィン・クロフォードだった。
「どうしたのじゃ? また何か面白い文献でも見つけたか?」
「いえ、今日はご挨拶に来ました!」
「……挨拶?」
エルヴィンが首を傾げる。
イリスは微笑みながら頭を下げた。
「私たち、今日マグノリアへ帰ることにしたんです」
「……なんと!」
エルヴィンが目を見開いた。
「もう帰ってしまうのか!」
「はい。調査も一区切りつきましたので」
「むう……」
エルヴィンは残念そうに唸った。
「せっかく話の合う若者が見つかったというのに……」
「ふふっ。また来ますよ!」
メイビスが笑う。
「まだ読みたい本も、たくさんありますから!」
「おお! そうじゃったな!」
エルヴィンの表情が明るくなる。
「ならば、次に来るまでに面白そうな文献を集めておこう!」
「本当ですか!?」
「もちろんじゃ!」
二人は嬉しそうに笑い合った。
イリスはその様子を微笑ましく見守る。
すると、エルヴィンがイリスへ視線を向けた。
「イリスよ」
「はい?」
「異世界の研究については、わしも引き続き調べてみよう」
「……ありがとうございます」
イリスは深く頭を下げた。
「本当に、助かります」
「なに。わし自身、興味が尽きんのでな」
エルヴィンは穏やかに笑った。
「世界の境界を越える魔法……そんなものが存在するなら、ぜひとも知りたいものじゃ」
「ふふっ。私もです」
「何かわかれば、妖精の尻尾へ手紙を送ろう」
「はい。よろしくお願いいたします」
エルヴィンは大きく頷いた。
「うむ! 気をつけて帰るのじゃぞ!」
「はい!」
「またお会いしましょう」
二人は老人に見送られ、資料館を後にした。
次に向かったのは、星冠の塔だった。
白い石造りの建物。
青い屋根。
そして、星を戴いた塔の紋章。
数日前に初めて訪れた時とは違い、今ではすっかり見慣れた場所になっていた。
「こんにちはー!」
メイビスが扉を開く。
「おっ!」
「妖精の尻尾の嬢ちゃんたちだ!」
「おお! 妖精の聖剣じゃねえか!」
「…………!」
イリスの肩がぴくりと跳ねた。
すでに、その呼び名が使われている。
「ふふっ。イリスさん、有名人ですね!」
「……メイビスさん」
イリスは困ったように微笑んだ。
「できれば、あまり大きな声では……」
「がっはっはっは!!」
その時。
ホールの奥から、豪快な笑い声が響いた。
「おお! 来たか、妖精の聖剣!」
「……ヴァルドさんまで」
イリスが苦笑する。
現れたのは、星冠の塔のギルドマスター。
ヴァルド・グランベルクだった。
「がっはっは! どうだ、いい二つ名だろう!」
「はい。とても嬉しく思っています」
「おう! そいつはよかった!」
ヴァルドは満足そうに頷いた。
「それで、今日はどうした?」
「実は、今日マグノリアへ帰ることにしたんです」
メイビスが答えた。
「おお、そうか!」
ヴァルドは少し驚いたように目を見開く。
「もう帰るのか!」
「はい。王都での調査も一区切りつきましたので」
イリスが説明する。
「そうかそうか!」
ヴァルドは大きく頷いた。
「まあ、帰る場所があるってのはいいことだ!」
「ふふっ。そうですね」
イリスは微笑んだ。
帰る場所。
その言葉が、不思議と胸に残った。
元の世界へ帰る方法を探している自分にとって、マグノリアもまた帰る場所になっている。
少し前までは、考えもしなかったことだった。
「イリス!」
「はい?」
ヴァルドがにやりと笑った。
「次に会う時までには、俺ももっと腕を磨いておくぜ!」
「ふふっ。楽しみにしています」
「がっはっは! 今度はそう簡単に負けねえからな!」
「私も負けませんよ?」
「おお!」
ヴァルドの目が輝いた。
「いい返事だ!」
周囲の魔導士たちも笑い始める。
「マスター、また負けるんじゃねえか?」
「おいおい、昨日の今日だぞ!」
「次はもっと頑張ってくださいよ!」
「うるせえ! お前らも鍛錬しろ!」
ヴァルドが豪快に笑い飛ばす。
ホールは、いつもどおり賑やかだった。
やがて、イリスとメイビスはギルドの入口へ向かった。
「ヴァルドさん、本当にお世話になりました」
イリスが丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございました!」
メイビスも元気よく続けた。
「おう!」
ヴァルドは大きく手を振った。
「またいつでも遊びに来い!」
「はい!」
「がっはっは! 次に会う時を楽しみにしてるぜ!」
二人は笑顔で手を振り返した。
こうして、王都で出会った人々との別れを済ませたのだった。
――――――――――
第三幕 帰り道
王都クロッカスの大門を抜けると、二人の前に広い街道が続いていた。
振り返れば、花々に彩られた美しい街並みが見える。
遠くには王宮の尖塔がそびえ、青空の下で白く輝いていた。
「……綺麗ですね」
メイビスが呟いた。
「ええ」
イリスも足を止める。
「また来たいですね」
「はい!」
メイビスは大きく頷いた。
「今度は、もっとたくさん本を読みたいです!」
「ふふっ。やっぱり本なんですね」
「もちろんです!」
二人は顔を見合わせて笑った。
そして、マグノリアへ向かって歩き始める。
街道には、旅人や商人たちの姿があった。
荷馬車が行き交い、遠くから鳥の鳴き声が聞こえてくる。
穏やかな旅路だった。
「それにしても……」
メイビスが楽しそうに話し始める。
「今回の旅、本当にいろいろありましたね!」
「そうですね」
イリスは頷いた。
「マーガレットでは、セレスティアさんにお世話になりましたし」
「はい! 蛇姫の鱗も素敵なギルドでした!」
「王都では、ヴァルドさんやエルヴィンさんとも知り合えました」
「それに、イリスさんの二つ名もできました!」
「……そこは忘れていただいても」
「忘れません!」
メイビスは即答した。
イリスは思わず笑ってしまう。
「ふふっ。そうですよね」
「はい!」
メイビスは嬉しそうに笑った。
それから、少しだけ表情を落ち着かせる。
「……でも、イリスさん」
「はい?」
「帰る方法、見つかりませんでしたね」
イリスは静かに頷いた。
「……ええ」
異世界への帰還。
今回の旅で、具体的な方法を見つけることはできなかった。
世界の境界を越えること。
そして、元の世界を特定すること。
エルヴィンから教わった二つの課題は、どちらも簡単に解決できるものではない。
「……すみません」
メイビスが小さく呟いた。
「私も、もっと何か見つけられたらよかったんですけど……」
「メイビスさん」
イリスは足を止めた。
そして、穏やかに微笑む。
「謝らないでください」
「……え?」
「今回の旅で、私はたくさんのことを知ることができました」
イリスは空を見上げた。
「それに、協力してくださる方も増えました」
「……はい」
「一人だったら、きっとここまで調べることもできなかったと思います」
イリスはメイビスへ視線を戻す。
「ですから、本当に感謝しているんですよ」
「……イリスさん」
「ふふっ。ありがとうございます、メイビスさん」
メイビスは少しだけ目を丸くした。
そして。
「……はい!」
嬉しそうに笑った。
「これからも、一緒に探しましょう!」
「ええ。よろしくお願いします」
二人は再び歩き始めた。
それから、幾日かが過ぎた。
街道沿いの宿場町で休み、時には美しい景色を眺めながら、二人は旅を続けた。
途中、小さな川を見つけて休憩したり、道端に咲く珍しい花を見つけて足を止めたり。
メイビスが旅先で手に入れた本を読み始め、イリスが声をかけるまで気づかないこともあった。
そんな旅の途中、街道沿いの木陰で休憩していた時のことだった。
イリスがふと隣を見ると、メイビスが一枚の紙を熱心に眺めていた。
「メイビスさん、何を読んでいるんですか?」
「あっ、イリスさん! 王都の資料館で書き写した空間魔法の術式です!」
「まだ研究していたんですね」
「はい! 少し面白いことを思いついたんです!」
メイビスは楽しそうに笑った。
「面白いこと、ですか?」
「ふふっ。まだ秘密です!」
「そうなんですね」
イリスも微笑んだ。
「それは楽しみです」
メイビスは嬉しそうに頷くと、再び紙へ視線を落とした。
その横顔は、まるで新しい遊びを見つけた子供のように生き生きとしていた。
イリスはそんな友人の様子を微笑ましく見守りながら、水筒を片づけた。
そして、二人の旅は続いた。
穏やかな時間が流れていく。
やがて、ある日の午後。
「あっ!」
街道の先を見つめていたメイビスが、突然声を上げた。
「イリスさん! 見えてきました!」
「……ええ」
イリスも微笑んだ。
見慣れた街並み。
懐かしい建物。
そして、幾度も歩いた道。
マグノリア。
二人が帰る場所だった。
「……メイビスさん」
「はい?」
イリスは隣を歩く友人へ視線を向けた。
「二人での旅、とても楽しかったです」
「……!」
メイビスが目を丸くする。
イリスは穏やかに微笑んだ。
「いろいろな景色を見て、たくさんの人と出会って……メイビスさんと一緒だったから、こんなに楽しい旅になったんだと思います」
「……イリスさん」
メイビスは嬉しそうに笑った。
「私もです! イリスさんと一緒に旅ができて、本当に楽しかったです!」
「ふふっ。よかったです」
「また一緒に旅をしましょうね!」
「はい。ぜひ!」
二人は顔を見合わせ、笑い合った。
そして、懐かしい仲間たちの待つ街へ、並んで歩き出した。
――――――――――
終幕 ただいま、妖精の尻尾
マグノリアの街は、今日も賑やかだった。
商店街には多くの人々が行き交い、店先からは威勢のいい声が聞こえてくる。
「おや?」
道を歩いていた商人が、二人に気づいた。
「メイビスちゃんにイリスちゃんじゃないか!」
「こんにちは!」
メイビスが元気よく挨拶する。
「久しぶりですね!」
「おう! 旅はどうだった?」
「とっても楽しかったです!」
「ふふっ。おかげさまで、無事に帰ってこられました」
イリスも微笑んだ。
「そりゃあよかった!」
商人は嬉しそうに笑った。
「ギルドの連中も喜ぶぞ!」
「はい!」
二人は礼を言い、再び歩き始めた。
見慣れた道を進む。
やがて。
「あっ!」
メイビスが足を速めた。
「見えました!」
その先には、一軒の建物があった。
妖精の尻尾。
自分たちが仲間と共に作り上げた、魔導士ギルド。
扉の向こうからは、賑やかな声が聞こえてくる。
「だからよ! 俺はこうした方がいいと思うんだ!」
「お前は少し黙っていろ!」
「なんだと!?」
「まあまあ、二人とも……」
聞き覚えのある声だった。
イリスとメイビスは顔を見合わせる。
「……ふふっ」
「……変わってませんね!」
「ええ。本当に」
二人は笑った。
そして。
――ガチャッ。
メイビスが扉を開いた。
「ただいま帰りましたー!!」
「ただいま帰りました」
その瞬間。
ギルドの中が、ぴたりと静まり返った。
「…………」
ユーリが目を丸くする。
プレヒトが顔を上げる。
ウォーロッドが嬉しそうに微笑んだ。
そして。
「……おおおおおっ!!」
ユーリが勢いよく立ち上がった。
「メイビス! イリス!」
そのまま二人のもとへ駆け寄ってくる。
「帰ってきたのか!!」
「はい!」
メイビスが嬉しそうに笑った。
「ただいまです、ユーリ!」
「おう! おかえり!」
ユーリは満面の笑みを浮かべた。
「いやあ、待ってたぜ!」
「ふふっ。お久しぶりです、ユーリさん」
イリスも微笑む。
「おう! 元気そうで何よりだ!」
すると、奥からプレヒトが歩いてきた。
「……ようやく帰ってきたか」
「プレヒトさん!」
メイビスが嬉しそうに声を上げる。
「お留守番、ありがとうございました!」
「……ああ」
プレヒトは小さく息をついた。
「まったく。留守中の仕事がどれほど大変だったことか……」
「ふふっ。お疲れさまでした」
イリスが微笑む。
「本当にありがとうございました、マスタープレヒト」
「代理だ!」
即答だった。
その場に笑い声が広がる。
「はははっ! いいじゃねえか、マスター!」
「ユーリ! お前まで!」
「ふふっ。プレヒトも元気そうでよかったよ」
ウォーロッドが穏やかに笑いながら近づいてきた。
「おかえり、二人とも」
「ただいまです、ウォーロッドさん」
「ただいま帰りました!」
メイビスも元気よく答えた。
すると、奥からさらに声が上がる。
「マスター!」
エマが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「イリスさんも! おかえりなさい!」
「ただいまです、エマさん!」
「ふふっ。お久しぶりです」
続いて、レオンとセリナも顔を見せる。
「おっ、帰ってきたのか!」
「二人とも元気そうじゃない!」
「はい!」
メイビスが笑った。
「皆さんもお元気でしたか?」
「もちろん!」
セリナが胸を張る。
「こっちはこっちで、いろいろあったけどね!」
「いろいろ……?」
イリスが首を傾げる。
すると、レオンが苦笑した。
「まあ、主にユーリさんが……」
「おい! なんで俺なんだよ!」
「だって、事実でしょう?」
セリナが呆れたように言う。
「この前だって、依頼から帰ってきた途端に……」
「わーっ! それは言うな!」
ユーリが慌てて遮った。
ギルドに笑い声が広がる。
その賑やかさが、なんとも懐かしかった。
イリスは、ふと周囲を見渡した。
見慣れた机。
壁に貼られた依頼書。
仲間たちの笑顔。
そして、騒がしくも温かい空気。
ここへ来たばかりの頃は、まだ何もなかった。
けれど今では、こうして大勢の仲間が集まっている。
「……ふふっ」
イリスは自然と微笑んだ。
帰ってきた。
そんな実感が、胸の奥に広がっていく。
「そういえば!」
メイビスが突然、声を上げた。
「皆さんに、大事なお知らせがあります!」
「おっ?」
ユーリが振り返る。
「なんだなんだ?」
「実はですね!」
メイビスは嬉しそうにイリスを指さした。
「イリスさんに、二つ名ができたんです!」
「…………え?」
イリスの笑顔が固まった。
「二つ名!?」
ユーリが目を輝かせる。
「おお! なんだよ、それ!」
「王都のギルドマスター、ヴァルドさんが名付けてくださったんです!」
「へえ!」
セリナも興味深そうに身を乗り出した。
「どんな二つ名なの?」
「ふふっ!」
メイビスは得意げに胸を張った。
そして。
「――『妖精の聖剣』です!」
その言葉に、ギルドが一瞬静まり返った。
「…………」
ユーリがイリスを見た。
プレヒトも顔を上げる。
ウォーロッドが目を細めた。
そして。
「……おおおおっ!!」
ユーリが叫んだ。
「めちゃくちゃ格好いいじゃねえか!!」
「でしょー!」
メイビスが嬉しそうに笑う。
「妖精の聖剣か……」
プレヒトが小さく頷いた。
「確かに、イリスにはよく似合っているな」
「ふふっ。素敵な名前だね」
ウォーロッドも微笑んだ。
「イリスさん、すごいです!」
エマが目を輝かせる。
「王都で二つ名をもらうなんて!」
「いいじゃない!」
セリナも笑った。
「うちのギルドにも、ついに二つ名持ちが誕生したわね!」
「いやあ、すげえな!」
レオンも感心したように頷く。
そんな仲間たちの反応を前に、イリスは少し頬を赤らめた。
「……あ、ありがとうございます」
「おい、イリス!」
ユーリがにやりと笑った。
「これからは妖精の聖剣って呼んだ方がいいか?」
「……できれば、今までどおりでお願いします」
「はははっ! 冗談だって!」
ユーリが大笑いする。
すると、メイビスが嬉しそうに続けた。
「それに、イリスさんはヴァルドさんとの模擬戦にも勝ったんですよ!」
「……は?」
ユーリの動きが止まった。
「王都のギルドマスターと戦ったのか!?」
「はい!」
「しかも勝った!?」
「はい!」
「おおおおお!!」
再び歓声が上がる。
「すげえじゃねえか!」
「どんな戦いだったんだ!?」
「詳しく聞かせてよ!」
仲間たちが次々と集まってきた。
メイビスは待っていましたとばかりに話し始める。
「それがですね! ヴァルドさんは鋼鉄魔法の使い手で――」
「メ、メイビスさん……!」
イリスが慌てて声をかける。
しかし、メイビスは止まらなかった。
「まず大きな鋼鉄の壁を出したんですけど、イリスさんが一振りで真っ二つにして!」
「おおっ!」
「それから、たくさんの槍が飛んできて!」
「へえ!」
「最後は巨大な大剣まで斬ってしまったんです!」
「すげえええ!!」
ユーリが興奮して叫ぶ。
セリナも目を輝かせた。
「ちょっと! その話、もっと詳しく聞きたいわ!」
「もちろんです!」
メイビスは満面の笑みで答えた。
イリスは小さく息をつく。
「……ふふっ」
けれど、その表情はどこか嬉しそうだった。
賑やかな声。
楽しそうな笑顔。
そして、自分の帰りを喜んでくれる仲間たち。
ここには、確かに自分の居場所がある。
元の世界へ帰る方法は、まだ見つかっていない。
これから先、どれほど長い旅になるのかもわからない。
それでも。
今は、この時間を大切にしたかった。
「イリスさん!」
メイビスが振り返った。
「次は、イリスさんからもお話ししてください!」
「……えっ?」
「王都で見た景色とか、食べたものとか!」
「ああ、そちらですか」
イリスはほっとしたように笑った。
「ふふっ。それなら、喜んで」
その返事に、仲間たちが笑顔を浮かべる。
ユーリが椅子を引き寄せた。
「よーし! 今日は二人の旅の話を聞くぞ!」
「お前、仕事はどうした?」
プレヒトが尋ねる。
「明日やる!」
「今日やれ!」
「はははっ!」
再び笑い声が響いた。
その中心で、イリスとメイビスも笑っていた。
花の都での出会い。
新しく得た知識。
そして、妖精の聖剣という二つ名。
二人の旅は、確かに多くのものを残してくれた。
けれど、それ以上に。
帰ってきた時、笑顔で迎えてくれる仲間がいること。
その温かさこそが、何よりも嬉しかった。
マグノリアの午後。
妖精の尻尾には、今日も賑やかな笑い声が響いていた。
――おかえり。
そして、ただいま。
そんな当たり前の言葉が、何よりも大切に思える一日だった。
――第42話 完――
【こそこそ妖精話】
~マスター代理の休日~
プレヒト「……終わった」
ウォーロッド「お疲れさま、プレヒト」
プレヒト「長かった……本当に長かった……」
ユーリ「おいおい、大げさだな!」
プレヒト「誰のせいだと思っている!!」
ユーリ「え? 俺?」
プレヒト「他に誰がいる!」
ウォーロッド「ふふっ。でも、メイビスたちも無事に帰ってきたし、これで一安心だね」
プレヒト「ああ。ようやくマスター代理の仕事から解放される……」
ユーリ「よかったな、マスタープレヒト!」
プレヒト「代理だ!!」
ユーリ「いや、もう代理でもねえだろ?」
プレヒト「……そうだな」
ユーリ「じゃあ、元マスタープレヒト!」
プレヒト「普通にプレヒトと呼べ!!」
ウォーロッド「ふふふっ」
メイビス「皆さん、楽しそうですね!」
プレヒト「メイビス! ちょうどいいところに!」
メイビス「はい?」
プレヒト「今後のギルドの運営についてだが――」
メイビス「あっ! プレヒト!」
プレヒト「なんだ?」
メイビス「留守中のお仕事、本当にありがとうございました!」
プレヒト「……ああ」
メイビス「とっても助かりました!」
プレヒト「……そうか」
メイビス「またお願いすることがあったら、よろしくお願いしますね!」
プレヒト「……待て」
ユーリ「よかったな、次期マスタープレヒト!」
プレヒト「勝手に決めるなあああ!!」
ウォーロッド「ふふっ。プレヒトの休日は、まだ遠そうだね」
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。