妖精と聖剣使い   作:使い手なない

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第88話「妖精女王への第一歩」

 

 X780年。

 

 フィオーレ王国、マグノリア。

 

 妖精の尻尾、屋外訓練場。

 

 澄んだ金属音が、朝の空気に響き渡った。

 

「はああっ!!」

 

 赤い髪を揺らし、一人の少女が踏み込む。

 

 エルザ・スカーレット。

 

 十五歳になった彼女は、鋭い斬撃を繰り出していた。

 

 その正面には、黒髪のハーフツインテールを揺らす少女。

 

 イリス・アストレアが立っている。

 

「ふふっ。いい踏み込みですね、エルザさん」

 

 イリスは光剣で斬撃を受け流した。

 

 エルザはすぐさま剣を引き、次の一撃を放つ。

 

 上段。

 

 横薙ぎ。

 

 そして、踏み込みからの突き。

 

 しかし、そのすべてが軽やかにかわされていく。

 

「くっ……!」

 

「焦らなくても大丈夫ですよ」

 

 イリスが微笑む。

 

「剣を振ることだけに意識を向けないでください。相手が次にどう動くのか、それを考えることも大切です」

 

「はい!」

 

 エルザは素直に頷いた。

 

 一年前。

 

 この場所で、イリスはギルダーツを圧倒した。

 

 あの日の剣技を、エルザは今でも忘れられない。

 

 美しく、無駄がなく、恐ろしいほど自然な剣。

 

 自分も、いつかあんなふうに。

 

 そう思って始まった稽古だった。

 

 けれど、一年間で学んだことは、単なる剣の振り方だけではない。

 

「換装!」

 

 エルザの手にあった剣が消え、別の剣が現れる。

 

 重量も長さも異なる一振り。

 

 その変化に合わせ、構えも変わった。

 

「おや?」

 

 イリスが楽しそうに目を細める。

 

「いいですね!」

 

「ありがとうございます!」

 

 エルザが踏み込む。

 

 先ほどとは異なる間合い。

 

 異なる軌道。

 

 イリスはその一撃を受け流し、軽く距離を取った。

 

「ふふっ。ずいぶん上達しましたね」

 

「いえ。まだまだです」

 

 エルザは剣を下ろした。

 

「私は、イリスさんのようには戦えません」

 

「それでいいんですよ」

 

「……え?」

 

 イリスは穏やかに微笑んだ。

 

「エルザさんには、エルザさんの魔法があります。私と同じ剣を振る必要はありません」

 

「私の……剣」

 

「はい。自分に合った戦い方を見つけてください」

 

 エルザは、手にした剣を見つめた。

 

 そして、静かに頷く。

 

「……はい!」

 

◇

 

「エルザ!!」

 

 稽古を終えてギルドへ戻ると、元気な声が飛んできた。

 

 ナツだった。

 

「今日こそ勝負しろ!!」

 

「断る」

 

「なんでだよ!?」

 

「今日は大事な用事がある」

 

「大事な用事?」

 

 グレイが首を傾げる。

 

 そのとき。

 

「全員、ちょっと静かにせんか!」

 

 マカロフの声が響いた。

 

 ギルドの喧騒が、少しずつ収まっていく。

 

 マカロフはカウンターの上に立ち、一枚の書類を掲げた。

 

「今年のS級魔導士昇格試験について、発表する!」

 

「おおっ!!」

 

 ギルドが一気に沸き立った。

 

「今回の受験者は――エルザ・スカーレット!」

 

 一瞬の静寂。

 

 そして。

 

「えええええっ!?」

 

 ナツとグレイの声が重なった。

 

「エルザがS級!?」

 

「マジかよ!?」

 

「まだ合格したわけではない」

 

 エルザが冷静に答える。

 

 しかし、その表情には緊張が浮かんでいた。

 

「試験官はギルダーツ。そして、実地試験の監督も務めてもらう」

 

「おう!」

 

 ギルダーツが豪快に笑った。

 

「任せとけ!」

 

 その言葉を聞いたナツが、目を輝かせる。

 

「ギルダーツと戦うのか!?」

 

「そうじゃ。もっとも、倒す必要はないがのう」

 

 マカロフはエルザを見つめた。

 

「S級魔導士に必要なのは、単なる強さだけではない。危険を見極め、依頼を遂行し、仲間を守る力じゃ」

 

「はい!」

 

 エルザが背筋を伸ばす。

 

「必ず合格してみせます!」

 

 その隣で。

 

「……ふーん」

 

 ミラジェーンが腕を組んでいた。

 

「エルザがS級ねえ」

 

「ミラちゃん?」

 

 メイビスが顔を覗き込む。

 

「悔しいんですか?」

 

「べ、別に!」

 

 ミラジェーンは顔を背けた。

 

「ただ、あいつに先を越されるのは気に入らないだけよ!」

 

「ふふっ。そうなんですね!」

 

「だから笑わないで!」

 

◇

 

 数日後。

 

 妖精の尻尾、屋外訓練場。

 

 エルザとギルダーツが向かい合っていた。

 

「さて、エルザ!」

 

 ギルダーツが拳を鳴らす。

 

「準備はいいか?」

 

「はい!」

 

 エルザは剣を構えた。

 

 観客席には、ナツ、グレイ、ミラジェーン、リサーナ、エルフマン。

 

 そして、イリスとメイビスの姿もあった。

 

「エルザ、頑張れー!!」

 

 リサーナが声を上げる。

 

「負けんなよー!」

 

 ナツも拳を振り上げた。

 

「……いや、相手ギルダーツだぞ」

 

 グレイが呆れる。

 

 その横で、イリスは静かに微笑んでいた。

 

「楽しみですね、メイビス」

 

「はい!」

 

 メイビスも嬉しそうに頷く。

 

「エルザちゃんが、どれくらい成長したのか!」

 

 マカロフが片手を上げた。

 

「それでは――始め!」

 

 次の瞬間。

 

「換装!」

 

 エルザの鎧が光に包まれた。

 

 鋼の鎧をまとい、剣を構える。

 

「はあああっ!!」

 

 地面を蹴り、一気に距離を詰めた。

 

「おっと!」

 

 ギルダーツが拳で剣を弾く。

 

 続けて、強烈な一撃。

 

 エルザは盾で受けようとしたが、衝撃に押されて後退した。

 

「くっ……!」

 

「ハハッ! いい勢いだ!」

 

 ギルダーツが笑う。

 

「だが、正面から来るだけじゃ俺には勝てねえぞ!」

 

「承知しています!」

 

 エルザが再び換装する。

 

 今度は軽装。

 

 速度を重視した装備だった。

 

 左右に動きながら、剣を振るう。

 

 ギルダーツは拳で応じた。

 

 重い一撃。

 

 鋭い踏み込み。

 

 その一つ一つが、エルザの防御を揺さぶる。

 

「……強い!」

 

 エルザは歯を食いしばった。

 

 わかっていた。

 

 ギルダーツは、妖精の尻尾でも屈指の実力者。

 

 今の自分では、正面から倒すことなどできない。

 

 だが。

 

 ――倒すことだけが、戦いではない。

 

 脳裏に、イリスの言葉が浮かんだ。

 

 相手の動きを見る。

 

 間合いを考える。

 

 自分にできることを選ぶ。

 

「換装!」

 

 エルザの装備が再び変化した。

 

 今度は、複数の剣を空中に展開する。

 

「おっ!」

 

 ギルダーツが目を細めた。

 

「そいつは面白えな!」

 

「いきます!」

 

 剣が一斉に飛ぶ。

 

 ギルダーツはクラッシュで迎え撃った。

 

 砕け散る剣。

 

 しかし、エルザはすぐに次の剣を展開した。

 

 そして、自らも踏み込む。

 

 正面からの斬撃。

 

 ギルダーツが拳を構える。

 

 その瞬間。

 

 エルザは攻撃を途中で切り替え、側面へ回り込んだ。

 

「ほう!」

 

 ギルダーツが笑った。

 

 しかし、次の瞬間には拳が迫っていた。

 

「くっ!」

 

 エルザは咄嗟に剣を交差させる。

 

 轟音。

 

 身体が後方へ吹き飛ばされた。

 

 地面を滑り、膝をつく。

 

「……まだです!」

 

 エルザは立ち上がった。

 

 ギルダーツは、そんな彼女を見て笑った。

 

「いい目だ」

 

 そして、拳を下ろす。

 

「よし。ここまでだ!」

 

「……え?」

 

 エルザが目を瞬かせる。

 

「まだ戦えます!」

 

「わかってるさ」

 

 ギルダーツは頷いた。

 

「だが、今回の試験は俺を倒すことじゃねえ」

 

 その言葉に、エルザは口を閉じた。

 

「自分の実力を理解して、その中でどう戦うか。そいつを見る試験だからな」

 

 ギルダーツは豪快に笑った。

 

「少なくとも、戦闘能力は十分だ!」

 

◇

 

 次に行われたのは、実地試験だった。

 

 マグノリアから離れた山岳地帯。

 

 そこには、魔物の出現によって通行できなくなった古い街道があった。

 

 依頼内容は、魔物の討伐と街道の安全確保。

 

 ただし、今回は単なる討伐ではない。

 

 エルザには、同行する一般魔導士二人を指揮し、全員を無事に帰還させることも求められていた。

 

 試験官のギルダーツは、少し離れた場所から監督する。

 

「……なるほど」

 

 エルザは周囲を見回した。

 

 山道は狭い。

 

 両側には切り立った岩壁。

 

 正面から大型の魔物が現れれば、逃げ場が限られる。

 

「二人とも、周囲の警戒を頼む」

 

「了解!」

 

「任せてくれ!」

 

 エルザは頷いた。

 

 しばらく進んだところで。

 

「グルルルル……!」

 

 低い唸り声が響いた。

 

 岩陰から現れたのは、巨大な四足の魔物。

 

 硬い甲殻に覆われた身体。

 

 鋭い爪。

 

 その背後には、さらに数体の魔物が潜んでいた。

 

「来るぞ!」

 

 同行した魔導士が叫ぶ。

 

 エルザは即座に判断した。

 

「二人は後方の警戒を! 正面は私が引き受ける!」

 

「わかった!」

 

「換装!」

 

 エルザが鎧をまとった。

 

 巨大な魔物が突進する。

 

「はああっ!!」

 

 剣が閃いた。

 

 硬い甲殻に火花が散る。

 

 しかし、一撃では倒れない。

 

「硬い……!」

 

 エルザはすぐに距離を取った。

 

 魔物が再び突進する。

 

 その瞬間。

 

「危ない!」

 

 背後で声が上がった。

 

 別の魔物が岩陰から飛び出し、同行者へ襲いかかっていた。

 

 エルザは振り返る。

 

 正面には大型の魔物。

 

 背後には仲間を狙う敵。

 

 一瞬の判断。

 

「換装!」

 

 エルザは防御に優れた鎧へ切り替えた。

 

 そして、仲間の前へ飛び込む。

 

 鋭い爪が盾に叩きつけられた。

 

「ぐっ……!」

 

 衝撃が腕に響く。

 

 だが、退かない。

 

「下がれ!」

 

 エルザが叫ぶ。

 

「ここは私が守る!」

 

 同行者たちが後退する。

 

 その隙に、エルザは剣を振るった。

 

 一閃。

 

 魔物が倒れる。

 

 しかし、正面の大型魔物が迫っていた。

 

 エルザは振り返り、地面を蹴った。

 

「はああああっ!!」

 

 換装。

 

 軽装へ切り替え、速度を上げる。

 

 突進をかわし、側面へ回り込む。

 

 甲殻の隙間。

 

 そこへ、鋭い一撃を叩き込んだ。

 

「グオオオオッ!!」

 

 魔物が悲鳴を上げる。

 

 さらに一撃。

 

 そして、最後の一振り。

 

 巨大な身体が地面へ崩れ落ちた。

 

「……ふう」

 

 エルザは息を吐いた。

 

 周囲を確認する。

 

 同行者に怪我はない。

 

 残る魔物も、すでに討伐されていた。

 

「……全員、無事だな?」

 

「ああ!」

 

「助かったよ、エルザ!」

 

 その言葉に、エルザは小さく微笑んだ。

 

「それならよかった」

 

 少し離れた岩の上。

 

 ギルダーツが腕を組んでいた。

 

「……ハハッ」

 

 その口元に笑みが浮かぶ。

 

「いいじゃねえか」

 

◇

 

 数日後。

 

 妖精の尻尾。

 

「エルザ・スカーレット!」

 

 マカロフの声が、ギルドに響いた。

 

「おぬしのS級魔導士昇格試験について、結果を発表する!」

 

 ギルドメンバーが一斉に静まり返る。

 

 エルザは背筋を伸ばした。

 

 マカロフは、ゆっくりと頷いた。

 

「戦闘能力、判断力、仲間を守る責任感。いずれも十分と認められた」

 

 そして。

 

「よって、エルザ・スカーレットをS級魔導士に認定する!」

 

「おおおおおおっ!!」

 

 大歓声が響き渡った。

 

「すっげえええ!!」

 

 ナツが飛び跳ねる。

 

「エルザがS級になった!!」

 

「くそっ! 先越されたな!」

 

 グレイも笑っていた。

 

「おめでとう、エルザお姉ちゃん!」

 

 リサーナが駆け寄る。

 

「すげえぞ! 漢だ!」

 

 エルフマンも拳を握った。

 

「……ありがとう、みんな」

 

 エルザは少し照れたように微笑んだ。

 

 そのとき。

 

「……ふん!」

 

 ミラジェーンが腕を組んだ。

 

「随分と嬉しそうじゃない」

 

「ミラ」

 

 エルザが振り返る。

 

「お前も、いずれ挑戦するのだろう?」

 

「当然よ!」

 

 ミラジェーンが胸を張った。

 

「次はあたしの番なんだから!」

 

「ふっ。楽しみにしている」

 

「なによ、その余裕!」

 

「別に余裕など見せていない」

 

「絶対見せてるでしょ!」

 

 いつもの言い争いが始まった。

 

 周囲から笑い声が上がる。

 

◇

 

「エルザさん」

 

 祝宴の途中。

 

 イリスが声をかけた。

 

「おめでとうございます」

 

「イリスさん!」

 

 エルザは嬉しそうに振り返った。

 

「ありがとうございます!」

 

「ふふっ。立派になりましたね」

 

 その言葉に、エルザは少し頬を赤らめた。

 

「……まだまだです」

 

「おや?」

 

「私は、イリスさんのようには戦えません。これからも、もっと強くなりたいと思っています」

 

 イリスは静かに微笑んだ。

 

「それでいいんですよ」

 

 そして、エルザの肩に優しく手を置く。

 

「強くなる理由を、忘れないでくださいね」

 

「……はい!」

 

 エルザは力強く頷いた。

 

 その様子を見ていたメイビスが、楽しそうに笑う。

 

「ふふっ。いいですね!」

 

「メイビス?」

 

「エルザちゃん、とっても立派になりました!」

 

「ありがとうございます!」

 

 エルザが頭を下げる。

 

 すると、マカロフが近づいてきた。

 

「さて、エルザ」

 

「はい!」

 

「S級魔導士になった以上、これからはS級依頼も受けられる」

 

 エルザの表情が引き締まった。

 

「承知しています」

 

「うむ。そこで、最初の依頼についてじゃが……」

 

 マカロフは、ちらりとイリスを見た。

 

「初任務には、イリスねえちゃんに同行してもらうことにした」

 

「……イリスさんが?」

 

 エルザが目を丸くした。

 

「ふふっ。よろしくお願いしますね、エルザさん」

 

 イリスが微笑む。

 

「ただし、依頼を達成するのはエルザさん自身です。私は、万が一のときにだけお手伝いします」

 

「……はい!」

 

 エルザは嬉しそうに頷いた。

 

「よろしくお願いします!」

 

「うむ。これなら安心じゃな」

 

 マカロフが満足げに頷く。

 

 その横で、メイビスが首を傾げた。

 

「そういえば、ラクサスちゃんとミストガンちゃんのときは、同行しなかったんですよね?」

 

「……あやつらはのう」

 

 マカロフが深いため息をつく。

 

「わしが同行者を決める前に、一人で依頼へ行ってしまったんじゃ……」

 

「ふふっ」

 

 イリスが笑う。

 

「二人とも、自分の力で何とかしようとするところがありますからね」

 

「笑い事ではないわい!」

 

 マカロフが頭を抱えた。

 

 その様子を見て、エルザが真剣な顔で頷いた。

 

「私は、マスターの指示に従います!」

 

「……なんと素直な子じゃ」

 

 マカロフの目が潤んだ。

 

「じっちゃん、泣いてんのか!?」

 

 ナツが叫ぶ。

 

「泣いとらんわい!!」

 

 ギルド中に笑い声が響いた。

 

◇

 

 その日の夕方。

 

 窓際の席で、イリスとメイビスが並んで紅茶を飲んでいた。

 

「……ふふっ」

 

 メイビスが微笑む。

 

「エルザちゃん、S級になっちゃいましたね」

 

「そうですね」

 

 イリスも嬉しそうに頷いた。

 

「本当に、立派になりました」

 

「なんだか、昔を思い出します」

 

「昔?」

 

「はい!」

 

 メイビスは楽しそうに笑った。

 

「マカロフが小さかった頃です!」

 

「……ふふっ」

 

 イリスも思わず笑った。

 

「あの頃は、よく私たちの後ろをついてきましたね」

 

「そうそう!」

 

 メイビスが頷く。

 

「それが今では、立派なマスターです!」

 

 二人は、カウンターの向こうにいるマカロフを見た。

 

 ナツとグレイの喧嘩を叱り、ギルドメンバーに囲まれている小柄な老人。

 

 かつて自分たちが見守っていた少年は、今や妖精の尻尾を支える存在になっていた。

 

「……時が経つのは、早いですね」

 

 イリスが呟く。

 

「はい」

 

 メイビスは微笑んだ。

 

「でも、嬉しいこともたくさんあります!」

 

「そうですね」

 

 イリスは頷いた。

 

 エルザ。

 

 ミラジェーン。

 

 ナツ。

 

 グレイ。

 

 リサーナ。

 

 エルフマン。

 

 新しい世代の妖精たちは、少しずつ成長している。

 

 かつて自分たちが仲間と共に作り上げたギルド。

 

 その想いは、今も確かに受け継がれていた。

 

「……メイビス」

 

「はい?」

 

「これからも、楽しみですね」

 

 メイビスは満面の笑みを浮かべた。

 

「もちろんです!」

 

 そして、イリスの手を握る。

 

「私たちの大切な家族ですから!」

 

 イリスも、その手を優しく握り返した。

 

 一方。

 

 ギルドの片隅では、エルザが新しい依頼書を見つめていた。

 

 初めてのS級任務。

 

 隣には、憧れの剣士が同行してくれる。

 

 けれど。

 

 依頼を達成するのは、自分自身だ。

 

「……よし」

 

 エルザは小さく頷いた。

 

 もっと強くなろう。

 

 大切な仲間を守れるように。

 

 自分の剣で、未来を切り開けるように。

 

 こうして。

 

 十五歳のエルザ・スカーレットは、妖精の尻尾のS級魔導士となった。

 

 後に「妖精女王」と呼ばれる少女が、新たな一歩を踏み出したのだった。

 




【こそこそ妖精話】
~初任務は自由すぎる?~

 妖精の尻尾、ギルドホール。

マカロフ「まったく……エルザは本当に素直な子じゃのう」

メイビス「ふふっ。どうしたんですか?」

マカロフ「ラクサスもミストガンも、S級になった途端、一人で依頼に行ってしまったからのう……」

イリス「ふふっ。二人とも行動力がありますからね」

マカロフ「行動力がありすぎるんじゃ!!」

エルザ「マスター。S級の初任務には、必ず誰かが同行するのですか?」

マカロフ「決まりではないが、最初くらいは経験者についてもらいたいんじゃ」

エルザ「なるほど。では、私はイリスさんからしっかり学んできます!」

マカロフ「うむうむ! なんと素直な子じゃ!」

 そこへ、ミラジェーンがやってきた。

ミラジェーン「……ふーん。じゃあ、あたしがS級になったら?」

マカロフ「もちろん、経験者に同行してもらうつもりじゃ」

ミラジェーン「別に、一人でも平気なんだけど?」

メイビス「それなら、私が一緒に行きます!」

ミラジェーン「……メイビスさんが?」

メイビス「はい!」

ミラジェーン「……ちょっと待って」

メイビス「?」

ミラジェーン「今、経験者に同行してもらうって話だったわよね?」

マカロフ「そうじゃが?」

ミラジェーン「……メイビスさんって、S級依頼の経験あるの?」

メイビス「もちろんです!」

ミラジェーン「…………え?」

メイビス「たくさんありますよ!」

ミラジェーン「……たくさん?」

イリス「ふふっ。本当ですよ」

ミラジェーン「いやいや! メイビスさん、いつもお菓子食べてるじゃない!」

メイビス「お菓子とS級依頼は関係ありません!」

ミラジェーン「そうだけど!!」

マカロフ「……まあ、腕は確かじゃから安心せい」

ミラジェーン「……本当に?」

メイビス「えへへ! ミラちゃんの初任務、楽しみですね!」

ミラジェーン「……なんか、逆に不安になってきたんだけど」

イリス「ふふふっ」

 ――このときのミラジェーンは、まだ知らなかった。

 いつも楽しそうにお菓子を食べている金髪のお姉ちゃんが、とんでもない実力の持ち主だということを。

 そして、いつか訪れる自分のS級初任務で、その事実を思い知らされることになるのだった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。
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