第一幕 久しぶりの土産話
X694年・春。
フィオーレ王国、マグノリア。
イリスとメイビスが妖精の尻尾へ帰還してから、数日が経過した。
春の柔らかな日差しが差し込むギルドでは、今日も魔導士たちの賑やかな声が響いている。
「おい! その依頼、俺が先に見つけたんだぞ!」
「早い者勝ちだろ!」
「誰か、この荷物運ぶの手伝ってくれー!」
「ちょっと! そこで魔法を使わないで!」
あちらこちらから聞こえてくる声。
以前よりも増えた仲間たち。
そんな光景を眺めながら、イリスは穏やかに微笑んでいた。
「……本当に賑やかになりましたね」
「そうですね!」
隣に座っていたメイビスが、嬉しそうに頷く。
「私たちが旅に出る前より、ずっと活気があります!」
「ふふっ。いいことですね」
二人がいるのは、ギルドの奥にある大きなテーブル。
そこには、懐かしい顔ぶれが揃っていた。
ユーリ・ドレアー。
プレヒト・ゲイボルグ。
ウォーロッド・シーケン。
そして、イリス・アストレアとメイビス・ヴァーミリオン。
妖精の尻尾を創設した五人である。
「で!」
ユーリが勢いよく身を乗り出した。
「そろそろ聞かせてもらおうじゃねえか!」
「……何をですか?」
イリスが首を傾げる。
「決まってんだろ! お前らの冒険談だよ!」
「あっ!」
メイビスが嬉しそうに手を叩いた。
「そうでした! まだ詳しくお話ししていませんでしたね!」
「そういうことだ!」
ユーリは腕を組み、大きく頷いた。
「二年近くも旅してたんだろ? 面白いことの一つや二つ、あったはずだ!」
「一つや二つどころではありませんよ」
イリスが微笑む。
「本当に、色々なことがありましたから」
「おっ! いいねえ!」
ユーリの瞳が輝く。
その隣で、プレヒトが静かに紅茶を口にした。
「……ようやく落ち着いて話を聞けるな」
「そうだね」
ウォーロッドも頷く。
「帰ってきた日は、みんな大騒ぎだったから」
「誰かさんが宴会を始めたせいでな」
プレヒトが横目でユーリを見る。
「おいおい! あれは必要な宴会だっただろ!」
「必要かどうかはともかく、翌日の仕事が増えたのは事実だ」
「細けえこと気にすんなよ!」
「お前はもう少し気にしろ」
「ははっ。二人とも相変わらずだね」
ウォーロッドが笑う。
そのやり取りを見て、メイビスも楽しそうに笑った。
「えへへ! やっぱり、みんなで集まると楽しいですね!」
「ふふっ。そうですね」
イリスも微笑む。
こうして五人だけでゆっくり話すのは、随分と久しぶりだった。
「それで!」
ユーリが再び身を乗り出す。
「まずは何があったんだ?」
「そうですねえ……」
メイビスは少し考えた。
そして、ぱっと顔を輝かせる。
「最初にお話ししたいのは、ギルティナ大陸の食べ物です!」
「……食べ物?」
ユーリが目を瞬かせた。
「はい!」
メイビスは勢いよく頷く。
「もう、本当に美味しいものがたくさんあったんですよ!」
「……お前らしいな」
プレヒトが小さく笑った。
「ふふっ。私も印象に残っています」
イリスが頷く。
「港町で食べた魚料理も美味しかったですし、山間の村でいただいた焼き菓子も絶品でした」
「そうです! あの焼き菓子!」
メイビスが身を乗り出した。
「外はサクサクで、中には甘い木の実がたくさん入っていて!」
「ええ。メイビスさん、随分と気に入っていましたね」
「はい! 毎日でも食べたかったです!」
「……実際、三日続けて買っていましたよね?」
「そ、それは……!」
メイビスが頬を赤くする。
「美味しかったんです!」
「ははははっ!」
ユーリが大笑いした。
「お前、どこ行っても変わんねえな!」
「ユーリさんだって、美味しいものがあったらたくさん食べるでしょう!」
「そりゃ食うけどよ!」
「ほら!」
「いや、そういう話じゃねえだろ!」
二人の言い合いに、イリスたちは思わず笑ってしまった。
◇
「それから、景色も素晴らしかったですよ」
イリスが話を続ける。
「海沿いの街では、夕暮れになると水平線が黄金色に染まるんです」
「へえ……」
ウォーロッドが興味深そうに耳を傾ける。
「それは綺麗そうだね」
「はい。海がまるで金色の鏡のようで……」
「イリスさん、あの時、ずっと海を眺めていましたよね!」
「ふふっ。覚えていましたか?」
「もちろんです!」
メイビスは嬉しそうに笑った。
「私も隣で見ていましたから!」
その言葉に、イリスは少しだけ目を細めた。
「……そうでしたね」
旅先で見た景色。
共に歩いた道。
何気なく交わした会話。
どれも、今では大切な思い出になっている。
「ほかにも、森の中に古い遺跡があったり、山の上から雲海を眺めたりしました」
「雲海かあ。僕も見てみたいな」
ウォーロッドが微笑む。
「植物も、こちらとは違うものが多かったんじゃない?」
「はい!」
メイビスが頷いた。
「ウォーロッドさんが見たら、きっと喜ぶと思います!」
「珍しい花もたくさんありましたよ」
イリスが続ける。
「夜になると淡く光る花や、風が吹くと鈴のような音を立てる植物もありました」
「へえ!」
ウォーロッドの瞳が輝いた。
「それは面白そうだね!」
「……お前、植物の話になると急に元気になるな」
ユーリが呆れたように言う。
「ユーリだって、戦いの話になると同じだろう?」
「そりゃそうだ!」
「自覚があるならいい」
プレヒトが淡々と告げる。
「何だよ、その言い方!」
また笑い声が上がった。
久しぶりの五人の時間は、こうして賑やかに過ぎていった。
――――――――――
第二幕 月神竜との出会い
「そういやよ」
しばらくして、ユーリが思い出したように口を開いた。
「お前ら、そもそも何を調べに行ったんだっけ?」
「異世界へ渡る方法ですよ」
イリスが答える。
「そうそう、それだ!」
ユーリは頷いた。
「で、何か分かったのか?」
その質問に、イリスとメイビスは顔を見合わせた。
「……そうですね」
イリスは少しだけ考える。
「色々と分かったことはあります。ただ、まだ解決には至っていません」
「そっか」
ユーリは短く答えた。
そして、すぐに笑う。
「ま、簡単に見つかるもんでもねえよな!」
「……はい」
イリスも微笑んだ。
「ですが、大きな収穫はありました」
「ほう?」
プレヒトが顔を上げる。
「どんな収穫だ?」
「実はですね!」
メイビスが待っていましたとばかりに身を乗り出した。
「私たち、月神竜に会ったんです!」
「…………」
三人の動きが止まった。
「……は?」
最初に反応したのは、ユーリだった。
「今、何て言った?」
「月神竜です!」
「……月神竜?」
「はい!」
メイビスはにっこり笑う。
「五神竜の一角、セレーネという方です!」
「…………」
数秒の沈黙。
そして。
「はあああああっ!?」
ユーリの大声が、ギルド中に響き渡った。
「お、お前ら! 五神竜に会ったのかよ!?」
「はい!」
「本物か!?」
「もちろんです!」
「マジかよ!!」
ユーリは勢いよく立ち上がった。
周囲の魔導士たちが何事かと振り返る。
「ユーリさん、声が大きいですよ」
イリスが苦笑する。
「いやいやいや! 驚くだろ、普通!」
「……確かにな」
プレヒトも珍しく驚いた表情を浮かべていた。
「五神竜か。伝承の中で語られるような存在だぞ」
「僕も、実際に会ったという話は聞いたことがないよ」
ウォーロッドが感心したように言う。
「二人とも、よく無事だったね」
「ふふっ。セレーネさんは、少し気まぐれな方でしたけど……」
イリスは微笑んだ。
「お話はできましたよ」
「少しどころじゃなかったです!」
メイビスが笑う。
「とっても気まぐれでした!」
「ははっ! 何だそりゃ!」
ユーリが笑い出す。
「で、その月神竜ってのは、どんな奴だったんだ?」
「とても綺麗な女性の姿をしていました」
イリスが答える。
「華やかな着物を着ていて、扇を持っていて……」
「それから、お酒が大好きでした!」
メイビスが付け加える。
「……酒?」
ユーリが目を瞬かせる。
「はい!」
「五神竜って、酒飲むのか?」
「飲んでいましたね」
イリスが頷く。
「しかも、随分と楽しそうに」
「……何だか親近感が湧いてきたぜ」
「お前は何にでも親近感を覚えるな」
プレヒトが呆れる。
「いいじゃねえか!」
そんな二人を横目に、ウォーロッドが尋ねた。
「それで、異世界へ渡る魔法については何か聞けたの?」
「はい」
メイビスの表情が、少しだけ真剣になる。
「セレーネさんは、実際に異界への道を開いて見せてくれたんです」
「……何?」
プレヒトが身を乗り出した。
「異界への道を?」
「はい!」
「……興味深いな」
その目が、研究者のように鋭くなる。
「どういう術式だった?」
「それがですね!」
メイビスも嬉しそうに身を乗り出した。
「普通の空間転移とは、全然違うんです!」
「ほう」
「空間を繋ぐというより、世界の境界そのものに干渉していて……」
「境界そのもの?」
「はい! それで、魔力の流れが――」
「ちょっと待て!」
ユーリが慌てて割り込んだ。
「お前ら、何の話してんだ!?」
「空間魔法の話です!」
「それは分かる!」
「なら問題ないですね!」
「大ありだろ!」
メイビスが不思議そうに首を傾げる。
プレヒトは構わず話を続けようとした。
「メイビス。その術式の構造について、もう少し詳しく――」
「おい! 俺を置いてくな!」
「ユーリ、少し静かにしてくれ」
「ひでえ!」
その様子を見て、ウォーロッドが笑った。
「ははっ。二人とも、魔法の研究になると止まらないね」
「ふふっ。本当に」
イリスも笑う。
すると、メイビスがぱっと振り返った。
「イリスさんも見ていましたよね!」
「ええ。私には、魔力の流れが普段とはまったく違って見えました」
「ほう……」
プレヒトが興味深そうに頷く。
「お前の金色の瞳でも、やはり特殊なものに見えたのか」
「はい。ただ、私にも仕組みまでは分かりませんでした」
「なるほどな……」
プレヒトは腕を組み、考え込む。
その隣で、メイビスは楽しそうに笑っていた。
「でも、まだ研究できることはたくさんあります!」
「……そうですね」
イリスも頷く。
「私も、できることを続けていきたいと思っています」
「おう!」
ユーリが笑った。
「だったら、俺たちにも手伝えることがあったら言えよ!」
「……ユーリさん」
「何だよ?」
「ありがとうございます」
イリスは柔らかく微笑んだ。
「ふふっ。頼りにしていますね」
「おう! 任せとけ!」
「もっとも、お前に空間魔法の研究ができるとは思えんがな」
プレヒトがぼそりと呟く。
「何だと!?」
「事実だろう」
「くっそ! 否定できねえ!」
その言葉に、全員が笑った。
――――――――――
第三幕 それぞれの二年間
「そういえば」
イリスがふと口を開いた。
「私たちの話ばかりしてしまいましたね」
「ん?」
ユーリが顔を上げる。
「皆さんは、この二年間、どう過ごしていたんですか?」
「ああ、そうだね」
ウォーロッドが頷いた。
「僕たちにも、色々あったよ」
「そうなんですか?」
「うん。新しい仲間も増えたし、依頼もずいぶん増えたからね」
「おかげで仕事が山積みだった」
プレヒトが静かに言う。
「……特に、代理マスターの仕事がな」
「プレヒトさん……」
メイビスが申し訳なさそうに笑う。
「本当にありがとうございました!」
「……もういい。無事に帰ってきたなら、それで十分だ」
「えへへ!」
「ただし、今後は書類を溜め込むなよ」
「……はい」
メイビスの声が少し小さくなった。
「それとユーリ」
「ん?」
「お前も依頼報告書をきちんと提出しろ」
「げっ!」
ユーリが顔をしかめる。
「またその話かよ!」
「昨日提出した分にも、記入漏れがあったぞ」
「マジか!?」
「まったく……」
プレヒトは深いため息をついた。
「お前は二年間、何を学んでいたんだ?」
「色々学んだぞ!」
ユーリは胸を張った。
「例えば、雷魔法の扱い方とか!」
「……話を逸らしたな」
「逸らしてねえ!」
ユーリは笑いながら拳を握った。
その拳に、ぱちぱちと小さな雷が走る。
「見ろよ!」
「おっ?」
メイビスが目を輝かせる。
「前より魔力の制御が上手くなっていますね!」
「だろ!」
ユーリは得意げに笑った。
「昔は威力ばっかり考えてたけどよ。最近は、細かい制御も練習してんだ!」
「へえ……!」
イリスが感心したように頷く。
「それは素晴らしいですね」
「おう!」
「ですが、ここで雷を放つのはやめてくださいね?」
「分かってるって!」
「本当ですか?」
「お前まで疑うのかよ!」
イリスはくすくすと笑った。
その隣で、ウォーロッドが口を開く。
「僕も、植物魔法の使い方を色々と考えていたんだ」
「ウォーロッドさんもですか?」
「うん」
ウォーロッドは手のひらを上に向けた。
すると、小さな芽が生まれる。
それは瞬く間に成長し、細い蔓となって指先に絡みついた。
「植物を育てるだけじゃなくて、戦いの中でもっと自由に動かせないかと思ってね」
蔓がするすると伸びる。
そして、空中で複雑な形を描いた。
「わあ!」
メイビスが歓声を上げる。
「すごいです!」
「ふふっ。随分と器用になりましたね」
イリスも微笑んだ。
「ありがとう」
ウォーロッドは嬉しそうに笑う。
「まだまだ試したいことはあるけどね」
「……僕たちも、ただ留守番をしていたわけではないからな」
プレヒトが静かに口を開いた。
「プレヒトさんも、新しい魔法を?」
イリスが尋ねる。
「新しいというより、既存の術式の改良だ」
プレヒトは指先に小さな魔法陣を浮かべた。
複雑な紋様が幾重にも重なり、静かに回転している。
「天照式の構造を見直していた。魔力の流れを整理すれば、発動速度と安定性をさらに高められる」
「なるほど……」
イリスが興味深そうに見つめる。
「以前より、術式が複雑になっていますね」
「複雑に見えるかもしれんが、内部の無駄は減らしてある」
「……そうなんですね」
「実際に使えば、違いが分かるだろう」
プレヒトは小さく笑った。
「おっ!」
ユーリが反応する。
「そういや、イリス!」
「はい?」
「お前はどうなんだ?」
「……私ですか?」
「そうだよ!」
ユーリはにやりと笑う。
「俺たちはこの二年間、結構強くなったんだぜ?」
「ふふっ。そうみたいですね」
「お前だって、旅の間に色々やってたんだろ?」
その質問に、イリスは少しだけ考えた。
「……そうですね」
そして、柔らかく微笑む。
「私も、旅の途中で修行を続けていましたよ」
「おおっ!」
ユーリの瞳が輝いた。
「やっぱりな!」
「毎日というわけではありませんけどね」
「いやいや! お前のことだから、相当やってただろ!」
「ふふっ。どうでしょう?」
イリスは楽しそうに笑った。
その隣で、メイビスが何かを思い出したように口を開く。
「そういえば、イリスさんの剣って――」
「メイビスさん」
「はい?」
イリスが微笑む。
「それは、まだ内緒にしておきませんか?」
「……あっ!」
メイビスはぱっと口元を押さえた。
「そうですね!」
「おいおい!」
ユーリが身を乗り出す。
「何だよ! 気になるじゃねえか!」
「ふふっ。秘密です」
「ずりいぞ!」
「秘密にされると、余計に気になるな」
ウォーロッドも笑う。
プレヒトは静かにイリスを見つめた。
「……なるほど」
「プレヒトさん?」
「いや」
プレヒトは小さく笑った。
「どうやら、俺たちが思っている以上に成長しているらしいな」
「ふふっ。どうでしょうね?」
イリスは答えなかった。
ただ、その青と金の瞳を細めて、楽しそうに微笑んでいた。
――――――――――
終幕 久しぶりの挑戦状
「……よし!」
突然、ユーリが立ち上がった。
「決めた!」
「……何をだ?」
プレヒトが嫌な予感を覚えたように尋ねる。
ユーリは勢いよくイリスを指さした。
「イリス!」
「はい?」
「俺と勝負しろ!」
「…………」
一瞬の沈黙。
「……はい?」
イリスが目を瞬かせた。
「だから、勝負だよ! 勝負!」
「……ユーリ」
プレヒトが眉間を押さえる。
「お前は本当に、そればかりだな」
「いいじゃねえか!」
ユーリは笑う。
「二年ぶりなんだぞ!」
「だからといって、いきなり勝負を申し込む必要があるのか?」
「ある!」
「即答するな」
ウォーロッドがくすくすと笑った。
「ははっ。ユーリらしいね」
「だろ?」
「褒めているわけじゃないと思うぞ」
プレヒトが呆れたように言う。
そんな三人を見て、イリスは思わず笑ってしまった。
「ふふっ。懐かしいですね」
「おっ?」
ユーリが振り返る。
「何がだ?」
「こうしてユーリさんに勝負を申し込まれるのも、久しぶりだなと思いまして」
「だろ!」
ユーリは満面の笑みを浮かべた。
「だからよ! 久しぶりにやろうぜ!」
「……そうですね」
イリスは少し考える。
そして、にっこりと微笑んだ。
「いいですよ」
「よっしゃあ!!」
ユーリが拳を突き上げる。
しかし。
「ただし」
「ん?」
「せっかくですから、皆さんでやりませんか?」
「……皆?」
ユーリが首を傾げた。
イリスはプレヒトとウォーロッドに視線を向ける。
「プレヒトさんも、ウォーロッドさんも、随分と魔法の腕を磨かれたようですし」
「……俺たちもか?」
プレヒトが眉を上げる。
「はい」
イリスは微笑む。
「皆さんがどれほど強くなったのか、私も見てみたいです」
「なるほどね」
ウォーロッドが笑った。
「それは楽しそうだ」
「おっ! いいじゃねえか!」
ユーリが勢いよく頷く。
「三人まとめて相手してくれるってことか!?」
「ええ」
イリスは穏やかに答えた。
「もちろんです」
「……随分と余裕だな」
プレヒトが小さく笑う。
「いえ、そういうわけではありませんよ」
イリスは首を横に振った。
「ただ、皆さんと久しぶりに魔法を交えるのが楽しみなんです」
その言葉に、プレヒトは少しだけ目を細めた。
「……そうか」
「ふふっ。はい」
ウォーロッドも頷く。
「僕も楽しみだよ。せっかくだし、三人で協力してみようか」
「おおっ!」
ユーリの瞳が輝く。
「いいな、それ!」
「……待て」
プレヒトが口を挟む。
「まだ俺は参加すると言っていないぞ」
「何だよ! やらねえのか?」
「そうは言っていない」
「じゃあ、やるんだろ?」
「……まったく」
プレヒトはため息をついた。
そして、口元に小さな笑みを浮かべる。
「……久しぶりに、腕を試してみるのも悪くないか」
「よっしゃあ!!」
ユーリが歓声を上げた。
「決まりだな!」
「えへへ!」
それまで話を聞いていたメイビスが、嬉しそうに手を叩く。
「面白そうですね!」
「メイビスさん?」
イリスが振り返る。
「私も楽しみにしています!」
「おっ! じゃあメイビス、お前も――」
「私は見学です!」
「即答かよ!」
「だって、今回は皆さんの成長を見る機会ですから!」
メイビスはにっこり笑った。
「それに、私が参加したら、四対一になっちゃいますよ?」
「……それもそうか」
ユーリが腕を組む。
そして、にやりと笑った。
「よし! だったら三対一だ!」
「ちょっと待て、ユーリ」
プレヒトが静かに言う。
「相手はイリスだぞ。何も考えずに突っ込んでも意味がない」
「分かってるって!」
「本当か?」
「お前まで疑うなよ!」
「疑われるようなことばかりしているからだろう」
「何だと!?」
また言い争いが始まる。
ウォーロッドは楽しそうに笑い、メイビスは二人を見比べていた。
そんな光景を眺めながら、イリスは小さく微笑んだ。
懐かしい。
本当に、懐かしい。
天狼島で出会った頃から、彼らはこうだった。
ユーリが騒ぎ、プレヒトが呆れ、ウォーロッドが笑う。
そして、メイビスが楽しそうにその輪の中にいる。
あれから八年。
五人はそれぞれ、多くの経験を積んできた。
魔法も、考え方も、少しずつ変わった。
それでも。
こうして集まれば、あの頃と同じように笑い合える。
「……イリスさん?」
メイビスが顔を覗き込んだ。
「どうしました?」
「……いえ」
イリスは柔らかく微笑む。
「皆さんと、またこうして一緒に過ごせるのが嬉しくて」
「……!」
メイビスは一瞬目を丸くした。
そして、満面の笑みを浮かべる。
「私もです!」
「ふふっ」
その時だった。
「おーい! イリス!」
ユーリが声を上げる。
「何笑ってんだよ! 覚悟しとけよ!」
「……覚悟、ですか?」
「そうだ!」
ユーリは自信満々に胸を張った。
「二年前とは違うってところ、見せてやるぜ!」
イリスは少しだけ目を瞬かせた。
そして。
「……ふふっ」
楽しそうに笑った。
「それは、とても楽しみですね」
「おう!」
「ですが、ユーリさん」
「ん?」
「私も、この二年間、何もしていなかったわけではありませんよ?」
「…………」
ユーリが一瞬黙った。
そして、次の瞬間。
「ははははっ!!」
豪快に笑い出した。
「そうこなくっちゃな!!」
プレヒトも小さく笑う。
「……どうやら、こちらも相当な覚悟が必要らしい」
「そうだね」
ウォーロッドが頷く。
「でも、楽しみだよ」
「はい!」
メイビスも嬉しそうに笑った。
「私も、皆さんがどれほど強くなったのか楽しみです!」
「よーし!」
ユーリが拳を握る。
「だったら、明日だ!」
「明日ですか?」
イリスが尋ねる。
「おう! 明日、街の外で勝負だ!」
「……随分と急だな」
プレヒトが呆れる。
「善は急げって言うだろ!」
「使い方が違う気もするけどね」
ウォーロッドが苦笑した。
「まあ、予定が合うならいいんじゃないかな」
「私は大丈夫ですよ」
イリスが答える。
「私もです!」
メイビスが手を上げた。
「観戦の準備をしておきますね!」
「……仕方ないな」
プレヒトはため息をついた。
「明日の仕事を調整しておこう」
「よっしゃあ!!」
ユーリが嬉しそうに叫ぶ。
その声を聞いて、近くにいた魔導士たちが振り返った。
「何だ何だ?」
「またユーリさんが騒いでるぞ」
「今度は何だ?」
すると、ユーリは満面の笑みを浮かべた。
「聞いて驚け!」
そして、大きな声で宣言する。
「明日、俺たち三人でイリスと勝負するぞ!!」
「…………」
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
「えええええええっ!?」
ギルド中が大騒ぎになった。
「イリスさんと!?」
「妖精の聖剣と戦うのか!?」
「ユーリさんたちが!?」
「見たい!!」
「俺も見たい!!」
「ちょっと待って! 私も行く!」
あっという間に、観戦希望者が集まり始めた。
「……あらら」
ウォーロッドが苦笑する。
「これは大変なことになりそうだね」
「……ユーリ」
プレヒトが額を押さえた。
「お前は、もう少し静かにできないのか?」
「いいじゃねえか!」
ユーリは笑う。
「せっかくの腕試しだ! 盛り上がった方が楽しいだろ!」
「……まったく」
プレヒトは深いため息をついた。
その隣で、メイビスが楽しそうに笑っている。
「えへへ! これは賑やかになりそうですね!」
「……そうですね」
イリスも苦笑した。
けれど。
その表情は、どこか嬉しそうだった。
久しぶりの仲間たち。
久しぶりの腕試し。
そして、久しぶりの大騒ぎ。
明日、どんな戦いになるのだろう。
ユーリたちは、どれほど成長したのだろう。
そう考えるだけで、胸が弾んだ。
「……ふふっ」
イリスは小さく笑う。
「楽しみですね」
腰に佩いた聖剣が、春の日差しを受けて静かに輝いていた。
妖精の尻尾。
その賑やかな日常は、今日も変わらない。
そして明日。
久しぶりに、妖精たちの本気の腕試しが始まろうとしていた。
――第60話 完――
【こそこそ妖精話】
~模擬戦前夜の作戦会議~
X694年・春。
妖精の尻尾、ギルドの一角。
翌日に迫ったイリスとの模擬戦に向けて、三人の男たちが集まっていた。
ユーリ「よし! 明日の作戦会議を始めるぞ!」
プレヒト「……まず確認しておくが、作戦はあるんだろうな?」
ユーリ「もちろんだ! 俺が正面から突っ込む!」
プレヒト「却下だ」
ユーリ「早えよ!」
ウォーロッド「ははっ。まだ一言しか説明してないのにね」
プレヒト「説明を聞くまでもない」
ユーリ「くっそ! じゃあ、どうすんだよ!」
そんな三人のやり取りを、少し離れた席で聞いていたセヴェルが、静かに口を開いた。
セヴェル「……随分と楽しそうですね」
ユーリ「おっ、セヴェル! ちょうどいいところに!」
セヴェル「何でしょう?」
ユーリ「お前、イリスと戦ったことあるだろ? 何か助言してくれよ!」
セヴェル「……あの時の戦いを、あなた方も見ていたでしょう?」
ユーリ「いや、そうだけどよ!」
セヴェル「でしたら、彼女の剣を正面から受ける危険性は理解しているはずですが」
プレヒト「……聞いたか、ユーリ?」
ユーリ「分かってるって!」
ウォーロッド「でも、あれから二年近く経っているんだよね」
セヴェル「ええ。彼女が以前と同じ実力だとは考えない方がいいでしょう」
ユーリ「……へへっ。だから面白えんじゃねえか!」
プレヒト「まったく、お前は……」
セヴェル「それと、明日の模擬戦ですが」
ユーリ「ん?」
セヴェル「私が立会人を務めましょう。治療役もいた方がよいでしょうから」
ウォーロッド「それは助かるよ。ありがとう、セヴェル」
ユーリ「よっしゃ! これで準備万端だな!」
プレヒト「……まだ作戦が何一つ決まっていないぞ」
ユーリ「…………」
セヴェル「……本当に大丈夫なのでしょうか」
ウォーロッド「ははっ。明日が楽しみだね」
プレヒト「笑い事ではないんだがな……」
こうして、作戦会議は夜遅くまで続いた。
なお、最後までユーリは正面突破を諦めなかったという。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。