第83話「星辰の旅路」
第一幕 新たな旅立ち
X701年。
フィオーレ王国、マグノリア。
「それじゃあ、行ってきます!」
妖精の尻尾の酒場に、メイビスの元気な声が響いた。
「おう! 気をつけて行ってこいよ!」
ユーリが笑いながら手を振る。
「何かあったら、いつでも帰っておいで」
ウォーロッドも穏やかに微笑んだ。
「妖精の心臓の状態はこちらで管理する。定期的な点検も忘れるなよ」
「はい! プレヒトもよろしくお願いします!」
「まったく……少しは初代マスターらしい落ち着きを見せたらどうだ」
「ふふっ。それは難しいと思いますよ?」
イリスが笑うと、プレヒトは小さくため息をついた。
その隣では、セヴェルが書類を確認している。
「魔力供給に異常があれば、無理をせず帰還してください。現在の術式は安定していますが、長期運用の実績はまだ十分ではありません」
「わかっています!」
「……本当に?」
「もちろんです!」
自信満々に胸を張るメイビス。
セヴェルは無言でイリスを見た。
「私も気をつけますね」
「お願いします」
どうやら、信用されているのはイリスの方らしい。
「イリスねえちゃん! メイビスねえちゃん!」
そこへ、小さなマカロフが駆け寄ってきた。
「またあそびにきてね!」
イリスはしゃがみ込み、少年と目線を合わせる。
「もちろんですよ。マカロフさんも、元気にしていてくださいね」
「うん!」
「次に帰ってきたら、もっとすごい幻影を見せてあげます!」
「ほんと!?」
「はい! 約束です!」
メイビスが小指を差し出す。
マカロフは嬉しそうに小指を絡めた。
その様子を、ユーリが優しい表情で見守っていた。
やがて、二人は仲間たちに見送られながらギルドを後にする。
春の風が、マグノリアの街を吹き抜けた。
「さて、イリス!」
「はい?」
「まずは、どこへ行きましょうか!」
メイビスが目を輝かせる。
イリスは少し考えてから、微笑んだ。
「そうですね。まだ訪れたことのない土地へ行ってみませんか?」
「賛成です!」
メイビスが嬉しそうに笑った。
「きっと、面白い発見がたくさんありますよ!」
「ふふっ。楽しみですね」
二人は手を繋ぎ、歩き始めた。
こうして。
妖精の聖剣と、妖精の尻尾の初代マスターによる新しい旅が始まった。
その旅が、何十年にもわたって続いていくことを。
このときの二人は、まだ知らなかった。
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第二幕 世界を巡る二人
X706年。
イシュガル大陸、北部山岳地帯。
「イリス! 見つけました!」
メイビスが指差した先には、巨大な石造りの遺跡があった。
山の斜面に埋もれるように建てられたその遺跡には、古い魔法文字が刻まれている。
「ずいぶん立派な遺跡ですね」
「はい! しかも、この術式……少なくとも数百年前のものです!」
メイビスは嬉しそうに石壁へ駆け寄った。
イリスも、その後を追う。
金色の瞳には、石壁の奥を流れる微かな魔力が映っていた。
「メイビス。奥に、まだ魔力が残っていますよ」
「本当ですか!?」
「はい。かなり複雑な流れですね」
「これは調べる価値があります!」
メイビスが興奮した様子で笑う。
しかし、そのとき。
ゴゴゴゴゴ……!
足元が揺れた。
「……あら?」
遺跡の奥から、巨大な影が現れる。
全身を岩石で覆われた魔物。
その体長は、十メートルを優に超えていた。
『グオオオオオッ!!』
咆哮とともに、巨大な腕が振り下ろされる。
「イリス!」
「はい」
イリスは腰の聖剣に手を添えた。
そして。
一閃。
銀色の軌跡が、空間を走った。
次の瞬間。
巨大な魔物の身体が、真っ二つに切り裂かれた。
『……グ、オ?』
魔物は何が起きたのか理解する間もなく、地面へ崩れ落ちる。
轟音。
土煙が舞い上がった。
「……終わりましたね」
イリスは静かに聖剣を鞘へ戻した。
「相変わらず、見事な剣技です!」
「ありがとうございます」
「でも、私の出番がありませんでした!」
メイビスが頬を膨らませる。
イリスは思わず笑った。
「では、次はメイビスにお願いしますね」
「はい!」
そう答えた直後。
遺跡の奥から、さらに三体の岩石の魔物が姿を現した。
『グオオオッ!!』
「……あら」
イリスが瞬きをする。
メイビスは、にっこり笑った。
「ちょうどいいですね!」
その足元に、巨大な魔法陣が広がる。
淡い黄金色の光。
空間が歪み、三体の魔物を取り囲む。
「それでは、少し失礼します!」
メイビスが指を鳴らした。
次の瞬間。
三体の魔物の周囲に、幾重もの空間の裂け目が走った。
岩石の装甲が一斉に切断される。
巨大な身体が崩れ落ちた。
わずか数秒。
戦闘は終わっていた。
「ふふん!」
メイビスが得意げに胸を張る。
「どうですか、イリス!」
「お見事です!」
「えへへっ!」
メイビスは嬉しそうに笑った。
以前なら、これほどの空間魔法を使用すれば、魔力の消耗を強く意識する必要があった。
しかし今は違う。
妖精の心臓から、安定した魔力が供給されている。
もちろん、無制限に使えるわけではない。
それでも、研究できる魔法の幅は大きく広がっていた。
「さて!」
メイビスが遺跡へ向き直る。
「それでは、調査を始めましょう!」
「はい。今度は魔物が出てこないといいですね」
「出てきても、すぐに倒せますから!」
「ふふっ。それもそうですね」
二人は笑い合いながら、遺跡の奥へ進んでいった。
それからも、旅は続いた。
雪に覆われた山脈。
砂漠の地下に眠る古代都市。
海底に沈んだ魔法文明の遺構。
ときには危険な魔物と戦い、ときには古い魔法の謎を解き明かす。
異世界へ繋がる手掛かりを求め、数え切れないほどの記録を調べた。
しかし、故郷へ帰る方法は、簡単には見つからなかった。
それでも。
二人の旅から、笑顔が消えることはなかった。
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第三幕 変わりゆく故郷
X714年。
フィオーレ王国、マグノリア。
「ただいま戻りました!」
妖精の尻尾の扉が開かれる。
その瞬間。
「おおっ! イリス! メイビス!」
ユーリの声が響いた。
「久しぶりだな!」
「ユーリさん! お元気そうですね!」
「おう! まだまだ若い奴らには負けねえぞ!」
豪快に笑うユーリ。
その顔には、以前よりも少しだけ年齢を感じさせるものがあった。
しかし、笑顔は昔のままだ。
「二人とも、おかえり」
ウォーロッドも笑顔で迎える。
「ただいまです!」
「ふふっ。皆さん、お変わりありませんね」
「いやいや、僕たちは少しずつ歳を取っているよ」
ウォーロッドが苦笑する。
「変わらないのは、君たちの方じゃないかな」
「そうでしょうか?」
イリスが首を傾げた。
「少なくとも、見た目はね」
その言葉に、メイビスがイリスを見上げる。
黒髪の少女。
青と金の瞳。
十数年前と、何も変わらない姿。
そして、イリスもまた、メイビスを見つめた。
金色の髪。
明るい緑の瞳。
変わらない笑顔。
二人だけが、時間の流れから取り残されているようにも見える。
けれど。
「イリスねえちゃん! メイビスねえちゃん!」
聞き覚えのある声が響いた。
振り返ると、一人の少年が立っていた。
「……マカロフさん?」
イリスが目を瞬かせる。
そこにいたのは、十八歳になったマカロフだった。
幼い頃の面影は残っている。
しかし、背も伸び、顔つきもずいぶん大人びていた。
「久しぶり!」
「まあ!」
メイビスが驚いたように目を輝かせる。
「マカロフ! 大きくなりましたね!」
「そりゃあ、もう十八だからな!」
マカロフが照れくさそうに笑った。
「二人は全然変わってないな!」
「ふふっ。そうですね」
イリスが微笑む。
「マカロフさんは、すっかり立派になりましたね」
「まだまだだよ。親父には全然勝てないし」
「ハッハッハ! 当たり前だろ!」
ユーリが笑いながら息子の背中を叩く。
「俺を超えるには、あと十年は早え!」
「十年もかからねえよ!」
「言ったな、この野郎!」
親子の賑やかな声が酒場に響いた。
メイビスが楽しそうに笑う。
イリスも、その光景を見つめながら微笑んだ。
時は流れている。
街も、人も、少しずつ変わっていく。
けれど。
ここに帰れば、いつだって温かな声が迎えてくれる。
妖精の尻尾は、今も二人の帰る場所だった。
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第四幕 小さな奇跡
X720年。
イシュガル大陸、とある湖畔の町。
「……できました!」
宿屋の一室に、メイビスの歓声が響いた。
机の上には、分厚い医学書と魔法の研究資料が積み重なっている。
その隣には、イリスが用意した焼き菓子と温かい紅茶。
「メイビス?」
イリスが顔を上げる。
「もしかして……」
「はい!」
メイビスは、満面の笑みを浮かべた。
「ついに、完成しました!」
それは、長年続けてきた研究だった。
実体幻影の内部構造。
人体の仕組み。
食べ物を取り込み、味を感じ、消化するための魔法的な再現。
かつてセヴェルから紹介された医学研究機関で学び、その後も各地で知識を集めてきた。
失敗も多かった。
味覚だけを再現しても、食べ物を取り込めない。
内部構造を作っても、魔力の循環が乱れる。
食べ物を分解する仕組みを作れば、今度は実体幻影の維持に余計な負荷がかかる。
それでも。
メイビスは諦めなかった。
「理論上は、これで食事ができるはずです!」
「……本当ですか?」
「はい!」
メイビスが、机の上の焼き菓子を見つめる。
それから、少し緊張した表情になった。
「……イリス」
「はい」
「一つ、お願いしてもいいですか?」
「もちろんです」
メイビスは、焼き菓子を指差した。
「それを……食べてみてもいいですか?」
イリスは、一瞬だけ目を見開いた。
そして。
「……はい」
優しく微笑んだ。
「もちろんですよ」
メイビスが、小さな焼き菓子を手に取る。
指先に伝わる感触。
甘い香り。
そして。
ぱくり。
「……!」
メイビスの瞳が、大きく見開かれた。
ゆっくりと噛む。
口の中に、甘さが広がった。
焼きたての香ばしさ。
ほろりと崩れる食感。
それらが、はっきりと感じられる。
「……おいしい」
小さな声が漏れた。
イリスは、何も言わずに見守っていた。
「……イリス」
「はい」
「おいしいです……!」
メイビスの目に、涙が浮かぶ。
「ちゃんと……味がします!」
「……よかったですね」
イリスも、嬉しそうに笑った。
メイビスは、もう一口食べる。
そして、また笑った。
「ふふっ……!」
ぽろぽろと涙がこぼれる。
「ずっと、食べてみたかったんです」
「……はい」
「イリスが作ってくれたお菓子を、一緒に食べたかったんです!」
イリスは、そっとメイビスの隣に座った。
「では、これからは一緒に食べられますね」
「はい!」
メイビスが大きく頷く。
「朝ご飯も、お昼ご飯も、晩ご飯も!」
「ふふっ。そんなに食べたら、お腹がいっぱいになってしまいますよ?」
「それも経験してみたいです!」
「……ふふっ」
イリスは笑いながら、もう一つ焼き菓子を手に取った。
「それでは、今日はお祝いですね」
「はい!」
二人は並んで、お菓子を食べた。
特別な魔法でも、世界を揺るがす発見でもない。
ただ、一緒に食事をする。
それだけのこと。
けれど。
二人にとっては、何よりも嬉しい奇跡だった。
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第五幕 二十五年の旅路
X726年。
フィオーレ王国、マグノリア。
春の風が、街を吹き抜けていた。
「……懐かしいですね」
イリスが微笑む。
「はい!」
隣を歩くメイビスも、嬉しそうに頷いた。
「何度帰ってきても、やっぱりマグノリアはいいですね!」
二人は、いつものように手を繋いでいた。
黒髪の少女と、金髪の少女。
その姿は、二十五年前とほとんど変わらない。
しかし、街は少しずつ姿を変えていた。
新しい店。
広くなった通り。
見覚えのない建物。
そして、以前よりも賑やかになった人々の暮らし。
「……時間が経つのは早いですね」
イリスが呟く。
「そうですね」
メイビスが微笑んだ。
「でも、まだまだ見たいものがたくさんあります!」
「ふふっ。そうですね」
やがて、二人は妖精の尻尾の前に到着した。
扉を開く。
「ただいま戻りました!」
「ただいまです!」
その瞬間。
「おおっ! 帰ってきたか!」
酒場の奥から、聞き慣れた声が響いた。
ユーリだった。
以前よりも年齢を重ねた姿。
それでも、その笑顔は変わらない。
「ユーリさん!」
「久しぶりだな、二人とも!」
ユーリが笑いながら近づいてくる。
その後ろから、ウォーロッドも姿を現した。
「おかえり。今回の旅はどうだった?」
「とっても楽しかったです!」
メイビスが元気よく答える。
「それに、すごい発見もありました!」
「ほう?」
「なんと、私……」
メイビスは、得意げに胸を張った。
「ご飯が食べられるようになりました!」
「……何!?」
ユーリが目を丸くする。
「本当か!?」
「はい!」
「そいつはすげえじゃねえか!」
ユーリが豪快に笑った。
「よし! 今日は宴会だ!」
「ふふっ。ありがとうございます!」
そのとき。
「……相変わらず騒がしいな、親父」
落ち着いた声が聞こえた。
イリスが振り返る。
そこには、一人の男性が立っていた。
かつての小さな少年。
十八歳の青年。
そして今は、三十歳になった魔導士。
「……マカロフさん?」
イリスが目を瞬かせた。
「久しぶりだな、イリスねえちゃん」
マカロフが笑う。
「メイビスねえちゃんも」
「マカロフ!」
メイビスが嬉しそうに駆け寄った。
「また大きくなりましたね!」
「いや、もう三十だぞ?」
「そうでした!」
メイビスが笑う。
イリスも近づき、微笑んだ。
「本当に立派になりましたね」
「……そうか?」
「はい。とても頼もしくなりました」
マカロフは、少し照れくさそうに頭をかいた。
「……二人は、本当に変わらないな」
その言葉に、イリスとメイビスは顔を見合わせる。
「そうですね」
イリスが微笑む。
「でも、私たちも少しずつ変わっているんですよ」
「……へえ?」
「旅をして、いろいろなことを学びましたから」
メイビスも頷く。
「はい! 私なんて、ご飯が食べられるようになりました!」
「……それは確かに大きな変化だな」
マカロフが笑った。
そして。
「……おかえり、二人とも」
穏やかな声で言った。
イリスは、少しだけ目を細めた。
幼い頃のマカロフ。
無邪気に笑いながら、自分たちを追いかけてきた少年。
その少年が、今では立派な大人になっている。
時間は、確かに流れていた。
けれど。
「ただいまです、マカロフさん」
イリスは、変わらない笑顔で答えた。
「ただいまです!」
メイビスも元気よく笑う。
その日の妖精の尻尾は、久しぶりの大宴会となった。
メイビスは、初めて仲間たちと同じ料理を囲んだ。
イリスは、その隣で楽しそうに笑っていた。
ユーリが酒を掲げる。
ウォーロッドが穏やかに微笑む。
マカロフが、仲間たちと賑やかに語り合う。
そして、プレヒトも仕事の手を休め、酒場に顔を出した。
そこには、二十五年前と変わらない温かさがあった。
◇
その夜。
マグノリア郊外の丘。
満天の星空が広がっていた。
イリスとメイビスは、並んで夜空を見上げていた。
「……二十五年、ですか」
イリスが呟く。
「はい」
メイビスが頷いた。
「ずいぶん長い旅になりましたね」
「そうですね」
二人は、しばらく星を眺めていた。
数え切れないほどの景色を見た。
多くの魔法を学んだ。
新しい人々と出会い、別れた。
危険な魔物と戦い、古代の謎を追いかけた。
そして。
何度も、この街へ帰ってきた。
「……イリス」
「はい?」
「私、思うんです」
メイビスが、そっとイリスの手を握った。
「二十五年も一緒に旅をしているのに、まだ全然足りません!」
イリスが目を瞬かせる。
そして、くすりと笑った。
「ふふっ。私も同じですよ」
「本当ですか?」
「はい」
イリスは、メイビスの手を握り返した。
「まだ見たことのない景色も、知らない魔法も、たくさんありますから」
「そうですよね!」
メイビスが嬉しそうに笑う。
「それに、イリスの故郷へ繋がる手掛かりも、まだ見つかっていません!」
「……はい」
イリスは、静かに頷いた。
異世界へ帰る方法。
その答えは、今も見つかっていない。
けれど。
焦る必要はなかった。
隣には、メイビスがいる。
そして、帰る場所もある。
「……これからも、よろしくお願いしますね。メイビス」
「はい!」
メイビスが満面の笑みを浮かべた。
「こちらこそ、よろしくお願いします! イリス!」
夜空には、無数の星が輝いていた。
二十五年という歳月。
人にとっては、決して短くない時間。
けれど、二人の旅はまだ終わらない。
星々が夜空を巡るように。
二人もまた、世界を巡り続ける。
幾つもの季節を越えて。
幾つもの出会いと別れを重ねながら。
そして、いつの日か。
その旅路は、新たな時代へと繋がっていく。
星のように輝く、二人の長い旅が始まった。
――第83話 終――
【こそこそ妖精話】
~いつまでも、おねえちゃん~
X726年。
妖精の尻尾、酒場。
久しぶりに帰ってきたイリスとメイビスを眺めながら、マカロフは昔のことを思い出していた。
マカロフ「……不思議なもんだな」
ユーリ「ん? どうした、マカロフ」
マカロフ「いや、あの二人のことだよ」
少し離れたテーブルでは、イリスとメイビスが楽しそうに食事をしている。
マカロフ「俺がガキの頃から、全然変わってねえんだよな」
ユーリ「ハハッ! 確かにな!」
マカロフ「俺はもう三十だってのに、あの二人はずっとあの姿だろ?」
ユーリ「そうだな」
マカロフ「……昔は、二人の後ろを走って追いかけてたっけ」
マカロフは、懐かしそうに笑った。
マカロフ「イリスねえちゃんは、転んだらすぐに助けてくれてさ」
マカロフ「メイビスねえちゃんは、いつも面白い幻影を見せてくれた」
ユーリ「懐かしいな。お前、二人が帰ってくるたびに大喜びしてたもんな」
マカロフ「……今でも嬉しいけどな」
ユーリ「お?」
マカロフ「何だよ」
ユーリ「いやぁ? 随分と可愛いこと言うじゃねえか!」
マカロフ「うるせえ!」
その声が聞こえたのか、メイビスが振り返った。
メイビス「マカロフ! 何のお話ですか?」
マカロフ「いや、別に大したことじゃ……」
ユーリ「こいつ、今でも二人に会えると嬉しいんだとよ!」
マカロフ「親父!!」
メイビス「本当ですか!?」
メイビスが嬉しそうに駆け寄ってくる。
イリス「ふふっ。それは私たちも嬉しいですね」
マカロフ「……ったく」
マカロフは照れくさそうに頭をかいた。
メイビス「そういえば、昔はよく『ぼくのおねえちゃん!』って言ってましたよね!」
マカロフ「……おい」
イリス「懐かしいですね。とても可愛らしかったですよ」
マカロフ「頼むから、それは忘れてくれ……」
メイビス「えー! どうしてですか?」
マカロフ「俺はもう三十なんだぞ!?」
メイビス「でも、私たちのおねえちゃん呼びは卒業しちゃうんですか?」
マカロフ「……」
マカロフは、二人を見つめた。
昔と変わらない笑顔。
自分がどれだけ歳を重ねても、二人はいつも優しく迎えてくれる。
マカロフ「……まあ」
少しだけ、口元を緩めた。
マカロフ「何歳になっても、二人は俺のおねえちゃんだよ」
メイビス「えへへっ! そうですよね!」
イリス「ふふっ。これからもよろしくお願いしますね、マカロフさん」
ユーリ「ハッハッハ! いい話じゃねえか!」
マカロフ「……親父が茶化さなきゃな!」
酒場に笑い声が響いた。
幼い頃から変わらない二人。
そして、すっかり大人になった少年。
どれだけ年月が流れても。
マカロフにとって、二人はいつまでも大切な「おねえちゃん」だった。
――おしまい。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。