妖精と聖剣使い   作:使い手なない

65 / 65
第64話「妖精たちの幸せ」

 

第一幕 夫婦の朝

 

 X695年・春。

 

 フィオーレ王国、マグノリア。

 

 朝の陽光が、街の屋根を優しく照らしていた。

 

 石畳の通りには、店を開く商人たちの声が響き始めている。

 

 そんな穏やかな朝。

 

 街の一角にある小さな家では、香ばしい匂いが漂っていた。

 

「……よし!」

 

 台所に立つリタ・ドレアーが、満足そうに微笑む。

 

 焼きたてのパン。

 

 温かなスープ。

 

 そして、こんがり焼いた卵料理。

 

 二人分の朝食が、食卓に並んでいた。

 

「ユーリ! 朝ご飯できたわよ!」

 

 返事はない。

 

「……ユーリ?」

 

 リタは首を傾げた。

 

 そして、寝室の方へ歩いていく。

 

 扉を開けると。

 

「……ぐう」

 

 そこには、布団にくるまった夫の姿があった。

 

「……もう!」

 

 リタは腰に手を当てる。

 

「ユーリ! 起きて!」

 

「んん……」

 

「朝よ!」

 

「……あと五分」

 

「昨日も同じこと言ってたでしょう?」

 

「……今日は休み……」

 

「今日は依頼があるって言ってたじゃない!」

 

「……あ」

 

 ユーリの目が開いた。

 

 そして。

 

「うおおおっ!?」

 

 勢いよく飛び起きた。

 

「やべえ! 何時だ!?」

 

「まだ間に合うわよ」

 

「……へ?」

 

 リタがくすくすと笑う。

 

「でも、早くしないと朝ご飯が冷めちゃうわ」

 

「……なんだよ!」

 

 ユーリは頭をかいた。

 

「びっくりさせんなって!」

 

「ふふっ。起きないユーリが悪いのよ」

 

「へいへい!」

 

 そう言いながらも、ユーリは笑っていた。

 

 ◇

 

「いただきます!」

 

 食卓についたユーリが、勢いよくパンを頬張る。

 

「うめえ!」

 

「ふふっ。よかった」

 

「やっぱリタの飯が一番だな!」

 

「もう。そんなに急いで食べなくても逃げないわよ?」

 

「腹減ってたんだよ!」

 

 リタは呆れながらも、嬉しそうに笑った。

 

 そして、向かいの席へ腰を下ろす。

 

 その髪には、小さな花の装飾が施された髪留めが輝いていた。

 

「……あ」

 

 ユーリが気づく。

 

「それ、つけてくれてんのか?」

 

「え?」

 

 リタは髪に触れた。

 

「ああ、これ?」

 

「おう」

 

「もちろんよ」

 

 リタは微笑んだ。

 

「せっかくユーリが選んでくれたんだもの」

 

「……へへっ」

 

 ユーリが照れくさそうに笑う。

 

「似合ってるぜ」

 

「……ありがとう」

 

 リタの頬が、ほんのり赤く染まった。

 

「でも、昨日も言ってくれたでしょう?」

 

「何回言ったっていいだろ!」

 

「……ふふっ」

 

 リタは嬉しそうに笑った。

 

「そうね」

 

 窓の外では、小鳥が鳴いている。

 

 何でもない朝。

 

 けれど、二人にとっては、それが何より幸せな時間だった。

 

---

 

第二幕 黄金色の優しさ

 

 妖精の尻尾。

 

 その日のギルドも、朝から賑やかだった。

 

「おはようございます!」

 

「おう! おはよう!」

 

「リタさん! おはようございます!」

 

 扉を開けた二人に、仲間たちが声をかける。

 

「おはよう、みんな!」

 

 リタが笑顔で答えた。

 

 その隣で、ユーリが大きく伸びをする。

 

「さーて! 今日も一発、でけえ依頼を――」

 

「ユーリ!」

 

 リタが振り返る。

 

「報告書、ちゃんと出した?」

 

「……あ」

 

「……もう!」

 

 リタが呆れたように笑う。

 

「昨日、プレヒトさんに言われてたでしょう?」

 

「わ、分かってるって!」

 

「本当に?」

 

「……今から書く!」

 

「ふふっ。それならよし!」

 

 その様子を見ていた仲間たちが笑い出した。

 

「ユーリ、今日もリタさんに怒られてる!」

 

「うるせえ!」

 

 そんな賑やかなやり取りの最中だった。

 

「きゃっ!?」

 

 突然、奥の方から小さな悲鳴が聞こえた。

 

 リタが振り返る。

 

「どうしたの!?」

 

 そこでは、若い魔導士が高い棚から資料を取ろうとしていた。

 

 しかし、踏み台がぐらつき、棚に置かれていた木箱が傾いている。

 

「あっ……!」

 

 木箱が落ちた。

 

 その下には、別の仲間が立っていた。

 

「危ない!」

 

 リタが片手を伸ばす。

 

 瞬間。

 

 淡い黄金色の光が、空中に広がった。

 

 ――キィン!

 

 透き通った結界が、落下する木箱を受け止める。

 

「……え?」

 

 木箱は空中でぴたりと止まっていた。

 

 リタは指先を軽く動かす。

 

 黄金色の結界が、ゆっくりと下降した。

 

 そして、木箱を床へ静かに下ろす。

 

「……ふう」

 

 リタが息を吐いた。

 

「二人とも、大丈夫?」

 

「は、はい!」

 

「ありがとうございます、リタさん!」

 

「よかった」

 

 リタは優しく微笑んだ。

 

「高いところの荷物を取る時は、ちゃんと誰かに手伝ってもらうのよ?」

 

「はい!」

 

 その様子を見ていたエマが、目を輝かせた。

 

「すごいです、リタさん!」

 

「ふふっ。ありがとう」

 

「結界って、あんなふうにも使えるんですね!」

 

「ええ」

 

 リタは頷いた。

 

「結界は、攻撃を防ぐだけの魔法じゃないのよ」

 

 そう言って、手のひらの上に小さな黄金色の結界を作り出す。

 

 薄く透き通った、丸い光の板。

 

「形や大きさを工夫すれば、物を支えたり、動きを止めたりすることもできるの」

 

「へえ……!」

 

 エマが感心したように見つめる。

 

 そこへ。

 

「さすがリタさんですね!」

 

 イリスが歩いてきた。

 

 隣にはメイビスもいる。

 

「本当に見事な魔力制御でした」

 

「えへへ!」

 

 メイビスも笑う。

 

「リタさんの結界って、とっても綺麗ですよね!」

 

「ありがとう、二人とも」

 

 リタは少し照れくさそうに笑った。

 

「でも、私はみんなが怪我をしなくてよかったわ」

 

 その言葉に、イリスは優しく微笑む。

 

「……リタさんらしいですね」

 

「そうかしら?」

 

「はい」

 

 イリスは頷いた。

 

「とても素敵だと思います」

 

 リタは、嬉しそうに笑った。

 

 ◇

 

「おーい!」

 

 少し離れた机から、ユーリの声が響く。

 

「リター!」

 

「なあに?」

 

「この報告書、ここ何書けばいいんだ!?」

 

「……もう!」

 

 リタは思わず笑ってしまった。

 

「ちょっと待ってて!」

 

 そして、イリスたちへ振り返る。

 

「ごめんなさい。ちょっと行ってくるわね」

 

「ふふっ。はい」

 

 イリスが微笑む。

 

 リタがユーリの方へ歩いていく。

 

 その背中を見送りながら、メイビスが楽しそうに笑った。

 

「リタさんって、本当に頼りになりますね!」

 

「そうですね」

 

 イリスも頷く。

 

「ユーリさんにとっても、ギルドの皆さんにとっても」

 

 そして、柔らかく微笑んだ。

 

「大切な仲間ですね」

 

---

 

第三幕 女の子たちのお茶会

 

 昼下がり。

 

 ギルドの一角では、小さなお茶会が開かれていた。

 

 机を囲んでいるのは、イリス、メイビス、リタ、エマの四人。

 

 焼き菓子と温かな紅茶が並べられている。

 

「ん〜っ!」

 

 メイビスが幸せそうに頬を緩めた。

 

「このお菓子、美味しいです!」

 

「ふふっ。よかった」

 

 リタが微笑む。

 

「今朝、少し多めに焼いてきたの」

 

「リタさんの手作りですか?」

 

 イリスが尋ねる。

 

「ええ」

 

「とても美味しいです」

 

「ありがとう、イリスさん」

 

 エマも嬉しそうに頷いた。

 

「本当に美味しいです!」

 

 四人の間に、穏やかな時間が流れる。

 

 その時。

 

「あっ!」

 

 メイビスが何かを思い出したように顔を上げた。

 

「そういえば、リタさん!」

 

「なあに?」

 

「ユーリさんとの結婚生活って、どうですか?」

 

「……え?」

 

 突然の質問に、リタが目を瞬かせた。

 

「えっと……どうって?」

 

「楽しいですか?」

 

「ふふっ」

 

 リタは笑った。

 

「もちろんよ」

 

「わあ!」

 

 メイビスが目を輝かせる。

 

「やっぱり!」

 

「でもね」

 

 リタは少し困ったように笑う。

 

「毎日大変なのよ?」

 

「大変?」

 

「ユーリったら、家でもあんな調子なんだもの」

 

「ああ……」

 

 イリスが思わず頷いた。

 

「何となく想像できます」

 

「でしょう?」

 

 リタが笑う。

 

「朝はなかなか起きないし、服は脱ぎっぱなしだし、食べる時はいつも急いでるし……」

 

「ふふっ」

 

 イリスが口元を押さえる。

 

「本当にユーリさんらしいですね」

 

「でも……」

 

 リタは、ふと柔らかく微笑んだ。

 

「優しいところも、たくさんあるのよ」

 

 三人が顔を上げる。

 

「私が疲れている時は、何も言わずに家のことを手伝ってくれたり」

 

「へえ……!」

 

 エマが目を丸くする。

 

「ユーリさんが?」

 

「ふふっ。意外でしょう?」

 

「い、いえ! そんなことは!」

 

 エマが慌てる。

 

 その様子に、四人は笑った。

 

「それにね」

 

 リタは、そっと髪に触れた。

 

 花の髪留め。

 

「こうして、何でもない日に贈り物をしてくれたりするの」

 

「あっ!」

 

 メイビスが嬉しそうに声を上げる。

 

「その髪留めですね!」

 

「ええ」

 

 リタは微笑んだ。

 

「本当に嬉しかったわ」

 

「ユーリさん、とても真剣に選んでいらっしゃいましたからね」

 

 イリスが言う。

 

「ふふっ。そうだったみたいね」

 

 リタは少し照れくさそうに笑った。

 

「……私ね」

 

 そして、紅茶のカップを両手で包む。

 

「ユーリと結婚して、本当によかったと思っているの」

 

 三人は静かに耳を傾けた。

 

「もちろん、喧嘩することもあるし、心配させられることも多いけど……」

 

 リタは優しく微笑む。

 

「それでも、あの人と一緒にいる毎日が大好きなの」

 

「……素敵ですね」

 

 イリスが微笑んだ。

 

「えへへ!」

 

 メイビスも嬉しそうに笑う。

 

「私まで幸せな気持ちになっちゃいました!」

 

「私もです!」

 

 エマが頷いた。

 

「ふふっ。ありがとう」

 

 リタは三人を見つめた。

 

「でも、私が幸せなのは、ユーリのおかげだけじゃないわ」

 

「……?」

 

 イリスが首を傾げる。

 

 リタは、にっこりと笑った。

 

「みんながいるからよ」

 

「……!」

 

「こうして一緒にお茶を飲んだり、おしゃべりしたり、困った時には助け合ったり……」

 

 リタはギルドの中を見渡した。

 

 賑やかな仲間たち。

 

 笑い声。

 

 誰かを呼ぶ声。

 

「私、このギルドが大好きなの」

 

 その言葉に、メイビスの顔がぱっと明るくなった。

 

「……リタさん!」

 

「ふふっ」

 

 リタが笑う。

 

「だから、これからもよろしくね」

 

「もちろんです!」

 

 メイビスが元気よく答えた。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 イリスも微笑む。

 

「はい。これからも、たくさんお話ししましょうね」

 

「私も混ぜてください!」

 

 エマが笑う。

 

「もちろんよ!」

 

 四人の笑い声が、温かな午後のギルドに響いた。

 

---

 

第四幕 賑やかな食卓

 

 夕方。

 

 妖精の尻尾では、いつものように賑やかな食事の時間が始まっていた。

 

「よっしゃあ!」

 

 ユーリが勢いよく椅子に座る。

 

「腹減ったぜ!」

 

「お前はいつもそれだな」

 

 プレヒトが呆れる。

 

「いいだろ! 今日はちゃんと仕事したんだからよ!」

 

「報告書を書いただけだろう」

 

「立派な仕事だ!」

 

「……本来、昨日終わらせるべきものだ」

 

「細けえなあ!」

 

 そのやり取りを聞いて、ウォーロッドが笑った。

 

「ははっ。まあまあ」

 

「ウォーロッド! お前は分かってくれるよな!」

 

「うん。報告書が終わってよかったね」

 

「……何か違う!」

 

 その時。

 

「はい、お待たせ!」

 

 リタが料理を運んできた。

 

「おおっ!」

 

 ユーリの目が輝く。

 

「うまそう!」

 

「ふふっ。今日はみんなで作ったのよ」

 

 リタの後ろから、エマも料理を運んでくる。

 

「リタさんにいろいろ教えてもらいました!」

 

「へえ!」

 

 ウォーロッドが微笑む。

 

「それは楽しみだね」

 

 イリスとメイビスも、食器を並べるのを手伝っていた。

 

「こちらのお皿で足りますか?」

 

「はい! ありがとうございます、イリスさん!」

 

 メイビスが元気よく答える。

 

 やがて、机にはたくさんの料理が並んだ。

 

「それじゃあ!」

 

 ユーリが勢いよく手を合わせる。

 

「いただきます!」

 

「いただきます!」

 

 仲間たちの声が重なった。

 

 ◇

 

「うめえええ!!」

 

 ユーリが大きな声を上げた。

 

「リタ! これ最高だぞ!」

 

「ふふっ。ありがとう」

 

「毎日食いてえ!」

 

「毎日食べてるでしょう?」

 

「それでもだ!」

 

 ユーリが笑う。

 

「お前の料理は何回食ってもうまい!」

 

「……もう」

 

 リタは頬を赤らめた。

 

 すると。

 

「おやおや」

 

 ウォーロッドが楽しそうに笑った。

 

「ユーリ、今日はずいぶん素直だね」

 

「何だよ!」

 

「いや、いいことだと思うよ」

 

 その隣で、プレヒトが小さく頷く。

 

「……確かにな」

 

「お前らまで!」

 

 ユーリが顔をしかめる。

 

 しかし。

 

「ふふっ」

 

 イリスが笑った。

 

「でも、本当に仲のよいご夫婦ですね」

 

「そうですよね!」

 

 メイビスも頷く。

 

「見ているだけで楽しいです!」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 リタが照れたように笑う。

 

「みんな、からかわないでよ!」

 

「へへっ!」

 

 ユーリが胸を張った。

 

「いいじゃねえか! 俺たち仲いいんだから!」

 

「……ユーリ!」

 

「何だよ? 本当のことだろ?」

 

「……もう!」

 

 リタは困ったように笑った。

 

 けれど。

 

 その表情は、とても幸せそうだった。

 

 ◇

 

 食事が進み、ギルドの中はさらに賑やかになっていく。

 

 ある者は依頼の話をしている。

 

 ある者は明日の予定を相談している。

 

 また別の机では、仲間同士が冗談を言い合っていた。

 

 そんな中。

 

「リタさん!」

 

 若い魔導士が声をかけた。

 

「さっきはありがとうございました!」

 

「え?」

 

「朝の木箱のことです!」

 

「ああ!」

 

 リタが微笑む。

 

「怪我がなくてよかったわ」

 

「本当に助かりました!」

 

「ふふっ。困った時はお互いさまよ」

 

 その言葉を聞いて、イリスが微笑んだ。

 

「……素敵ですね」

 

「何がですか?」

 

 メイビスが尋ねる。

 

「こうして、自然に助け合えることです」

 

 イリスはギルドを見渡した。

 

「皆さん、本当に仲がいいですね」

 

「はい!」

 

 メイビスは嬉しそうに頷いた。

 

「だって、みんな妖精の尻尾の仲間ですから!」

 

 その言葉に、イリスも笑った。

 

「……そうですね」

 

 そして。

 

「私も、ここが大好きです」

 

 メイビスは、満面の笑みを浮かべた。

 

---

 

第五幕 幸せな帰り道

 

 夜。

 

 賑やかだったギルドも、少しずつ静かになっていた。

 

「よし!」

 

 ユーリが椅子から立ち上がる。

 

「そろそろ帰るか!」

 

「そうね」

 

 リタが頷いた。

 

「明日も早いんでしょう?」

 

「おう!」

 

 ユーリが笑う。

 

「今度こそ、でけえ依頼を受けてやる!」

 

「ふふっ。無茶はしないでね?」

 

「分かってるって!」

 

「……本当に?」

 

「……なるべく!」

 

「もう!」

 

 リタが笑った。

 

 その様子を見ていたイリスが、柔らかく微笑む。

 

「お二人とも、お気をつけて」

 

「おう!」

 

「ありがとう、イリスさん」

 

 メイビスも元気よく手を振った。

 

「また明日です!」

 

「ええ!」

 

 リタが笑顔で答える。

 

「また明日ね!」

 

 プレヒトとウォーロッドも、二人を見送った。

 

「……ユーリ」

 

「あ?」

 

「明日の報告書は、忘れるなよ」

 

「まだ依頼にも行ってねえだろ!」

 

「念のためだ」

 

「ははっ!」

 

 ウォーロッドが笑う。

 

 その声を背に、ユーリとリタはギルドを後にした。

 

 ◇

 

 マグノリアの夜道。

 

 街灯が、石畳を柔らかく照らしている。

 

 昼間の賑わいが嘘のように、街は静かだった。

 

「……ふう!」

 

 ユーリが大きく伸びをする。

 

「今日も楽しかったな!」

 

「そうね」

 

 リタが微笑む。

 

「みんなと一緒にいると、時間があっという間だわ」

 

「だな!」

 

 二人は並んで歩く。

 

 春の夜風が、優しく吹き抜けた。

 

「……なあ、リタ」

 

「なあに?」

 

「……その」

 

 ユーリが少しだけ言い淀む。

 

「……俺さ」

 

「うん?」

 

「お前と結婚して、よかったと思ってる」

 

「……!」

 

 リタが足を止めた。

 

「……どうしたの、急に?」

 

「いや!」

 

 ユーリは照れくさそうに笑う。

 

「何となく、言いたくなっただけだ!」

 

「……ふふっ」

 

 リタは、優しく微笑んだ。

 

「そう」

 

 そして。

 

「私もよ、ユーリ」

 

 そっと、夫の手を握る。

 

「あなたと結婚できて、本当によかった」

 

「……へへっ!」

 

 ユーリは嬉しそうに笑った。

 

「そっか!」

 

「ええ」

 

 二人は、再び歩き始める。

 

 手を繋いだまま。

 

 何でもない話をしながら。

 

 ゆっくりと、家へ向かっていく。

 

 ◇

 

 その頃。

 

 妖精の尻尾では、イリスとメイビスが片付けを終えたところだった。

 

「……ふう!」

 

 メイビスが満足そうに伸びをする。

 

「今日も楽しかったですね!」

 

「はい」

 

 イリスが微笑む。

 

「本当に、賑やかな一日でした」

 

「えへへ!」

 

 メイビスが笑う。

 

「みんな、楽しそうでしたね!」

 

「そうですね」

 

 イリスは、静かになったギルドを見渡した。

 

 つい先ほどまで、たくさんの笑い声が響いていた場所。

 

 仲間たちが集まり、食事をし、冗談を言い合っていた場所。

 

「……メイビスさん」

 

「はい?」

 

「私、このギルドが本当に好きです」

 

 イリスは、柔らかく微笑んだ。

 

「皆さんと過ごす時間が、とても大切なんです」

 

「……!」

 

 メイビスは嬉しそうに笑った。

 

「私もです!」

 

 そして、イリスの手を取る。

 

「これからも、みんなで楽しい毎日を過ごしましょうね!」

 

「……はい!」

 

 イリスは微笑んだ。

 

「もちろんです」

 

 ◇

 

 一方。

 

 ユーリとリタは、自宅へ帰り着いていた。

 

「ただいま!」

 

「ふふっ。おかえりなさい」

 

「いや、一緒に帰ってきただろ!」

 

「いいじゃない」

 

 リタが笑う。

 

「こういうの、好きなのよ」

 

「……へへっ」

 

 ユーリも笑った。

 

「じゃあ……ただいま、リタ!」

 

「おかえりなさい、ユーリ」

 

 二人の笑い声が、小さな家に響く。

 

 リタは、そっと髪留めに触れた。

 

 昨日、ユーリが贈ってくれたもの。

 

 今日も一日、髪につけていた。

 

「……ユーリ」

 

「ん?」

 

「この髪留め、本当にありがとう」

 

「おう!」

 

 ユーリが笑う。

 

「気に入ってくれたなら、よかったぜ!」

 

「ええ」

 

 リタは、心から微笑んだ。

 

「とっても気に入ってるわ」

 

 そして、二人は笑い合った。

 

 窓の外には、穏やかな春の夜空が広がっている。

 

 愛する人がいる。

 

 大切な仲間たちがいる。

 

 帰る場所がある。

 

 笑い合える毎日がある。

 

 それは、決して特別な出来事ではなかった。

 

 けれど。

 

 リタにとって、その何でもない毎日こそが、何より大切な宝物だった。

 

 妖精の尻尾。

 

 そこには今日も、たくさんの幸せがあった。

 

 ――これは、妖精たちが共に笑い、共に生きる、温かな日常の物語。

 

 ――第64話 完――

 

 

 

 




【こそこそ妖精話】
~愛妻家の弱点~

ユーリ「よっしゃ! 明日は朝一番で依頼に行くぞ!」

プレヒト「その前に、昨日の報告書に不備がある」

ユーリ「げっ!? ちゃんと書いただろ!」

プレヒト「依頼の詳細を記入する欄に『すげえ強かった!』としか書いていない」

ウォーロッド「ははっ。確かにユーリらしいね」

ユーリ「伝わるだろ!?」

プレヒト「伝わるか!」

リタ「……ユーリ?」

ユーリ「お、おう!?」

リタ「昨日、一緒に確認したわよね?」

ユーリ「いや、その……」

リタ「私が教えたところ、全部書き直したでしょう?」

ユーリ「……書き直したぜ」

リタ「じゃあ、どうしてこうなったのかしら?」

ユーリ「……途中で眠くなった」

リタ「もうっ!」

メイビス「ふふっ。ユーリさん、リタさんには弱いですね!」

イリス「でも、リタさんのお話はきちんと聞いていらっしゃいますよね」

プレヒト「俺の話も聞いてほしいものだ」

ウォーロッド「それは難しいかもしれないね」

ユーリ「お前らなあ!」

リタ「ふふっ。じゃあ、ユーリ。今から一緒に書き直しましょう?」

ユーリ「……おう!」

メイビス「あっ! 素直です!」

イリス「ふふっ。さすがリタさんですね」

プレヒト「……今後、報告書の確認はリタに頼むか」

リタ「えっ?」

ユーリ「おい! それはやめろ!」

ウォーロッド「どうして?」

ユーリ「リタに怒られると、逆らえねえんだよ!」

リタ「……ユーリ?」

ユーリ「……何でもねえです!」

メイビス「えへへ! 仲良しですね!」

プレヒト「……まったく」

ウォーロッド「ははっ。平和だね」

イリス「本当に、そうですね」

リタ「ほら、ユーリ。まずは依頼内容からよ?」

ユーリ「へいへい!」

リタ「返事は一回!」

ユーリ「はいっ!」

プレヒト「……最初からそうしてくれ」



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

レミリアのヒーロー社会生活(作者:玉藻黒酢)(原作:僕のヒーローアカデミア)

とある洋館で目覚めた主人公は、レミリア・スカーレットの姿・能力を持ちヒロアカ世界に転生する。▼前世の記憶もなく、原作知識ももちろんない主人公は、己の欲を満たすために個性社会を謳歌するために力を行使する。▼※レミリア以外の東方キャラは出す予定はございません。また、レミリアもレミリアに近しいものと化していると思うので、苦手な方はご注意下さい。▼それと、ここのレミ…


総合評価:55/評価:-.--/連載:2話/更新日時:2026年10月22日(木) 17:00 小説情報

ダンまち世界に闇の福音に転生して人類を導くのは間違っているだろうか(作者:魔法少女(偽))(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

令和を生きたアニメやマンガが好きで多少の武道の心得がある社会人がトラ転して前世の武術やアニメの技術を教えたりして色々やらかしたり助けたりして超有名人になっていく▼※他作品のキャラや武器が登場したりします


総合評価:1374/評価:6.94/連載:14話/更新日時:2026年07月16日(木) 09:45 小説情報

私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない)(作者:とんこつラーメン)(原作:インフィニット・ストラトス)

この作品は名目上、私が前に連載していた作品である『神の意志が俺を転生させて百合ハーレムを企んでいる』のリメイク作品となります。▼リメイクと言っても、実際に継承しているのは主人公の名前だけであって、その容姿や専用機、設定などは全て一新してあります。▼前のようにごちゃごちゃと色々混ぜるような真似はせず、可能な限り原作に沿ったスマートな作品を目指したいと思います。…


総合評価:5902/評価:6.95/連載:109話/更新日時:2026年10月20日(火) 21:41 小説情報

聖女はやがて魔女になる(作者:北上 楓)(原作:ONE PIECE)

海賊に故郷を蹂躙された少女は世界から理不尽をなくすため、海兵となり人々を救い導いていく。その道の先に希望があるとは誰も知らないというのに


総合評価:150/評価:7.67/連載:13話/更新日時:2026年10月06日(火) 00:00 小説情報

毛利家の次女(作者:残月)(原作:名探偵コナン)

前世の記憶を取り戻した毛利家の次女には秘密があった……▼◇の付いてる話は挿絵付きです。▼レッド・ラム様から素敵なイラストを頂きました。▼毛利千紗のイメージイラストです。▼【挿絵表示】▼AI作成によるファンアートの様ですのでイメージが違う可能性がありますので閲覧の際にはご注意下さい。


総合評価:13285/評価:8.04/連載:126話/更新日時:2026年10月12日(月) 14:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>