第一幕 六つの咆哮
――グオオオオオオオッ!!
二体の三首魔狼が、同時に咆哮した。
森を震わせる轟音。
黒き魔狼の三つの口から炎と雷が溢れ、白き魔狼の周囲には無数の氷の結晶が浮かび上がる。
「来るぞ!」
プレヒトが叫んだ。
次の瞬間。
――ゴオオオオッ!!
黒き魔狼が灼熱の炎を吐き出した。
同時に、白き魔狼から無数の氷槍が放たれる。
前後から迫る二つの攻撃。
「ウォーロッド!」
「任せて!」
ウォーロッドが両手を地面へ向ける。
途端に、四人の周囲から巨大な根が勢いよく伸び上がった。
幾重にも絡み合った根が壁となり、迫り来る炎を受け止める。
その反対側では、イリスが聖剣を抜き放っていた。
――キィン!
澄んだ音とともに、青白い光が走る。
迫っていた氷槍が、まとめて両断された。
「よっしゃ! 行くぜ!」
ユーリの全身から黄色い雷が弾ける。
「プレヒト! 黒い方は俺たちでやるぞ!」
「だから勝手に決めるな!」
「お前も来るんだよ!」
「……まったく!」
プレヒトは魔力鎖を展開しながら、その後を追おうとした。
そのとき。
「ウォーロッドさん」
イリスが声をかけた。
「はい?」
「ユーリさんたちの援護をお願いできますか?」
ウォーロッドが目を瞬かせる。
「イリスは?」
「私は白い方を引き受けます」
イリスは穏やかに微笑んだ。
「三人なら、きっと大丈夫です」
「……ふふっ」
ウォーロッドも笑った。
「わかったよ。任せて!」
「ありがとうございます」
ウォーロッドは二人の後を追い、黒き魔狼へ向かった。
その背中を見送ってから、イリスは白き魔狼へ視線を戻す。
三つの頭。
六つの青い瞳。
全長十メートルもの巨体。
その周囲には、凍てつく冷気が渦巻いていた。
「さて……」
イリスは聖剣を構えた。
「こちらも、始めましょうか」
白き魔狼が咆哮する。
そして、巨大な氷槍が一斉に放たれた。
第二幕 三人の魔導士
「おらああっ!!」
ユーリが拳を突き出した。
黄色い雷が一直線に走り、黒き魔狼へ襲いかかる。
しかし。
――バチバチバチッ!
魔狼の中央の頭が雷を吐き出した。
二つの雷撃が激突し、激しい閃光が森を照らす。
「へえ! やるじゃねえか!」
ユーリが笑った。
だが、次の瞬間。
「ユーリ! 右だ!」
「おっと!」
右側の頭から炎が噴き出した。
ユーリは地面を蹴り、横へ跳ぶ。
その足元を灼熱の炎が通過した。
「危ねえ危ねえ!」
「笑っている場合か!」
プレヒトの魔力鎖が飛ぶ。
数本の鎖が魔狼の前脚へ絡みつき、その動きを一瞬だけ止めた。
「今だ!」
「おう!」
ユーリが跳躍する。
雷をまとった拳が、魔狼の側頭部へ叩き込まれた。
――ドゴォン!!
『グルアアアッ!!』
魔狼の巨体が揺れる。
しかし、倒れない。
むしろ、残る二つの頭が同時にユーリへ牙を剥いた。
「うおっ!?」
空中では避けられない。
そう判断した瞬間、ユーリの腰へ魔力鎖が巻きついた。
「引くぞ!」
プレヒトが腕を振る。
ユーリの身体が勢いよく引き戻され、巨大な牙が空を噛んだ。
――ガチン!!
「助かったぜ!」
「だから無闇に飛び込むなと言っている!」
「でも一発入っただろ?」
「その代わりに食われかけただろうが!」
「ふふっ。二人とも、相変わらずだねぇ」
ウォーロッドが笑う。
その足元から、太い根が伸び始めた。
「じゃあ、僕も手伝わせてもらうよ!」
――ゴゴゴゴッ!!
地面を突き破り、巨大な根が黒き魔狼の四肢へ絡みつく。
『グルルッ!?』
魔狼が暴れる。
しかし、根は簡単には引き千切られなかった。
「おっ!?」
ユーリが目を見開く。
「ウォーロッド! お前、いつの間にそんな強くなったんだ!?」
「ふふっ。僕だって、少しは成長しているんだよ」
ウォーロッドは穏やかに笑った。
「イリスとメイビスが王都へ行っている間、僕たちも頑張っていたからね」
「なるほどな!」
ユーリが笑う。
「そいつは頼もしいぜ!」
だが。
――ゴオオオッ!!
黒き魔狼が炎を吐き出した。
拘束していた根が、次々と燃え上がる。
「おっと……!」
ウォーロッドが眉を上げた。
「やっぱり、炎とは相性が悪いねぇ」
しかし、彼は慌てなかった。
「それなら……!」
再び魔力を込める。
燃えた根の隙間から、新しい蔓が伸び始めた。
一本が焼かれれば、二本。
二本が燃えれば、さらに三本。
次々と生み出される植物が、魔狼の動きを制限していく。
「……!」
プレヒトが目を細めた。
「なるほど。燃やされる前に、次の拘束を重ねているのか」
「そういうこと!」
ウォーロッドが頷く。
「もちろん、ずっと続けられるわけじゃないけどね」
黒き魔狼が激しく暴れる。
炎が植物を焼き、巨大な爪が根を引き裂く。
それでも、ウォーロッドは次々と拘束を立て直した。
「すげえじゃねえか!」
ユーリが声を上げる。
「へへっ! 俺も負けてられねえな!」
「張り合うところが違うだろう!」
プレヒトが呆れたように言う。
しかし、その口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。
仲間が強くなっている。
それは、彼にとっても嬉しいことだった。
だが、目の前の魔狼は、そんな感慨に浸る時間を与えてくれなかった。
――グオオオオッ!!
三つの頭が同時に口を開く。
炎。
雷。
そして、再び炎。
「まずい!」
プレヒトが叫んだ。
「散れ!」
三人はそれぞれ別の方向へ跳んだ。
直後。
――ドガァァン!!
巨大な爆発が森を揺らした。
ウォーロッドの植物が焼き払われ、プレヒトの魔力鎖も何本か砕け散る。
「……こいつ、相当強いねぇ」
ウォーロッドが小さく息を吐く。
「ああ」
プレヒトも頷いた。
「三つの頭がそれぞれ別の攻撃を仕掛けてくる。単純な拘束では止めきれん」
「だったら、全部まとめてぶっ飛ばせばいい!」
ユーリが拳を握る。
「お前はそればかりだな!」
「でも、間違っちゃいねえだろ?」
プレヒトは一瞬、言葉を詰まらせた。
そして。
「……まあな」
小さく笑った。
「ただし、三人でやるぞ」
「おう!」
「ふふっ。任せて!」
三人は再び魔力を高めた。
第三幕 白銀の魔狼と聖剣
一方。
森の別の場所では、白き三首魔狼が凄まじい冷気を放っていた。
――パキパキパキッ!!
地面が凍りつく。
木々が白く染まり、空気中の水分が氷の結晶へ変わっていく。
その中心で、イリスは静かに聖剣を構えていた。
「……なるほど」
彼女の青と金の瞳が、魔狼を捉える。
「かなり強力な冷気ですね」
『グルルル……!』
白き魔狼が低く唸った。
三つの頭が同時に口を開く。
次の瞬間。
――ヒュンヒュンヒュン!!
無数の氷槍が、イリスへ襲いかかった。
「では、こちらも」
イリスが聖剣を振る。
――シュン!
青白い斬撃が空間を駆け抜けた。
迫っていた氷槍が、まとめて切断される。
さらにイリスは地面を蹴った。
空中に光の剣が現れる。
その刀身を足場にして、イリスは軽やかに方向を変えた。
『グルッ!?』
白き魔狼の六つの瞳が、彼女を追う。
しかし、遅い。
――ザシュッ!!
聖剣が魔狼の肩を斬り裂いた。
『グルアアアッ!!』
白き魔狼が苦痛の声を上げる。
その巨体が大きく揺れた。
だが、魔狼はすぐに反撃した。
地面から巨大な氷柱が突き出し、イリスの退路を塞ぐ。
「おっと……」
イリスは空中に新たな光剣を生み出した。
その上へ軽やかに着地する。
直後、足元の氷柱が砕け散った。
――パァン!!
飛び散った氷片が、無数の刃となって襲いかかる。
「なかなか器用ですね」
イリスは小さく微笑んだ。
聖剣を一振り。
それだけで、迫る氷片はすべて切断された。
白き魔狼が後退する。
その六つの瞳には、明らかな警戒が浮かんでいた。
先ほどまでの獲物を見る目ではない。
目の前の少女が、自分よりも遥かに危険な存在だと理解し始めていた。
「……ふふっ」
イリスは聖剣を構え直した。
「そろそろ、終わりにしましょうか」
白き魔狼が咆哮する。
周囲の冷気が一気に収束した。
巨大な氷の壁が幾重にも生み出され、その奥から無数の氷槍が放たれる。
防御と攻撃を同時に行う、魔狼の全力の一撃。
しかし。
「――はっ!」
イリスが聖剣を振り抜いた。
青白い斬撃が、一直線に走る。
氷槍を斬り裂き。
氷の壁を両断し。
その奥にいた白き魔狼へと到達した。
――ザンッ!!
一瞬の静寂。
次の瞬間。
『グ……ル……』
白き魔狼の巨体が、ゆっくりと崩れ落ちた。
――ズズゥン……!!
地面が震える。
周囲を覆っていた冷気が、ゆっくりと薄れていった。
「……ふぅ」
イリスは聖剣を軽く振り、鞘へ納めた。
「これで、一体ですね」
彼女は倒れた魔狼を見つめた。
S級相当の魔物。
確かに、普通の魔導士では簡単に討伐できない相手だっただろう。
しかし、イリスにとっては、決して手に負えない相手ではなかった。
「さて……」
イリスは森の奥へ視線を向ける。
「皆さんの方は、どうでしょうか」
そのとき。
――バチバチッ!!
遠くから、雷の音が響いた。
イリスは小さく目を瞬かせる。
「……あら?」
その雷には、どこか普段とは異なる魔力の気配があった。
金色の瞳には、森の向こうで弾ける魔力の光が映っている。
「……ふふっ」
イリスは微笑んだ。
「どうやら、ユーリさんたちも頑張っているみたいですね」
彼女は足元に光剣を生み出した。
その刀身を踏み台にして、軽やかに森の上空へ跳び上がる。
そして、仲間たちの戦う方向へと向かった。
第四幕 赤き雷の覚醒
――ドゴォォン!!
黒き魔狼の炎が、森を焼いた。
「くそっ!」
ユーリが横へ跳ぶ。
その直後、巨大な雷撃が地面へ突き刺さった。
――ズガァン!!
「ユーリ! 集中しろ!」
「してるって!」
プレヒトの魔力鎖が、再び魔狼の脚へ絡みつく。
同時に、ウォーロッドの植物が地面から伸び上がった。
太い根が魔狼の後脚を拘束し、蔓が胴体へ巻きつく。
しかし、黒き魔狼も簡単には止まらない。
三つの頭が別々に動き、炎と雷を交互に放ってくる。
その巨体が暴れるたび、周囲の木々が薙ぎ倒された。
「……ったく、しぶとい野郎だぜ!」
ユーリが息を吐く。
すでに何度も雷撃を叩き込んでいる。
魔狼の身体には傷が増え、動きも少しずつ鈍っていた。
だが、まだ倒れない。
「……なるほどねぇ」
ウォーロッドが呟く。
「どうした?」
プレヒトが尋ねる。
「この魔狼、炎を使うときは一瞬だけ動きが止まるんだ」
「……何?」
「三つの頭が同時に攻撃するとき、身体を支えるために踏ん張っているみたいだね」
プレヒトが魔狼を観察する。
確かに。
炎と雷を同時に放つ直前、魔狼の四肢が地面へ深く沈み込んでいた。
「……なるほど」
プレヒトが目を細める。
「その瞬間なら、拘束を集中できるかもしれん」
「そういうこと!」
ウォーロッドが頷く。
「ただ、僕の植物だけじゃ炎で焼かれてしまう」
「なら、俺の鎖も使う」
プレヒトが魔力を高めた。
「二重に拘束すれば、簡単には抜けられんはずだ」
「へへっ!」
ユーリが笑う。
「じゃあ、俺が最後にぶっ飛ばせばいいんだな!」
「簡単に言うな!」
「でも、そういうことだろ?」
「……まあな」
プレヒトは小さく笑った。
そのとき。
黒き魔狼が再び三つの頭を持ち上げた。
炎。
雷。
そして、再び炎。
凄まじい魔力が集まり始める。
「……今だ!」
ウォーロッドが叫んだ。
――ゴゴゴゴッ!!
巨大な根が、魔狼の四肢へ絡みついた。
同時に、プレヒトの魔力鎖が伸びる。
脚。
胴体。
三つの首。
それぞれを別の方向から拘束した。
『グルアアアッ!?』
魔狼が暴れる。
炎が植物を焼き、雷が魔力鎖を弾く。
だが、二人は退かなかった。
「まだまだ!」
ウォーロッドが魔力を込める。
燃えた根の隙間から、新しい蔓が伸びた。
「逃がすか!」
プレヒトも鎖を増やす。
幾重にも重ねられた拘束が、魔狼の巨体を締め上げていく。
「ユーリ!!」
「おう!!」
ユーリが拳を握り締めた。
黄色い雷が、全身を覆う。
だが。
「……ん?」
そのとき、ユーリは違和感を覚えた。
自分の雷が、どこか散漫に広がっている。
魔力を込めれば込めるほど、周囲へ無駄に放電してしまう。
「……そうか」
ユーリが呟く。
「もっと、集めりゃいいんだ」
彼は拳を握り直した。
雷を広げるのではない。
一点へ。
ただひたすら、一点へ。
「もっと強く……!」
魔力が収束する。
「もっと速く……!」
黄色い雷が激しく明滅した。
――バチッ!!
その中に、一筋の赤い稲妻が走った。
「……!」
ユーリが目を見開く。
だが、驚いている暇はなかった。
「もっと……!」
さらに魔力を込める。
――バチバチバチバチッ!!
黄色い雷が、徐々に赤く染まっていく。
そして。
――バチィィッ!!
真紅の雷が、ユーリの右腕を覆った。
「……へへっ!」
ユーリが笑う。
「できたじゃねえか……!」
しかし、その直後。
「ぐっ……!」
右腕に激しい負担がかかった。
魔力が凄まじい勢いで消費されていく。
制御も、まだ不安定だった。
「ユーリ!」
プレヒトが叫ぶ。
「無理をするな!」
「大丈夫だ!」
ユーリは顔を上げた。
「あと一発なら、いける!」
「……!」
プレヒトは一瞬、迷った。
だが。
「……わかった!」
魔力鎖をさらに強く引き締める。
「ウォーロッド!」
「任せて!」
ウォーロッドも残る魔力を植物へ注ぎ込んだ。
太い根が魔狼の四肢を地面へ固定する。
魔力鎖が三つの首を別々の方向へ引き寄せた。
『グオオオオッ!!』
黒き魔狼が咆哮する。
しかし、動けない。
「今だ、ユーリ!!」
「行けええっ!!」
二人の声が重なった。
「うおおおおおおおっ!!」
ユーリが地面を蹴った。
真紅の雷が、一直線に駆け抜ける。
黒き魔狼が最後の抵抗を試みる。
だが。
「させるかああっ!!」
プレヒトが魔力鎖を引き締める。
「逃がさないよ!」
ウォーロッドの根が、さらに深く地面へ食い込んだ。
魔狼の巨体が、一瞬だけ完全に停止する。
その瞬間。
ユーリの拳が、黒き魔狼の胸元へ叩き込まれた。
「――赤雷ッ!!」
――ズガァァァァァァンッ!!
真紅の雷が爆発した。
凄まじい閃光が森を染め上げる。
高密度の雷が、黒き魔狼の強靱な肉体を貫いた。
『グオオオオオオオッ!!』
三つの頭が、最後の咆哮を上げる。
そして。
――ズズゥゥン……!!
巨大な魔狼が、地面へ崩れ落ちた。
真紅の雷が、ゆっくりと消えていく。
「……はぁ……はぁ……!」
ユーリが膝をついた。
「……やった、ぜ……!」
右腕が震えていた。
魔力も、ほとんど残っていない。
それでも、その顔には満足そうな笑みが浮かんでいた。
「……まったく」
プレヒトが歩み寄る。
「無茶をする奴だ」
「へへっ……勝っただろ?」
「……ああ」
プレヒトは倒れた魔狼を見つめた。
そして、小さく笑う。
「俺たちの勝ちだ」
「ふふっ。二人とも、お疲れさま」
ウォーロッドも歩み寄った。
「いやー! ウォーロッドもすげえじゃねえか!」
ユーリが笑う。
「あの根っこがなかったら、絶対に逃げられてたぜ!」
「ふふっ。ありがとう」
ウォーロッドが嬉しそうに頷く。
「でも、プレヒトの鎖もすごかったよ」
「お前の植物があったからこそだ」
プレヒトが答えた。
「一人では、あの巨体を止めきれなかった」
三人は顔を見合わせた。
そして、自然と笑みが浮かんだ。
そのとき。
「皆さん!」
聞き慣れた声が響いた。
三人が振り返る。
そこには、イリスの姿があった。
「おっ! イリス!」
ユーリが笑う。
「そっちも終わったのか?」
「はい。無事に討伐できました」
「さすがだな!」
プレヒトが頷く。
「イリスなら心配ないと思っていたが」
「ふふっ。ありがとうございます」
イリスは微笑んだ。
そして、倒れた黒き魔狼へ視線を向ける。
「こちらも、無事に終わったようですね」
「おう!」
ユーリが胸を張る。
「見たか! 俺たち三人の勝ちだ!」
「はい。お見事です」
イリスは素直に頷いた。
「それに、先ほどの赤い雷……」
「おっ! 見えたか!」
「はい。とても綺麗でした」
「へへっ! だろ!」
ユーリが嬉しそうに笑う。
しかし、その直後。
「……いてててっ!」
右腕を押さえた。
「ユーリ!」
プレヒトが眉をひそめる。
「だから無茶をするなと言っただろう!」
「わかってるって!」
「まったくわかっていない!」
「ふふっ」
ウォーロッドが笑った。
「でも、新しい力に目覚めたんだねぇ」
「ああ!」
ユーリは自分の右手を見つめた。
「まだ上手く使えねえけどな」
「それでいいと思いますよ」
イリスが穏やかに言った。
「新しい力は、少しずつ自分のものにしていけばいいんです」
「……そうだな!」
ユーリが笑う。
「次はもっと上手く使ってやるぜ!」
「その前に、魔力の使い方を覚えろ」
プレヒトが即座に言った。
「うるせえな!」
四人の笑い声が、森の中に響いた。
第五幕 初めてのS級依頼達成
それから、しばらくして。
四人は山間の村へ戻っていた。
「おお……! 本当に、二体とも倒してくれたのか!」
村長が目を見開く。
「はい」
イリスが頷いた。
「二体とも討伐しました。もう村の皆さんが襲われる心配はありません」
「なんということだ……!」
村長の目に、涙が浮かぶ。
「ありがとう……! 本当に、ありがとう!」
その声を聞きつけ、村人たちが次々と集まってきた。
「魔物を倒してくれたって!?」
「本当なのか!」
「これで、また森へ行けるんだな……!」
安堵の声が広がっていく。
子どもたちが嬉しそうに笑い、大人たちも互いに顔を見合わせた。
「へへっ!」
ユーリが鼻を擦る。
「こういうの、悪くねえな!」
「ふふっ。そうだねぇ」
ウォーロッドが頷く。
「みんなが安心して暮らせるようになった。それが一番嬉しいよ」
「……ああ」
プレヒトも静かに頷いた。
イリスは、村人たちの笑顔を見つめていた。
強い魔物を倒すこと。
それ自体が目的ではない。
その先にある、誰かの日常を守ること。
それこそが、魔導士として依頼を受ける意味なのだろう。
「……ふふっ」
イリスは小さく微笑んだ。
「皆さんのお役に立てて、よかったです」
村長は四人へ深々と頭を下げた。
「妖精の尻尾の魔導士たちよ。本当にありがとう」
その言葉を胸に、四人は村を後にした。
そして、数日後。
マグノリア。
妖精の尻尾の扉が、勢いよく開かれた。
「ただいまー!!」
ユーリの声が、ギルド中に響き渡る。
「お帰りなさい!!」
真っ先に駆け寄ってきたのはメイビスだった。
「皆さん! 無事だったんですね!」
「はい。全員、無事に帰ってきました」
イリスが微笑む。
「よかったです!」
メイビスは嬉しそうに笑った。
その後ろから、エマやリタたちも集まってくる。
「お疲れさまでした!」
「どうだった? S級依頼!」
「三つ頭の魔狼って、本当にいたのか!?」
次々と質問が飛んできた。
「おう! そりゃもう、とんでもねえ奴らだったぜ!」
ユーリが得意げに胸を張る。
「でもよ! 俺たちがきっちり倒してきた!」
「へえ!」
ダンが目を輝かせる。
「すげえじゃねえか!」
「しかもな!」
ユーリは右手を掲げた。
「俺、新しい雷が使えるようになったんだぜ!」
「新しい雷?」
メイビスが首を傾げる。
「そう! 赤い雷だ!」
「赤い雷!?」
メイビスの目が輝いた。
「それ、すごく興味があります!」
「だろ!」
「ぜひ見せてください!」
「おう! 任せろ!」
「待て」
プレヒトが即座に割って入った。
「今はやめておけ」
「なんでだよ!」
「お前、まだまともに制御できていないだろう!」
「ちょっとくらいなら――」
「ギルドを壊す気か!」
「壊さねえよ!」
「信用できん!」
そのやり取りに、ギルド中から笑い声が上がった。
「ふふっ。相変わらずですね」
イリスが笑う。
「本当だねぇ」
ウォーロッドも頷いた。
メイビスはそんな四人を見渡し、嬉しそうに微笑んだ。
「でも、本当にすごいです!」
彼女は胸の前で両手を握る。
「妖精の尻尾、初めてのS級依頼達成ですね!」
「おう!」
ユーリが拳を掲げた。
「これからも、どんどん大きな依頼を受けていこうぜ!」
「その前に、もう少し慎重さを身につけろ」
「プレヒト! お前、今日そればっかりだな!」
「お前が何度も無茶をするからだ!」
「ふふっ!」
メイビスが声を上げて笑った。
エマも、リタも、ほかの仲間たちも。
誰もが楽しそうに笑っていた。
イリスは、その光景を静かに見つめる。
かつて、天狼島で出会った仲間たち。
小さな冒険から始まった、彼らの物語。
それが今では、こうして多くの人々を笑顔にするギルドへと成長している。
「……素敵ですね」
イリスが小さく呟いた。
「何がですか?」
隣に来たメイビスが尋ねる。
イリスは微笑んだ。
「妖精の尻尾です」
メイビスは一瞬、目を丸くした。
そして。
「……はい!」
満面の笑みを浮かべた。
「私たちの、自慢のギルドです!」
賑やかな笑い声が、今日もギルドに響いている。
妖精の尻尾にとって、初めてのS級依頼。
それは、彼らが新たな一歩を踏み出した証だった。
そして、妖精たちの物語は、これからも続いていく。
――第44話 完――
【こそこそ妖精話】
~改めて知る実力差~
ユーリ「なあ、イリス」
イリス「はい? なんでしょう、ユーリさん?」
ユーリ「ちょっと聞きたいんだけどよ。白い方の魔狼、どうやって倒したんだ?」
イリス「白い魔狼ですか?」
ユーリ「おう! 俺たちは三人がかりで、結構苦労したからな!」
プレヒト「……確かに気になるな」
ウォーロッド「僕たちが戦っている間に、もう倒していたみたいだしねぇ」
イリス「そうですね。氷の魔法を使ってきたので、聖剣で斬りました」
ユーリ「……ん?」
プレヒト「……それだけか?」
イリス「はい。最後は飛ぶ斬撃で倒しましたよ」
ウォーロッド「……ちなみに、どのくらい時間がかかったんだい?」
イリス「うーん……正確には覚えていませんが、数分くらいでしょうか?」
ユーリ「…………」
プレヒト「…………」
ウォーロッド「…………」
イリス「……あの、皆さん?」
ユーリ「……なあ、プレヒト」
プレヒト「なんだ?」
ユーリ「俺たち、三人がかりだったよな?」
プレヒト「……ああ」
ウォーロッド「三人で協力して、ようやくだったねぇ」
ユーリ「俺なんか、新しい雷まで使ったんだぜ?」
プレヒト「俺も相当な魔力を使った」
ウォーロッド「僕も、植物を何度も燃やされたねぇ」
イリス「でも、皆さんの連携は素晴らしかったですよ?」
ユーリ「……で、イリスは一人だったよな?」
プレヒト「……ああ」
ウォーロッド「ふふっ。そうだったねぇ」
ユーリ「…………」
プレヒト「…………」
ウォーロッド「…………」
イリス「……?」
ユーリ「……俺たち、もっと強くならねえとな」
プレヒト「……そうだな」
ウォーロッド「ふふっ。まだまだ先は長そうだねぇ」
イリス「……あの、どうしたんですか?」
ユーリ「なんでもねえよ!」
イリス「……?」
――おしまい♪
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。