X689年
第一幕 一年という月日
――あれから、一年が過ぎた。
フィオーレ王国、マグノリア。
かつてブルースカルの支配下にあったこの街は、今ではすっかり活気を取り戻していた。
石畳の通りには商人たちの声が響き、行き交う人々の表情も明るい。
そして、その街の一角。
妖精の尻尾。
かつて、わずか五人で始まった小さな魔導士ギルドは、この一年でさらに大きく成長していた。
所属する魔導士は、二十人。
新たな仲間たちが加わり、ギルドの中は以前にも増して賑やかになっている。
そのきっかけの一つとなったのが、一年前の三首魔狼討伐だった。
フィオーレ北部の山間に現れた二体の強大な魔物。
それらを討伐したという噂は、依頼主の村だけに留まらず、周辺の街へと広がっていった。
やがて、妖精の尻尾には遠方からも依頼が届くようになった。
魔物の討伐。
商隊の護衛。
危険地帯での調査。
ときには、複数の魔導士が協力しなければ達成できないような難しい依頼もあった。
それでも、妖精たちは力を合わせ、一つずつ仕事を成し遂げていった。
もちろん、成長したのはギルドだけではない。
ユーリは、一年前に目覚めた赤雷を少しずつ使いこなせるようになっていた。
当初は一撃放つだけで右腕に大きな負担がかかっていたが、今では魔力の消費を抑え、実戦でも安定して使用できるようになっている。
プレヒトもまた、魔力鎖の操作技術を磨き続けていた。
複数の鎖を自在に操るだけでなく、仲間の動きに合わせて拘束や防御を切り替える技術にも磨きがかかっている。
ウォーロッドの植物魔法も、以前とは比べものにならないほど成長していた。
巨大な根による拘束だけでなく、広範囲に植物を展開し、仲間を守りながら敵の動きを封じることもできる。
そして、メイビス。
彼女はギルドマスターとして仲間たちを導く傍ら、王都クロッカスで興味を持った空間魔法の研究を続けていた。
古い術式を読み解き、魔力の流れを計算し、何度も理論を組み直す。
まだ自在に扱える段階ではないものの、その研究は少しずつ形になり始めていた。
そんな仲間たちの成長を、イリス・アストレアは嬉しく思っていた。
彼女自身も、この一年を何もせずに過ごしていたわけではない。
依頼の合間を縫って各地の資料を調べ、王都で知り合った研究者エルヴィン・クロフォードとも情報を交換していた。
目的は、ただ一つ。
異世界への帰還方法を見つけること。
しかし――。
有力な手掛かりは、未だ見つかっていなかった。
異世界の存在を示唆する古い文献はあっても、実際に世界を越える方法となると、どれも曖昧な記述ばかりだった。
研究が進んでいないわけではない。
けれど、帰還への道筋は依然として見えなかった。
それでも。
不思議なことに、イリスは以前ほど焦りを感じなくなっていた。
朝になれば、ギルドへ向かう。
仲間たちと笑い合い、依頼を受け、ときには遠くの街へ出かける。
帰ってくれば、誰かが「お帰り」と声をかけてくれる。
そんな日々が、いつの間にか当たり前になっていた。
――最近、少し変わったのでしょうか。
ふと、そんなことを思う。
元の世界へ帰りたくないわけではない。
魔法学院で過ごした日々も、故郷の景色も、今でも大切な思い出だ。
ただ。
以前ほど、帰ることばかりを考えなくなっている気がした。
この世界で過ごす時間が、あまりにも楽しくて。
大切な人たちが、少しずつ増えていって。
気がつけば、ここにも自分の居場所ができていた。
――もし、帰る方法が見つかったら。
そこまで考えて、イリスは小さく首を振った。
今、答えを出す必要はない。
帰還方法を探すことをやめるつもりもない。
けれど、今日という日を大切にしたい。
そう思えるようになったことだけは、確かだった。
――――――――――
第二幕 変わらない日常
「ユーリ!! だからギルドの中で雷を出すなと言っているだろう!!」
「ちょっと見せただけじゃねえか!」
「その『ちょっと』で机が焦げているんだ!」
「焦げただけだろ!?」
「十分問題だ!!」
――今日も、妖精の尻尾は賑やかだった。
ギルドの中央では、ユーリとプレヒトがいつものように言い争っている。
その近くには、わずかに焦げた木製の机。
どうやら、ユーリが新人に赤雷を披露しようとしたらしい。
「おお……! 赤い雷って、本当に出せるんですね!」
新しく加入した若い魔導士が、目を輝かせていた。
「へへっ! すげえだろ!」
「感心させるな!」
プレヒトが怒鳴る。
「ふふっ。相変わらずだねぇ」
ウォーロッドは苦笑しながら、机の焦げ跡を眺めていた。
「でも、前よりずっと制御できるようになったんじゃないかな?」
「だろ!?」
「だからといって室内で使っていい理由にはならん!」
プレヒトの声が響く。
その様子を見ていたセリナが、呆れたように肩をすくめた。
「まったく。新人が増えても、あの二人は変わらないわね」
「変わったら逆に怖いだろ」
隣にいたレオンが笑う。
「それもそうね」
二人の会話をよそに、受付ではエマが忙しそうに書類を整理していた。
「ダンさん! その依頼は三人以上で受けてください!」
「えー! 俺一人でもいけるって!」
「依頼書にそう書いてあるんです!」
「ちぇっ!」
「それからミナさん! 昨日の報告書、まだ提出されていませんよ!」
「あっ……忘れてた!」
「もうっ!」
エマは大きく息を吐いた。
「人数が増えるのは嬉しいですけど、仕事も増えるんですよね……!」
「お疲れさまです、エマさん」
そんな彼女に声をかけたのは、イリスだった。
「何かお手伝いしましょうか?」
「あっ、イリスさん!」
エマの表情がぱっと明るくなる。
「ありがとうございます! でも、大丈夫です!」
「本当ですか?」
「はい! これも私の仕事ですから!」
そう言いながら、エマは新しい書類の束を抱えた。
その量を見て、イリスは小さく笑う。
「……では、半分だけでも」
「うっ……」
エマは少し迷った末に、書類を差し出した。
「……お願いします」
「ふふっ。喜んで」
イリスが書類を受け取った、そのとき。
「イリスさーん!」
元気な声が響いた。
振り返ると、メイビスが駆け寄ってくる。
「見てください! また新しい術式を思いついたんです!」
「まあ。空間魔法の研究ですか?」
「はい!」
メイビスは嬉しそうに頷いた。
「まだ試したいことがたくさんあるんですけど、理論上はうまくいくはずなんですよ!」
「それは楽しみですね」
「ふふっ! 完成したら、一番にイリスさんに見せます!」
「はい。楽しみにしています」
イリスが微笑む。
そんな二人を見て、エマが小さく笑った。
「本当に仲がいいですね、お二人は」
「もちろんです!」
メイビスは胸を張った。
「イリスさんは、私の大切な友達ですから!」
「ふふっ。私もですよ、メイビスさん」
「えへへ……!」
メイビスが嬉しそうに笑う。
ギルドの中では、今日もあちこちから笑い声が響いていた。
新しい仲間が増えても。
依頼が増えても。
妖精の尻尾の温かさは、何も変わっていなかった。
――そのときだった。
ギィィ……。
ギルドの扉が、ゆっくりと開いた。
――――――――――
第三幕 水神の来訪
「……失礼する」
落ち着いた男の声が響いた。
扉の向こうから、一人の男性が姿を現す。
その姿を見た瞬間。
「……あ?」
ユーリの表情が変わった。
続いて、プレヒトが目を細める。
ウォーロッドも、穏やかな笑みを消した。
「……まさか」
プレヒトが呟く。
「セヴェル・アクエリス……!」
その名前を聞いた瞬間、イリスも顔を上げた。
そこに立っていたのは、かつてブルースカルの両腕と呼ばれた男。
水の滅神魔導士。
通称――水神。
セヴェル・アクエリスだった。
「……久しぶりだな」
セヴェルは静かに言った。
「随分と賑やかなギルドになったものだ」
「てめえ……!」
ユーリが立ち上がる。
「何しに来やがった!」
その声に、新人たちが驚いて振り返った。
「えっ……誰ですか、あの人?」
「ユーリさんの知り合い?」
「知り合いっつーか……!」
ユーリは拳を握り締めた。
「昔、俺たちと戦った奴だ!」
「ええっ!?」
ギルド内がざわつく。
プレヒトは静かに一歩前へ出た。
「セヴェル。今さら何の用だ?」
「そう警戒するな」
セヴェルは落ち着いたまま答える。
「今日は戦いに来たわけではない」
「信用できると思うか?」
「思わんだろうな」
あっさりとした返答だった。
その態度に、ユーリが眉をひそめる。
「……相変わらず、何考えてんのかわかんねえ奴だな」
「ふふっ。お久しぶりです、セヴェルさん」
そんな中、イリスが穏やかに声をかけた。
セヴェルの視線が、彼女へ向く。
「……イリス・アストレア」
その目に、わずかな興味の色が浮かんだ。
「久しぶりだな」
「はい。お元気そうで何よりです」
「お前も変わらんな」
「そうでしょうか?」
「少なくとも、その落ち着きは以前のままだ」
セヴェルは小さく笑った。
「……やはり、興味深い」
「?」
イリスが首を傾げる。
そのとき。
「セヴェルさん」
メイビスが前へ出た。
小柄な少女を見て、セヴェルが視線を下げる。
「……メイビス・ヴァーミリオンか」
「はい!」
メイビスは頷いた。
「妖精の尻尾のマスター、メイビス・ヴァーミリオンです!」
そして、まっすぐにセヴェルを見つめる。
「今日は、どのようなご用件でしょうか?」
セヴェルは一瞬だけ沈黙した。
それから、淡々と告げた。
「……単刀直入に言おう」
ギルド内が静かになる。
「俺は――」
そして。
「妖精の尻尾に加入したい」
「…………」
一瞬の静寂。
次の瞬間。
「はああああああっ!?」
ユーリの叫び声が、ギルド中に響き渡った。
――――――――――
第四幕 かつての敵
「ちょっと待て!!」
ユーリがセヴェルを指差した。
「お前、ブルースカルの幹部だったんだぞ!?」
「知っている」
「知ってるじゃねえよ!!」
「自分の経歴くらい把握している」
「そういう話じゃねえ!!」
プレヒトが額に手を当てた。
「……ユーリ、少し落ち着け」
「落ち着いてられるか!」
「気持ちはわかるが、話を聞かなければ始まらん」
そう言って、プレヒトはセヴェルへ視線を戻した。
「なぜ、今さら妖精の尻尾へ加入したい?」
「理由はいくつかある」
セヴェルは答えた。
「ブルースカルが崩壊してから、俺は各地を巡っていた」
「……ほう」
「各地の魔法を調べ、魔導士たちとも交流した。だが、どこへ行っても、あの日のことが頭から離れなかった」
彼の視線が、イリスへ向く。
「イリス・アストレア」
「はい?」
「お前の存在だ」
イリスが目を瞬かせる。
「……私、ですか?」
「ああ」
セヴェルは静かに頷いた。
「俺はこれまで、数多くの魔法を研究してきた。滅神魔法も、その一つだ」
彼は自分の手を見つめた。
「だが、あの日、お前の戦いを見て思った」
「……?」
「俺の知らない領域が、まだ存在するのだと」
セヴェルは顔を上げた。
「聖剣そのものにも興味はある。だが、それ以上に興味があるのは、お前自身だ」
「……なるほど」
イリスは小さく頷いた。
「研究者として、ということですね?」
「そうだ」
セヴェルは即答した。
「お前がどのような理論で魔力を扱い、なぜあれほどの力を発揮できるのか。知りたいことはいくらでもある」
「……なんだか、少し照れますね」
「褒めているつもりはない」
「ふふっ。そうでしたか」
そんな二人の会話に、ユーリが割って入った。
「いやいやいや! ちょっと待て!」
「今度は何だ?」
「イリスに興味があるからって、それだけで加入できると思うなよ!?」
「もちろん、それだけではない」
セヴェルは落ち着いて答えた。
「この一年、妖精の尻尾の噂は何度も耳にした」
「……」
「難しい依頼を次々と達成し、仲間を増やし、着実に勢力を広げている」
彼はギルドの中を見渡した。
「かつてブルースカルが支配していた街に、今はこれほど多くの魔導士が集まっている」
その目には、わずかな感慨が浮かんでいた。
「……興味深い変化だ」
「それで、うちに入りたいってことか?」
プレヒトが尋ねる。
「ああ」
セヴェルは頷いた。
「研究を続けるにしても、魔導士として活動するにしても、ここは悪くない場所だと思った」
「随分と勝手な理由だな」
「否定はしない」
セヴェルは平然と答えた。
その様子に、プレヒトは小さく息を吐いた。
「……まったく」
そのとき。
「一つ、聞いてもいいかな?」
ウォーロッドが穏やかに声をかけた。
「何だ?」
「君は、ブルースカルにいた頃のことをどう思っているんだい?」
セヴェルは黙った。
ウォーロッドは続ける。
「僕たちは、君が何をしていたのか知っている。だから、何もなかったことにはできないよ」
「……当然だな」
セヴェルは静かに頷いた。
「過去を否定するつもりはない。俺がブルースカルの一員だったことも、そこで戦ったことも事実だ」
「それでも、ここに入りたい?」
「ああ」
迷いのない返答だった。
「俺は過去を消したいわけではない。ただ、今後どこで何をするかは、自分で決めたい」
「……そうか」
ウォーロッドはしばらく彼を見つめた。
そして、小さく頷いた。
「わかったよ。話してくれてありがとう」
セヴェルはわずかに目を細めた。
「……変わった連中だな」
「ふふっ。よく言われるよ」
ウォーロッドが笑う。
そんなやり取りを、メイビスは黙って聞いていた。
やがて。
「……なるほど」
彼女は小さく頷いた。
「セヴェルさんの考えは、わかりました」
そして、にっこりと微笑んだ。
「ですが、すぐに加入を認めるわけにはいきません」
――――――――――
終幕 マスターの判断
「……ほう」
セヴェルが眉を上げた。
「理由を聞いても?」
「もちろんです!」
メイビスは頷いた。
「妖精の尻尾は、誰でも歓迎するギルドでありたいと思っています」
その声は明るかった。
けれど、次の言葉には確かな意志が込められていた。
「でも、ここには大切な仲間たちがいます」
メイビスはギルドの中を見渡した。
「だから、みんなを危険にさらすようなことはできません」
「……当然の判断だ」
セヴェルが頷く。
「では、どうすればいい?」
メイビスは少し考えた。
そして。
「そうですね……!」
何かを思いついたように、ぱっと顔を上げた。
「一つ、お願いがあります!」
「何だ?」
「イリスさんと、模擬戦をしていただけませんか?」
「……え?」
イリスが目を瞬かせた。
「私、ですか?」
「はい!」
メイビスは嬉しそうに頷く。
「もちろん、本気で傷つけ合う戦いではありませんよ!」
そして、セヴェルへ向き直った。
「あなたの魔法や戦い方を、実際に見せてほしいんです」
「……実力を測るためか?」
「それもあります。でも、それだけではありません」
メイビスは微笑んだ。
「戦い方には、その人の考え方が表れることがありますから」
プレヒトが小さく頷く。
「……なるほどな」
ウォーロッドも笑った。
「ふふっ。メイビスらしい考えだねぇ」
一方、ユーリは腕を組んだ。
「まあ、イリスが相手なら安心だな!」
「……ユーリ」
プレヒトが呆れたように言う。
「お前、さっきまであれほど反対していただろう」
「反対してるぜ?」
「なら、なぜ嬉しそうなんだ?」
「だってよ!」
ユーリはにやりと笑った。
「あのセヴェルがイリスと戦うんだぜ? どんな戦いになるのか、気になるじゃねえか!」
「……まったく」
プレヒトはため息をついた。
その隣で、ウォーロッドが楽しそうに笑う。
「ふふっ。僕も少し興味があるかな」
「……皆さん」
イリスは苦笑した。
そんな彼女を見て、メイビスが尋ねる。
「イリスさん、お願いできますか?」
「もちろんです」
イリスは穏やかに頷いた。
「私でよければ、お相手しますよ」
「ありがとうございます!」
メイビスが嬉しそうに笑う。
そして、セヴェルへ視線を向けた。
「セヴェルさんは、どうでしょう?」
セヴェルはしばらく黙っていた。
その視線が、イリスへ向く。
黒髪。
青と金の瞳。
左腰に佩かれた、星の意匠を持つ聖剣。
かつて、自分たちの前に立ちはだかった少女。
その姿を見つめてから、セヴェルは小さく笑った。
「……面白い」
そして。
「いいだろう。その条件、受けよう」
「決まりですね!」
メイビスが両手を合わせた。
「では、模擬戦は明日にしましょう!」
「明日か」
「あまり急いでも仕方ありませんし、今日はゆっくりしていってください!」
その言葉に、セヴェルがわずかに目を丸くした。
「……俺を、ここに置くのか?」
「はい!」
メイビスは当然のように頷いた。
「まだ加入が決まったわけではありませんけど、お客様ですから!」
「……」
セヴェルは一瞬、言葉を失った。
かつて敵対した相手。
しかも、自分はまだ信用されていない。
それでも、この少女は笑顔で迎え入れようとしている。
「……変わったマスターだな」
「ふふっ。そうでしょうか?」
メイビスは首を傾げた。
その隣で、イリスが微笑む。
「メイビスさんらしいと思いますよ」
「えへへ!」
メイビスが嬉しそうに笑った。
セヴェルは、そんな二人を静かに見つめていた。
ブルースカルにいた頃には、考えもしなかった光景だった。
敵だった者を、仲間として迎え入れるかもしれない。
そんな選択が、このギルドでは当たり前のように語られている。
「……妖精の尻尾、か」
セヴェルが小さく呟いた。
その声は、誰にも聞こえなかった。
こうして。
一年の月日を経て、大きく成長した妖精の尻尾に、かつての強敵が姿を現した。
水の滅神魔導士、セヴェル・アクエリス。
彼が新たな仲間となるのか。
その答えは、まだわからない。
ただ、一つだけ確かなことがあった。
明日。
妖精の聖剣と、水神。
かつて敵として向かい合った二人が、再び剣と魔法を交える。
今度は、互いを倒すためではなく。
新たな関係を築くために。
――第45話 完――
【こそこそ妖精話】
~金の匂い~
ユーリ「……なあ、プレヒト」
プレヒト「なんだ?」
ユーリ「明日の模擬戦、すげえことになりそうだよな」
プレヒト「まあな。相手はあのセヴェルだ。簡単な戦いにはならんだろう」
ユーリ「だよなぁ……」
プレヒト「……なんだ、その顔は」
ユーリ「へへっ。金の匂いがするぜ!」
プレヒト「……おい」
ユーリ「考えてもみろよ! 妖精の聖剣と水神の対決だぜ!? こんな面白そうな勝負、滅多に見られねえぞ!」
プレヒト「まさか、お前……」
ユーリ「よーし! 明日の模擬戦、賭けをやるぞ!!」
プレヒト「やめろ!!」
ユーリ「なんでだよ!?」
プレヒト「ギルドマスターが決めた大事な模擬戦だぞ!」
ユーリ「だから盛り上げようってんじゃねえか!」
プレヒト「そういう問題じゃない!!」
ウォーロッド「ふふっ。ちなみにユーリは、どっちに賭けるんだい?」
ユーリ「そりゃあ、イリスに決まってんだろ!」
プレヒト「……だろうな」
ウォーロッド「じゃあ、僕もイリスかな」
プレヒト「お前まで乗るな!!」
メイビス「何のお話ですか?」
ユーリ「おっ、メイビス! 明日の模擬戦で賭けを――」
プレヒト「言うな!!」
メイビス「……賭け?」
ユーリ「おう! イリスとセヴェル、どっちが勝つかって話だ!」
メイビス「なるほど……!」
プレヒト「メイビス、まさか……」
メイビス「それなら、私はイリスさんに賭けます!」
プレヒト「マスターまで!?」
イリス「……皆さん、何のお話をしているんですか?」
ユーリ「おっ、イリス! 明日は絶対勝てよ!」
イリス「……?」
イリス「模擬戦ですよね?」
プレヒト「……その通りだ」
ユーリ「細けえことはいいんだよ!」
イリス「???」
――翌日、なぜかイリスへの期待だけが異様に高まっていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。