妖精と聖剣使い   作:使い手なない

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第43話「初めてのS級依頼」

 

第一幕 賑やかな妖精たち

 

 X688年。

 

 王都クロッカスから帰還して、およそ一か月。

 

 マグノリアの街には、穏やかな朝が訪れていた。

 

 石畳の道を行き交う人々の声。

 

 店先に並べられた色とりどりの商品。

 

 そして、街の一角に建つ魔導士ギルド――妖精の尻尾。

 

 その扉の向こうでは、今日も賑やかな声が響いていた。

 

「よっしゃあ! 今日こそ大物の依頼を引き当ててやるぜ!」

 

 依頼掲示板の前で、ユーリが拳を握る。

 

「昨日も同じことを言っていなかったか?」

 

 隣から呆れた声をかけたのはプレヒトだった。

 

「昨日は昨日! 今日は今日だ!」

 

「それで昨日はどうだった?」

 

「……荷物運びだった」

 

「一昨日は?」

 

「……迷子の犬探し」

 

「その前は?」

 

「うるせえな! 覚えてねえよ!」

 

 プレヒトは小さくため息をついた。

 

「依頼に大きいも小さいもないだろう。どれも大切な仕事だ」

 

「わかってるって! でもよ、たまにはこう、腕が鳴るような依頼が欲しいじゃねえか!」

 

「ふふっ。ユーリは元気だねぇ」

 

 近くの椅子に腰掛けていたウォーロッドが、楽しそうに笑う。

 

「ウォーロッドは物足りなくねえのか?」

 

「僕は今の仕事も好きだよ。困っている人の役に立てるのは嬉しいからね」

 

「そりゃそうだけどよぉ……」

 

「それに、強い魔物と戦いたいなら、いずれ機会もあるんじゃないかな?」

 

「おっ! ウォーロッドもそう思うか!」

 

「危険な目に遭いたいわけじゃないけどね」

 

 そんな三人のやり取りを、少し離れたテーブルからイリスが眺めていた。

 

「ふふっ。今日も賑やかですね」

 

「そうですね!」

 

 隣に座っていたメイビスが、嬉しそうに頷く。

 

 テーブルの上には、数冊の本と書きかけの書類が広げられていた。

 

「最近は依頼も増えてきましたし、街の人たちにも少しずつ覚えてもらえるようになりました!」

 

「ええ。ギルドに来てくださる方も増えましたね」

 

 イリスが視線を向けた先では、エマが新しく届いた依頼書を整理していた。

 

 その近くでは、レオンとセリナが次の仕事について相談している。

 

 ダンとボルクは何やら言い争いをしていたが、ミナに注意されると揃って口を閉じた。

 

 リタはその様子を見て、くすくすと笑っている。

 

 一か月前と比べても、ギルドの中には以前より活気が満ちていた。

 

「こうして皆さんが楽しそうにしていると、嬉しくなりますね」

 

 イリスが呟く。

 

「はい!」

 

 メイビスは大きく頷いた。

 

「もっともっと、素敵なギルドにしていきたいです!」

 

「ふふっ。私もお手伝いしますよ」

 

「頼りにしています、イリスさん!」

 

 そのときだった。

 

「メイビスさん!」

 

 受付からエマの声が上がった。

 

「少し確認していただきたい依頼があるんですけど……」

 

「はい! なんでしょう?」

 

 メイビスが席を立つ。

 

 エマの手には、一通の封書が握られていた。

 

 ほかの依頼書とは異なり、厚手の紙には公的な印章が押されている。

 

「今朝、届けられたものなんです。依頼の内容が少し……」

 

 エマは言葉を選ぶように封書を差し出した。

 

 メイビスが受け取り、中の書類に目を通す。

 

 そして。

 

「……あら?」

 

 その表情が、少しだけ真剣なものに変わった。

 

――――――――――

 

第二幕 初めてのS級依頼

 

「皆さん! ちょっと集まってください!」

 

 メイビスの声に、ギルド内の視線が集まった。

 

「おっ! なんだなんだ?」

 

 真っ先に駆け寄ってきたのはユーリだった。

 

 プレヒトとウォーロッドも、その後に続く。

 

「何かあったんですか?」

 

 イリスも席を立ち、メイビスの隣へ向かった。

 

 メイビスは依頼書を掲げた。

 

「実は、妖精の尻尾に初めてのS級依頼が届いたんです!」

 

「……S級?」

 

 ユーリが目を丸くする。

 

 次の瞬間。

 

「おおおっ!! ついに来たか!!」

 

 ギルド中に響き渡る声を上げた。

 

「落ち着け、ユーリ」

 

 プレヒトが眉をひそめる。

 

「S級ということは、それだけ危険な依頼だということだ」

 

「わかってるって! だからこそ腕が鳴るんじゃねえか!」

 

「まだ内容も聞いていないだろう」

 

「じゃあ聞こうぜ!」

 

 メイビスは小さく笑ってから、依頼書へ視線を戻した。

 

「依頼元は、フィオーレ王国北部の山間地域にある複数の村です」

 

 彼女の声が、少し引き締まる。

 

「最近、その周辺の森で巨大な魔物が目撃されるようになったそうです」

 

「巨大な魔物?」

 

 ウォーロッドが首を傾げる。

 

「はい。目撃情報によると、狼に似た姿で、頭が三つあるそうです」

 

「三つ……?」

 

 ユーリが指を三本立てる。

 

「頭が三つもある狼ってことか?」

 

「そうみたいです」

 

 メイビスは頷いた。

 

「しかも、目撃されたのは一体ではありません」

 

 依頼書を持つ手に、わずかに力がこもる。

 

「二体です」

 

「二体……」

 

 プレヒトの表情が険しくなった。

 

「三つの頭を持つ巨大な狼が二体か。確かに、普通の魔物ではなさそうだな」

 

「大きさはどのくらいなんでしょう?」

 

 イリスが尋ねる。

 

「目撃者の証言では、どちらも全長十メートルほどだそうです」

 

「十メートル!?」

 

 近くで聞いていたダンが声を上げた。

 

「そんなのが二体もいるのかよ!」

 

「しかも、すでに被害が出ています」

 

 メイビスは続けた。

 

「森の周辺では家畜が襲われ、村へ続く道も何か所か破壊されています。調査に向かった人たちも、途中で引き返すしかなかったそうです」

 

「村の人たちは無事なんですか?」

 

 イリスが問いかける。

 

「今のところ、大きな人的被害は報告されていません。ただ、村の外へ出ることも難しくなっていて……」

 

「それは困りますね」

 

 イリスの表情が真剣になる。

 

 メイビスはさらに書類をめくった。

 

「二体の魔物には、それぞれ特徴があるようです。一体は黒い毛並みで、炎と雷を使うそうです」

 

「炎と雷……!」

 

 ユーリの目が輝いた。

 

「雷を使う狼か! 面白そうじゃねえか!」

 

「面白がるな」

 

 プレヒトが即座に突っ込む。

 

「もう一体は白い毛並みで、周囲を凍らせるほどの冷気を操るそうです」

 

「なるほどねぇ……」

 

 ウォーロッドが顎に手を当てた。

 

「炎と雷、それに氷か。森の中で戦うとなると、なかなか厄介そうだね」

 

「はい。それに、この二体は一緒に行動することが多いそうです」

 

 メイビスは依頼書を机に置いた。

 

「依頼元では、二体が協力して獲物を追い詰める姿も目撃されています」

 

「ただの獣じゃねえってことか」

 

 ユーリが腕を組む。

 

「そういうことだろうな」

 

 プレヒトが頷いた。

 

「相手の能力も厄介だが、二体の連携が一番の問題かもしれん」

 

 イリスは静かに依頼書を見つめていた。

 

 三つの頭を持つ巨大な魔狼。

 

 それが二体。

 

 しかも、村の人々の暮らしを脅かしている。

 

「……メイビスさん」

 

「はい?」

 

「この依頼、私も参加させていただけませんか?」

 

 メイビスはイリスを見上げた。

 

「もちろん、そのつもりでした!」

 

「ふふっ。ありがとうございます」

 

「おいおい! 俺も行くぞ!」

 

 ユーリが勢いよく手を上げる。

 

「雷を使うっていう黒い方、ぜひ戦ってみてえ!」

 

「依頼は腕試しではないぞ」

 

 プレヒトが言う。

 

「わかってるって!」

 

「……本当にわかっているのか?」

 

「しつけえな!」

 

 その様子を見ていたメイビスが、にっこりと笑った。

 

「では、ユーリもお願いします!」

 

「よっしゃあ!」

 

「プレヒトも、お願いできますか?」

 

「もちろんだ。危険な依頼なら、なおさら戦力は必要だろう」

 

「ありがとうございます!」

 

 最後に、メイビスはウォーロッドへ視線を向けた。

 

「ウォーロッドも、一緒に行ってもらえますか?」

 

「ふふっ。僕でよければ、喜んで」

 

「決まりですね!」

 

 メイビスは四人を順番に見渡した。

 

「今回のS級依頼は、イリスさん、ユーリ、プレヒト、ウォーロッドの四人にお願いします!」

 

「おう!」

 

「了解した」

 

「任せてください」

 

「頑張るよ」

 

 四人の返事が重なった。

 

 それを聞いていたセリナが、感心したように呟く。

 

「創設メンバーが四人も出るなんて、すごい依頼ね」

 

「それだけ危険ってことだろ」

 

 レオンが応じる。

 

「でも、あの四人なら大丈夫だと思う」

 

 リタが微笑んだ。

 

 その言葉に、メイビスも頷く。

 

「はい! 私もそう信じています!」

 

 そして、少しだけ表情を引き締めた。

 

「ただし、皆さん。無理だけはしないでくださいね」

 

 イリスが穏やかに微笑む。

 

「はい。必ず、全員で帰ってきます」

 

 ユーリも胸を張った。

 

「心配すんなって! 魔狼だろうが何だろうが、まとめて倒してやるぜ!」

 

「お前はもう少し慎重になれ」

 

「だから、わかってるって!」

 

 再び始まった二人のやり取りに、ギルド内から笑い声が上がった。

 

――――――――――

 

第三幕 四人の旅路

 

 翌朝。

 

 マグノリアの街を、四人の魔導士が歩いていた。

 

「いやー! 久しぶりだな、こういうの!」

 

 先頭を歩くユーリが、両腕を大きく伸ばす。

 

「こういうの、とは?」

 

 イリスが尋ねる。

 

「俺たち四人で依頼に行くことだよ!」

 

「ああ、確かにそうですね」

 

 イリスは微笑んだ。

 

「最近は別々に仕事をすることが多かったですから」

 

「ギルドの人数も増えたからねぇ」

 

 ウォーロッドが穏やかに言う。

 

「以前みたいに、いつも全員で行動するわけにはいかなくなったからね」

 

「それだけギルドが成長したということだ」

 

 プレヒトが続けた。

 

「今はほかの連中にも仕事を任せられる。悪いことではない」

 

「そりゃそうだけどよ」

 

 ユーリは振り返って、にっと笑った。

 

「やっぱり、こうして一緒に出かけるのは楽しいだろ?」

 

「ふふっ。そうですね」

 

 イリスが頷く。

 

「私も楽しみです」

 

「だろ!」

 

「ただし、依頼のことは忘れないでくださいね?」

 

「わかってるって!」

 

 その返事を聞いて、プレヒトが小さく息を吐いた。

 

「お前の『わかってる』は信用ならん」

 

「なんだと!?」

 

「ふふっ。相変わらずだねぇ」

 

 ウォーロッドが笑う。

 

 そんな会話を交わしながら、四人は街道を進んでいった。

 

 やがて、周囲の景色は緑豊かな平原から、木々の生い茂る山道へと変わっていく。

 

 目的地までは、まだ少し距離があった。

 

 道中では、近くの町で食事を取り、夜には宿を借りた。

 

 久しぶりに四人で囲む食卓は、思いのほか賑やかだった。

 

 ユーリが大盛りの料理を注文すれば、プレヒトが呆れた顔をする。

 

 ウォーロッドは旅先で見つけた珍しい植物について話し、イリスは興味深そうに耳を傾ける。

 

 そして翌日。

 

 四人は、依頼書に記されていた村へと到着した。

 

――――――――――

 

第四幕 山間の村

 

 山々に囲まれた、小さな村だった。

 

 木造の家々が並び、その向こうには深い森が広がっている。

 

 しかし、村の様子はどこか静かだった。

 

 畑仕事をする人の姿は少なく、家の窓も閉ざされている。

 

「……ずいぶん静かだな」

 

 ユーリが呟く。

 

「魔物の影響でしょうね」

 

 イリスが答えた。

 

 そのとき、一人の年配の男性が四人に気づいた。

 

「あんたたち……もしかして、魔導士か?」

 

「はい!」

 

 イリスが一歩前へ出る。

 

「妖精の尻尾から参りました。依頼を受けて、魔物の討伐に来た者です」

 

「おお……!」

 

 男性の顔に、安堵の色が浮かんだ。

 

「ようやく来てくれたか! 助かった……!」

 

 男性は村の長だと名乗り、四人を家へ案内してくれた。

 

 そこで聞かされた話は、依頼書に書かれていた内容よりも深刻だった。

 

「最初は、森の奥で妙な鳴き声が聞こえるだけだったんだ」

 

 村長は重い口を開いた。

 

「だが、しばらくすると家畜が消えるようになってな。森へ入った者が、巨大な狼を見たと言い出した」

 

「それが、三つの頭を持つ魔狼だったんですね」

 

 イリスが確認する。

 

「ああ。黒いのと白いのが一体ずつだ」

 

 村長は頷いた。

 

「黒い方が吠えると、木々が燃えた。白い方が歩いた場所には、真っ白な霜が残っていたそうだ」

 

「炎と氷か……」

 

 プレヒトが呟く。

 

「雷も見たという者がおる。空が晴れているのに、森の中で稲妻が走ったとな」

 

「へえ……」

 

 ユーリが目を細める。

 

「そいつは間違いなさそうだな」

 

「二体は、いつも一緒にいるんですか?」

 

 ウォーロッドが尋ねた。

 

「いや。別々に目撃されたこともある。ただ……」

 

 村長は言葉を切った。

 

「一体を見つけたと思ったら、もう一体が背後から現れたという話もある」

 

「なるほど」

 

 プレヒトの表情が険しくなる。

 

「連携して狩りをしているわけか」

 

「頼む……!」

 

 村長が深々と頭を下げた。

 

「あの化け物たちがいる限り、安心して暮らすこともできん。どうか、村を救ってくれ!」

 

 イリスは静かに頷いた。

 

「お任せください」

 

 その声は、穏やかでありながら力強かった。

 

「必ず、魔物を討伐します」

 

 ユーリも笑った。

 

「心配すんな! 俺たちに任せとけ!」

 

 プレヒトとウォーロッドも頷く。

 

 四人は村長から詳しい目撃場所を聞き、森へ向かうことにした。

 

――――――――――

 

終幕 森に潜む十二の瞳

 

 村を出て、しばらく。

 

 四人は深い森の中を進んでいた。

 

 高く伸びた木々が日差しを遮り、足元には湿った落ち葉が積もっている。

 

「……妙だな」

 

 プレヒトが足を止めた。

 

「どうした?」

 

 ユーリが振り返る。

 

「静かすぎる」

 

 その言葉に、イリスも周囲を見渡した。

 

 確かに、鳥の鳴き声すら聞こえない。

 

 風に揺れる葉の音だけが、森の中に響いていた。

 

「近くにいるのかもしれませんね」

 

 イリスが呟く。

 

 金色の瞳には、周囲に残された魔力の痕跡が映っていた。

 

 地面を走る淡い光の筋。

 

 木々の幹に残る、異なる性質の魔力。

 

 その痕跡は、森の奥へと続いている。

 

「こちらです」

 

 イリスは進む方向を示した。

 

「魔力の残滓があります。それも、二種類」

 

「二体とも近くにいるってことか?」

 

「その可能性が高いです」

 

 四人は警戒を強めながら進んだ。

 

 やがて、森の景色が変わり始める。

 

 木々の一部は黒く焦げ、地面には大きな爪痕が刻まれていた。

 

 反対側では、季節外れの霜が草木を覆っている。

 

「……これはすごいねぇ」

 

 ウォーロッドが呟いた。

 

「ここまで周囲の環境を変えてしまうなんて」

 

「間違いなく、ただの魔物じゃねえな」

 

 ユーリが拳を握る。

 

 そのときだった。

 

 ――ゴォォォ……。

 

 低い唸り声が、森の奥から響いた。

 

 四人が一斉に顔を上げる。

 

 木々の向こうで、巨大な影が動いた。

 

 そして。

 

 ――ズシン。

 

 重い足音とともに、一体の魔物が姿を現した。

 

 漆黒の毛並み。

 

 鋭い爪。

 

 そして、三つの巨大な頭。

 

 六つの赤い瞳が、四人を見下ろしていた。

 

「……こいつが黒い方か」

 

 ユーリが笑みを浮かべる。

 

 魔狼の口元から、赤い炎が漏れた。

 

 別の頭の牙の間では、稲妻が弾けている。

 

 その巨体は、目撃情報どおり十メートルほどもあった。

 

「すごい迫力ですね……」

 

 イリスが静かに呟く。

 

 だが、彼女の視線はすぐに別の方向へ向いた。

 

「皆さん。もう一体もいます」

 

「何?」

 

 プレヒトが振り返る。

 

 次の瞬間。

 

 ――パキパキパキッ!

 

 足元の草が凍りついた。

 

 冷たい空気が流れ込み、木々の間から白い影が現れる。

 

 銀白色の毛並みを持つ、もう一体の三首魔狼。

 

 その六つの瞳が、静かに四人を見据えていた。

 

「……なるほどねぇ」

 

 ウォーロッドが小さく息を吐く。

 

「最初から、僕たちを挟み撃ちにするつもりだったみたいだね」

 

「やっぱり、頭のいい魔物だな」

 

 プレヒトが魔力を高める。

 

 ユーリも拳に雷をまとわせた。

 

「へっ! ちょうどいいじゃねえか!」

 

 黒き魔狼が、低く唸る。

 

 白き魔狼が、冷気を吐き出す。

 

 そして、二体が同時に咆哮した。

 

『グオオオオオオオオッ!!』

 

 森全体が震えるほどの轟音。

 

 木々が揺れ、地面が震動する。

 

 その中心で、イリスは静かに聖剣の柄へ手を添えた。

 

「皆さん、気をつけてください」

 

 青と金の瞳が、二体の魔狼を捉える。

 

「相手は、どちらも相当な魔力を持っています」

 

「上等だ!」

 

 ユーリが笑う。

 

「プレヒト! 黒い方は俺たちでやるぞ!」

 

「勝手に決めるな……と言いたいところだが」

 

 プレヒトは魔力鎖を展開した。

 

「その方が戦いやすそうだな」

 

「ふふっ。じゃあ、僕も二人を手伝うよ」

 

 ウォーロッドの足元から、緑の蔓が伸び始める。

 

「黒い方は炎を使うんだよね。僕の植物とは相性が悪そうだけど……」

 

 ウォーロッドは穏やかに笑った。

 

「だからこそ、試してみたいこともあるんだ」

 

「おっ! 頼もしいじゃねえか!」

 

 ユーリが笑う。

 

「三人なら、きっと大丈夫だね」

 

 ウォーロッドが頷いた。

 

 イリスはそんな三人を見つめ、微笑んだ。

 

「では、私は白い方を引き受けますね」

 

「一人で大丈夫か?」

 

 プレヒトが確認する。

 

「はい。問題ありません」

 

 イリスは穏やかに答えた。

 

「皆さんも、どうかお気をつけて」

 

「おう! 任せとけ!」

 

 ユーリが拳を突き出す。

 

「イリスも気をつけろよ!」

 

「ふふっ。ありがとうございます」

 

 そして。

 

 黒き魔狼が炎をまとい、地面を蹴った。

 

 白き魔狼の周囲には、無数の氷の結晶が浮かび上がる。

 

 四人の魔導士も、それぞれの魔力を解き放った。

 

 妖精の尻尾にとって、初めてのS級依頼。

 

 その本当の戦いが、今まさに始まろうとしていた。

 

――第43話 完――

 




【こそこそ妖精話】

~置いてけぼりのメイビス~

 妖精の尻尾、昼下がり。

 ギルドの一角で、メイビスが机に突っ伏していた。

メイビス「…………」

エマ「……メイビスさん?」

メイビス「…………」

エマ「どうしたんですか?」

メイビス「……エマ」

エマ「はい?」

メイビス「気づいてしまったんです……」

エマ「何にですか?」

 メイビスが、ゆっくりと顔を上げた。

メイビス「今回の依頼……創設メンバーの中で、私だけお留守番なんです……!」

エマ「……ああ」

メイビス「イリスさんも、ユーリも、プレヒトも、ウォーロッドも……!」

エマ「そうですね」

メイビス「みんなで冒険に行ってしまいましたぁ……!」

 その様子を見ていたリタが、くすくすと笑う。

リタ「でも、メイビスさんはギルドマスターですから」

メイビス「わかっています! わかっているんですけど……!」

 メイビスは頬を膨らませた。

メイビス「私だって、みんなと一緒に冒険したかったです!」

エマ「ふふっ。次の機会がありますよ」

メイビス「それに……」

リタ「それに?」

メイビス「ユーリたちが帰ってきたら、きっと冒険の話で盛り上がるんですよ!」

エマ「でしょうね」

メイビス「私だけ『へえー! そうだったんですか!』って聞く側なんです!」

リタ「ふふふっ!」

メイビス「ずるいですー!」

 メイビスが再び机に突っ伏す。

 エマは苦笑しながら、書類の束を差し出した。

エマ「では、みなさんが帰ってくるまでに、こちらをお願いしますね」

メイビス「……これは?」

エマ「依頼の報告書と、ギルドの経費の確認です」

メイビス「…………」

エマ「メイビスさん?」

メイビス「……エマ」

エマ「はい?」

メイビス「私も、魔狼と戦いに行った方がよかったかもしれません……」

エマ「書類から逃げないでください!」

――おしまい。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。
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