X701年。
フィオーレ王国、マグノリア。
魔導士ギルド「妖精の尻尾」。
研究室の机には、いくつもの魔水晶が並べられていた。
淡い光を宿した結晶の周囲には、複雑な魔法陣が描かれている。
「……やはり、難しいですね」
イリス・アストレアが、小さく呟いた。
その金色の瞳には、魔水晶の内部を循環する魔力が、幾重もの光の糸となって映っていた。
「そうですねぇ……」
隣では、メイビス・ヴァーミリオンが腕を組んで唸っている。
机の向こうに座るプレヒト・ゲイボルグは、計測用の魔法陣を見つめていた。
「供給そのものは安定している。問題は、やはり魔力量だな」
「ええ。蓄積できる量を増やしても、消費される魔力が減るわけではありませんからね」
そう答えたのは、セヴェル・アクエリスだった。
前回の実験から、数日。
小さな実体幻影へ外部から魔力を供給する技術は、着実に改良されていた。
しかし。
「……では、始めるぞ」
プレヒトが魔法陣へ手をかざす。
机の上に、小さな人型の幻影が現れた。
メイビスそっくりの少女が、軽やかに歩き始める。
魔水晶から伸びた魔力が、幻影の身体へ流れ込んでいた。
「供給量、安定しています」
イリスが告げる。
「では、少し動きを増やします!」
メイビスが指先を動かした。
小さな幻影は走り、跳び上がり、机の上に置かれた木片を持ち上げる。
魔力の供給量が増加する。
それでも、幻影の輪郭は揺らがなかった。
「……順調だな」
プレヒトが頷く。
だが、しばらくすると。
「……あ」
イリスが目を細めた。
「魔水晶の魔力が、かなり減っています」
「……やはりか」
プレヒトが計測結果を確認する。
「供給機構に問題はない。だが、このままでは長時間の維持は難しい」
メイビスが小さな幻影を停止させた。
「……魔水晶をもっと増やせば、長く動かせるとは思うんですけど」
「それでは根本的な解決にはなりませんね」
セヴェルが静かに答えた。
「魔水晶を十個に増やしても、百個に増やしても、蓄えた魔力はいずれ尽きます」
「……そうですね」
「まして、人間と同じ大きさの実体幻影を維持するとなれば、必要な魔力量はさらに増えるでしょう」
プレヒトが腕を組んだ。
「魔水晶の容量を増やす研究も必要だが、それだけでは足りない」
「……つまり」
イリスが呟く。
「魔力を蓄える方法だけでなく、使った魔力を補う方法も必要なんですね」
「ああ」
プレヒトが頷いた。
「しかも、長期間にわたって安定して補充できる方法だ」
研究室に、しばし沈黙が落ちた。
窓の外からは、ギルドの賑やかな声が聞こえてくる。
けれど、四人の視線は机の上の魔水晶へ向けられていた。
魔力を蓄える。
循環させる。
必要な場所へ供給する。
そこまでは、できるようになった。
だが、その仕組みを動かし続けるための魔力を、どこから得るのか。
まだ、答えは見つかっていなかった。
◇
「……そういえば」
しばらく資料を眺めていたメイビスが、ふと顔を上げた。
「皆さん、一つ考えたことがあるんです」
「何だ?」
プレヒトが尋ねる。
「今の私の実体幻影は、本体から魔力を受け取っていますよね?」
「ええ」
セヴェルが頷いた。
現在、メイビスの本体はマグノリア郊外の森にいる。
人の立ち入らない場所で、イリスの防御魔法によって保護されていた。
そして、この研究室にいるメイビスは、本体から魔力を受け取って活動する実体幻影だった。
「その魔力供給を、もっと安定させる方法はないでしょうか?」
「……詳しく聞かせてくれ」
プレヒトが身を乗り出す。
メイビスは一枚の紙を取り出した。
「今は、本体から実体幻影へ直接魔力を送っています。でも、その途中に、魔力を蓄積したり、流れを調整したりする仕組みを組み込めば……」
さらさらと筆を走らせる。
描かれたのは、いくつもの魔法陣を繋いだ術式だった。
「……なるほど」
プレヒトの眼差しが鋭くなる。
「本体から供給される魔力を、一度蓄積機構へ通すわけか」
「はい! そうすれば、魔力の流れが変化しても、実体幻影への供給を安定させられるかもしれません!」
「しかし、それだけでは魔力の総量は増えませんね」
セヴェルが指摘する。
「もちろんです」
メイビスは頷いた。
「だから、魔力を蓄える仕組みと、回復した魔力を補充する仕組みを組み合わせたいんです」
「……魔力の回復」
イリスが呟いた。
メイビスは、自分の手を見つめる。
「私の身体は、普通の人間とは違います」
その声は、先ほどまでより少しだけ静かだった。
「アンクセラムの呪いを受けてから、私は歳を取らなくなりました。そして、どれだけ時間が経っても……」
メイビスは言葉を切った。
イリスは、そっと彼女を見つめる。
メイビスは小さく微笑んだ。
「……生き続けています」
研究室が静かになった。
「だからといって、魔力が無限にあるとは思っていません。でも、私の身体が魔力を回復する仕組みを詳しく調べれば、何かわかるかもしれません」
「……なるほど」
プレヒトが資料へ視線を落とした。
「本体の魔力回復と、蓄積・循環・供給の術式を組み合わせる……」
「はい!」
メイビスが頷く。
「もし、それができれば……!」
その瞳には、研究者としての好奇心が輝いていた。
けれど。
「……少し、待ってください」
セヴェルが静かに口を開いた。
◇
「……興味深い構想ですね」
セヴェルは、机の上の術式図を見つめていた。
「ただし、一つ勘違いしてはいけません」
その声には、いつもの穏やかさがあった。
しかし、眼差しは真剣だった。
「不老不死であることと、身体に何をしても問題がないことは、まったく別の話です」
「……はい」
メイビスが頷く。
「そもそも、メイビスさんの身体がどのような仕組みで魔力を回復しているのか、完全にはわかっていません」
セヴェルは資料を一枚取り出した。
「魔力を使えば、通常は回復するまでに時間が必要です。ですが、回復速度には個人差がありますし、身体の状態によっても変化します」
「……そうですね」
「まして、アンクセラムの呪いを受けた身体です。通常の魔導士と同じ仕組みで回復していると決めつけることはできません」
プレヒトが頷いた。
「……つまり、魔力を取り出し続けた場合、回復が追いつかなくなる可能性があるわけか」
「ええ。それだけではありません」
セヴェルは続けた。
「魔力が不足した状態で、さらに魔力を取り出そうとすれば、身体にどのような影響が出るのか。それも不明です」
イリスの表情が、少しだけ曇った。
「……メイビスの身体に、危険があるかもしれないんですね」
「可能性はあります」
セヴェルは、はっきりと答えた。
「現時点では、安全だとも危険だとも断定できません。だからこそ、慎重な検証が必要です」
「……なるほど」
メイビスが考え込む。
その隣で、イリスが口を開いた。
「私は、メイビスが危険な目に遭う方法には賛成できません」
「……イリス」
「もちろん、研究をやめてほしいわけではありませんよ」
イリスは穏やかに微笑んだ。
「でも、メイビスの身体に悪い影響が出るのであれば、別の方法を探したいです」
メイビスは、しばらくイリスを見つめていた。
そして。
「……ありがとうございます」
柔らかく微笑んだ。
「私も、無理をするつもりはありません」
「……本当ですか?」
「ほ、本当ですよ!」
少しだけ慌てたメイビスに、イリスがくすりと笑う。
その様子を見ていたプレヒトが、静かに口を開いた。
「ならば、まずは理論上の可能性を整理しよう」
「ええ。それがよいでしょう」
セヴェルも頷いた。
「実際に本体へ負担をかける実験は、安全性を確認してからです」
「はい!」
メイビスが元気よく答えた。
こうして、四人は再び机を囲んだ。
◇
「……もう一つ、考えなければならないことがあります」
しばらく術式を検討していたセヴェルが言った。
「何でしょうか?」
イリスが尋ねる。
「メイビスさんの本体を、どこに置くかという問題です」
「……あ」
メイビスが顔を上げた。
現在、本体はマグノリア郊外の森にいる。
イリスの防御魔法で守られているとはいえ、永遠にその場所へ置いておくわけにはいかない。
「もし、本体から安定して魔力を供給する仕組みを作るのであれば、本体を安全に保護する方法も必要になります」
「……確かに」
プレヒトが頷く。
「外部からの干渉を防ぎ、魔力の流れを安定させる。そうした環境が必要だろうな」
「……封印魔法、でしょうか?」
イリスが尋ねた。
プレヒトが顔を上げる。
「……封印魔法?」
「はい。以前、ゼレフさんと研究した術式にも、対象を外部から隔離するものがありましたよね?」
「……ああ」
プレヒトが頷いた。
「確かに、封印術式を応用すれば、外部からの干渉を防ぐことは可能かもしれない」
「それに!」
メイビスが勢いよく身を乗り出した。
「封印の内部に魔力循環の仕組みを組み込めば、本体の魔力を安定して管理できるかもしれません!」
「……なるほど」
プレヒトが素早く筆を走らせる。
「本体を保護する封印領域。その内部に、魔力を蓄積・循環させる術式を設ける」
「そして、必要な魔力だけを外部へ供給する……!」
メイビスが続けた。
「……面白いですね」
セヴェルが呟いた。
「ただし、封印によって本体の状態が悪化しないことが前提です」
「もちろんです!」
「それから、もう一つ」
セヴェルはメイビスを見つめた。
「封印によって、アンクセラムの呪いそのものが消えるわけではありません」
「……はい」
メイビスの表情が、少しだけ引き締まった。
「呪いの作用を完全に遮断できるかどうかも、慎重に調べる必要があります」
「……そうですね」
イリスが静かに頷く。
「本体を安全に守るだけでなく、周囲の人たちも守らなければいけませんから」
「ええ」
セヴェルが答える。
「それに、封印中の生命活動をどのように確認するかという問題もあります」
「……生命活動」
「身体に異常が起きた場合、すぐに気づける仕組みが必要です」
プレヒトが新しい紙を取り出した。
「ならば、監視用の術式も組み込もう」
「はい。魔力の変化だけでなく、身体の状態も確認できるようにしたいですね」
メイビスが頷く。
四人の前で、一つの構想が少しずつ形になり始めていた。
◇
それから数日。
研究室には、以前よりも大きな魔法陣が描かれていた。
机の上に広げられた一枚の設計図。
その中心には、複雑な封印術式が描かれている。
周囲には、魔力の蓄積と循環を行うための術式。
さらに、外部へ魔力を供給するための機構が繋がっていた。
「……ここまで、形になりましたね」
イリスが設計図を見つめる。
「ええ!」
メイビスが嬉しそうに頷いた。
「まだ理論上のものですけど、少なくとも、それぞれの術式をどう繋ぐかは見えてきました!」
「……問題は山積みだがな」
プレヒトが腕を組む。
「封印の維持、魔力の循環、供給量の調整。それらを同時に機能させる必要がある」
「ええ。それに、本体の安全性も確認しなければなりません」
セヴェルが続けた。
「特に、魔力を取り出す量と回復する量の関係は、慎重に調べる必要があります」
「……そうですね」
メイビスが頷く。
イリスは、設計図へ視線を落とした。
金色の瞳には、試験用の魔法陣を流れる魔力が、淡い光となって映っている。
「……ここ」
イリスが指先で一か所を示した。
「循環する魔力と、外へ供給する魔力が、同じ場所を通っていますよね?」
「……ああ」
プレヒトが頷く。
「このままだと、供給量が急に増えたとき、循環の流れまで乱れるかもしれません」
「……なるほど!」
メイビスが目を輝かせた。
「なら、供給する魔力を一度別の領域へ移してから送り出せば……!」
「循環機構への影響を抑えられるな」
プレヒトが新しい線を書き加えた。
「……これでどうだ?」
イリスは魔法陣へ視線を向ける。
「少しだけ、魔力を流してもらえますか?」
「ああ」
プレヒトが試験用の魔法陣を起動した。
淡い光が術式の内部を巡る。
イリスの金色の瞳には、魔力が滑らかに分かれていく様子が見えていた。
「……はい。今度は、きれいに分かれています」
「よし」
プレヒトが頷いた。
「……これなら、少なくとも術式同士の干渉は減らせそうだ」
「やりましたね!」
メイビスが嬉しそうに笑う。
しかし、セヴェルは設計図を見つめたままだった。
「……まだ、完成ではありませんよ」
「わかっています!」
メイビスが元気よく答える。
「でも、一歩前進です!」
セヴェルは小さく微笑んだ。
「……ええ。それは間違いありませんね」
四人は、改めて設計図を見つめた。
封印。
蓄積。
循環。
供給。
そして、本体の状態を確認するための監視機構。
それぞれ別々に研究されていた魔法が、一つの大きな仕組みとして繋がろうとしていた。
まだ、実現できる保証はない。
安全性も、十分には確認されていない。
それでも。
これまで見えなかった未来への道が、少しだけ形を持ち始めていた。
◇
夕暮れ。
研究室には、イリスとメイビスの二人だけが残っていた。
プレヒトはギルドの仕事へ戻り、セヴェルも研究記録を整理するために席を外している。
窓の外では、マグノリアの街が夕日に染まっていた。
「……イリス」
メイビスが、ぽつりと口を開いた。
「はい?」
「……もし、この研究が成功したら」
メイビスは、机の上の設計図を見つめる。
「私の本体は、封印されることになるんですよね」
「……そうですね」
イリスは静かに頷いた。
「まだ、そうすると決まったわけではありませんけど」
「……はい」
メイビスは小さく微笑んだ。
けれど、その笑顔には、どこか迷いがあった。
「……少し、不思議な気持ちです」
「……不思議?」
「今までは、私自身の身体で旅をしていました」
メイビスは、自分の手を見つめた。
実体幻影の手。
触れることも、物を持つこともできる。
イリスと手を繋ぐことだってできる。
けれど、それは本来の身体ではない。
「……この身体でも、いろいろなことができます。でも、本体を封印するとなると……」
メイビスは言葉を探すように、少しだけ俯いた。
「……もう、以前と同じようには戻れないのかなって」
イリスは、すぐには答えなかった。
メイビスの隣へ歩み寄る。
そして、そっと彼女の手を取った。
「……メイビス」
「……はい」
「無理に決める必要はありませんよ」
メイビスが顔を上げる。
「この方法が本当に安全なのかも、まだわかっていません」
「……そうですね」
「それに」
イリスは、優しく微笑んだ。
「メイビスが望まないのであれば、無理に選ぶ必要はありません」
「…………」
「私は、メイビスと一緒にいられるだけで嬉しいんです」
その言葉に、メイビスの瞳がわずかに揺れた。
「……イリス」
「だから、焦らなくても大丈夫ですよ」
イリスは、繋いだ手を少しだけ握った。
「私たちには、時間がありますから」
以前にも伝えた言葉。
けれど、今のメイビスには、その意味が少し違って聞こえた。
長い時間。
終わりの見えない年月。
それは、かつてメイビスにとって、恐ろしいものだった。
大切な人たちが歳を取り、自分だけが取り残されていく。
そんな未来を、何度も想像した。
けれど。
今は、隣にイリスがいる。
同じように歳を取らない、不思議な少女。
自分の呪いを恐れず、抱きしめてくれた人。
この世界で共に生きると、約束してくれた人。
「……ありがとうございます、イリス」
メイビスは、ゆっくりと微笑んだ。
「私、もう少し考えてみます」
「はい」
「研究も、もっと進めたいです」
「ええ。一緒に頑張りましょう」
二人は顔を見合わせ、柔らかく笑った。
窓の外では、夕日が沈み始めていた。
研究室の机には、一枚の大きな設計図が広がっている。
まだ、完成にはほど遠い。
実現できるかどうかも、わからない。
それでも。
その日、四人が描き上げたのは、確かに一つの未来へ続く可能性だった。
そこに記された術式が、やがて何を生み出すのか。
このときは、まだ誰も知らなかった。
ただ一つ、確かなことがある。
それは、二人の少女が共に未来を歩むために生まれた魔法だった。
後に、その魔法はこう呼ばれることになる。
――妖精の心臓(フェアリーハート)。
――第80話 終――
【こそこそ妖精話】
~ふたりのお姉ちゃん~
X701年。
妖精の尻尾の酒場。
今日も元気いっぱいのマカロフが、イリスとメイビスのもとへ駆け寄ってきた。
マカロフ「イリス! メイビス! あそぼ!」
メイビス「ふふっ、いいですよ! 何をして遊びましょうか?」
マカロフ「まほう!」
イリス「魔法ですか? ふふっ、いいですね」
メイビス「それじゃあ、まずは私から!」
メイビスが指先を振ると、色とりどりの蝶が現れた。
蝶たちは空中を舞い、やがて小さな妖精へと姿を変える。
マカロフ「わあっ! ようせいだ!」
メイビス「ふふふっ! まだまだですよ!」
今度は小さな妖精たちが輪になって踊り始めた。
マカロフ「すごーい! メイビス、すごい!」
メイビス「えへへっ! ありがとうございます!」
イリス「では、私も少しだけ」
イリスが手をかざすと、淡い光が集まり、小さな星々が生まれた。
星々はマカロフの周囲をゆっくりと巡り、きらきらと輝く。
マカロフ「おほしさまだ!」
イリス「ふふっ。気に入ってもらえましたか?」
マカロフ「うん! イリスもすごい!」
メイビス「むむっ……イリス、なかなかやりますね!」
イリス「ふふっ。メイビスこそ」
マカロフ「もっと! もっと!」
その言葉に、二人は顔を見合わせた。
メイビス「それなら……!」
イリス「一緒にやってみましょうか?」
二人が同時に魔法を使う。
光の星々が舞う中を、小さな妖精たちが飛び回る。
やがて、星々が集まって大きな光の輪を作り、その中央を妖精たちがくぐり抜けた。
マカロフ「わあああっ!」
マカロフは目を輝かせ、何度も手を叩いた。
マカロフ「ふたりとも、だいすき!」
メイビス「……!」
イリス「……ふふっ」
突然の言葉に、メイビスは嬉しそうに頬を染めた。
メイビス「わ、私もマカロフが大好きですよ!」
イリス「私もですよ、マカロフ」
マカロフ「えへへ!」
マカロフは二人の手をぎゅっと握った。
マカロフ「イリスとメイビス、ぼくのおねえちゃん!」
メイビス「お、お姉ちゃん……!」
イリス「ふふっ。可愛い弟ができましたね、メイビス」
メイビス「そ、そうですね!」
そこへ、様子を見ていたユーリが近づいてきた。
ユーリ「おいおい、マカロフ。父ちゃんはどうした?」
マカロフ「とうちゃんも、だいすき!」
ユーリ「おう! そうかそうか!」
マカロフ「でも、とうちゃんはおねえちゃんじゃない!」
ユーリ「そりゃそうだろ!!」
酒場に、楽しそうな笑い声が響いた。
――おしまい。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。
【こそこそ妖精話】
~妖精の二大美少女~
X701年。
妖精の尻尾、ギルドの酒場。
研究室では難しい魔法の研究が続いている一方、酒場では何とも平和な話題で盛り上がっていた。
ギルドメンバーA「なあ、今さらだけどさ。イリスさんって、ものすごい美人だよな」
ギルドメンバーB「わかる! あの綺麗な黒髪に、青と金のオッドアイだろ? 初めて見たとき、どこのお姫様かと思ったぜ」
ギルドメンバーC「しかも、あの人って剣を持つと雰囲気が変わるんだよな。普段は上品なのに、戦ってる姿はすごく格好いい」
ギルドメンバーA「でも、笑うとめちゃくちゃ可愛いんだよ!」
ギルドメンバーB「それな!」
そこへ、別のギルドメンバーが会話に加わった。
ギルドメンバーD「いやいや、メイビス様だって負けてないぞ?」
ギルドメンバーC「おっ?」
ギルドメンバーD「あの長い金髪に綺麗な緑の瞳! まさに妖精って感じだろ!」
ギルドメンバーA「確かに。メイビス様は可愛いって言葉が似合うよな」
ギルドメンバーB「でも、真剣な顔をしてると、すごく綺麗なんだよなぁ」
ギルドメンバーC「つまり、イリスさんは美人系で、メイビス様は可愛い系?」
ギルドメンバーD「いや、イリスさんだって可愛いし、メイビス様だって美人だろ!」
ギルドメンバーA「……確かに」
ギルドメンバーB「結論が出ねぇ!」
そんな会話をしていると、近くの席で飲み物を口にしていたユーリが呆れたように振り返った。
ユーリ「……お前ら、ずいぶん楽しそうだな」
ギルドメンバーA「あっ、ユーリさん!」
ギルドメンバーB「ちょうどいいところに!」
ユーリ「……嫌な予感しかしねぇな」
ギルドメンバーC「ユーリさんは、イリスさんとメイビス様、どっちが可愛いと思います?」
ユーリ「はぁ!?」
ユーリは思わず飲み物を吹き出しかけた。
ユーリ「お前ら、何を聞いてんだ!?」
ギルドメンバーA「だって、ユーリさんは二人と十五年も付き合いがあるじゃないですか!」
ギルドメンバーB「ぜひ、創設メンバーの意見を!」
ユーリ「そんなもん選べるか!」
すると、隣で話を聞いていたウォーロッドが、穏やかに笑った。
ウォーロッド「僕は、二人とも素敵だと思うけどね」
ギルドメンバーC「うわっ、模範解答!」
ギルドメンバーD「さすがウォーロッドさん!」
ユーリ「……いや、待てよ」
ユーリは何かを思い出したように腕を組んだ。
ユーリ「あいつら、十五年前から見た目がほとんど変わってねぇんだよな」
ギルドメンバーA「……え?」
ギルドメンバーB「十五年前って……」
ユーリ「ああ。俺たちが初めて会った頃から、二人ともずっとあの姿だ」
ギルドメンバーC「……つまり」
ギルドメンバーD「永遠の美少女……?」
ギルドメンバーA「なんだそれ、最強じゃねぇか!」
ウォーロッド「ふふっ。本人たちが聞いたら、どんな顔をするだろうね」
そのときだった。
メイビス「皆さん、何のお話ですか?」
ギルドメンバー一同「「「「うわあっ!?」」」」
振り返ると、研究室から出てきたメイビスとイリスが立っていた。
イリス「……そんなに驚かなくても」
メイビス「何だか、とても楽しそうでしたね!」
ギルドメンバーA「い、いや、その……!」
ギルドメンバーB「た、ただの世間話ですよ!」
メイビス「世間話?」
イリス「私たちの名前が聞こえた気がしたのですが……」
ギルドメンバーたちが必死に視線を逸らす。
しかし。
ウォーロッド「二人がとても可愛いって話をしていたんだよ」
ギルドメンバー一同「「「「ウォーロッドさん!?」」」」
メイビス「……えっ?」
イリス「……私たちが、ですか?」
ウォーロッド「うん。みんな、二人のことを褒めていたんだ」
メイビスの頬が、ほんのり赤く染まった。
メイビス「えへへ……ありがとうございます!」
嬉しそうに笑うメイビス。
一方、イリスは少し照れたように微笑んだ。
イリス「……ありがとうございます。少し恥ずかしいですね」
ギルドメンバーA「……なあ」
ギルドメンバーB「……ああ」
ギルドメンバーC「……やっぱり、二人とも可愛いな」
ギルドメンバーD「異議なし」
そんな仲間たちを見て、ユーリは深いため息をついた。
ユーリ「……お前が一番容赦ねぇな、ウォーロッド」
ウォーロッド「え? 僕は本当のことを言っただけだよ?」
ユーリ「……だから怖ぇんだよ」
その日、妖精の尻尾では一つの結論が出た。
――イリスもメイビスも、どちらも可愛い。
なお、どちらが一番かについては、最後まで決着がつかなかったという。
――おしまい――
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。